尚今回かなり長くなってしまいましたが一応考えられるだけの事を詰め込みました。
エアロックが解除され、重い扉が開いた。暗い機内から外へと出ると太陽光が目を刺激して思わず目を手で覆い視界を塞ぐ形となったが、聞こえる音だけで尋常ではない状況であることが分かった。怒声が飛び交いガソリンエンジンとジェットエンジンがそこら中でやかましく合唱しており、中にはキャタピラの軋む音すら聞こえた。やがて眼が光に慣れると俺達が降り立った場所がどこかという疑問がはっきりした。
「弾、此処はどこだよ?」
一夏の問いに俺は生唾を飲み込んで答えた。緊張で渇いた喉では答えることが出来そうになかった。
「ロストワールド……Rインダストリーの最大の施設だよ」
「戦車に戦闘機……それに軍人?」
「いや、あれはPMCだよ。俺達は別に軍隊じゃないからな」
自分の台詞にいくらかの疑問を感じたのか、一夏たちは表情をこわばらせた。それもそのはずだ。部外者から見ればこの光景はどう見ても軍隊のソレだ。輸送機からM1エイブラムスを筆頭としたさまざまな戦車が降りて行き、燃料を満載にしたタンク車や弾薬などの物資を積み込んだトラックが忙しく滑走路を行き来している。空を見上げれば見慣れたイーグル系列機バルドイーグルⅡに混じってブラックホークにアパッチ・ロングボウ、A10サンダーボルトや東側のハインドやハヴォックとあらゆる兵器が続々と飛んできている。そして、それを駆る人間と整備員たちにM16系ライフルとケプラーベストで身を固めたPMC達がそれぞれの職務をこなしている。
レンタルDVDでしか見たことのなかった光景が現実に起こっていた。戦争をする前準備というべきなのだろうか。新旧問わず、ありあらゆる破壊のためのマシーンがこの場所に集まっているのだ。
「見なよ。無反動砲まで持ち出している」
「ZPU-4か? 旧時代の対空砲まで持って来たらしい」
ヴィンセントの指さした方を見やるとそこには大量の無反動砲に対空用の携帯SAMが積み込まれていた。その後ろにはここで化石と揶揄されている兵器より更に旧式のZPU対空砲まで顔を見せていた。その光景にセシリアやラウラは唖然としていた。普段の彼女らなら化石と嘲笑ったに違いないが、この施設に流れている緊張感がソレを許さなかった。
いや、それだけじゃない。ここが旧世代の兵器たちが生きるロストワールドだからだ。ISとは違う純然たる兵器が生きる“ロストワールド”だからだ。
「なりふり構っていられない状況のようですね……」
目の前の光景に圧倒されながらタラップ車から降りると、M2重機関銃付きのハンヴィーに兵員輸送車が止まった。出迎えだな、と思い輸送車の扉が開くのに注目するとそこに俺達の直属の上司ロイ・バッカスが現れた。
「ヴィンセント、アカネ、ユーリ、弾……よく生きて戻って来てくれた」
人のよさそうな笑みだが、どこかバツの悪そうな雰囲気であった。初めて会った時の自信に満ち溢れた好々爺は戸惑いを隠せないでいるようだった。俺はロイの顔を見て、この人は黒ではないと直感した。
「ロイさん……俺達の話を聞きましたか?」
「ああ。聞いたとも……その、何というべきか。言い訳がましく聞こえるだろうが……」
「事情は車の中で聞きますよ」
俺がそう言って皆もとりあえず無言のまま輸送車に乗り込んだ。兵員輸送用のため、十人以上乗ってもまだスペースがあるほど広かった。だが俺達は疑惑と怒りの為に無邪気な感嘆の声も上げることなく、ロイに疑問をぶつけていった。
「貴方は知っていたのか? Rインダストリーが旧亡国と繋がっていたことを」
「いや、私は……知らなかった。精々十年前のある日まで巨額の金が様々なNPOに費やされていたことぐらいだ」
「何故追及しなかったんだ?」
「私の地位では扱えない機密の部分も多く、何より当時私やアルフレッドより更に上の役員たちの働きもあって精査不可能だったのだ」
「訊いといて何ですが、信じがたいですね」
