IS to family   作:ハナのTV

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防人

崩れた鉄筋コンクリートをクッション代わりにしてアタシは墜落した衝撃を辛うじて最低限に抑えた。背中に伝わる痛みに肺から空気を吐き出し、ついでに血も一緒に口から零した。

 

運が良かった。シールドと打鉄そのものの頑強さが効果を発揮し、IS神話の根源である絶対防御によって、あの熱線で死ぬことを避けることが出来た。絶対防御が無ければ、今頃半身を焼き切られて、哀れな大場のローストの完成となったことだろう。

 

「クソッ!」

 

予備のブレードを呼び出して右手に握りしめ、杖の代わりとして立ち上がる。増設した胸部装甲は残った表面は完全に焼け焦げ、四層の装甲版は三層目まで蒸発していて使い物にならない。

 

ヘッドギアも索敵、情報統制、FCSが死んでいる。軍用規格の製品もあの熱線の熱には耐えられず、機能としては未就学児向けの玩具以下となっている。バイザーもひび割れて視界の確保すらままならないとあっては粗大ごみもいい所だ。ヘッドギアを外し、裸眼で上空を見上げる。

 

そこには亡国のISモドキと女首領の姿が見え、五反田達が次々に襲われている。戦火はとどまることを知らず、空中で榴弾が熱と閃光を伴って炸裂し、曳光弾によって描かれる弾道の先にスラスターを吹かして回避行動を必死に取っている生徒たちがハッキリと網膜に映った。

 

最早弾薬、格闘兵装、エネルギーも尽きかけている彼らの前に立ちはだかるISモドキはまさに悪夢だ。動き方を見ると相当に訓練を積んではいるが、それぞれが独立した戦いを行っているのが分かった。

 

銃器はバレルを短くした狙撃砲から旧ドイツ軍のマウザーピストルを踏襲した物を二丁ぶら下げる者、格闘兵装から統一性がない。通信はオープン回線で逃げる子ウサギと化した少年、少女を追う狩人として追い回し、戦いに喜びを覚えている。

 

『何よ! 何よ! こんなのってアリなの?! まだ人生の半分だって生きてないのに! こんな所で!』

『畜生! 畜生! 何で弾が無いんだ!』

 

鈴とヴィンセントの叫びが聞こえた。どちらも涙交じりの本気の叫びだ。生きたいと願う人としての本能から来る願いを彼らは口にし、自分たちの置かれている状況を必死にこじ開けようと奮戦する。だが、そのための手段が尽きかけている、尽きようとしている。無限の物などこの世には存在しない。弾丸は撃てばなくなるし、刀も斬り合えば刃が鈍り、それら得物を支える手と体にも限界がある。

 

『この紅椿を以ってしてどうして……!?』

『俺が皆を守らなきゃいけないのに!』

 

圧倒的数的不利、練度の差もさほど開けているとは言えず、疲労と消耗から行動の限界に達したアタシ達に何が残されているだろうか。敵を倒し、時間を稼いでこの場から脱出するには一体何をすればいい?

 

痛みに耐え、血を流しても為さなくてはならない事をする。ただそれだけだ。たとえ彼女らの生存の為に誰かの死が必要なのだとしたら、アタシは率先してソレをなすべきだ

 

その答えをあらかじめ用意していたアタシは立ち上がった。打鉄の残りエネルギーはまだ戦える程度には残っている。残存エネルギーは4割強。実弾と実体ブレードのみ使い、出来る限りは節約して来た。

 

無論このまま空へと戻っても、戦力差を覆せるわけはない。たった一機の教員用ISで戦況が好転することは無い。せめて福音クラスの化け物を持ってこなければ、何も変わりはしないだろう。

 

だが、もしソレが可能だとしたら、私はその選択を迷わず選択する。そして、その答えがこの打鉄には組み込まれている。世界が嫌いなウサギとやり手の大人が嫌いな整備員の二人に無理を言って作らせた方法がある。

 

