どうか、ご容赦を。
後、前回シャルの名前を間違えたまま投稿したことをお詫びします。
ホームルーム前の時間、いつもより騒がしい教室では今日来ると言われている転校生の話で持ちきりだった。普段から、あまり静かとは言えないクラスだが、今日は格別に賑わっている。
例のごとく、アカネと駄弁っていると、一夏と織班先生がほぼ同時に教室に入り、山田先生が遅れて来た。ホームルームは山田先生によって進められて、連絡事項を伝えていくと、先生の口から噂になっていた本題が出た。
「今日はなんと!転校生を紹介します。」
そう口に出された時、教室の扉が開いた。入って来たのは少し長めのブロンドの髪を縛ったスカートではなく長ズボンをはいた男だった。
「シャルル・デユノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします」
俺だけではない、皆が目を見開いて彼に視線を集中させていた。
「お、男の子ですか?」
クラスメイトが恐る恐る聞くと、彼はハイ、と答えた。
「ここには僕と同じ境遇の人がいると聞いて僕も」
事情を話していたデュノアの声を黄色い歓声が遮った。
かなりの盛り上がりで、デュノアは戸惑い、反応に困っている。相も変わらないテンションの高さに少し辟易していると、携帯が鳴った。
こっそり開いてみると、ヴィンセントからのメールだった。
メールは一言 転校生は男か? とそれだけだった。
「騒ぐな、静かにしろ」
織班先生が一喝し、静まり織班先生は今日は二組と合同でIS実習を行うことを伝える。
それを半分聞きながら、一人ヴィンセントのメールの意味を考える。
転校生、つまりデュノアは男か? というメール。不可解極まりないメールだ。
確かに、この時期に転校生、しかも男が来るのは不自然に思わないでもない。だが、パッと見デュノアは男だ。線こそ細いが喉仏も薄らだが見えた。体格も女子のように丸いような感じはしない。だが、ヴィンセントが無駄なメールをするとは考えにくい。何か裏でも見つけたのかもしれない。そう推理して、次の実習に向けて準備を始める。
「おい、織斑、五反田。デュノアの面倒を見てやれ」
突然の指名に驚きつつも承諾する。
そのせいで一夏と共に彼をロッカーに送るまでに女子達と遭遇しもみくちゃにされながら行くこととなってしまった。
ロッカーに着いてから、俺がスーツを着ている一瞬でデュノアは着替えて見せた。着替えている最中の彼を見れれば、確実にヴィンセントの言葉の意味がハッキリすると思っていたため、内心舌打ちする。
しかし、ISスーツはRインダストリーのモノをを覗けば、多くが体のボデイラインが見えるようになっている。デュノアのも例外でなく、その体は見る限りだと男に見える。手もごつく、男の特徴的な固そうな体を見て、やはり男ではないかと思う。
「どうしたの五反田君?」
デュノアが俺の瞳を覗きつつ聞く。
「いや、代表候補生だけあって鍛えているのかなって」
「ああ、ボクはそんなに鍛えてないけど他の人はそうなのかな?」
さあ、と適当に答える。一夏がデユノアのISスーツについて聞いていると、足音が近づいてくるのが聞こえた。
「やあ、皆さんおそろいで」
プラチナブロンドの髪をした男。ヴィンセントが挨拶をする。すでにスーツを着ていて、黒い筋肉に覆われた彼のスーツを見て一夏は露骨に敵意を見せた。
「何だよ? 何か用かよ?」
「いや、噂のデュノア君に会って見たくてね。よろしく、デュノア君」
ヴィンセントが握手を求めるように右手を出す。
「よ、よろしく」
デュノアも握手しようとしたが、不思議なことに一瞬戸惑ったかのように手を引っ込めようとした。それを少し強引にヴィンセントは掴み握手をする。
「シャル、もういいから行こうぜ、弾も急がないと」
織班に言われてデュノアが一言、挨拶をして織班に続く俺もそうしようとしたところで、ヴィンセントに肩を掴まれた。
「弾、あとでいいか?」
「? ああ」
ヴィンセントの顔を見る。いつも顔に笑顔を張り付けた奴だが、最近、その笑顔にも特徴があることに気づいた。さっきの顔は、というより彼の目はむき出しのナイフのようなギラギラと妖しい光を放つ、いやな目だった。
一組と二組の合同実習はグラウンド内で行われる。夏も近いことで気温は高く、遠くを見ると景色がユラユラと揺れている。そんな暑い中ではRインダストリー製のISスーツは少し通気性が悪く、ちょっとしたサウナスーツの様だった。
