IS to family   作:ハナのTV

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またしても番外話です。展開が少し無理やりかもしれません。


存在意義

大小様々な機器や工具。レーザーカッターのような最新のものから、レンチやガスバーナーのような比較的古い物までそこに置いてある。クレーンに吊り下げられた焦げた装甲がゆっくりと床に降ろされた。この第五格納庫はIS学園の中でも古い施設の一つで華々しい女子高のイメージとは真逆な光景が広がっており、汗だくになった男たちがせっせと働いていた。

 

「ひでえな、こりゃ。装甲が焦げるどころか、溶けてるぞ」

 

金髪でゴーグルを掛けた男がヴィンセントに話しかけていた。

 

「突然の乱入者にビームでクリスマスディナーみたいにされかけたんだ」

 

ヴィンセントが大げさに手を上げて話す。

 

「マイクにどやされたろ」

「死ぬような行動を取る奴は二流だと言ったろ。馬鹿野郎」

 

二人で声を合わせて、同じセリフを言う。それを互いに確認し合って大声で笑う。

 

「ヴィンセント、この人たちが?」

 

俺は本当に彼らがロイの言っていたサポートメンバーなのか、と聞いた。

 

「そうだよ。最高のチームって奴だ。」

 

ヴィンセントが順に紹介していく。先ほど話していたのが、ヘンリー・スコット。元は自動車の開発に携わっていたが、歯に衣着せぬ発言や上司を軽んじる態度だったため、首にされ拾われた。奥で木箱を金てこで開けているメガネの中年の人がゴールド・スミス。

 

物理学教授兼科学者、大学の理事長が女性に変わって、彼の寡黙な人格によって大学を追われて、マイクの元にいる。そして、黄色いヘルメットをかぶり、一人妖しい機械を作っているのが通称エンジニアと呼ばれている男で本名は秘密らしい。

 

経歴は、軍事専門で無人の戦闘兵器、UAVやセントリーガンと呼ばれる自動で敵兵を排除するといった恐ろしい兵器を開発していたらしい、とのことだ。彼ら三人がマイクの率いる最高のメカニストらしい。はたから見ると大道芸人か何かと勘違いしそうなほど個性的な方たちだ。

 

「本当にあの人たちが、か?」

「疑うなよ。あのマイクの部下だぞ」

 

そう言われて納得する。あの人の部下なら個性的になるのかもしれない。

 

「ところで、いいか?ヴィンセント」

 

ヘンリーが機体の状態を解説する。襲撃によって大きなダメージを受けたグレイイーグルは専門家たちの元、大規模な修理を要することとなった。綿密な検査の結果。装甲を新しいのに交換し、頭部のFCS等、センサーなどの再設定でどうにかなる、という結論になった。

 

インナーフレームと外殻の装甲によって内部の機構はほとんど傷つかずに済んだのだ。

 

「とは言っても、この際だから。整備できるところは全部済ませるぞ。さあ、働きなヴィンセント」

 

ハイハイとヴィンセントがため息を吐きながら、グレイイーグルに入り込み、操作をする。すると、全ての装甲から、大きなねじのような物体が飛び出し、装甲が全てクレーンによって取り外されて銀色のインナーフレームのみとなった。

 

「コイツは?」

 

驚愕で俺は固まって、骨だけになったグレイイーグルを見やる。

 

「これがコイツの本当の姿だ。操縦者の体格にインナーフレームを合わせ、つける装甲を変えることで機体そのものを変えることができる」

 

小規模の野営地などで、作戦に応じて外殻を変えることによって状況に対応することができるためのシステム。名前こそまだ未定らしいが、このシステムの凄さに俺は驚いた。

 

フレームと搭乗者さえ無事なら、外殻ごと交換して戦闘が可能というのは確かに合理的かもしれない。

 

「人使いが荒くなるシステムだよね? ヘンリー」

「お前、そのセリフにちゃんと整備員も含まれているだろうな?」

 

ヴィンセントが脚部の反応を確かめながら談笑する。

その姿は映画の様で、お互いを信頼しあっている戦闘機のパイロットと整備員と言った感じだ。

 

