かつて因縁という言葉は俺にとって全く縁のない言葉だった。少なくとも今年の二月になるまでは想像すらしなかった。何せ、スポーツもしない。勉強も熱心にしていたわけではない。
こんな俺に因縁の相手とか倒したい奴などできるはずのない、そう思っていた。
しかし、今は違う。これから相手する奴は俺にとって倒さなくてはならない者だ。
初めて、この学園で戦ったセシリア・オルコット。彼女を倒すことで俺は新たなステージへと進めるのだ。
「弾? どうかしました?」
アカネが訝しげな顔でのぞき込んできた。
「アカネ、頼みがある。」
「何でしょう?」
「セシリアと一騎打ちをさせてくれないか?」
普通なら誰もが笑うであろう提案だろう。代表候補生相手に一騎打ち。無謀な挑戦だ。
しかも、今回の場合優秀な射撃手である見方がいるにもかかわらず、だ。愚かしい発想を聞いたアカネは二つ返事で答えた。
「わかりました。あなたが望むのなら、私はそれに付き合いましょう。ただし、
勝ってくることが絶対条件です。」
「わかってるさ。見ていろ。」
共に機体を装着してピットを出る。
「ケリをつけにいく」
自分とのケリを着ける。そして、訓練機で勝とうとした彼女達と俺を導いてくれた人たちの為に
ピットを出ると、既にイギリス代表候補生のスナイパーコンビが上空で待機していた。
俺達が出てくるのを待っていたようだ。
「相変わらず来るのが遅いのですね。 野良犬同士、作戦会議でもしてたのですか?」
彼女のセリフを聞いて思い出した。そう言えば彼女は俺たちの事を嫌っていた。
俺は最初の試合で彼女の家の事情をネタに挑発したし、アカネは会うごとに毒をはいていた。そんな事を思い出して、つい笑いが出た。
「何がおかしいですの?」
「いや、意外と根に持つタイプだなって思っただけだよ。 それに野良犬で結構さ。
キャンキャン吠える躾の悪い犬よりマシだからな。」
アカネも含み笑いをして彼女を煽る。
「馬鹿にして・・・!」
「セシリア、落ち着いて」
パートナーのサラ・ウェルキンがなだめるが、セシリアは硬い表情のまま、こちらを見据える。そうこうしている内にカウントが開始された。カウントが鳴るのを近くして共に構える。カウントが4の時にアカネが俺を読んだ。
「弾」
「何だよ?」
「勝利を!」
ブザーが鳴り、試合が開始された。セシリアが構えるが、その前に俺は構え終えた軽機関銃で撃ち、高度を上げて、ブルーテイアーズに向けて飛翔する。
隣りのハヤブサはサラに向かってライフルを三連射して突貫する。
「この私に一人で来るとは・・!」
回避行動をとりつつ、スターライトmkIIIを二発放つ、右へ、左へと機体を揺らして回避する。装甲近くを通り過ぎるビームの光を見て、口笛を吹く。
「うまいじゃない。」
今の俺には彼女の行動が見える、完璧に追える。そして打鉄と自分が一体になったような感覚が俺のポテンシャルを最高の物へと引き出してくれているようだ。
さらに襲い掛かるビームを一発を肩で弾き、二発目を喰らった衝撃で回避する。
単射に切り替えて、一発ずつ狙い撃ちする。最小の動きで回避しようとするブルーテイアーズ、それを見て、セレクターをフルオートにしてトリガーを引き絞る。
突如として増えた弾丸に対応が遅れてセシリアは被弾した。
彼女は理論的に動く、それ故に読みやすく、理論から外れる行動や予想を上回る行動には滅法弱いことは以前と変わらない。思わぬ被弾に怯んだセシリアに接近する。
前へ、前へと機体を加速させて、彼女の喉元にまでたどり着こうと速度を上げていく。
初戦とは違い、機体の扱いに慣れた俺の速度にセシリアは舌打ちした。
「ここまででしてよ! お行きなさい、ティアーズ!」
予想より早く放たれたビット、以前なら狼狽したことだ。だが、今は違う!
