IS to family   作:ハナのTV

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注意します。今回はかなりオリジナル成分があります。
賛否両論になるかもしれません


飢えたウサギは飛ぶ

移動式のラボ内で食事が盛られた皿が二人の前に置かれた。二人は女性で、皿の上に載っている食べ物を食い入るように見つめる。

「ねえ、スー君。」

片方のウサギの耳を模した機械的なデザインのカチューシャを付けた束が物申した。

「なんだ?」

俺は火のついてない煙草をくわえながら、彼女の問いに答える。

「人間てさぁ、とりあえずタンパク質が必要だと思うんだよ。それは束さんも同じでさあ・・」

非常にげんなりとした顔をして呟くようにぼそぼそと彼女は話す。

何を言いたいのか、予想はついたが、あえて聞かずに言った。

「・・・何の話だ?」

「お肉は美味しいよねって話・・・皿の上にスタミナバーとか嘗めてんの?」

その隣にいるクロエは黙々と食べてるが、悲しげな顔をしている。

「ほらクーちゃん悲しんでるじゃん。 何やってんの?世界最強のコック。」

「俺は沈黙シリーズに出た覚えはない。 この前吹き飛んだからな。何もないんだ。」

話は一週間ほど前になる。食糧調達とクロエの社会勉強も兼ねてアフリカに降りた俺たちは偶然、現地の反政府組織と出くわした。最初は無視しようと束と相談して去ろうとしたが、クロエに現地の住民を助けるよう頼まれて、俺たちは偶然出会った連中を殲滅させて最寄りの孤児院兼教会に子供を預けて豪華な夕食を御馳走させてもらい、悠遊と帰るはずだった。しかし、その帰りに光学迷彩を掛けるまえのラボにRPGが飛んできて食糧庫を吹き飛ばした。起動したばかりでシールドも張る暇もなく、全ての防御をシールドに任せっきりだったラボの壁を貫通した。ある意味、束の超化学が仇となったのだ。

「これからアメリカ相手に戦争するんだから、何とかしてよスー君。アウトロー関係なら世界で一番詳しいんだから。」

頭を掻きながら、俺は一つのあてを思いつく

「あてはあるが・・・その場合、逆方向だ。」

「どこ?」

「イラクだ。」

「なら、二時間もしないからいいよ。クーちゃん、次はケパブとか食べよう。」

クロエが目を輝かせて頷く。イラク。俺のいた組織がまだ生きているといいのだが。

問題があるとすれば、もう一つだ。彼らが束を気に入るかだ。

 

 

 

バグダッドに降り、車を借り、走ること五時間の所にポツンと小さな小屋がある。

もし彼らが生きているならココで間違いないはずだ。

「こんな所がいつもの場所なのですか?」

クロエが訊く。こういった経験は無いので少し声が不安げだ。

「ああ、ここで間違いないはずだ。後は潰されてないことを・・・」

束と俺は気配を感じ取り、背中合わせになり、彼女は量子変換されていたレーザーライフルを取り出し、俺はAK47カスタムを取り出す。

扉がケリ破られ、シュマグを頭に巻いた戦士たちが入ってくる。彼らは、一見するとゲリラのような格好だが、手にしている火器はG36とドイツの制式銃で一番信頼できるモデルだった。彼らは部屋に入って来たが、誰一人として発砲しない、飼いならされた犬のように合図が来るまでじっと構えたままだ。

「スー君。お話よろしく。」

束が日本語で言って、俺が現地の言葉で彼らに話しかける。

「組織 「赤い半月刀」、だな。話がある。 俺の名はスレートだ。ウダイはいるか?」

「・・・スレートか、よくも帰って来たものだな。挨拶も無しに去りおって・・・」

髭を生やし、ターバンを頭に巻いた男が来た。この組織のリーダーのウダイだ。

「だが、よく帰って来た。諸君! 彼こそが英雄スレートだ。銃を下ろせ」

部下たちが銃口を下げて警戒をといた。ウダイが俺に抱擁をして再会を喜んだ。

思えば三年前に離れた後、何の連絡も取れなかったものだ。

「すまない、ウダイ 頼みがある。彼女たちの事と・・・一口乗ってほしい計画がある。」

「そうか、だが、ここではマズイ。 移動しよう。」

お互いが武器を収めて、移動を開始する。近くに隠されていた兵員用のトラックに乗り、

ウダイは俺に聞いてきた。

「ところで彼女たちは一体何なんだ?」

「篠ノ之束さ。」

「何?!」

「説明は向うでだ・」

煙草を一つ吹かせようとしたが、ウダイはタバコを掴み、外へと放り投げた。最近はどこへ行っても禁煙で嫌になる。一人愚痴りながら、シートに体重をかけて目的地まで休むことにした。

