IS to family   作:ハナのTV

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本編です。
鈴&ヴィンセント編です


9

地雷と言う言葉を聞いたとき、皆はどういう風にとらえるだろうか。ある人は足を吹き飛ばし、後処理に手間がかかる厄介な兵器と言うだろう。また、あるものはハズレの商品のことを言うかもしれないし、相手の逆鱗と答える人だっている。この三日間俺の周りでは、いわゆる地雷ワードによるトラブルが相次いだ。最もトラブルは地雷によるものだけではなかったが。話は一組の教室、朝のホームルームから始まる。

 

 

 

 

 

あのクラス代表戦が終わった後、最終的に勝ったはずのセシリアがクラス代表を辞退。俺は一夏との対戦をすっぽかしたため、三人中三位に終わり、クラス代表は一夏となった。

 

一夏は専用機 白式をもち、初戦で代表候補生に迫ったということでクラスでの評判も高い。俺もセシリアにあと一歩まで迫ったが、クラスの評判は二つに分かれていて一夏とは違う。

 

戦法を駆使して代表候補を倒せそうだったという好意的な意見と卑怯な戦法でしか戦わない唾棄すべき男、と言ったように評価は大体この二つで分かれていた。

 

前者はいいとして,後者の方は人が必死に努力したというのにこの様だ。確かに褒められるような戦法ではないとはいえ、全くもって嫌に思う。

そう考えながら、携帯用の端末で報告書をつくる。

 

「弾、何しててるんだよ?」

 

作成中に一夏が話しかけてきた。端末をのぞき込むような姿勢を取った、俺の行動を確認しようとする。

 

「ああ、レポートだよ。この間の代表決定戦での記録をまとめて、送信しなきゃならないんだ」

 

へえ、と相槌をうち、感心したような顔を見せる。

 

「まるでサラリーマンだな、一々報告するってめんどくないか?」

「まるで、じゃなくて会社員なんだよ俺は。面倒だけどこれも給料の内だし」

 

「……給料って?」

目を丸くする一夏。無理は無いだろう、一夏はどこにも所属していない専用機持ちという稀有な存在だ、対する俺は企業所属であり、当然給料は支払ってもらえる。

 

給料は日本円で払われ、手取り25万円。意外と少ないと思うかもしれないが、まだ専用機を用いたデータ取りもしておらず、入社一年に満たない身なので、それを俺が言うのはいささか罰当たりに思えた。

 

また、給料から学費や会社の施設利用などの費用。交通費などの細かい物も差し引いているので、実際はもっと多い。しかし、一介の高校生としては大金なのだから、俺としては十分な額と言えた。それを一夏に話すと羨望のまなざしを見せる。

 

「いいな、ソレ。今度おごってくれよ」

「ああ、シャリシャリ君ならおごってやるよ」

 

ケチめ、と口をすぼめ一夏が非難する。談笑をしていると三人の女子が近づいてきた。その三人とは本音達だった。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

一旦端末を切り、顔を上げ返答する。

 

「ああ、何か用か?」

「五弾田君ってヴィンセント君と知り合いなんだよね?」

 

そう聞いてきたのは谷本癒子だ。トリオの一人でサマーデビルのあだ名を持つある意味、体育系の女子だ。

 

「ああ、同じRインダストリーの仲間だよ。」

「ヴィンセント君は専用機を持っているんだよね?」

「そうだ、俺も何回か乗せてもらった。それがどうかしたのか?」

 

話が見えてこないので、本題を聞き出す。

 

「ヴィンセント君は今二組のクラス代表でしょ?でも、さっき二組に中国の代表候補生が来たって話で、だから…」

「だから、クラス代表が変わるかもって?」

 

そうそう、と首を縦に振り肯定する。

 

ここで、話の本筋が見えた。彼女は代表戦の行方を案じているのだと。

二組の代表が変わることで一組の勝敗がどうなるのかが、変わるかもしれないからだ。

 