上方、左後方、真正面、下方とティアーズが配置される。まだ、発射されていない。
ティアーズはあくまで遠隔兵器の域を出ない。操縦者の配置と射撃の二つの指示が組み合わさって初めて発射される。つまり、今は停止しているのだ。動かない的、つまり訓練と条件は全く同じだ。
アカネとの訓練、死角への急速旋回と射撃はこのためにあった。
「そこだぁ!」
三発ずつのバースト射撃で、センサーと視覚で確認し、ビットを狙い撃つ。一射目に撃破、二射目、三射目と命中させ無力化させていき、最後の一つは発砲こそ許し、掠ってしまうが フルオートの乱射で跡形もなくする。
セシリアの多方向からの同時攻撃は未然に防がれ 彼女の目が大きく見開かれた。起こるはずのなかった現実に一瞬思考が追いついて無かった。
「馬鹿な・・・!」
驚きながらも、冷静に狙撃を再開する。三つの光を回避するには無理な体勢だったが打鉄の盾で弾く。
被弾して空中で回転する。体勢を再び戻すため、あえて逆方向に軽機関銃を撃つことで反動を作り、体勢を立て直し、キッと目の前の敵機に睨みつける。
トリガーを引き、そのまま銃口を彼女に合わせて撃ちつづける。
曳光弾とビームの輝きを伴ったエネルギーの塊が飛び交い、互いに宙を舞いながらの撃ち合いになる。射撃、回避と繰り返される行動を繰り返していく。どちらも被弾せずに回避していき、らちが明かないと判断した俺は銃身の下に装備してあるグレネードランチャーに指を掛ける。
「小細工なんかに・・!」
前回と同じスモークと判断して彼女は弾道型、すなわちミサイルを四発発射する。
「待ってたぜ、それを!」
引き金を引かず、銃を投げつけた。放たれた弾道型に命中し、一発が爆風に巻き込まれて
爆発四散した。ミサイルの間にできたセシリアへとつながる道を切り開き、奥の手を使う。
瞬時加速だが、ただの瞬時加速ではない。ミサイルをすり抜ける一瞬に足のスラスタによって体にスピンをかける特殊なものだ。ヴィンセントのダンスを見て考え付いたものだ。
スピンを加えることでセシリアもすり抜けて、回り込む。手に戦斧を呼び出し、高速の回転によって得られた遠心力と打鉄本来のパワーを組み合わせ、横に振りぬいた。
セシリアも短刀を抜くが、数々の格闘訓練によって鍛えられた動体視力を持ってして短刀の防御を無視して胴体に斧の刃をぶち当てた。彼女もIS訓練を欠かすことは無かった。だが、俺はそれ以上にあらゆることを訓練してきた。彼女が休む時だろうと俺は訓練に明け暮れてきたのだ。その積み重ねが、ようやくここまで来た。俺は負けるわけにはいかない。俺と仲間と彼女と夢の為に。
吹き飛ばされる青い機体を逃さんと、斧を振りかぶって両手で振って投げた。
巨大な質量の弾丸と化した斧がスターライトを粉々にして、そのままの勢いでブルーテイアーズに命中して、青い滴を空に散らせた。
「こんなことが・・・・ありえませんわ!」
シールドエネルギーが費えておらず、大地に足を付けたセシリアは短いブレードを持ち、構える。俺は瞬時加速で一気に接近し、無手での挌闘戦に入る。
彼女の間合いに入った時、横に振るわれたブレードの手を掴み、その手に掌底を叩きこむ。
ISも人型であるが故に人間の格闘技が通用する。衝撃で落ちたブレードを左手で拾い上げ、彼女の腹部に刺し、ふわりと宙に浮かせて逆手に持ち替えて、二撃胸と首に刺突をして、少ないエネルギーをゼロにした。