 

 

 

 

 

目的地とは当然、彼ら「赤い半月刀」のアジトだが、初めて来た頃と何一つ変わっていない。古ぼけた街を再利用して、組織とその家族たちが住んでいる。他の組織も入り乱れてもいるこの街は白骨都市と言われて、その界隈では有名だ。洗濯物吊るされている中、重機関銃が物陰に置かれていたり、露店で食い物とAK小銃が売られている光景は平和と物騒さが同居した結果だ。中にはスコープのないドラグノフ狙撃銃を物干しざお代わりにしている家まである。相変わらずの不気味さだ。彼らについていき一番奥の建物に入る。

用意された椅子に俺たちは座り、ウダイたちが向かい側に座る。

「スー君。食糧貰って帰ろうよ。ここなんかコワイよ。さっき子供がピストルの分解の早さ競ってたし・・・」

「いつもの光景だな」

咳払いをしてウダイが口を開いた。

「さて、あなたが篠ノ之博士で間違いはないですか?」

丁寧な口調でウダイは英語で話した。

それに対し、束は現地の言葉で返した。

「そうだよ、私が天才束さんだよ~ハロ、ハロー」

場違いなほどの高いテンションで話しけらけらと笑う。周りのゲリラたちは不審な目で彼女を見る。

「アレ~疑っているの? 困ったなァ。じゃあ、証拠ね。」

指をパチンと鳴らし、彼女の背後にISが登場する。本来なら俺の使う機体だが、彼女自身も呼び出すことができる。機体名 ジャンクラビット 俺が持っていた機体をありあわせのパーツで回収した機体で、世界に数少ない第一世代型だ。

無人のジャンクラビットが掌の砲口を向けると同時にゲリラたちは一斉に火器を構えるが、ウダイは一切の動揺も見せずに撃つな、と手で抑える。

「成程。確かに本当のようだ・・・・銃を下ろせ。大事な客人だ。ではそちらの白い髪の子はもしやアドバンスドですかな?」

「ゲリラの癖に知っているんだ? 意外と頭いいね~」

「伊達に大学は出ておりませんよ。その白い髪は遺伝子操作を受けたベビーによく見られる症状だ。」

試験管ベビーというヤツだろうか? 目的の遺伝子を操作し、完璧な兵士を作るというのは噂程度に聞いたことがある。クロエの髪の毛が白いのはそういう訳だったと俺は初めて知った。クロエを見ると、顔を強張らせてウダイを警戒している。誰だって自分の聞かれたくない出自や、道具扱いされて来た過去など思いだしたくないだろう。

束がそっとクロエを引き寄せて、ウダイに聞いた。

「で、どうするの? 協力してくれるの?」

「協力はしましょう。そんな物を出されれば、我々も納得せざるを得ない。で。何をお望みかな?」

ISという圧倒的な優位を示した束の手腕に強引さを感じながらも、俺は黙って聞いた。

束はディスプレイを操作して、立体画像を出し、これからのことを宣言した。

「コイツを利用してISの軍事利用計画をメチャクチャにする。そのために陽動をしてね、ウダイ君」

画面に出てきたのは一機のISのデータだ。銀の福音。アメリカとイスラエルの共同開発で進められている軍事ISの名がそこに記されていた。

 

 

 

 

 

 

半ば命令と化した私のお願いを聞き入れた目の前のイラク人のリーダーのウダイは私と話があると言ってきた。久々の美味しい夕食も御馳走してくれたので、私は気分がよく、それを了承した。彼について行ってもらい、建物の屋上に出ると、天井には星々がきらびやかに光り、その存在を示していた。空気の汚染が意外と少ないのか、済んだ空気によって

