金属とオイルの匂いに、けたましい作業の音が鳴る中で呼び出された俺たちは二人で歩いていた。靴音がよく響き、格納庫へと続く廊下を進んでいく。
「臨海学校って来週の行事だよな?」
「そうです。新しい装備の実践とか、一般生徒の強化とか、まあ要は合宿ですね。」
来週に迫った臨海学校。旅館一つをまるまる貸し切って行うIS学園のお楽しみ行事の一つだ。無論、厳しい訓練があるそうだが、厳しい訓練より、学校公認で海ではしゃげるというのには皆大喜びだ。反面、俺はあまりはしゃげないでいる。シャルロットの一件と言い、専用機を倒した訓練機使いとして知れ渡った件と言い、俺達はあまりに目立ちすぎた。
目立つという行為は好ましい場合と、その逆の場合がある。今回の俺たちは、半々といったところで、一部の生徒からは明らかな敵意を含んだ目で見られていている。
「大丈夫か? 俺達あまり評判良くないだろ?」
「何を今更。 元々じゃないですか」
アカネが苦笑しながら答える。考えても見れば、最初から好まれてなどいなかったことを思い出し俺も彼女に倣って苦笑する。
三枚目の扉をくぐると、ヴィンセントにマイク達といて、待機状態の打鉄の傍らでレジスタンスの面々がヴァーチャル訓練を終えて、ISスーツのまま休憩している。
「おお、来たか。」
マイクが巨体を揺らしながらこっちに歩いてくる。その顔は朗らかで上機嫌に見えた。
「弾、喜べ。ようやくお前の専用機ができた。」
マイクが俺の肩を叩きながら、大声で笑う。
専用機。ずっと前に言われたきりで失念していた。確かに、俺の機体だけ開発が遅れているという話だった。だが、俺はようやく来た専用機の話に思ったほど喜べなかった。
その理由は格納庫に鎮座している機体にあった。
「そうですか、そりゃよかった。」
「何だよ、嬉しくないのか?」
「そうよ、五反田君。いいじゃないの。専用機なんて」
レジスタンスの静寐とマイクが揃って疑問をぶつけてくるのに俺は本心で答えた。
「いや、何ていうか。俺今まで打鉄だったしさ・・・結構なじんでいたし 付き合いも長いからこれでお別れていうのも・・なんか寂しくて。」
学園に来て以来、ずっと乗って来た日本製第2世代機 打鉄。信頼性のある盾、オーソドックスな機動性に優れた格闘性能。そのどれもが今まで俺を支えてきてくれたものだ。
盾が無ければ、セシリアのビームを防御できなかったろうし、その扱いやすさ故に俺は何とか上達してきた。そして、この格闘性能があったからこそ、暴走したラウラと対抗できたのだ。打鉄が俺の操縦体系を作り上げたといっても過言ではない。
そして俺も愛機として打鉄を見てしまっている。共に戦ってきた戦友なのだ。
俺は待機状態の打鉄にそっと手を触れてその装甲の表面を撫でる。何度も触れて来た金属・。
触り心地のよい感触を掌全体で感じながら、名残惜しく思った。この機体に乗ることももうなくなるのだろうと。
「コイツにはいろいろ世話になってきましたし・・・」
離れたくないという思いが俺にはあったのだ。
「それでいいんじゃないの?」
静寐が言った言葉を振り返らずに聞いた。
「訓練機のこの子を一生使う訳ないじゃない? この子で培った技術でを生かすことでこの子の役目は全うされたことになるんだから。 それならこの子も満足よ。だから、この子との思い出を忘れないであげればいいんじゃないかな?」
静寐は感慨深そうに言って、打鉄に手を伸ばして触れる。
「この子って?」
俺は静寐の話に納得しつつも、打鉄の呼び方を気にした。
「ああ、なんだかね。最近そう呼ぶようになっちゃって」
「そうなのか。でも、気持ちは分かるかな」
「ま、なんにせよ。打鉄だってそこまで思ってくれれば本望だろうさ。」
