視界を覆い尽くす曳光弾の光、たった一機に過剰な量の弾薬が一秒刻みで発射されてアタシの命を削り取ろうとする。機関砲の大口径弾がライフリングによって回転しながら私に向かって突き進んでくるのを私は目で捉え、反射と思考でそれを回避すると脂と煤で汚れた髪の毛が掠めて散った。もとより女として自分を意識していないせいで髪の毛などどうでも良かったはずだが、今の私はそんな些細な事すら血液を沸騰させる理由になりえた。
悪鬼どもめ、外道に堕ちた畜生共が。お前たちの行動一つ一つが癇に障る。前方の四機が軽機関銃を取り出しフルオートの制圧射撃を開始する。ISモドキたちは猛進するしかない私をそんな物で止める気なのか?――いや違う。
「堕ちろよ ジエーカン!」
わざと外部スピーカーで声を出してアタシの上方から三機が飛びかかって来た。手には例のキラキラ光るキレイなナイフが握られているだろう。アタシは気づいてないフリをして、その時を待った。一秒か半秒か、それともミリセコンド単位の時間だろうか。呼吸一つすらしないまま口元を歪めて待ち続ける。お前たちの行動は見えている。今のアタシには何もかもが見えるのだ。頭の裏側にだろうと目玉が回るのだ。
――来い、来い、来い……来た!
急制止、刀を肩の上まで持っていき三機の斬撃を一点で受け止め、敵機の勢いを利用して弾き飛ばす。刀から手を離し、背中で滑らせて左手に持ち替えて一機に組み付き刃を首もとに添え、ついでに腰にマウントされていた例の獲物をかすめ取ってやった。
「離せよ、先公!」
肉盾を得たアタシは真正面の機関銃持ち共に瞬時加速をかける。敵の一団は味方に気を使ったのか指切り射撃でアタシの頭部を狙ってくる。だが、おかげで幕は薄くなった。中央の一機と正面衝突し、激しい衝撃が身体を揺らし骨を軋ませる。だが、痛みはない。焦げた左手がまだ動くのだ、200本はある骨の一本や二本が何だと言うのだ。刀の柄でこめかみをぶん殴り、軽機を拝借して蹴り飛ばす。
「シね!」
敵の一団を抜けて、腰だめで軽機を撃ち続ける。目の前で舞うように飛び交うISモドキどもは突撃銃や短機関銃で応戦し、時どき狙いすましたか一撃が身体を掠めていき、ただでさえ少なくなった装甲がより剥がされていく。
「シネ!」
「死ねよ!」
「おっちね!」
語彙に乏しい口撃の後に銃撃がやってくる。誰もかれもが笑っているおかしな戦場では言葉より数億の弾丸が雄弁に語るのだ。本当の意味での人の優劣、獣同士の優劣が正義だと。アタシは自分が何をしているのか、理解しているだろうか?
FCSは今やデタラメで4m先の敵機すらまともに照準を合わせることすらできない、焦げた左半身に僅かなエネルギー、刃こぼれした刀しかないアタシに何が出来ると言うのか、と頭の裏側で誰かがガンガンとうるさい。
こんな犠牲は必要はない、戻れ、と大声でアタシの脳髄を揺らすのだ。
――うるさい、アタシには……アタシ達にはコレが必要だ、それに何が無理だと言うのだ?