かつて日本で見た空よりもハッキリと見えて幻想的な美しさと言えた。

私が求めている星々の命の輝きがそこにあった。

「いかがかな?」

「いいじゃない、君意外といい所知ってるねえ~!」

穏やかに笑い、ウダイは床に座り、聞いてきた。

「実は聞きたいこととは此処の場所から見える世界の話なのです。」

私の耳がピクリと反応した。ここから見える世界、ソレは紛れもなく私たちが目指した場所の事だった。

「10年前、私はあなたが例の白騎士事件の後に世界中に向けてISの使い方を論じていたのを大学で見ていたのです・・・あなたの発明品は素晴らしく思えた。まさに宇宙の真理へ一歩も二歩も近づける者だと感じた。」

10年前、もうそんなに昔だったのか、と思い出す。あの時、私の言ったことを真っ直ぐに聞いてくれる人がいるとは思わなかった。

「しかし・・・結局世界が目を向けたのは軍事的利用を目的としたものです・・・・確かにあの事件の後ならそうなるかもしれません。 だからこそ聞きたいのです。何故あんなことを・・・?」

白騎士事件を起こしたのか・・・とウダイは聞いてきた。その双眸には悲しげであるが怒りのようなものも混ざっていた。普段、人の感情があまりわからない私でも理解できた程だった。彼の怒りや悲しみを私は同じ学者として理解できた。

昔がそうだったからだ。

宇宙開発を夢見た私達はひたすらに作り上げっていたものだ。PICや量子変換、シールドバリアーに絶対防御とあらゆるものを試行錯誤していった。

私にとってそれは至高の喜びだった。私の言葉や数式、論文を理解しようともしなかった両親や学校にいる有象無象共といるよりずっと楽しかった。

そんな日々がもう戻って来はしないことが一番悲しかった。事件の後、必死になってISの宇宙利用を訴えたのが無駄になったのが悔しかった。

「あなたが発明品の披露をもっと平和的にすれば、こんな事にはならなかったはずなんです。多くの失業者が出ることも無かった、神を冒涜するアメリカのISが極秘裏にここで多くの同胞の命を的にしているのを御存知ですか? どうして・・・」

そんな事は知っている。私の神経を逆なでするような行為を世界は平然とやっていることなど当の昔から知っている。だから、私はメチャクチャにするのだ。この世界を。

私の望みを引っ掻き回した報いを受けさせるのだ。

でも目の前の男は少なくとも見てはくれたのか、と思い気を良くした私はそれについて少しだけ話す事にした。

理由、そんなものは私には無かった。何故なら・・

「ウダイ君、一つだけ教えてあげる。」

「何でしょう?」

私は振り返って明確に言った。

 

 

「ホントに束さんがそんな事すると思う?」

 

 

ウダイは呆気にとられた顔をして、後ずさった。

「まさか・・・?!」

目を見開いて突きつけられた言葉に彼は混乱している

彼の頭の中では仮説が作られているだろう。ことの真相という仮説を

世界中のほとんどが知らないであろう真実を私は記憶している。その一つがこれだ。白騎士事件の真相だ。真相を知った時、皆どんな顔をするのかと聞かれれば、きっと彼のような顔になるのだろう。でも、肝心の部分は話さない。これは後のお楽しみの為に取っておく必要があるからだ。

「さあ、どうでしょう~?」

誤魔化しの言葉を入れ、私は踵を返して寝床へと戻る。

頬に流れ落ちそうになった水滴を拭って。

 

 

 

 

 

 

 

夜空一杯に広がる星空を見上げて私は星を掴もうと手を伸ばす。束様がいつもやっている仕草のマネだ。いつも束様は星を見てはその遠くを見ていた。私にはその意味がまだ分からないけど、寂しそうな目をしている事は分かった。

人ではない私でも、最近は色々なことが理解できるようになった。ちょっとずつではあるけれど、人が泣いたり笑ったりするのを束様から学び、スレートさんからは社会と料理を教わった。社会から切り離されたなどと二人は言うけれど、私にはそれが理解できなかった。束様のISを自分勝手に使って、偉そうにしたりする人たちの方が束様よりいい人なのだろうか?子供を売ったりする大人たちの方がスレートさんより立派なのだろうか?