マイクが言ったので、もう一度打鉄を撫でて、小さく礼を言った。
そうしていると、ヴィンセントが割り込んできた。
「そう、ロマンチックに言うのもいいが、君の機体ストライクラプターが来るのは臨海学校中になる。それまではいつも通りソイツだ。」
ヴィンセントが書類を渡してきたので、それを受け取り、書面を見る。全て英語だが、日頃の努力のかいもあって、とりあえず読める。
通称 ラプター。外見はスラスターと一体化した脚部に、鋭角でありながら、肉厚な装甲。
そして、背中の尖った攻撃的デザインの翼だ。装備は空戦で使えるよう改良を施したパルスライフルの小口径版にベルトリンクの軽機関銃、マーダーと同型のヒートナイフ等などが書かれていた。スペックも、ラファールを二回り上回るほどでバランスよく設計されている。スピードこそ突出しているが、これ程バランスが良ければ使い勝手もいいかもしれない。
「これが俺の機体か・・・」
「そうだ、僕たち三機をプロトタイプとすれば、コイツは僕たち三機のいいところどりの機体だ。 その分、速度以外、尖ったところが無いといえばそうだが」
ヴィンセントが自分の機体グレイイーグルのスペック表を見せてくる。見ると、見事に特化型の図だった。防御と火力に秀でて、機動性を見ると打鉄より低い所もある。
「よく、使えるよな・・・・」
賞賛と呆れ半々で俺はヴィンセントに言った。他の機体も見たが、どれもこれも一癖も二癖もある。
「慣れと愛情さ。頑張れよ弾。」
肩を叩いて口笛と共にヴィンセントが去っていく。そしてアカネが後ろから書類を取り上げ、ラプターのデータを見る。
「何だか、私のハヤブサとそっくりですね。」
上機嫌で微笑みながらアカネは言った。
「嬉しいか?」
「もちろん」
書類をペラペラとめくり、ラプターの情報を楽し気に見ていく彼女はあの日以来、距離が縮まった。あの時はテンションというべきか、はずみでやってしまった感があったが、今は違う。双方が望んだ方向へと進みつつある。
俺たちの様子を見ながらレジスタンス達はヒソヒソト話してるが、気にしない。
見せつけている訳ではないが、俺は今のこの状況が気に入っているからだ。
アカネが全て読み終わると、俺の手を取りだした。
「さあ、弾? 専用機に向けて最後の特訓をしましょう。へますると打鉄に申し訳がたちませんよ?」
「ああ、そのつもりだ。頼むぞアカネ」
最初引っ張られていた俺も少し小走りしてアカネに並ぶ形で歩く。
――――――やっと並べた
ようやくここまで来たという実感を二重の意味で噛みしめていた。
職員室の中の陸の孤島こと、扉側の席。つまりアタシの席で椅子を回転させながら、アタシは来週の臨海学校に向けて頭を悩ませていた。
名簿作りに、行事の警備など やたらとつくる書類が多い。
どうせ、女王様が仕切るのだから、必要ないだろうと言いたいが、悲しきかな自衛隊時代の性がそうはさせてくれない。万一の時に備えてのマニュアルから、必要機材の目録とやることが多い。限界まで溜まったストレスを発散させに喫煙室に行こうものなら
「また、煙草ですか?」と嫌みの一言が飛んでくる。
おかげで、朝から一本も吸えない。世の中、ブラック企業と騒ぐ者がいるが、ここ以上にブラックな場所は無いとつくづく思う。
差別に蹴落としあい、女王様に 問題児な専用機持ちと、胃にダメージを与える存在に事欠かない。
吸えないストレスと書類仕事に格闘していると隣から香ばしい香りのするコーヒーが置かれた。
「大場先生、どうぞ。」
そういって渡してくれたのは山田先生だ。この場において唯一の天使だ。
「ありがとうございます・・・・・山田先生も臨海学校へ?」
「ええ、生徒の皆さんにも楽しんでもらいたくって・・最近トラブル続きでしたし。」