『大場先生!』

 

コンソールを操作し、その機能を使用しようとした時、山田先生たちからの通信が入った。声だけの通信だったが、彼女の話す向う側で懐かしき古巣の男たちの指示が聞こえて来たのに、アタシは安堵を覚えた。

 

「山田先生か? その様子だと上手くいったらしいな?」

『ハイ! こちらは今収容作業中です! 終わり次第そちらにも……』

「駄目だ」

 

アタシはハッキリと否定の言葉を返し、打鉄のシステムを解除する。これで、IS神話の元である絶対防御が消え去り、その分のエネルギーを機体に回すことが出来る。

 

「あの金髪の女のことだ。すぐそっちに第二波が来るはずだ。今そちらの戦力を引き裂けば生身の連中はまず助からん」

『でも!』

『ちょっと……アンタ本気で言ってんの?』

 

取捨選択、効率的に戦争を行うのが今の軍人だ。アタシは自衛隊として、この場で被害を最小限に抑えるために頭を捻り、その答えを伝えるのみだ。だが、山田先生、さらに話に割り込んで来たイヴァナ先生は民間の出だ。彼女たちはアタシの意見に素直に従わなかった。

 

『そっちに戦力が集中しているなら、そっちはもっとやばいって訳でしょ?! コッチには兎博士のラビットだっているのよ?!』

「駄目だ。スレートたちは途中で抜ける。彼らは自分たちが保護されることはない、逆に利用されると知っている以上、生徒を最後まで守ることが出来るのは貴方達だけだ」

 

それが今回のネックだった。ジャンクラビットは確かに強力無比な機体だ。たった一機でも多数を相手に優位を保てるだろう。だが、スレートも束もクロエ達はアウトローだ。

捕まればどこぞの研究所か、ブラックサイトで非人道的に扱われる類の人間であり、今回のIS騒動をおさめる格好のカバーストーリーの犯人役にされても不思議でない以上、彼らは逃げるしかない。最後まで生徒を守ることが出来ないのだ。

 

だから、楯無や先生方に頼む他ないのだ。今生徒たちを守れるのは彼女たちを覗いて他にない。

 

「こっちはこっちでどうにかする」

『打鉄一機で何が出来るんですか?!』

「一機じゃ、確かにそうだ。だが、付加価値があれば話は別さ」

 

アタシはシステムを解放し、打鉄のリミッターを解除した。出力は軍用スペックと同等となり学園用のソレを凌駕するほどとなり、最後に拡張領域から一本の注射器を取り出す。

 

『付加価値って……まさか』

「イヴァナ先生、山田先生」

 

一つ深呼吸をして、アタシは思い切り明るい声で言った。

 

「ありがとう! 今まで良く付き合ってくれた! 静寐たちにも言ってくれ! 最高の半年だった! だがお別れだ! 通信終了!」

 

通信を無理やり切って、空を見上げる。我ながら酷い女だと思う。自己中心的で、独善的、なるほど確かにアタシはロクな女じゃない。アタシが自衛隊にも教師にも向いていないの荷も納得だ。だが、そんな感傷に浸っている暇はない。

 

敵はこちらに都合など合わせない。状況は刻一刻と変化していた。布仏本音がISの姿で亡国企業の前に立ちふさがり、かぎ爪をスコールの方へと向けて威嚇している。

 

『ごめんね、かんちゃん』

 

そう謝る彼女を見てアタシは笑った。なんて見ていられない姿だと。本当は死にたくないし、もっと生きていたい。だが、誰かが犠牲になるしかない中で自分以外の誰かより、自分が死ぬ方を選択する。自分を心配させまいと気にすることはない、と言うために気丈に明るく振る舞う。

 

痛々しくて、見ることすらできない。そして、それがさっきまでの自分だと気づきアタシは空笑をした。同時にそんな姿をレジスタンスと名乗った少女たちに見せなくて良かったとも思えた。

 

