IS to family   作:ハナのTV

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後篇です。VS一夏


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快晴の空、雲一つない青い空の下で、決闘が行われようとしている。古代ローマの闘技場のように、決闘者がアリーナに立ち、多くの観客がどちらの勝利か賭け、これからの戦いを待ち望んでいる。最も、決闘者は鎧ではなく装甲とシールドで覆われ、観客の9割以上は女性と言う点では過去と明らかに違う。

 

一人は、真っ白の機体で胴体の一部と頭部が露出した機体で白式と言う機体だ。

 

ただ一本の剣と他の追随を許さない程の高機動性を武器にした、あまりにも偏った機体だ。

 

搭乗者である一夏の表情は真剣そのもの。その顔には一片の迷いもない。

対するは僕のグレイイーグル。

 

手にはドラムマガジンのショットガンが握られて、不気味に光る紅い眼光で対戦相手を見つめる。装甲に覆われた僕はいつも通りの笑みを張り付けた顔でカメラごしに一夏を見ていた。

 

「準備はいいかよ、ヴィンセント。俺はお前を倒す。俺はお前の力のあり方を認めない」

 

刀の切っ先をこちらに向けての宣戦布告。その刀身から鈍い光が射していた。鍛えられた真っ直ぐの刀、だが持ち主一夏となると途端に陳腐化してナマクラのように見えているように思えた。

 

「そうかい、力のあり方ねえ」

 

くつくつと笑いが湧き上がる。可笑しさと馬鹿馬鹿しさに僕は耐え切れず、声を漏らす。

 

「何がおかしいんだよ?」

「いやあ、さすがはIS乗りでいらっしゃる。乗れるってだけで、よくもそんなに御大層なセリフが吐けるなあ、と思ってね」

「お前!」

 

試合開始のブザーが鳴る、一夏は加速し、一撃で倒そうと切りかかる。

 

「うおオオおおおお!」

 

気合十分の咆哮と共に袈裟斬りを放つ。見え見えの太刀筋に遅れることなく姿勢制御のスラスターのみ吹かして回避し、足を浮かして引っかけた。

 

「うわッ」

 

前のめりになった白式の無防備な背面を回し蹴りで吹き飛ばす。

アリーナの壁に衝突し、痛みに呻いているところをショットガンで追い打ちをする。

 

一粒一粒が大きめのスーパーボールサイズの散弾を13個詰めたバックショットを撃ちつづける。周囲のがれきや地面に散弾が命中し土煙が舞い、視界が悪くなるが、構わずにトリガーを引き続ける。

 

七発目になるとき、煙から白式が飛び出し、空高くへと舞い上がった。

奴の考えとしては二次元の戦闘の地上よりも、機動力で勝る白式なら空中の三次元の戦いに勝機を見出したようだ。

 

本来なら誘いに乗ることは無いのだが、僕はその誘いを受ける事にした。彼が僕のことを気に入らないように、僕も彼が気に入らないからだ。出力のスロットを上げて白式を追撃する。

 

飛び回る白式を撃ち落とすため、散弾で予測進路上にばら撒きを行う。次々とマガジン内のシェルが薬室に送り込まれては発射され、空になった薬きょうが排出される。

 

旋回、ターン、とデタラメに回避をする一夏はずっとこちらを見据えている。突っ込むタイミングを見計らっているようだ。本来、白式の機動性ならグレイイーグルに遅れは取ることはない。

 

この状況でも、搭乗者の腕を駆使すれば、一撃離脱戦法をとって攪乱しつつ、ダメージを与えるなどもできないことはない。だが、一夏と比べて僕は自分の機体を知り尽くしている。故に彼に反撃の隙を与えずに攻撃することができているのだ。

 

撃ちつづけてるとショットガンの残弾がゼロとなり、マガジンを落とすと、見計らったように突撃を開始しだした。脇構のように刀を持ち、トップスピードでこちらに向かってくる。

 

「猪かよ」

 

銃の持ち方を変えて銃身を掴み、向かってくる猪武者をショットガンの銃床で殴りつけて、動きを止める、殴打を立て続けに行うが、一夏も負けてばかりではなかった。柄の部分で押し返し、返す刀で得物を分断した。

 

「もらったアア!」

 

上段からの振り下ろし、三世代機のみが持つワンオフアビリティを発動し決着をつけようとする。僕は急接近して腕を伸ばし、首根っこを掴み押し倒す。

 

「なっ何を!!」

 

