IS to family   作:ハナのTV

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二時間限りの秘話

アリーナに張られたシールドで時間を稼いでいる間、アタシ達はピットから格納庫へと抜けて各々が生き残るための策を練り、手と頭を動かす。全てが突貫で行われ、補給と整備、武装の追加と慌ただしく整備科の生徒と整備員たちがマイクと束の指示に従って機体をくみ上げていく。

 

「大場機等の教員には強装弾、他は通常の物だ! 間違えるなよ! 時間は稼げても二時間が限界だ! 人生で最も早く正確に仕事しろ!」

 

マイクの大声が響き、整備班全員が威勢よく答える。打鉄にありとあらゆる火器を積み込み、ラファールに装甲を施す。

 

反応装甲、フレア射出機、予備弾倉を詰めた急造のチェストリグ。それらをイーグルやISに搭載させ、次の戦闘に備える。

 

その傍らで打鉄に通信アンテナを取り付け、長距離無線機代わりにしたものでアタシはヘッドセット片手に楯無や外の救援達と話し合う。

 

この空き時間を利用してすることは多く存在する。戦闘準備もそうだが、もう一つの課題、残った一般生徒を集合させることだ。一人でも多く救わなくてはならないのはアタシ達の義務だ。正規の軍人なら今いる生徒だけを救うだろうが、教師となった以上、それは許せるわけもない。

 

そのために学園と言う庭を知り尽くし、かつ暗部としてのエキスパーである楯無にその役目を一任し、広い迷路と鳴った学園の中を彼女に探させている。本来なら生徒にさせることではないが、彼女以上の適任はいなかった。

 

「楯無、状況は? 生徒は見つかったか?」

 

ノイズ交じりの音声が帰って来て彼女の声がレシーバーに届く、

 

『見つけました……人数は五十人弱。周りにトラップはありませんけど、近場に置手紙が一通』

「置手紙? 何か書かれているか? 送れ」

 

レシーバーには他の生徒の声も混じり、嗚咽と荒い息の二重奏が響く。悲痛な演奏をバックミュージックにして楯無がその文を読み上げた。

 

『悪い子は燃やされたぞ。さあ、早くしないと残りはブギーポップに食べられちゃうよ。……です』

 

怒りに愛機の肩を拳で殴り、悪態を吐いた。デカい金属音が鳴って周りが一瞬警戒したのを制止し、アタシは目元を抑えた。

 

明らかにコチラの意図を読んだうえで生徒を置いたに違いない。亡国の連中は嬉々として我々の脱出劇を待っているのだ。

 

完璧に足手まといとなる生徒を残し、アタシ達が四苦八苦するのを眺めながら殺しに来るつもりだ。彼女らの多くは場数など踏んでいない唯の少女だ。泣き喚き、取り乱し、こちらの計画に支障をきたすのは間違いないと見ていい。連中はそれを眺めてアタシ達が必死になるのを楽しみ、その後でなぶり殺しにする気だ。

 

エンターテイメント、とあの金髪の女ボスが言っていたのを思い出す。成程、確かにコレはスクリーンの中で起こる出来事なら、その通りだ。ただし今のように、現実でアタシ達が演じる側にならないなら、の話だが。

 

「……他は生きていると思うか?」

 

しばしの沈黙の後、彼女はその答えを述べた。

 

『残念ですが……生体反応は確認できません。生存者にも聞いたのですが、別の校舎に移されたと……つまり、』

「それ以上は言うな」

別の校舎と聞き、アタシは落胆を覚え、即座に楯無にそれ以上言葉を続けることをやめさせる。楯無の言う校舎は既に崩れ去った後だ。五反田達がソレを確認している以上、生存は絶望的と見ていい。出来ることなら、もっと大勢を救ってやりたいが、最早救うべき命のほとんどは黄泉の国へと旅立ってしまった。

 

「……ご苦労、ランデブーの位置を送った後で何人か送る……任せたぞ」

『そちらこそ、お気をつけて』

 

