IS to family   作:ハナのTV

132 / 137
上手い事できてることを祈るばかりです。



Rインダストリー

 

汗と油、火薬とグリースの匂いが充満し、カーゴに備え付けられた粗末なシートに体を沈める。しばらく眠っていたらしく、目を開けると機内は最小限の電灯と月明かりだけで薄暗かった。KC-Xと呼ばれた本来は空中給油のための機体をイーグルのコアを利用したシールド発生装置を装備した間に合わせの機体は疲れ切った俺達には赤子のための揺り籠のように心地が良かった。

 

揺り籠の中にいる俺は何となく窓の外を見てみると、赤と緑のナビゲーションライトを光らせている人型の飛行物体を見つけることが出来た。バルドイーグルⅡ――俺達を救い出したRインダストリー製のISモドキが護衛していて、まだ非常事態であることを再認識せざるを得なかいことに心に陰をおとした。

 

周りを見渡せばほとんどが眠っていた。血染めの包帯をそこかしこに巻いた少年、少女が毛布にくるまって寝息を立てていた。間に合わせの改造でいささか狭いカーゴの中で皆シンと静まり返っている中、ユーリとヴィンセントの姿が見えないので俺は起き上がろうと体を起こそうとした。すると俺の手から何かがすり抜けた。何かと思うとアカネの手だった。白くて長い指を持つ彼女の手が俺の手を握ってくれていたことに俺は気づいた。アカネは荷物に背中を預け、m14ライフルをしっかりと抱きながら俺の傍で眠っていた。

 

「器用だな」

 

敢えてそのように口にした。ライフルを握ってはいるが俺の傍に寄り添ってくれた彼女に感謝した。オイルで汚れた顔をそっと触れた。手のひらに伝わる温もり、戦闘兵器のパイロットとしての彼女は今は年相応の女の子で、凛々しい顔は安らかな表情を浮かべていた。だがよく見ると涙の跡があった。俺はその涙の訳を俺は知っていた。たった一人の大人の死、大場先生の死が理由だ。健気に笑いタバコを吹かしていた頼れる先生が逝ってしまったのだ――俺達やレジスタンス、大勢の子供をかばって。

 

彼女はまだ死ぬような歳じゃなかったはずだ。あと二十年、三十年は生きていられたはずだ。それを死なせたのは俺達の力の無さか、それとも用意周到だった亡国か、もしくは織斑千冬か。一体どれが理由なのか、今の俺には分からない。もしかしたら俺達ピースがバルドイーグルを世に送り出したことが原因なのだろうか。少なくとも分かっているのは学園の日々にさよならを告げ、自分たちの心にぽっかり空いた穴を涙で埋めることしかできないと言うことだけだ。

 

「起きたの?」

 

後ろから鈴の声がしたので振り返った。彼女は簪が眠りシートの傍でイーグル乗りのロールバッグを枕にしていた。目の下には酷いクマが出来ていて普段の彼女からは考えられない不健康な顔だった。

 

「ああ、慣れない所じゃよく眠れないからな」

「そりゃ、そうよね。こんな軍用機で眠るなんて滅多にないものね」

 

皮肉に聞こえた。こんな体験をすること自体が異常だと彼女は言っているようだった。いや彼女は実のところ抗議しているのだ。何故こんな事になってしまったのか、と。鈴は頭の後ろで手を組みアーモンド形の瞳で天上を睨み付けて言った。

 

「たった数日前まで寮のベッドで寝ていて……毎日新品の真っ白いシーツの上で起きてアンタ達と話したり、食堂で一緒に食べたりしていたのに、気が付けば学校にテロリストよ?