ヴィンセントは専用機グレイイーグルを所持している。あの機体はシミュレーションで何度も使ったから機体の特徴は知っている。

 

あの機体はひたすら頑丈だという事が特徴だ。何せ、関節部に20mmバルカン砲が30発命中して、少しイカれる程度で済み。その後ミサイルやバルカン砲の全弾を浴びてもまだ動くのだ。

 

そんな頑強さ故に動きが遅い機体だったという事も知っている。しかしながら乗り手の方、ヴィンセントの実力はどんなものか知らない。単純に見たことがないからだ。不思議なことに奴は目の前で実践はしなかった。

 

しかし奇妙なことに実力がないようにも思えなかった。彼が実力者であるとことに何故か妙に納得していた。

 

「変わらないと思いますよ」

 

聞きなれた声がトリオの後ろから聞こえた。アカネだ。

 

「ヴィンセントは手に入れた物を手放すのを一番嫌がりますから。子供と一緒です」

「辛辣だねえ~」

「なら、安心かも。ヴィンセント君のISって第二世代でしょ、だったら、第三世代の織斑君にも勝機があるんじゃ――」

「その情報古いよ」

 

聞き覚えのある勝気な声。中学の時、よく聞いたものだ。

声がした方向へと振り向くと戸に寄りかかり、腕を組んだ女子。俺と一夏の悪友。鳳 鈴音がそこにいた。昔と変わらないツインテールで貧相な体系もそのままだ。学園の制服の袖を切り、肩を露出させたものを着ている。校則に違反しないのだろうか。

 

「お前、鈴か?」

 

聞いたのは一夏だ。

 

「二組の専用機持ちとしてこっちに来たからにはそう簡単に優勝なんてできないから。」

 

決め台詞を喋り、胸いっぱいにアピールしきった。

 

「何かっこつけてるんだ? 似合わないぞ、ソレ」

「何てこというのよ!」

 

せっかくの自己アピールを台無しにされてしまった。確かに一夏の言う通り、似合ってない。

 

「よぉ、久しぶり。鈴」

「一夏に弾。久しぶりね。てか、アンタ達何でIS動かせたのよ?本国で聞いて驚いたわ。」

「何でって言われても……なあ?」

 

一夏の問いかけに同意する。ただの高校生に理解で着るはずもない。

 

「ま、いいわ。代表戦に勝つのはアタシの二組よ。アタシが来たからには優勝出来ると思わないでね。」

 

自信満々、快活な性格は中学から変わっていないようで少しホッとする。中学の時と違い、俺の周りは女子ばかりで、ヴィンセント達がいると言っても、たった3人。一夏も加えて俺が安心して接する事ができるのが4人。ここで鈴が来てくれたおかげで5人になるのだからありがたい。友達は一人だって多い方がいい。

 

「?二組の代表はもう決まってるぞ。」

 

思考の海から顔を出し、現実に戻る。

 

「でも、訓練機でしょ?楽勝よ、頼み込めば譲ってくれるわよ」

「ヴィンセントは専用機持ちだぞ」

「ハア? 何よそれ。聞いてないわよっ」

 

非難の声が上がる。俺に言われても困る、と思ってると鈴の後ろに人影が見える。それが誰なのか、鈴に警告する必要がある。

 

「そう言われてもな……ところで鈴」

「?何よ?」

 

鈴の方に指をさす、正確にはその後ろだ。だが、時すでに遅し、織班先生が振りかぶった出席簿は鈴の頭に命中した。

 

「もう授業の時間だ。とっとと二組に帰れ」

「イテテ、千冬さん」

「織斑先生だ。」

 

そう言ってもう一度出席簿が振り下ろされる。

 

「あとでね、一夏! 弾!」

 

頭を抑え、痛みによって涙目になりながら、捨て台詞を残し去っていった。

 

 

 

 