「悪いな、遅れたよ」

 

後ろから、重量感を感じる足音を響かせながら、マイクがやって来た。

 

「相変わらず、遅い出勤な事で」

「お前の口も変わらず悪いよな、ヘンリー。授業で講師やっているって言ったろ」

 

ムスッとした表情でマイクはヘンリーの皮肉に答える。

 

「俺たちは男ばっかりだってのに。主任は一人華の女子高で教師ですよ。嫌味ぐらい言いたいですよ。なあ、教授」

 

コンソールを動かす教授は何も答えず作業をする。それをみてヘンリーが飽きれたような表情をする。

 

「楽じゃあねえんだよ。意外と素直な奴等だが、あの年頃の娘はどうも苦手だ。ところでイーグルはどうだ?」

「修理自体は装甲の交換とセンサーの再設定で済みます。ついでだから、今他も設定し直しています」

 

そうか、と短くマイクは答え、イーグルの前に立つ。我が子を見守るように見ているようだった。そして、突然思い出したかのように俺の方を向いた。

 

「そう言えば思い出した。弾、お前にプレゼントがある。」

「プレゼント?」

 

マイクがそういうと、エンジニアが大型のコンテナを台車で運んできた。中を開けるとそこには柄が少し長い斧があった。

 

「お前の前の戦闘を見て片手間で作った。IS用の戦斧だ。刀よっかは使いやすいだろう。使い方は「死ぬまでぶん殴る」、それだけだ」

 

そう言われて、この武器を見る。粗雑そうに見えるが、逆に頼もしくも思える外見だ。エンジニアが横で機構について説明する。

 

「坊主。こういうのもなんだが、コイツは優れもんだぜ。刃の部分にエネルギーを送ることで2500度程度に刃を熱して、相手を溶断することだってできるんだ」

「やりすぎじゃ」

 

舌を鳴らしてエンジニアは否定する。

 

「武器ってのはオーバーなのがちょうどいいくらいさ。ま、コイツを使って頑張りな」

 

肩をポンと叩いて、グレイイーグルの調整に戻っていった。

新しい俺の武器。IS用の戦斧。刃は特殊なカーボン素材でできており、硬度としてはISが扱っても絶対に壊れない事を想定されている。片刃で、何の飾りもないシンプルな武器だ。

 

これをもらっておいて嬉しく思わないわけなかった。俺のために作ってくれたのだから、期待してくれているのだろう。それを喜びながら、次こそは勝つ、そんな意気込みをより強くした。

 

俺が一人決心していると、客が来た。

 

客はユーリと見知らぬ女の子の二人だった。女子の方はメガネを掛け、大人しそうで目立たなそうな雰囲気ではあるが、その可憐な容姿はそれとは逆に十分に目立つほどだ。

 

「マイクはいるか?」

「どうした?ユーリ。珍しく女と一緒なんて」

 

マイクの大きな声に少し驚いているのか、女の子はユーリ後ろからマイクをのぞき込む形となっている。

 

「彼女の機体について話がある……簪」

簪。女の子の名前を言って、簪は前に出て、マイクに話しかけた。

 

「か、簪です。私の機体を見てもらいたくて……」

「そう人見知りすんなよ。とりあえず機体を出しな、嬢ちゃん」

 

その言葉に反応して簪は機体を明いたスペースに出す。見たことのないシルエットの機体で、スラスターが大型で機動性重視に見えた。

 

「見たところ、一次移行は済んでいるな。何を見てほしんだ」

「一次移行はしたんですけど、武装と機体との接続が上手くいかなくて……武装そのものも完成しなくて」

 

完成していない、その言葉に俺は驚く。

 

―――――未完成の機体を候補生に渡していたのか?