中二の妄想なわけ? バカみたいと思わない?」

「……でも現実だ。その馬鹿の発想が起こったんだよ鈴」

「そんな事分かってるわよ」

 

鈴は俺の言葉にイラついた口調で返した。

 

「そんな事で死んだら世話無いわよ。そして大場先生は死んだ……死んだのよ。こんな事で死んでいい人じゃなかったはずなのに、さ」

 

鈴は虚空を睨んでいた。そこに明確な敵がいるかのように目を鋭くしていた。彼女には世界の仕組みそのものが敵なのかもしれない。彼女の今までの人生は劇的で容赦がなかったはずだ。中国というヴィンセント曰く{怪物}めいた国で僅か一年で代表候補生となり、平穏を求めた学園でも戦い続けた彼女はタフなハートの持ち主で自分の不幸よりもまず他人の理不尽を嘆いていた。

 

そしていつしか鈴の声は皮肉的なものから涙声へと変わっていった。周りの眠っている者に配慮してか、強がりのためか声を出来るだけ押し殺そうとしていた。涙を必死に拭って顔を赤くした。

 

「あの人まだ三十だって超えてないのよ? 生きてればさ、色んなことをもっと経験できたはずなのよ? それが……あんなに、あっさり……甲斐のない人生じゃない……」

 

そうだ、大場先生はもっと人生を謳歌することが出来た。いつしか自衛隊に戻れる日が来たかもしれないし、俺達のように誰かと恋をしたりすることだって出来たはずだ。子供の俺が言うのもなんだが、彼女だってまだ若かった。一生銃を握りしめるような人生ではなく、彼女にはそう言う道が、未来が無限に広がっていたはずだった。結論を言えば大場先生は未来を生きられなかった女になるのだろう。だが俺はその大場先生の人生を{甲斐のない人生}だと評価はしたくなかった。

 

大場先生は最期に俺達を守った。それは彼女の意志であったし、それを叶えたのも事実だ。だが、彼女の本当の望みはそんな事ではなかった事を考えると鈴の言葉には突き刺さるものがあった。

 

「たった三年でもいい、平和ならさ……皆で卒業章握りしめてさ、『卒業おめでとう。夢に向かって頑張れ』とか言いあえたはずなのよ。思い出とか将来とか教え子であるアタシ達と笑顔で語りあう……そう言うことがあの人の望みだったと思うのよ」

 

俺はその光景を想像した。桜の花びらが散る中で、卒業証書の入った筒を持って校門で皆と記念撮影をする。レジスタンスの女子達の何人かは泣いて、それに山田先生もつられて泣いていることだろう。素直ではないイヴァナ先生も隠れてきっと別れの寂しさに瞳を潤ませるだろう。その中で大場先生が教え子たちの頭を撫でて、励ます。

 

この半年間に起きた学園の騒動を遠い昔の記憶のようにしていたかもしれない。そういえばそんな事もあったな、と言える程度の物になったかもしれない。不幸な記憶は鮮烈なまでに残るが、幸せな記憶で埋めてやれないことはきっとないからだ。三年もあれば、きっと彼女たちは大切な思い出を胸いっぱいに抱いているに違いない。

 

だがその可能性は消えた。掴めたはずの幸せは手の届かない遠い彼方へと行ってしまった、大場先生の命は燃え尽きたのだ。最後まで俺達と共に戦場にいて、子供を護る、ということを貫き通して劣った性能の機体で戦って散った。あんな事さえなければと胸を痛めつつ、俺はない頭を絞って言葉を紡いだ。

 

「だけど、彼女は俺達を救ってくれた。甲斐のない人生だったと簡単に言うのは俺には出来ない。たとえ慰めにしかならなくても……」

 

暗い貨物庫の中で俺はすすり泣く女の子に言った。

 

「あの人の一瞬に抱かれた願いは叶ったって思いたい」

 

この時俺は自分の言葉に不満を抱いた。こんな言葉だけでは伝えきれない、と自分の発想の貧弱さを恨んだ。大場先生に対する複雑な思いのせいもあった。敬意を表しつつも哀れみや悲しみが混ざったこの思いが混ざり合って俺は自分の伝えたいことを全て語れていないように思えた。結局戦いの最中の想いにしか触れられていないのだから。

 

「分かっている。分かってるけど……」

「ああ、分かってるさ」

 