落胆をため息とともに吐き出して、アタシは数少ないミネラルウオーターで頭を冷やし、

楯無との通信を切る。そして、もう一方の方へと繋げる。繋げた先は自衛隊。かつての古巣と交信し、再確認する。

 

「到着予定時刻は今より三時間後で間違いないでしょうか?」

 

問いかけた言葉に対して、護衛艦いずもに存在する司令本部の回答が送られてきた。階級に合ったいがらっぽい声だった。

 

『その通りだ、大場二尉。君らの身元を確認し、こちらでの受け入れ準備も終えた。官房長官からの許可も受け、我々はすでに行動を開始している』

「感謝に堪えません」

 

心からの礼を述べて、向うの指揮官に勲章でも送りたい気持ちになった。渡りに船とはよく言ったもので、よく我々の要請を受けてくれたと素直に思う。学園でのテロ、織斑千冬とそれを見越したスコールによる二重のテロなど、話だけを聞けば誰だって正気を疑うものだ。そんな事が起こっている島からの救援要請など、普通は信じられるわけがない。学生ですらテロに賛同した物がいたとすれば、なおさらだ。だからこそ、司令部には感謝しきれない。

 

『礼には及ばん。我々の義務でもある……と、言いたいところだが、義務だけでは動けなかった』

「何か問題でも?」

 

不穏な言葉を放つ司令に対してアタシは眉をしかめ、その訳を聞く。

 

『まず、状況だ。IS学園と通じるモノレールは爆破され、空か海以外でのアプローチは不可能となっている。そして、付近の沿岸、近場の都市にて例のISモドキが確認され、かなりの被害を受けた。本来、我々がここに来たのも、市民のパニック状態を少しでも沈めるためだった』

 

自衛隊と在日米軍の姿を見せて、防備は万全であると言うアピールがしたかったという訳を知り、アタシは頷きつつも、それが焼け石に水であることを疑わなかった。今まで散々最強の兵器ISと宣伝したツケで、市民がISのない部隊を拠り所にすることは難しいだろう。

 

真の目的は暴動、略奪の阻止だろうが、その出動があって我々と現在コンタクトが取れたことだけは幸運だろう。

 

『無論、IS学園に対しての何らかの措置を取る方向もあったが、戦力的、地理的なアドバンテージを見ても我々には兵糧攻めによる持久戦しかありえなかった。しかし、ここで状況が変わったのが、一つのインターネット回線による通信だった。』

「……その送り主は?」

 

答えを知りつつも、アタシは訊いた。万が一、亡国からの回し者と勘違いしたなどと言う事態になれば、取り返しがつかない。慎重にならざるを得なかった。

 

『要請を寄越したのは君の所の生徒と名乗った。しかし、訳が分からないのが、その学生は自らがISコアと同化していると言う狂気的なデータまで送って来たことで、しかも、その少女はコレを利用しろ、とまで言ってきたのだ……だが、そのデータが今につながった』

「利益の為に来たという事ですか?」

 

深いため息が通信機のレシーバーから流れ、司令は言葉を続けた。

 

『大場二尉、我々は軍隊ではない、だが実質は変わらないと言っていいのは分かるな? 君の言う通り、この要請に応えれたのには国家の利益も絡んでいるからだ。IS学園とISそのものと言うイニシアチブを失った政府は目の色を変えたという訳だ』

 

国民を守る盾たる存在の自衛隊が国家の利益とやらの為に自国の子供の救出をオマケ扱いとする。自分の古巣を愚弄するかのような行為に憤りを感じるのは勿論、それが無ければ動けない組織の欠点を嘆くしかない。文民統制とはよく言ったものだが、何のために民主国家とやらがあるのすら疑問に感じる。

 

『……指揮官として、このようなセリフは禁句だが、正直私はもう何を信じていいか自信がない。学園での出来事と言い、少女のデータと言い、国家の姿勢とな。今でも君たちを信じていいか、私は自信を持って判断をしているか不安だ』

「お気持ちは察します」

 

