IS to family   作:ハナのTV

35 / 137
戦闘ばかりの回です。


25

ハイパーセンサーで強化された視覚に三機のISが映った。高速移動するラファールに乗る私はメガネのレンズ越しにその状況を確認した。織斑君と篠ノ之さんの両者の動きは福音を撃墜するために共闘しているようには見えない。それぞれが個別に動いているような、そんな動きに見えた。紅椿は福音と戦い、白式は何かに注意を向けて、集中できていない、そんなバラバラな行動をとっていた。

「遅かったか!」

プライベートチャンネルで血管が切れる音が聞こえるほどの大場先生の怒りを聞き、

私も自らの力の無さに胸が締め付けられる思いだった。

本来なら、先に私たちが接触して、福音を撃退しようというのが作戦だったが、突然の乱入者によって、それは破たんし、それでも、と追撃したが、間に合わせの改造に過ぎない打鉄とラファールでは完成された軍用機に及ばず、このような事態を招いた。

せめて、という思いのまま、行動する。

余裕があるとは言えないエネルギーをより使い、さらに加速をして二機に駆け付けようとする。作戦スケジュールから考えて、彼らは既にかなり長時間の戦闘をしているはずだ。

機体が持っても、搭乗者の心理状況は最悪の一言だろう。

戦闘とは無縁のはずの生徒がこんな戦闘行動をしていて無事なはずはない。

限界になる前に、今すぐにでも、と思いをはせて、伝える。

「織斑君、篠ノ之さん 聞こえますか?! 今すぐ・・」

助けに行く、とその言葉を放つ前に、状況は私たちをあざ笑う方向へと転がって行った。同時に予想外の方向へともだった。

一瞬のスキを突かれたのか、篠ノ之さんの紅椿に向かった高エネルギーの塊が彼女の紅色の装甲に直撃すると思われたが、白い機体 つまり白式がそれをかばい、易々と人の命を奪える暴力と膨大な熱量の複合体が白式を焦がした。

そして、福音は白式の手をつかんだかと思うと、自身の手から アメーバーのように不気味に動く液体を白式へと這わせている。

激痛が走っているのか、織斑君は叫び、叫んで気を失った。

篠ノ之さんの叫びが聞こえ、何の応えも出せなくなった織斑君が視界に映った。

私も言葉にすらならない悲鳴を上げたが、そのあとに来たのは悲嘆ではなく憤怒だった。

守ると言っておきながら、自分の様を見る。何一つ守れていない無力な自分。自分は何をしにここにきたというのだろうか・・?

無力さを恨み、そして自分の憧れであった「IS」を汚されたかのような思いにとらわれた。

あんな福音のようなISがなければ、皆キレイでいられたはずなのに・・・・!

それは私にとって許せない汚れだ。自分たちの夢を描くキャンパスにぶちまけられた泥だった。到底許せるものではない。自分だけでなく、生徒も血で汚して、その未来を侵食する永遠に剥がれない汚れを作り出す暴走した福音にたいし、今まで抱いたことのない大きい殺意を向ける。

「大場先生!」

普段では絶対に出せない怒声を放って、大場先生に自分の意思を言葉で表現せずに伝える。

彼女も多少驚いてはいたが、すぐに意思を察してくれたのか、機体を操り、篠ノ之さんのもとへと向かい、指示を出す。

「先生?! どうして・・?!」

「ソイツを連れて退け!、早く!」

意図を察した篠ノ之さんが白式を抱えて、撤退を開始する。

去り際に彼女は言った。

「近くに密漁船が・・・」

しかし、その言葉は私たちの耳に完全に届かなかった。撤退を開始する紅椿をとらえたのか、福音は声を出して、その攻撃性をあらわにした。

それを黙って見過ごすほど、寛容ではなかった福音は追撃に入ろうとするのを私たちは全力で阻止する。

ヘッドギアのバイザーを下げて、状況に備える。

回転弾奏のグレネードランチャーを呼び出して、全ての弾を発射する。ただし、発射されたのは敵に損傷を負わせるようなものではない、発射された砲弾は炸裂し、煙幕を張り、すさまじい、音と閃光を放っていく。それらすべてが、一時的にではあるが、福音のセンサーを一つずつ潰す。おまけと言わんばかりにECMグレネードを投げ入れて、目、耳とすべてを奪い、煙の中に右往左往する福音がいるであろう方向に向かって、私たちは力のすべてを吐き出した。

