準決勝まで進むことができた私の相手は一夏のペアだった。これは私にとって不幸ともいえる出来事だ。一夏達のペアはどちらも専用機。対する私は打鉄だ。性能に圧倒的な差がある。性能だけが勝敗のカギではないのはわかっている。この大会で訓練機で倒した者たちがいた。でもそれだけでは足りない。私にはそれ以上の力がいる。
「何をしている。 さっさと行くぞ」
私のペアのボーデヴィッヒが急かす。私にとってコイツは気に入らない奴だった。
初対面で一夏を平手打ちし、一夏を種馬扱いする、この女が気に食わない。なにより専用機を持っていることが気に食わない。でも、コイツがいなければ私はとっくに敗北していたことだろう。そのことがどうしようもなく、私を惨めな思いにさせる。
何故だ?
何故、私には専用機がない。それでも、と努力を、鍛錬を怠らず、ここまでやって来たと言うのに、どうして私はこうも非力なのだ?
やっと一夏に会えたのに、これで一緒にいられると思った。一夏の望みを聞いた時、隣で力になりたいと思った。しかし、奴の周りにはいつも力を、専用機を持ったものが近くにいる。
このままでは一夏に・・・・置いてかれる。
それだけは嫌だ、また私に孤独を味わえと言うのか。目の前に一夏がいるのに、どうして遠く感じるのだろうか。私だけ蚊帳の外、仲間外れ、独り。
この六年間の忌まわしい記憶が蘇る。この苗字のせい、いや、あの姉のせいで私はどれほど苦しんだことか。目の前に広がるフラッシュバックを頭を振って消そうとするが消えない。
誰も近づいてくれない。近づいてきたのは汚らわしい奴ばかり。
聞こえてくるのは聞きたくもない声の数々だ。幻聴だと分かっているのに、妙に現実感がある。
脂ぎった笑顔で接する政治家どもが言う。
「君がかの、篠ノ之博士の妹の箒さんだね? 私は・・・」
遠巻きに私を睨むクラスメイト達が冷たく言い放つ。
「近づかないでよ。どうせ見下しているんでしょ?」
私はあの人と関係ないのに
「テロリストの妹なんかと話せるわけないじゃない」
私がやった訳でもないのに。
「お前の姉のせいで俺は仕事を失ったんだぞ!」
いつも皆は姉の事ばかり見る。篠ノ之束と言うフィルターを通してしか見ない。
どうして誰も私を見ない世界には六十億と言う人がいるのに、ただの一人も見てくれない。
寂しくて、苦しいのに、誰も助けてはくれない。
「俺はシャルルと組むよ。悪いな箒」
何故、一夏さえ振り向いてくれない。
どうして私の人生には甲斐がないのだ。
「足は引っ張るなよ。この前のような無様な姿をさらされては敵わんからな。」
「わかってる!」
だが、それでも私は進むしかない。そして一夏との約束を・・・・・
今度こそ、望んだ結果を・・・
準決勝に進んだ俺たちはピット内で次の試合に向けて待機していた。ベンチに座り、一枚の資料に目を落としていると、来客が来た。
「やあ、調子はどうだい?」
「ヤッホゥ、弾。」
鈴とヴィンセントが揃って遊びに来た。その後ろにはユーリと簪も来ていた。
「何だよ、ヴィンセント。冷やかしか?」
「そんな所さ。いよいよ、本命の対ドイツ戦が近いんだから気を抜くなよ、弾 アカネ」
アカネがキッと目を光らせてヴィンセントを睨む。
「わかっていますよ。そのために私もアレを使う予定です。」
アカネの言うアレとは対ボーデヴィッヒにつかう物の事だ。
ボーデヴィッヒの機体シュヴァルツェア・レーゲンには特殊兵装がある。第三世代型には鈴の甲龍やセシリアのブルーテイアーズのように実験兵器が着くのが当たり前となっている。では彼女の特殊兵装とは何か? 答えはAIC(慣性停止結界)というものだ。ISの機体制御に用いられているPICを応用し、対象を停止させるというものだ。停止させられるものは機体そのものから銃弾までだ。アカネのライフル弾が止められてしまう以上、こちらの攻撃手段を封じられる厄介な兵器だ。しかし、この兵器には操縦者の集中があって初めて作用されるものだ。つまり、集中できないほどの弾丸を撃つか、知覚できない弾丸を撃てばよいのだ。そこでアカネは後者の答えを選択したのだ。