手で自分を仰ぎながら、織班先生の指示を聞く。
「では、専用機持ちは前に出て展開しろ」
その指示通り、一組と二組の専用機持ちたちが前に出る。すると、一夏がアカネを呼び止めた。
「? 堂上さん、専用機持ちなのか?」
「ええ、持っていますよ。私も企業所属ですので」
アカネは一夏に目すら向けずに答える。それに少し苛立ちをを覚えたのか、セシリアがアカネにからむ。
「専用機持ちだというのに。今まで何をしていたのですか?」
彼女なりに皮肉を言うが、アカネの態度は変わらない。
「私、目立つのが嫌いなので。やったこと言えば訓練機に負ける寸前の代表候補生を眺めたぐらいですね」
セシリアの顔から笑みが消え、舌打ちをする。ソレに構わず、アカネは自身の機体ハヤブサを展開する。フルフェイスの単眼がギョロッと動くさまに周りの生徒は呻く。
「何か、アカネちゃんの機体怖くない?」
「私はカッコいいと思うな~」
「どうして、悪趣味なデザインにするかな?」
一組のトリオが口々に感想を言う。その感想もわからないでもない。鈴の甲龍、一夏の白式、セシリアのブルーテイアーズに比べてRインダストリー社の機体のデザインは特異だ。
全身装甲にフルフェイス。生身の人間が乗っていることを感じない、ロボットのようなフォルムだ。兵器としては彼らのデザインが正しいだろうが、ISの常識に考えれば、異端だ。
「静かにしろ、では戦闘を実演してもらおう。オルコット、凰」
二人して面倒な臭そうな声を出す。
「二人には実戦をしてもらう。専用機持ちなら容易いことだろう?」
織班先生の言葉に気乗りしない二人、それを見た先生が耳打ちすると、セシリアはうって変わってやる気を出し、鈴は苦笑いしていた。
一体何を話せばこうなるのか。
「で、対戦相手は誰です?」
セシリアが好戦的になったかのように相手が誰なのか、聞く。
その時、アカネのハヤブサが上を見上げた、ソレに続いてグレイイーグルも同じ行動を取る。
「どいてください~!」
可愛げのある声、山田先生の声が上から聞こえ、着陸ではなく、墜落してきた。
クラスメイト達が慌てて、退避しだす。地面に激突する寸前にスラスターを噴射するのが見えたが、結局、クレーターを作ってしまった。土煙が晴れて、クレータを覗くと一夏と山田先生の胸に顔をうずめていたいた。久々にラッキースケベが発動するのを見て、俺は親友の無様な姿に呆れた。
その後、一悶着があったが、模擬戦は開始された。
模擬戦がされている中、シャルが織班先生に言われ、ラファール・リヴァイブについて解説する。その話にあまり意識を割かずに俺は模擬戦を見る。二対一。鈴とセシリアのペア相手に山田先生は一人で戦っている。スペックでも負けているが、優勢なのは山田先生だ。
組んだことのないペアのため、互いに連携が取れていないように見える。鈴が前に出ればセシリアは誤射を恐れて射撃できず、セシリアがビットを出せば、今度は鈴が衝撃砲が撃てず、格闘戦に持ち込むこともできなくなる。それを理解して二人同時に射撃戦に持ち込むが、セシリアはともかく、鈴の機体で射撃戦はあまり有効な選択ではなかった。
山田先生の正確な射撃で、まず鈴が倒されて、次に距離を詰められたセシリアがショットガンの洗礼を受けて敗北した。戦闘は終了し、三機が地面に降り立つ。
「これで諸君にも教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
織班先生が言を発して、クラスメイトも引き締まった顔で答える。
「次にグループ実習に入れ、専用機持ちはリーダーになって教えろ。では別れろ」
グループごとに分かれることになったので、俺はアカネの所に行く。
ISのコーチは普段ヴィンセントが行っているが、彼の方は人気で行けそうにないため諦めた。アカネの所は少なく、本音達三人と俺だけだった。
「ようこそ、弾。歓迎しますよ」
陽気に話しかけられたが、マスク越しの為くぐもった声で尚且つ赤いモノアイのせいで少し怖かった。
「アカネの所に人が少ないのってソイツのせいじゃないか?」
「たかが、マシンの外見で選ばれても困ります」
「私はいいと思うな~」
本音がハヤブサを褒めると、アカネは少し照れていた。訓練は歩行訓練から始まった。起動し、歩行、そして停止だ。個人的には初歩中の初歩なので、行う意味に懐疑的だったが、周りを見るとふらふらと歩く者や、降りられない者と様々だった。