鈴は膝を抱えた。髪の毛が重力に従って垂れて、彼女の涙に濡れた顔を隠した。弱い所を見せたくない、と彼女の意志に応じているかのようだった。長い髪の毛がその時羨ましく思えた。俺にはそのような物はないし、夜の闇を味方にするには月明かりですら明るすぎた。俺は黙って耐えるしかない。しかし、それがどれ程辛いかたった今理解したところだった。

 

長く戦っていて人の死にも耐えられるようになったつもりだった。だが、俺が耐えてきたのはいつも“よく知らない誰か”だった。何度も同じ場所で戦い、時に話し笑ったこともあった人の死はただ耐えるには重すぎた。さらに此処にあの先生が、俺達が護ろうとした学園という楽園の喪失も加わっているのだ。

 

俺は涙を流したかった。だけど、此処には涙を流している女の子がいて隣には泣いていた女の子もいたのだ。その中で俺まで涙を見せていいのだろうか――いやよくはない。彼女たちに弱い姿を見せまい、と俺が堪えようと努めた。と、後ろから重い扉が開く音がした。振り返ると、さっきまでいなかった二人がいた。

 

「やあ……ゆっくり眠れたかい?」

 

マシンオイルで汚れたプラチナブロンドの髪をいつものオールバックに纏めながらヴィンセントが口を開いた。力のこもらない疲れ切った口調の軽口に俺は頭を横に振って答えた。

ヴィンセントは「そうだよな」と投げやりに言って鈴の隣に座り込んだ。ユーリは壁に寄り掛かり手にAKs74Uをコールしていた。

 

「そんなものを持ってないで……簪の隣でも行ったらどうだ?」

「よく眠っている」

 

ヴィンセントの問いにユーリは簡潔に言った。

 

「今は……ゆっくりと眠っていてほしい。俺の体はデカくて邪魔になる……それに彼女を護るのに必要だ」

「ハッ、5.45mmじゃ、シャルロットくらいにしか通用しないぞ」

「ないよりはいい」

 

ユーリは静かにチャージングハンドルを引いて戻した。ガンオイルで表面を磨かれたAKの黒染めされたボディが暗く光った。そのユーリの行動を見て俺はヴィンセントに先ほどの話について訊いた。

 

「何の話だ? シャルロットがどうかしたのか?」

「あの女……亡国のIS乗りとお友達でね……ユーリの親父が来るまで頻繁にお茶してたらしくてね。気になって仕方がないのさ。裏切り者の弾は当たらないって言うけど――」

「やめなさい」

 

ヴィンセントが話しているのを鈴が遮った。ふとシャルロットの方を見ると一瞬肩をビクリと震わせていた。ヴィンセントはバツの悪そうな顔をして鈴の涙ながらの抗議に謝罪しつつ、ため息をひとつ吐いた。

 

「分かってるさ。彼女がそうでないって。でも、今の僕はあらゆることが疑わしくて仕方ないんだ……ごめんな、鈴」

 

ヴィンセントは自分の分の毛布を鈴の肩に掛けた。鈴は毛布を握って凍える心を温めようとしている中、俺はヴィンセントが頬杖をついて、物憂げな表情を浮かべているのを視界の端に捉えた。奴は何かを考え込んでいる――半年間共に歩んで来た戦友であり、親友の表情に俺は何かを感じ取っていた。

 

「また一人で何か考えているでしょ?」

 

それに鈴も気づいたらしく、涙を手で拭いて訊いた。勘の強い彼女らしく流石だった。鈴はヴィンセントの青い瞳を覗き込んで、彼の意図を見抜いた。

 

「言いなさいよ。アンタの事だから、きっと何か重要な事なんでしょ? ここで隠してそんな顔をするくらいなら言いなさいよ」

「……僕の顔はそんな風に見えたかい?」

 

ヴィンセントのささやかな抵抗に鈴は静かに答える。

 

「ええ。アンタは追い詰められるとメッキが剥がれやすくなるもの。夏休みの時だってそうだったでしょ?」

「……ポーカーフェイスには自信があったんだけどね」

「向いてないのかもな」

 