 

突如として思いついた結論、最初は馬鹿らしいと思ったが話を聞く限り本当のようだ。呆れた対応だ。

 

「それで、私この子を完成させたいんです……どうか力を貸してほしいです。お願いします」

 

頭を下げ、簪はマイクに頼み込んだ。マイクは彼女を見つめ、少し考えて返答した。

 

「わかった、せっかく機体が応えてくれたもんな。力を貸すぜ、嬢ちゃん」

「あっありがとうございます!」

 

簪は満面の笑みを浮かべて喜んでいた。その様子をユーリはいつも通りの鉄仮面で見ているのに気付き、俺は話しかけた。

 

「…いつの間に女友達を作ったんだ?」

「彼女はただのルームメイトだぞ」

 

鉄仮面のままユーリは答える。

 

「あの子のことだよな? お前と付き合っているかもしれない候補生って」

「何を言っているんだ?」

 

ここでユーリが噂を知らないことを察した。確かに興味があるようには見えないが。そう言いつつもユーリはマイクと機体について、アレコレと話す簪から目を離さないでいる。

 

表情からは彼がどういった心境なのかわからないが、少なくとも悪い感情は抱いてないように見えた。普段、授業の後に鍛錬に付き合ってもらっているが、彼のこうした一面はあまり見ることが無かったので新鮮だった。

 

新鮮と言えば、今、目の前にいる整備員としての彼らの姿もまた同じだ。己の技術を最大限に使い、機体を完璧な状態に仕上げる彼らは見るだけでも尊敬するに値する人々だ。

 

俺は彼らの背中を見て、出来る限り機体を大事に扱うことを心に決めた。

俺はまだ、専用機を持っていないので打鉄だが、それでも誰かが俺の使う機体を整備してくれているのには変わらない。せめてもの感謝の気持ちを込めようと誓って、汗とオイルに汚れた男達を眺めていた。

 

 

 

 

人生において負け組とは何か?そう聞かれたら皆はなんて答えるだろうか。男として生まれたことなんて言う子もいるけど、女の中でも敗者はいることを私は知っている。

 

何故かと言うと私がその一人だからだ。私はこの学園に入ったのはISの操縦者となるためだった。織班先生のような人になりたい。そんな夢をもってやって来た。

 

しかし、その夢も今では泡となって消えた。二年生に上がるとき、操縦科に私は行くことができなかった私は整備科の生徒として、この教室にいる。この学園では私のような人を整備課落ちと言って馬鹿にされる対象の一つだった。

 

整備科となった今、もはや操縦科に行くことは叶わない。この学園にはコースがいくつかあって、ISの整備、開発の場合、学園内に設けられた大学コースに進むことになる。操縦科は別の施設に行き、IS乗りとして訓練するのだ。

 

私は現在三年で成績は次席。開発に参加できるほどの知識を持ち合わすほどになっているが、満足などできなかった。夢破れて一気に冷めてしまったからだろう。

 

「ねえ。弓子 聞いてるの?」

 

私を呼ぶ声がして現実に立ち返った。

 

「何?どうしたの?」

 

目の前の友人、亜美は天然パーマを指でいじりながら、話す。

「全くボーとしちゃって。マイク先生の課題! 弓子だけだよ。提出していないの」

「あっ ゴメン。今出すよ」

 

バッグを開けて課題を書いたA4の紙の束を渡す。手渡す瞬間にびっしりと書き込んだ紙を見て、ため息を吐く。

 

「オーイ、授業始めるぞ。さっさと提出物渡せぇ」

 

マイク先生の野太い声が教室に木霊する。あの先生は最初こそ、その熊のような外見で敬遠されたがわかりやすい授業に膨大な知識量、生徒を以外に真摯に受け止める姿勢で高評価を得て今では人気の教師だ。

 

その先生がスラスラとISの冷却関連の機構や開発経緯について教鞭を振るっている。

 

そんな先生を見ずに私は窓の方をチラリと見た。見えるのは青い空と海。いつか、飛びたいと思った場所だった。そんな私を見たのか、マイク先生が私に、質問をする。

 

「弓子。液冷式の長所と短所を答えろ。」

「はい、液冷式は空冷と比べて冷却効果が高いことにあります。現在のISのスラスターではよく使われている方式ですが、操縦者によっては片方のスラスターばかりを使い、冷却材の消費にばらつきが生じ、バランスを崩すと言う問題もありますし、重量も多少重くなると言った問題があります。これらの問題に関してはISの操縦を一部オート化するか、操縦者に一任するなど現場努力のみとなっています」

