IS to family   作:ハナのTV

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目の前に広がるのは満身創痍の友人たちの姿だ。誰一人として損傷を免れたものはなく、

全員がダメージを負っている。ヴィンセントは痛みに耐えかねて、声にならない絶叫を出し、ラウラやセシリアはうつろな表情に見える。ユーリは簪に肩を借りてもらっている状態で、まともな反応ができたのは、アカネと鈴のみだった。

「弾、よく無事で・・・!」

「遅くなった! 俺が殿をつとめる! 撤退しろ!」

鈴が多少勢いがそがれた声で抗議する。

「馬鹿! 一人でやる気?! そんなの無謀よ!」

「こいつらへの戦い方は分かってきた。今は福音の搭乗者を連れて逃げろ!

それと、簪、福音との戦闘データを」

簪が片手でキーボードを操作し、その詳細なデータを俺に預ける。

彼女は無言ながらも、頭を下げて援護できないことを詫びる。

戦況は圧倒的不利。数の上で、一対複数。だが、やるしかない。ギャンブルの言葉を思い出せ、今が戦う時だ。どのみち、戦闘ができるのは俺だけなのだから。

「鈴・・・・頼む」

損傷した機体とともに戦闘はできない。まして、死にかけの機体だ。鈴も行き場のない怒りに震えながら、一度叫んで、了承する。

「わかったわよ! こんな所で死ぬんじゃないわよ! 馬鹿!」

甲龍が撤退を開始して、レーゲンや弐式もそれに続く。

各機が続々と撤退する中、ハヤブサが近づいてきた。

「弾!」

アカネの俺の名前を呼ぶ声がする。彼女は俺に用があるらしく、こちらを向けと言ってきた。戦闘が近いので、多少ためらったが、それに従い、振り返る。

アカネはフルフェイスマスク越しに、俺のラプターの頭部にそっとくっつけた。マスク同士がぶつかり、小さく音を立てた。その行動は俺にとって何を意味するか、容易に判断がついた。

それはマスク越しの接吻だった。マスク越しなのに、彼女の甘美な香りが届いた気がした。マスクがなければ、と恨めしくすら思うほどの甘い瞬間だった。

「帰ってきてください・・・・・待ってます。」

アカネがその場を離れて、名残惜しそうに、こちらを見ながら去っていく。

結ばれた約束、絶対に破ることのできない命令に俺は彼女に肯定の意を見せつけるように、拳を握った左手を上げてこたえる。

そして、通信が届かない距離で一人つぶやいた。

「安心しろ、アカネ。女の子に守れない約束はしないさ・・・・行くぞ!」

ハヤブサを動かし、迫る福音とその僚機と相対する。今までの俺は見てばかりだった。ヴィンセントのときも、アカネのときも、いつも最後は彼ら任せだった。

だが、今日は俺は番だ。俺こそが最後に立つのだ。それが俺に足りなかったもの、つまり終わらせる覚悟だ。それを超えてこそ、俺は本物のピースになれるのだ。全推進器を吹かして突貫する。機体のモーター音が猛禽類の叫びのように、鳴り響きラプターは福音に向かう。福音の一斉発射と共に打鉄とラファールが左右に分かれて、獲物を食う瞬間を奪われた狂気の群集が牙を向けてきた。俺は頭の中にイメージを展開する。これから起こることと、俺のとるべき行動を 福音の部隊にはウィルスがあると聞く。故にアカネたちが苦労していた。だが、そこに俺の戦った相手との齟齬がある。俺の戦った打鉄は何度も格闘戦を仕掛けてきた。しかし、その際何かを仕込まれたわけでもない、ブレードを使った普通の格闘戦だ。もし、仮に打鉄などからも感染するとして、一瞬で感染もしくは、後に発症するとしたら、何もブレードで斬りつけてくる必要はない、ただ感染させるだけで済む。