ヴィンセントが問い、ロイは知っている事を話していくがアカネはそれらを素直に信じようとはしなかった。アカネは伊達メガネを外して猛禽類のような鋭い目でロイを睨み、その動向を探っていた。
「信じがたいのは分かってる。私達は君たちを……」
「偽っていた……正直言ってショックですよロイ。貴方にはその意志が無かったとしても、です。私は……私達は貴方方大人を信じていました」
「……私は君たちに謝罪しなくてはならない」
ロイは力なく項垂れた。弱々しい老人のようでソレを見てかアカネは開きかけた口を閉じた。責めるにはあまりに気の毒に思えてしまった。
「ロイさん」
だが、そこへ鈴の声が聞こえた。彼女はあえてこの老人の様子を気にも留めずに質問を浴びせた。
「凰鈴音さん……何か?」
「凰でいいわ。此処まで来たからにはアタシ達にも真実ってやつを教えてくれるんでしょうね?」
「鈴!」
「弾、悪いけど今は黙って。アタシだって知りたいのよ。この一連の騒ぎの元ってやつを。今回の不幸もアタシが救われたのもISよ。そこまで関わって来たアタシが何も知らないってのはヒドイ話じゃないかしら?」
何もかも正論だった。ここまで関わって来たのだから真実を知る権利を主張する、当然の権利だった。そして救われた、という言葉。彼女は言ってみれば俺達の言う“不幸な人間”とは真逆の人間だと言うことを俺は今更思い出した。そうだ、此処にいる人間は誰もかれもISで不幸になった連中という訳ではない。ここには救われた人間と憎む人間の両者が居るのだ。どちらにも等しく知る必要があるだろう。これまでと、これからの事を。
「凰さん。それは保証しましょう。アルフレッドも恐らく貴方方のようなIS側の人間もいる事を望むでしょう」
「それなら文句ないけどね」
鈴は腕を組んでロイを半信半疑で見る。その隣では簪がロイと鈴を交互に見て不安そうに息を吸ったり吐いたりを繰り返している。一方で一夏を見やると拳を固く握りしめていた。手の甲に血管が青く浮き出ていて瞳には強い怒気が込められていた。一夏にとって真実を聞くとはすなわち千冬の根幹に触れる物。彼としては真実を今か今かと待ちわびてイラついているのは無理もないだろう。
さて、俺達が聞く真実には何が隠されているのか。俺はジッと虚空を睨んだ。ゆらゆらと蜃気楼のように現れるアルフレッドとやらの男の姿を見て心に誓った。この上さらに虚言を吐くようならブレードの錆びしてやる、と。
ロストワールドの中枢ともいえるコントロールセンターに入り、ロイと数名の武装したPMC達と共に俺達は目的の人物が居るであろうオフィスへと歩く。俺達は様々な感情を胸に瞳を鋭くしていた。それは感情という爆弾を抱えている事にほかならず、PMC達も警戒してm4カービン銃のスリングをわざとカチカチとを鳴らせて俺達を抑えようとしていた。
彼らが何ら言葉を発することなく馬鹿な真似はするなと忠告してくれているのは分かったが、それでも俺を含め多くが目をギラギラさせるのをやめなかった。
やがて数分経つと目的の場所へとついたのか、ロイがドアの前に立ってノックをした。すると中から「どうぞ」と短くも余裕がうかがえる声が聞こえ、俺達はその部屋の中へと入っていった。
「やあ、諸君。初めての者も多いので自己紹介といこう。私の名はアルフレッド、プランの総責任者で君たちの味方でもあるし、敵でもある」
眼前に現れた男は禿げ頭で小さな髯をたくわえた紳士然とした白人の男だった。俺は一目見て気に食わない、と感じた。何故ならアルフレッドはオフィスで仕事をしているわけではなく、昼食をとっていたからだ。半熟の目玉焼きに厚切りのベーコンにマッシュポテト、焼き立てのクロワッサンとトースト、ベリー系の三色のジャムまでご丁寧に添えられている。彼はついこの前まで戦っていた俺達に何ら気遣うことなく優雅な食事をしていたのだ。
それも高いスーツを着込んで古い拳銃や壺などの贅沢な調度品に囲まれながら!
