IS to family   作:ハナのTV

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あけましておめでとうございます
新年初の投稿となります。


生存者

夕焼けの空は美しい。マジックアワーなんて言葉も生まれるほどに。陽が沈んで、月が顔を出す時までの短いオレンジ色に輝く空でまるで太陽が溶けだしたかのような綺麗な空だった。この素晴らしいはずの時間に私達の元に一つの信号が伝えられていた――とある打鉄のシグナルロストを伝える信号が。

 

ピー、と甲高くなった音の後に私達には沈黙が訪れていた。そのころ、強襲揚陸艦に無事到着し、航空甲板の上でラファール・リヴァイブに打鉄と着艦させて、最後の大切なあの人が戻ってくることを叫び続けた私達に絶望が翼をはためかせてやってきたのだ。

 

「……嘘」

 

さやかの声がそっと聞こえた。“嘘”、そんな言葉が聞こえた時に私は必死に頭に言い聞かせた。そうだ、これは欺瞞信号か、疲労から来るデタラメなのだ。きっと、あの人はスコールって言う悪党を倒して、今にも帰ってくるはずだ。大場先生は死なない、だって福音だろうと亡国だろうといつだって帰って来てくれた。今回だって同じだ。きっとそうだ。

 

「大場……先生……?」

 

ラファールのヘッドセットから伸びたマイクフォンに辛うじて絞り出した声を出して、その名を聞いた。聞こえるのはTVの砂嵐のような雑音、ザーっと耳障りな音が続くだけで「はい」の一言も帰ってこない。ただ一言帰ってきた言葉と言えば

 

『ごめんな……最後までお前たちを……見届けてやれなくて』

 

絶対に聞きたくない先生の最期の一言だった。悲しくて、苦しそうで切ない響きが込められた言葉は甲板に展開する全てのISに伝えられた。人は悲しい報告をする時、嘘を付けれるが機械はそうではない。そして人である大場先生も自分の死を偽ることをせず、最期の謝罪をするだけだった。

 

そんな言葉なんか聞きたくない、聞きたくないのに――

 

静寂、いや沈黙か。艦の海を進む音、流れる波音にカモメの鳴き声がいやにクリアに聞こえた。まるで自分がこの広い海に放り投げられたかのような感覚に陥った。隣に何人もの親友が居て山田先生やイヴァナ先生もいるはずなのに。目を動かして自分の周りには大切な人達が居ることを確認しようとすると、視界に入った。

 

大場機 シグナルロスト KIA――と

 

「いや……嫌だ」

 

お腹から何かが込み上げてくるのを感じ、息が苦しくなっていった。まだ冬になっていないのに体が震える。助けを求めて周りを見渡した。気の弱いさゆかが半狂乱になって泣き叫び、暴れるのをティナとナギが必死に抑えていた。三人とも大粒の涙で顔を濡らしていてさやかが先生の名前を何度も何度も叫んでいた。

 

対照的に神楽は声も上げずに固い灰色の甲板に力なく座り込んだ。決して手放さなかったブレードを落として。癒子は肩を震わせて耐えていて嗚咽を漏らし、理子は甲板に打鉄の握り拳を打ちつけて嘆き悲しんでいた。先にISを解除していた清香は拡張領域からAR15を取り出して学園に向かって呪詛の言葉を吐きながら銃を放ち自衛官の人に抑えられた。

 

私はただ茫然としていた。いくつもの弾を撃ち込まれて穴だらけになった装甲と戦闘の余韻が残り高熱を帯びたスラスターを装備し、世界最強のはずの兵器、女の力であるはずのISラファール・リヴァイブを纏いながら、ただ現実と言う物を直視できないでいた。

 

一人の女性、教師の死。決して未経験のことではない、福音と学園祭と続けて死を目の当たりにしてきたし自ら戦いもしてきた私達は死への耐性はある程度持っていた。この艦にたどり着くまでにコンクリートの下に埋まったクラスメイトや銀細工を倒した時に転がって来た誰かを私は見て来たのに、たった一人の死が私の頭を真っ白にした。

 

途端に自分が身に着けているISが憎らしく思えた。何が世界最高の兵器だ、何が男を三日で制圧できる、だ。何もできないポンコツじゃないか。いつも敵で大切な人を肝心な時に守ってくれないガラクタ以下じゃない!