つまり、二次感染はない、もしくは感染には相手のエネルギー切れが必要だ。つまりは格闘戦は制限されない。俺の距離で戦えるのだ。

そして、簪からのデータを思い出す。福音は絶対に自信のある時にしか攻撃しない。

暴走しているというのに、味方機を援護し、フレンドリーファイアを恐れるのだ。人間同様に動く暴走機なのだ。奇妙だが、これは使わない手はない。つまり俺がとるべき行動は

ブル・ファイト。 接近戦だ。ただし、目的は時間稼ぎが主だ。狙うのは福音の撃墜じゃない、攪乱と乱戦だ。「負けない戦い」をすることが俺の最善の策だ。

小口径のパルスライフルを放ちながら、急加速と、右と上方に二回に分けて、急加速のステップ移動をして、福音の攻撃を避ける。セミオートマチックのパルスライフルが突貫する打鉄に命中していき、体勢を崩され隊列から離れてしまう。その時を利用して、突撃を開始しもろくなった隊列の隙間に入り込む。入り込まれたことに動揺した二機の打鉄に

パルスライフルの残弾を残らず発砲し、隊列の乱れをさらに広げる。

ライフルの機関部の上部から、マガジン代わりのクリップが甲高い金属音と共に排出される。リロードのスキを突かれないために、背面のミサイルハッチを開けて、でたらめにロックオンした相手に向けてミサイルを飛翔させる。発射の終了と共に、クリップを押し込んでリロードを済ませる。

空の上で火球がいくつも作られて、花火にも似た光景を作る。

完ぺきにかき乱された敵機は三機の打鉄がブレードを抜き放ち、接近し、残った打鉄とラファールが取り囲む。包囲殲滅。正しい選択だ。ただし、追いつけるならだ。

三回に分けての連続の瞬時加速で、三機のスクラムを抜ける、その一瞬で掌底を一機の手に当てて、ブレードを奪い取り、回転と共に、ブレードを射撃体勢に入った一機の打鉄に投げつけて、パルスライフルを射撃組に向けて、撃つ。ブレードが命中した打鉄は高度を落とし、連携を乱された残りに青い実弾が着弾していき 相手の思惑をすべて潰す。パルスライフルの薬室に一発だけ弾丸を残したまま、拡張領域にしまう。

動き、動き続ける。止まってはならない、悩む暇すら俺にはないのだ。単機の俺が生き残るには場を乱して敵機の連携を崩して、各個撃破を狙わなけらばならないのだから。

行動はまだ終わらない。高度の下がった打鉄に飛びついて、後から組み伏せて、盾にする。

スキを突いたと思った福音が射撃しようとしたのを取りやめたのを目で確認した。

「もらった!」

打鉄を福音めがけて蹴り飛ばし 福音と打鉄が衝突する。金属と金属がぶつかる音を響かせて、福音は痛みを受けた人間のように、短く声を発した。

呼び出したパルスライフルで正確に狙いをつける。ホロサイト越しに見える二機をとらえて、引き金にかけた指に一瞬ためらいが生じる。

フラッシュバックが一瞬おこり、血で汚れて海に沈んだ教師のことが頭に浮かぶ。

確かに、あんな思いをするのは嫌だ、しかし今の俺にはそれよりも嫌なものがある。

友人が死ぬか、友人が人殺しと責められることだ。

前者は運と俺の努力次第で回避できる可能性がある。だが、もう一つは不可能だ。

おそらく、後者は避けられない運命かもしれない。戦場なのだから、誰も死なずにめでたしで終わるわけはないと俺はあの時確信した。

泥をかぶってしまったのなら、かぶり続ける覚悟が俺には必要だ。

俺だけが陽の中に立ち、彼らが夕闇に立たされる。そんなことは認められていい訳がない。

なら、俺のすることは一つだ。

「俺も、その咎を、泥を受ける、だから迷うな!」

感情と共にトリガーが引かれて、パルスライフルは俺の思いに応えるように弾丸を敵機へと送り出していった。超高速の特殊なライフル弾が打鉄を貫通して、福音の胴体をとらえた。直撃を受けた打鉄がコントロールを失って、高度を急激に落とす、ライフルからクリップが排出されるのと、

どちらかが早かったかは定かではないが、一瞬のうちに撃墜と、福音にダメージを与えることに成功する。悪寒が全身に広がるのを感じながらも、身をひねり、回転して、後方から迫る曳光弾の嵐を避ける。そのうち一発が、背中に命中するが、幸運にもウィングスラスターの被弾は避けれた。だが、正面から雲に隠れていたラファールが、灰色の鱗殻とよばれるパイルバンカーを抜き放って接近してくる。急制動を掛けて後退しようとしたとき、