人間でいう所の鎖骨の部分の装甲から7.62mm弾のバルカンを浴びせる。

本来ならシールドで阻まれるだけでしかないが、cm単位でしか離れてない距離から放たれることで、少ないがダメージが通る。さらにダメージだけでなく目の前に移るマズルフラッシュと轟音に怯まない人間はいない。

 

「離せ!」

 

白式はもがくが、得物は長刀のみ、この距離ではむしろ邪魔にしかならない。

 

そのまま、地面に組み伏せてやると、一夏は肺から空気を強制的に排出することとなり、苦痛に顔を歪ませた。

これ以上抱き付くのも嫌だったので、バックステップによる跳躍と前面の

スラスターを生かして後退しつつ鈴を倒した機関砲を右手にコールする。

 

「ガンパレードだ! 踊れ!回れ!回れ!」

 

フルオートによる制圧射撃。巨大な弾丸がその質量と数の暴力を伴って一夏に集中する。苦悶の声を出し、僕を罵りながら必死に回避するが、その程度で避けきれるものなら僕は鈴に敗北していたであろう。

 

無様に弾雨におぼれる様は見ていて心地のいいものだ。そのまま溺れるがいい、織班一夏。

 

しかし、被弾に構わず、またしても突進してくる。何度と繰り返した行動を取る単純さにあきれるが、予想と違って一夏の咆哮と共に最高速に達した白式はそのまま通りすぎ、空中で反転。

 

「今だ!」

 

爆発的な加速とともに一瞬で距離を詰めてきた。瞬時加速と呼ばれる加速法。かつて織班千冬はこの技を持って世界を制した。

 

スラスターから本体に向けてエネルギー放出させて、空間にエネルギーの流れを溜めてからそれを一気に点火させて、 急加速をおこなう高難易度の業だ。

 

刀が装甲に触れようとした時、右足を前に蹴りだす形にして刀の柄の部分を抑える。

 

関節が軋み、駆動部に過負荷と警告が表示される。だが、止めてしまえばコチラのモノだ。

 

「吹き飛べ!」

 

空いた左手に呼び出すのは先ほどと同じショットガンだ。ただし、弾種が違う。

 

今、ドラムマガジンの中に入っているのは散弾ではなくグレネード弾だ。

目と鼻の先にいる一夏に銃口を向け、トリガーを引いて、巨大な榴弾を直接命中させる。

 

この距離ではお互いにダメージが通るが、全身装甲のグレイイーグルなら、そんなものは些細なことに過ぎない。轟音と共に一夏の唯一の武装である雪片二式は持ち主の手を離れてアリーナの壁際まで飛んでいった。当の持ち主はダメージによって噎せ、その場にへたり込んだ。

 

機関砲を手放し僕は崩れ落ちた純白の騎士様の首を掴み、ショットガンを胴体に押し当てる。

 

「言ったろ、君は僕にお願いする立場なんだと。聞かないから、こういう目に合うんだ。全く、君はどうして、最後に僕が勝つと決まっているのに、勝てる気でいるんだ? まさか、瞬時加速だけで勝てる気だったのか?」

 

一夏は俺を睨み、視線で射殺さんとするようなほどの憎悪を向ける。

だが、悲しいかな。生殺与奪の権利はこちらにあるのだ。これから、倒される奴の殺気なんて何の怖さもない。

 

「君たちIS乗りは……イヤ、能無しどもは皆そうだ。ISが使えるだけで舞い上がって自分は特別、自分は万能だと思い込んで、周りを見下して過ごすんだ。でも本当は自分こそが無能で何もできない」

「何を言って?」

 

一夏の疑問の声が上がる。彼は自覚していないようだ。

 

「そして、無能を棚に上げて、今度はこう言うんだ。こんな社会は間違っている。私達こそが正しいはずだ、と。自分のかつての栄光を武器にして権力を振りかざし、無理難題を喚き続けるんだ」

 

最早、僕は一夏を見ていなかった。彼のようなものを含めた全てのIS乗りを僕は一夏を通して見ていた。幻覚や蜃気楼のようにおぼろげに僕には見えていた。

 

高いIS適正保持者に対する過剰とも言っていい補助制度、言い方を変えて特権を与えられた連中が出てきて、おかしくなった。これまでの学歴や地位、スポーツにおける努力、優れた芸術性などの評価されて当然の物を彼女達は尽く否定して回っていった。

 

そんなもの、私の適正に比べれば!、私ならもっとできる! こんなセリフを恥ずかしげもなく言い放つのだ。そして与えられた特権を武器に自身の権力を肥大化させて、醜い化け物のようになる。そして媚を売る男たちも増えて、この勢いが加速した。