DMR9の二丁のライフル弾から、手りゅう弾、40mmの機関砲、と実体兵器の奏でるやかましく、硝煙と鉄のうめきがコーラスして暴力的なオーケストラが開催されて、福音に襲い掛かる。弾丸が切れるごとに、武器を変えて、

ライフルから、サブマシンガン、機関砲から、突撃銃へ と第二楽章へと移行するように、

次々と、持ってきた軍用装備のすべてを消費して福音にぶつけていく。弾奏が空になれば、交換し、時にジャムったときは、直す時間すら惜しんで、次の武器へと、次の攻撃へとつなげていくのだ。私は最初に撃ったグレネードランチャーの弾丸を散弾に切り替えて、麺制圧を繰り返す。煙幕の中を突き進む鉛の球がが相手に当たっているかすら確認せずに、

ひたすらにトリガーを引き、見えない敵の息の根を止めるべき努力した。

最後に、大場先生のバズーカと私の擲弾筒の榴弾を打ち切って、ようやく、全てを撃ち切った。肩で息をする、戦闘による高揚感によるものなのか、疲れのためか、はたまた、怒りのせいであるかは判断できない頭で次にの行動を思考する。

「撤収!」

機を翻して、大場先生が進路を本部へと移した。もはや、全弾薬のすべてを使い果たした私たちにできることは皆無だった。残っているのはブレードのみ。織斑先生ならいざしらず、私たちにはブレード一本で戦闘するだけの驚異的な力はない。私は先生に続いて、

撤退に移る。ふと、篠ノ之さんの言ったことを思い出し、付近をざっと見渡して、センサーで探してみるが、そこには最初から何もなかったかのように、青い海が広がっているだけだった。

社会に大きな影響を与えたはずの最強の兵器と言われているISをまとっているにもかかわらず、私たちは無力でしかなかった。

守る、単純な意味の言葉が実行に移すとこれほどの難しいものだと、思い知らされた。

無限の可能性を謳われたISに乗る人間は無限などではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボクの目の前に映ったのは写真だった。そこに写っていたのは、お母さんと、今よりずっと若いスレートだった。普段よりほんの少しお洒落をした母と少し古ぼけたスーツを着たスレートだった。ボクといるときには見たことのなかった貌を見せている写真の中の母は

ボクの記憶の中の姿より幸せそうに見えた。

ボクの中で何かがパチパチとはじけていく音が聞こえてくる。

「これは・・?」

かすれそうな声をどうにか、のどから声を出す一歩前に修正して普段と変わらないように努める。

「・・・・昔の写真だ。撮ったのは今から8年前になるな。出会ったのは12年前、俺は仕事の休暇の途中で、彼女は小さな店で歌っていたのを見て、それからだ。」

ボクの知らなかった話が展開される。知りたいようで、知りたくない話を目の前の男は思い出話のように懐かしく語る。

「俺は天涯孤独の身で、君のお母さんはこんな俺にも優しかった。たまに店に行っては会話して、そんな関係だった・・それで十分だった。」

母の写真もそれを物語っているように、満ち足りた顔をしていた。

それはボクにとって冷ややかな思いを作り出すのに、十分なものだった。

ボクはお母さんを愛してもいたし、憎んでもいたからだ。

ボクをたった一人で育ててくれたやさしいお母さん、いつも笑顔で見てくれた母を私は愛していた。しかし、母が死んでからというもの、正確には父のもとに引き取られた後に

ボクは母を憎んだ。なぜ、このような男と愛し合ってしまったのかと。母がもっと違う人を夫にしていれば、ボクは「ボク」なんて使わずに済んだかもしれない。今でこそ、一夏と会えたからいいものを、本来ならぼろ雑巾のように使い捨てられる存在だったに違いないのだ。どうして、見る目がない、そんなことを思わざるを得ない。