頭の裏では、彼女たちの半年間の思い出が流れていた。自衛隊から弾かれ、学園からも疎まれていたアタシに手を差し伸べてくれた彼女たち。余計な言葉は不要で、ただ一言楽しかった。

 

シミュレーターで訓練して、彼女たちが技術を吸収していき、タッグマッチトーナメントで場違い、でしゃばり、思い上がったルーキーと言われても結果を見せた彼女たちの姿は痛快で死にかけたアタシに涙交じりに医療室に来た時は青臭くも優しかった。

 

自衛隊に二度と戻ることが出来ないと知り、自分の本性を見たアタシを彼女たちが見せてくれたあの一晩だけの夜空の花には希望と彼女たちの未来が詰まっていた。

 

あの未来を潰させるわけにはいかない。子供の未来を黒く塗りつぶされてたまるものか。スコールの言う忘却されない戦いの歴史の創造などに彼らが付き合うことないのだ。そんなものは此処で終わらせてやる。

 

「全機に告ぐ。全力で撤退しろ。逃げて、逃げて生き残れ。 殿はアタシがする」

 

自分の受けもつ彼らにそう指示して注射器を首もとに打ちこんだ。その瞬間から、ごちゃごちゃと汗や体の痛みなどの不快感が嘘のように消え去り、アタシには超常的な感覚が残った。

 

注射したのはナノマシンガンパウダーの複合薬物、アフリカでは珍しくもないカート薬と呼ばれる一種の麻薬をアタシは自分の血液に直接混ぜ込んだ。過剰摂取されたナノマシンとパウダーのトルエン成分がアタシには本来存在しえない力を与えた。

 

朦朧とするはずの意識をナノマシンで強制的に覚醒状態に無理やり留めさせ、全身に波打つかのような刺激が脳から全身に行き渡り一片の細胞一つ一つが鋭敏化された体はある意味で快感だった。

 

ナノマシンでグロテスクに浮き出た血管が熱い血潮を流すたびに、呼吸をして酸素を肺の中に取り込むたびに根拠のない万能感と神がかり的な集中力がアタシに与えられる。

 

アフリカ、紛争地での訓練だってまともに受けていない少年兵を冷酷な殺人マシーンに早変わりさせる薬にナノマシンが組み合わされば、こうも都合のよいものになるものか、と実感した。覚せい剤などの比ではないだだろう。

 

湧き上がる興奮が体温を上昇させる。血液がガソリンか何かに変わったのだろうか、戦意と狂気を高揚させるために熱を作り出しているのが自分でもわかった。この熱を持って相手を焦がし、全てを焼き尽くせとアタシの中の誰かがささやく。

 

その囁きはアタシを滅ぼすものだと知っていたが。乗らないわけなかった。正気と狂気の境界線をいとも簡単に飛び越えて、アタシは向う側の人間へと変貌した。

 

この時を置いて他は無い。アタシは人であることを忘れるべく思考した。自己暗示をかけてひたすら目の前の悪鬼を切り刻む鬼となる必要があった。そしてその効果はダウンロードされたかのごとく、簡単に行えた。

 

「……行くぞ」

 

一匹の狼のように歯をむき出しにして、心の奥底、誰もが持つ暴力性を発揮させ、精神が一振りの刀のように鋭く尖ったモノへと偏重していくのを感じ取りつつ、アタシは空へと飛び出した。

 

リミッターを外し最低限の防御機能のみの打鉄は軽かった。瞬時加速を利用して本来のスペック以上の最高速度を瞬きする合間に叩き出し、機体が大気を切り裂いて目の前に広がる戦場へと飛び込んだ。

 

銀細工がコチラに今更気づき振り向いたが、もう遅い。左脇に備え付けた鞘から一本の刀剣を掴みすれ違いざまに振りぬいた。

 

「一つ!」

 

実体剣の葵ではない、赤みを帯びた刀身を持つブレード。かつてタッグマッチトーナメントで神楽が使用したものを改良したヒートブレードは銀細工の胴体を切り裂き、上半身と下半身で二つに分断した。