「いい昼食じゃないですか? アルフレッドさん。ベーコンと卵なんて僕等一週間も見てなかったのに」
「昼食中ですまんなヴィンセント。だが、ベーコンと卵はアメリカ人の豊かさの象徴だ。コレを抜いては力も出ないのだ」
ヴィンセントの皮肉にアルフレッドはそう返した。ヴィンセントは笑みを引きつらせたが、髪の毛を撫でつけて冷静さを取り戻し、アルフレッドに対して向き直った。
「この際言いますけどね。僕は貴方を一応信用してたんだ。結果さえ出せば貴方は公平に扱ってくれるし腹の立つご意見も多かったがどれも正論だった」
「ほほう」
「なのに真実の蓋を開けてみれば貴方が限りなくブラックに近いと来た。この分だとあの金髪の女狐にも通じているんじゃないかって疑ってしまって、怒りで夜も眠れませんよ」
「ご意見は最もだが、もう少し落ち着きを持たないかね?」
「落着けだって?」
ヴィンセントとアルフレッドの話を聞いている内に俺は血管がプチプチと切れる音を聞いた。怒りが血液と共に脳に到達した時、電光石火の勢いでラプターに格納していたm9拳銃を取り出して、そのままアルフレッドに向けた。周りが制止しようとする中、俺は怒鳴った。
「ふざけんな! こちとら命張って戦って、アンタらが色々隠していたって聞いてご立腹なんだよ! それだけならまだしも、アンタと来たらこんな調度品がゴロゴロした部屋で優雅に食事なんかしやがって! 茶化してんのか!? {ごめんなさい」の一言でも言ってみたらどうだ?!」
「弾!」
アカネが叫ぶが俺は彼女の言葉すら無視して銃口をアルフレッドに向けた。アルフレッドはフォークとナイフをその場にそっと置いて、銃を握る俺を睨み返した。
「我が社のm9に熟知しているな五反田君……セイフティを掛けたままで脅そうが無駄だよ。それに君たちが求めているのは謝罪ではない。そうだろう? 後、君たちが偶々私のランチタイムに来ただけに過ぎん。真実を話してやるから銃口をどけないか、小僧。今更銃口一つ向けられて驚く私ではないぞ」
アルフレッドは悠然と俺にそう言った。怯えどころか嘲笑の響きすら含めた言葉に俺はぐっと銃口を近づけたが変わらなかった。目の前の男は拳銃一つではピクリともしなかったのだ。周りのPMCが俺に銃を下ろすように言って来て俺はようやくm9を手放した。
「そうだ。状況を判断し、矛を収めるのも良き戦士というものだな? 五反田君。君にはいつも感心させてもらっているよ。とても定食屋のせがれとは思えん程にな。最も……それこそが私の話すことに関わってくるのだがな」
「どういう意味です?」
「まあ、アカネ。待ちたまえよ。話は順を追っていかねばならん」
アルフレッドは近くにいた秘書に食器を片付けさせ、戸棚からフロリダ産と書かれたオレンジジュースの瓶を取り出し、コップに注いだ。「飲むかね?」と聞いたが皆が白けた空気だったので一人鼻を鳴らして一口飲み、話しだした。待ちに待った本題を。
「さて、まずヴィンセントの問いからだ。いかにも私達Rインダストリーは旧亡国にパトロンだった。次世代の宇宙開発……ISコアとなるレアメタルやヘリウム3などの次世代エネルギー資源、宇宙進出への出資としてな」
「随分と夢のある話じゃないの?」
「そうとも鳳鈴音。ヴィンセントの父の主導でね、あの頃は皆が本当に宇宙に夢を持っていたのだよ。まぁ、私は利益を重視したがね」
渇いた笑いをしたアルフレッドに一部が首を傾げた気がしたが、ヴィンセントの問いに注意を向けてソレも気にしなくなった。
「旧亡国とは?」
「倫理、コストに縛られない科学者のユートピアと言ったところだろう。人類にのみ存在する創造性を駆使することで神々と接するなども言っていた気がするかな。我々はその出資者のメンバーだった」
「つまり、貴方は旧亡国の生き残りって訳ですか?」
「いかにも」
「なら、教えてもらいましょうかアルフレッドさん。あの金髪の女と織斑千冬とISの出自、全てを包み隠さずに」
「そうだ!」
ヴィンセントの問いに一夏が声を張り上げて賛同した。姉の事もあって気が気でないのであるのは明らかだ。アルフレッドは一夏を一瞥した後に高そうな椅子により深く腰掛け話しだした。
「事の始まりは織斑一真と篠ノ之束と言える。16年前に偶然発見されたレアメタルの塊――ISコアが発見され、旧亡国では解析が進められていた。淡い光を発するそれには巨大な