その銃を見て簪が目を輝かせている。
「試作品が失敗したって聞いたのに・・・! まさか、こんな近くで完成品が見られるなんて!」
普段のイメージと違い喜びの表情を露わにする簪を見て、俺は一言、可愛いな と呟いた。
直後にアカネの睨みとプレッシャーを受けて引っ込める。
「こんな兵器ばかり作って、アンタの会社って絶対ろくでもないでしょ?」
「君の祖国よりはマイルドだよ」
「何よ、銃社会のアメリカ様の癖に」
鈴とヴィンセントが軽口を叩きあい、口論を展開する。これで、よく連携ができたものだ。
ユーリが銃を見て簪に聞く。
「気に入ったのか?」
「うん、弐式も持とうしたプランもあったし、それに・・・フォルムがカッコいい」
「俺のではダメなのか?」
ユーリがマーダーの兵装について聞く。
「ユーリのはカッコいいけど、悪役過ぎかな。」
「そうか・・」
ユーリは少し残念そうに呟く。こちらはこちらで良好な関係らしい。
このメンバーを見て思った。最初は俺を含めた四人だけだったはずだった。でも今では簪に鈴、大場先生にマイク達
レジスタンスの皆と集まって来たのだ。何がキッカケだったのだろうか?と思う事もある。
でも今の俺を取り巻く環境は素晴らしいの一言だった。
これは俺が力を得たおかげなのか?いや、違う。皆迷い道に迷っていたら、偶然出会っただけだ。でも、その始まりを作ってくれたのは間違いなくRインダストリーとアカネ達だ。
彼らが俺を救ってくれたのだ。あのブロイラーのような飼いならされた生活から。
だから、俺は彼らの為に働きたい。俺を救ってくれた彼女の為に
その時だった。アリーナに非常灯が灯され、アラームがけたましく鳴りだした。
「何だ?」
俺が呟くとアナウンスが流れた
「アリーナ内でISが暴走! 一般生徒並びにお客様は避難してください! 」
告げられた言葉に俺たちは言葉を失った。そして今まで誰も見向きしなかったモニターを覗くと、真黒な織班先生をマネしたISがいた。
その近くでは篠ノ之に一夏、シャルロットがいる。という事は暴走したのは彼女だけだ。
ラウラ・ボーデヴィッヒが暴走したのだ。
教師部隊としてやってきたアタシの目に映ったのは女王様のそっくりさんだった。
ラウラ少佐殿はISを暴走させて、あの姿に変わり、織班一夏の機体を打ち消した。
「囲むぞ! 大場先生何をぼーっとしているんですか?!」
教師の一人がアタシを罵倒する。しかし、そんな事はどうでもいい。
織班一夏の白式が打ち消された。この事実に私は悩んだ。普通、試合のルール上のISのシールドエネルギーが尽きてもISそのものが解除されることは無い。最低限のエネルギーが残るからだ。しかし、彼の機体は消えた、という事は・・・
「うかつに近寄るな! そいつは零落白夜を持っているぞ!」
「えっ・・」
接近した教師の一人が袈裟切りを受ける。そのとき、皆の視界に入ったのはISが消えた教師だった。彼女まだ生きているが、胸のあたりを薄く切って血が流れている。
それは些細な傷だ。日常で、転んですりむいてしまった、と言う大したことのない傷だ。しかし、一つの事実が告げられる。絶対防御を無効化する、と言う事実に。
その事実は自分が死なないという前提を簡単に壊した。
悲鳴が上がり、それが部隊全員に伝播した。驚いたことに部隊は恐怖で逃げ出したのだ。
「嘘でしょ・・・!」
ISの絶対防御の神話が崩され、死なないはずの戦闘に皆恐れたのだ。
そして黒いISは驚くべき行動に出た。手持ちの刀を持って客席に向かって飛び刀を差し込みだしたのだ。
マズイ・・・!本能で悟った。コイツ、一般生徒を皆殺しにする気だ!