俺がそう付け足すと、ユーリが小さく笑った。この沈んだ空気の中で初めての笑いだった。それにつられて俺達も疲れ切った笑顔を見せあった。沈んだままでいる事にすら疲れていたのかもしれない。ヴィンセントは勘の良い俺達に両手をあげて、その胸の内に隠している物を語りだした。

 

「……実はね、スコールの話を聞いてからある考えが浮かんだ。一体この騒動の根本はどこから始まっているのか、と」

「それは俺も一度は考えたが……一夏の親父のいた組織だろ? スコールの話を信じるならば、だが」

 

ヴィンセントに言われて俺は改めて考えた。この一連の事件の根元は何なのか、と。騒動の根本、それを知ろうとすれば過去へと遡っていくのは当然の流れだった。千冬の騒乱、俺達のイーグルの出現、IS学園、白騎士事件――たどった先にはISその物の誕生ということになる。つまり俺のIS適性の原因で出て来た一夏の親父がいた組織――スコールに千冬、スレートと属にテロリストに分類される、されていた者達の故郷だ。そこでISが生まれ、白騎士事件が起きた未来が今なのだ。全てはISに根差している。

 

「そうだ。全てはISが原因だ。あの数世代先のテクノロジーの塊が僕達を含めた全ての始まりだ……だけど僕は思ったんだ。どうやったら、あんな物を作れるのかってね」

「……篠ノ之束博士と一夏の父たちの頭脳だけでは無理ということか?」

「そうだ」

 

ユーリの問いにヴィンセントは大きく頷いた。それは言ってしまえばごく単純な理屈だった。

 

「テクノロジーの開発は容易じゃない。過去のマンハッタン計画では当時の米ドルで20億近くの莫大な金を必要とした。核開発ですらこうなんだ。それに資源に人材も最高の物をそろえて、世間に知られずにあんな物を開発するなんて、おかしいと思わないか?」

「まあ、確かに……」

 

鈴は戸惑いつつも同意した。俺は正直な話、上手く呑み込めていなかった。確かに彼の言う通りISの技術は魔法じみているし、莫大な金がかかったのは分かる話だったが、何故そんな話を考え出したのかがまるで分らなかった。

「でも、それがどう繋がる?」

「まあ、聞いてくれ。つまりあの組織……旧亡国には大きな後ろ盾がいたってことだ。多額の資金を持ち、世間から研究を隠すことが出来る大物だ。しかもコイツは国じゃないんだ」

「……どうして?」

「ISのコアは白騎士から分けて作られた――つまり今のISに白騎士のような戦略級のパワーは出ない、これを知っておきながらISの研究、乗り手の確保に莫大な金を費やすと思うかい? たとえ権力を握るためだとしても大きすぎる消費だし、その為に軍縮までするなんてあまりにハイリスクだ」

 

筋は通っていた。今のISはどうあがいても白騎士にはなれない。たった一機で戦力のパワーバランスを崩すどころか、方法によっては従来の兵器でも対応可能な戦術レベルの価値しかない。それを知っておきながら大規模な軍縮、優遇制度の確立は割に合わない。たとえ、独自にコアの研究を進めたところで出せる出力には限りがあるので無意味だ。結局はその出力に見合った武装やスラスター、装甲などの外装の開発以外に性能の向上が図れないのだ。つまりハリウッド映画にありがちな“国家の陰謀”とは考えにくい。ISの真実を最初から知っていれば、今までの政策をする理由が全くないからだ。ということは更に考えにくいことだが、旧亡国は政府関連とは考えにくい事になる。

 

――では、どこが、いや誰が?