エネルギーの塊であることは突き止めたがそのエネルギーをどのように取り出すかがどうしてもわからなかった。一方で同時期に開発されていた物があった。拡張領域と呼ばれる未来の収納技術、それを開発したのが織斑一真だったのだ。知っての通り通常のロケットで宇宙へ物資を運ぶとき、たった数キログラムの増加で莫大なコストが生じてしまう。またロケットもそれに合わせて大きくしなくてはならんからな。そこで一真は拡張領域を用いることで短時間で宇宙に物資を送れる拡張領域の理論を発表したが失笑物だった。何故なら荷物を軽くするために巨大なエネルギーを必要としており、本末転倒で話しはそこで終わるはずだった。結局は夢想に終わる、と誰もが思っていた時。篠ノ之束が現れたのだ。一真によって連れてこられた彼女はそれまでの科学者たちを圧倒するほどの才覚を発揮しコアの問題を解決して見せたのだ。コレが後の白騎士であり、ISだった。拡張領域などと組み合わされ、世界で類を見ない強力な機関を搭載した有人探査機はこうして誕生した。しかしその時、我々が知らない間に亀裂が生じていた」
アルフレッドは苦々しい顔をして当時の記憶を俺達に語った。
「そう、ISを巡っての権力争いが生じたのだ。あらゆる面で発展しすぎたテクノロジーは持つだけで世界の王にもなれる代物だった。ISを構成するナノマシン、拡張領域、常識はずれの出力……この一機のISを巡って亡国は分裂し、そして織斑千冬たち一派が自らの権益を作らんと白騎士事件を起こした。その裏でスコールが謀略を練っていたとも知らずに。
だが、我々には抵抗する戦力は皆無で真実を知っていてもソレを世に訴えることもできなかったし、大衆は聞く耳を持たなかった……そうだ、全てはあの二人、この事件は言ってみれば二人の女が起こしたものと言えた」
二人の女性――それはスコールと千冬のことに他ならない。
「まずは織斑千冬だ。彼女は別に旧亡国のメンバーではなかったが、結果的に事件の首謀者だ。その理由はいたってシンプルで、彼女の家庭環境は良いものではなかった事に起因する。母親は蒸発、父親は研究にいそしみ、愛情を知っていたかどうか……もっとも愛情などにいかほどの価値があるかは知らんが。彼女からすれば、IS関連は憎かったのだろう。特に自分より才覚溢れた篠ノ之束に対して。言ってみれば父親の愛情が赤の他人に向かっているのだ……自分たち姉弟を放ってな。極めつけは織斑マドカだ。一真は何を考えたか、千冬に似た、いや表現を正確にするなら全く同じ人間を作ったのだ。いわゆる愛玩のためなのか、あるいは研究のためだったかは知らんが当の遺伝子の持ち主は酷く憤慨しただろう。そこを様々な大人に利用されたという訳でつまり{哀れな女}だ。それもどこにでも居そうな普通の女だった。ただ、そこに大人と白騎士があっただけだ……ハッ、まるでクールジャパンのコミックだ。無力な少女の目の前に強力なマシーン! 実に馬鹿馬鹿しい。テロリストが」
マドカ、と言う名にシャルロットは反応する中、アルフレッドは吐き捨てるように感想を言った。目の前に実の弟がいるにも拘らず彼は千冬の行動をそう一言で片づけた。
俺は横目でちらりと一夏を見た。すると案の上だった。彼は俺達をかき分けてアルフレッドの目の前に立ち、デスクに拳を打ちつけた。
「馬鹿馬鹿しいって……何だよ!」
「私の素直な感想だ」
「ふざけるな!」
一夏はアルフレッドの襟をつかんだ。
「千冬姉は……それでも千冬姉は必死だったんだ! 確かに千冬姉は酷いことをしたかもしれない! でも、アンタのような子供に何もしない大人がとやかく言うなよ! 誰も千冬姉の事を助けようとしなかったのだって事実だろ!」
一夏の必死の叫びだった。姉がテロリストと言われて否定できない悔しみに自分の事を守ってくれていたという想いをたった一言で片づけられずにはいられなかったのだろう。俺は一夏を見て複雑な思いだった。そもそもの原因である千冬を擁護することはできない。アカネやヴィンセント、PMC達、ダグラスさんの娘さん、大場先生のようにISで誇りや仕事、親、そして命を失った者を知っているからだ。しかし、一夏にその罪はない。また彼に千冬が隠していたヴェールの裏側を見せたのは俺達であり、言うなれば俺達は一夏の誇りを失わせたことになるのだ。俺にはそんな彼に横からとやかく言う資格はなかった。だから、俺は彼を哀れんだ目で見ることしかできなかった。
「だから何だ? 可哀想な少女だったからと許すのかね? 誰かが助けていれば、と君が言うのなら私はあの女が馬鹿な真似をしなければ、と言おう」
歯噛みする一夏にさらにアルフレッドは畳みかけた。