「よせ!」
瞬時加速で近づき、刀剣で黒いISを押し出す。そのまま接近戦へと移行する。
その近くにいた生徒、癒子たちがいたのを見つけてアタシは叫んだ。
「逃げろ!できるだけ遠くに!」
「先生!」
蹴りだして距離を離し、突撃銃を連射するが、全て回避し、あろうことか、刀で実弾を着る始末だ。視界から消えて、センサーを見ると反応が真後ろに来ていた。
首をはねようと横に薙いだ刀をライフルで受け止め、その場でスピンし自動拳銃を全弾放つが、掠りもしないで敵機は後退する。
ラウラの反応速度をはるかに超えている。本物のブリュンヒルデに近い、
一体コイツは何だ? 理解が及ばない減少に頭を悩ませる。
相対しているとハイパーセンサーが声を捉えた。
「離せ、箒! アイツぶっとばしてやる!」
「よせ、一夏!」
そこにはISも纏ってない二人とシャルルがいた。
「何してる! さっさと逃げろ!」
注意をそらしたアタシに黒いのが来た。敵機は瞬時加速と居合をまぜたヒット&アウェイを繰り出し、その速度はセンサーで追えるような者では無く、ただひたすらに襲い掛かる暴風を受け止める以外に選択肢は無かった。。
ぶつかるたびに装甲が弾け、薄皮から血がにじむ。二回、三回と繰り替えされるのにアタシは致命傷を割けるのに精一杯だ。拳銃を切り裂かれ、次に盾、背中となぶり殺しにされていく。痛みと、感覚を研ぎ澄ませることから来る精神的疲労にアタシは悶える。
五度目でわき腹を薄く斬られ、血が体を伝って落ちていく。それでも敵機は攻撃を止めるわけは無く、それどころか、より激しくなる。
額に傷ができて派手に流れる血を止めることどころか瞬きすらできない。
「いい加減にしろ!」
ラリアットをして敵機を停止させる。そのままブレードでお返しと上段から切りかかるが、
神速の居合によってアタシのブレードは綺麗に二等分されてしまう。
そして回し蹴りをわきに喰らい地面に転がってしまう。
血のあぶくを吐いて、敵機を見ると、再び観客席に入り込もうとする。
「ふざけるなよ。少佐ァ!」
渾身の力を振り絞ってブレードを投げつける。予想通りあっさりと切り払われる。
でも、望み通りこちらに近づいてきた。
「来い、来てみろよ。か弱いウサギ。アタシを殺す勇気もない癖に何がドイツ軍だ。
お前は臆病なウサギだ。自分の弱さに立ち向かおうとしない愚か者だ。」
ゆっくりと黒いISは歩いてくる。これから殺されるものの表情を楽しんでいるのか、と思うほど緩慢な動作だ。
「先生! 避難完了しました! 先生も・・・・!」
レジスタンスたちの声が通信で入って来た。ISを介しての通信という事は格納庫に逃げ込んだのだろう。
「ごめんな、癒子。アタシもうだめだわ・・・楽しかったぞ存外に」
「嘘・・・! 誰か、誰か助けて!」
救援を必死に呼ぶが結果は知れている。味方など来るはずのない。教員は逃げたし、女王様は司令室でふんぞり返っている事だろう。でもそんなことはどうでもいい。思えば最後の最後でいい思い出が作れたものだ。
「早いもんだな、死期って・・」
生徒はとりあえず逃がした。仕事は成功した。悔いはないかな・・
「まだです!」
その時、ピットの扉がこじ開けられて、一つの青い閃光が走った。青い閃光は黒いISに直撃して吹き飛ばしていった。
「お前たち・・・!」
目の前に現れたのは、打鉄、打鉄弐式、グレイイーグル、ハヤブサ、マーダー、甲龍とそうそうたる面子だった。
「ペイバックの時間だ、少佐殿」
ヴィンセントが息を吸い込み、全機に叫んだ。
「ALL UNIT! Rock'n roll!」
全機が展開し、黒いISへと向かって行った。
「シャルルと一夏を収容してエネルギーの補給急げ! 数がいる!」
ヴィンセントが臨時の指示をして、各機に戦闘行動をとらせる。
「ユーリ、弾 前衛に出ろ。一歩も相手に抜かせるな。簪! レーザーを撃ちつづけろ。
僕と鈴は制圧射撃で援護する。」
「何をしているヴィンセント! 生徒が前に出るな!」
グレイイーグルが機関砲を両手に展開しながら、答える。
「どの道、このままでは突破されます。今は投入できる前線力でアイツを抑えなくては・・」
「貴様、その年で死ぬ気か!?」
「なら、指揮をお願いします。我々が死なないように」
制圧射撃を開始して、黒いISの動きを制限する。そこにレーザーや衝撃砲が殺到して圧し潰そうとするが、それすらもヤツは掻い潜っていく。
「僕では指揮の経験が無い! お願いします!」
現状を見て、アタシは彼のいう通りにするしかないのに気付き、舌打ちする
―――――戦うのは本来アタシ達でよかったはずだと言うのに・・・!