そして、目の前の男だ。母はこの世界最悪のテロリストと恋に落ちたというのか。

一度捨てられたくせに、懲りずに男とくっついてまた捨てられて、なぜ、こう愚かなんだ。

この男の今現在の姿を見る。野戦服を着て、無精ひげすら剃っているように見えない、目は少しくぼみ、少し前までアルコール中毒だったのではないかと思える。

こんな男と母は幸せそうに、ボクにすら見せたことない顔で楽しんでいたのか。

ボクではなく、コイツと・・・・!

煮えたぎる溶岩のようにドロドロとした怒りが噴き出すのを拳を握りしめて耐える。

「それで・・・約束って・・?」

ボクの様子を少し、観察しながら、スレートは答えた。

「・・・・・・もし、もう一度会えたのなら君を助けてほしい。たったそれだけだ。君は最近、会社の・・デュノア社から、抜け出したって聞いた。だから・・・」

「・・・・一緒に来ないか、とでも言うんですか?」

一拍置いて彼は答えた。

「そうだ・・・・君は未だに危険な立場だ。 いつ、政府か、会社の件で恨みを持った連中が来るとも・・」

「ふざけないでください。」

堪忍袋の緒が切れた。一気にボクの怒りが見えない炎のように燃え広がった。

ボクにとって、今更な話だったし、この男が気に食わなかった。

もっと早く来てくれれば、母も死なずに済んだかもしれない。「ボク」が「私」でいられたかもしれない。「シャルル」など名乗らず、「シャルロット」のままで、母といられたかもしれない。だが、どうあってもこの男にそれを望むのは無理な話だ。彼は残虐非道のテロリストなのだから。アルコール中毒で人殺しで、最低な男。にもかかわらず、母はこの男とあんな顔をしていたのだ。許せない、許せるわけはなかった。

ボクの知らない母を知っているこの男が気に入らない。

散々好き放題に生きてきた男がどの面を下げて・・・!

「テロリストで、今更やってきた貴方がどの口で僕を助けるなんて言うんですか? 

助けるというのなら、どうしてもっと早く来なかったの?! 結局自分がいい気分になりたいだけでしょう?! 今になって保護者みたいな面をして、人殺しで最低なあなたが・・・ボクを使って罪滅ぼしでもしようっていうの?! ボクは誰かの道具じゃない!」

目の前の男に黒い腹の中のものを吐き出して、ぶつける。目の前の男は見かけに似合わないほどの狼狽を見せる。まるで別人のようにただの「弱い男」に見えた。

「母との約束なんて知らない! お願いだから、もうボクを放っておいて!」

ボクの周りの大人は皆汚い人ばかりだ。自分のためにしか動かない。もう誰にもボクを邪魔されたくない。ボクは母と違う。ボクは自分で生きる。止めようとするスレートの手を振り切ってボクはその場から逃げた。

そして、逃げている途中だった。窓にセシリアやラウラが飛び立っていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

予想外の事態ばかりの連続が私たちを襲う。

設置した小型の野戦レーダに映るのはIS学園のIFF 敵味方識別信号を放つ機体が8機と不明機が一機。不明機を先頭にした三角形のデルタフォーメーションをして、こちらに接近している。しっかりと組まれている隊列に私は驚きを隠せないでいた。