「そもそも織斑千冬が何を考えていたか知っているかね? 彼女はこの今の社会を君と白騎士によって救わせる筋書を思い描いてのだよ。亡国を都合のよい倒せる敵とし、それを君と白騎士が倒し、君を英雄仕立てあげようとしていた。だから君の姉は頑なに出撃しなかったのだ」
「……でも!」
「滑稽なことにISコアが白騎士をバラした物だと知らずに計画していたがね。そのおかげで我々は十年準備を進められたことには感謝しているが、それ以外の話は別だ。私はね、織斑君。多大な投資と親友を失っているのだよ。それだけではない、彼女の行為でISは完全に潰さなくてはならなくなったのだ」
「どういう意味ですの?」
アルフレッドの言葉にセシリアが反応し聞き返した。アルフレッドは薄く笑ってIS乗り達を一望した。
「そのままの意味だ。ISは最早害悪となったのだよ。織斑千冬のせいでな」
アルフレッドはPMC達に命じて一夏を引きはがし、その理由を語った。
「これも重要な話だから言うが、ISは白騎士事件後の過程で完全に害悪となったのだ。元々我々は白騎士をそのまま使う手はずだった。白騎士のスペックは知っての通り、現行のIS、イーグル、亡国のISモドキを遥かに上回る。我々の計画では白騎士を無人機として使用し遥か彼方の宇宙を探索する予定だった。白騎士は自身を量子分解しタイムラグなしで空間を跳躍することすら出来たのだ。例の布仏本音と言ったか、彼女のようにな。一時期はブラックホールの先、事象の彼方の探索まで可能では、と言われたほどだった。だが、その巨大な可能性の決勝は織斑千冬たちの野望で砕かれ、白騎士そのものを兵器転用されることを恐れた篠ノ之束が織斑千冬たちを欺き467個に分けてしまったのだ。そして、その後の世界で「白騎士事件」のIS神話だけが独り歩きしだし、世界は乗り手を欲して数々の優遇政策をとり、本来なら有り得ないレベルの軍縮にさえ踏み切った。その結果は失業者の群れの増大、適性を持つものが持たない者を嘲り、金の流れは無意味な優遇制度とコア研究へと流れる。IS適性による優遇を求めて親が子供を無作為に作り、不要なら捨てる……救えない世の中だ。これを起こしてしまうISとは何なのかね? 害悪ではないか?」
俺はそれらを聞いて拳を固めた。全部見て来たことだった。この半年間で見て来た全ての光景がアルフレッドのいう世界の姿だった。俺に対する仕打ち、ダグラスさんの娘、IA学園でレジスタンス達を嗤った女子に本来なら国に尽くしていたはずの傭兵達。いや、もしかしたら俺やアカネ達の存在も「救いのない世界」の悲しき存在なのかもしれない。
「社会以外に目を向けてみよう。皮肉な事にISのおかげで軍需産業としてのインダストリーは大いに発展したが、それは我々だけでないし、破滅への序曲だ。我々も第三世界に人材と兵器を売って来たが、今日の兵器の流出は異常だ。テロリストが第三世代のMBTに新品の西側ライフルを平然と手にできるのだ。それを抑えるための軍隊を各国が弱体化させている中で、だ。絶対数も少なくスペックも並、兵器としての絶対性を維持するために乗り手が変わるたびにリセットを繰り返すISでは手が足りんよ。つまり世界は内と外で同時に危機的になっている」
そこでアルフレッドはデスクの引き出しから書類を取り出し俺達の前に叩きつけた。そこには「赤い半月刀」なる組織が他の組織と協力しアルカパ主力戦車と大量のスティンガーミサイルにAK100シリーズを購入している事が記されていた。添え付きの写真には車いすに座ったウダイというリーダーが武器商人と思わしきスーツ姿の男と握手をしている。
「このような事態をネットに流しても国民はおろかマスコミでさえ{ISがあれば大丈夫}と信じ切っている有様だ。いいかね? ISはもう{麻薬}なのだ。取り潰さなければ、いずれ世界は崩壊する。だから我々はイーグルを作ったのだ。旧亡国の技術を結集し新たな才能を発見し、金という金をつぎ込んでな。全ては織斑千冬と裏切り者共とあの金髪の女の企みが原因だ」
「ちょっと待ってください! イーグルだって適性が存在するはず! これでは唯すげ変わっただけではありませんこと!?」
セシリアは甲高い声でそう指摘した。確かにイーグルにも適性は存在している以上乗れない者が出るのは必然だ。いくら量産できても結局は適正によるのではないか、というのは理に適った指摘だ。
「それに貴方はそこの二人にIS適性を与えたはず! なら今すぐ全ての男に適性を授ければよろしいのではありませんか!?」