彼女は倒れ込んだ。そしてセシリアが下賤な俺を見上げる。想像した結果とは全く逆になったことだろう。屈辱に顔を歪ませて土を握りしめる。
俺は肩で息をして彼女を見やる。勝てたという実感が今一湧かなかった。しかし、現に俺は彼女の前に立ち、彼女は伏せっている。
俺は勝ったのだ。
眺めていた俺をサラが狙う。
「相手の前で浸るな!」
構えたライフルから、弾丸が出ることは無かった。頭部と銃器、発射音が一つに聞こえる程のほぼラグのない正確な射撃で彼女のシールドエネルギーが費えた。
「余所見厳禁。」
俺が言ってアカネがライフルのチャージングハンドルを引いて続けた。
「姿を見せない射撃、それが狙撃でしょうに・・」
マークスマンの彼女がスナイパーの基本を簡潔に述べて、試合は終了した。
アリーナに俺とアカネの名がコールされる。雪辱は栄光の勝利で幕を閉じた。
「本日予定されておりました試合は全て終了しました。生徒は寮に戻り、ご来場いただいたお客様は専用の宿舎にてお休みください。」
アナウンスを聞きながら、俺とアカネは帰路に着いた。この時間まで連戦だったので体力が消耗し、足取りが少し重かった。隣のアカネは涼しそうな顔で歩いてるのを見る。何でもなかったような顔だ。その顔を見て俺は一言言った。
「今日はありがとうな。」
少しキョトンとした顔で彼女はこちらを見やる。
「礼はいいですよ、弾。 あなたには私のわがままに付き合ってくれていますし・・・
言われなくてもそうしたでしょう。」
「どうして?」
一言訊くと彼女は答えた。
「貴方に勝ってほしかった。同じピースメンバーとして、夢を叶えて欲しかったんです。
私のは・・・」
口ごもって黙ってしまう彼女を見て、俺は訊いた
「まだ、答えは見つからないか?」
「・・・・はい、ボーデヴィッヒの姿を見たら、また・・・」
胸の内から湧き上がる衝動。彼女はこの発作にも似た症状を恐れ、悩んでいる。
彼女が目指すもの、かつての憧れの兵隊たちのようになることらしいが、それを否定するようなボーデヴィッヒが許せないのだ。ただひたすら力を振り回し暴君のように存在する彼女は驚いたことにドイツ軍の少佐だ。学園に来るような年齢でありながら、この階級なのだ。これがアカネにとって耐えがたい存在だ。理想の兵士の代わりとなった彼女達は彼らの代わりとは到底呼べない代物であり、それどころか男たちが築いたモノすら嘲弄し破壊するのだ。それは規律や誇り、そして民の盾たる存在の自負だ。それらを否定して回るボーデヴィッヒが許せないでいる。そして、ボーデヴィッヒに明確な殺意を持つ自分も許せないのだ。気に食わない、ただそれだけの為に引き金に指を掛けた自分が否定したい存在と全く同じ姿であることに気づいて悩んでいる。
「なあ、アカネ。急ぐことは無いんだ。ボーデヴィッヒに相手した時にでも遅くはないはずだろ。」
「しかし、私は・・・!」
「言ったろ、お前はアイツと同じじゃないって。もうちょっと俺のこと信じてくれよ」
アカネは俺を見ていた。何もしゃべらずに黙って見る。
「アイツと合うまでは勝ち続けるぞ。アカネ」
「はい」
微笑んだ彼女は俺の手を取って、握った。俺もそれに呼応するように握り返した。
アリーナで飛び交う黒い影と赤い影。両機が渡り合って十五分となる。