 

そう考えた時、俺は少し前のヴィンセントの台詞を思い出して冷たい汗が額に浮かんだのに気付いた。

 

「此処で更に話を広げよう。旧亡国は千冬とスコールの内紛が起き、白騎士事件が起こった――こんな大事件が起こった時、この後ろ盾はどうなっていたか? 考えられるのは三つ。壊滅か、従順、もしくは反抗かのいずれかだ」

 

ヴィンセントは指を三本立てて、一つずつ順に説明していった。

 

「まず、壊滅説からだ。コイツの可能性は低いと言える。ISの開発、それの隠匿に使う金は無からは生まれない。必ず娑婆で金の流れを作っていたはずだ。小さな金の川をあちこちに作って利益を吸い上げれば隠しやすいだろうが、コイツは一度流れが止まると途端にその存在が明るみに出る、十年前にそんな話は一度だって出ていない以上可能性は低い」

 

 

指を一本下げて二本とした。流石は企業の御曹司だけあって金の流れに関しては俺達とは一味違う切れ味を持つ思考を放つものだ。

 

「二つ目、従順。現亡国がISモドキを持っている以上可能性がないわけじゃない。だが、千冬の計画は場当たり的で旧亡国までの慎重さってものがまるでない。想定が甘すぎるんだ。この半年間の出来事が千冬の計画にのっとる物って知った時そう思ったんだ」

 

この半年間の事件を俺達は順に思い出していった。そうだ、確かに場当たり的だ。一夏が千冬に反抗した場合や最悪途中で死んでしまう可能性を考慮しているのか疑問だ。一夏には特殊な教育が、白式にはかなり強固な生命保護があると言うが、それだけに頼っている計画は杜撰極まりない。IFを想定している様にはとても見えなかった。

 

現に一夏は白騎士事件で意識不明になったし、学園祭襲撃時にはオータムと交戦後スコールと接触。さらには敵役とはいえ、スコール達にISモドキを持たせるなど、自ら進んでタイトロープをしているようなものだ。

 

「千冬さんはISのコアについては何も知らなかった……確かに杜撰ね」

 

千冬の計画は白騎士に頼り切ったもの――白騎士無くしてはスコール達の始末も一夏の生存も不可能。そのくせISに関する知識がお粗末だったのを考えると到底信じがたい話だ。

 

「でも技術は誰もが知らされる訳じゃない。“need to know”なんて言葉だってあるわ。内紛が起こったていうのなら誰が知っても、知らなくてもおかしくはないんじゃない?」

「そうだぜヴィンセント。その後ろ盾が何もかも知っていたって訳じゃない可能性も否定できない」

 

内紛が起こるほど切迫していた当時の亡国でかなりの情報統制が行われていた可能性は高いだろう。敵対するであろう連中から情報を隠していた、筋の通る話ではある。

 

「そうかな? クロエとかいう女の子が見せたアレを覚えているかい? 一夏の親父はこう言ったんだ『もう一人のISの男性操縦者さえ出れば、奴はきっと動く』って。一夏の親父側にもバックが居たんだ。少なくともソイツは旧亡国とISの正確な情報を知ることが出来たはずだ」

「話が遠回り過ぎだ。一体何が言いたい?」

 

ヴィンセントの説明にしびれを切らしたのか、要点を言えとユーリが言った。話の終わりが見えず、意味深に話し続ける彼に俺も鈴も我慢の限界だった。それを見たヴィンセントは一つ深呼吸をして周りを見渡して言った。

 

「わかった。此処まで言えば十分だ。要するに事の元凶を知っている奴は生きている。そしてソイツは反千冬で多大な金を持っているデカい誰か……コイツに僕は心当たりがある」

 

彼は一拍置いて結論を言った。

 

「Rインダストリー……ピッタリの場所だと思わないかい?」

 

その一瞬、結論を急かした俺達はフリーズした。奴が何を言っているのか、と正気を疑った。実は今目の前にいるヴィンセントは亡国のホログラムか何かで俺達を惑わしているのでは、という空想すらした。彼は俺達の雇い主がここに至るまで過程のいくつかを知っていると言う結論にたどり着いたと言うのだ。

 

「馬鹿言うなよ。ヴィンセント、何の証拠があって……」

「僕が今まで考えなかったのが不思議だった。いいかい? イーグルのコンセプトは打倒IS、ISに代わる兵器だ。なのに、ここに矛盾があったんだ」

「何のだ?」

 