セシリアがユーリとヴィンセントを指さして言った。そうだ、IS適性の恩恵を大勢に付与すればいい。そうすれば優遇制度の緩和につながる可能性もあるように思える。魅力的な提案だった。少なくともイーグルでISを完膚なきまでに叩きつぶすよりかはセシリア達にとっては価値があるし、騒動も大きくならないのでは、と一瞬そう思えたがアルフレッドの嘲笑を見て思いとどまった。
「そうか……それじゃダメなんですね」
そこへ簪の声が上がった。ヴィンセント以外の皆が彼女に注目し、その訳を彼女に訊いた。
「どうしてよ、簪」
「IS適性の希少さ……Aランク相当で何万人に一人かの確率。Sランクに至っては世界で数人……だけどイーグルの適性はIS適性の逆でIS適性が低い方がいい傾向がある。ならその絶対数はIS適性者の比じゃない。だから選民主義には少なくともならない、そう言うことですか?」
おずおずと簪は答えた。鈴はあっと口をあけて気付いた。その通りだ、と俺も気づかされた。イーグルの適性はISの逆。十万人に一人のISよりもその他の九万9999人が乗れるイーグルに軍配が上がるのは当然の帰結だ。そして、簪の言った選民主義という単語が答えだ。アルフレッドは孫娘でも褒めるかのように拍手し簪を称えつつ答えを述べた。
「マイクの言った通り聡明な御嬢さんだ。その通りISは選民主義を生むのだ。ISの適性による恩恵と言うがコアは量産が不可能なのだ。コアのレアメタルは少なくとも我々の知る宇宙の遥か外にある可能性が高い。そして地球のコアメタルではイーグルしか作れん。ISという存在をこれ以上増やすのは不可能なのだ。そこへ男性適性を加えればどうなる? 今度は男と女の適性者がデカい顔をするだけの選民的な風潮が生まれるだろう。男も女も基本は変わらん。人間はどこまで言っても誰かを見下す生き物に過ぎん、そこに性差は存在しない。要するにISは軍事的価値も宇宙開発としての価値も無い、空っぽな神話を作るための存在になってしまったのだよ。これが我々の投資の結果だと言うのだから心底虚しい。だから完全に潰すのだ」
「それでまた新たな差別が出来たとしても、ですか?」
「より少数が大多数を見下すよりかは健全だと思わんかね? 私は善きことをしているつもりだよ」
アカネの反論にアルフレッドは平然と差別を認可する発言をした。そこでアルフレッドは不気味な笑みを浮かべた。その笑顔の矛先は誰に向けられたものかは分からなかったが、そこには感情の色が見えた。黒くドロリとした憎しみと愉悦――まるで復讐を成し遂げたかのような暗い喜びだった。俺は今まで様々な大人と接してきたがアルフレッドは初めてのタイプだった。狂気を隠しもしない亡国たちとは違う、自分の狂気を陰に潜めて相手の喉を掻っ切って初めて狂気を見せる――陰湿だが最低限の法に則って報復する“大人の悪意”を持った男だと俺は直感した。
「話は大分それているが、続けよう。私の言う世界の狂気から逃れている者は誰一人として存在しない。私や君たちも含めて、インダストリーも相当だが君たちの場所はそれ以上だ」
「IS学園のことか?」
「然り、いやビンゴ! と言おう」
ユーリの発言にアルフレッドは調子よく言った。その様子にアカネや鈴が顔をしかめた。
「考えてみたまえよ諸君。銃を持ち生徒同士で実弾を撃ち合わせる。なのに学園には普通の高校のような雰囲気が流れてる。君たちの生活はこうだ。友達と登校し馬鹿な話題で盛り上がり、銃を撃ち合い、恋話でもしながら帰路に就く。何故こうなるか考えた事あるかね?」
シンと静まり返る中、アルフレッドは得意顔で持論を披露した。
「麻痺しているからだよ。IS学園の入試でISを用いるだろう? その時点でISの安全性を過信し、その後銃器を握っても玩具としか思わなくなるのだ。何故ならISより遥かに矮小な兵器だ、」
俺はチラリとPMC達のM4カービンを見た。黒い合金で固められた銃は小さくても十分な殺傷能力を持つのを俺は知っていた。しかし、俺はあの学園に居る時本当に危険だと感じていたのか、自信が持てなかった。例え、いつぞやの授業で山田先生の機体に面白半分で機関砲を放った女子に怒ったことを思い出しても。
『ISと銃……どちらも同じ兵器だが、何故こうも違う感想が出るのか……考えてみろ。やることはどちらも大した差はない。相手に向かって引き金を引く。だというのに何故こうも違うか?』
初めての訓練の時のユーリの言葉を思い出した。そうだ、違いなどないはずなのだ。
『でも……もう私に彼女たちを否定する権利なんてありません。私も引き金を引こうとした……結局私も同類だったんです』