通信をオンにして、全機につなげる
「弾、無理に挌闘をするな! 軽機でユーリを支援しろ! ユーリ、今奴と切り結べるのはお前だけだ。アタシが行くまで耐えろ! 簪は撃ちつづけろ! 自由な行動をさせるな
ヴィンセントと鈴は面で攻撃だ! 撃ちまくれ!」
了解と全員が答えて行動を開始する。そして、もう一人の存在に別の指示を出す。
「アカネ、お前のライフルなら奴の反応速度を超えられるはずだ。アタシのタイミングで胴体を撃ちぬけ。」
「対象の生死は?」
「構ってられないな・・・・すまない、君に人殺しをさせるかもしれない。」
「ご安心を 生き死になら慣れています」
こんなセリフを言うアカネにアタシは拳を握りしめて自分の情けなさに震える。
子供が戦って、傷ついて、人の命を扱う事を平然とやってのける。これがアタシたちの咎か。こんなことを正しいと言うのか、私たちは・・・・
「大場先生、何をしている! 生徒に人殺しをさせる気か!」
その声にアタシの堪忍袋の緒が切れた。彼女が今どこから声を出しているのかを思うともう自分に歯止めが利かなくなっていった。
「うるせえ! ならアンタが出てこいブリュンヒルデ!」
通信を切り、機体を起こす。エネルギーはまだ残っている。行かなくては・・・
打鉄を飛翔させ、アタシは少年と少女飛び交う戦場に足を入れた。
戦闘は膠着した。戦力差七対一、時間がたてば、シャルルと織班が来て戦局は楽になる。
大場先生が出した指示に従い、ハヤブサ最大の得物を構える。
XM-011 パルスライフル。弾丸に入れる火薬の代わりにISのエネルギーを注入した半実体弾を発射する特殊ライフル。弾頭はシールドを纏ってプラズマ化して温度3500度に加熱される、さらに発射された時の摩擦熱と共に目標に飛んでいく。速度はライフル弾の5倍近い弾速で貫通力は計り知れないものとなる。反面、反動等が強すぎて高機動を用いた戦闘には全く向かないと言う欠点もある。口径55mm。スコープを覗き、深呼吸をする。指と神経を研ぎ澄ませて、合図を待つ。
スコープのレンズに反射するのは弾とユーリ。そして黒いISに向かう赤い光と曳光弾の二色の光の暴力的なイルミネーション。そこに不可視の砲弾が叩き込めれてなお、黒いISは抵抗を続ける。
「コイツ、避けるな!」
「鈴さん、もっと面を大きく!」
衝撃砲で前への逃げ道を塞ぎ、後ろから蛇のようにうねる紅い閃光が狙い撃つ。
黒いISはレーザーをブレードで切り裂き、弐式へと突貫しようとする。
「やらせはしない」
ユーリがナイフで刃を受け止め、わき腹へと脚を蹴り入れる。
すかさず、弾が軽機で狙い撃ち、足を止める。ダメ押しとヴィンセントが大口径の機関砲と散弾砲で加勢する。大場先生もヴィンセントから借りたショットガンで封じていく。
「今だ! 撃てえ! アカネ」
引き金に掛けた指に力を込め、撃つ。激烈な反動とマズルフラッシュを生じてハヤブサは後ずさる。青白いプラズマ炎の塊が黒いISを捉えた。
黒いISから苦悶の声が上がった。効いていることを確認し、ボルトを操作、異常加熱した薬きょうが転がり、次弾を込めて、発射する。2発目も命中して黒い胴体が貫通される。
とても機会とは思えないコールタールのような粘着質な外壁がもろく崩れ落ちる。
三発目に入り、ゆっくりと急ぎつつ、照準を合わせる。
引き金へと力を込める。そして・・
「やめるんだ!」
射線に予定より早く補給を終えた織班が出て来た。
「アカネ、お前は人をラウラを殺すのか? ダメだ! そんな事女の子がしたらダメだ!」
「どけ、どきなさい! でないと・・・」
「ラウラは力に飲み込まれているだけなんだ、だから・・・」
あなたも撃つと言おうとした。トリガーから指を離してしまい、射撃やとしては致命的すぎる隙をさらけ出してしまう。その隙を突いて黒いISが瞬時加速で織班を吹き飛ばし、私へとその凶刃を向けた。
「アカネ!」
弾の声が聞こえ、そして私の胴体に刃が突き立てられた。
アリーナの壁へとハヤブサが吹き飛ばされていく。胸部装甲に大穴があけられたハヤブサはピクリとも動かない。血こそ流れていないにしろ、彼女は全く動く気配がない。
「アカネ! 嘘だろ!? こんなことって・・・」
俺の呼びかけにも応答せず、壁に寄りかかったままだ。信じられない現実の中でヤツは動いた。