今のアタシには全てが見える目があり、キレにキレる頭にあの金髪の女をぶっ殺す獲物がもう三本もあるのだ。
この機会を逃してはならない。ここでアタシが敵を引きつけ、山田先生たちが護れば、あの子達はこの戦場をきっと生き残ることが出来る。だが、あの女一人いるだけで彼らの未来は黒く塗り潰されてしまう。大人のアタシがすることはそれだけで決まる。あの女の喉を掻っ切ってあの子たちではなく奴らの夢も希望も真っ黒にしてやることだ。
激しく薬きょうをはじき出す軽機関銃の銃身が真っ赤になって煙を吹き、スラスターや機体を制御するためのバランサーすら調子を崩しだす。右スラスターが燃焼不良を起こして一瞬動きが止まったのがいけなかったのか、突き進むアタシの左手にワイヤーが絡みついた。
「何?!」
「沈んじゃいな!」
ワイヤーブレードを背部にマウントされた一機が二丁の短機関銃を取り出してトリガーを引き出した。火を噴いた短機関銃が拳銃弾を次々と吐き出してアタシの打鉄のあちこちを穿っていく。耳につんざくアラート音と装甲の悲鳴の嵐に頭の血管を切らした。
「やかましい!」
アタシはヒートブレードを逆手に持ち軽機関銃のマガジンを焼き切った。
「嘘でしょ!?」
膨大な熱によって内部の弾薬に引火し四方八方に弾丸と銃の機関部を散弾銃のように飛ばした。ワイヤーは切れたが、機体はさらにダメージを追っていく。破片の一部が脇腹に食い込み、赤いシミを作ったときはアタシは三途の川の向う側を見た気すらしたがすぐに痛みは消え、頭は苦痛をついに快楽へと変えた。
――見える!
正面、七機。間隔を取り合って互いをカバーできるように配置されているのがわかる。そして、その先に黄金の機体が王者のように佇んでいる。この七人のナイトを突破すればいい、と理解した時には体が動いていた。瞬時加速を右と左のスラスターで別々に行い、直線的に左右へのランダム回避を行う。強烈なGが骨と体を軋ませて、気を抜けば“のしいか”にでもなりそうなのを堪え、アタシは吠えた。今のアタシは炸薬だ。火をつけられた炸薬そのものだ。
一機目――短いショートカービンが電動ノコギリのような音を出すのを体を捻ることで吐き出された砲弾を避けて刀を握った拳で腹部を打ちつけ、柄頭で顎をかち割り高速の回転蹴りをくらわして二機目にぶつける。二機が派手に衝突し合った時にアタシはブレードのエネルギーをケチって峰で二機とも大地へと叩き落とす。校庭にクレーターが出来たのを確認することなく、刀をぶち当てた反動を利用し三機目へと向かう。三機目は同じようなカービンライフルに銃剣をつけ、左手にはナイフのCQCの構えを取り発砲してくる。
「サムライめ!」
イメージは固まっていた。5mの急降下でハイダーの刺突を避け、同時に左斜めに急上昇し、三機目の上方を取る。三機目は隙の無い動きですぐさまアタシに狙いすまそうとするが、それこそが狙いだ。アタシの上、もっと上には太陽がある。
「しまった!」
太陽の光に一瞬目をくらまされた隙を逃さず、宙がえりと共に刀剣を振り下ろし後方へと弾き飛ばすように刀身の向きにまで気を使い前方への加速に利用した。弾幕の中を駆けて四機目、五機目を蹴り飛ばし足台代わりに更に加速をかけ打鉄にカタログスペックを遥かに超えた速さを与えた。今よなってはアタシの咆哮は機体の過ぎた後に聞こえることだろう。音も常識も置き去りにした一匹のアタシは最後の二機を超えるのみとなった。二機はマークスマンライフルを持ち、福音並みになったこの打鉄を正確に射撃してくる。
「来いよ! ニンジャめ!」
「八艘跳びなんざ 味なマネを!」
嬉々とした声の後に顔のすぐそばを75mm弾が飛んでいった。左にステップ回避後にバレルロールで胴体の装甲を削るのみに被害を抑え込むが、体の方がおかしなことに奇妙な熱を持ち、思わず口から赤い液体を吐き出す。体がもう持たない――度重なる戦闘と薬物でもうボロボロなのだろう、だが敢えて言おう。
「それがどうしたァ!」
未来など捨てたも同然。アタシは自分の未来を彼女たちの未来の対価にしても、と覚悟して来たのだ。たかが弾丸の数千発、熱線やエネルギー弾や体の不調が何だと言うのだ。意識あるなら戦える――そう、誰かの未来の為に戦う、それが防人であり教師だ!