 

拳を固く握りしめた時ラファールから突然アラートを鳴らしだした。警告、ミサイルアラートとやかましく私に警告し出し、次に艦全体にサイレンが鳴りだした。艦上の自衛隊さん達は素早く動き出して自分たちの持ち場へと走っていく中私はラファールの知らせるミサイルの数とやってくる方向を見た。

 

「何なの……何なのよ!?」

 

空を覆うミサイルの黒い影。その数はハイパーセンサーで捉えた物だけで200は超えていた。小型のIS用のミサイルで対艦用の物とは程遠いけど、この護衛艦を沈めるにはおつりが帰ってくるほどの数だ。IS同士のドッグファイトを想定されて作られたミサイル相手に護衛艦が回避行動をとれるわけがない。まして、この数を全て迎撃することなど――

そう思いラファールに弾数もほとんど残っていないAR―Xを持たせたとき、隣で派手な金属音が響いた。

 

「……甲板借ります!」

「甲板借りるわよ!」

 

レンズにひびが入ったメガネを投げ捨てて山田先生と額から血を流し続けているイヴァナ先生が鬼の形相でラファールのコンソールを動かしパッケージを強制的にダウンロードさせているようだった。スラスターと背面装甲がパージされて艦上に転がった後、四本に増え、それぞれに大型ストッパーが装着された脚部に腰から四本のアンカーが射出されて機体を固定させた。

 

背中には巨大な円筒状のタンクが装着され、そこから金属のベルトが四つ伸びていた。砲弾をいくつも抱える給弾ベルトが腕部へと伸びていき、砲そのものと化した腕部その物に装着されていた。武装となった腕部の正体はISでも最大級の火力を見せるクアッド・ファランクス。激烈な反動と総重量で浮くことすらできない鉄の化け物――毎分6000発の発射速度で25mm砲弾を吐き出す“質量による数の暴力”を体現した兵器であった。

 

「畜生ォ!」

「貴方達のせいでぇ!」

 

二人の大人が吠えたあと、砲が猛然と叫び出した。空気はかの機関砲の音で振動し、その激烈な反動で艦は軋んで甲板から火花が上がる。一基につき7本もある銃身が瞬きする間に赤くなっていき白い煙をもうもうと上げた。だけど、その火力はネメシスの化身となったのか、二人の、いや皆の怒りを代弁し空に無数の火球を作った。

 

『畜生! なによ! こんな! 何で、こんなことで死ななきゃならないのよ!』

 

理不尽には叫びを、敵には鉛を。タングステンの重い弾丸をばら撒き、時々混ざる曳光弾の黄色い光で一本のレーザーのように見える。イヴァナ先生と山田先生の二機のラファールはPICによる重力制御とアンカーと脚部の踏ん張りによって機体を固定させ、この質量の暴力を迫りくる“敵意“にぶつけていた。

 

『返してください! 私達の……学園を! 先生を! 生徒さん達を!』

 

 

雲が爆炎で吹き飛ばされ、おぞましい爆発音を砲声がかき消す。レシーバー越しにイヴァナ先生の涙交じりの怒声が聞こえる中、毎分6000発×8の弾幕は一発のミサイルの撃ち漏らしもなく全てを迎撃せしめた。その威力と迫力はまさに絶大。これ程の火力を単機で、一人の人間が実現できるのはISとイーグルと敵のモドキだけだろう。大人の度肝さえ抜く光景を作り出すことが出来る兵器、力の権化、だからこそ私達は叫んだ。

 

そんなものを持っても、そんなものですらも守ることのできなかった一人の命の為に……

 

 

 

 

「……アア!」

 

目を開けて、勢いよく跳ね起きた。肩で息をして、酸素を肺へと送るべく口を忙しく動かす。長い時間を水中に閉じ込められていたような息苦しさによるものだ。確かに感じた“死”と“絶望”は私に悪夢をもたらし、それは起きても変わらなかった。汗をかき、カラカラに乾いた喉が不快でたまらず、小さな机の置いてあったミネラルウオーターのペットボトルを喉に流し込んで、残った半分を頭の上からかけた。

 

直ぐに着替えたかったけど、ISスーツ以外の替えの服が無く、またこの場所にそんな余裕はないのは分かっていた。周りを見れば真っ白なシーツにカーテン。簡素なベッドの上では皆が居て各々自らを抱きかかえるようにベッドに伏せっていた。

 

枕は濡れていて、さゆかとナギなどは小刻みに震えている。彼女たちはもしかしたら夢の中で私と同じものを見ているかもしれない。でも私は彼女らを起こそうとはしなかった。眠れることにこしたことはないし、起きてもきっと変わらないからだ。

 

――先生たちは?