俺はヴィンセントの所でシミュレーションをしているので、問題はないが、周りは違う。彼女らがISを使う機会はそう多くないのだ。膨大な書類を書き、抽選を受けて、ようやく一週間に一度動かせるかどうかという現状だ。これは学園内に専用機も合わせてISが45機程度しかないのが原因だ。むしろ歩けるだけ大したものと言えるかもしれない。
目の前で訓練しているトリオたちは何とか練習で来てたようで歩くどころが、基本的な飛行もできていた。
「はい、OKです。さて、せっかくですから一つ芸でも見せましょうか」
アカネが言うと、俺も含めてグループの皆が沸き立った。
「何やるの?」
癒子が効くとアカネは武器をコールした。DMR9という名を持つライフル銃をコールする。
口径75mmという大きさで、長銃身のIS版M14. アカネのにはドットサイトを付けたもので、これが彼女の基本武装となる。彼女はこれを出して周りに大きな音が響かないよう、サプレッサーを付ける。そして俺の方に物を渡す。
「弾、打鉄に乗って、これをパワーアシスト最大で投げてください。」
渡されたのは、スプレー缶だった。その意図を理解して、打鉄に乗り込み、その手にスプレー缶を持つ。そして周りに耳をふさいで見るように言う。
「準備は?」
「いつでも」
ISを仕舞い、アカネ本人が出てきて三人は首を傾げる。
俺は最大出力で宙高くへと缶を投げる、生身では到底不可能な剛速球となったスプレー缶は瞬く間に高度を上げていく。やがて缶が最も高い位置に着こうとした時、アカネは一瞬で展開し、ライフルを構え、発射。見せつけたのはISによるラピッドショット。
青い空に赤いインクが飛び散った時、歓声が沸いた。
食堂で俺はピースのメンバーと鈴、それに簪とで食事をしていた。いつもと違い、女子率が上がり、華やかになったものの、不満顔なのが一人。ヴィンセントはあまり、喜んでいなかった。
「何か、いやな事でもあったのか?」
俺がそう聞くと、いや別に と拗ねたように返してきた。どうも不機嫌に思える。
「さて、皆さん。Rインダストリーの人もそうでない人も聞いてほしい。転校生をどう思う?」
ヴィンセントが少し乱暴にカップを置いて議題を出す。シャルル・デュノアが彼にとって、大きな問題らしいことを察する。
「シャルルって、一組のブロンド君でしょ? アンタ、何でそんなに気になってんのよ?」
鈴が問うとヴィンセントは手を組んで理由を話す。
「まず、この時期に転校生。しかも男だ。企業が広告として使うには遅すぎる。第二にデュノア社の息子なんて社交界じゃ一度も聞いたことのない話なんだ。三つめ、織班にベッタリしすぎだと思わないか?」
「あの子が一夏を狙っているってこと?」
鈴が聞き返すと、ヴィンセントは頷き、カップにお茶を注ぐ。
「じゃあ、どうしてユーリたちには近づかないの?」
そう聞いたのは簪だった。彼女もこの話に興味を示したようだ。
「恐らく、所属、バックボーンの問題だ。一夏はどこの国にも正式に所属していないし、後ろ盾はブリュンヒルデのみ。俺達と比べれば近づきやすい」
「ハニートラップかもな」
ユーリが予想外の言葉を放つので俺は即座に反論する。
「ちょっと待て。アイツ男だぞ?」
「中国では男を女にして決して裏切らないスパイを作ったと言う。女だと本気で恋して逃げる可能性があったからな」
そうなのか?と鈴に聞くと彼女は頭を振って知らないと否定する。
「どの道、怪しいには変わりないってことですね。」
アカネが結論を言ってヴィンセントを除く皆が頷く。
「話はそれだけで終わらないんだよ、アカネ。」
ヴィンセントが頬杖をついて椅子に深く腰掛け、携帯端末から、ある情報を見せる。
それはフランスの週刊誌のとあるページだった。三流ゴシップ記事の一面で、そこには デュノア社長に隠し子あり、と書かれていた。しかし、文字を読み進めていく内に俺達は驚愕した。
「娘?女だっていうのですか?!」
アカネが声を上げる。ユーリでさえ、ピクリとこめかみを動かした。
「だが、アレは男だったぞ。ヴィンセント、俺は確かに見た!」
俺はヴィンセントの言わんとすることに反論する。確かに線は細いが、喉仏や手のごつさなど、女性の物では無かった。更衣室で見たのを俺は記憶している。