「来るぞ!」
この場の誰もが動揺し、正常な状態ではなかった。
ヴィンセントと鈴が前面に出て制圧射撃をする。すると、黒いISが腕を前にかざす。そして放たれた実弾と衝撃砲がその場に止まった。
「AIC?!」
「馬鹿な!?」
鈴に切りかかろうとした黒いISの前にグレイイーグルが入り、装甲でブレードを受け止める。堅牢な装甲にブレードが食い込み、引き抜かれ、血液のようにオイルをまき散らす。
「ヴィンセント!」
鈴が名前を叫ぶ。その場に沈むグレイイーグルの後ろから援護射撃としてサジタリウスの矢が放たれる。黒いISの胴体に直撃したはずだが、構わず突貫し、鈴の甲龍を完膚なきまでに破壊しつくす。それの救援としてユーリが後ろからナイフを突き立て空いた手に持ったダガーナイフを打ち込んでいくが、黒いISは後ろ向きで居合切りを行い、マーダを撃墜する。
「ユーリ! お前ぇ!」
簪が後退しながら、矢を放ち続けていたが、途中で射撃が止んだ。遂に弐式のエネルギーが尽きたのだ。
「そんな・・・!」
「下がれ、簪! 」
俺が叫び、大場先生と共に前に出る。黒い敵機は手刀で大場先生を止め、三回の刺突を直撃させて墜とす。これで戦力は最早俺一人になったも同然だ。そして俺に凶刃を振るう。俺は周りの状況に混乱寸前になっていた。皆、もう限界だ。これ以上の戦闘は続けられない。こちらは総崩れで、エネルギーもない、射撃も通用しない、格闘では圧倒的に向うに分がある。
どうすればいい・・!?
そこに一夏が加勢し、二対一になる。
「弾、ラウラを助けるぞ!」
今はそれどころでない。下手すれば俺たち全員が殺されるのだ。
一夏には一撃必殺となる零落白夜があるが、ここまで実力差があるとどうしようもない。
そもそもエネルギーが十分でないようにさえ見える。
戦力もない、有効な攻撃手段すらない。
万事休すだ。
その時だった、一つの声、否 寝息が聞こえた。俺の隣で寝ていた者の声が耳に囁くように聞こえた。アカネの物だ。
彼女は生きている。そして血も流していないところを見ると気絶しているのか。
そして天啓、閃きが俺の頭に生まれた。
「皆、俺に手を貸してくれ!ボーデヴィッヒの動きを止めるんだ!」
最後の希望を掛けて、戦闘は仕切り直しとなる。
「一夏、下がれ。 お前は最後のとどめの為に温存しろ」
「何言ってんだよ!? お前訓練機でどうにかなると・・・」
「お前は邪魔なんだ!」
中途半端な補給できた一夏をここで戦闘させれば、今度こそ、エネルギー切れで殺される。
だから俺が行くのだ。
向かってくる黒いブレードを戦斧の柄で受け止める。押し出して自分からは降ることなく、ただ受け止め、受け流し、避けると言った行動のみをとる。
攻撃に移るには俺では実力が足りない、だが時間稼ぎは可能のはずだ。
「鈴、エネルギーは?」
「あるわ・・・でも甲龍が・・」
激しい損傷を受けて一切の戦闘が不可能となった甲龍を見る。青龍刀すら原型をとどめていない。
「簪にエネルギーを分けて下がるんだ! 簪!アカネに奴の行動予測のデータを送ってくれ!」
「わかった! あなたにもデータを送る。 それを頼りに回避して!」
どうにか這って近づいた鈴が簪にエネルギーを送る。そして簪が行動予測のデータを送ってくれる。ヤツの動きがわかるようになるだけでも、俺は少し楽になった。
たった一つの希望はアカネの腕とライフルだ。 AICの防御と奴自身の反応速度を超えるにはコレしかない。どの道、このままでは全員お陀仏だ。一か八か、アカネが起きてくれる以外勝機はない。
目の前にブレードで三回に分けての刺突が行われる。どれも急所を狙った殺人剣だ。一回目を刃で受けとめ、二回目を戦斧の柄を回して軌道をずらす。三回目はマニュピレーターで刃の側面を叩いてギリギリで避ける。
ブレードに集中していた俺に膝蹴りが入る。苦痛に耐えて、胃液を少し吐いた。
逆手に持ち替えた黒いISが俺の脳天目がけて振り下ろす。
「嘗めるなァ!」
タックルをして、弾き飛ばす。距離が開いたところに援護の射撃が来る。
ユーリのショートカービンとヴィンセントの機関砲が火を吹く。二機とも動けず、射撃することで精一杯だ。
回避をして、何の注意も払わず、俺に接近する。
音速を超えた、神速ともいえる速度の抜刀術で戦斧が破壊される。
「まだだ!」