笑みと一緒に答える彼女はいつも素敵だ。本来、教師というのはこういうモノなのだろうと思う事もある。
「大場先生も行かれるんですよね?」
「まあ、そうですね。和を乱す厄介者の手も借りたいのでしょう。」
コーヒーを一口すすり、周りを見渡せば、敵意ある視線だらけなので、嫌みの一言を言ってやる。山田先生が困ったような笑みを浮かべる。
「では、私もお仕事があるので、失礼します。一緒に頑張りましょうね。」
軽く山田先生は謝辞を言って去っていく。私は手を振りながら見送った後、書類仕事に戻らず、古い私物のノートパソコンを開く。中に入っているのはレジスタンス連中のデータだ。ファイルを開いて各生徒のデータを画面に表示させる。
仕事は臨海学校の名簿つくりだけでない、彼女たちの訓練内容も考えなくてはならない。
前回の大会で見事専用機に対抗して見せた彼女たちを最後まで指導するのが今の私の仕事だ。陰でえこひいきなどと言われるが、頼みに来もしない生徒まで構っていられないというのが私の本音だ。データをまとめるだけでも大変なのだから。
しかし、静寐たちに頼まれた以上は最大限に助ける。願わくば、どこからかお誘いでも来ればよいのだが、と思う。パソコンの画面に食い入っていると、後ろから例の足音が来た。
「何をしているのですか?大場先生」
「何でも・・・仕事ならやっておりますよ織班先生」
ノートパソコンを閉じて向き直る。腕を組み凛とした姿の織班先生に向かってアタシはいつもどおり、胸元を少し開け、着崩したスーツ姿で対峙する。
「不備があっては困ります。しっかりと仕事を全うして頂きたい」
「不備ねぇ。最近のハプニング続きで不備なんて気にする暇もありませんからねえ。
ところで、今回は何も起きないのでしょうね?}
軽い冗談のつもりで言ったが、相手は何も答えない。いつものように眼光を鋭くして反論することもない。私は彼女の反応を見て不審に思った。
――――これは何かあるな?
確信に近い思いを抱き、備品目録に新たな装備を追加することに決めた。
アタシは自分のやっていることに違和感を感じずにはいられなかった。
何故、責任者でもないアタシがこんなことをしているのだろう、と
どれ程長い時間をバスに揺られたろうか。しばらく睡魔に負け、眠っているところを隣のアカネが起こしてくれた。そのことに軽く礼を言いながら周りを見渡すと、いつもより騒ぎ方が違うように思えた。
「何かあったのか?」
アカネが首を横に振って否定する。
「何も。二派に分かれているからですよ」
そう言われて覗いてみるとバスの前と後ろで綺麗に分断されていた。
会話しているクラスメイト達の見えない壁がそこにあった。
一つは織班先生派と言ったところか。一夏やセシリアと言った連中と織班先生を信奉している生徒たちだ。もう一つはレジスタンス派だ。反織班先生と言ったところか。レジスタンス組に俺とアカネの10人ほどの少数派だ。直接ぶつかり合わないだけマシだが、この見えない壁がある雰囲気は少々気まずい。
「キレイに分かれたな・・・俺たちのせい?」
「知ったこっちゃないって感じですけどね」
「大体、何でまだ織班先生の事信じているんだ? 大場先生の方が頼りがいあるだろ?」
聞こえたら、それこそ騒動の引き金になりかねないので小声で話す。アカネも席の影に隠れながら話す。
「あのアリーナの現状を知っている人は少ないですし、緘口令が敷かれてましたからね」
「何のために?」
「先生が逃げて、ブリュンヒルデが引きこもっていたなんて言えるわけないでしょう。」
「保身かよ。汚いな。」
率直な感想を述べて席の隙間から織班先生を覗き見る。座っている姿まで凛として美しいが、その実態は何なのだろう?