 

才能とは社会に貢献して初めて評価されるが、彼らのやっていることは無用な混乱を起こすだけだ。害にしかなっていない。

 

目の前にいる理想主義者もまた、そうだ。現実を見ないで周りを振り回し、まわりを腐食するのだ。現にこの男は自分の理想とやらの為に一人の少女の心を踏みにじった。

 

彼らは夢の中の住人だ。だから黙って夢の中だけに閉じこもってくれ。

 

「お前たちの惰弱な発想が僕たちを貶めたんだ。その罪は償ってもらわないとな!」

 

腕のパワーアシストを最大にして白式を投げつける。アリーナの壁にクレーターをつくりショットガンの照準を合わせる。

 

「騎士様がいつも悪魔に勝つとおもったら大間違いだ」

 

指に力を加えた瞬間。グレイイーグルのセンサーが警告を発した。

 

――――― 一夏は目の前にいる? いったい誰が――

 

上空からの巨大なエネルギー反応が来襲しているという事だった。ソレを知覚する前にグレイイーグルの左半身は巨大な閃光の渦に飲み込まれた。

 

 

 

 

アリーナ中央に降りた二機のIS。そいつはグレイイーグルをアリーナのシールドを破壊すると同時にグレイイーグルの半身を焼いた。観客席に防護用のシャッターが下ろされ、すぐさま、非常事態となり、けたましいアラーム音と共に避難するよう指示が出される。

 

アタシの周りはパニック陥り、誰もが出口に殺到する。ISによる襲撃。誰もが予想しえない事例。日常で話せば、誰もが笑うだろう冗談のような事態が起こって皆恐怖していた。

 

「扉が開かない!」

 

誰かが叫んだ一言でさらに恐慌状態へとなった。その時、どうすればいいか、わからないアタシの肩を叩く者がいた。

 

「君! 代表候補生だな? 手伝ってくれ」

 

顔を向けるとショートカットのスーツ姿の女性がいた。凛々しい顔が印象的だった。

 

「先生ですか? どうしてこんな所に?!」

「事情は後だ。今は協力してくれ!」

 

そう言われて私はすぐに頷く。すると先生の後ろから、いつか見た不愛想な坊主頭の男がいた。彼が目をつむり瞑想するような顔をすると彼の身体は光に包まれ、小さな黒一色の機体が現れた。

 

「皆、聞け! 扉はこのISに開けさせる!扉から離れ、規律を持って非難しろ。君たちの後ろには代表候補生が着く。慌てずとも大丈夫だ」

 

先生が周りに響き渡るよう、男のISのスピーカーを利用し、伝える。私はその内容を聞いて修理したばかりの甲龍を呼び出して先生の言葉の証拠となる。

 

黒いISが扉の前に立つと、生徒たちは距離を取る。それを黒い機体が確認してナイフを取り出す。ナイフの刃は青白く光っており、その刃が扉に食い込むと、バターでも切るかのように扉を切断した。生徒たちは感嘆の声を漏らし、列を作って避難を開始する。

 

「他の扉も順次に開ける! 最寄りの避難口の近くで待機しろ!」

 

観客席全体に聞こえるよう、スピーカーを大音量にして指示を出す。

すると、近くのシャッターが赤く光った。

 

「危ない!」

 

アタシは甲龍を盾にするように彼らの前に立つ。シャッターは溶け落ち、シールドが閃光によってダメージを受けるが,間一髪のところで耐えた。

 

「声に反応したのか?」

 

男が一人つぶやく。あの機体はシャッター越しの声を拾って攻撃したと言うのだろうか。

 

攻撃されたところから、一夏達が見れた。片方はまだ経験浅いルーキー、片方は満身創痍に見えるベテラン。彼らを見てアタシは心臓の鼓動を強く感じた。強い衝動がアタシの中で生まれた。

 

状況を確認するために周りを見やる。攻撃されたところはシールドの回復中で、まだ十分な強度を回復しきれていない。後ろを見やると、ここの非難は完了し、誰もいない。先生と黒いのは、別の避難口へと向かっている。

 

「何をしている?早くこちらに来い」

 

黒いISの操縦者私に来るように言う。

 

アタシはそれを無視して愛機と共にアリーナへと飛んだ。

 

「馬鹿、戻れ!」

 

通信機の向こうで先生が叫ぶ。先ほどと比べて声の音量は小さいがその迫力は同じだ。

 

それでも、アタシは飛んだ。目の前の彼らを助けたい、その一心で。

 