 

キョロキョロと目を動かして山田先生やマイクさんを探したがいないことに疑問を感じて、適当に見つけたシャツを羽織って医務室から出た。当然だけど大場先生を探そうとは思突かばなかった……もう体は彼女がいないと知っていたから。

 

部屋を出ると鼻孔に潮の香が漂って来て、息をするだけでしょっぱい気がした。耳にはカモメの鳴き声とさざ波の音が聞こえて、少し前までの戦いの音はもう聞こえなくなっていた事に気付く。弾丸が装甲とシールドを叩いてドラムのような音を出して心臓は大きく脈打ち、レーザーの光が首筋を通り過ぎるときはヒュンと空を切って通り過ぎて行った。その一コンマの僅かな瞬間だけ死神から逃れることを知ることが出来ただけで安堵で来た。爆発で空気は振動する中、悲鳴と怒号、亡国機業の奴らの笑い声が飛び交って、ただひたすらに引き金を引き続け、この世界とやらの素材は火薬と鉄に血肉ではないかと錯覚を覚えた。

 

そんな場所から脱出してみればここは天国だ。銃声がしないだけでこんなに心が落ち着くなんて思わなかった。ベッドや温かな毛布、レーションではあったけど温かな食事がある静かな平和がどれほど貴重なのかを思い知った。でも一方でその平和に疑問を感じることもある。

 

『IS学園では子供に軍事訓練を授業と称し……』

 

世の移り変わりは早い。あの脱出劇から三日経って気付いたことは“世界のズルさ“だった。休憩室か何かと思われる部屋を覗き込めばTVに映る評論家がしたり顔でIS学園の非人道性だとか、可哀想な私達への同情の言葉を語っている。

 

私の記憶が正しければ昨年までIS学園の素晴らしさを謳っていたはずの人がだ。昨年までの記憶はもう世間にはないらしく、街頭インタビューなんかでおばさん方が口々に私達について言及する。

 

『可哀想に』『ISはいけない物だ』『だました国家が悪い』とか言っている。私は冷めた目でソレらを見た。昨年まであんなに一生懸命にIS学園はいい所とか言っていたくせに。

本屋にはIS学園の赤本が並んでいて、毎月出る雑誌には「今月のIS乗り特集」が必ず載っていたし、誰もがあの白い制服に憧れていたはずだ。なのに誰も覚えていない。

 

『――このようにIS学園の教師は生徒に銃を持たせていたわけです。おぞましいですよね。いや、私は前々からおかしいと――』

 

誰がそんな事を言ったのか。

 

『それにですね、IS学園から脱出して来たと言う話ですが、もう少し待って交渉をすれば犠牲は少なくできたはずで――』

 

偉そうなことを言うな。勝手な事ばかり言うな。あの金髪の女に一体何を交渉するのか。何も知らないくせに、どうして馬鹿みたいな話で私達の必死の行動を非難できるの?

きっとあの人の頭の中では自分がテロリストと交渉をして上手く話をまとめる、そんな馬鹿な妄想を基に話しているに違いない。ちょうどアクション映画なんかで自分が主人公だと空想するみたいに。許せない暴挙に拳を固くした。

 

『――あの学園には元自衛隊員が居たそうですね?あの脱出を指揮したのもその方だと言う話ですが。その必然性があったのか、私はそこに疑問を感じるわけです。対応を焦ったのかどうかわかりませんが、急ぐ必要が――』

 

私は耳を塞いでそこから逃げるように去った。はらわたが煮えくり返る思いとはこの事なのだろうか。怒りと悲しみが混ざって自分が灼熱の中に居るような錯覚を覚えた。誰も理解しない、私達の戦いを、先生の死を、いや“私達を”。自分勝手に解釈するだけの身勝手な平和好きにいい様に言われて何もできない!