救う相手がテロリスト一派ではないか、という疑心。ISと同化したという布仏本音と言う少女の存在、荒唐無稽な展開が立て続けに起こる学園に国民を救うためではなく、利害の末の結論で動く国家。これらが一気に来れば、確かに信じべきものなど消え去るだろう。

 

だが、これらは現実で受け入れなくてはならない、でなければ、アタシ達が生き残ることが出来ない。最早、アタシ達の手で収束できるレベルではないのだ。

 

アタシは息を一回深く吸い込んで、ヘッドセットのマイクに自分の意志を音声にして伝えた。

 

「指揮官殿、貴方の気持ちは分かります。部下の生命への責任もあるでしょう。しかし、今ここには守るべき国民と守るべき最も尊き財産である生命と未来があるのです」

 

最も尊き財産、ソレを奪った経験がある自分がこんな事を言う権利があるのか、どうかは分からないが、十代の少女、少年の未来と命の価値は十二分にわかっているつもりだ。ソレを守るのが自分たちの役目だ。

 

その誇りがあればこそ、と信じてアタシは言葉を紡いでいく。今は彼らに信じてもらわなくてはならないのだから。

 

「一介の元自衛官、それも二尉の私が言うには信頼に足らないとしても、今は信じていただきたい。その為なら、私もかつての職務を遂行すべく、全力を尽くしましょう。十代の若者たちの為に」

 

通信機の向う側から重い沈黙が流れて来た。民主国家でありながら、利益に走り自衛隊を国民を守るためではなく、利を得るために使われ、指揮官殿も困惑しているだろう。また、アタシ達がテロリストではないと言う保証に置いて疑問が残る中、はたして部隊を動かしてよいものか、と責任と義務の間で板挟みになっているに違いない。

 

命令を受ければ、応じるしかない。しかし、指揮官が自信の無いまま進むことは許されない。彼は確証を持てる何かを欲しがっているのだ。

 

本来なら保証書でも欲しいが、そんなものは無い。あるのはアタシの言葉だけだ。元同郷の者同士、義務と理想に燃えた者同士が通じる想いと言う何ともあやふやで、机上の作戦に於いて、邪魔にしかならないモノを信じなくてはならないのだ。

 

そしてアタシもその指揮官の確固たる言葉を必要としている。今後ろで生き残れるか否かと不安に肩を震わせている連中を少しでも助けられる何かが必要なのだ。アタシは指揮官殿の言葉を待ち、それに意識を集中させた。大きいため息が聞こえて、その時が来た。

 

『……軍人としては失格だな』

「今は教師です」

『そうではない』

 

指揮官がハッキリと否定の言葉を述べて、アタシに言った。

 

『私の話だ。予定通り、行動を起こす。君の意志を信じ、防人として全力を尽くそう。もう少しだけ堪えてくれ大場教諭。交信終了』

 

たった一言の励ましの言葉と確信を持った指揮官の自信に満ちた判断、それを聞いてアタシは既に切れた通信機に向かって礼を述べた。

 

「感謝します」

 

そして、後ろにいる皆へと振り返った。

 

「結果は?」

 

スレートが訊き、山田先生やイヴァナ先生が駆け寄って来た。アタシは彼らに大きく頷きつつ全員に伝えた。

 

「三時間後だ! あと三時間後に自衛隊と在日米軍の救援が来る! 助かるぞ!」

 

歓声が沸き起こった。疲労とストレスで悪かった顔色が少しは良くなった。中には手を取り合って喜ぶものもいて、出来ることならアタシも混ざりたいほどだ。

 

「アンタは夢を見せるのが上手いな」

 

そこへスレートの低い音声が聞こえ、少し鼻白んだがアタシはそれを表情には出さずに、一言だけ「どうも」と返した。

 

「これで少しは士気も上がる。大したもんだ」

「皮肉ではなさそうだな……お前の機体は?」

「束の話じゃ、この少ない時間に完全な状態にするのは難しいらしい。だがシールドはこの中で一番頑丈だ。生身の連中を守るには多少役立つ」

 

それはスレートの機体を戦力ではなく、防御に回すという事だったが、それ以外に選択肢はない。もう少し時間と人手が居れば、変わったのかもしれないが今はコレが精一杯だ。

 