 

 

 

 

 

 

「何だアレは!?」

 

織斑先生が叫ぶ。ピット内のスクリーンに映ったのはグレイイーグル程はある大型の異形のISだった。頭は胴体に埋まりテナガザルの様に長い腕を持った機体が二機、アリーナのシールドを突き破って侵入してきたのだ。

「未確認のISです!国籍ならびに所属等は不明!」

「同時に二機も来るとはな。生徒に避難命令! 教員で突入部隊を編成し、アリーナに突入させろ!」

 

山田先生の解析結果が言われ、織班先生が指示を出す。ISによる強襲。まさに異例の事態だ。相手は高出力のビーム兵器を持った機体で、しかも二機もいる。

これ程の戦力が今、アリーナに降り立っているのだ。

 

「山田先生! ヴィンセントは?!」

 

俺は思考をいったん止めてヴィンセントの安否を確認するよう、先生に申し入れる。

ハッと気づいて山田先生はヴィンセントを呼びかける

 

「落ち着け、五弾田!」

 

千冬先生が抑えるよう言う。

 

「落ち着けって、あんなモノを直撃しているんですよ!?」

 

アリーナのシールドをただのビームで突き破ったのだ、それほどまでの威力を持つ兵器を喰らったヴィンセントの無事か否かが今の俺の頭を支配していた。

 

「我々が焦るほど、救援が遅れる。今は救援を送り出すことに」

 

織斑先生の声を警告音が遮った。

 

「アリーナの防御レベルが上昇!レベル4まで上がっています。これでは外部からの突入は不可能です!」

 

その言葉に俺は雷に打たれたかのような衝撃が走る。救援が来れない、ではあの化け物をどうしようと言うのだ。ヴィンセントは?

 

冷や汗が流れ、震えだす。頭に不意に髑髏のイメージが浮かび上がる。

それの意味するところは死だ。目の前で友人が死にかけているかもしれないのに、何の手助けもしてやれない、あまりの歯がゆさに拳を握りしめる以外なかった。

 

隣ではセシリアが援軍に向かわせてくれと頼むが、織班先生がそれを拒否する。そんなパニックになりかけの俺たちに一夏の声が届いた。

 

「大丈夫です、山田先生! 俺があいつ等を何とかします!」

「織斑君、無理はしないで、今は逃げてください!一人じゃ無理です!」

「でも俺以外に誰がいるっていうんです? 俺が皆を守ります!」

 

一夏がそう宣言し、敵機に向かって突進する。しかし、山田先生の言う通りだ。一人では荷が重すぎる。先ほどまでの試合で少なからず消耗をしている一夏だけでは危険すぎる。

 

すると第三者の声が聞こえた。

 

「一人でカッコつけるんじゃないわよ!」

 

聞き覚えのある快活な声と共に侵入者は風で吹き飛ばされたかのように衝撃を受けダメージを負う。そこには中国の第三世代機 甲龍がいた。

 

「これで対等ね」

 

鈴の登場に俺は驚かされた。彼女がどのようにしてアリーナに入れたのか、等疑問もあるが、この際関係ない。心強い援軍に感謝していた。

 

「いや、これでこっちが有利になった」

 

鈴の声に続き、もう一人の男の声が響いた。

スクリーンに映ったのは、半身を黒く染めながらも強固な意志を持って立ち上がった灰色の鷲だった。左半身の装甲は融解し、所々銀色のインナーフレームが顔をのぞかせている。

 

「ヴィンセント!」

安堵の声を俺は上げてスクリーンを見上げる。

 

「さあ、第二ラウンドだ。近づく奴は皆灰にしてやる」

 

目を赤く染めた鷲は復讐の誓いを宣言し、高らかに空を舞った。

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ! そんな状態で!」

 

鈴が叫び、撤退をするよう勧める。相変わらず、うるさい女だと思う。

 

「そうだ、逃げろヴィンセント!」

「うるさい。」

 

まだ動く右手に機関砲を呼び出し、敵機に向かって発砲する。

 

「半人前が1人に候補生が一人、僕一人。 そっちは一機やれ。僕はもう一機を相手にする。これで均等に相手できるって訳だ」

 

無人機は駒の様にクルクル回り回避し、反撃する。先のビームと違い、出力を落として連射させている。左へ左へとグレイイーグルを駆り、トリガーから指を離さず撃ちつづける。曳光弾とビームが互いに通り過ぎながら、相手を撃ち滅ぼさんと飛来する。

 