清潔で明るい教室の中で、僕は一人機嫌よく授業を受けていた。

なぜなら、最近の僕の幸運ぶりはすさまじいほどだからだ。。入ったクラスは二組。クラスメイトは概ね好意的に接してくれるし、女尊男卑思考の「女様」がこのクラスにほとんどいない。弾には悪いが一組でなくて本当に良かったと思う。

 

クラス代表は多少物議を醸したが、結果的に選ばれることに成功し、専用機を持つ対戦相手は今のところ素人同然の織班一夏のみ。しかも彼の愛機「白式」にはブレードしかない接近戦用の機体、正直言ってカモでしかない。

 

約束された勝利も同然で普段より4割増しで笑顔になる。

さらに昨日は四葉のクローバーを見つけたし、その夜に食べたシャリシャリ君は当たり棒だった。

 

もう幸運すぎて笑いが止まらない、普段から笑ってるが。そうこう考えている内に授業が終わったので、ノートをしまい、次の授業に備えていたら、一人の女子が近づいてきた。今朝、紹介された鳳 鈴音、中国代表候補生だ。大股でツインテールを揺らし、こちらに来る。

 

目の前に立つと僕の机に叩くように両手を置く。

 

嫌な予感がする。面倒なことが起こる、そんな予感だ。

 

「何か用かな?鳳さん。」

 

まず用件を聞く。この時、笑顔を忘れず、明るい声でハッキリ聴くのがコツだ。

 

「確認するけど、アンタがヴィンセントよね?」

「そうだけど」

「じゃあ、単刀直入に言うわ、クラス代表を私に譲って」

 

少し時間が止まった。周りの女子も面食らったようにして、黙ってしまった。皆が皆、クラス代表と代表戦の優勝賞品スイーツのフリーパスの行方がどうなるのか、突然のクラス代表変更になるか否か、が気になってしまったのだろう。

 

「そう言われても、もう僕に決まっているんだけどなぁ」

「何よ、後から来たアタシには何の権利もないってこと?」

 

鳳 鈴音が眉を吊り上げる。意識してるかは知らないが、この娘は僕を下に見ているようだ。だが、今はそんなことはどうでもいい。僕としては代表を譲るわけにはいかないのだから、この場を口で乗り切ることにする。

まず、姿勢を正し、手を組む。

 

「そういうわけじゃないんだ、鳳 鈴音さん。あなたにいきなり譲れと言われても僕たちは困るんだ」

「僕たち?」

「そう、僕たちだ。クラス代表を決める際、僕を含め、三人の候補が出て、このクラスでは討論が行われたんだ。誰がすべきか、と。一人は一般出身、もう一人はインドからの留学生、そして僕だ。それで僕が選ばれた。何故かわかるかい? 答えは強さと稀少性のためだ」

「専用機を持った男だからって事?」

「その通り、企業代表で専用機持ち、実力は保証済みだ。さらに世にめずらしい男のIS操縦者。僕にはクラスを盛り上げる二つの要素があるってことだ。つまり、君に譲ってしまうと片方の要素が失われて、少し物足りなくなるんだ」

 

ここまでの発言を聞いて、鳳 鈴音は鼻で笑う。

 

「成程。でもアンタねえ、自分の事強いって言うけど、男性IS適正者が見つかって時間はそんな経ってないのよ?なら、実力なんて知れてるでしょ?たった、一か月の訓練じゃあ、どう考えたってアタシの方が強いってことはわかるでしょ?」

 

勝ち誇ったような顔を浮かべるが、これは想定内の反応だ。こちらも余裕の表情で応対する。

 

「確かに公表されたのはつい最近だね。」

 

公表された、この言葉を強調する。すると彼女の顔から笑みが消える。

 

「隠してたってこと?」

 

存外、鋭いことに感心する。

 