 

呑気そうに安全な場所で口を動かすだけのくせして。何も知らないくせに。喉奥に罵倒を押し込んで、その場から逃げて逃げて、とにかく走った。そして、あの音声から逃げることが出来たと思った時私は疲れから壁に拠りかかかった。

 

どこに来たのかと見てみれば、相変わらず私の近くに“銃”があった。疲労から廊下をフラフラと歩いていると、大きな外国人の兵士や緑の迷彩服に身を包んだ自衛隊の人たちが“銃”を持って徘徊していた。敵がいないはずの場所でボデイアーマーを着込み、ヘルメットまで被っている。まるで此処でも安息は得られない、と無言の内に語っているようで、それは静かな戦争だった。そして先生が望んだ安全な場所のはずのこの横須賀海軍基地を私は一人さまよっていた。

 

靴すら履くのを忘れて裸足でペタペタと歩いていく。すれ違う人たちが私を最初は怪訝そうな顔で見たけど、すぐに哀れんだ目をしていった。余程私が可哀想に見えるのだろうか。

「おい、君。あの部屋から出てはいけない、と言ったろう」

 

通りがかった誰かが私にそんな言葉を述べた。振り返って見てみるとその人は自衛官だった。私はうつろな目で何となく彼を見るとその手には見覚えのある銃器があった。89式小銃――あの人が持っていて私も使ったことのある日本のアサルトライフルだった。

 

「……その銃、89式って言うんでしたっけ?」

「それがどうかしたかい?」

「私……練習でよく使っていたんです。変わった銃ですよね。ア タ レ なんて書いてあって……あの人も同じものを使ってました」

 

それだけ言うと自衛官は開きかけた口を閉じ、視線を私からズラした。その時、ヘルメットがずれて彼の目元がちょうど隠れた。彼は一体何を思っているのだろうか? 先生を失った私への同情か、それとも元同僚のあの人への鎮魂か。もし、どちらかなら校舎であって欲しいと思う。そのほうがあの人も喜ぶだろうから。そう思っていると廊下の片隅で自衛官は身をかがめて私の目線の高さに合わせた。

 

「いいかい? 鷹月さん……彼女は、大場つかさ元二尉は……」

「自衛官でした……最期まで私達の呼びかけに応答しないで戦っていました。あの人は私達の未来を切り開こうと、いえ切り開いてくれました」

 

自衛官は言葉に詰まったようだった。もうこの世にはいない人について語りだす私を哀れんでの事なのだろうか。そんなにも私は可哀想な子に見えるのか。だけど、もう涙なんて出ない。泣いて、泣いて叫んだけど、あの人は戻ってこないことを知ってしまった今となっては。

 

「私達はいつも助けられてばかりで、結局最期まで頼りっぱなしでした……もし、あの時私が大場先生を誘わなければ生きていたかもしれない」

「……そんな事はないよ」

「そう言ってくれるだけ嬉しいです。やっぱり優しいんですね……自衛隊の人って」

 

自衛官は何も言わなかった。ただ小銃のピストルグリップを強く握りしめているようだった。その目は先生によく似ていて彼が悔しがっていることが分かった。 だとしたら何に対してだろうか?私に何を言っていいか分からないかか、それとも戦いに、大場先生の元へと行かれなかった事だろうか。

 

どちらにしても、大場先生の居た場所の人たちがどんなものかを垣間見れた気がしてほんの少し嬉しく思えた。それが虚しいことでもあることは分かっていた。所詮は大場先生を感じたいだけ、自分を誤魔化して慰めているだけに過ぎないことくらい。

 

「鷹月さん」

 

そこへ私の恩師である山田先生の声がして振り返った。どこからか調達した地味なメガネをかけ、ISスーツの上に作業着を着ていた。その隣にはイヴァナ先生とマイクさんもいて同じような作業着をだらしなく来ていた。

 

「では、私はこれで……」

 

後の対応を任せた方が得策と思ったのか、自衛官さんは足早に私の元から去っていった。私はその背中に手を伸ばしかけたけど、すぐに頭を振って立ち止まった。私が追いたい背中ではないからだ。私がいつも見ていた背中はもっと小さくてそれでいて力強かった女の背中だったからだ。

 

「追っても意味ないわ。大場つかさじゃないのよ」

「……分かってます」

 

リアリストになれるイヴァナ先生が今は羨ましい。未だに過去と今の境界線をさまよっている私はそんな風にはなれない。伸ばした右手を胸に引き寄せてさする。そうすることでしか私は先の寂しさを紛らわせなかった。そうしていると山田先生が肩に手をやってくれた。

 

「だけど会いたいです。せめて一言でいいから先生ともう一度お話を……」

「それは私も同じですよ鷹月さん」

 