俺、ユーリと続く質問に彼は指を鳴らした。

 

「仮想標的、想定される敵機の性能が“今のIS”であって“白騎士”じゃないんだよ。僕らのイーグルシリーズは精々第二世代に毛が生えた程度だ。この数年間開発されたイーグルの内、戦闘に適したプロトタイプが僕らの機体なんだ。それはいい。だが、どうして一度も白騎士を目指そうとしていないんだ?」

 

俺は胸にモヤモヤと実体のない不快感を覚えた。そうだ、確かにイーグルシリーズの性能は最初から第二世代程度だ。あのロイに見せてもらったプロトイーグルも、俺達の後のバルドイーグルでさえ、その程度のスペックしか持っていない。何故一度も対白騎士用の機体を作らなかったのか、思わぬ所に引っかかりが存在していた。誰もかれもが硬直していた。ユーリですら一瞬AKを手から落とすところだった。

 

「数で圧倒するってのは……?」

 

だが、俺は数で白騎士を圧倒することも可能では、と考えた。それなら兵器然としているし納得のいく筋だと思った。だが、ヴィンセントは首を横に振った。

 

「ネガティブだ、弾。数で圧倒する……そいつはISが生まれてからの軍縮に反するんだ。それにそれで世に発表しても僕達の“革命”は起きない。優遇制度や社会の波を変えるのに必要なのは“ISを一対一でつぶせて量産が出来る兵器”なんだ。つまり僕達のプランは初めからISのスペックが今の第三世代程度で限界だと知ってないと出来ないんだ」

 

心臓が跳ね上がった。ヴィンセントの推論は確かな現実味を帯びていた。そうだ、ISが軍事的価値を失うためには完璧な代替え品を用意するしかない。その為にはISを数で圧倒できる兵器ではなく、ISと同等の兵器でなくてはならない。そして、その為のイーグルが対白騎士を一度も想定していないのはおかしな話だった。だが、結論を言えばそんなものは必要ないのだ。ISはどうあがいても白騎士になれない。

 

では、何故Rインダストリーが最初からソレを知っているような行動ができたか、という話になるのだ。

 

「僕達はまるで気づかなかった。間近にISと接している中でいつの間にかISのスペックはこの程度だ、と勝手に決めつけていたんだ。周りには最新の第三世代、第四世代もいたからな、誰もイーグルが第二世代相当のスペックでISに対抗できることに疑問を持たなかった。でも違ったんだよ。本当はおかしなことだったんだよ」

 

周りにいたIS。第三世代ブルーティアーズ、甲龍、シュヴァルツェア・レーゲン、白式に第四世代の紅椿――どれも強力な兵器だが戦略級とは程遠い。リミッターとやらを外せば、とも言われていたが結局そのリミッターも性能が25%ほど底上げされる程度の物だ、俺達はいつの間にか多くのISに囲まれている内にISのスペックをある意味で正確に認識して、ある意味で誤認していたのだ。本来なら75mm砲弾では逆立ちしても倒せない相手だったはずなのに、だ。

 

「他にもさっき上げた点を当てはめてみようか? 僕達の会社は“秘密裏に”誰にも知られることなく“大金をつぎ込んで”イーグルを“十年内”で完成させているんだよ。ISに関するノウハウを持っていて、コアの代用品も掘り当て、この数年誰の妨害の受けることもなくイーグルを作った――これは偶然なんかじゃない」

 

ISのコアの代わり、インダストリー特有のパルスライフル、シミュレーター、どの小道具も偶然に発見もしくは作られたにしては妙に高い信頼性をはじき出している。そうだ、いくらISのコアの代替え品と言ってもわずか数年程度で開発された物にどうしてそこまで信頼性が高く実戦に堪えうると判断できたのか、という点も不自然だ。俺達だけで試すのはリスクが高すぎる。万一学園で失敗すれば全ての企みが露見してしまうリスクが存在していたはずなのに。Rインダストリーは最初を知っていた。事の発端とISのヴェールの中身を知っていたと言うのは自然な流れだ。