 

顔に髪の毛に赤い血潮がべっとりと塗られたのに達成感を抱き、アタシは口元についた返り血を嘗めた。

 

そして、悦楽に浸りつつも体をバレルロール二回、急上昇で機体の高度をさらに上げて、飛来する弾丸を回避する。視界に映る弾丸は形すら認識できるほどスローモーで、止まって見える。

 

いや、世界全てが遅い。アタシだけが時間という呪縛から解放され、全てがハッキリとこの目に映りだす。左十五度に体を傾け、75mm弾を避ける。自分より下にいる銀細工がフルオートで連射しているが、毎分1000発程度のサブマシンガンのなんと遅いことか。

 

「止まって見える……時間が遅い……不快だな」

 

ブレードを逆手に持って投擲し、接近。少し手を伸ばせば近づける距離で銃など必要ない。投擲されたブレードがどてっ腹をぶち抜いて、倒れる銀細工の銃器を奪いもう一機の首もとに銃口を刺し、内部に徹甲弾を直接ご馳走してやる。

 

マズルフラッシュが銀細工の中で煌めき、赤と銀の花火が数秒後に爆ぜた。銀細工が一瞬溶けて中の少女の姿が一瞬見えたが、ソレも刹那の事で、不思議なことにアタシの目の前から一瞬で手品の如く消え去っていた。残ったのは不味そうなミートパテだけだった。

 

興味の失せた死骸からブレードを引き抜いて大地へと落とし、目標の集団を捉えた。銀細工の薄い防御線を突破したさきにISモドキどもが居て連中は早速アタシを見つけた。同時に生徒たちもアタシを見つけたらしく、通信が耳に届いた。

 

『先生か?!』

「何で逃げてない?!」

 

歓迎代わりに、迫りくるワイヤーブレードが18本迫りくる中を駆け抜けて、ブレードを下段に構えての突撃を敢行する。モドキがサイドに回り込んで、ライフルで狙撃してくるのを見据えて、打鉄の浮遊シールドで発射のタイミングと合わせて弾き、ワイヤーの黒い束がアタシを捉える前に抜け出す。

 

ワイヤーの刃がISスーツを掠り、血が少し噴き出たがアタシは痛みに顔を歪ませるどころか、笑いすらしてモドキ一機に斬りかかった。

 

敵機の反応は早かった。ククリ刀を逆手に持ち、振り下ろされたヒートブレードを一瞬受け止め、ククリが溶断されると同時にバックステップで後退し両翼に回り込んだ二機と同時に射撃を開始。見事な連携だが、小うるさいだけだ。

 

「邪魔だぁ!」

 

われたククリを掴み、左翼の一機のライフルへと投げつけ破壊、後退した一機の左下方へと移動して刀身を水平にした突きを下方からお見舞いする。

 

「このアマ!」

 

敵機は足を犠牲にブレードの突きを本体に直撃させることを防いだ。胸部装甲の一部を剥ぎ取るだけに終わっただけに舌打ちして柄頭で頭部側面を殴りつけ吹き飛ばしてやるが、その前にハンドガンを抜いていたらしく弾丸が頭部を掠めた。

 

頭の中で神社の金が鳴ったかのような不快感に怒りを露わにして回し蹴りで更に追い打ちし、敵機を踏み込み台にして加速した。

 

『先生、アンタだけじゃ殿は無理だ!』

『逃げて!』

 

鈴や弾、アカネやらと子供が通信機越しに喚く声が聞こえた。少年少女の声に頭が痛み出し、まだ逃げようとしない彼らに苛立ちを覚え沸騰した血液が脳に達した時点でアタシは大声で叫び返した

 

「ぎゃあぎゃあ、やかましい! 頭の中で鐘を鳴らすんじゃねえ! 尻でも叩かれないと分からんのか?!」

 

