福音が光の渦に飲まれていくのを俺たちは見ていた。荷電粒子の光は粒がはじけ飛び、福音の肢体を完全に覆った。福音の絶叫のような声が木霊し、やがて、それは機械的な音声から生の人間の叫び声へと変化した。俺たちは地獄の業火も恐れ入るような膨大な熱量の波に飲まれていくのを黙ってみていた。シャルロットや山田先生は口元を押さえて、勅使を避けていた。大場先生は悲しそうな目で見ている。レシーバーからは何の声も聞こえなかった。誰もが、一言も話さず、その光景を目にしていた。
俺は一体どんな顔でそれを見ているのだろうか。鏡のない今ではそれを確認する手立てはない。だが、少なくとも良い顔はしていないだろう。俺の心は重くどんよりと曇っていたのだから。
絶叫が聞こえなくなり、戦闘が終了したと思われた、その時だった。福音を中心に半径五
メートル程度の球体が現れ、荷電粒子砲を押し返し始めた。
「これは・・・!?」
大場先生が驚愕の声を出しながらも、銃器を構える。
その先に存在する福音と思わしき物体は突如として、球体から飛び出してきた。
その姿は両翼がもがれ、ありとあらゆる装甲などの金属が融解し、本来人が入っているはずの場所が空っぽになっている、満身創痍どころか、完全に機能しえないはずの状態だった。
しかし、福音の両翼の損傷個所から、嫌、全身からエネルギーでできた翼が生えて、もはやISとは言えない異形のフリークスがそこにいた。
俺たちの脳内ではこれが何なのか、まるで見当がつかなかった。
そもそも、俺たちは実はISではなく、異次元からか、宇宙から来た未確認生物の兵器と戦っていたのではないか、とすら思うようにすらなった。
しかし、その回答を知るものが一人いた、篠ノ之束だった。
「第二次形態移行・・? 搭乗者もなしに・・?」
形態移行とはコアが操縦者の人体の情報や稼働経験から適性化を行い、機体の形状および装備を操縦者の特性に合わせて変化させる、と教科書に書かれていたものだ。しかし、今の福音は搭乗者もない状態でこれをやってのけている。常識に当てはまらない事態の発生。
それだけでも、驚くべきことだが、今一番重要なのは、福音がまだ倒れていない。
そのことだった。
福音は俺たちを無視して、行動を開始した。その方向はスナイパーとしての役割を持っていたアカネたちのいるほうだった。奴はスナイパーを潰すことで、この場におけるアドバ
ンテージを得ようとしているのだ。
「全機! 全力で奴を追え! この場で息の根を止めろぉ!」
大場先生の叫びと共に、俺はラプターを走らせる。セントリーガンとレジスタンスたちのでチューンされた訓練機では福音の迎撃など不可能だ。あそこには機動戦力としてのISがないのだ。
山田先生が狙撃をし、ユーリがカービンで頭を抑えようとする。さらに大場先生がミサイルポッドから三発放ち、その場で仕留めようとする。しかし、福音はエネルギー翼から作られたエネルギー弾でこれらすべての弾丸を完ぺきに迎撃した。
形態移行するだけで、この異常なスペックの跳ね上がりに誰もが、息をのんだ。
実弾が全く通用しない。それはつまり、ここにいる全ての機体の遠距離攻撃手段が全て通用しないことを意味した。
「なら・・・!」
レーザーソードを抜き放ち、福音に急接近する。福音は弾幕を展開し、接近を許すまい、とするが、ダメージを引き継いでいるせいか思ったより一発のダメージは少ない。瞬時加速を三度に分けて利用し、福音の弾幕をすり抜けて、懐に入り込む。
袈裟斬り、逆手に持ち替えての差し込み、さらに頭部と思われる個所に肘鉄を叩きこむ。
回し蹴りを二度繰り返し、鳩尾にもう一撃レーザーソードを叩き込む。
しかし、福音は唸るだけで、進路も速度も変更しようとしない。
損傷個所から、エネルギーを放出させて、レーザーブレードを全身から形成してハリネズミのように己を守る。
それらのブレードから、光波を飛ばし、ラプターのシールドの表面をスライスした。
後退しつつ、俺は進路上に立ちふさがり、ミニバルカンを連射する。
行かせてはならない。ここを抜かれれば、アカネやヴィンセント、鈴だけではない、旅館の生徒に、果てはその奥にある都市部だ。この狂った機械が何の破壊も見せないなどという保証はどこにもにない。