「何言ってんだ! そっちは半身焼けているんだぞ! 俺がお前の背中を守るから、早く逃げ――」

「目の前の戦闘に集中しろ。君にそんな余裕はないはずだ」

 

一夏の声が苦悶に変わる。目の前に集中していなかったために被弾したようだ。

 

チラリと横目で彼ら二人が共闘しているのを見て、こちらも意識を目の前の敵機に集中させる。敵機は馬鹿の一つ覚えでビームを乱射する。

相対した敵機はカメラをしきりに動かして、時々鈴たちの方を見ているようだ。

 

なめている。あの敵はこちらの危険度を軽視している、直感する。

 

「ふざけるなよ、IS」

 

残った機関砲を向け放つ。競技用の為、連射力がデチューンされているため、思ったほど火力が無いことに舌打ちする。対する向うは大出力のビームを何度と放つ。火力で勝てないことを理解した僕は戦略を変える事にした。右肩を開き、マイクロミサイルを放つ。

 

敵機は六発全てを迎撃し、爆炎が広がる。だが、もとより当たることなど期待していない。爆炎が広がるのを見計らってスラスターを一気に吹かし、後ろへ回り込む。敵は半白遅れて腕を振るって払おうとするのを機体をかがめて避ける。

 

焦げた左腕を無理やり動かし、密着させて右手から特殊な縄ともいえるワイヤーアンカーを射出させて左腕と敵機を巻き付けて固定し、加速をして亜音速のランデブーを演じる。

 

振りほどこうと敵はもがくが、右こぶしで顔の部分を殴り黙らせる

一撃、二撃、三撃と連打する。たとえマニュピレーターがいかれようと知ったことではない。とにかく殴打する。

 

「ボクシングは初めてか? だったらこいつもオマケしてやる!」

 

膝蹴りを放ち、頭を突き出させてやる。右手にコールしたリボルバーと仕込みバルカンで攻撃する。だが、敵もここに来て、腕に比べて短い脚などで反撃し、長い腕に着いたビーム砲を焼け爛れた左足に当て、撃ち込みだした。

 

かろうじて装甲とインナーフレームは健在とは言え熱された金属が足にその熱を伝える。

「ッ! コイツ!」

リボルバーで頭部に三発をさらに打ち込むと敵の正体が明らかになる。

機械と端子、カメラの複合体がむき出しになり、グロテスクな中身が露わになった。

 

無人機だ、と結論付ける。

 

通信機に耳を傾けると、一夏たちも気づいたようだ。無人機ということに安堵さえしている。だが、それがどうした、というのだ。敵なら排除する。たとえ、この敵の中に幼い子供がいたとしても、迷う理由などない。

思考していると無人機はスラスターを吹かして体勢を崩しにかかった。押

し返そうと出力を上げたが、あまり効果を見出せなかった。

 

―――――やはり左側が動かないか!

 

焼け焦げた左半身の傷は深く、左の推進器が使えず、本来なら勝てるはずの出力合戦で力負けしていた。体勢を崩し、のけ反ってしまう。

数度地面に激突され、互いにバウンドする。悪いことにリボルバーを落としてしまった。

 

衝撃に脳を揺さぶられ、視界が揺らぐ。骨がきしんで悲鳴を上げる。だが、ワイヤーアンカーを手放すことなくがっちり固定させる。

 

距離が離れれば、大出力の光学兵器を浴びることになる。いくら、装甲の厚いコイツでもそう何度も耐えられない。

 

もう一度地面に衝突する瞬間に足を地面につけ、機体を停止させる。

厚い金属に覆われたブーツが火花をまき散らし、摩擦するが、効果があり、

 

両機は拮抗状態になりその場で押し相撲となる。

 

――――伸るか反るかだ。

 

決心をして、AIを呼び出す。

 

「AI、二十秒後に全ての火器を左腕にコール!」

 

指示を出すが、積載オーバーとの警告が出る。

 

「早くしろ、実行だ! それと右手に手榴弾をコール!」

 

敵機から右手を離して手に手榴弾を握る。右手が離れたので押し負け始める。関節とフレームが軋み、限界にさえ達しようとしている。それでもと出力スロットを最大にまで上げて拮抗状態を保つ。

 

またしても足をビームで焼かれ、体勢を崩されかかるが構わず右手で懐を殴りつけ、さらに指示を出す。

 

「左腕、パージ!」

 

勢いよく左腕の外郭が外れ、貧相なインナーフレームのみとなる。

ワイヤーを巻き付けたまま、トカゲのしっぽのように左腕を相手に残してバックステップで僕は離れる。敵機も後方に下がり、距離が開いたことで

敵機は掌の砲に粒子を集めだす、最大出力で消し飛ばす気なのだろう。

 

―――――もう遅い!