「お恥ずかしい話、いつか発表しようとしてたら、織班君に先を越されてしまってね。おかげで三番目になってしまったよ。ちなみに判明してからというもの、毎日訓練を行っている。君と同じくらいにね?そういう訳だから、すぐに、ハイあなたに譲りますとはいかないんだ、僕にとって。でも勘違いしないでほしい、君にもクラス代表に立候補する権利はある。何せ国家代表候補生。僕とは違って国に太鼓判をもらっている程の実力だ。クラスでも、実力を第一に考えたら君に、という考えも出ているだろうし、明日の朝に皆でじっくり話そう。これは僕たちだけで話すべきでない、違うかい?」

 

自分の優位を話す一方で相手にも機会を与える。優位性だけ話せば相手の反発を招く危険もあるし、何より今は教室内。クラスメイトの印象を悪くすることは味方を減らすことになる。かといって僕の優位性を離さなければ主導権をこちらで握れない可能性がある。

 

主導権を握りつつ、思惑通りに事が運んでもらわなくては困る。舌戦なら、こちらにアドバンテージがあるのだから。

ハア、と一息ついて鳳 鈴音が言葉を口に出す。

 

「OK、わかったわ。じゃあ、明日の朝まで待ってあげる」

「理解してもらって助かる。ありがとう」

 

肯定の答えを聞いて、姿勢を楽にする。しかし、相手の言葉は続いた。

 

「勘違いしないでよ? アタシがクラス代表になるのを放課後まで待ってあげるってだけだから」

 

ニコリ、と笑い、大胆な発言をする。

 

思わず顔が引きつった笑みになる、そして理解する。

僕はこの女が苦手だ、と。

 

 

 

 

 

「何なのアイツ! 妙に大人ぶって!」

 

食堂で一夏と俺は鈴に誘われて昼食を一緒にする事にした。

久々の三人そろっての昼食だが、鈴はご機嫌ななめだ。ヴィンセントに言いくるめられたらしい。

 

「落ち着けよ鈴、ヴィンセントの言う事だって間違ってはいないだろう?」

 

一夏が鈴をいさめる。俺も一夏に続く。

 

「仕方ないって、相手はRインダストリーのご子息なんだから。」

「マジで?! アイツが?!」

 

鈴と一夏が全く同じ反応をする。俺も最初は驚いた。何せ、巨大企業のご子息が企業のテストパイロットをしているわけだ。しかも俺と同じ待遇で、だ。その気になれば、何でも希望通りだろうに。

 

「へえー。凄いんだなヴィンセントって」

「何よ、ただのお坊ちゃまじゃない」

 

一夏は感嘆の声を上げ、逆に鈴は否定的な反応をする。余程気に入らないそうだ。

フン、と鼻を鳴らし、ラーメンを勢いよくすする。

 

「てか、何でこんなに男性IS乗りがいるのよ。おかしいじゃない」

「そう言われてもなぁ、それでも全部で4人だぜ。男が世界人口の半分を占めると考えても三十億分の四、だぜ。少ないだろ」

「だからって、同時に出ることないじゃない」

 

ここまで言われると返答に困る。頭を掻き苦笑いをする。

 

「そういえば、俺もう一人と会ったことないんだよな」

 

一夏が思い出したようにつぶやいた。

 

「坊主頭のデカブツの事?昨日会ったわよ」

 

ユーリの事だと、すぐにわかったが、どうにも不機嫌そうに聞こえた。鈴がこういう風に言うという事は何かあったのだろうか。

「……何かあったのか?」

「ホラ、ここの学園って無駄に広いじゃない?だから迷って、ソイツを偶然見かけたから案内を頼んだのに振り向きもしないで向うに行っちゃったのよ」

 

恐らく、またルームメイトと問題を起こしたのだろう。ユーリは思考中と訓練中は集中しきって周りが見えなくなるタイプだ。俺が奴と訓練してるときもそうだった。

 

鈴がアレコレと愚痴をってると、一夏が話題を変えた。

 