青龍刀を振り、重量で叩き潰さんとする甲龍のまわりを忙しく飛び回るマーダーの二機が
互いの得物で必殺の間合いに相手を引きずり出そうとけん制を繰り返す。
甲龍は衝撃砲を放ち相手との距離を置こうとするが、マーダーはカービンライフルで射線をずらさせて、隙を伺う。
そして僕は目の前の赤い光線に追われている。回避行動を読み、ビームが曲がってくるのを全てのスラスターを使い避ける。右へ、右へと曲がる光線を高度を上げ縄跳びのように飛び、上下で挟んで来れば上の一発を正面装甲で受け、下方を回避する。
機関砲を放ち、相手の集中力を乱そうと試みるがただの弾幕射撃では怯みもしない。
つまるところ、この対戦は互いに苦手な相手同志の戦いだ。
マーダーはパワーがないため、懐へ飛び込み、ナイフで絶対防御を発動させる以外有効な攻撃方法はない。しかし、相手している甲龍には懐に入り込まれた時、対処する兵装が無い。無手での挌闘に持ち込もうものならプロフェッショナルのユーリには敵わない。
僕の方も同じだ。打鉄弐式の攻撃は確実に命中させることができるが、グレイイーグルの装甲を抜く程の威力をあてるには、十発近く同時に当てる必要があるが、そうはならない。
そして回避行動に専念せざるを得ない僕は有効な射撃ができないでいる。
頭を切り替え、策を使う。
「鈴、代われ!」
「了解!」
相手をチェンジして戦闘をする。全ての火力をマーダーに集中させる。肩のミサイルを大会規定の制限数6発全て放ち、機関砲とグレネードランチャーを打ち込む飽和攻撃を実施する。
「させない!」
簪が叫び、サジタリウスの矢が放たれる。未だ半マニュアル射撃のはずのビーム攻撃が榴弾とミサイルを撃ち落とす。
「アタシを忘れんな!」
連結した青龍刀を投げ、弐式が迎撃にビームを放つが、効果が無く遅れながらも回避する。
回避しきった簪に衝撃砲を撃ちつづける鈴が頭から簪とぶつかる。
ヘッドバットを喰らった簪はわき腹にケリを入れて、距離を離そうとするが鈴が彼女を掴んで離さず、キャットファイトとなる。
「簪!」
回避して、クルリと回りながらユーリのマーダーが三本のダガーナイフを鈴に向かって放つ。
「おっと」
間に入って装甲で全てのダガーを弾き、落ちた一本を投げ返す。
マーダーが蚊を打ち払うかのようにダガーを叩き落とすのを狙ってショットガンによるばらまきをお見舞いするが、マーダは散弾の雨をすり抜けて突撃してくる。
懐に入り込んだマーダーはヒート化したナイフで首や腕の関節を狙うが、僕は微妙に機体をずらして
関節では無く装甲にぶつけさせる。ヒート化したナイフは装甲にぶつかり焦げ跡を残すのみでダメージは無い。マチェットを抜き放って逆手で構えて、小ぶりに振る。
「やりにくい戦いだよな? アァ?」
「同感だ」
視界からマーダーが消える。高度を落として潜り込み、背部へと一瞬で回り込んだ。
舌打ちしながら、手榴弾を抜き、後ろに放り投げる。
炸裂して、飛び散った破片が互いの装甲を叩き、爆炎に呑まれていく。焼けた装甲に包まれた巨人を動かして、尚も食い下がってくるカラスを視界に収める。
爆風で距離が離れたことを利用して、榴弾の入った2丁目のショットガンを呼び出し、マーダーに照準を付け、発砲。マーダーに直撃したが、銃口にダガーが投げ入れられ誘爆を起こし戦闘は地上戦へと移る。