 

それを見て勝利を確信する。

右手の人差指であるモノをクルクル回しながら、その時を待った。

 

「ピン・マジックだ。 受け取れ!」

 

回していたのは安全ピン。次の瞬間敵機に絡みついたままの左腕に大量の火器が出現する。

グレネードランチャー、機関砲、突撃銃、それらの予備弾倉、榴弾。そして手榴弾が起爆し、全てに誘爆する。運がないことにチャージ中のエネルギーにまで飛び火して大スペクタクルとなる。

 

青い粒子と爆炎と黒煙の三色が混ざった光景はさながらカオスを体現した地獄の様だった。

 

 

 

 

 

「アイツ……本当に一人でやったていうの?」

 

アタシには信じられなかった。半身焼かれ、あんなにも地面に叩きつけられていたのに、

 

彼は勝った。使えるもの全て使って倒したのだ。

こっちは二人がかりで今、ようやく片腕をもぎ取ったところだ。それ以外にもダメージを与えているが、未だ倒せてはいない。

一つの疑問がよぎる。

 

―――――アイツは何者?

 

代表候補生を軽くひねり、一夏の奇襲も難なく対応する。今でも無人機を半身不随のままで撃破している。そして、彼のISも異形だ。装甲の下に銀色に輝くフレームが存在している、あまりに特異すぎる設計。アイツはただの坊ちゃんじゃない。

 

一体、いつから、どれ程の訓練をしてきたのか

 

何のためにそうしたのか?

 

「鈴!」

 

一夏の声が聞こえ、現実に戻る。横に甲龍を動かすと、さっきまでの場所に粒子ビームが通過する。あの無人機もまだ動いている、集中しなくてはならない。

 

もう、一夏は零落白夜を使い、エネルギーが残り少ない。アイツも今は火器のほとんどを消耗しきっている。アタシが頑張らなきゃ――――

その時だった。一つの声が聞こえた。

 

一夏でもない、アイツでもない、女の声。

 

「一夏ぁ!」

 

声の主は放送室にいた。いつか喧嘩した篠ノ之箒だ。

訳が分からなかった。どうして、そこにいるのか、何をしているのか。

 

「男ならそれくらいの相手に何とする!」

 

応援のつもりなのか、マイクを使い大音量のハウリングがアリーナに響いた。無人機がカメラを動かし、視線を箒に向ける。

観察し、何者かと見定めているかのようにじっと見つめている。

本能的に感じ取った、アレはまずい兆候だと。そして予感は的中した。無人機は放送席に向け砲口を向けたのだ。

 

「箒いいィ!」

 

一夏が叫び、間に入ろうとする。アタシも呼応して入ろうとするが、恨めしいことに、代表候補生としての実力が結果をすでに分析し終えていた。

間に合わない。彼女は

 

砲口が光を放つ瞬間、何かによって無人機の腕は弾かれた。

間一髪、砲口はそれて、無人の観客席に閃光が刺さった。想像を絶する威力に目を見張るが、何故逸れたのかが理解できなかった。

邪魔するものなどなかったはずだった。

 

無人機は状況を不利に感じたのか、上昇して逃げる体勢に入った。

 

すると次の瞬間、数発の銃声が轟き、無人機の四肢を一寸の狂いなく破壊

して動きを封じた。何事かと思い、銃声のした観客席の方を見ると見知らぬISがそこにいた。

 

全身装甲だが、ラバースーツの上に装甲を張り付けた胴体で胸部などの部位に厚く装甲を施しているものの、シルエットから恐らく女性だと判明できた。まるで一つの巨大なスラスターのような脚を曲げて、中腰になり長いライフルを構え、スモークガラスのようなバイザーを持つ細い頭部から、紅い一つ目が不気味に動き、無人機を凝視している。

 

あれが何なのかは分からないが、とにかく助かったようだ。

 

下降して地面にへたり込んで無人機を見ると、残った片腕には見覚えのあるマチェットが食い込んでいたのに気付いた。そして哀れな敵は自分に何が起こったか確認しようとカメラを動かすが、それも撃ち抜かれた。砕け散ったレンズが既に息絶えた主人の意志を反映したのか、突然の襲撃者の姿をしっかり捉えていた。

 

 

 

 

真っ白いベットにカーテン。窓が開けられて涼しげな風が新鮮な空気を部屋に補充している。

 