後ろから、打鉄が張り付いて、俺の動きを制限しようとする。

組みつかれて、身動きがとりにくくなり、正面から杭を突き出してラファールが

近づいてくる。俺は咆哮して、スラスターの出力を瞬時加速を利用して一気に最大にまで無理やり引き上げて、組み付いた打鉄を噴射炎で吹き飛ばし、首を傾けて、危機一髪で頭部を狙った杭をよけた。杭の激烈な打ち込みで、頭部のマスクの表面をかすって、火花が散るのには俺も戦慄した。

杭打機のある右手をかっちりと脇にしめて、焦った俺は空いた手にナイフを呼び出すつもりが、別のものを呼び出してしまった。

それに気づいたのは切ってからだった。ラファールの灰色の鱗殻が宙を舞った。

溶断されたためだが、ヒートナイフではこうもきれいに切れない。

俺が呼び出したのは、青白く光る光の剣だった。

これがラプターの新兵器。着る瞬間のみに刃が展開されるレーザーソード。

切れ味は今さっき実証した。ISのシールドも装甲もバターのように切り裂くほどのものだ。

さらに刃を短くすることで、レーザーの密度を飛躍的に向上させて、威力は倍増していくのだ。

俺は、右手にそれを持ち、軽機関銃を相手全員に向けて制圧射撃して、行動を制限していく。そして、グラリと揺れた打鉄の一機めがけて、接近し、通り過ぎる刹那の瞬間にブレードを振りぬいた。切込みが浅く撃墜まで至らなかったが、その場で沈黙させることに成功した。

だが、全てが順調ではない。打鉄と違う機動性や、違和感のある操作、度重なる戦闘のストレスが確実に俺の体をむしばんできていた。

そのせいか、一瞬集中を欠いた俺に、福音のビームが掠めて、装甲の表面が焦がされる。

舌打ちをしながらも、自分の息が荒くなるのを自覚してしまい、これ以上の戦闘に耐えるのはキツイように思えた。

その時、通信が入った。本部からのものだった。

「五反田君、もう十分です。撤退を!」

出てきたのは山田先生だった、先生が無事なことに安堵しつつ俺は答えた。

「了解です! ヴィンセントや一夏は?!」

「すでに戻っています、早く!」

潮時だといわれて、俺はマスク内でミサイルの弾種を変更する。

「弾頭をフラッシュバンに変更、全弾、ファイア!」

背部から放たれて、ミサイルが炸裂し、強烈な閃光を相手にお見舞いし、軽機関銃とパルスライフルを両手にそれぞれ持ち、一通り、乱射して俺は機体のスラスターを全力で吹かして、その場から逃げる。追撃をしようとする福音のトップスピードを超えて、ソニックブームを起こしたラプターで、ついに安全圏まで逃げ切ることができた。

他に誰もいない夜の空の中、俺は一人深呼吸をして、肺に酸素を詰め込む。

生き残れたことに神に感謝して俺は手のひらを見つめた。

他人の血で汚れて、アカネたちを救った俺の手だった。救うために殺してしまう、守るとはその言葉の持つ清廉さとは裏腹に何て難しく血なまぐさいのか、と思う。

俺は最後まで戦い抜けた充足感と殺してしまったかもしれないことへの後悔を胸に帰路に就いた。

俺は最後まで戦場まで踊り続けたのだ。暗くなってきた空の中、ラプターのモーターが唸る。勝利を声高に謳う鳥のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰還した俺が入ると重苦しい雰囲気が漂う作戦本部であることに気付く。誰もが、顔を下に向いていた。中には涙さえ流す者もいる。

無理もない話だった。殺す、殺さないの世界なんて、そう簡単に想像できないからだ。

せいぜいが、本屋に平積みされている架空小説や漫画だけの話でしかないからだ。

ISに乗るのには覚悟が必要だと 織班先生はかつて言った。扱い方を誤れば事故につながり、死者すら出す可能性があるからだ。だが、それはあくまで道具としての話としか、俺を含めてほとんどの人は捉えていなかった。ボクサーが日常で喧嘩しない、包丁を他人に向けてはならない、そんな程度のものだ。

しかし、事態はもはやそんなレベルではない。相手を殺すか、殺されるかの話だ。

学園に来た俺たちの中で、一体どれだけの人間がそんな覚悟を持っていただろうか。

しかも、俺は今回のことで恐ろしいことに気付いた。

殺すことに何ら覚悟は必要ないということだ。

俺は自分の生存のために相手を殺した。その時、俺の中には「殺す覚悟」などという単語はなかった。ただ、引き金を引いて それで終わりだった。

まるで、ガムの包み紙のように軽い感覚で俺は一瞬のうちに一つの命を奪った。

銃もISも、たった一つの仕草で相手の命を奪えてしまう、そこに覚悟は必要ない。

ただ、人差指に力を込めるだけでいいのだ。

しかし、それは普段持っている良心や道徳に著しく反する行為だ.

