長い搬入路を飛び、俺達は残り少ない武装を手に不安定に飛ぶ。状況は最悪の一言だ。四人がかりでスコール一人にまともな傷一つつけられずに、こちらは大損害。グレイイーグルは殆どの火器を失い、残っているのはマチェット程度。しかも一番損傷が激しく、乗り手であるヴィンセントの精神状態も良くない。冷静さを欠き、罵倒と悪態を繰り返す今の彼に指揮を求めることは不可能だ。
アカネのハヤブサはパルスライフルこそ破壊されたが、DMR9が残っており機動性に関してのダメージも少ないが当たり所が良くなかったのか、飛び方に安定さが無く、ふらつくことすらある。ここに来て男性に比べての話だが、女性の体力の少なさが影響している可能性が出ている。身体的なダメージが大きい。いくら鍛えていようと彼女も女なのだ。
マーダーは損傷こそ少なく、武装も主武装のヒートナイフ等は残っているが、カービンを俺に渡しているので一切の射撃兵装を所持していない。格闘に入る前の差し込み程度の射撃すら行うことが出来ないのだ。
そして俺のラプターとて現状は芳しくない。パルスライフルも軽機関銃もない、残ったレーザーソードと受け取ったカービン以外に何もない。スラスターに損傷が無いのが唯一の救いだが、この先に待ち受けているであろう無傷の敵機との戦闘を考えれば、それが救いになるのか、と疑問に首をもたげる。
今は先導する二人の教師、山田先生とイヴァナ先生のラファールが頼りだ。彼女ら二人の実力は折り紙付き、機体の損傷も無く現状最高の戦力だろう。そんな状況では、先ほどすれ違った一機が攻撃してこなかったのは本当に幸運だったと言える。
目的は不明だが、助かったことには変わらない。
「さて、どうしたもんか……?」
俺は一人言葉を発して絶望的な未来図を予測する。このトンネルの先に亡国のISモドキがいるに違いない。連中とは学園でしのぎを削ったが、あの実力を持つものがコチラの倍以上いると言うのだから、いかに俺達が窮地かは想像に難くない。
また、例の銀細工と化したISが襲ってこないなど、誰が保証してくれるだろうか。もし、襲い掛かってこられれば、俺達は400を超える超兵器に物量戦をされることになる。そうなれば、俺達が生き残ることはほぼ不可能になる。
俺はフルフェイスマスクの下で、苦い顔をして光が見えて来た暗いトンネルの先を見た。長い闇を抜けた先に光は本当に存在するのだろうか。
「大丈夫ですよ」
山田先生が俺の様子を見たのか、そんな根拠のない言葉を笑顔で言った。勇気づけの為に言ってくれるのはありがたいが、俺は素直に受け取ることが出来なかった。
「五反田君達は無事に帰れます、先生が守るって約束しますから……」
大人の精一杯の作り笑い、子供に心配させないように取り乱さずに感情を制御し、全力で状況の打開に努める山田先生たちには頭が下がる思いだった。もう一人の大人であるイヴァナ先生も過表情こそ強張っているが弱音は一切吐かない。皆が皆、絶望に耐えているのだ。
俺は「ハイ」と短く応えて、先生たちの頑張りに答えた。だが、そこへもう一つの答えが飛んできた。山田先生が何かを知覚し、小さなラファールのシールドで飛来して来た砲弾を弾いた。
敵襲、脳内で答えがストレートに思い浮かび、発射地点と思わしき場所にカービンを向け、センサーでその姿を確認した。
「挨拶してやったぞ、ご返事は?」
敵は4機のISモドキ、入口の縁に立ちブルバップ式の長銃身のライフルを構えたままケラケラと笑う。砲弾を挨拶として送って来た連中に答えたのはイヴァナ先生だった。先頭に出て、XC-1チャレンジャーライフルをその集団に向けて放った。120mmの砲弾が空を切り、着弾。灼熱の炎と粉じんを成形炸薬弾が巻き上げる。
「よくできました!」
最初に戦闘を開始した一機がライフルを二連射、他の五機がF2000に似た突撃銃を指切りで放ち、俺達の頭を抑えようとする。対する俺達は山田先生がラファールの両手にグレネードランチャーを持ち、スピンと機体制御の基礎的テクニックで回避運動を取りつつ、指揮を執る。