 

完璧と言っていいほどの答えにマイク先生は満足した様子で、素晴らしいと一言添えた。

 

「いい回答だ。模範的と言っていい」

 

そういって授業を進め、何事もなく終わった。その時、マイク先生は私を呼び止め、放課後、格納庫に来るように言った。何の用だろうと思いつつ、私は了承した。

 

教室を出て、グラウンドの方へと視線を移す。

 

そこには一年生たちがISの歩行訓練をしている光景が広がっていた。

私は彼女らを羨ましく思いながら、あの中で何人泣きを見ることになるか、などと考えた。そんな自分に自己嫌悪を覚えながら、私は廊下を歩いていた。本当は来るつもりなどのなかったはずの教室の近くの廊下を

 

 

 

整備員たちが忙しく二機のISを整備している中を私は縫うように歩き、マイク先生の元に着いた。

 

「話とはなんでしょうか?」

 

ああ、とマイク先生が、椅子から立ち上がって、尻を掻きながら口を開いた。

 

「なあ、弓子。一つ聞きたいが。お前整備科のこと嫌いだろ?」

 

唐突に言われた言葉は雷のように私に衝撃をもたらした。全くの図星だったが、表情を変えることなく対応する。

 

「何をいきなり言うんですか? 私の成績は上位ですし、態度も悪くないはずですよ。何故そんな」

「お前の回答を聞いた時、思ったんだよ。あまりに模範的すぎると思ってな。教科書を丸暗記したんだろ?それに、いつもグラウンドの方に視線が向いていたしな」

 

髭をいじりながら、先生は口から、私の細かい動作や仕草を言い当てる。

 

「それに、大場に聞いたしな。この学園の仕組みってやつを」

 

そのセリフから私が整備科落ちということを遠回しに言われた気がした。怒りを抑えながら拳を握りしめながら、問う。

 

「それが、どうしたって言うんです?」

「来週、打鉄の整備を一年に披露するってのがあったよな?それでお前のことが心配でな」

 

普段の茶化しているような雰囲気ではない、真剣そのもの先生を私は上面から見据える。

 

「私が何かする、細工でもする そう思っているのですか? 私が……整備科落ちだから」

「嫌、違う、そうじゃない」

 

ハッキリと否定してマイク先生は私の肩に手を置いた。

 

「気負わずに、整備をしてほしんだ。弓子、整備科を望まない奴なんてここにはいくらでもいる。そうだろ? だが、お前は今まで通りに努力を続けている。それで思ったんだ。もしかしたら、色んなもの背負っているんじゃないかな、と思ったんだ」

 

どこまで知っているのか、と気になる反面、今すぐにでもここから逃げ出したくなった。

 

人の心を覗かれていい気分でいられる人はいないし、私もそうだ。

しかも、隠したい部分ならなおさらだ。

 

「あなたは先生で、尊敬もしていますが、これ以上不愉快な事を言わないでいただきたいです! 失礼します」

「待て、弓子」

 

踵を返して、教室へと戻ろうとする私をマイク先生が引き留める。私は構わずに行く。

 

これ以上は限界だった。格納庫を歩いて出て行き、埃でも入ったかのように目がかゆくなって目をこする。すると、手が少し湿っていた。

 

 

 

 

 

IS学園最大の大きさを誇る第一格納庫。そこに第二世代の二つの代表機が整然と並んでいるのは圧巻だろう。まさに、この学園で見ることのできる景色の内で最も誇れるものだろう。一年の生徒。1組と2組の生徒たちが、教師たちに連れられて格納庫に入る。

 

副担任の山田先生がこれからのことを説明する。

 

「これから、ISの整備見学を行います。ISを万全な状態に整備してくれている人々を良く知ることで、これからのIS乗りとして大切な事を学んでもらいます。今日は皆さんの先輩たちに整備実習を行ってもらいます」

 