俺たちは今、そんな恐ろしい世界に立たされている。恐怖しないほうが異常だといえる。

目の前ではセシリアが両手で自分の体を抱いている。まるで、極寒の地域でさむがるようにだ。簪はどこか、疲れ切った様子で目の焦点が定かではないように見える。

ラウラは一見平気そうに見える。普段より、多少雰囲気は鋭い気もするが目に見える範囲では正常に見えた。

アカネとユーリはいつも以上に静かにしている。特にユーリは一言も話さず、自身の拳銃を整備している。

「・・・・・では、説明してもらおうか」

織班先生が口を開いて、俺に問いただしてきた。

俺は直立不動のまま、問いに答えていく。

「福音には何らかのウィルスがある、お前たちはそういうのだな。」

「はい。教師の機体に、山田先生たちが遭遇した米軍機。 すべては、暴走しており絶対防御すら稼働に費やすという代物です。 しかし、俺が遭遇した打鉄は一夏のときに見せた行為を取らなかったので、二次感染はないと思います。」

「それで、相手の戦力は?」

「ラファール 1 打鉄 4 福音と思います。」

今までの撃墜した戦果から、考えて残り戦力の予想を伝える。芳しい状況ではない。

こっちの戦力は半数以上が戦闘不能。本命の福音戦に至っては、敵に戦力増強の機会を与えてしまう可能性もある。しかし、それでもやるしかない。

「では、別名あるまで待機を命じる・・・五反田」

「何です?」

去ろうとした俺を先生は引き留めた。

「・・・・・・いや、何でもない」

口を開きかけた織班先生に疑問を抱きながら、その場を去ると後ろから、声を掛けられた。

ずっと聞きたかった声だった。

「無事に帰って来てくれたんですね」

「ああ」

短く答えて、彼女を見る。頭を包帯で巻いて、傷ついた彼女だった。

俺は彼女としばらく歩いて、人気のない場所で自分の胸の内を話した。

「アカネ・・・俺、人殺しになったよ。」

「・・・知っています。」

「アカネは目をそらさずに聞き、俺は壁に寄り掛かって話し続けた。話しているうちに、気分が悪くなって倒れることを危惧したからだ。

「いつか、こんな日が来るかもしれないと考えたことはありました・・・・・

ごめんなさい。私はあなたのそばにいるべきだったかもしれません」

「いや、いいんだ。アカネ。そこは気にしてないんだ。」

俺は一つ深呼吸をして思いを彼女に伝える。かつて、彼女が怯えていたかもしれない思いと同じだった。

「俺、思うんだ。 汚れた手で、君の手に触っていいのかなって。なんだか、自分がとてつもなく卑しい人間に思えて・・俺が君を抱くのは許されないことかな?」

一番大切な人だから、汚したくない。汚れた自分が憎らしい。

俺のような、他人の命を奪った男が誰かを好きになるなんて許されることか、それが重く俺にのしかかっていた。

すると、アカネはメガネを取り、ケースにしまってポケットの中に入れた。

「弾、私を見てください。私の顔はどう見えます? 私はこれでも過去に数回殺したことがあるんですよ・・・でも、今の私の姿は悪魔でも何でもない。普通の人間のままなんです。」

淡々と語られる彼女の過去の一端。 これこそが、俺が彼女に感じた言葉の重みだった。

おそらくはユーリもヴィンセントも似たような経験がるのだろう。だからこそ、彼女たちは明確な真実を語ることができたのだ。予想はついていたが、彼女も背負うものだったのだ。

「あなたは背負うしかないかもしれません。でも、私もあなたと同じです。

だから・・・・・・」

「わかってる。 俺も同じ思いだ。」

手を取り合って、お互いの真意を確かめあった。せめて、俺に、彼女にできることはお互いにお互いの荷を背負いあうしかない。ほんの少し前まで、専用機を持っただけで彼女たちと並べた気がしていた。でも、それは間違いだった。俺は今ようやく、彼女と同じになったのだ。