組織だった行動をしている暴走機など、誰が予想できるだろうか。

しかも、これほど秩序を保って行動しているというのに、レーダーから隠れようという素振りすら見せないでいる。

一見すると、頭の悪い戦法に見える。しかし、その真意はわからないでもなかった。

「やられたわね・・・」

鈴が額に汗を流して、つぶやく。

「どういうことなの?」

簪が疑問に思ったのか、鈴に訊く

「コイツは明らかな示威行動よ。ここまで秩序だった動きができる癖に、IFFを付け忘れるなんて到底信じられないわ。私たちがここにいるってアピールして私たちを呼ぶ。そういう作戦よ。」

しかも、この場合、悪辣な方法になる。相手は暴走しているであろう機体群。ここまで統率のとれた暴走も信じがたいが、こちらの迎撃をすり抜ければ、都市部に壊滅的な損害を与えるであろうことは確実だ。人間と違って理性に期待することもできはしない。

ヴィンセントの予想では、敵機はISに作用する何らかのウィルスを持っている可能性があり、下手な接触は感染者の増大につながる可能性がある。

迎撃に出れば、私たちの誰かに感染するかもしれないのだ。

つまり、どのみち出血は避けられない、それどころか、どちらにせよ敵の思う壺なのだ。

私たちが来なければ、そのまま進撃できる。来れば、来るなりに、こちらとは違い、好き放題に攻撃ができて、その気になれば誰かを戦力にすることができるのだ。

私たちの機体は厳密にいえば、別種だが効果があるかも不明だ。

なんという邪悪で悪辣な敵なのか。

そして、距離もそう遠くないところにまで来ている。熟考する時間すらないというわけだ。

「どうあがいても、迎撃に出るしかないってことね。」

「行きましょう」

機体を展開し、飛び上る。

ハヤブサの脚部スラスターを吹かして、高度を超低空にした匍匐飛行をして、腕にパルスライフルを抱える。

鈴の甲龍、簪の打鉄弐式と上がる。その後ろから、ヴィンセントとユーリの機体が続き、

さらにセシリアのブルーティアーズ、ラウラのレーゲンと来る。

一機、シャルロットだけ見えない。しかし、こう接近されては、気にしている暇もそうないのだ。行かなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び立って数十分といったところか、夕焼けの赤い空と太陽の光を反射して少し赤く反射する海のはざまで、私は飛ぶ。今持てる全戦力をもって迎撃に上がり、もう数十秒で接触というところまで来て、私とセシリアは簪とともに雲の中に隠れ、狙撃位置につく。

得物を構えて、指示を待つ。本来、スナイパーではなく、シャープシューターの私は今回は完ぺきにスナイパーとして参戦している。

かつて、狙撃手としての適性は低いと言われた私がこんなことをするとは、神様とやらの

計らいだろうか。

「UAVを放つ。 簪データリンクは?」

「・・今、完了した。」

持ってきた物資の無人偵察機をユーリが放って、その詳細なデータが簪を通じて、私とセシリアに送られる。敵機の行動予測から、通信のジャミング防止等の役割を受けもった簪の打鉄弐式は搭乗者の高い演算処理能力も合わさって、管制機のような役割に徹していた。

私たちにとって、感染の危険性がある以上、必然的に遠距離ないし中距離での戦闘が求められる。それらを円滑に進めるためには情報の統括から敵機の正確な位置を知らなくてはならない。だが、これはあまり得策とは言えなかった。

なぜなら、ここにいる戦力の大半は専用機。どれもこれも、偏ったスペックをしているのだ。前衛のヴィンセントのグレイイーグルやラウラのレーゲンは問題ない。どちらも、高火力の砲を持っており、機会があれば、一撃で大きな損害を与えることができる。甲龍も衝撃砲などの武装があるので、問題はないかのように見えるが、機体特性の一つのパワーを生かしきれない。ユーリのマーダーなど、ステルスなのはいいが、あれは完全に格闘戦に重視されているので、今回一番不利な状況に立たされているといえる。