「貰った!」
ISモドキがDMR9の引き金を絞り、一発の弾丸が正面から飛来して来た。正面! この頭蓋を一片の狂いもなく狙ったワンショットはアタシの目は確実にとらえていた。距離にして500m。一秒もかからない間合いで回避は絶望的だ。この光景は人が最後に見る死の瞬間か? いや、違う! アタシは全身全霊を込めて叫び、意志を込めて刀を振りぬいた。切っ先に弾頭が触れた、その時75mm弾は二つに裂け音速のままアタシの体の横を飛んでいった。“斬鉄”コミックの真似事をアタシはやってのけたのだ。
「馬鹿な!?」
射手の悲鳴にも近い声が聞こえた時にはアタシはその二機をすれ違いざまの回転斬りで吹き飛ばしていた。二機の黒い機体は視界から消えて行った。これで当面の邪魔者は消えた。こうなることも奴の愉しみなのだろうことは分かっているが、それでもアタシは目の前にたどり着いたという達成感に一瞬だけ酔った。ザマを見ろ、テロリスト共が。たった一匹の女にいいようにされてどんな気分だ?
だが、そんな事を考える前にすべきことを思い出した。暗くなりそうな意識の中、最終目標を見定める。豪奢な金髪が風に揺れ、神々しさを持ったオーラを放つ女がそこにいる。ISを纏った姿は憎らしい程美しい。象牙細工のような白さを持った手が伸びてアタシに来い、と指を動かし挑発する。焦りは見えず、ただ彼女の顔に微笑みが見えた時アタシは目を鋭くして、その名を叫んだ。
「スコ―ルゥゥ!」
体躯を少し捻ることで刀身を体の陰に隠し、連続瞬時加速で全ての勢いを合わせた居合抜きを放つ。赤熱したブレードが空気との摩擦熱で炎を纏い出し、熱のこもった一撃を金髪に向けて振り下ろす。
「よく来てくれたわ」
刀と刀が触れ合った。衝撃で空気が揺れ、強化された合金の刃がぶつかった時、凛として、それでいて豪快な金属の音色が戦場で木霊し、ヒートブレードは遂に強度限界を超えて刀身が半分の長さになってしまう。
重力に従って堕ちる刀。左目でソレを追い、右目で殺すべき怨敵を見れば、彼女が小さく舌なめずりをしていた――ここからどうするか、ソレが知りたいのか? アタシはその期待に応えるべく、まだヒート化した余熱が残るブレードを左手で掴み、喉元狙って振り、続けざまに残った刀を振るう。連撃、連撃、繰り返し続ける攻撃の波をスコールは刀とガントレットを使って受け流し、巧みな機体捌きで僅かな距離をあけることで回避している。
「足元は?」
スコールのISの流麗な脚部を視界に端に捕え右腕でガードする。腕部装甲が吹き飛んで中のISスーツで覆われた腕がさらけ出される。パワーアシストが辛うじて生きてくれているおかげで剣だけは握れたので、逆手に持ち替えて振るうが、掠りもしない。
あと数センチもない先の彼女が捉えられない――なら、近づくのみだ。
一歩踏み込み逆手に持ち変えた刀で頭部めがけて大きく突く。スコールが頭を動かし回避し肩の装甲版の上で激しく火花が散る。お互い密着し合うことでスコ―ルの刀剣の間合いの内に入り込み、振るうことすらできないインファイトに持ち込むが、彼女の表情は微塵も焦りを見せない。
彼女がアタシの腹に指を突き立て、アタシは奴の脇腹目がけて折れた刀を刺そうとするがスコールは刀剣の柄でソレを抑えた。
「燃えなさい」
「されるかァ!」
両手の獲物から手を離し体躯を回転させ、奴の上へと跳び上がり、熱線が大気を焦がした。
だが、余波は躱しきれずに左脚部のスラスターがオーバーヒートで熱を大量発生して左足がオーブンで熱されるかのような感覚にさらされた。鋭い痛みにアタシは吠え、最後の獲物を手に取りスコールに飛びかかった。二本の対IS用の特殊ナイフ。打鉄の最後のエネルギーを使用し青く発光させた必殺の武器を突き立てようと急降下する。奴のISがサソリの尾を伸ばしてきたのをオーバーヒートを起こしたスラスターを意図的に暴発させて直撃を防いだ。
「取ったぞ!」
金色の尾が触れて打鉄の機体を削った。スパークが走りほとんど生身になったアタシはこの一撃に全てをかけた。黒く塗りつぶされてたまるものか、此処で堕とす、ぶっ殺す。これが最後の攻撃だ。恐らく奴を殺してもアタシは生き残ることはない。機体は最早PICも無ければ、スラスターのためのエネルギーすら残っていない。
アタシは死ぬ。彼女らの未来の代わりに。だが、食らいつけば勝つ!