アカネが力いっぱい抱きしめてくる。目を涙で濡らして、彼女は少し嗚咽を漏らしながら、言った

「帰って来てくれてよかったです・・・本当に、心配しました。」

「・・・・俺も帰ってこれてよかった。 また、君とこうしていられる。」

まだ、戦闘は終わっていない、それでも、この時だけは戦いを忘れることができた。

たとえ、たった一時間もない平穏のときだとしても。

「震えていますよ・・・?」

「・・・・情けないか?」

「いえ・・」

すっかり暗くなった夜空の下で俺たちは夜明けが来ないことを願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅館の駐車場を丸々ひとつ貸し切って、整備課とインダストリーのメカニックが騒がしくする。俺たちは急ピッチで機体の修復等を行っていた。明日、もしかしたら五分後にでも戦闘は再開されるかもしれないとなれば、誰でも焦る。

皆が、皆 職務を必死にこなす。

「主任! どうやってもイーグルの修復は不可能だ、それにレーゲンも損傷もひどい!

明日までになんて不可能だ」

「・・・・畜生め」

修復作業と言っても、各機体のダメージはあまりに大きく、完全な修復は不可能だった。

ISには自己修復の能力があるが、それを待っている暇は俺たちにはない。

さらに、専用機ゆえの欠点か、別の機体の部品とまったく規格が合わないため、代用もできない。打鉄弐式はかつての改良で、元の打鉄と共通部品を増やしたため、どうにか修復は完了したが、他はどれもこれも、何一つ規格が合わない。コードの端子すら合わない始末だ。だが、それでも使える戦力を増やすのが仕事だ。打開策を練る必要がある。

「お困りかな?セイウチ君」

後方からかけられた声は、あの女の声だった。

「篠ノ之博士・・・悪いがお茶をしながらお話をする暇はない。何の用だ?」

「手伝ってあげようと思って・・・・猫の手ならぬ、私の手だよ? いらない?」

唇をかみしめて、悔しみに堪えるほかなかった。今は、俺たちだけでこなせる範囲ではない。本来なら、そのふざけた面に丸鋸でも押し当ててやりたいが、俺は耐えて、彼女に緒言を乞うことにした。

「・・・どうすればいい?」

「君の機体を使う。データを見せてもらったけど、悪くない作りだし、行けると思うよ~。

用は戦闘以外で使えばいいんだ、幸いにして、スナイパー役が二人、しかも管制塔代わりの機体は健在。これでどう? どう?」

彼女はタッチパネルを操作して、即興で作り上げた設計図を見せた。それは驚くべきものだった。

「いいアイデアだが、時間があるかどうかだな?」

「そこはほれ、天才にお任せ。君らは指示にしたがってくれるなら・・・いけるかもだよ?」

サングラスの奥に燃え滾る感情を隠して俺は答えた。

「わかった。 あんたに従うが、少しでもアイツらの機体に細工してみろ。その脳みそを引きずり出してホルマリンに漬けてやる」

その時、束ねの後ろから、ある集団が駆け込んできた。大場のレジスタンスたちだった。

「マイクさん、手伝ってほしいことがあるって聞いたんですけど」

「私たちにできることはありますか?」

レジスタンスの面々は息を切らせて各々話し出す。

どうやら、いつの間にか、情報が漏れていたようだ。

「ありゃ、よかったね~。助手が増えたよ、セイウチ君」

この女はどこまで本気なのか、俺にはその真意は測れなかったが、助かることは事実だった。俺は彼女たちに指示を出して、行動させる。俺にとって今の時間は一分すら、100カラットのエメラルドの価値に匹敵する。

そして、もう一人の来客に気付かなかった。

その少女が「姉さん」と叫んだのに気付いたのは半秒遅れてのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海の夜景というのは美しいものだ。月の光と星の光を海が反射してよく映える。

俺はそんな景色を日本式のホテルの一部屋のベランダから眺めていた。誰もいないのを確認して、自販機で買ってきた煙草に火をつける。しかし、至福のはずの煙草の支援は俺の心をいやすことはなかった。