アカネの涙声が聞こえた気がした。そうだ、ISを纏おうと銃を向けることに何の違いがあるのか。
「異常……私達がおかしいとでも!」
それでも篠ノ之箒などは反論したがアルフレッドは態度を一切変えることなく告げた。
「そうだ異常だ。戦闘に次ぐ戦闘……テロリストの襲撃が起こっても君たちは必死に青春を謳歌しようとする――それこそが異常だ。砲弾が降る学園なぞ紛争地以外ではありえんのだよ。そして五反田君、君たちは警鐘を鳴らし不穏な事を多く主張したのではないかね?」
アルフレッドの眼光が俺に向けられた。
「……しましたが、それがいけない事ですか?」
「いや、そうは言っていない。君たちは無意識ながら異常を感知したのだろう。何せ君たちはそう訓練させているのだからな。だが、それは学園の中ではタブーだったのだ。君たちは偽りの平和すら脅かす存在に違いなかった。君たちは織斑千冬の庭の中で最も場違いな存在で、君たちと織斑君達の間にはあの学園を“戦地”と見るか“学校”と捉えるかの違いが生じていた。だから、君たちは互いに解りあえなかったし、変わろうともしなかったのだ。どちらも等しく歪な事には変わらんがな」
異常の中の異常、イレギュラー。俺達はそう言う存在だと彼は言う。簡単に言えば俺達は学園の中で“空気を読まない馬鹿”だったという訳だ。成程それなら俺達が非難される訳だ。大勢が望むヒーローではない以上、支持される訳も無かったのだ。だが俺は納得しつつも歯噛みした。そんな事で俺達のあの戦いが非難され、誰にも労われなかったのか、と。
たかが、環境なんぞの為に俺達が否定されなければならなかったのか、と。
「異常ですって?」
その時別の理由で感情を爆発させたものが居た。声のした方を見やると、鈴がキラリとアーモンド形の瞳の奥で怒りを燃やしていた。
「そうさせたアンタが言うセリフな訳? ヴィンセント達は三年。弾は半年……散々訓練させて来たアンタが歪なんて言葉使わないでよ」
ツインテールを揺らし、彼女は巨大な男の前に立ちふさがった。Rインダストリー社で巨大な計画を立てた男に立ち向かった。
「アンタが正しいのは分かるわよ。確かにアタシ達は異常だった。でも、アンタだって、時代と状況を言い訳にアイツ達をその異常な場所に叩き込んでいるじゃないの? 偉そうに言う前にそこについて教えていただける? どんな事情で彼らを送り込んだっての?!」
声を荒げる鈴の後ろからアカネが声を掛けた。
「少しまってください。鈴、私達は自分で望んで来たんですよ。だから……」
「だから黙ってろって? 冗談じゃないわ。友達とヴィンセントをこうも言われて黙っていられないわ。答えなさいよ、何の理由があったての?」
「彼らの理由――それは実戦データの収集と」
初めの一言は俺も知っている内容だった。
「――IS学園に対する証人としての役目もあった」
「何?」
俺達ピース組は疑問の声を揃って上げた。
「ISの起こす人格形成の一端を彼らに実際に見てもらう必要があったのだ。IS学園ではどのような人物がいて、何をするのか。それを語るための証人が必要だったのだ。ISその物を糾弾するために」
「私達がイレギュラーになるのを承知の上で?」
「そうだアカネ。君たち三人は誰もがIS学園の生徒の逆の人間だからだ。兵士達に囲まれて育った君に、暗い世界の住人だったユーリ、英才教育を施されたヴィンセント……君達は残酷さを知りながら日常を普通に生きるイレギュラーだったからだ」
そこでアルフレッドは俺の方を見た。
「まあ、最大のイレギュラーだったのは君だがね五反田君。私は正直な所、君をヴィンセント達の隠れ蓑程度にしか考えていなかった」
「だから、俺には最初専用機がなかったのですか?」
「そうだ。何も特別でなかった君に与える期待などしていなかったが、君は急成長を遂げ、イレギュラーズの一人となった。嬉しい誤算だったよ……ロイに一部の真実を話させた時君が冷静でいた時など驚嘆した物だ」
「そりゃどうも」
期待などされていなかった。別にそのこと自体には何ら感情を抱かなかった。定食屋のせがれ風情に期待をかけるほうがおかしいのだ。ロイさんやマイクさんは期待してくれていたがこの男はしなかった。ただそれだけだった。
「このように我々はピースを一つずつはめていった。もう一度言うが、十年前のあの時……相手には白騎士が居て我々には何ら抵抗できる戦力は皆無だった。通常兵器ではISに勝てない。これはあの当時の白騎士に対してはまさにピッタリな言葉だ。力の前では言葉は為す術もない。我々が声高に主張しても世の中は単純明快な力にしか関心を示さないからな……我々は十年間練りに練った策謀を少しずつ実現していった。その為に大衆が理解できるショーまで作った」