こうして死ぬことを選択したと言うのに、頭の裏側からまた声が聞こえる。それもさっきより大きな声で泣きながら叫んでいる。これが何なのかアタシには不思議と分からなかった。生物としての本能と言う奴なのか、決して消えない恐怖なのかも判別がつかない。
「こいつで……終わりだ!」
だが、薬物でもやのかかっていた頭にある一輪の花が脳裏に浮かんだ時、アタシはそれが何なのか理解し返答した。
『戻って来てよ! 大場先生!』
一人の懸命な少女の叫びだと、静寐の声だと分かった時、アタシは短いナイフに一層力を込めた。全ては彼女達のために、どこかで戦い続けていた子供たちに未来は明るいと教えるために。アタシはスコールに一撃を加えた。
視界を赤と青の光が覆った。体はフワリと浮かび上がって、音もない世界に唐突に引き込まれた。手ごたえが感じられず、奴に一太刀浴びせたかもわからない。どうなった、アタシは、奴はどうなったのだ。
アタシは一度目をつむり、もう一度開けた。
そして自分が熱線に貫かれていたことを知った。
「いい叫びだったわ、大場つかさ。貴女もまた……良き兵士だったわ」
機体から力が抜けていくのが分かった。パワーを失った機体は重力に抗うこともできず、ただ、ただ堕ちていくのみ。背中から胸にかけて貫かれたことで愛機はついに力尽きたことを知り、アタシは落ちていく中、スコールの顔を見た。美しく切なかった。アタシに対し、称賛を送ると共に憐憫の意を抱いているようだった。
だが、アタシは彼女に対する疑問よりも、通信機のレシーバーから聞こえる少女たちの悲鳴にも近い声の方が重要だった。その彼女たちにアタシはたった一言帰した。
「ごめんな……最後までお前たちを……見届けてやれなくて」
アタシは堕ちていく。一滴の涙をこぼしながら。
空の上から私は堕ちていく彼女を見ていた。数秒もしないうちに地表に激突し、派手な音が学園中に木霊した。戦場の真ん中で叫び続けた彼女はまさに獅子奮迅の如きだった。愛機ゴールデンドーンの胸部装甲を見ればそこには{グラディウス}零落白夜の劣化コピー品が突き立てられていた。青い粒子が彼女の残り香のように弱々しく発光しており、絶対防御を切り裂こうとエネルギーを放出し続けている。
刃が短くなければ相打ちになりえたかもしれないが、そうはならなかった。肉を切らせて骨を切る、とよく言ったものだが、愛機には悪いことをした。だが、そうでなければ、彼女を私の手で倒すことは難しかったろう。
技量、精神ともに最高ともいえるパフォーマンスを発揮した大場つかさ。これ程の人材が自衛隊に眠っていたとは驚かされた。自衛官として、だけではなく教師としての在り方、そして想いを武器にした彼女はまさに亡国の理想形に近い者だ。
だが、それが悲しくもある。
『スコ―ル、全戦闘空域から敵機は離脱。状況終了です』
「ご苦労様。 被害は?」
亡国員が一人 ベビー・ネルソンが報告を上げる。
「銀細工が48機撃墜。やはり元の搭乗者の動きをコピーするだけですので弱い個体が多いかと、それからメンバー{ラクシュミー}が死亡です」
「これで2人目、かしら?」
「はい、そうなります」
また一人この世から解放されたことを知り、しばしの時間の間、祈りを捧げた。祈りや安らかな眠りは戦って死んだ戦士にこそふさわしい。
「あとで全員に報告を……私は少し用があるから下降するわ」
「了解……お気をつけて」
ネルソンが下がり、私はゴールデンドーンを操って大地へと降り立つ。PICの恩恵もあって垂直に下降することが出来るのはヘリでも中々出来るころではないだろう。この優雅なまでの機動性はISがなせる業と言える。ISは兵器ではない、と“兎さん“なら声高に主張するが、私にとっての認識は違う。ISこそ兵士に必要な兵器だ。