「私とイヴァナ先生で道を開きます! ヴィンセント君とアカネさんは最後尾! 五反田君とユーリ君は前に出過ぎずに!」
飛んできた銃弾が装甲を掠め、トンネルの壁を抉っていくのを横目にしつつ冷静さを持った二人は火力の差を火器で補うように、砲火を集中させる。榴弾とHEAT弾が入口付近を爆撃し一体のISモドキを追い払おうとする。
だが連中は恐怖という物が無いのか、それどころか頭のネジが足りていない。奇声をあげて、四機が爆炎を抜けて突撃してくる。煙の中でもわかるほど、ショートブレードとカメラアイを煌めかせて自分たちの姿を誇示する。
一機が山田先生にブレードで飛びかかり、それをイヴァナ先生が両手に持ったデリンジャーをクロスさせて、ショートブレードの柄の部分を受け止め、防御する。
顔を覗き込ませた一機が彼女の歯噛みする顔を見て、愉快そうに笑う。その視線の先にはイヴァナ機の得物ではない、彼女のスリットの入ったISスーツから見れる胸元だった。
「いいアングルだ。特等席で見るアンタの胸は最高だな」
「……悪いけど冗談に付き合う暇はないの!」
相手を弾いてデリンジャーを二連射。上下二連の散弾の雷管が反応し、ISモドキを穿とうとするが、モドキは散弾の広がり方、パターンを熟知しているのか、大きく動くことで避けた。
「先生!」
俺はカービンを構え、俺の方へと来る二機に三点バーストで射撃するが、掠るだけで有効打は得られない。バッタのように跳ね、二機のうち一機がショートブレードを投擲するのをよじって躱すが、その一機が腕を振るうと、ブレードもそれに合わせて動き、ラプターの右腕に巻き付いた。
「しまった!」
引き寄せられ、動きを封じ込められたと悟り、後ろから来る一機が突撃銃を構え、連射するのをモロに直撃する。シールドと装甲に被弾し、アラートが鳴る。神と悪魔を罵倒し、巻きつかれたままの右手に握るカービンを乱射し、ブレードに巻き付いていたワイヤーを切り、その場を離れる。
スラスターを吹かし、二回に分けてのステップ回避を行う。その間にユーリが割って入り、追撃を許さないように援護してくれた。だが地獄から抜け出した先には四機目が待ち構えており、ライフル下部に衝いたグレネードランチャーを向けている。
「させません!」
「させるか!」
山田先生とアカネがそれに気づき、DMR9のトリガーを引く。四機目のモドキは撃つのをやめて、回避に専念しマタドールのような動きの華麗な機体捌きで一切の被弾を許さない。
腕前も一流であることは疑いが無い動き、今まで何人の人間と戦ってきたが、連中の動きは洗練され、独自の技術を開花させており、代表候補生クラスでは収まらないだろう。
俺は彼らの技量に舌を巻きつつも、後退し分が悪いとみて、ヴィンセントに言葉をかける
「ヴィンセント! スモークだ!」
「糞! もう切れるぞ!」
スモークが放たれ、一機ずつトンネルの外へと逃げる。煙の向うか、中にいるであろう敵機に制圧射撃をして、山田先生がダメ押しにランチャーの全弾を放ち火力で圧倒し、ついでに出入り口を崩落させて戦力の一部を封じ込め、全員がトンネルの外へと出た。
広がる学園の景色は恐ろしいものだった。あちこちで、煙が上がり空気に爆発の衝撃が伝わる。かつて真っ白だった校舎の壁面は煤で汚れており、一部は崩落して原型をとどめていない。
そして、その崩れたコンクリート片から誰かの腕がだらりと垂れさがっているのを見つけて俺は嘔吐しそうになったのを堪え、校舎の壁の陰に俺達は隠れる。
「この後は?!」
アカネが山田先生に問うと、彼女はグレネードランチャーを投棄し外を見渡す。俺達も外の現在を見るために索敵をフルにして辺りを探る。学園のアリーナの方だろうか砲声が聞こえ、多数の敵機が交戦しているらしいことを掴み、山田先生が歯噛みする。
「大場先生たちが……!」
「どうするの?」
イヴァナ先生が問いかけて、山田先生は頭を抱える。指揮能力としてはイヴァナ先生は皆無、山田先生は多少あるものの、目まぐるしく変化する状況に頭を悩ませている。センサーによると味方識別信号がアリーナに集中しているのを見て、レジスタンス達もそこに居るはずだというのは分かる。