地面に落ちているダガーナイフを二本拾い上げて、再び開始された連撃を受け止める。スラスターを右へ。左へと後退しつつ間合いから逃れようともがくが、離せず八撃目の斬撃で両方折れた。
「弾!」
ヴィンセントが投げたマチェットを受け取り、さらに打ちあう。
ぶつかり、火花が散るたびに確実にマチェットの限界が近づく。パワーも硬度も、まるで
桁違いだ。それでも、やめるわけにはいかない。
俺しか足止めできないのだ。幸い、援護射撃を相手が警戒しているのか、AICを使う気配はない。高速戦闘を避けて剣術で追い込んでいるのも、そのためだろう。それでも楽ではない。現実、それだけで俺はもう限界へのカウントダウンに瀕している。
「アカネさん! 起きて、五反田君が・・!」
簪が呼びかけている。それに呼応するように皆、声を送る。
俺も接近戦に耐えながら、叫ぶ
蜘蛛の糸のような頼りない策にすがって
ここはどこだろう? 私はさっきまで戦闘をしていたはずだ。ハヤブサでアイツを狙い撃っていたはずだ。なのに今の私の状況はどうだろう。機体も纏っていない暗闇の中、妙に自分の姿だけハッキリと見える。
「死んだんですか・・・私」
一人つぶやいていると、後ろから足音が聞こえた。
「久しぶりだな、アカネ」
そこにいたのはかつての憧れの人だった。
「どうして、あなたが・・?」
「君が迷っていたからだ。君は三発目に撃たなかった。射線上に見方がいたから? でもあの銃なら彼ごと撃てたろう? 彼には絶対防御がある。掠ったところで死にはしない。
何故撃たなかった?」
訊かれたのはついさっきまでの私の行動だ。おかしな話だ。目の前のこの人はとっくに死んだのに、何故私の行動を知っているのだろうか?
だが、私は気にせずに答えた。
「あなたが、そう教えてくれたからです。どんな時だろうと標的意外に銃を向けない。
それが兵士の義務だとあなたが言ってくれたからです!」
そして、意識が完全に遠おく前の光景を思い出して私は叫んだ。
「でも、そのせいでヴィンセント達が・・・弾が傷ついてしまった! 私はあなたのような兵隊になろうと今日までやって来たのに、結局大切な人も・・・ルールも守れない!
私はもうどうすればいいか・・・・分からない」
まるであどけない少女のように私は瞳から水滴をこぼす。全てが自分の望む結果と逆に行った。私に残った物は何もない。このまま消えてなくなりたかった。
「甘えるな アカネ 」
アノ人が私を奮い立たせた。
「君はまだ生きて、銃もまだ生きている。 君はまだ戦えるんだ。 彼らの声が聞こえるか?それが答えへの道となる。耳を澄ませてよく聞くんだ!」
私は言われた通りの従い、耳を澄ませた。
「アカネ、起きろ!お前しかいないんだ!」
ヴィンセントの声が聞こえた。次々に声が聞こえてくる。
「起きなさいよ! アンタこのために此処に来たんでしょ?!」
「いつまで寝ているつもりだ? 勤めを果たせ」
鈴とユーリの物だ。
「お願い、皆を助けて・・・!」
簪の声音が聞こえる。
目が少しづつ開かれていく。視界に最初に写ったのは背中だった。
私の望みの一つのあの人だった。
「アカネ、聞こえているなら答えてくれ! !約束したろ、この大会でもう一度確かめるって・・・だから!」
弾の打鉄が限界へと近づいていくの見て取れた。スラスターから黒煙が上がり、ついていた装甲は切り傷のような跡でぐしゃぐしゃになっている。
「俺と一緒に立て! アカネ!」
殺し文句、待っていたセリフだったかもしれない。意識がハッキリとしてライフルを構えてスコープを覗く。不思議だった。コマ送りのように相手の動きが遅く感じて見える。行動予測のデータが送られてきているのだ。ヤツの動きが完璧に追える。
神が降りて来た瞬間だった。私は目覚めの挨拶の代わりに銃声を響かせた。
一発が奴の左足に被弾。二発目を込め発射、今度は右足を奪う。三発目、鎖骨を打ち抜き、腕そのものを機能させ無くする。四発目をわき腹に打ち込んでマガジンが空になった。
宙を舞った黒いISをヴィンセントがワイヤーアンカーで巻き付け拘束させ、打ち込まれた穴にユーリがダガーを差し込み、再生すら許さなくする。弾が戦斧の柄を突き立てて地面にくぎ付けにして、織班が零落白夜をあててヤツは機能を停止した。
戦闘開始から三時間。全ては終わり、アリーナに静粛と夕日の光が訪れた。