「止まれよ・・・止まれって!」
福音の首にワイヤーがまかれ、ユーリのマーダーが張り付いた。ヒートナイフを人間でいうところの頸動脈に深く差し込み、スラスターで強引に組み伏せようと動き、山田先生、大場先生と続く。俺は真正面からぶつかり、張り付いての刺突を繰り返す。
レーダーや、火器が発展した現代では起こるはずのない、ナイフや銃剣による超接近戦が行われていた。力の限り、福音の体に切り付け、刺し、刃が折れたときは殴りつけすらした。刃を抜き出すたびに、銀色の液体金属が飛び散って、四人の機体に付着する。返り血のように張り付いたそれに構うことなく俺もユーリも、山田先生も、大場先生も皆が、必死の抵抗をする。
しかし、福音も無抵抗の的ではなく反撃を開始する。
破損した場所から次々とエネルギー波を発生させ、ラファールや打鉄の装甲を切り刻んだ。
二人の機体が限界を超え、福音から離れていった。
「まだだ!! まだ終わってない!」
二人が叫び、ハンドガンを乱射し、海面に転がっていた。俺とユーリは振り返ることもできず、エネルギー波を受けながらも、福音にしがみつく。ダガーナイフをすべて使い切り、レーザーブレードも刀身を維持できなくなってきている程、攻撃を繰り返しても福音は倒れない。痛みに対する反応を見せても、決してその声をとぎらせることはない。
これほどの痛みを与えても、止まることのない暴走機。歌声を止めないソレを止めるすべすらないように思えた。
「こっちにおびき寄せて!」
シャルロットの声が響き、俺とユーリは僅かなエネルギーを使い、瞬時加速で無理やり、福音の進路を変更させる。先生二人の最後の射撃が聞いたのか、健全なころと違い、思ったよりパワーがない。少しづつ、進路を変更させていくと海中に隠れていたシャルロットのラファールが姿を現した。最大火力の格闘兵装シールドピアースと呼ばれるパイルバンカーで福音の胴体に一発穿った。弐発、三発と次々に巨大な薬きょうの中に入った炸薬によって押し出される杭が胴体を貫く。シャルロットの表情は神に祈るようなものだった。
皆がこれで終わってほしいと願う。パイルが福音の胴体を完全に貫通して液体金属が滴る。
福音は沈黙し、頭を垂れた。機能停止になったのだろうか。とにかく停止したのを祈るばかりだ。
「終わったの?」
肩で、息をしながらシャルロットが訊いた。目じりには涙と思われる水滴がついていた。
ユーリも俺も福音を見やる。沈黙し耳に障るような歌声も上げなくなった機体。静まり返ったことから、ようやく終わったのか、とレーザーソードを福音から引き抜いた。
ユーリはジッと福音を見やり、ショートカービンを構える。
「何してるの?」
「とどめを刺す。」
チャージンぐハンドルを引き、薬室に初弾を装填し、フルオートに切り替えるユーリを見てシャルロットは抗議した。
「もういいよ! ウンザリだよ、 こんなの!終わったんだから・・もういいでしょ!」
そのユーリが一瞬シャルロットの方を見た僅かな時間に福音はまたしても動き出した。
死んだふりをして気づかなかった俺たちにとって完全な不意打ちだった。人型としての最低限の形すら保たない状態で、光波ブレードを展開した。
切り刻まれ、自慢のXウィングは見るも無残に切り取られる俺のラプター。黒煙を上げ、海に半身を沈めていくマーダー。ラファールカスタムに至っては丸裸同然にされていた。これでも、一瞬の判断で回避行動はとっていた。運が悪ければ、上半身と下半身が泣き別れをしていたことだろう。だが、結局は俺たち三人を一瞬で戦闘不能にされた。
シャルロットが悲鳴を、ユーリが苦悶の声を上げる。
俺は灼けるような痛みに悶絶しながらも、その場を後にしようとする福音にすがるように張り付いた。行かせたくない、行かせるものか。満身創痍のラプターを動かし、福音にしがみつく。これほどまで、戦い抜いてきたというのに、敗北。その言葉は受け入れがたい。ここで行かせれば、何のためにラプターを受領し戦ったのかがわからなくなる。