ここからが問題だ。急がなければトンネルから敵機も来る可能性がある。スコールが一人来るだけでも状況は更に加速度的に悪化するのだ。
素早い判断と機転を生かさなければ、俺達は生き残れないのだ。山田先生は頭をフルに回転させ、決断を下す。
「……アリーナの敵機の後背を突きます! 大場先生たちと合流して、アリーナ内で装備をできるだけ回収して、此処を脱出します!」
「……袋叩きになるんじゃない?」
「このまま居ても、各個撃破の的です!」
行くも地獄、行かぬも地獄。どうあがいても数では勝ち目がない俺達では敵戦力の分散を狙ったところで無意味だ。ならば、アリーナの方へ赴き合流し、全戦力を持って一点突破を図るしかない。
アリーナなら格納庫とも繋がっているのを考えれば、多少の弾薬、銃器の補給も可能かもしれない。その為の人員と技術者はとりあえずいるはずだ。山田先生の指示以外に有効な策などない以上、これに従うほかない。
全員が山田先生の策に同意し、俺はラプターの顔を山田先生へと向けて、話す。
「先生、大場先生たちと通信を! 今のまま向かえば、フレンドリーファイアの危険があります!」
「は、ハイ!」
山田先生が通信で大場先生を呼びかけ、その間に俺は手持ちの火器の状態を確認した。ユーリから受けとったカービンのマガジンを抜き、残弾を重さで確認する。重さからして残り13発ほどだろうか。カービンゆえの問題か。銃身も過熱気味でさして低くない気温下で煙が立ち込め、真黒だったはずのフラッシュハイダーは溶けて白くなってきている。
マーダーの肩に手を置いて、俺はユーリに訊いた。
「ユーリ、マガジンはまだあるか?」
返答に対し、ユーリは拡張領域から一つだけマガジンを取り出し、俺に手渡してきた。これが最後の弾薬という事らしく、ユーリはそれ以上何も言わない。
「……ありがとうな」
俺はそれだけ述べて、今度は息の荒いアカネに話しかけた。長いDMR9を杖代わりに拠りかかかっており、ハヤブサの裂けた前面装甲から見れる彼女のスーツに覆われた胸元が今は痛ましく思えた。
「大丈夫か?」
「何とか……貴方こそ、ふらついてますよ?」
「冗談! 俺はまだ疲れだって感じちゃいないよ」
声だけは笑うが、実際は笑っていない。互いに励まし合う程度に軽口を言って、俺は彼女に肩を貸そうとする。しかし、彼女は首を振って、それを断り自らの力で立って、ライフルのコッキングレバーを引く。排出されなかった空薬きょうが転がり、心地よい金属の音色が奏でられた。
ソレを見て、ヴィンセントが鼻を鳴らして、言葉を放つ。
「一発の弾薬も惜しいのに、来るのは敵機ばかり。補給も無し、増援も見込めない……僕らも年貢の納め時かもな」
「おい、ヴィンセント」
彼の空笑がその場に響き、ヴィンセントは呼吸が荒い中で、早口で言葉の羅列を並べる。自暴自棄に見えなくもない彼を俺は強く引きとめられなかった。
「何が夢だよ、畜生。結局はあのミス・ゴージャスにいいように踊らされてただけか! 故郷から遠く離れたこの地でロクな退路だってありはしない! これで何を希望にしろっ言うんだ?!」
冷静さを失ったヴィンセントが悪態をつき、皆が押し黙った。スコールとの戦闘から彼の精神的安定が見られず、いつもなら軽口でも唱える口が今日は否定的な言葉ばかりが出てくる。アカネが彼の元へ行こうとしたところ、代わりにイヴァナ先生が彼の目の前に出て、チャレンジャーライフルで小突いた。
「落ち着きなさい。こういう時に貴方みたいのが取り乱されるのが困るのよ」
「しかし!」
反論しようとするヴィンセントに彼女はチャレンジャーライフルを押し付けた。ついでに予備の砲弾のまとまったクリップも手渡した。
「弾薬と銃で落ち着けるのなら私のを使いなさい。アリーナで補給が出来るまでは貸してあげるわ。男の子ならデカいのが好きでしょ?」
「……貴女はどうする気なんです?」
主兵装のチャレンジャーライフルを手渡したイヴァナ先生をアカネが気遣い、聞いたが、彼女は長い赤毛の髪の毛を揺らし堂々と答えた。