「キャノンボールファストの発表ですか?」
アカネがアルフレッドに問う。彼女としては親友のミサキもソレに関わっているだけに気になるのだろう。
「分かりやすい構図だろう? ミサキ・ホーキンスの歌が残酷な戦闘をショーに変え、大衆はISからイーグルへと易々と関心を向けれたのだ。アカネ、君の親友は実に協力的だった。君がこれ以上銃を握らないで済むのなら、とね……だがそうはならなかった」
「……亡国機業ですか?」
アカネはギリギリの所で冷静さを保ち、そう訊いた。アルフレッドは静かに頷き彼女に応えた。
「あのタイミングで発表したのはそれが一番の理由だ。IS学園での襲撃時に見られたISモドキ。改造されたEOSを見て我々は彼らが予想以上に技術と資本を持っている事に気付いた。だから、世界にイーグルをばら撒くことで抑止しようとした…だが、まさか織斑千冬の一言であのような事が起こるとは思わなかった。誤算だったよ」
予測不可能な事態。それが千冬のIS騒動だった。アルフレッドにとっては青天の霹靂だった。彼の予想を甘いと言うにはその事件はあまりに荒唐無稽だった。だがその時、頭の中に思馬鹿げた発想を思い浮かばんだ。
「本当にそう思っているんですか?」
「何が言いたい?五反田君」
俺はアルフレッドと正面向き合って話した。
「俺はね、アルフレッドさん……馬鹿な考えだけど、思ったんだ。アンタはこうなると内心知ってたんじゃないかって」
「ほほう、どうして?」
とぼけるような仕草をする彼に俺は考えを述べていく。
「アンタはさっきから{大衆}だか、{世の中}とか言う言葉をよく使っている。ハッキリ言ってアンタは大衆だとかが大嫌いなんじゃないのか? ISをあっさり受け入れ、社会をどんどん作り変えていく人々。文句は言うくせに反抗もしない、反抗しようとする俺達を見て無駄だと嗤う……俺だってそう言う人間を見て来た。アンタはそんな大衆を見て嗤いたいんじゃないのか?」
アルフレッドは俺の言葉を黙って聞いていた。俺は自分が馬鹿な事を言っているのを分かっていたが、それでも言わずにはいられなかった。言われっぱなしではいられなかった。
「不思議な話にも思えるんです。この十年のプラン……亡国という存在が無ければ、全て思い通りになっていたはずの計画を建てれたアンタだ。大衆が、人々がそう動くと一度も想像もしなかったなんておかしな話じゃないのか?アンタはこうなる可能性も含めて動いたんじゃないのか? 万が一にも存在するIS連中を合理的に倒す機会と今までソレを崇め、今度はイーグルに乗り換えた愚かな大衆ってやつを糾弾できる機会を欲したからじゃないのか?」
下種の勘繰り、俺の考えはその類のものだ。だが俺はアルフレッドが一つの私情も無く、ただ利益と社会の為に動く人間に思えなかった。彼のあの暗い笑みはIS連中に向けた者だけではない、大勢の者に対して向けられている――俺の直感がそう告げていた。最初に彼が言っていた宇宙進出、本当にアルフレッドがヘリウム3だとかに投資したからと単純に信じられなかった。彼もまた夢を追っていたのではないか、そんな発想が首をもたげたのだ。
「アンタも宇宙に夢を持っていた、だけどその芽を摘み取った千冬とスコール、そして大勢にアンタは復讐したかったんじゃないのか?」
無論、彼に対して一言言いたかったのもあるが、俺は真実を求めてやって来たのだ。彼の真実もまた聞きたいと思うのはそれ程おかしなことではない。
「おかしなことを言うな君は。何の証拠もない推論だけで人を判断してもらっては困るな……だが、そうだな一切の私情が無かったわけではないのは認めよう」
アルフレッドは視線を僅かに下にずらした。灰色の瞳が僅かに揺らいだかのように見えたが、ソレも一瞬の事で俺は見極められなかった。
「さて、話を戻そう。これまでの元凶、最悪の女――スコール・ミューゼルについて」
そして最後のヴェールの奥へと話題は変わった。エンターテイナーと自らを語るあの金髪の女。その目的と本当の姿について俺達は耳を傾けた。
とりあえずインダストリー側の暴露です。何か足りていない所、疑問点、矛盾点など気になることが会ったら教えてほしいです。
これまで100話以上の話の内容の意味を集約したので、粗は多いと思いますが楽しんでもらえると嬉しいです。