モドキどもの射撃がアタシに注がれる。火線がアタシのいた場所に居た場所を突き抜け、アタシはひたすらに機体を動かし、ギリギリの所で回避する。頼りになるのは打鉄の機動性と運動性のみ、速度では早いわけではないこの機体で接近するのは骨が折れる。

そのアタシを気遣ってヴィンセント達が僅かな火器で援護射撃をするが、アタシは更に声を張り上げる。

 

「援護なんかしてんじゃねえ! 職務妨害しやがったら殺すぞ!」

「しかし!」

「子供は生きろ!」

 

撤退するように再三にわたり命令し、アタシは目の前の敵機を一機でも多く引きつけるべくスラスターを派手に吹かして肉弾戦を挑み続ける。

 

アタシはただ、一人の死兵として特攻を繰り返すだけだ。弾丸飛び交う戦場に熱く火照るからだ、生きていると実感できるコンバットハイによるアドレナリンの過剰分泌と薬物の高揚がどこまでもアタシを上へ、上へ精神を天上の果てまで導いて仕方ないのだ。

 

イカロスは太陽に近づきすぎて、翼を失った。アタシもいつ堕ちるか分からない中、とにかく自分の能力を引き出させなくてはならない。血管が切れ、剣も銃も失っても、アタシは此処で戦う。

 

それが義務であり、責任だ。同時に今は悦びとなりつつある。

 

トップスピードまで乗った打鉄に衝撃が走る。後部スラスターの一部を大口径のライフル弾を発射する分隊支援火器を持った二機が追随してくる。

 

絹を引き裂くような断続的な発射音が耳に届き、アタシは口元を歪ませながら後ろを採られた敵機を引きはがすべく、急ターンから上昇し、捻りこむようにして逆に背中を採ろうとしたが、敵機は用意周到にも誘導グレネードを放り投げて、それを防いだ。

 

「しくじったな!」

 

グレネードを回避したアタシにMGを向ける敵機。バイポッドをフォアグリップ代わりに腰だめに撃とうとする姿を捉え、アタシは一か八かで突貫しようとスラスターの向きを変更した時、MGを持った敵機の後ろに緑の光が集まり、それが人型になった。

 

「させないよっ!」

 

巨大なかぎ爪がMGごと敵機をはたいた。巨大なアームがMGをひしゃげさせISモドキは片腕を犠牲にして、距離を取って撃墜を避けた。かぎ爪にこびり付いたオイルをそのISはニコリと笑って見た。

 

アタシはその姿を異形と思った。生身の人間、それもIS学園の制服を着た姿からスラスターが生えており、腕はかぎ爪付きのマニュピレータ―に飲まれており、脚部は通常のISとは違い、と足をはめ込むのではなく生身のまま。腰につけられた八枚のスラスター付きのバインダーが八枚、スカートのように展開されている。

 

胴体には一片の装甲もない。ハッキリ言って兵器を装備していると言うようには見えない。そのISに、いや少女にアタシに言った。

 

「……何で来やがった?」

 

頭がズキリと痛みだした。今になって薬物の副作用が始まったのか脳を針か何かなでチクチクと刺されているようで非常に不快な感覚が走る。

 

「先生、何で来ちゃったの?」

 

質問に質問を返す少女、布仏本音はアタシを悲しそうに見た。

 

「先生死んじゃったら、悲しむじゃない。それは私が望まない事なのに……何で来ちゃったの~?」

「アタシの望みだからだ。職務だからだ」

「……もう自衛隊じゃないんだよ~?」

「うるせえ」

 

生意気な口を叩く本音にアタシは返し、下方と左右からくる敵機に意識を回した。本音も気づき、背中合わせになったアタシと本音は間合いに飛び込んで来た二機、上と左に飛びかかった。

 

瞬時加速だけでは足りない、と判断し連続で左右交互に加速し、直角の軌道を描き敵機の狙いを定めさせずに、インファイトに持ち込む。本音は得意のジャンプで後ろに回り込んで得物を振り下ろし、敵機を処分しようと動く。

 