「心配無用よ。これでも腕はあるつもりよ? 私が私物を男の子に貸すなんて滅多にないんだから大事にしなさいよ」
デリンジャーに弾を込めて、彼女はそう強気に言った。その銃は僅かに震えていたが、彼女は表情には決して、その内心に抱えているモノを出さなかった。
初対面、あれ程自分の好きなように振る舞い、気に入らないモノを気に入らないと言い、学園祭の時に恐怖で震えた事すらあった彼女が大人として、この場で振る舞ってくれている。その甲斐あってか、ヴィンセントも少しは落ち着きを取り戻したのか、口から毒を吐くことはしなくなった。
山田先生と大場先生、この二人が今は頼もしかった。弱気な態度を決して見せない大人がこんなにも支えになるとは思わなかった。
「皆さん、いいですか?」
山田先生が通信を終えたのか、俺達全員に話しかけた。プライベートチャンネルで繋げた音声がクリアに彼女の声と意志を伝えてくれる。
『アリーナの東から侵入して、敵陣を突破します! シールドを抜けた後は格納庫までわき見もせずに突っ込んで大場先生たちと合流します。シールドを開けられるのは時間にして15秒、その間に抜けなければなりません』
HMDに現在の状況を含めたデータが送られてきた。そのデータを見るだけで俺は額に汗をかかざるを得なかった。
分厚い敵の陣営を中央突破。しかも手負いの機体で満足な火力だってない中で行うのだ。シールドの外では大場先生に、簪や鈴、セシリア達も戦闘しているようで、現在の砲声は彼女らが原因だという事がわかった。
敵の数は例の銀細工と化したISが動き出したようで戦力はなおも増大中とのことだ。その中に亡国のISモドキが入り混じって攻撃をしかけているのだから、いかに俺達が最悪の状況に転がり落ちているのかが分かる。
だが、希望が無いわけではない。脱出のための方法。どうやって呼びつけたかは知らないが、此処より遠くない場所に艦船が来ていると言うのだ。在日米軍のタラワ級強襲揚陸艦「G.A.カスター」と護衛艦「しきなみ」がこの学園からの脱出の支援をすると言うのだ。
恐らくは束博士やIS学園の生徒の保護、国際的な体面もあるだろうがこの際はどうでもいいことだ。助けが来るならいくらでも来てくれた方がいい。
そしてもう一つの増援、Rインダストリーの増援も来ると言うのだ。どうやら我らが雇い主が自衛隊に売りつけにデモンストレーションに来ていたのが居たらしく、此処の所の騒動で足止めで帰るのが遅れていた部隊が存在していたと言うのだ。
まだ諦めるのは早い。まだ生きていられるかもしれない。希望的観測は危険だが、俺達に必要なのはほんの小さな希望と言う火だ。そうでもなければ、心が持たない。
『いいですか、皆さん。私達はまだ助かります。此処にいる人も、外にいる人も皆さんを助けようと頑張ってくれています。だから、もう少しだけ頑張ってください』
スラスターに火を入れ、山田先生がショットガンをイヴァナ先生に投げ渡す。ついでにDMR9の弾倉をアカネに分け、ユーリにハンドガンを一つ、俺には楯をくれ、ヴィンセントには突撃銃を手渡す。
彼女はたった一丁のDMR9と拳銃、コンバットナイフが残った。だが、山田先生は笑って見せた。
『私は……代表候補生どまりでした。でも、皆さんならもっと、もっといい未来があるはずです。だから諦めないで』
全員が武器を構えて推進器にエネルギーをため込む。向かうはアリーナ。脇目もふらず、ただ一直線に敵を突破するだけ。男も女も関係ない。この場では皆が同じであり、そこには卑も尊もない。真の平等、一つの戦闘単位として人間として戦うのだ。
そして、山田機のスラスターがため込んだエネルギーを一気に掃き出し、猛然と戦場の空へと駆けのぼった。
『私に続いて!』
一斉に加速して、トップスピードにした機体が唸りをあげて、アリーナの空へと突き進む。マッハ2を超え、軽量化された山田機と俺のラプターが先頭になり、叫び声を上げてアリーナの東から、それを取り囲む敵の集団へと突撃する。
カメラアイがアリーナ上空の敵集団を捉え、その中で戦闘を続ける仲間たちの姿を確認し、同時に敵ISの姿も見た。