そして差し込んだ光を浴びて私は空を仰ぎ見た。
第五格納庫に集結されたISは七機にも及ぶ。一般人が見れば壮大な戦力の終結とみたことだろう。元の状態でいたならばの話だが。全機が損傷し、重大なダメージを負っていた
マーダーは脚部がイカれ、グレイイーグルはカメラとセンサー、正面装甲がスライスされ、
ハヤブサはインナーフレームが歪み、交換必須。甲龍は全武装が大破、弐式はサジタリウスの矢の砲身が融解して、ヘッドギアにも障害が出てる。訓練機の弐機の打鉄に至っては全てのパーツを交換するそうだ。
「酷いありさまだ。」
ロイが呟き、各機体を見ていく。
「全機メーカー修理に出す必要がある。ロイさんよ、手配を頼むぜ」
マイクが言うと、ロイが無言で書類をマイクに見せる。手続きは既に完了したそうだ。
「君には改めて感謝するよマイク。君の設計のインナーフレームが無ければ、皆死んでいたかもしれん。」
ハヤブサの胸部装甲に刺さった、ブレードを寸前のところで止めたのがインナーフレームだった。なければ解決の糸口たるアカネは即死し、他もやられたことだろう。
「アイツラの腕があってこそだよ・・・・無事でよかった。 あの歳で死ぬなんて悲しすぎるからな」
「彼らは?」
「医務室で仲良く寝ていることだろう。」
「そうか」
安堵の息を吐いてロイは近くにあったパイプいすに座る。
悲しげな双眸を見せて、彼は一人思った。
子供たちの戦う現実に怒りを覚えていた。教員は逃げ出し、援軍すら呼ばなかった大人たち。戦ったのは、あのショートヘアの教師だけだ。我々はその時、ただひたすらに逃げていただけだ。これが大人のやることか。自分の年老いた肉体をこれ以上にないほど、嫌悪した。そして、せめて彼らの夢を叶えることが自分にできることだという事を再認識して、その場を後にした。
医務室でアタシは目を覚ました。真っ白なシーツの上で寝ていたことに気づいて起き上がろうとすると体の節々が悲鳴を上げて、動かすな、と抗議してきた。
「大場先生」
アタシを呼ぶ声をした方に目を向けると、癒子やナギ、さやか、神楽にティナ、静寐とレジスタンスの皆がいた。さらに山田先生までいる。ベットを囲んでいるのを見て何だか笑いが出た。
「何だよ、まるでアタシが死にかけみたいじゃないか。」
「実際死にかけたじゃないですか!」
静寐が笑い事ではない、と抗議する。確かに、あの時死にかけた。遺言すら言っていた自分を思い出し、赤面する。
「大場先生・・・その・・・力になれなくて申し訳ありません」
山田先生が頭を下げる。声が上ずって涙声になっていた。私には無く理由が分からなかった。
「どうして泣いているんですか? 山田先生」
「だって・・・私何もできなかったんですよ! 生徒の為とか言っても、やったのはオペレーターの真似事で・・大場先生や、生徒たちが戦うのを見ているだけだった。
こんなに傷だらけになって・・・・ごめんなさい、私が助けに行くべきだったのに」
山田先生の頭に手を載せて私は言った。
「謝らないでください。先生のおかげで。生徒たちが迅速に非難できたんです。私にはこれしか能がない、それがアタシなんです・・・・だから自分を責めないでください」
そう言うと山田先生が私の手を取った。そして周りの生徒たちも手を重ねていく。
温かい感触が伝わり、同時に彼女たちの重みが手の上にのしかかる。
これが絆か・・・・
学園に来て二年。アタシは初めて人の温かみに直に触れた気がした。
保健室で多数のベッドが並んでいる。ここにいる皆は全員が傷ついて、現在は安静の身となっている。その中で私は唐突に目が覚めた。
月明かりのみが部屋を照らし、ほのかに明るい保健室。その明かりの向こうに一人立ち上がって部屋をこっそり出ようとしている者が目に入った。
「何しているんです?弾」
びくりと肩を震わせて弾が振り返った。
「い、いや。ちょっと・・買い出しにな」
「こんな夜に売店が開いているとは知らなかったですね。」
言葉に詰まった弾が観念したのか、私のベッドに近づいて、小さなケースを手渡す。
そのケースを開くと、私のメガネが入っていた。
「どうして、これを?」
弾が頭を掻きながら、答える。
「いやあ、ほら。そのメガネがないと治ってからクラスに来る時、困るだろうなって思ってさ・・・それに いつものアカネにいて欲しかったんだ。」