降り立った僕を待っていたのは無手で襲い掛かるマーダーだ。加速を利用した飛び蹴り
カメラにぶつけて、頭部にスパークが走る。
負けじと僕は彼の足を掴んでアリーナの壁に投げつける。
投げつけたマーダーにとどめを刺そうと近づくと後ろから赤い光が飛ぶ。
簪が鈴との取っ組み合いから抜け出して狙い撃ったのだ。
知覚するのが遅れたグレイイーグルの後部装甲に直撃し、遂に装甲を貫通される。
「お前、よくも・・・!」
隠し玉の一つをコールする。旧時代のパンツァーファウストに似た大口径ロケットを弐式に打ち込んだ。回避行動をとる弐式を甲龍は衝撃砲で回避行動を制限させる。回避スペースを失った簪の間近で僕はコールしたリボルバーでロケットを空中で起爆させる。激しい閃光と衝撃が広がり、鈴との戦闘で消耗していた弐式は巻き込まれてシールドエネルギーを使い果たし、稼働限界を超えて停止する。
「ヴィンセント! 後ろ!」
振り向く前に衝撃が襲い、グレイイーグルはシールドエネルギーをゼロにされて敗北判定を喰らう。
ユーリが貫通された装甲の隙間にダガーを突き立てたのだ。
差し込んだダガーとヒートナイフを持ち、鈴に向かって行く。
鈴は龍咆を放ち、接近させまいとするが、マーダーはバッタめいた軌道で回避していく、
回避しきったユーリに瞬時加速を使い、腕を突き出す。
「コレで・・・!」
マーダーを掴みとり、腕部衝撃砲をゼロ距離で放った。
しかし、命中したマーダーが蜃気楼の様に揺らいで、消えた。
驚愕した鈴の後ろには逆手に構えたナイフの切っ先がすでに彼女の首に伸びていた。
試合終了のブザーが鳴り、戦闘は終了した。
「畜生。」
僕たち二人はそう呟いた。
ピット内で待機していた私たちは薄暗い部屋の中でヴィンセント君達の試合意を見ていた。
全てを使ってでも勝ちにいく。貪欲と言っていい姿勢に私たちは見惚れていた。
「静寐、勝とう。私たちの今までが無駄でなかった証の為に」
神楽が言う。私はその言葉にうなずいて、機体を展開する。
せめて、心の在り方だけでも彼らに近づけて・・・・
そしてピットを出る。
前に現れたのは織班君とシャルル君のペアだ。
どちらも専用機。しかも織班君は一撃必殺の格闘武器を持ち、シャルル君のラファールは私たちのより性能が底上げされていながらも、多種多様な火器を使う厄介な相手だ。
こちらは少しでも機動力を上げるために両機ともラファールにしたが武器の数でも負けているのだ。策が上手くいくことを祈るしかない。
カウントが開始される。私たちはお互いに手を握り合って、互いを信じあうことを誓う。
ブザーが鳴った。戦闘開始だ。
相手にする弐機が分かれる。織班君がフォアードで突っ込み、それを臨機応変にシャルル君が援護する、これだけで彼らは勝ってきたのだ。
「うおぉぉぉぉ!」
咆哮しながら切りかかってくる織班君を神楽が背中にラックしていた直剣で抑える。
「静寐!」
「はい!」
サブマシンガンをコールしてつばぜり合いをしている織班君を撃つ。
神楽が後退して私の後ろに着き、弾幕を張って互いに下がる。
すると激烈な発射音を知覚した。その後に続いて、ライフル弾が私の頬を掠めていく。
シャルル君の援護射撃が入り、回避行動をとらざるを得なくなる。サブマシンガンではライフルに対して遠距離で叶う事は不可能だということを知っていたためだ。