「そうだ、見る限り男だ。だが、現実は違うかもしれない。仮にそうだとしたら、これは大きな問題ってことになる」
ヴィンセントは持論を展開する。もし、シャルルが仮に女だった場合、あらゆる陰謀が見える。まず、IS委員会と呼ばれる組織だ。この組織は世界中の国々がISの条約や取決めを守っているかどうかの監視役だ。男性適正者が出てきたとき、各国の適正者探しで不正が無いか、または非人道的な行為を行っていないかを調査していた。
俺もソレをこの目で見ている。シャルルが女だった場合、この審査をクリアしたことになる。正確に言うとIS委員会が通した 、だ。つまり彼ないし彼女は委員会とつながっている可能性がある。
当然、デュノア社も同じだ。次に関わっている可能性があるのはフランス政府。政府そのものが支援をしている可能性がある。これは委員会より関わっている可能性は低いものの、一応考慮に入れるべきだ、と言うのだ。これらを考えれば陰謀や企みがあると猿でも気づく。
「ここに来る目的は?」
鈴が顔を強張らせてヴィンセントに聞く。
「考えられるのは、第三世代型のデータそのものを盗る。もしくは一夏ないし俺達男をハニートラップにかけて好き放題するとか、かな。」
「でも、社長さんの子供なんだよね? そんな酷いこと……」
簪が信じたくないと言った風に話す。元来、優しい性格なのだろう。親なら子供にひどいことをさせない、と言いたいのだろう。俺は彼女のいう事を否定した。
「ありえるさ。この世には改築資金欲しさに息子を会社に売り飛ばす奴だっているんだからな」
アカネが咳払いをした。俺はそれに気づいて黙る。
この場を解散した後、教室にデュノアと一夏が一緒に教室に入っていったのを見かけた。その時、一夏に警告しようかどうか迷ってしまった。一瞬、一夏を利用して、と言う考えが浮かんだからだ。ソレに気づいた俺は振り払うように足早に教室に入った。
窓から見える曇りの天気が余計に俺をモヤモヤさせた。
ヴィンセントの衝撃的な情報提供によって思いついた考えによって中々寝付けず、この日の早朝ランニングも相まってホームルームに入る前から眠りと起きるの状態を行ったり来たりしていた。
こういう時に限って天気は快晴で、太陽光によって温められた机は心地が良く、さらに眠気を倍増していた。アカネにだらしない、と言われつつも起こしてくれたが、俺は強烈な眠気に何度か負けそうになっていた。
しかし、教室に入って来た先生二人ともう一人の人間を見て、俺の眠気が吹き飛んだ。
制服を着たもう一人の小柄なぞの女子の恰好は驚くべきものだったからだ。スカートではなく乗馬ズボンでアルビノを思わせる銀髪。さらに眼帯だ。一瞬コスプレか何かに見えた。
「あの、今日もうれしいお知らせがあります。また一人クラスにお友達が増えました。ドイツから来たラウラ・ボーデヴィッヒさんです。」
クラス内がざわつく。昨日のデュノアが来たばかりだと言うのに、もはや二人目が来たのだ。誰でも、そのおかしさに気づく。織班先生が静まらせるが、ボーデヴィッヒは何も話さない。
「挨拶をしろ。ラウラ」
見かねた織班先生が言うと、ボーデヴィッヒは「はい、教官」と答えた。
教官、その言葉から察するに民間の出ではないと推察した
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
彼女は名乗り、またしても黙る。
「あの以上ですか?」
山田先生は予想をななめ上にいく自己紹介に戸惑い、確認を取るが彼女はそれに肯定した。
見ていると、ふと彼女が目の前に一夏に気づいた。
「貴様が!」
そう呟いたのを確かに聞いた。そのまま彼女は一夏に近づき、平手打ちをしだした。
クラス皆が呆気にとられ、誰もが口を開けていた。
「私は認めない……貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」
自己紹介にしては度が過ぎたパフォーマンスに篠ノ之やセシリアが怒りを露わにしていた。
ソレはわかる。彼女たちが一夏に好意を抱いているからだ。しかし、もう一人この場で怒りを見せている人がいた。
それは隣にいるアカネだった。彼女は片手でシャープペンシルを二つに折り、メガネの内から猛禽類のような眼をボーデヴィッヒに向けていたのだ。
手から滲んでいる血にすら気づかずにボーデヴィッヒを見ている。血液は手を真っ赤に染め、あふれ出た血の量が彼女の怒りの深さを物語っていた。