「あとRインダストリーからの増援だが、銀髪によると、自衛隊の30分後に島の西側に最接近するって話だ。護衛のイーグルは2機。そいつを利用すれば、陽動班も退避は可能だし、増援のイーグルで敵の目を引きつけられる」

 

作戦は陽動班と本命組で別れることとなる。本命を教師と楯無、スレートで護衛し、その間にアタシとインダストリー、専用機持ちが陽動として西側に接近する輸送機に逃げる形で相手を引き寄せる。

 

時差を利用した脱出劇、この作戦に置いて、敵が引きつけられなかった場合が最悪の事態となる。それを起こさないためには出来るだけ連中の好奇心を引きつけなくてはならない。

 

「引きつけるのはアタシがするさ。お前は連中を守った後はどうする気だ?」

「適当に流れついたらシャルロットを見送って逃げるさ。どうせ、俺や束は国際指名手配犯、クロエだってどこかに預けるわけにもいかないしな」

 

スレートはそう言いつつ、アタシに煙草の箱と錆びたライターを寄越してきた。銘柄は箱の絵柄を見て少しげんなりした。インディアンのイラストが描かれたその銘柄は薄い味であまり好きではなかったが、贅沢は言わずにアタシは一本咥えた。

 

「よくアタシがスモーカーだってわかったな」

「軍に居る人間はコイツが恋人だからな一つ聞くが、さっきの言葉はそのままの意味か?」

「何のことだ?」

 

問いかけに対して、それだけ言うとスレートはしばらくアタシの顔を見て、何かを考えた。ほんの数十秒の思考の末、答えに達したのか、背中を見せて立ち去りだした。

 

「楽しんどけよ」

 

それだけ言い残して彼はアタシを見ることなく束とクロエの元へと歩いて行った。

 

「……ああ」

 

火をつけてユラユラと揺れる紫煙を満喫する。一週間以上吸っていなかったニコチンが与える慰撫は摩耗した体と精神を十分に癒してくれる。望まぬ禁煙の後で吸う煙草の味は格別で、この安い銘柄ですらキューバ産の葉巻の如き深い味わいに感じられる事だけは、この最悪の事態を招いた織斑千冬に感謝してやってもいい。

 

「先生」

 

煙草の煙を肺に充満させて吐き出し、振り返った。視界に現れたのは静寐だった。吐き出した煙を吸い込んで彼女は咳き込んだのをアタシは謝り笑顔を作って訊いた。

 

「どうした? まだ休んでいていいんだぞ?」

「いえ、私は大丈夫です……皆も落ち着いてきて、どうにか頑張れそうです。でも」

 

静寐はヘアピンでとめた髪の毛を揺らして、ある方向へと顔を向けた。その先には織斑一夏の姿があった。傍らで話しかける篠ノ之箒やセシリア達の言葉も届いていないのか、うつむいたままだ。顔は死人か人形のようで生気がない。

 

「それに、ヴィンセント君もどこか様子が変で……五反田君達がついてますけど不安で……」

 

そちらの方にも目をやると、確かにオールバックでまとまっていたはずの髪の毛が乱れ、前髪が垂れている。傍らに鈴がついていて織斑と比べれば、いくらかマシには見えるが、傍目から見れば不安に感じざるを得ないだろう。

 

「先生、私達生きられるんでしょうか? たとえ生きたとして未来はあるんでしょうか?」

「突然どうした?」

 

静寐はアタシにそんな事を訊き出した。汗と油で汚れた彼女の顔は十代の少女が見せる未来への不安と緊張で強張っていた。

 

「織斑君を見て思うんです。信じていた物が嘘で、私達が見ていた現実は実は違っていて……学園ももうおしまいです。此処を出た後、私達に一体何が残るんでしょうか?」

 

IS学園、夢を見てきた場所が滅び、ISと言う存在そのものが危機的なものになった今、彼女たちの半年の間の努力、もっと言えば学園に入るまでの努力すら消えることとなるかもしれない。