一機の銀細工のISが何事か、とこちらを振り向いた時、その顔面を山田先生のDMR9がダブルタップの二連射で穿った。拳銃用の射撃技術をライフルに応用し、超音速の中、ピンポイントンぼ狙撃を彼女はして見せ、続くアカネが胴体に二発直撃させて、銀細工のバランスを崩す。
「どけえ!」
山田先生の怒声が聞こえ、トップスピードを維持した状態ですれ違いざまにナイフを脇腹に叩きこみ、一機撃破する。そして、ライフルを連射し、障害となる全ての機体に75mm弾を浴びせかけ進路を築いていく。
その後ろ二機の銀細工が狙おうとするのを見て、俺はラプターを操作し、急上昇してからの相手の右側へ捻りこむように急降下し、レーザーソードで一撃重いのを与えて離脱し、もう一機をユーリがダガーナイフを投げて動きを封じ、そこをグレイイーグルのチャレンジャーライフルがキツイ一撃を当てる。その俺達をさらに囲もうと銀細工たちが動くが、そこをイヴァナ先生のデリンジャーとショットガンで抑え込んで、俺達の後衛を務める。
「前に進んで!」
イヴァナ先生の叫び声に従い、俺達はとにかく前に進んだ。前へ、前へと脳に命令させて全身の筋肉と持てるだけの技術、そして機体の性能の全てを引き出して進む。狙わなくても命中できるほどの大混戦。薬きょうが空から地上に落ちて行くたびにどこかの誰かが銀細工の中で死んで、俺達がその分だけ前進する。
カービンの弾丸がいよいよ切れて、トリガーが固まる。接近してくる機体にソレを投げつけて怯ませ、切り付け、シールドで地面へと叩き落とす。全身の装甲を掠める弾丸とレーザーが俺の精神を恐怖させると同時に高ぶらせる。
ラプターの深緑のカラーリングも剝げ落ちて銀色になることすら、コンバットハイに繋がる中、俺は叫び殴り、蹴り飛ばし、目的地へと進む。
前方で戦う山田先生などは鬼神の如く、軽量化されたラファールを駆り、敵の集団を切り裂いていく。銀細工は火砲を放つが、密集のしすぎで誤射が多く、その分だけ彼女を有利に働かせていた。
目の前の一機を殴りつけ、スラスターを生かして後ろに回り込んでからの羽交い絞め。そして、その機体に手榴弾を張り付けて蹴飛ばして砲弾代わりに三機の銀細工を爆風に巻き込ませる。
間髪入れずに襲い掛かる敵機の射撃をバレルロールでかすり傷程度に済ませ、DMR9を5連射、四発をスラスターを狙い撃つことで戦闘能力を奪い、さらに前進する。
クルリと回って俺の方を向いたかと思うと彼女はDMR9を俺に向けた。
「何だ?!」
砲声が響き、砲弾は正確に俺の頭部の真横をすり抜けて、俺の後方にいた銀細工の射撃兵装を貫き、爆発させた。
その一瞬で見せた目の輝きはよく訓練された猟犬の物だった。一瞬狩られる、と思った俺は冷汗をかきつつ、彼女に感謝した。
「ありがとうございます!」
「礼を言うより、前に進んでください!」
だが、そこへ黒い三機の機影が山田先生の前に立ちはだかった。彼女はライフルを二連射し、マガジンを交換しつつ敵機の上方を取ろうとするが、三機は銀細工とは違って連携し、二機が両翼を攻め、一機が直接彼女に肉薄する。
「にゃお!」
肉薄した一機が女性の声で猫の鳴きまねをしたマニュピレータ―先につけたヒートクローで山田先生のDMR9の銃身を切り裂き、山田機の肩を穿った。砕け散る装甲の中、体勢を崩された山田先生の両腕を左右の二機がワイヤーを射出してからめとり、突撃銃を向ける。
「させるかよ!」
俺が一機を強襲し、レーザソードを振るう。横薙ぎの一撃をモドキは「ワオ!」と喜びつつ、足で柄の部分を受け止めブルバップ式の短い全長を生かし、胴体にライフルを押し付けてくるのを、俺も負けじと蹴り飛ばす。
緩んだワイヤーをアカネが撃ち抜き、拘束を解除したかのように見えたが、さっきの猫の真似をした一機が退避しようとした山田機に抱き付いてアリーナのシールドに打ちつけた。
「活きがいいのは大好き!」
「離しなさい!」
先生がナイフで反撃するが、敵機のマニュピレータ―に阻まれ、IS用のコンバットナイフをひしゃげられた。不協和音が奏でられて、山田先生の顔が悔しさから歪む。