よろしくお願いします、と一年生たちは挨拶をするので、私達整備科も挨拶をする。私は挨拶しながら、山田先生の話を思い出して、一人笑っていた。

 

この中の何人がIS乗りになれると言うのか、と。たとえ、操縦科に行ってもなれる保証などないと言うのに、と一人意地悪く考えた。

 

整備は簡単なもので、事前に読んだ機体のマニュアルや教科書通りに行えば済むような物ばかりで何も問題なく進んでいた。一人、ダボダボの袖の制服の変わった格好一年生が近づいてきた。

 

「すごーい。テキパキと進みますね~」

「そう?」

 

間延びした声で話す子は素直に褒めてくれた。癒し系というのに該当する子だな、と思った。最初は茶化しに来たかと思ったけど褒められて嬉しい。

 

 

「私、整備科志望なんですけど~ よかったら、色々と教えてくれませんか?」

 

整備科志望。そう聞いて私は変わった人間もいるものだと感じつつ、彼女のお願いにOKと言った。望んでここに入った訳じゃないが、頼られるのは悪い気はしない。

 

その時、レンチが落ちる音が響いた。何事か、と見ると向かいで何やらざわついているのが目に入った。

何だろう、と疑問に思い、覗いてみると一年生と亜美が何やら穏やかではない雰囲気で話している。

 

「もう一回言いなさい。今なんて言ったの?」

「ですから、整備科に落ちた先輩の助言なんて要りません。私、これでもIS判定Bプラスなんですよ? 」

 

誇らしげに一年は言う。世話好きな亜美のことだ、親切心から学園生活の事でも話したのだろう、しかし、それは思わぬ形で返答され、危なげな雰囲気を作り出してしまっている。

 

「貴方たちのように、落ちるような人じゃないんですよ? 偉そうに先輩面しないでください」

「何ですって?」

 

亜美が一年生の胸倉を掴んで食ってかかる一年生の顔には明らかな嘲笑が見て取れた。それを見たとき、私は自分の中であらゆる思いが錯綜した。

 

それは皆同じで、その一年の方を見ていた。向ける目にはハッキリと感情が出ていた。

 

悔しさ、怒り、諦め……様々な思いが表れている。

 

一触即発、整備科の皆の中に点火寸前の爆弾を放り込まれたかのように、皆の多くが、今にも感情を爆発させようとしているように見えた。

 

「何をしている! 無礼な発言は控えろ!」

 

織班先生が一喝し、その生徒は一応その場は謝った。しかし、整備実習が終わった後でも険悪な空気は残っており、やり場のない怒りは私たちの中に残ったままだった。

 

今感じている気温は格納庫のクーラーによるものだけでなかった。その日は妙に寒く感じた。

 

 

 

 

実習が終わった後、いつも通りにマイク先生が来て授業が始まろうとした時、誰かが椅子を立ち上がった。振り向くと、ソレは亜美だった。

 

「先生、一つ質問があります。」

 

亜美はいつもの笑顔ではなく、どす黒い感情に支配された顔でマイク先生に質問した。

 

「私たちがここにいる理由って何ですか?」

 

クラスの皆は誰も彼女を止めなかった。今、この場にいる誰もが亜美と同じ気持ちだったろう。

 

「整備と開発に進む人材になるためだ。それがどうした?」

 

マイク先生は何の変化もなく、飄飄とした態度で答えた。

 

「そんなの嘘! それだったら普通の工業系の大学でだって学べるじゃないですか! ハッキリ言って私たちは操縦科の娘たちの土壌なんでしょう?!」

 

大学のような場所では才能ある一人の為にその他大勢が金を支払っている。就職のサポートはしてくれても、研究者にもなれない大勢の者は少数の彼らの養分となって金を払う。

 

IS学園でもソレは同じだ、私たちは所詮負け組という事だ、と亜美は続けた。

 

「一年にまで馬鹿にされて私たちがどうして彼女らの機体を整備するのですか?!」

 