 

生き残る希望はあっても、その後の希望が無いのでは、と彼女は言いたいのだ。生きていても、どうする?そんな疑問をかけられてアタシは少し考え、彼女たちに教師としてではなく一人の年長者として、話した。

 

「生きていれば希望は見つかる、それじゃ、納得しないか?」

「多分、しないです」

 

一拍置いて彼女が答えた。明確な答えを待っているのは分かるが、アタシにはそれ以外答え方を知らなかった。

 

「だが、コレが一つの真実だ静寐。アタシもお前達と会うまでは死んでいた。自衛隊を追い出され、教師として不適格とされたアタシはロボットのように教室と自室を行き来していただけだった。実際話す前まで対して期待してなかったろう?」

「そんな事ないです!」

 

顔を赤くして否定する彼女の頭に手を置いて、撫でた。別に怒っているわけではないのだ。ただ、話を聞いてくれればいい。それだけだった。

 

「実際ソレでアタシの今までの経験が生きた。あの訓練は無駄にはならなかったんだよ、静寐。だから今は生きることに集中してくれ。道が続けば、ゴールもわかるさ」

 

アタシの28年は生きた経験談、年寄ほどの重みもありがたみも無いだろうがアタシにできることはこれ位だ。納得しきれなくても、いつかは分かってほしいと願う。今は生きていつか分かってくれればアタシはそれでいいと思うのだ。

 

「さて、もう一つ仕事をしておくかな」

 

静寐をその場に残して、アタシは話さなくてはならない人物の元へと歩いて行く。

その先に居る人物は瞳から輝きが消えており、幾人かの麗しの美女に励まされてもピクリとも動いていなかった。

 

靴音を鳴らして進むと箒たちがアタシの方を見て警戒心を露わにした。今まで散々やらかしてきたことを考えれば、ソレも仕方ないとはいえ少女から睨まれると言うのは中々にこたえる。

 

「何の用だ?」

 

まず口を開いたのは篠ノ之箒だった。アタシですら敵と見るかのような目を見て、少しげんなりもした。だが、アタシは煙草を一本取り出して咥え、箒に言った。

 

「どいてくれるか? 織斑に話がある」

「貴女が一体何を話すと言うのだ? 先日は一組の教室で散々一夏を否定した貴女が一体何を話すんだ?」

 

まさに正論だった。あの時取り乱していたとはいえ、酷い事を言ったものだ。それを考えれば、アタシが何か言う権利などないだろう。しかし、言わなければ不安の種が増えるだけだ。

 

「分かってはいるが、このまま放っておくわけにもいかんだろう」

 

そう言うと、箒は反論しようとするが、別の所からその否定の言葉がやって来た。

 

「もう、放っておいてくれ」

 

弱々しい男の声がして箒が振り返った。箒は今一夏が言った言葉を信じられず、驚きの表情で一夏を見た。傍らにいたセシリアや体育座りのまま動かなかったラウラまでもが反応した。

 

「もう、いいさ。俺を、放って逃げてくれよ」

 

諦めの極致に到達した一夏の言葉には力など一切こもっていなかった。これが数日前まで人を守ると強く言い放っていた少年の姿かと思うと、同情せざるを得なかった。

 

「一夏!どうしたと言うのだ?!」

「貴方らしくありませんわよ!?」

 

そんな二人の激励を聞いても一夏は動こうとしない。それどころか耳を塞いで逃げようとしてすらいる。

 

「もう、何を信じればいいのか分からないんだよ! 千冬姉が今までの騒動の裏に居て、それが全部俺のためで! 皆を守るどころか、実は巻き込んでいる側だった!」

 

あの地下での話、あれが一夏の心を折ったのだろう。それを否定しようにも、当の千冬が認めており、突き出された数々の証拠の前に彼は心や耳に防壁を張って遮断することすらできなかったのだ。

 

自分がいたせいで、戦いが起きて皆を傷つけていた。それが本人の意志ではないのが事実だとしても、大切な人を守るという事に拘っていた彼にとって最大級の皮肉だろう。自分が守ると言うたびに誰かが戦いを用意し、それに酔っていただけなど性質の悪い冗句を通り越して、最早喜劇だ。