 

「インダストリーは世界がどうなるかを予想していた。その上で彼らは反抗することを決意した。豊富な軍事的人材を受け止める巨大なPMC。ISを持たない国々へ輸出するための通常兵器の生産体制……ロイの言葉だが、全てはパズルのピースだ。次々と当てはめることが出来る。これらはIS破滅後の世界で最大の利益を生む土台になる。何せ、通常兵器に兵隊、ISモドキ、それらを運用するシステムや技術……全てを独占できるからな」

 

RインダストリーはIS開発に手を付けなかった。通常兵器で莫大な利益を得られることも知っていたし、世界がいずれコアの限界に気付くことさえも予見していたのだ。今のインダストリーは亡国と言うテロ組織さえなければ、あらゆる点で利益を上げる事が出来ていたはず、というのも納得だ。世界はインダストリーの持つ全てを欲するに違いないからだ。人材の派遣からイーグル、ネジの一本、爪の垢に至るまでインダストリーの技術と人材は宝の山だ。なるほど、全てが1枚の絵としてパズルのピースが埋められていく。そして俺達はそれにほとんど気づかなかったと言う訳だ。

 

いや、俺の周囲の出来事を考えればもっと身近な例もあった。一夏が何故あの時インダストリーに誘われなかったのもその一例だった。彼らは一夏の姉が主犯だと知っていたから粉をかけなかった。

 

「じゃあ、彼らが最後に欲したのがアンタ達だったってことなのね?」

「そうだ。残る最後のピースはIS学園で実際に戦闘するための人員、つまり僕達だ。だから、僕やアカネ、ユーリが3年前に集まったのも偶然じゃない。そして、ここで初めて暴露するが……」

「何だよ?」

 

俺が言いよどんだヴィンセントに問いかけるとユーリは気づいたらしくヴィンセントの方を注意深く見た。ヴィンセントもユーリと目線を合わせた。彼らはアイコンタクトをしていて、決着がついたのかヴィンセントが意を決して言った。

 

「実は僕のIS適性はD-なんだ。ユーリもね。今まで男のIS適性が何を持って付けられたか知らなかったが、弾の話を聞いて理解した。つまり、僕等の身内にはIS適性を付与できる権限を持つものが居た事になる。コレが確実な証拠さ」

 

彼の言葉を聞き、鈴がすぐさま反応した。

 

「D-って……ISが動かせるギリギリのラインね。でも、あることそれ自体がおかしいって話よね?」

「そうだ。だから僕等は一度もISを使わなかったんだ」

 

俺も初めて知った話だった。だが、それには確かな疑問が生じる。

 

「ちょっと待て。なら、何故全ての人に適性を与えなかったんだ? 何のために?」

「それは……分からない。利益のためか、あるいは別の理由か……とにかく」

 

ヴィンセントはグレイイーグルの待機状態である腕時計を皆に見せる形でかざして言った。

 

「これがどういう事かご説明頂きますよ? もう皆に話した以上、言い逃れができるとは思わない事ですね」

 

その待機状態には立体映像が出ていて、sound only と表示されていた。その通信の先に誰が居るか、俺はすぐに察知した。そして、長い長い沈黙の後暗く、低い笑い声が聞こえたと思うと一人の男の声が聞こえて来た。

 

「お望みのままに。君たちの疑問に答えよう……紳士的にな」

 

その声の主は意味深に言った。いや、怪物めいて聞こえた。暗い深海の底に巣をかまえたリヴァイアサンが目覚めたような、そんな錯覚を覚えた。

 

男の名はアルフレッド。俺達をこの世界に入れてくれたプランの総責任者である男だった。

 

 




急展開過ぎかもしれませんが、一応考えていた筋書です。
ここまでのストーリーの流れが上手く繋がっていることを祈るばかりです。
拙作ですが楽しんでもらえたら嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。