泣かないように堪えた。大場先生のいない今が嫌いだけど、同時にいつまでも泣いて慰めばかり求める自分も嫌いだ。強くありたかった。復讐の為や仇の為とかではなく、泣かないで皆を支えるようになりたい。言ってみれば、この悲しみの元凶は私だ。専用機持ちへの対抗心から学園レジスタンスなんて作って、皆を巻き込んでしまった。その私がいつまでも泣いていい訳がない。奥歯を噛みしめて、拳に一杯の力を込めて心のうちに感情を押し込めようと努力した時、不意に温かさに包まれた。

 

「泣いたっていいんですよ」

 

グリースと火薬の匂いに混じった石鹸の香りがして、私は初めて山田先生が私を抱きしめている事に気付いて山田先生の顔を見上げた。童顔の可愛らしい顔だけど芯の強さがうかがえた。

 

「そんな事で頑張らないでください。私は未熟で強くないからこんな事しか言えませんけど、貴女が我慢することなんてないんです」

「私は……」

「皆を巻き込んだからって思っていますか? 大場先生を巻き込んだって思うからですか?」

 

驚きを隠せなかった。魔法でも使えるようになったのか、いつの間にか山田先生は私の内側を知っていた。そして体の芯に流れ込んでくる温かな言葉もまたそうだ。奥底に仕舞いこんだはずの物を外へと出させようとしている。頑丈に閉じたはずの扉が次々に開いていくように。

 

「でも、どうかそう思わないでください。私達もそうであるように、あの人も嬉しかったはずなんです。必要とされたことが、守れたことが。大場先生は鷹月さん達が来るまで先生ではなかったんです。いつまでも自衛隊のままで……それも自分の組織に報われなくて、まるで捨て犬のようでした。そんな人に貴女達は希望を与えたんです。大場先生はあなた達が大好きで希望を失いたくなかったから、最期まで残ったんです」

「でも!」

「貴方達が見せた花……覚えていますか?」

 

花、と聞いて私は思い出した。大場先生が部屋から出なくなった時私達レジスタンスが見せた曲芸の事だ。訓練機のラファールと打鉄を用いてスラスターから出される光の尾と粒子の光を計算して、短い時間で作ったものだ。自衛隊なら航空ショー、8年前までブルーインパルスと呼ばれた隊があったと聞いて山田先生が提案した。

 

あの機動パターンと机上演習、日ごろの練習に豊富な経験から来るアドバイスと先生と生徒と言う関係が最も上手く反映した結果から来る芸術品だった。夜空の真っ黒なキャンパスに描いた自分自身でもそう思うほどに。

 

「あの一輪の花を作ったあなた達だから先生は守りたかったんです。だから泣いてあげてください。そして前を見て。あんなテロリストに負けずに未来を描き続けてください」

 

未来を描くことで反抗する――言っていることは織斑君のように青臭い理想論その物なのだろう。力には力でしか抗えないのは事実で私はともかく先生たちならもっとよく知っているはずなのに、山田先生はそう言った。でもそれは直接的な意味ではなく精神的な意味で彼女は言っているのだ。

 

大場先生の意志――先生が残そうとした私達の未来を紡ぐこと。IS学園でISの特訓をしてきたのは自分の身を守るためではない、私達の将来を作るためであったように。敵に屈してはいけない、考えてみればいつだってそうだった。私達は弱いから、こういう形で抗って来たのではないか。

 

私達には高性能な機体も武器もあったわけでもないし、腕だって大したことない。精々が機体の相性の差で代表候補生を相打ちにできるかどうかだ。だからせめて心だけでも強くなりたかった。そうでなくてはならない理由があった。戦うたびに非難される人達を見て、それを支える為に、見捨ててはならないために、何より先生たちが教えてくれたからだ。

 

顔に水滴が落ちた。私のではなく山田先生の目からこぼれた物だった。でも涙は弱さの証ではなく、頬を濡らしながらも顔はいつもの優しい先生のままで逆に強さを見せる物だった。

 

弱くあってはだめだ、でも涙は弱さではないと知った時、私はもう抑えることが出来なかった。何度も泣いた後なのに涙は枯れることが無かった。山田先生の胸の中で私は感情を解放した。声を押し殺しながらも

 

「今はそれでいいんです。未来に目を向けてくださいね。そしたら……私達も行けますから」

 

 

 




もう一話だけ続き、インダストリー側に戻ります。
この後戦争シーンだと言うのに前話ばかりが多くなって不思議ですね。
詰め込み過ぎかもしれませんが楽しんでいただければ幸いです。
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