果物ナイフ程度の長さしか展開できないレーザーソードを福音の背部に突き立て、せめてもの抵抗を見せるが、福音は無感動にエネルギー波を放ち、俺を一蹴した。
シールドエネルギーが切れ、全ての動力源を失ったラプターにできることなどなかった。
「こっちに来るの?!」
夜武さんの不安な声が聞こえる。
「迎撃用意!」
スレートが各員に伝達する。
その後、レシーバーから届く情報は良くないものばかりだ。荷電粒子砲のチャージが接敵までに間に合わないことが知らされる。鈴が喚くように叫び、ヴィンセントが舌打ちをする。
だが、どうすることもできない。俺にはもう動けるだけのパワーがない。
力なく、海面を漂う流木のように、漂流するしかなかった。悔しさと惨めさに耐える以外のない俺に一つの情報が流れた。その正体を見るべくして俺はHMDの表示に目を向けた。
「待たせたな! 皆!」
一夏の声がレシーバから聞こえた。続いて箒の声も耳に届いた。
薄れゆく意識の中で、新しいIFFを二つ確認した。白式と紅椿のものだった。
戻ってきたのか、とぼんやりする頭で考えた。
第二次形態移行したらしい、白式が剣を振るう。
福音はぼろ雑巾のような姿で抵抗する。上空へと、高度を上げていって福音は完全に見えなくなった。
俺は海上で、どうにかなりそうな現状に安堵しつつ、自分の力の至らなさを呪って目を閉じた。
作戦司令部に全員集まり、作戦終了と宣言された。だが、一部を除いて、その報告を聞いた面々は沈んだ表情だった。
インダストリー組や二人の教師、レジスタンス達、整備班、そして束博士の顔は決して明るいものではなかった。
俺たちの努力で福音を倒すことができなかった、そのことで悔いているわけではなかった。
確かにそういう面もあったが、意味が少し違う。そのようなスポーツにみられるような物とは違う。結果的に見て白式が福音を撃破し、この作戦の過程においての俺たちが全て否定されたような気分だった。人を殺してしまった俺や山田先生の想いも、敵機が来るかもしれないという恐怖に戦ったレジスタンス達も、せめて整備によって報いようとしたマイクさんたち整備員の努力も、白式の活躍によって、まるで無意味なものにされたかのような気分だ。
俺たちの奮闘は無駄だったのだろうか、そんな無力感にさいなまれていた。
織班先生が俺たちに振り向く。
「さて、今回のお前たちの行動はあまりに目に余る。処分が来るまで待機しろ。」
冷たく凛と言い放つ織班先生見やる。確かに彼女の言うことは正しい。結果論で見れば、一夏と紅椿で対処できた。最初の作戦が功を奏したといえるだろう。
だが、それは結果論だ。つい先刻まで自室状態になって砂浜に体育座りをして傷心した自分に酔っていた彼女や、負傷して意識不明になった一夏を一体誰があてにするだろうか?
俺たちはできるだけのことをしてきた。足りない戦力を急造品で補い、殺されるかもしれない恐怖の中、戦場に立って、福音を追い詰め、福音の僚機もすべて撃破した。
誰もが、戦闘の中で自分と敵と戦ってきたというのに、ねぎらいの言葉一つすらない。
こんなことが認められていいものだろうか。
ユーリが一言ぼそりとつぶやいた。
「いい気なものだな。」
寡黙なはずの男が初めて公の場で不満を口にした。その言葉に一夏と箒が反応した。
「どういう意味だ?」
「英雄気取りで、いい気なものだと言ったんだ。」
「貴様!私たちに感謝の言葉もないのか?!」
箒が激しく怒りを見せる。その表情は激しいものであったがユーリの眼はそれ以上の迫力があった。
「よせ、箒。」
一夏が箒を宥めて、ユーリと向き合い、言葉を放った。
「お前たちは間違っているんだ。」
唐突な言葉だった。間違っている、何のことを言うつもりかは、疲労しきった俺の頭でも十分に察することができた。それが何か、とわかったとき、頭の血液が沸騰しているような感覚になった。
「何?」
感情起伏が少ないユーリが殺意すら混じった声で返した。
「お前たちは、二言目には殺すしかないなんて使う。ラウラのときだってそうだ。でも、それは間違いなんだ。ISなら、俺なら皆を守れるんだ・・・何で、守ろうとしない?