これまで兵士は自動小銃と数個のグレネードのみが武器であった。彼ら一人一人のパワーは戦場の中では微弱で、多くの兵士達がその微弱さゆえに集団化せざるを得ず、その為のシステムを国家や国民に委ねざるを得なかった。戦争は最大の消費の場だ。兵士たちは弾薬、食料、水の一滴にいたるまで補給と言う名の国家からの鎖が無ければ機能しない。
これが何を意味するか。それは国家、国民の気紛れで容易く兵士たちは戦う場を失い、そこで芽生えた全ての感情や成果を無に帰されるのだ。大国間の争いで、どちらかの勝利ないし、敗北で終わるのなら幸せな方だ。なぜなら双方国の為に戦ったと言う自負があり、誇りも残る。憎しみを忘れた後で両国の兵士達が抱き合って、互いに敬意を示すこともできた。
だが、古今の戦争ではそれがない。終わらない不正規戦の連続に兵士たちは擦り切れていってしまい、膨れ上がった戦費に不満を抱く国民に政治家たちはスケープゴートのように軍を、兵士を非難するようになる。
かつて彼らを支持した者ですら非難し罵る。誰もかれもが彼らの誇りを奪い、好き勝手に歴史を作り変えていく。勝利が奪われた戦場では政治家の皮を被った獣たちが自らの栄光と口当たりの良い平和の為に勇者たちを食いつぶすのだ。
だが、今のISはそれらの鎖を無視することが出来る。いずれ、新しいシステムがでるだろうが、今の私達は極めて自由だ。ISを否定はしない、それらはありとあらゆる軍事的常識を覆してくれる。あらゆる物資を積み込める拡張領域、自分の意志で縦横無尽に駆けれるPIC、操縦者の意志に反応することすらも含めて。
現に、あの自衛官はたった一機で戦場を支配したのだ。たった一人の意志が誰からの束縛も支援も受けずに奮戦することが出来た。ISは、イーグルやハスタティと同様に本人の意思を最も強く反映させる兵器と言える。それこそが歴史を偽らせない。兵士達が自らの意志を直接的に反映することで世界を変えるほどの闘争を起こせるのだから。偽ることが出来ない、ありのままの巨大な事実は獣たちを殺し、私達を陰から光の下へと導くことだろう。
私は校庭へと降りた。美しかった庭園は見るも無残な姿をさらけ出していた。機関砲で引きちぎられた大木に硝煙香る炎で焼かれた花に草木。校舎のコンクリート片が転がり、ちらほらと白い制服を来た少女たちが骸となって転がっている。
大地には赤い血が沁みこみ、その上を煤で汚れた様々な大きさの空薬きょうが覆い尽くしている。その荒涼とした場所を一人歩いていくと、目当ての彼女がいた。大きな後者の破片を背に力なく座り込んでいる。いや、既に息絶えていた。大場つかさは既に死んでいた。
前進を覆ったISスーツは胸から下にかけて真っ赤に染まり、左腕は焦げて黒くなっている。傍らには打鉄の残骸が残っていて、大場の死にざまから最後の最後で絶対防御で彼女を衝撃から守ったのだと推測できた。そして、彼女の亡骸の右手には89式小銃が握られていることから、最期まで戦う気でいたのだろう。
「見事だったわ。貴方の戦い」
称賛の言葉を彼女の亡骸に投げかけた。彼女の頬に手をやり、その顔を見ると頬に涙の後が残っていた。彼女程の者が一体何に涙を流していたのか、私は疑問を抱いたが直ぐにその回答は見つけることが出来た。答えは彼女のすぐそばに落ちていた打鉄の部品にあった。
そのパーツはレコーダーだった。これまでの戦闘の記録を保存した、いわばISの記憶装置であった。その記録を再生すると、音声が流れて来た。