ブリュンヒルデとして最強の称号を持っているにも関わらず、あの非常時に出撃しなかったのは何故なのだろうか。そして、あの教師部隊の実態を目の当たりにしてしまっては
学園の防衛に疑問符しかわかない。
「防衛を生徒に任せるってどうなんだろうな?」
「でも、実質戦闘できる教師は大場先生一人ですよ? どうしようもないじゃないですか。」
「確かに。」
ISには絶対防御がある。故に死ぬことは無い。だから、生徒でもより性能の高い機体を使う候補生を防衛戦力として数えるのだろう。だが、それは変な話ではないだろうか。
死ななければいいと言うが、それはどんな痛みも享受しなくてはならないということだ。
戦ってる間、後ろにいる大人たちは俺たちが痛みにあえいでも、至極当然に言うのだ。「大丈夫だ、死んでない。だから戦え」と。
確かに今まではそれで通じた。「ISに対抗するにはISしかない」という言葉があるように、敵うはずのない学園に攻め入ろうとする者などいないし、ISを持ったテロリストなど現実ではいるはずのないナンセンスな発想だったからだ。
ところが、代表戦の無人機やラウラの機体に危なげなシステムを入れる等、ありえなかったはずの事態が起きた。
しかも、この二つの事件の敵機はそれぞれ、ISを殺せるような装備を持っていると来た。
こうして死なないと、襲う者などいない という二つの大前提が崩れて学園の防衛機構はその脆さを露呈した。教員たちがパニックを起こさないよう、緘口令を敷いたのも分からんでもないが、その後改善しようとする行為すら見られないようでは俺には保身にしか見えない。
こんな中で戦って一人前になれと言われても、首をかしげるばかりだ。
「専用機持ちってまるで都合のいい傭兵みたいだな。」
「一応、生徒なんですけどねぇ・・・」
顔を見あって互いにため息を吐く。その時、生徒の一人が叫んだ。
「海だよ!」
窓を覗いてみると青く美しい海が目に入った。せっかくの海が見れたというのに、俺とアカネの心はどんよりと曇り模様だ。
「まあ、とりあえず 今は楽しみましょうか。」
アカネが髪をかき上げ、笑う。
「そうだな」
せっかくの臨海学校だ。少しくらいは楽しみたいものだ。
目に映るブルーは俺たちを歓迎してくれているかのようだ。
織班先生の言われた自由時間に砂浜まで遊びに来たが、俺は周りのメンツを見る。
まずはヴィンセントだ。トランクス型の水着のくせに妙に高級感漂うものだ。それが似合うほどの容姿だから、嫌みにならないというのが凄い。
ユーリも同じような型の水着でパーカーを羽織っているが、その身体についている数々の傷跡がちらほら見受けられる。本人は全く気にしていないが、俺は最初見たとき驚いた。
俺はというと、ユーリと同じような普通の恰好にしたが、この二人と並んでいると逆に浮いていた。
「お前ら、目立つなぁ」
「俺は普通のつもりだが。」
「僕もだよ。弾 というか何で海にまで来て男三人で集まっているんだ。目の前にホラ、楽園が広がってるぞ」
ヴィンセントがサングラスを付けて、指さす。その方向に俺とユーリは視線を移す。
そこには確かに桃源郷ともいえる楽園があった。男女比率120対4つまり30対1だ。圧倒的男女比が見せる光景は世界中どこを探してもここだけだろう。俺たちの名を呼ぶ声がする。見てみるとレジスタンスの面々やアカネ達がいた。
アカネは迷彩柄のビキニだ。筋肉質な体に豊満な胸といい、言う事なしだ。
簪はセパレートタイプで大人しめにしているところがまた何とも可愛らしい。
鈴はタンキニでスポーティな印象だ。
「・・・・・俺、初めて学園入ってよかったと思うよ。ヴィンセント」
「僕もだ。 ユーリは」
ユーリは咳払いをして目をそらそうとするが簪を視界から外さないあたりを見ると満更でもないらしい。
「・・・似合う?」
簪がユーリの近くまで来て小首を傾げる。彼にしては珍しく動揺しながら、肯定の意を伝える。簪は小さく微笑み、ユーリに泳ぐよう言って海へ入っていく。ユーリは壊れたブリキのおもちゃのようにカクカクとしていた。彼女らの後ろから迫る目を赤く光らせた着ぐるみの「誰かさん」には目を伏せた。
「・・・・イイな アレ」
ヴィンセントが小さく呟き、俺もそれに同意する。
そう言っているとアカネと鈴の二人が接近してきた。
「何見とれてるんですか? 私のではご不満ですか?」
「いや、そんな事は全然ない。寧ろイイ」
「では行きましょうか」
俺は手を引かれてレジスタンスグループのビーチバレーに参加することとなった。