右、左、とランダムに回避するが、肩に被弾し、体勢が崩される。墜落する私にライフル弾が容赦なく飛来する。五発の弾丸をくらいながらも、立て直す。すると
見計らったように織班君が瞬時加速で間合いを詰める。万事休すと思ったが、
神楽が割って入り、回転蹴りと斬撃を同時に放ち、これを阻止した。
吹き飛ばされる織班君と援護射撃をし続けるシャルル君を見て私は神楽に合図を出す。
仕掛けるタイミングだ。
サブマシンガンを仕舞い、得物を取り出す。
柄がついた手榴弾を両手に指で挟んで全部で8個持つ。
二機をロックオンして投げ放つ。
柄の尻の部分から、噴射炎が出て、グレネードが飛翔する。Rインダストリーの追尾型グレネード。試合ではミサイルに使用制限が設けられるというルールがある中でミサイルによく似た武器を使うために開発されたペテングッズの一つだ。
さらに呼び出し、次々と飛ばしていく。
「何だよ、これ!」
織班君が叫び、回避行動をとる。シャルル君が迎撃しようとライフルを構えるのを見て私は彼に突撃し、サブマシンガンを連射する。
「シャル!」
織班君が叫ぶが彼にできることは無い。射撃武器をもたない白式では援護もなにもできないからだ。織班君を足止めするには誘導兵器で逃げ回らせるのがいいと結論付け、ソレは功を奏した
「この・・・!」
ショットガンを取り出して迎撃する、そこが狙い目だ。人は多くの者に集中力など割けない生き物だ。たとえ、どんな人間でもだ。
シャルル君がセンサーで見て気づき振り返る。
瞬時加速をして回り込んだ神楽がそこにいる。訓練の中で、彼女ののみ、意識的に瞬時加速が使えたのだ。
赤く光らせた直刀、正体は大型のヒートブレードだ。使っている間エネルギーを馬鹿食いする欠陥兵器だが、これに優る一撃の火力が大きい物は無い。
一閃。研ぎ澄まされた一撃を命中させ、シャルル君が男とは思えない悲鳴を上げる。
そして時間差でグレネードが飛翔し彼に直撃する。
「やった!」
私は歓喜の声を上げて、シャルル君を見るが、それがいけなかった。
まだ、彼のシールドエネルギーが残っていたのだ。
重機関銃とライフルの二丁持ちをしたシャルル君を見て、私も構えて応戦する。
回避も考えたが、ここで気づいた。彼の射線には私だけでなく神楽もいることに。
――――神楽に当たる!
ヒートブレードでエネルギーを使った彼女に命中させられないため、私は盾となった。
互いに撃ちあい、曳光弾が私に命中していく。飛来する弾丸と命中した時の痛み、恐怖が私に覆いかぶさったが、踏ん張った。
――――もう少し、あと少しで・・・!
ヴィンセントとユーリを思い出せ、仲間の為に盾となれ。
簪と鈴を見たはずだ、勝利するのに二人そろう必要はない
シールドエネルギーがゼロへ近づく中、神楽の声が聞こえた気がした。
「何とかする! だから・・・」
その言葉を理解して最後の気力を振り絞ってグレネードを投げ、私の機体は限界に達した。
力の限りを尽くした私のラファールは地へ堕ちていく。でも無駄じゃない。
―――――まだ神楽がいる!
墜落していく私を囮にして神楽はシャルル君に抱き付いた。
「な、何を!?」
「一緒に吹き飛ぼう、色男君」
グレネードの二度目の直撃。その時、ラファールカスタムは敗北判定を受けた。
そして神楽はまだ動ける。
――――倒せた! 私達倒せたんだ!