ナックルガードのついたナイフを持つ敵機との斬り合い、赤と黒の刃がぶつかり合うが、溶断できない。敵機のナイフには何か細工が施されているらしくマッハ2近くの速度をのせた殺陣が展開された。

 

「本音、お前も逃げろ! お前は子供で、簪が……友達がいるだろうが!」

「先生こそ! 化け物一人に任せて、行っちゃいなよ!」

 

だが、一瞬の会話の後ISモドキがいきなり距離を離した。何事かと思ったが、頭の回転速度が以上に早まっていたおかげで判断できた。

 

大げさともいえるほど大きく回避行動を取って肩のシールドを前面に出した。赤い熱線が大気を焦がして近づき、シールドを余波で溶かしていった。

 

こんな攻撃が出来る機体は一機しかいない。アタシはそのあたたかいお迎えを送って来た相手を見据えて睨み付ける。その先には黄金の機体、長い豪奢な金髪を風に吹かして宙に優雅に存在するスコールがいた。

 

彼女は憎らしいことに、優美な笑顔を浮かべてアタシを見ている。アタシよりも上の一から楽しげに観察していた。

 

「よくいらしてくれたわ大場つかさ二尉。貴方のその飢えに苦しむ狼みたいな貌、素敵よ

「大将首……自分から来やがったな」

 

呻き、目を血走るアタシとクスリと笑うスコール。この場での指揮官同士が顔を見合わせた。

 

「薬物で無理やり覚醒させてまで私達を止めようとする……それは自棄から? それとも高貴さから来ているのかしら?」

「何の話だ?」

「サムライは潔く、無駄な生より、意味ある死を選ぶって言うじゃない?」

 

スコールの問い答える前にアタシは打鉄を動かしていた。連続での瞬時加速で回転をかけて、首を断ち切る居合抜きを3000℃以上の高熱を放つブレードで放った。

 

瞬間、衝撃音が空中に響いた。スコールのISのサソリの尾のようなそれが、ブレードをいなした。そして、元々熱攻撃を主体とする機体ゆえか、熱だけでの溶断は不可能だとアタシは知った。

 

彼女はこちらに顔を向け。龍のような恐ろしいほどのきらめきを放つルビーの瞳がアタシに視線を突き刺してきた。

 

「言葉は不要のようね」

 

アタシは刀に力を込めた。アタシの頭の中に一つの考えが浮かんだ。殿をするべくしてアタシはこの戦場に立った。時間稼ぎのために体を張ろうとした。

 

だが、今それが変わった。目の前にスコールがいる。このか細い首に手をかけて息の根を止めることが出来る。この馬鹿げた騒動を止める唯一の方法、戦場で金髪の女を仕留めると言う好機が今そこにあるのだ。

 

自衛官として、いや一人の人間として、この女を排除する。それが子供を守ることに繋がる。誰もカモ、これ以上の犠牲を防ぐことが出来る最高の方法だ。

 

「ああ、言葉は不要だ。アタシの意志は決まっている。お前の意志も知っている。なら、後はぶち殺すだけだ。アタシ達の為に死ね」

「御免こうむるわ。舞台も役者も揃ったのに、エンデイングなんて御免だわ」

 

獣のようにアタシは再びうめき声をあげた。歴史など必要ない。歴史に名など残す必要はない。残すべきは彼女たちの未来だ。静寐達の未来だ。

 

アタシはこの身を犠牲にしてもスコールを殺すと決めた。

 

「だから、そんなのダメなんだってば!」

 

そこへ本音が加わり、スコールに切りかかった。

 

 

 

 

 




これで学園脱出のメインが揃いました。
更新遅れて申し訳ありません。

次回弾と本音の視点を交えての戦闘回です。
相変わらず余計な展開ばかり増やしてますが、楽しんでもらえると嬉しいです。

そう言えば疑問なんですけど他者様の作品では設定見たいの作っているのを見ますが、私も書いた方がいいのでしょうか?
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