『大場先生! 瞬時加速ってどういうイメージで行うんですか?』
まだ幼さを感じる少女の声が流れ出し、大場つかさの優しい声が続いた。
『これと言って特にないが……強いて言えば徒競走のスタートのイメージだな。ピストルの音と一緒にドン!ってな』
『意外と子供なイメージですね』
『そう言うなよ』
『先生、私達にも!』
様々な少女たちの声が聞こえ出し、その中には元代表候補生のイヴァナ・ハートや山田真耶の声も現れては消え、次々と他愛のない会話や指導している大場つかさの凛々しくも柔らかい声が聞こえて来た。
IS打鉄は基本訓練機でデータは定期的に初期化されるはずだが、度重なる戦闘や不祥事でその暇もなかったのだろう、打鉄は多数の訓練機のデータをも共有していたらしく、それが蓄積していき大場の愛機にアルバムとして残っていたのだった。
声と共に空間に様々な視覚情報が投射されだし、15歳ほどの女の子と空をかけ、時に命をかけた日々がみずみずしい青春の記憶のように鮮明に映し出された。泣いて笑って、様々な感情を共有し、生きて来た大場の記憶がそこには存在していた。
『アタシはどうしようもない人間だ。お前たちを守ると言いつつも何もできなかった。教師ごっこに自衛隊ごっこに興じていた子供にすぎん。そんなアタシに……』
すると、つい最近の記録で大場自身の姿が映った。その時の彼女の姿は荒れており、皺だらけのスーツにアルコールでクマの酷い顔をしていた。その彼女にこの時の搭乗者であるシヅネ タカツキ という少女が言った。
『そんなことない!』
強い否定の後、彼女は大場へある言葉を放った。
『何をされたのか。何を言われたのも知りません! でも、今ここにいる皆は……」』
『貴女の作った結果! そこに嘘なんてない!』
その言葉に私は心を震わせた。そして、大場つかさが何を賭して、何のためにこの世界の為に戦ったのかを理解した。彼女は私達のように歴史に残るよりも、この少女たちの記憶に残り、彼女達の未来を願ったから戦ったのだと。愛情、その為に彼女は想いを胸に刀を振っていたのだろう。
だが、やはり悲しい。恐らく、この世界でソレを理解できるのは戦ったことのある者とこの記録に映る彼女達だけだろう。それを理解できない者達は足りない想像力を働かせて口々に彼女の失態や結果論のみの非難を口にし、大勢がソレに頷くことだろう。戦場での判断は極限状態下での物だと言う事を理解できない凡百の自称“平和好き”達は暴力的な論理を持って彼女を非難し、平和のありがたみと自分たちの正しさに酔うだけだ。
――そうはさせてはならない、彼女もまた記録されるべき一人なのだから。
私は彼女の開いた目を閉じて、通信を入れた。
「ネルソン」
「はい、スコール」
「記録媒体を持ってきて、彼女の生き様を残しなさい。それから、日本の国旗を探してくれないかしら?」
「了解……彼女もまた、兵士でしたか?」
「ええ」
乾いた風に長い髪を吹かせて、地平線の向うを見やる。あの向うへと旅立ってしまった兵士たちの列に彼女も連ねるべきだろう。大場つかさは勝手なマネを、と憤慨するだろうが。コレが私たちなりの敬意だ。彼女は払うに値する人物だ。
彼女を消させてはならない。獣たちに汚させてはならない。
「そして、教師だったのよ。彼女は……」
彼女のような人を後世にまで残す。それが彼女のような大勢の魂への慰みであり、祈りだと信じて。
これにて学園脱出?編はひとまず終わりです。
これから後日談をいくつかやって、新たな、というより最終ステージへと繋げます。
色々と粗の多い作品ですが、楽しんでもらえると嬉しいです。