それを補うために、急きょ、私のDMR9を貸し出さなくてはならない始末だ。

「とにかく、臨機応変に動くしかない。感染経路がわかるまでは、接近戦は避けろ」

ラウラの言葉に全員が相槌を打つ。

臨機応変とは言うが、悪くいえば、行き当たりあったりだ。情報が少ない以上は仕方ないとはいえ、唇を噛んで苦々しい表情になる。

「敵機確認、打鉄5 ラファール3 ・・・・福音を確認!」

簪が先行させたUAVの一機からの情報を各機へと転送する。

たしかに、銀の福音だった。詳細なスペックから、画像まで、最初のデータ通りだ。

「一夏さん・・」

セシリアの震える声が耳に届く。私だって、弾のことが気がかりだが、今は目の前に集中するほかない。スコープを覗き、敵機を視認する。

射程距離内ではあるが、まだ撃ってはならない。最初からスナイパーを気取られては意味がない。

「グレイイーグル、エンゲージ!」

ヴィンセントが宣言し、肩のミサイルハッチから、次々と誘導弾を発射し、それに続いて、レーゲンのレールカノン「ブリッツ」が戦端を切った。

火球が出来上がり、空中に熱量の塊ができて、大気を焦がす。

戦闘は今この時刻をもって開始された。

前衛の四機と9機の敵機が交戦に入り、史上初の類を見ないISによる集団戦へと発展する。

イーグルが、高度を上げて、右へとローリングしつつ、機関砲とミサイルによる火力で、敵集団にくさびを打ち込む。左右に分かれた敵機の右の4機に鈴が向かい、左の四機にユーリが向かう。それぞれが不慣れな戦闘距離で戦闘をしてひきつけていく中、本命の福音はイーグルとレーゲンの火力支援組を封殺すべく,襲い掛かる。

わずかな通信すら掴まれるのを警戒した簪から装甲を叩いてモールス信号を模した音による信号が送られてくる。狙撃支援開始の合図だった。

センサーで鋭敏化された感覚だからこそできる芸当だ。

普段は使わない、高倍率のIS用のスコープを覗き、呼吸を整えて、指でグリップをやさしく包み、引き金にゆっくりと人差指を掛ける。

射撃は機体がアシストをしてはくれているが、やはり最後は人の手に頼る。

後退しながら、慣れないライフルを撃ち続けるユーリの下方から忍び寄る一機をとらえる。

簪を経由して送られてくる予測進路に合わせていく。そして、送られてくるデータと自分のイメージを重ねていき、二つの情報が交わる一瞬に合わせて引き金を絞った。

超音速の弾丸が青いマズルフラッシュを焚いて目標に飛来していく。

着弾まで、一秒とすらかからない、弾丸は忍び寄っていた打鉄の胴体を正確にとらえた。

水銀のような液体が飛び散り、そしてか細い胴体が吹き飛んでいく。命中した、という達成感を全身で感じボルトを操作し、排莢する。その直後にセシリアが発砲。鈴を三機で包囲、殲滅しようと画策していたのを阻止する。

手信号でもう一度簪から要請が来る。

「ユーリから支援要請。標的、重機関銃のラファール。雲から出たり隠れたりを繰り返して、太陽の方向に位置を変更している。」

視点を動かし、標的を探す。雲の影に見えたラファールの翼から反射した光をとらえる。

隠れたつもりだろうが、UAVで得た情報故にその位置は把握している。

パルスライフルの砲口がとらえて、発射。しかし、それて直撃とはならず、肩に命中したのみだった。

軽く舌打ちをして、狙撃ポイントを移動しようとした、その時だった。

セシリアのスターダスト・シューターが一機の打鉄をとらえたとき、その一機は思わぬ行動、いや反応を見せた。それは絶叫だった。断末魔の叫びのような背筋を凍り付かせるような、甲高い声が戦場にこだました。