 

受け入れるわけがない。まして自分の一番の憧れが自分の位置版否定すべき相手と重なったとなれば尚更だ。

 

「だが、お前は皆を守ろうとして……!」

「違うよ、箒! それこそ嘘だったんだ! 俺の見ていた現実は幻だった……力とか、状況とかに酔っていたのは俺の方だったんだ!」

 

否定、否定と相次ぐ否定の言葉に箒やセシリアが困惑し顔を青くする。一夏の否定は言ってみれば、それを支持していたもの全ての者の否定でもあった。彼女たちは今までの一夏を肯定して来たからだ。

 

それ自体は間違いでなく、事実一夏のしていたことは正しいものだ。一介の学生がISと言う力で仲間を守り、殺すこともしない。暴力が悪で、人殺しが肯定されることは無い、と信じ戦いを挑まれても殺さず、他人を守る。大よそ考え着く限りで最高の理想的な正義の行使という物だ。

 

だが、そんな事を実際にできるのは人間の範疇を超えた存在のみだ。実際は暴力を使って殺す方が余程確実で簡単で、アタシや五反田のような人間にはそれが限界だ。例え、いかに高潔な革命家だろうと非暴力による改革は望めないと知っているし、殺さないように自分を、まして他人を守れるなどアタシのような人間達からすれば幻想だ。

 

だから、図式として我々が忌み嫌われ、一夏が好まれるのは自然の事と言えるのだ。

悪から守るために悪に染まるアタシ達を指示する人間が少なくて当たり前なのだ。

 

だが、あくまでも我々は人間だ。普通は状況によって変化してしまうのだ。一夏がそれを今まで持ちつづけられたのは状況をコントロールされていたことに他ならない。状況をコントロールされ、しかるべき時に白騎士となって英雄になる。

 

そんな舞台裏に彼が気づいた時、彼の価値観は崩壊を見せるのは必然だ。自分が人形劇の主役だっただけに気付いた彼の絶望ははかり知ることなどできない。

 

アタシはそんな彼に言葉をかけた。

 

「織斑……そのままでいいのか?」

「何が?!」

 

そう問いかける彼にアタシは訊いた。

 

「このままで終われば、お前はスコールの喜劇役者で終わるぞ。それでいいのか? 今までの事を全て否定するな」

「でも! 俺はどうしていいか分からないんだよ!」

 

一人の少年の悲痛な叫びを聞きアタシは顔を背けることが出来なかった。背ければ、最期のような気がしたからだ。

 

「分からないなら、誰かを見るといい。お前の親友は戦っているし、お前の女はお前を見捨てない。アタシ達もまだ戦う。だから……今は腐ってくれるなよ」

 

ここでアタシを見習え、と言えたらどれ程楽だったろうか。だが、アタシは模範的な人間ではない。少し前まで自衛隊と言う誇り以外、何も持てなかったか弱い女だ。誰かに怒りを当り散らしてしまう弱い人間でしかない。

 

なら、その弱い人間が戦って誰かを守るとしたら、何をすべきか。それは自らの手で立証しなくてはならないだろう。アタシは後を箒やセシリアに任せ、踵を返した。

 

向かう先に居るのは機械仕掛けの兎耳の博士とセイウチの如き体系の整備番長。これからに備えて、専門家と相談するのは当然の流れだろう。

 

密かにポケットに入れた5.56mmNATO弾をいくつか取り出す。この倉庫で見つけたものだ。金色の薬きょう、89式を扱ったころからの顔なじみであるそれらを見て、握りしめた。

 

これからの準備に必要と信じ、今もシールドを攻撃し続ける連中がいるである方向へと目を細めた。

 

 

 




後一回ほど会話会を作り、戦闘回の予定です。
経った二時間の間に出来るドラマとか書けたらいいな、と思っております。

この辺の展開は結構こんがらがっているかもしれませんが、どうにか書き終えさせたいと思います。
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