後ろでも鈴とヴィンセントが何やら話し合い、そして取っ組み合っていた。
耳をすませば、お互いに憎まれ口を叩きあって、そして発火、砂上でレスリングを開始した。まわりではどちらが勝つかと大場先生がトトカルチョを始めだした。
「おっ 来たな~裏切り者め」
「打鉄から専用機に乗り換えるとは浮気者が」
「アリーナで戦う前にここで沈めてあげるわ」
神楽にナギ、静寐と物騒なセリフと共に対峙する。俺も身構えて三人に挑む
「まだ、この目で機体をみていないんだ、そう簡単に行くか。」
「弾は私のです。だからやらせません」
大胆な発言と共に、メガネを外して本気モードに切り替えたアカネと共に、今決戦の火ぶたが切られた。砂浜の上で繰り広げられる攻防。アカネのスナイパーじみたアタックを神楽が居合や剣道で鍛えた反射神経でブロックし、俺がそれを救ってアカネにパスし、反撃
それを防ぐのが万能さで秀でるナギだ、彼女がトスをして空中高く放り投げられたボールを静寐が気合十分の叫び声と共に殺人球とかしたボールでアタックする。
戦いは数的不利にも拘らず、互角に続いていった。
旅館の食事を一しきり満足した後、一人廊下を歩いていると自販機を睨んでいる大場先生がいた。その眼は非常に恨めしそうなものでいながら、且つ羨望のようなものを見ているような、と複雑な感情の物だ。
「何してるんです?」
好奇心で訊いてみると、何やら汗を流して大場先生は必死そうにして否定する。
「・・・・いや、別に・・」
チラリと自販機を見ると、缶ビールの列がずらりと並んでいた。
「・・・・飲みたいのですか?」
「温泉の後は飲みたいだろ? だが、生徒が来るかもしれないし 流石に教育者として自衛官としてどうかな~って思うしさ。アタシどうすればいいのよ?」
「俺に聞かないで下さい。マイクさんは代わりにコーラ買ってましたよ。」
俺がそれを言うと、大場先生は唸って別の自販機の炭酸飲料を二つ買う。一つを俺に手渡してきたので、礼を言う。すると、大場先生は近くのベンチに座り聞いてきた。
「専用機貰うんだってな。マイクから聞いたぞ。」
「ええ、何だか今頃で遅い気もしますけど」
大場先生は喉にグレープソーダを流し込んで一息つく。風呂上がりのいっぱいだったためか、冷たいのど越しに満足げな声を出す。
「覚悟しろよ。アタシのレジスタンスがお前を倒しにくるからな・・・・それはそうと一つ言っておく。」
纏う雰囲気をがらりと一変させて耳元に小さく囁いた。
「専用機を持つってことは、戦力として使われる可能性が高い。アタシはやめさせたいが、生憎権力が無い。気を付けろ」
「わかっているつもりですが、その、権力は取れないんですか?」
俺の疑問をぶつける。前回の暴走事件と言い、レジスタンスメンバーの急成長といい大場先生の功績は目覚ましいもののはずだ。
「アタシはよそ者だし、女王様は理事長のお気に入りらしいからな。 それともう一つだ。確証はないがこの臨海学校中に何か起こるかもしれん。 一応マイクにも言ってある。注意しろ。」
発せられたのは警告だ。しかも近々におこるという相当、不吉なものだ。どこから、その情報が来たのかは知らないが、大場先生がでたらめを言うとは考えにくい。この人は恰好こそいい加減だが、それ以外は本気だ。大場先生がその場を離れていくのを見送り、俺は一人、考える。
近々おこる何かとは? 考えられるのはなんだろう。まず襲撃や拉致等が考えられるが、それなら事前に情報がつかめるとは思えない。では、内部紛争か?大場先生と織班先生の仲は最悪であり、生徒の間でもこの二派に分かれている。これなら、多少は予想がつくが、
俺が専用機持ちになるという事とそう繋がるとは考えにくい。まさか、二派に分かれたIS同士の戦争でも起きるわけでもなかろうし。
色々と思考するが、やはり何の情報の欠片も無しに考えるのは不可能だ。そう結論付けたのでとりあえずインダストリ組の野郎部屋へと戻ることとした。
「で、ここに来たって訳か」
ヴィンセントがテーブルにグレイイーグルに仕舞っていた拳銃コルトガバメントの特注モデルを組み立てながら言う。このモデルは鏡のように磨かれたシルバーの本体にオリーブの葉をもじった金色の彫刻を入れた非常に派手なものだ。それをまるで美術品を扱うかのような手つきで磨く。
「何か思いつくものはあるか? ヴィンセント。」
「デュノア社の恨みってのは思いついたけど、それなら僕らは関係ないし、専用機を出すほどの大事になるとは思えないな。」