別のクラスメイトが一人、また一人と立ち、己の不満をぶつける。

あの一年の一言で、いや、おそらくはそれだけでないのだろう。態度や言葉、空気様々な形で私たちは読み取ったのだ。馬鹿にされている、と。そして、ソレが起爆剤となって私たち皆の堪忍袋の緒がぷつんと切れてしまったのだ。

 

「やりたくもない整備なんかの為に学園に来たわけじゃない!」

「こんな惨めな思いしてでも、授業受けなきゃならない訳?!」

「何の為に中学受験頑張ったのよ! 私!」

 

皆、思い思の言葉を吐きだしていた。

 

「もう嫌よ! こんなの!」

「馬鹿みたい。あんなに頑張ったのに」

 

中には涙すら流している物もいた。そしてマイク先生が大きな拳で教壇を叩いた。想像以上の大きな音が響き渡った。

 

「うるせえ! 静かにしろ! どいつこいつも悟りきったかのようなこと言いやがって! いいか? お前たちの仕事は命にかかわっている物なんだ!そのために此処で勉強しているんだろ?この学園以外でこんなにもISに触れられると思うか?! ああ? 言ってみろ!」

 

マイク先生の野太い声が周りを静かにさせる。

 

「高校生の内から、ISに密接に関わることで、お前たちはよき技術者になる。その技術はISだけじゃなく何にだって使えるんだ。その技術は例え100年経とうが消えないんだ」

 

彼が話すのは技術者としての誇りだ。皆それに意識を集中させる。私もその例外でなかった。

 

「だが、反面扱いを間違えれば何人も命を落とす。これが起きないように今、学んでいるんだろうが。誇りと命を守る気概すら持てない技術者になりてえのか?」

 

その発言に私は反応して、席から立ち上がった。

 

「私が最初から技術者を選んでここに来ていると思っているのですか?」

 

マイク先生が私を見る。皆も同じように見ていた。

 

「本当は乗りたかったんですISに! そのために努力もした。」

 

思い出すのは最終試験。模擬戦で相手に勝つことによって私の優秀さを証明しようとした。

 

「最終試験にだって相手に勝ったんですよ! でもなれなかった。理由は適正ランクがBマイナーだったから」

 

そして対戦相手はAランクという事で操縦科に進んだ。思い出したくもない記憶だ。

それを思い出しながら私は思いをぶちまけた。

 

「本当は来たくなかったんです。ここに。でも来るしかなった!お父さんたちに期待してもらって高い学費を払ってもらったのに、たった一年で私はもう夢を追うことすら叶わなくなった!お母さんにそれを伝えた時、大丈夫だ、きっと何とかなる、頑張ればどうにかなるって言われたわ。 でも、どうなるっていうの?! 私はどうすればいいの?! 頑張るしかないじゃない! ここで!馬鹿にされて、夢もなくなって、それでも成績を出さないと惨めでたまらなくなる!応援してくれた皆に顔向けできない!」

 

涙を流しているのも絶叫しているのにも気にせず私は一人声を張り続けた。

 

「そうよ!成績が優秀だなんて言われたって本当は、そんな事ばかりの為に努力しているだけよ!あなたのように技術者を目指したわけじゃないのに、私がここにいる理由は何?! これ以上何をどうしろって言うのよ!?」

 

教科書を机に叩きつける。付箋を貼り、所々、蛍光ペンで色付けされページの数々。

それらの努力の結果が詰まった教科書をその時の私は忌々しく見ていた。

 

「なら、今いる此処でやりきって見せろ!」

 

マイク先生の即答、私を真っ直ぐ見据えて彼は言った。

 

「人の夢なんて何回も壊される!自分以外の理由だろうと自分のせいだろうと関係なしにな。 だが、そのたびに夢を持つことだってできる。今日馬鹿にしてきたアイツ等なんぞに負けて生きていくつもりか?」

 

目の前のISにも乗れない男は一人、私を、いや 私たちに向かって語る。

 

「今日の整備の結果を見た。素晴らしい整備だ。機体を熟知し、洗練された技術を感じるほどにな。中には整備しやすいように改良された物だってあった。それほどの知識を持っているのなら、次の夢だって掴める。 お前達には時間がまだあるんだ」

 