むしろ、慰められることのない結果に失望し、虚しさすら覚えた。

俺の心は空虚なものだった。予想できた結末。だというのに、俺は傷心している。

シャルロットの言い分はもっともだ。テロリストで、身勝手に生きてきた男が今更やってきて、君の父親代わりになろうなどと言えば、誰でも憤慨する。

彼女を愛したことのない俺がどうして愛されるというのだろうか。

だが、心のどこかで期待していたのだろう。その証拠が今の俺だ。どうしようもなく、空っぽな状態になっている。

「ここにいたんだ。スー君」

束の呼びかける声がした。俺は振り返らずに答えた。

「例の流用プランとやらは上手くいったようだな。」

「うん、皆急ピッチで頑張っているよ~。やっぱり、私にできないことはないね。」

無邪気そうに笑う彼女がとなりに立った。柵に体重を預けて、夜景を見る。そして、まるで子供のように星を手でつかもうとした。当然うまくいかず、危うく、落ちそうなのを

掴んで、引っ張り戻す。

彼女はやはり子供みたいな大人だった。俺と違って、自分のやったことに決着をつけようとしている彼女は俺よりも大人に思えた。たとえ、言動がぶっ飛んでいたとしてもだ。

俺は束を見て、呟いた。

「俺も、お前くらい大人でいられたらな・・」

その瞬間、ぴたりと束の笑いは引っ込んだ。スイッチを切り替えたかのような豹変ぶりだった。

「・・・束さんは同じことスー君に思ってたよ。」

「どうして?」

束が頬杖をついて、語りだした。

「さっきさ、箒ちゃんに言われたんだ。 私のせいでいっくんが傷ついたって。私の身勝手によって大勢の人が傷ついてるって・・・その時、箒ちゃん、私のことなんて呼んだと思う?・・・・・・ 篠ノ之束だって・・・・もう他人みたいだね。」

俺は黙って聞いていた。彼女もまた拒絶されたのだと知って、俺が掛けれる言葉は何もなかった。同じ境遇の人間同士で慰めあう、それが俺にとって彼女にとって良い物か、疑問に思えたからだ。

「当然だよね! 今まで、ほったらかしにしてたんだし、連絡だってしなかった。

箒ちゃんにとっての「家族」をバラバラにしたのも私だし・・・・でも、もう一度」

涙が混じった声に代わり、彼女は泣いて胸の内を話した。

「もう一度、姉さんって言われたかったなあ・・・私のたった一人の家族だったのに・・・

たとえ、IS欲しさでも、いっくんのためだけでも良いから、もう一度姉さんって・・・・

言われたかった・・」

彼女は普通の人間と何ら変わらない透き通る涙を流していた。世界中から俺と同様に悪魔呼ばわりされている彼女もまた人間だった。そして、弱さを持つ人間でもあった。

「小さい時から、私は何でもできた。故に気味悪がられた。私にはこんな簡単なことが理解できない周りが理解できなかった。今だって、どうしていいか、わからない!

スー君教えてよ、どうすればいいの? どうして、人には公式も、模範解答もないの?!

どうすれば・・」

「束!」

思った以上に出た声に俺も彼女も驚いた。正直言って答えは俺にもわからない。

俺も彼女同様に理解されなかった人間だった。生きるために、死肉を食らう悪魔の化身。

生きる、ただそれだけのために必死で走ってきただけの俺を、誰もが理解しなかった。

俺は持たないがゆえに迫害され、彼女は持つがゆえに迫害された。

俺たちのさいしょは真逆だったのだ。そして、今は似た者同士だ、そんな俺が彼女に言える言葉は少ないが、それでもわずかな言葉を紡いで、話す。

「俺たちは勝手すぎたんだ。生まれた時から、周りを置いてきちまった分のツケが回ってきたんだ。俺たちは大切なものを零してたのに気付けなかった・・それだけだったんだ・・」

俺の言葉に束は反論する。

「でも、そんなの理不尽じゃないか。勝手にしてたのは周りだって同じじゃない。

そんな中で大切なものを零さないなんて、無理だよ・・・」

俺たちはベランダで、己の過去と、自分たちのやってきたことを悔いた。

ほんの少し、気を利かせるべきだった、そうしていれば、失わずに済んだかもしれない。

そうすれば、お互いに自分を映す鏡のような存在を見なくて済んだかもしれない。

だが、確かなのはお互いにそんな存在がいるだけ、マシということだけだった。

その日は夜明けが来るまで長かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主人公機の初戦闘など、ようやくかけました。
この後、しばらくは心理描写多めの長い決戦前夜が続きます
色々と展開は遅いかもしれませんがよろしくお願いします。
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