彼の言う通りだ。復讐するとすれば、そこにヴィンセントは標的にならない。なぜなら彼らはヴィンセントが手引きしたのを知らないからだ。IS学園にいる以上、知られるこ都は無いと言っていいだろう。狙うなら、シャルロット本人だ。それに最近のデュノア社の凋落ぶりから見て大規模な行動はとれないというのには確かに筋が通っている。
「なら、Rインダストリー社そのものに対する何らかのテロ行為の線はどうだ?」
そう言葉にしたのはユーリだ。彼はナイフを研いで、その切れ味を磨いていた。
「ありそうだが・・・そもそもISが集中して集まっている中襲う必要はないはずだ。
僕なら一人ずつ狙うね。」
ヴィンセントは弾丸を込めていないガバメントを構えてバン!と声を出して演じてみせる。
ユーリはそれを鼻を鳴らして肯定する。
「でも、何かあるかもってのには同意してるんだろ。二人とも」
「備えあれば憂いなしさ。平和は次の戦争の準備期間ともいうしね。僕だって寝こみを襲われたくない。」
「大場先生がああも警戒しているとなるとな・・・・・オフレコだが、これを見てほしい。」
ユーリがマーダを端末代わりに起動して一つのデータを見せる。それは臨海学校に持ち込まれた装備の目録だった。その中には物騒な物がいくつか混じっていた。
ライフル用の強装弾に無人偵察機 インダストリー製のマイクロミサイルから、超小型の野戦レーダー、セントリーガンポッドと呼ばれる自動砲台と軍用の物ばかりだ。
特にセントリーガンポッドは異常ともいえる。IS用の装備をくっつけた自動砲台の一種だが、装着されているのはCIWSとよばれる対空砲。想定敵機を航空機ないしISにしているのは明らかだ。
「・・・・戦争に準備しているようだな、まるで」
「流石の僕もここまで来ると冗談として笑えないな。」
このデータを見てこの際とやかく言うのは野暮だ、何かが起こる。証拠こそないが確かともいえる自信を持って言える。
「それにしても、IS関係のトラブル続きだな。ホントに ここに来るとき、こんな予定だったのかヴィンセント?」
ヴィンセントは手でガバメントを弄りながら答える。
「こんな予定は無かったよ。本来はもっと穏やかだったし、こんなに関わりがある人が増えるなんて思わなかったさ。」
「どういう意味だ?」
ユーリがナイフをケースに仕舞い、怪訝そうな声で訊く
「僕らって、ハッキリ言って友達出来そうにないと思わないか? 僕は見ての通り嫌みな性格だし、ユーリは寡黙でリアリストだ。弾は人がいいだけと言われてたろう? それに周りから見て何か得体のしれないことを企んでいる僕らに近づく奴なんていないと思っていたのさ」
皮肉った口調で言っていつも通り、笑顔で持論を語る。
「まあ、確かに。普通の高校生らしくはないしな。」
俺はさっきまで武器の整備をしていたことを冗談めかして言ってみせるとヴィンセントは苦笑を漏らした。
「だが、繋がりは増えた。それは悪いことでは無いはずだ。」
ユーリがいつもの鉄仮面の表情で口を動かす。その口にはいつも以上に感情が乗っていた。
「俺もそう思う。アカネと・・・お前達と会えてよかったさ。」
「やっぱりアカネ主体か・・だがとても素敵だ。そういうの僕は嫌いじゃない。」
「だろ?」
お互いに笑いあい、窓を覗く。
暗い海に映る月の光が俺達を照らしてくれている。この仲間達に会えたことを今夜の月に感謝した。
女三人寄れば姦しい、と誰が言ったか気になるが言いえて妙だと思う。私たちは部屋に布団を敷いて、その上で三人で我らが同胞たるインダストリ組男勢について話していた。
壁にm14を立て掛け、三人ともISを肌身離さずと物騒な中でも、私たちは楽しんでいた。
鈴がポテトチップスの袋の中身を掴み、聞いてくる。
「そういえば、アンタ達って男共と仲いいけどどこまで行ってんの?」
「ど、どこまでって・・・」
簪がメガネを顔を覆って頬が赤くなったのを隠す。初々しくてかわいらしい。私の憧れと言える可愛さだ。
「特にアカネ、アンタよ。あの時弾と妙な距離感だったし。何したの?」
メガネの位置を直すふりをして私は鈴から目をそらす。恥ずかしくて答えれないからだ。
今思えば、ノリと雰囲気に乗った自分が悪いのだが、元々思う所もあったので結果的に良かったというべきだろう。だが、話していいかとなると違う。
「別に・・・・何も」
思わずうわずった声を出してしまい、とっさに口を覆う。
「アンタ嘘下手ね・・・」
聞いてきた鈴と聞いていた簪も顔を赤くする。私と弾の想像でもしているのだろうか?