無邪気なまでの笑い声すら出して、私は大地に転がった。
証明成功、 革命はここに成った。
同じく墜落した神楽はヒートブレードを杖のようにして立ち上がり、倒したシャルル君をチラリとみて笑い、再び顔を引き締め、上空を見上げる。
そこには白式が刀身からレーザーを出して神楽を見ていた。
それを見て、神楽はゆっくりと下段に構え、赤熱化させる。
「・・・参る!」
残り少ないエネルギーを瞬時加速に使い、織班君に最後の一太刀を浴びせようと
跳び、接近する。一撃の威力が高いヒートブレードなら、と一縷の望みをかけて、神楽はブレードを振りぬいた。白式もブレードを上段から振り下ろして、二機はすれ違った。
その時、一瞬だったか静かになった。まるでTVの音量をゼロにしたように織班君と神楽の勝負が何の音もなく進んだ。
そして音は戻って来た。
「・・・・・静寐・・ごめんなさい」
一言言って神楽のラファールが墜落する。私たちは勝つことは出来なかった。
「ありがとう、神楽、満足だよ」
試合に負けて勝負に勝った。それだけを胸に私達は泣いて笑いあった。
ブザー音より大きい拍手と声援に包まれながら。
「負けたわね・・・・」
食堂で互いにソファにもたれかかり、今日の試合を振り返る。
今はまだ試合中で、昼飯時でもない事もあって
「最初から、相手する奴を間違えたのが敗因かな、それに最後のアレは予測できなかった。」
ユーリの見せた手品。本来なら完成していなかったはずの機能だ。
「アレ何なの?」
「センサージャックだよ。この学園に来た時は完成してなかったはずだったし、マイクに聞いても作っている様子は無かったから・・・油断した。簪だ。」
マーダーの特殊装備、センサージャック。その辺の施設なら完全に自分の存在を誤魔化せる代物だ。コアの持つ独特の信号もしくは波長をマネて、敵機ないし、敵施設に誤情報をおくる。ISにも有効と聞いたが、本社の試験では三秒と持たなかった。
この未完成の兵器を簪と言う存在がとりあえず使えるレベルまでに引き上げたのだ。
おかげで鈴が騙されて僕らは敗北した。
「あんなのズルすぎでしょ~。わかんないわよ普通。」
「ユーリが使うからこそ、チート臭くなるものだけで、実際はそこまでじゃないってのが
この話のオチだよ。」
二人ともにため息を吐く。勝者もいれば敗者もいる。どこの世界だって言える共通の単語だ。自分たちが鳴るとは想像すらしなかった。自信過剰だったのだろうか。
思いにふけっていると、後ろで何やら騒がしくなっていた。鈴も気づいたらしく、
ソファの影から騒動を盗み見する。
「いい加減にしろと言ったはずだぞ。ラウラ、お前は何回同じことを私に何回同じことを言わせる気だ?」
視界に入ったのはドイツ軍人に学園の女王様だ。二人は言い争っているようだ。
「しかし、この学園の生徒はレベルの低い物ばかり・・・ISを兵器として扱わない者ばかりです。こんな場にいては御自分の腕まで衰えさせることになります。ぜひ、ドイツへ・・・」
そんなラウラに織班千冬は一喝した。
「自惚れるなよ、小娘。それほどまでに選ばれた存在だと言うのなら、レーゲンは一度もダメージを負う事はないはずだろう、だがお前はどうだ? 専用機すらない一般生徒に傷をつけられ、特殊兵装が無ければ敗北していた身ではないか?」
「それは・・・」
言いよどんだラウラに織班先生は背を向けて去っていく。振り向きすらしないまま。
その背中を追いすがるようにラウラは教官、と叫んだ。
足を止め、織班先生が言葉だけを送った。
「織班先生だ。 貴様の戯言はもう聞き飽きた。しばらく頭を冷やせ。」
ヒールを鳴らして、完全に見えなくなった。一人残されたラウラはその場に座り込みながら、憎悪に染まった声を出した。
「たかが、学生風情がよくも・・・! 私をコケにしてくれて・・・!」
僕はコーヒーを静かにすすりながら彼女を見る。これが現役の左官だ。人間は感情の生き物と言うが、感情に従いすぎてはただの動物と何ら変わりない。
ラウラ・ボーデヴィッヒは獣だ。ただし、世界最強の力を持つ兵器を駆る動物だ。
「ねえ、武器商人のアンタから見てアイツはどうなの?」
鈴が好奇心旺盛な猫のような瞳で訊く。
「武器商人じゃない、ただ売り物の中に武器があるだけさ。でも、そうだな・・・」
二泊ほど考えて答えを口にした。
「彼女にだけは売りたくないな」
「同感」
お互いの考えが同じことにクスリと笑いながら、僕は空になったコーヒーカップに新しくコーヒーを淹れた。白い陶器に黒い液体が注がれて白かった中身が真っ黒になった。
ラウラ編も大詰めになりました。
恐らく後2、3話分くらいです
よろしくお願いします。