今、この保健室には二人の男がいる。僕と一夏だ。なんでも負傷したから療養しろということだ。確かに、僕は左半身を軽く火傷し、頭に包帯を巻くほど、怪我しているがアイツはそんなに怪我しているのかと疑問に思わないでもない。

 

ベットに寝そべりながら、腕を組む。今日の襲撃者や愛機の状態について考える。何のために襲撃したかも不明だ。おまけにアレは無人機。世界でISの無人化は成功したと聞いたことは無い。そして愛機だ、半分ローストされて焦げている。

 

これはどやされるな、と思うとため息が出る。

 

思考していると保健室の扉が開き、カーテンが開けられる。

出てきたのは鳳音 鈴だった。

 

「人のカーテンを開ける時は声ぐらいかけてくれないか?」

 

一瞬、顔を赤くしてこちらを見やる。

 

「起きてたのね」

「寝づらくてね。おかげさまで、左腕を軽く火傷してね。まあ、そんなに大きい火傷でもないけど」

 

左腕の包帯を見せつけて、証拠とする。

 

「絶対防御があるのに火傷なんかするのね」

「絶対防御は死にそうな一撃とかじゃないと発動しないしね。装甲が無かったら発動してエネルギー切れを起こして全身マル焦げにされてただろうさ」

 

フウとひとつため息を吐く。本当に装甲があってよかったと思う。でなければ言った通りになること必須だったろう。

 

「ま、いいわ。言っておきたいことがあってね」

「何だい、鈴」

 

彼女はツインテールの髪をいじりつつ言葉を口にした。

 

「ありがとね、助けてくれて。 最後のアレはアンタがやってくれたんでしょ?」

「僕は投げただけだ。礼ならライフルケースを持ったメスゴリラに言ってくれ」

「口が悪いのね」

 

彼女は口をすぼめながら言った。

 

「ところで隣に織班君がいるぞ? いいのかい、見舞わなくて? 何だったらキスぐらいしていけばいい。僕は目をつむるから」

 

冗談交じりに言うと、彼女は表情を変えた。一応笑ってはいるが少し、切なそうな悲しい顔だった。ため息を一つ吐いて言葉を口にする。

 

「もういいの。なんだか、冷めちゃって……結局のところ、アタシは理想の中の一夏が好きなだけだったのよ。中学以来、あんまいいことなくて、一夏だけが支えだったわ。でも、ソレは夢みたいな物だったの。私だけに優しい王子様を夢見るのはもうオシマイ。 でも悲しくないわ。一夏は友達だし、弾もいるし、アンタも悪い奴じゃないしね」

 

クスリと僕も笑って、言葉を返す。

 

「百年の恋も冷めたって訳か。僕を友達として見てくれるってのは嬉しいね。ついで代表としても認めてくれるといいんだけど」

 

セリフを言い終える前に鈴は人差し指を僕の唇に当てた。

 

「それは別よ。 いい良く聞きなさい。アンタは友達だけど、その前にアタシが勝ちたい相手なのよ。いつまでも自分こそが二組最強だなんて思わない事ね」

 

うって変わって見せる快活な笑顔。負けず嫌いなじゃじゃ馬娘がそこにいた。

 

「よろしくね、ヴィンセント」

 

右手を腰に当て、彼女は高らかに言った。

 

「よろしく、鈴」

 

病室の白いカーテンに囲まれてる中、僕たちはお互いを再認識しあっていた。

 

 

 

 

 

 

少し眠った後、また来客が来ようだった。歩いてくる音の後、カーテンが開かれた。

 

「気分はどうだ?」

 

入って来たのはマイクと僕の愉快な仲間達だった。

 

「これで三日は仕事しないで済むと思うといい気分だよ」

 

「残念だが、そうはいかないな、ヴィンセント。お前が壊した機体の件がある。修理にはお前が立ち会ってもらわんと困る」

「ブラックだなあ、うちの会社は」

 

休暇は返上のようだ。残念に思う。

 

「ヴィンセント」

 

弾が話しかけてきた。彼の顔を見て思い出す。自身の言ったセリフの数々をプライベートチャンネルだから場外にはばれてないはずだが、ピットの中にいた弾なら聞いたかもしれない。

 

「何だい、弾? 僕の戦闘にホレた?」

 

おどけて言ってみせると、弾は火傷している左腕にデコピンを当ててきた。痛みに悶絶していると、弾は口を開きだした。

 