「・・・え・・」

セシリアが絶句する。そして、私も思わず動くのを忘れてしまったほど唖然となった。

通常でも痛みを感じることはある、しかし、決して死に瀕した者の叫びなど起きるほどのものではないはずだ。ここから導き出されるのは絶対防御がない、ただそれだけだ。

しかし、それはこの場ではまずい。

「私が・・・・撃った・・?」

命中した敵機はまだ存命だが、傷けるつもりではなかったセシリアは自失状態に陥ってしまった。スナイパー故に自分が命中させたことは自分にはっきりとわかる。

つまり、通常の兵士と違って自分が殺す瞬間を確実に見ることになるのだ。

そして、今のセシリアはそれを体感してしまい、呆然としている。

「セシリア! しっかりしてください! セシリア・オルコット!」

プライベートチャンネルで呼びかけたが、彼女は独り言を言うばかりだ。

再び呼びかけようとしたところ、弐式から警告が送られてきた。

いつの間にか、回り込まられており二機のラファールが私を発見し、サブマシンガンで狂ったように乱射してくる。

「くそっ!」

フラッシュグレネードで目をくらませて、隙を作り、後退する。

簪が電子支援を自身の機体にオートでやらせて、間に割って入り支援する。ホーミングレーザー「サジタリウスの矢」を放ち、敵機の行動を妨害する。

その作られた時間内で再び、スコープを覗くとそこには劣勢に立たされている、前衛部隊がはっきりと映った。

狙撃支援が断たれて、孤立無援と化した鈴とユーリが数の差で押されだしていく。

特にユーリは自分の得意分野を生かせず、ただ回避行動に走るしかない。

そして福音だ。福音はレーゲンとイーグルの二機を相手にしていながら、時折、鈴やユーリに向けて攻撃し 僚機を援護するほどの余裕すら見せている。

圧倒的な性能と技量を見せつけて、戦場で唯一自由に羽ばたいているようにすら見える

イーグルがミサイルと機関砲で同時攻撃し、レーゲンがカノンで続く。

ラウラの高い戦闘技術とヴィンセントの完ぺきなタイミングが合致した攻撃を福音は回避をして、隙を作るのを防ぐために、エネルギーの砲弾でこれらすべてを完ぺきに打ち落とし、空いた片方のスラスターに装備された砲で、ユーリを狙い撃った。

ユーリはとっさの判断で機を捻って、直撃を防いだが、背部を焼かれて、体をそらせる。

ドッグファイトで、ユーリのマーダーを追い回していたラファールがライフルを三連射し、ユーリを完ぺきにとらえた。エネルギーは尽きていないが、バランスを崩し墜落しだした

「ユーリ!」

簪の悲鳴がこだまする。ユーリは短く、気にするな と答えて動き続ける。

マーダはせめての抵抗として、ダガーナイフを飛ばして、ラファールの足を止める。

僅かにできた時間で、ユーリに追随する一機を狙い撃ち、命中させる。先ほどと同じように悲鳴を上げて、こちらの心理を揺さぶってくる。

「撃ちにくいんですよ!・・・・そういうの!」

ボルトを操作して、二発目を発射し、撃墜する。搭乗者の生死はわからないまま、高度を急激に落として落下していく。

久しぶりの殺してしまった感覚に胸が締め付けられる。

だが、殺さなくては、殺される。戦場の絶対不可避の掟のまえに自分はどこまでも無力だ。

振り払うように、機体を動かしているとき福音がコチラをとらえた。

「マズイ・・!」

「逃げろ! アカネ!」

36の砲口からエネルギー弾が飛び出し、次から次へと撃っていく。一門の砲は1分間に600発ほど連射が可能で、これが36個。すべての砲口が私に向けられ、暴力の閃光は牙をむいて襲い掛かる。