敵機がヒートクローで山田先生を串刺しにしようとしたのを先生が手で必死に抑えて防御宇する。すぐ目の前に迫る赤熱した爪が少しづつ近づいていく。
あと半秒もしないうちに刃が届くと言う所で、救いの手が差し込まれた。
敵機の真横に瞬時加速で近づいたイヴァナ先生が敵機をデリンジャーで吹き飛ばした。装甲に散弾の粒がぶつかって、火花を散らしたが装甲は貫徹できなかった。そのことでイヴァナ先生が舌打ちをしたが、敵機はすぐさま笑い声をあげて、シールドを足場にし、体勢を立て直しライフルをフルオートで二人を薙ぎ払おうとする。
そこへグレイイーグルが割って入り援護の防御をしようとしたが、弾丸が彼にぶつかる前にある物によって阻まれた。水のカーテンが彼と彼女たちを守ったのだ。
「させないわよ!」
水のヴェールが舞って周辺の銀細工を包み、爆発していく。続いてガトリングの猛烈な射撃音がして銀細工の一機を巨大なランスが貫き一機を撃破した。姿を見せたのはミステリアスレイディを駆る楯無会長の勇姿だった。
彼女は俺達の後背を守り、そしてアカネを引っ張って来て全員を水のヴェールに包んで防御する。怒涛の勢いで攻撃する敵に対し、ガトリングで弾幕を張り、蛇腹剣で武装を切り裂くなどして、援護する。
「大場先生!」
楯無会長がその名を叫び、襲い掛かる銀細工たちの横っ腹を大場先生率いる専用機持ちが強襲し、敵の連携と陣形を崩していく。鈴の衝撃砲と大場機の打鉄の空中炸裂弾頭のグレネードランチャーで面を制圧し簪とセシリアの精密なレーザーが点でピンポイントに厄介な火器を持つものから潰していく。
更に続くのは俺も見たことのないISのデタラメなパワーを生かした突撃だった。紅椿を上回る速度で打鉄用のブレードを力任せに銀細工を殴り倒していき、ロールして敵機の火線を縫うように回避し、マグナムオートを連射する。
「全員居るか?!」
大場先生の問いに山田先生が大声で答えて、この場に全員が合流したことを確認し、スレートに呼びかけた。
「スレートォ! 門を開けろ!」
スレートと呼ばれ反応したのはデタラメなあのISだった。かの機体は拡張領域から雪片二式を取り出し、長大出力で刃を巨大化し、本人の最も強いイメージが反映されたのか、斧剣のような荒々しい光の刃がシールドを叩いた。フラッシュバンのような強烈な閃光がカメラを一瞬焼いた後に、強引に切り付けられたシールドに裂け目が生じ、言われたとおり、門がこじ開けれた。零落白夜のようなバリア無効攻撃ではない、純粋に出力で叩きつけられた一撃、完璧な暴力による攻撃でアリーナのシールドを突き破って見せたのだ。
押し込み強盗よろしく、俺達はシールドの裂け目へと突入し、最後尾の大場先生と楯無会長が最後に抜けた時、裂け目が塞がる前に二機の銀細工が侵入した。
「二機侵入しましたわ!」
悲鳴のような声でセシリアが叫んだ。しかし、その声とは反対に会長と大場先生が出した声は確固たる意志による指揮のための勇ましいものだった。
「今!」
叫んだ瞬間に俺の視界に映ったのは学園レジスタンス達とシャルロットの量産型ISの戦列だった。ライフルを構えた乙女たちが銃口の先に敵機を見定め、一斉射撃を開始する。
「相手が人じゃないなら……!」
ベルト給弾式の軽機関銃にアサルトライフル、立射で構えられ、統率のとれた射撃の前に入り込んで来た二機の銀細工はなす術もなく、弾雨の中に沈んでいく。回避行動もとれず、スラスター、火器、装甲と脆いものから順に破壊されていきその姿を唯の金属片の塊へと変化させていく。
断続的に発砲され、大場先生の撃ち方止めの合図があるまで彼女たちは大声で叫びながら撃ちつづけた。相手の機体がぼろ屑になった後でも。
俺はその様子を見ながら、自分たちがああならなくてよかったことに安堵の息を漏らし、これから、またコレが繰り返されるという事を思い出して、少しめまいがした
戦闘ばかりで疲れますが、書くのは楽しいですね。
此処からは脱出劇ですが、また色々とエピソードを作る必要があって、結構長いかもです。
更新速度が遅くなって申し訳ありません。