これらの疑問は尽きない。私にはまだ正しさがまだ理解できないでいる。

「どうしたクロエ?」

後ろから眠たそうな声を出してきたスレートさんを見る。束様のデータで見たこの人に第一印象は野蛮な酷い人だった。たくさんの人を傷つけて酒に浸っていたこの人を尊敬できるはずもなかった。しかし、会ってみると、その印象はがらりと変わった。

束様に悪態はよくつくけど、私や束様に作ってくれる料理は美味しく、私に色々な事を教えてくれる彼はまるでイメージと違った。世間でいう父親というのはこういう感じなのだろうか。

「早く寝ておけ。明日は早いぞ」

「あの、スレートさん。」

「何だ?」

私はスレートさんに聞きたかったことを思い切って聞いてみた。

「どうして、私に、束様に優しくしてくれるんですか?」

目を丸くし、驚いた顔をスレートさんは見せた。

「私、貴方のことを、もっと冷たい人だと思ってたんです。でも違った。貴方は優しくしてくれている。どうしてなのですか?」

「・・・・聞いてどうする?」

スレートさんの声音は低く、力のこもらない声だった。

「クロエ、きっと今のお前に言ってもわからんよ。俺も・・・・束も善人じゃない。

だが、ソイツを言ってもお前は理解できないだろう・・・・今日はもう遅い、早く寝ろ」

無言で去っていく彼の背中はいつもと違い頼りなく、ふらふらとした物でした。

そして、背中でもう話すな、と無言の圧を出しているようでした。

私はどうすればいいか、わからなかった。

 

 

 

 

 

バグダットから飛び立ったラボの中で、いつも通りの仕事をする。手に入れた食材を煮込み、ブイヤベースを作る。昔、この料理の作り方を教えてくれた女性を思い出しつつ、同時にクロエの言ったことも思い出していた。

俺はハッキリ言って屑の中の屑。社会にいれば、間違いなく駆除される害虫のような男だ。

自分の糧のために他人の命や尊厳を奪い尽くしてきた。そんな俺がクロエに接しているのは何のためか。自分でもその答えはわかっている。クロエを代用品にしているのだ。

昔おいていった者とクロエを重ねて、贖罪とも慰めともつかない行動をしているだけに過ぎない。そんな俺はクロエに瞳を覗かれるたびに怯えるのだ。この事実を知った時、彼女がなんていうか怖いのだ。人を殺すことなどとっくに慣れた俺がたった一人の少女に真相を知られるのが怖いなんて、面白くもない冗談のようなものだ。

束も恐らくは俺と同じだ。彼女は最近こそ改善しつつあるが、特定の人物以外とコミュニケーションできないでいたことから、恐らく彼女の幼いころから孤独だったのだろう。

時偶に妹の話を持ち出してくることがあった。その妹だけが彼女の唯一の家族なのだろう。

家族。なんて嫌な言葉だと思う。この言葉がある故に俺も束も埋まることのない寂しさを持ち続けているようなものだ。

考えている内に鍋が吹いてしまったのに気付いて電源を落とす。

鍋のふたを開けて、覗き見ていると、後ろから大きな音がした。何事かと思い、見に行くと、そこにはラボ内で機器を手当たりしだいに破壊する束の姿があった。

俺は彼女の手を掴み、破壊を止めさせる。

「何してる? あまり暴れるなよ家具が壊れる。」

獣のように息を荒げ、クロエがセットしてくれた髪の毛を乱しながら、束は俺を睨みつける。彼女の腕に力が入り、振りほどこうとするのを俺は抑え込んだ。

「離してよ!スー君! 離せ!」

「落ち着けよ。何があった?」

振りほどいた束が見せた顔は意外な物だった。彼女は泣いていた。顔をくしゃくしゃにして彼女は涙を流していた。

「どうして・・? 何でなの? 箒ちゃんまでアイツラと同じなの?・・・・束さんは束さんなんだよ・・・ISを作るための機械じゃないんだよ?・・お姉さんなんだよ?・・なのに・・」

前にあったテーブルを蹴飛ばし、叫び続ける。

「皆してIS、ISってなんだよ?! 誰も束さんの話を聞かないくせに! 私は誰かの権威の道具や殺戮兵器を作った訳じゃない! 誰も・・・」

壁にもたれかかり、一言ポツリと言った。

「・・・私を見ない。」

箒、という言葉は何回と聞いた単語だった。彼女の妹だ。彼女は両親の話はしないが、妹の話だけはよくしていた。唯一の家族だったのだろう。その家族に何か言われたりしたのだろう。拒絶か、罵倒か その類の事を