ISには・・・・俺たちにはこんな力があるのに」
右から、畳をむしるような音がした。ヴィンセントは右手で畳を引っ掻いている。子供の手遊びにも見えるが、その顔はいつもの笑顔には到底見えなかった。
左を見れば、アカネが拳を血がにじむほどの力で握りしめていた。包帯を巻いているためにメガネを外しているために、普段隠している猛禽類のような力強く美しい目が見える。それは憎悪と怒りで燃えていた。
「お前たちは結局、あきらめていただけだ。何回もあきらめずにする力がないだけで、ただ暴力ばかりを追い求めていただけじゃないか。そんなの強さなんかじゃねえよ。」
うつむいて、表情を隠す。今、俺がどんな顔をしているのかは容易に想像できた。
一夏の持論語りの後ろでは箒や織班先生が黙ってそれを聞いていた。ラウラやセシリアもだ。時々頷いてすらいるのが見えた。異色なのがシャルロットだった。複雑な表情を浮かnべている。迷っているような、戸惑っているようなそんな顔だ。
一夏の演説は続く。いや、説教なのかもしれない
「弱いやつを守ることもしないで・・そんなのは力じゃない。それをわかるんだ!今回でわかったろうもう少し待てば、皆死なずに済んだっていうのに・・・」
そのセリフだけで、俺の忍耐は限界に達した。俺は立ち上がって、一夏の前に立った。そして利き腕でその顔を思い切り殴りつけた。殴られた勢いで一夏が転がり、倒れた。
俺はそんな親友を見下す形となり、その呆けた面を見てさらに怒りが倍増した。
「弱かった? 救えただ? じゃあ、最初から作戦を成功させろよ! 俺を救えよ! お前が寝ている間にどんなことがあったと思う?! 山田先生たちはお前を助けるために手を汚したんだぞ、少し前まで不同僚だったかもしれない奴だって撃ったんだぞ! ヴィンセントもアカネもユーリも傷つきながら最善を尽くしてきた!整備員や、レジスタンスの皆だって・・・・それすら知らないお前が何を偉そうに言うんだ?!」
殴った俺を非難する声が上がったが、俺はそれらを人にらみして黙らせた。不思議なことに、自分でも思いもよらないほどの迫力が出ていたらしい。
「俺もだ、俺だって少なくとも一人は・・・やってしまった。それでも、俺は血にまみれて倒れる皆を見たくなかった。どうせなら俺だけで汚れを被ろうって、そう思ってやってきたんだ! なのにだ、そこにふんぞり返っているブリュンヒルデは何もしない、ねぎらいの言葉一つない! 挙句、途中参加のお前たちが何を偉そうに語ろうってんだ?!俺たちは夢の中でも、楽しいネバーランドにいるわけでもないんだ! 現実で戦っているんだ! 夢の話なんか聞いてどうすんだよ!?」
息を切らし、大きく肩で呼吸しながら俺は叫びに叫んだ。
今までの不満と今日の不満を並べ立てて、俺は散々に罵倒した。
「弾、何でわかろうとしない?! そんな人殺しの集団にいて何が楽しんだよ?!」
一夏の反論に俺は沸騰した頭のまま、彼の問いに答えた。
「好きでやってると思ってんのか?! こんなことやりたいわけないだろ!
お前だって何だ?! 何でそんなにあれこれも守りたがるんだ?! おかげで、迷惑してるんだよ! ヒーローごっこなんざ、いい加減卒業しろ!」
「何だと!?」
「俺は救うためにだの、守るためにここにいるわけじゃねえ! 俺は 俺たちは夢を果たしに来ただけだ! お前のような幸せな思考回路をした野郎の言うことを聞くためじゃねえ!」
一夏が起き上がり、俺との取っ組み合いになる。一夏が殴ろうとするのを、懐に入り込むことでかわし、肘鉄を顎にぶつける。倒れた一夏のマウントを取って殴りつけようとしたところで、織班先生が俺をつかみ、投げ飛ばした。
障子にぶつかり、眉の上部分を僅かに切った。
「やめんか、この馬鹿者!」
織班先生が俺の襟首をつかもうとした、その時先生の腕を癒子が引きとめた。
「ここまでです。先生」
「離さないか、癒子!」
「貴女が、そう偉そうに権威ぶるのはやめてください! ウンザリです! 何のためのブリュンヒルデ何ですか?! 一度も出撃も・・・指揮だってしないじゃないですか?!」
「貴様ァ、 教官を愚弄するとは!」
ラウラが癒子に詰め寄るが、そこに神楽とナギが割って入った。
「アンタも偉そうにしないでよね。」