次の夢、そんな言葉は大人の屁理屈だと思っていたが、この時は違った。

 

「次の夢を見つける。それをここで探すのがお前達のいる理由じゃないのか?」

「次の、夢」

 

そう一人つぶやいた時、チャイムが鳴った。皆その場に固まって、その言葉を頭の中で反響させていた。

 

マイク先生はその後何も言わずに去って行った。

 

次の夢。その言葉は決して軽いものではなかった。私たちは皆、一人一人その言葉が自分にとって何なのか、と探っていた。

 

次の授業までの間の休憩時間、皆が迷える羊のように自分たちの将来につ

いて思考を巡らせていた。

 

 

 

 

あの授業の後の放課後。何の騒ぎだったのかと、他の先生が詰め寄り、マイク先生が自分が悪乗りしすぎた、と言い訳していた。そんな先生を見て私たちは皆自己嫌悪の中に浸った。

 

自分たちが身勝手な発言を先生に言ったにも拘らず、先生は自分がすべて悪いと言った。いたたまれない気持ちで私は廊下を歩いていた。今の私は抜け殻のようにただ歩いていた。

 

ひたすらに悩み、そのたびに自分が嫌になった。夢を見つけろ、そう言われてすぐに見つけられるのか、そもそも私などに夢に向かっていくだけの能力があるのか、と考えた。廊下を彷徨っていた私は、心の中でも彷徨っていたのだ。ふと自分を呼ぶ声がした。

 

聞いたことのない声だ。それも頼りない、若干裏返ったような声だった。

振り向くとメガネを掛けた子がいた。青い髪で可愛げのある顔だった。ふと制服のリボンを見ると色が自分とは違う。一年生の物だった。前の実習を思い出し、一瞥して立ち去ろうとしたが、彼女は大きい声を出して言った

 

「あのっ、本音から聞いたんですけど、整備科の弓子さんですよね? 良ければお願いがありますッ」

「お願い?」

 

冷ややかな目で私はこの一年生を見ていた。彼女が言うには専用機の設定を手伝って欲しいとのことだ。冗談ではない、私が手伝う理由などないし、専用機持ちなどと関わりたくもない。

 

「専門のスタッフを呼べばいいじゃない? 何でそんなこと頼むの?」

「私の打鉄弐式には・・・誰もいないんです。開発が打ち切られてしまったから。今、マイクさんの所で組みなおしているんですけど、どうしても打鉄に詳しい人が必要なんです。お願いします!」

 

頭を下げて、私にお願いする一年生。その時、不意に自分の最終試験のことを思い出した。

 

あの時、私は必死に頭を下げて、入れさせてくれと頼み込んだ。しかし、返答はたった一言。それだけで断られた。今の彼女を見やる。必死に頭を下げて自分の夢を叶えようとする自分と被った。

 

「……いいわよ。時々なら手助けしてあげる。でも、そんなに期待しないで。私は」

 

好きで整備科にいるわけじゃない。そう続けようとした。

 

「ありがとうございます!」

 

彼女の声とその表情にソレは遮られた。涙で少し潤んでいながらも、弾けるようなまぶしい笑顔だった。自分の大嫌いだったはずの知識をあてにしてくれた彼女は本当に喜んでいた。そして、私の思考は透き通るかのような鮮明さで一つの考えを導き出した。

 

人を喜ばせること、それこそが私の力。

 

私が悩んでいたことは簡単な事だったかもしれない。少なくとも、目の前の彼女の夢をサポートし、笑っていけるようにするくらいはできるのではないだろうか?

 

これから先、どのように私が自分の知識を役立てられるか、ソレはわからない。

 

また、自分の次の夢だってわからない。だが、この時、私には目的ができた。

 

彼女の夢を応援し笑顔でいさせてあげる。

 

そのために私は確かな足取りで図書室へと向かった。今の私じゃ知識がたりないかもしれない。もう一度マニュアルと概論を読み直さないと……

 

もう少しで見つかりそうな気がする夢と頼ってくれた彼女の為に

 




整備関係の話を前から作って見たかったのでやってみました。
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