「鈴はどうなんですか?ヴィンセントと仲いいじゃないですか?」
「アタシとアイツには何もないわよ。ただのライバルよ・・・簪何その眼?」
簪の様子から鈴を頭から信じていないのがわかった。完璧に疑いに来ていた。
「・・・普通、そんな人と二人きりで高いお店に行かないと思うけど?」
「・・・・見てたの?」
簪がコクンと頷き、肯定の意を見せる。話を聞くと、鈴はヴィンセントに誘われて高いお店に入っていったらしい。そこの店の値段の高さは普通の学生が払えるような額ではない。ランチですら良心的とは言えない価格だ。
「そんな所に言っておいて何もないわけないですよねぇ?」
「怪しい」
獲物を見つけた蛇のように睨みをきかせて、鈴を見つめる。簪も同じように嘘を吐いた鈴をジトッとした目で見る。
「わっ悪かったわよ・・・・話すからあなた達も話なさいよ」
私と簪は了承して頷く。男のいない女だけの空間だからできる話だ。聞かない手はない
鈴は一つ息を吸って深く吐き出した。
「ヴィンセントってさ、自由じゃない? 自分のしたい様にやって一見身勝手だけど
実は仲間に対してはひときわ気をつけているところとか、目的のために努力しているところとかさ・・・・こっちが心配になるくらいでさ。カッコいいけど放っておけないと言うか・・・そんな感じなの。 無人機の時、半壊の機体で戦ったりラウラの時は動けない癖に援護射撃したり、だからアタシがあいつを気遣ってやりたいの・・・そう思ってたら最近ね・・・・・簪は?」
簪の番となり、彼女はおずおずとしながらも話し出した。頬が少し紅潮していた。
「ユーリは・・・・私のヒーローなの。別に正義の為とかに動いている訳じゃないけど、
私と弐式を助けたくれたのは彼なの。 でも、ユーリにも悩みがあって・・・・何かを探しているの。私は彼を手伝いたいの・・・・恩返しとかじゃなくて、私がそうしたいの。私も彼と一緒に・・・」
最後まで言おうとしたが、少し恥ずかしくなってやめた。だが、その顔は最初見たころより、ずっと素敵に笑っていた。
「最後は私ですね。弾は最初可哀想という感情で見てました。このご時世に生まれた不幸な少年の一人だと思っていました。でも、彼は諦めなかった。必死に走ってを繰り返して努力して、愚直なほど頑張ってて、気が付いたら私よりも大きくなっていた・・・・・・
ホレないわけないじゃないですか。」
「いい青春してるのね、私達」
鈴が感慨深そうに言った。青春という言葉にはここの三人は皆縁がないと思っていただろう。
私はRインダストリーのプランの尖兵であるのだから、最初はこんな友達ができるなどと考えなかった。ずっとインダストリ組だけで終わるものだと思っていた。企みを抱えた
少女に誰が友達になるというのか?そんな事すら思っていたし、目的のためには、そんなモノ不要と思ったことだってある。ロイなら15歳のやることではないと嘆くだろうが、それが私の高校生活と決めつけていた。
「アタシはこんな風になるなんて思わなかったわ。最初は一夏と会えたらぐらいだったし、所詮は皆の嫌われ者、中華政府の飼い犬みたいな者だからって少し諦めがあったわ。でも、憧れの彼と会って破局! もうだめだって思ったら、そんな事はなかったわ。・・・・本当に感謝してるわ貴方たちには。」
喉に飲み物を流し込んで鈴は語る。アルコールは入っていないはずなのに少し酔ったかのように自分の気持ちを吐露する。でも、その顔はどこかスッキリしたような晴れ晴れとしていた。