「こんな時ぐらい、ふざけんな。お前自爆攻撃なんかして何考えてんだ?! タイミングがずれてれば、お前だって吹き飛んだぞ。 マイクの言ったこと忘れたかよ!?」

 

マイクの言ったこと。言われて思い出す。何回も聞いた言葉だと言うのに、すっかり失念していた。

 

「お前にも目的があるってのは聞いてるけどよ、まだ途中だろ? なのに、何だよあれ?こんなとこで死んじまったらどうしようもないだろ!」

 

全くもっての正論だ。計画の途中で倒れる。これほど無念な事は無いし、笑えない話もないだろう。だが、あの時の僕の頭は沸騰寸前の怒りで支配されていた。

 

「僕にもキレるときがあるのさ 弾。そこに寝ている奴を見てたらさ、思い出したんだ」

 

そして、今は自嘲じみた笑顔しかできなかった。

 

「笑っていた。膨大な金と男女関係なく流された汗とつぎ込まれた英知の結晶を壊されていくのをさ。 アイツ等は……笑っていたんだ」

 

過去にさかのぼること、7年前。アメリカ合衆国はある決定を下した。NASA並びに宇宙開発にまつわる全ての予算を打ち切りを発表したのだ。IS開発に遅れを取っていたアメリカは足りない予算を得るために宇宙開発という人類の一大プロジェクトを捨てたのだ。

 

別に僕が宇宙に行きたかった訳じゃない。だが、僕を愛してくれた人と僕が愛してた人々の夢は無残に散った。皆泣いていた。大人たちみんなが。

 

テレビの中のコメンテーターは当然の結果と言い放ち、IS信者の馬鹿な女性たちとその取り巻きもこの結果を祝福していた。

 

「だから、恨む。だから僕は笑うのさ」

 

自分でも今何を言っているのか、あまり理解できていなかった。腹の内にある呪詛。普段は隠しているが、彼を見てそれが噴出したのだ。

 

「連中が笑っていたから僕も笑うのさ。僕の目的はもうそう遠くない日に実現する。その日を知らず、今をわが物顔でのし歩く連中をね」

 

フフっと笑って見せる。それを弾は真っ直ぐ見つめて言い放った。

 

「なら、もっと自分を大事にしろよ。俺もそうする。俺たちはピースだ」

 

懐からパズルのピースを取り出し見せつける。

 

「一人だって欠けちゃいけないんだよ。 俺は未完成のパズルなんて見たくないからな」

 

僕は目を丸くした。正直に言って驚いていた。

弾は訓練を開始し、二か月程度の新人だ。人生の経験も僕たち三人と比べれば浅いものだ。

 

だが、しかし この時は彼が大きなものに見えた。この男は出会って二、三か月の人間に向かって共に歩く同胞だ、と言い切ったのだ。

 

彼は僕が鈴を倒したのを見たはずだ。親友の一夏を嘲笑していたのをみていたはずだ。彼は知らないだろうが、僕は彼を裏から操ったことだってある。だが、彼は友だと言った。鈴もまた、僕を友だと言った。今思うと不思議な連中だ。だが、胸に広がる温かい感情は心地よいものだった。

 

―――これは敵わないな。

 

僕は悟った。ロイは人格的に弾は優れていると言っていた。全くその通りだった。

 

「そうだな、ありがとう弾。おかげで少し楽になった気がするよ」

「ヴィンセント」

「僕もやっぱりまだ、子供だな。」

 

こんな近くに僕よりも立派な奴がいる。そのことに気付けなかったことに僕は自嘲する

 

目の前の友人を見て僕は一人、微笑んだ。いつもの張り付けた仮面とは違って。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、感動の場面で悪いが、せっかく果物の盛り合わせを持ってきたんだ。食べないか?」

 

マイクがタイミングを見計らって言ってきた。

 

「ならリンゴをくれ。皮はウサギちゃんの形できってくれ」

「女々しい奴」

 

アカネが笑ってからかう。

 

「それは、出来てから言ってもらおうかアカネさん。 悔しかったら可愛く切って見せてくれ」

 

アカネが奥歯を噛みしめて悔しそうな顔を見せる。

 

「何だ、できないのか?」「できないのか? アカネ」

ユーリと弾が同時に言ってさらに悔しそうな顔をする。

 

「たやすいことじゃないんですよ!」

 

その一言を皮切りに爆笑が起こる。

 

その日、皮がウサギの形をしたリンゴは皿の上に4つ仲良く並んでいた。

 

 

 

 

 




鈴編終了です。感想、助言等お待ちしております。
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