「にしても、久しぶりだよな。こうして一緒に飯を食べるのってさ」

一夏が懐かしむように今の俺たちを見る。

「……確かにね、アタシは中学の途中で中国に行っちゃだし、こうして三人揃うのって久々ね……本当に」

 

少し鈴がばつの悪い顔をする。当時の鈴の状況を思い出す。家族間の、それも両親の間でトラブルが起きた。今の世間にありふれた離婚問題だ。当時、TVでも騒がれていた問題が鈴の家族で起こるなんて思わなかった。

 

鈴が転校すると言う前の日に一夏と共に鈴の家に遊びに行った時、彼女の両親が二人とも、そこにいた。その時の両親は仲睦まじい夫婦そのものだった。

 

とても離婚するように見えなかったのは記憶に残っている。今思えば、そんな両親の問題を俺たちは最後まで知らなかったという事は鈴は一人で耐えてきたのだろう。両親の喧嘩を聞いて、見てついに離婚が決まり、一夏や友達と別れるのはどれほど辛かったことかを思うと胸が痛む。

 

「何しんみりしているんだよ? らしくないぞ」

「っ……しんみりしてないわよ。少し嬉しいだけよ」

「そうそう、鈴はそれぐらいじゃないと」

 

一夏も俺もからかう口調で言う。俺達の為にも鈴の為にもここは楽しくしたい。

 

「そうね……そうよね!」

はじけるような声と共にいつもの鈴に戻る。やっぱり、こうでなきゃいけない。

 

この時は中学の頃と変わらない俺でいた気がした。

時間が来るまで、にぎやかな昼食は続いた、

 

 

 

放課後に射撃レーンへ行き、愛銃のM14の射撃に一しきり満足したので、自分の部屋に戻っていると、怒鳴り声を聞いた。

 

私は何事か、と思って声のするドアの方へ見ると織班一夏の部屋だった。今度は下着どころかボディタッチでもしたんだろうかと思い、その昔、巻き添えで私の部屋のベットが一つお釈迦にされたのを思い出して、面倒に巻き込まれる前に戻ろうと、早歩きで部屋を通り過ぎ、自分の部屋のドアノブに手を掛けたとき織班の部屋からツインテールの女の子が部屋から飛び出てきた。

 

「馬鹿!」と叫んで走って来た。ツインテールの彼女が涙目で走っていたせいか、私は彼女とぶつかった。正確には背負っていたライフルケースに彼女がぶつかった。彼女は衝撃で倒れ、私は慌てて

ライフルケースを置いて彼女に駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?! 怪我は?」

「いいから、ほっといて!大丈夫だから!」

 

そう言って立ち上がるが、当たり所が悪かったのか頭にコブができ、少し切れて血が出てる。ぶつかった勢いも凄かったので、その場で放っておく事は出来なかった。

 

「そうはいきません。こっちへ」

 

手を掴み、半ば強引に自分の部屋に入れ、ベットに座らせる。

バックに入れてあった絆創膏など取り出して、彼女の患部を治療する

 

「ちょっと、本当に大丈夫だから。」

 

ジタバタと暴れ、振りほどこうとするが離さない。猫のようだ。

 

「いいから、落ち着いてください。すぐに済みます。」

 

少し強い口調で制すると観念したのか大人しくなった。消毒液で消毒して絆創膏を貼る。とりあえずの応急処置だ。消毒液が傷口にしみたのか、少し顔を歪めていた。

 

その顔をよく見ると、今日教室に来ていた中国の代表候補生鳳 鈴音だと気づいた。沈んだ表情は朝とはまるで違ったので、雰囲気でわからなかった。

 

「はい、終わりました。もう大丈夫ですよ」

「……ありがとう」

「少し落ち着きました?何か飲み物でも?」

「いや、いいの。そこまで気にしないで」

 