「私は・・・こんな性格だし、未完成の専用機持ちという事で結構言われて周りが大っ嫌いだった。それに・・・ずっと姉さんにコンプレックスばかり持っている自分が嫌でしょうがなかった。でも、そんな事ないって皆の助けがあって、ここまで来れた。だから・・・ありがとう」
武器に囲まれながらの夜、私たちは互いの幸福を語り、その夜はにぎやかだった。
その夜はプランを頭から完全に外した一人の女の子として楽しめた。
ハワイ島から遠く離れた場所。日本の領海ギリギリのポイントで四機のISが飛翔する。
一つは福音の二号機だ。月光で銀色のボディを輝かせて僚機のキャットを従えて、暴走した一号機とその場にいるキャット三機の元々の搭乗者達の仇を捜索していた。
ジャンクラビットによって破壊されたかに思えたキャットだが、幸いにしてコアは生きており、回収することができたのだ。取り戻したコアに新しくインフィニティキャットを入れ、新たな搭乗者を載せ、福音に追随している。通常なら人の血がこびりついたものなど使いたがらないだろうが、キャットの搭乗者達は功績を立てるチャンスに燃えて、この任務に志願した。米国内で60程度しかないISを持つと言う、一種の椅子取りゲームに勝てるかもしれないと言う誘惑に乗ったのだ。前任者が死んだのは相手が束博士の機体だからという事と、器ではなかったのだ、と思い込んで彼女たちはこの海域で探索していた。
仲間を助けるためではなく、あくまで功績欲しさに
キャットの搭乗者達を除いた話をすると銀の福音二号機の乗り手イーリス・コーリングは一号機に取り込まれたと言う自分の相棒を案じてここまで来ていた。彼女だけは少なくとも友人の心配をしていた。
まるで彼女が稀有な存在に聞こえるのは、唯でさえ、少ないIS搭乗者の席を譲って世界中で醜い争いは常に起きていることに起因する。
最近の例では中国の代表候補生だ。候補生の一人の高官の娘が庶民出身の候補生相手に父親の私兵をさし向けて亡き者にしようとした事件だ。結果は庶民出身の子が専用機をもらった直後だったので、この私兵を殲滅。死者は軍民あわせて15名の大きな事件で米国の諜報員がもたらした情報である。その後は高官の娘は親と共に失脚したらしい。
一見華やかなISの世界はその実、蜘蛛の巣や食虫植物のように罠を張り巡らせているのだ。どんな場所でも、何かしらあると言えばそうだが、その中でIS界は突出したレベルだった。
そんな中でイーリスはせっかく見つけた相棒を失いたくない一心だった。
「ナタル、どこなの?」
センサーを頼りに見つけようと周りを見渡すが周りで海が波打っているだけだ。
それでも、イーリスは諦めてなかった。少し前の通信では日本の自衛隊も協力すると言うのを聞いていたため、もうすぐ見つけられるだろうと自分を落ち着かせながら周囲を探す。
キャットの搭乗者達もそれに倣って任務をこなしていた。
しかし、探し物は彼女たちの水面下にいた。無人のはずの福音はゆっくりと海面に近づき
二号機をその眼で捉えていた。センサーにすら引っかからない程の低速でエネルギーの放出によって気づかれるのを防ぐために足を使って泳いで近づいていく。
そして二号機が水面に降下してきた。福音は目を細め、歓迎するかのような声を出して
戦闘モードに切り替えて、二号機の目の前にその姿を突然現した。
中々描写が上手くならないこの頃ですが、福音編です。
相当長くなるかもしれません
感想、批評、アドバイス等お待ちしております。