「狂犬じみた軍人など、不要だ。出て行ってもらえるか?」
この場にいる誰もが感情を爆発させていた。作戦本部はもはや、紳士的に話す場ではなく、ソードラインを踏み越えた、乱闘の場となりつつあった。
「人殺しのくせに!」
「トリガーも引けない臆病者が何を言っているんですか?」
射撃手の二人が激突する。人を殺さないことを主張するスナイパーと目標を確実に仕留め、責務を果たすのを身上とするマークスマンが互いに言い合う。
「専用機持ちだからって、何偉そうにしてるのよ!」
「姉のコネで貰っただけで、何もしてないじゃない!」
専用機持ちへの不満が爆発した。彼女たちは普段好き放題していた専用機持ちに以前から怒りを持っていた。そして、ここでも悪癖をさらした彼女らにとうとう堪忍袋の緒が切れた。
罵倒に、敵意のこもった視線、拳が飛ぶのが少ないのが救いかもしれない。思い思いの言葉をぶつけて、怒りに身を任せて大声で叫び合う。俺も含めて誰もが頭に血を登らせていた、収拾がつかないと思われた場はあっという間に抑えられた。俺たちの耳に超音波というものだろうか、高い音が耳に流され、俺たち全員がその場で地に伏せた。
「うるさいよ、君ら。作戦は終了。皆が死なずに済んだ、気に食わないこと多いけど。それでいいじゃん」
「束、 元凶の貴様が!」
「そう?」
そういった博士は胸元から機械を取り出し、向かってくる千冬先生に向けた。
小さな電子音が鳴り響くと、千冬先生はその場でばたりと倒れ、口から胃液を吐いた。
「束、 貴様ァ・・・・・!」
「ほら、無理しない。 ちーちゃんってば あの時、体をずたぼろにされたんだから、
激しい運動は体に毒だよ?」
束博士は邪悪なまでに歪んだ笑みを浮かべて、ニタニタと笑ってみている。
俺たちには何が何だか、さっぱりだった。しかし、おかげでこの場は収まった。
耳元で話す博士を見ながら、俺たちはその二人を黙ってみていた。
束は耳元で話せる距離にまで近づき、私と話す。
「大丈夫、秘密は守ってあげるからさ」
抑えきれない怒声を出して私は彼女を威圧する。今の束もそうだが、今回の事件の不可解すぎる出来事が多すぎることにも私は激怒していた。
しかも、だ。つい先ほど、新しい情報が手に入った。それは銀の福音に接触した謎の所属不明機があるという情報だった。それは予想の範囲内だったが、そのあとが問題だった。
「お前、福音のウィルスをなぜもっと早く伝えなかった?! それを知っておきながら、あんな作戦を立案したのか?!」
命令違反を起こしながらも、山田先生が連絡してきた内容は驚くべきものだった。
ISを暴走させるプログラムを福音が所持している。しかも、搭乗者の有無は問わないほどの代物だ。
「・・・何で? 何で、伝える必要があるの?ちーちゃん。」
「貴様、とぼける気か?」
「だって、いっくんの機体は白式・・・いや、白騎士でしょ? 大丈夫だよ、白騎士はいっくんを守るよ。 それ以外はどうか知らないけど」
あっさりと事実を言い当てて見せる束。しかし、そんなことは今の私にとってどうでもいい。この女は身体以外を一夏の無事にいさせなくさせるために、あのような作戦を出したのだ。
「一夏をISから遠ざけるためにとでも・・?!」
「ピンポーン! 流石、ちーちゃんは話が早いねえ。」
無邪気そうに笑う、束に腕を伸ばして胸元をつかもうとするが、体が動かない。まるで、あの第二回モンドクロッソの時と同じだった。
どうにか立ち上がって壁に寄り掛かる私を、束は立ち上がって、嘲笑を浮かべて眺めている。哀れに這いつくばる翼を失った鳥を眺めでもするかのように、ニタニタと嫌な笑いをする。
その光景は、あの時と同じもので、デジャブのような感覚になる。
散々に痛めつけられた私を見下す、あの豪奢な金髪の女、ルビーのように紅い瞳を持ったあの女と。あの時の私のすべてをぶち壊した、あの女のことをだ。
奴は力と誇りをすべて奪っていた。
『アラ、 弟さんの前でごめんなさいね 』
クスクスと笑って、立ち去って行ったあの女とそっくりに束は私を見る。
「私をその目で見るな・・!」
「ちーちゃん。 もういい加減にやめなよ。そんな体でさ。 もうこけおどしは通用しないんだよ? もういっくんを巻き込むのはやめたら?」