首を横に振り、笑顔を作って答える。この笑顔にデジャブのような感覚を覚えた。いつ見たか、と一瞬思考して思い出した。少し前の弾と同じだ。相手に気遣わされたくない時、無理にでも笑顔を作り強がるのと同じなのだ。よく見ると、彼女は拳をキュッと握りしめ、震えている。

 

「何があったんです?そんなに辛そうにして」

 

そんな姿を見たせいか、彼女の心中に踏み込んでしまった。

普段の私ならこんな事をしなかったかもしれない

当然、鳳 鈴音はすぐには答えなかった。見ず知らずの私が事情を聞き出したのに驚いてるのだろう。目を大きく開けて、口をポカンと開けている。

 

しばらく沈黙が続いて、自分が何てことを言ったんだ、とハッと気づいた。

 

「……すいません、不躾な質問でした」

 

謝罪をして、その場を離れようとした。しかし服の裾を引っ張られて、離れられなかった。

 

「いや……いいの!いいのよ……どうせなら話したほうが楽だわ」

 

返答は予想を裏切り、OKだった。

彼女はゆっくりだが、話し始めた。

 

「アタシね、一夏と弾と中学一緒だったのよ。でも両親が離婚しちゃってね。中国に戻ることになったんだ。でも、その前に一夏に言ったのよ『料理が上達したら毎日あたしの酢豚を食べてくれる?』って」

「ちょっと遠回りですが告白したってことですか?」

 

ストレートな言い方だったためか、顔を赤らめたが、誤魔化すように顔をそっぽに向ける。そうよ、と短く肯定した。

 

「でも、アイツ、全然気づいてくれなかったみたいでさ。なんか一人はしゃいでたのがバカみたいでね……アイツはずっとアタシの事を思ってくれてたって一人思い込んじゃってさ。笑わないの?」

「そんな顔をしたあなたを笑うなんてできませんよ」

 

明るい声を必死に喉から出して、本当は叫んで、喚いて、泣きたいのに目の前に人がいるから強がる。そんな彼女の姿に知らず知らずに自分と少し前の弾に重ねていたかもしれない。かつての自分を。壊れきった町の片隅で大人たちの前で人形遊びをして見せていた煤だらけの自分を。負けてしまった悔しみを隠そうとした弾を

 

「泣きたいなら泣くべくです。ここには、あなたを笑う人はいませんよ」

 

自分でもガラでもないことを、と思う。それでも私は彼女の手を取り、自分なりに言葉を並べ彼女をの力になろうと思った。ただのお節介にすぎないと思いつつも、私は彼女を放っておくことができなかった。

 

限界だったのか、鈴は大粒の涙を流し嗚咽の声をもらした。永遠ではなかった恋を悟って悲しむ、そんな顔をした彼女は直視できるものでなかった。

 

 

 

 

しばらく経って、泣き止んだ鈴はスッキリしたせいか、涙で腫れて顔も赤いが、さっきよりは元気を取り戻したようだ。

 

「ごめんね、みっともなく泣いちゃったりして……ところで名前は……?」

「堂上茜です。アカネって呼んでください。気にしなくて結構ですよ。恋に泣くのは乙女の特権ですから」

 

それを聞いた鈴は目を丸くし、少し吹き出した。

 

「乙女ねえ、意外とメルヘンなのね、アンタ。」

 

言われて赤面してしまう。考えてみると少し恥ずかしい。

 

「でも、なんか言ったら少しスッキリしたわ……ありがと」

 

鈴は立ち上がって、バイバイと手を振り部屋を出ようとドアまで進んだ。

しかし、私には彼女をそのまま行かせることができなかった。

また、さっきの様に無理をしているのが見え見えだった。

 

「織班君の事諦めるんですか?」

 

彼女は立ち止まり、キッとした表情で振り返り、彼女はハッキリと強く言い放った。

 

「まだ、諦めたくないわよ!……でも」

 