「どういう意味です?」
私が訳を聞くと、弾は真っ直ぐこちらを見据えた。
「思ったんだよ。これがお前を切り替えるスイッチのようなものだって。メガネを掛けていないアカネが戦いのための顔で、コイツを掛けている時が本当の君なんだって・・・
だって、そうじゃないと俺に見せてくれる顔が偽物になっちまう。」
手元のメガネを見つめる。私を素のままで居させてくれる大切な物。あの人からの贈り物だ。
「でも、それはあり得ないんだ。でなきゃ、あんな可愛い顔は見せられないはずだ。だから、いつものアカネでいて欲しい・・・悪い、何かハズいこと言っちまって。」
足早に去ろうとする弾の袖を引っ張って私は彼を止める。聞いてほしい話があるからだ。
「弾・・・・・私、答えを見つけられたんです。あなたの声が教えてくれたんです。
完全ではないかもしれない。寧ろ一歩間違えれば、偽善にもなるかもしれません。でも・・・」
息をのみ込み、呼吸を整え、一言ずつ言葉をつなげていく。
「私は・・・機械でもなく、獣でもない 一人の人間として引き金を引きます。
あなたと一緒に立つために、私は人間でなくてはならないのです。」
欲と感情にのみ囚われば獣でしかない、感情を捨てれば、ただの殺戮マシーンにしかなりえない。人を救うのも、弾と歩くためにも、私は生の感情を持った人間でなくてはならない。
「私は戦ってみせます、人として。そして、」
弾を多少強引に引き寄せて顔を近づけ、自分の唇を当てた。
「一緒に歩けと言ったからには、よろしくお願いしますね?」
月の魔力ともいうべきだろうか、今夜の私はどこか変かもしれない。
それでも良いと私は一人思った。
こんなにも素敵な夜に私は言いたいことがいえた。
人として生きるとは何と素晴らしいことだろう。
月光が私と弾の頬の色を見せてくれた。赤くて、可愛らしかった。
月の明るい夜の中、野外で私は電話をかけていた。なんてことはない普通の電話だ。家族に電話する、ただそれだけだ。
「はいはーい! 久しぶりだね! 箒ちゃん どうしたの? 悪い奴が現れたのなら束さんが・・・」
耳障りなほど、上機嫌な声が鼓膜を刺激する。私が電話しているのは篠ノ之束。実の姉であり、世界最悪のテロリストとも言われている女性だ。
携帯電話で掛けれる秘匿番号を入力して私は彼女に電話している。ある目的のために
自分でも、こんなお願いをするのは間違っていると分かっている。
いつぞやの彼女たちのように訓練機で努力すべきなのだ。それが正しく、また強さへの一歩なのだろう。でも、もう私は待つことができない。
試合で為すすべもなく敗北した。
目の前で多くの人が傷つき、倒れていく。そして一夏の手助けすらできない、もう、この身を我慢することができない。
「そんなことは期待していません。 あなたにお願いがあります。」
「ひっどーい。束さんは箒ちゃんの為なら何でもしてあげるのに~」
「なら私の専用機を作っていただきたい。」
ピタリ、と姉の声が止まった。違和感を覚える反応だった。姉が口ごもるようなことなど今までなかったからだ。
「・・・・・箒ちゃん、本気で言っているのソレ」
「当たり前です。・・・・・あなたにそれ以外で電話をするとでも?」
携帯電話のスピーカーから何かをひっかく音が聞こえてくる。でも、そんな事を気にせず
私は言葉を投げかける
「私の為なら何でもする・・・嘘ではないなら行動で示してください。やっていただけますね?」
すると、いつもの声音がいつもの調子に戻り、再び耳障りな声をキンキン出す。
「わかったよ! 束さんに任せてよ。規格外にしてイレギュラーな、いっ君と並ぶ機体を組み上げてあげるよ~! ねえ? 箒ちゃん 嬉しい? 嬉しい?」
「そうですね。 用件は以上です。」
携帯の終話ボタンを押し、体を伸ばす。これで力が手に入る。一夏に置いて行かれない。
私の人生は好転するのだ。
もう一人ぼっちは嫌だ・・・!
ふと足元を見ると花が落ちていた。赤い椿が花びらを散らせて踏まれていた。
次回でラウラ編は終わります。
正直に言うと詰め込みすぎて破たんしているような気がします。
ラウラ編が終わった後は束チームとRインダストリーの二組の黒幕や日常をやる予定です。
批評、感想、等ありましたら、ぜひお聞かせください。