バレルロールと左へと上昇し、その場でクルリと人回転して捻りこむように急降下をして、回避するが、ライフルにエネルギー弾が命中し、誘爆してハヤブサはバランスを完全に失って高度を下げる。

「アカネ!」

簪が飛来して、ハヤブサの手をつかみ、落下を防ぐ、それを見逃さないラファールの二機が手負いの得物を求めるハゲタカのような貪欲さで追撃してきた。

簪はサジタリウスの矢で迎撃していくが、その攻撃はいつもと比べて激しさが劣っていた。

どこか手心を加えたような攻撃だ。

命中こそするが、後退させるまでに至らない。

「お願いだから・・・下がって・・・!」

殺したくない、その思いが彼女にとって足かせになってしまい攻撃が十分にできないでいた。

そこへ、レールカノンの発射音が響いて、ラファールの一機を貫いた。

もう一機のラファールが気づいて、後退する。

「体勢を立て直せ! ここを抜かれたら・・!」

レーゲンがレールカノンを連射し、戦線の立て直しの時間稼ぎを図る。

それに追随してイーグルも全火力をもって、全ての敵機に向けて火砲を向ける。

そして、彼らのもとに福音が天上から下りてきた。

福音は二機の間をトップスピードで、すり抜け、通り過ぎる瞬間にすべての砲で二機にゼロ距離射撃をお見舞いした挙句、ウイングスラスターをラリアットのように二機にぶち当てて、さらにエネルギー弾で追い打ちをする。

イーグルの装甲がひしゃげ、レーゲンはカノンの弾倉を撃たれて誘爆を引き起こされて、二機とも致命的なダメージを負わされる。

「貴様ぁ!」

「待てよ!」

考えがシンクロしたのか、ワイヤーブレードとワイヤーアンカーの二つの武器が福音を捉え、その行動を強制的に制限する。さらにラウラはAICで動きを停止させることに成功した。福音は動けぬ的と化したと思われたが、スラスターに装着された砲を、AICで動かない砲口をそのまま乱射しだして、二機を振りほどこうとする。でたらめな乱射は二機に命中していくが、ヴィンセントがレーゲンの前に出てラウラの集中をとぎらせないように盾役を買って出る。無抵抗の案山子になるのを良しとしないヴィンセントは大型のリボルバーで福音に抵抗する。36の砲口に対し、リボルバーでは力不足だった。グレイイーグルは次々と飛来するエネルギー弾になすすべもなく被弾していく。

「調子に・・・・乗るな!」

乱戦を振り切った甲龍が合流し、近距離からダメージの負った龍咆を放つ。

全て最大出力ではなたれ、福音の装甲をえぐっていく。二発、三発、四発と続き、この機会を逃さないように、私は間に合わせのサブマシンガンを呼び出して、撃つ。

しかし、甲龍が振り切った二機と、後退したラファールが駆け付けて、レーゲンに集中砲火を浴びせる。

集中力を乱されたことによってAICは解けて、福音が再び動き出そうとする。

「・・・・させませんわ!」

セシリアが狙撃を再開し、福音のスラスターを正確に打ち抜いた。

バランスを失った福音が苦しみ紛れにセシリアにロックオンしたとき、

福音の背後から、一機の機体が福音の背後を刺した。

装甲が剥がれて、フルフェイスマスクから搭乗者の顔をのぞかせているユーリのマーダーだった。撃墜されたふりを装って、福音の背後を大型の青白く光るナイフの刃が完ぺきにとらえた。刃をねじ込み、とどめと言わんばかりに、ダガーナイフを頸髄近くに突き立てた。銀色の液体が血液のように、流れて、福音を染める。福音は痙攣して、手足をがくがくと揺らし他の地に頭をがっくり下げて機能を停止した。それと同時に敵のラファールや、打鉄は急におとなしくなった。指揮官を失ったためだろうか? 戦場は静かになって、終わったかのように思えた。