しかし、トーンダウンしてしまう。彼女の気持ちはわからないでもない。

確かに彼女にとって、もう一度同じセリフを言うか、直接告白するかの選択は辛いものがある。

 

私が通りかかった際に大声で怒鳴っていたことから、激しい口論をした事が伺える。こちら呼んでも来ない可能性が高い。だが策がないわけでもない。

 

「策ならあります。勝負の形で彼を呼び出せばいいんです。」

「勝負って、アタシはクラス代表じゃないし、なれない可能性が高いのよ」

 

鈴は弱気になっているようで、朝の様子や弾の話とは全く違う姿を見せる。彼女はヴィンセントと代表を争っても勝てないと思ってるのだ。その考えは大体正しい。確かにヴィンセントは舌戦なら最強クラスだろう、言葉での対決ではそこいらの学生ではまず勝てない。だがISでの勝負なら可能性はあるかもしれない。

 

私は彼女を助けるため、あの言葉を彼女に教える事にした。あの男をキレさせる魔法の呪文を

 

「鈴さん、これから言う事をよく聞いてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

朝のHR。今日もいい天気だと思う。窓からさす陽光はまぶしく、僕の勝利を前もって称えているように思えた。今日のHR中にクラス代表を変更するか否かを決めることになっているが、特に問題視はしていない。口先の勝負なら誰にだって負けない自信がある。楽してズルして頂く。これが賢いビジネスというものだ。クラスメイト達が席に着き、担任が連絡事項を述べ、本題に入った。

 

すると、鳳 鈴音は席から立ち上がって、啖呵を切りだした。

 

「クラス代表のことだけど、わかりやすくアタシとヴィンセントで勝負ってことはどう?」

 

腕を組み、威風堂々と勝負を僕に申し込む。その提案にクラスメイト達も悪い反応はしないかった。しかし、そんなことは想定内だ。残念だがそうはさせない。そんな面倒な事は断じてしたくない。

 

「確かにわかりやすいけど、それじゃあ」

 

これで勝利を確信したも同然だ。会話の主導権さえ握ればこっちの物。安い挑発なり、なんなりしようが

 

「何よ?怖いの?Rの坊ちゃん?」

 

その英単語と独特のイントネーションを聞いたとき、思考が完全にストップし、沸々と湧き上がってくる感情に流されていく。この女は今何と言ったか?Rの坊ちゃんと言ったか?

 

その昔、飛び級で大学に行った時、何度もこの嘲笑めいたイントネーションで何度もからかわれた。「Rの坊ちゃん」親の七光りや世間知らずの坊ちゃん、Rインダストリーの坊や、お荷物などという意味を混ぜた単語を

この場で聞いた僕は今まで考えたプランを投げ捨てた。

 

この女がどうして、そのフレーズを知っているかはこの際関係ない。

 

「どうしたのよ?なんか言いなさいよ。R・坊・ちゃ・ん?」

 

ニタリと笑ってさらに僕を煽る。ここで自分に制御が効かなくなったのを自覚したが、もうそんな事どうでもよかった。

 

「わかった。受けよう。皆それでいいかい?」

 

クラスメイトは賛同した。誰もが、僕達の雰囲気にたじろいだので、反対する者はいなかった、事実一番手っ取り早い方法だから、という理由もあった。

 

「誰から聞いたかは大体想像つくけど、これだけは言っておく。誰にもその名は呼ばせない。言ったからにはそれ相応の報復を覚悟してもらう」

「上等」

「鳳 鈴音、君は掛け値なしの核地雷を踏んだんだ。僕が口先だけと思うなら間違いだ。存分に叩きのめしてやる」

 

たがいに見せるのは不敵な笑み。これはプライドと利益を掛けた決闘、否 私闘だ。

 

この時期の異例の対戦。代表戦まで時間はそうないため、決戦は明日に決まった。

 

かくして、米中対決が始まった。

 

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