「束、お前・・・」

彼女は無言で立ち上がって、いつものようなヘラヘラした顔に戻った。

「・・・大丈夫だよ! スー君、束さんが少し勘違いしただけだから!」

俺の横を通り過ぎて彼女はスタスタと歩いていく。

俺はその背中を追いかけるように小走りになる。

「おい・・・」

「そうだよ。箒ちゃんの望み通り、専用機を作ってあげれば、きっと仲直りできる。いや、絶対そうだよ・・・私は束・・篠ノ之束。天災にして天才・・・・できないことなんて・・」

ブツブツと聞こえてくるセリフ。現実逃避の一種だ。認めたくない現実を捻じ曲げて、作業に没頭することで考えることを止めようとしているのだ。

「やめろ! そんな風になってまで作る必要はないはずだ。やめちまえ、そんな事!」

束が虚ろな瞳でこちらを見る。生気の宿ってない目、俺がコイツと会うまでしていた目だ。

喪失感に怒りなどの黒い感情の渦に取り込まれた者の目だ。

「何だよ? スー君。君に私を止める資格があるなんて思っているの? 今まで散々好き放題してたくせに・・・・」

「それはお前も同じだろうが・・・今更こんな事で俺がとやかく言う資格はないなんてわかってるんだよ。だがな、お前がそんな面しながら物を作る必要はないはずだ。」

「うるさい! 人のために何か一度だって動いたことのないスー君が家族の何がわかるっていうの? たった一人の可愛い妹の為に作るのが何が悪いって言うの?!箒ちゃんはちょっとイライラしていただけなんだ! 」

彼女は向かい合って、罵る。俺もそれにつられて罵る。

「実の姉を泣かせるような妹に何をそんなに必死になる?! それにだ、今までお前だって好き放題してきただろうが! そんなお前を家族が愛してくれるとでも思ってんのか!?」

束が俺の襟をつかみ、卑屈そうな笑みを浮かべて、言う。

「じゃあ、スー君はどうなのさ? 昔捨てて来た女とその子供に対して未だに未練があるじゃない? 君だって人の事を言えるもんか!」

互いに互いの地雷を踏み、罵り合いはエスカレートしていく。際限のない争いのように見えた。俺は忘れたい過去を 束は認めたくない今を責められ、完全にヒートアップしていた。その時、第三者の声が聞こえた。

「もうやめてください。お二人とも」

二人で振り返ると雪のような白い髪を持った少女。クロエがいた。

「あなた方が争う必要はないはずです・・・どうして分かり合わないのですか? あなた達は似た者同士なのに・・・・」

「クーちゃん、どういうこと?」

「そうだ、俺がコイツと似ているだと?」

二人して同じように訊くとクロエは普段閉じている目を開いて見せて話した。

そこには金色の瞳があった。美しくも幾何学的な瞳だった。

「どちらも、自分に苦しんで、自分を必要としてくれる事を望んでいます。愛情というのでしたか? あなた方はどっちも愛情に飢えているではありませんか?」

愛情、陳腐な言葉だと思っていた。この言葉に踊らされていった連中をたくさん知っているからだ。親から愛情などを受け取って、歪んだ家族愛に殉教していった奴らを俺は見て来た。

「俺はそんなの望んじゃいない!」

「では何故、私に料理を教えてくれたのですか? 何故 束様をお守りするという昔の約束を守っているのですか? 束様もです。スレートさんが来てから嬉しそうにしているではありませんか、 どうして彼を頼らなかったのですか?」

束が一瞬考えて答える。普段なら一瞬すら考える時間を必要としないほどの彼女の頭脳だというのにだ。

「だって・・・スー君が答えられるわけないじゃん。」

クロエの瞳が鋭くなった。彼女はどんな嘘でも見分けられるというのか?

「・・・察してほしかったんですね、感情を。」

俺たちは驚きの目でクロエを見ていた。社会に疎いたった一人の少女に大の大人二人そろって説き伏せられているのだ。

「もう一度、向き合いましょう。今まで自分勝手だったとしても、もう一度だけ向き合いましょう。箒さんと、スレートさんの過去と。今度は逃げずに・・

私ももう一人の自分と向き合いますから・・・」

クロエは俺たちの手を取って立ち上がらせた。俺たちは何も言えなかった。こんな身近な小さい娘に心配させたのを何故か、恥ずかしく感じた。

もう一度だけ・・・その言葉は悪くない響きだった。

まだ、決心はつかないが、考えてはみようと思った。

ラボの窓から、流れ星が一つ流れていくのが見えたのが妙に脳裏に焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




束の話はまだ続きます。
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