銃声がやんだのだ。

「・・・・・殺したのですか!?」

セシリアが抗議するように叫んだ。ユーリは肩で息をしつつ、答えた。

水銀の中から、搭乗者を引っ張り出して見せる。

「・・・・不思議なことに生きている・・」

ユーリが腕の中にある搭乗者を見て言う。たしかに体は動いており、呼吸をしている。

皆が安堵の表情を浮かべた。これで終わった。戦闘は終了し、あとは一夏や、弾の回収ですべてがおわる。

ヴィンセントも火器をしまい、私も、サブマシンガンの弾倉を交換しフルフェイスマスクを開けて、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。

作戦完了、誰もが思う名中、一人戦闘態勢を解除しないユーリがマーダーのカメラ越しにある一点を見ていた。

ユーリはジッとその搭乗者を見ていた。

「・・・簪、 搭乗者のデータ・・・いや顔写真だけでいい。送ってくれないか?」

「え・・・ハイ!」

簪がユーリの要請にこたえてデータを送る。私には彼の意図が全く分からなかった。

一分と掛からない時間でユーリはそのデータと腕の中の彼女を見比べる。

そして彼は低く唸るように言った。。

「違う、 コイツは目標じゃない」

「どういうことだ?確かに福音だったはずだ!」

ラウラが訳の分からないといった風に言う。

「俺たちが撃墜したのは二号機だ。 目標は一号機で、コイツじゃない。」

「なら、これは・・?!」

それぞれが動揺する中、起動音がこだました。停止したはずのラファールや、打鉄が再稼働を開始出した。

「まさか・・・!?」

「12時の方向に新たな反応!・・・・出力パターンから銀の福音と推定!」

簪から聞かされる最悪の情報。

全員が急いで戦闘態勢に移行したときHMDからロックオン警報がだされる。

福音一号機は兄弟に復習に燃えているのか、その全火力をもって全機を狙い打った。

戦闘終了としていて、密集してしまった私たちに青い閃光が怒涛の勢いで迫り、命中していく。はじけ飛ぶ装甲や、装備。融解したグレイイーグルの装甲が液体となって宙を舞い、レーゲンの黒い装甲が、バラバラに飛び散る。

甲龍が青龍刀で防御を試みるが、軍用機の後述力の前では何の意味もなさず、砕きちり貫通して本体にダメージを与える。圧倒的な弾幕の前に回避ルートすら存在しない中で、弐式は計算する間もなく、穿たれる。セシリアが意地か、プライドか搭乗者を抱えるマーダーの盾となって、身代わりになる。

そして、私のハヤブサも被弾し、HMDの中は被弾警告の嵐となった。

イーグルの装甲すら貫く膨大な熱量に焦がされて、誰もかれもが被弾し、傷つけられていく。

嵐のような攻撃がやみ、再起動した機体群が、包囲していくのを他人事のように私は見ていた。火器も エネルギーも 防御力も失われた私たちに抗戦のすべはない。

すなわち、私たちに死が訪れたということだ。

死にたくない、そう心から願う。まだ、望みも叶えられていない。あの男たちの活躍を誇りをもう一度見るために、ここまで来たというのに、せっかく出会えた彼、ひそかに臨んだ彼との未来すら まだ見ていない。

私はたった15年かそこらで終わるのか? 

嫌だ、嫌だと思っても現実は思い通りにいかない。

目の前のラファールがゆっくりと。実際は違うが、ゆっくりと照準を合わせてきた。

「弾・・・!」

せめて、口にしたのは彼の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・見つけた!」

聞こえたのは幻聴でもないまぎれもない彼の声だ。

パルスライフル特有の青い弾丸がラファールを貫いた。

そして私たちは見た。

全てを見てきた男の得た力。ピースの最後の機体を。

「今度は・・・俺が戦う!」

力を見せつけるようにしてラプターはその威容を示した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写やストーリーなど
よろしければ感想、アドナイス等お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。