束をにらむが、この女には脅迫など通用しないのはよく知っている。私は息を切らせながらなおも束に近づこうとすると、隣から腕が伸びてきた。それは、あの野蛮そうな男のものではなかった。小さな少女のものだった。
「やめて・・くださいますか?」
その少女は白い髪の毛でアルビノの様な印象もある。独特の存在感がラウラとよく似ている目を常に閉じているようだが、正確に私の手をつかんでいることから、目は見えているようだ。
「教師が生徒の前で暴れるのはよくないと聞きます。ここは控えてもらえませんか?」
「貴様は何だ?」
「束さまの・・・」
「私の娘だよ。 ちーちゃん。」
娘、という単語を聞いた。私は失笑しそうになった。このコミュニケーション障害を持った此奴が娘などの家族を築けるはずがないからだ。
実に冗談めいた話だ。まさかとは思うが、あの男も家族などというのではないか、とすら思ってしまった。
「貴様が・・・家族だと・・?」
「そうだよ、ちーちゃん。楽しいよ、ホントに。」
その言葉には妙な響きがあった。まるで、血のつながった妹よりも溺愛しているように見えた。
気に食わない。血のつながりよりも、強い絆だとでも言うのか。そんなものは存在しない。
私は束の見せる家族を見ながらも、そう断定した。
私は血のつながる一夏を守る。ただそれだけのために・・・・
乱闘の後、僕は一人、端末での極秘通信を開き、僕はアルフレッドに報告する。その報告を聞いたアルフレッドはウィスキーグラスを傾けながら、画面に映っているだろう僕の顔を注視して口を開いた。
「望み通りとはいかんな、ヴィンセント。 君の博打は半分当たり、半分外れた、といっ
たところだな。」
手厳しい評価に恐縮しつつ、僕は謝罪の言葉を口にする。
「申し訳ありません。力の至らなさを恥じるばかりです。」
グラスに高級ブランデーを注ぎつつ、アルフレッドは渋い顔一つしないで、僕たちに対する評価を続ける。
「だが、ラプターと五反田君の戦闘データは目を見張るものがある。それに、例のウサギの即席の荷電粒子砲のデータもある。福音を仕留める任務を我々で完遂させるというのは
上手くいかなかったが得るものも、あった。 君の判断は利益を生んだ、特別ボーナスぐらいは出そう。」
僕にとって金銭は絶対の神ではないためか、素直に喜ぶことはできなかった。命がけで戦って得るものは金だけ。何とも釈然としないものがあった。日本では喉に小骨が引っかかるような気分というのだろうか、今までと違い、ボーナスという金銭のみの報酬に満足しえなかった。
いや、根本的に言えば、福音は二機とも、僕たちの手で撃墜したかった。
それがプランの前進につながるのだから。僕らにとっての夢を具現化させるにはそれが確実な方法だった。しかし、最終的に二号機と、そのお付の機体を撃墜したのみとなった。
いつだって理想とは叶えがたいものではあるが、この結果に満足できるはずもなく、なにより織班に説教された身としてはこのまま終われない。
そこで一計を案じることにした
「アルフレッドさん。機体の整備、修理のために、本社の{ロストワールド}への一時的な帰国を許可してほしいのですが」
「ほぉ? 里帰りかね? ・・・・何のためにか一応聞いておこうか?」
「ええ、反撃のためにです。」
僕らはここで終わらない。その思いは皆同じだと信じ、僕は一人目の前の怪物的なまでに強欲な男に話した。
旅館の部屋に戻り、目当ての人物たちがそこにいた。インダストリー組がいた。ヴィンセントだけいないのは気がかりだったが、俺は彼らに面と向かって会うと、俺は頭を床にこすりつけて詫びた。
デジャブだったかもしれない。最初のセシリアといい、俺が力を手にしたばかりはいつもこうだったかもしれない。でかい口を叩いて、失敗の連続だ。福音を倒すことで俺を含め、Rインダストリーのプランは前進するはずだったはずだ。それが何なのか、まだわからないが、俺という存在が最後の最後でしくじったのだ。
「すまなかった。でかいこと言って、結局・・・」
そう言いかけた時、俺を立ち上がらせた。ユーリだった。彼は俺を立たせると軽く、平手打ちをした。
「謝るな、弾。 お前が謝罪する必要がどこにあった? 俺はお前の奮闘に感謝している。
謝罪をするな。正しいことをしたのなら、俺たちと同じ戦士なら胸を張るべきだ。」
「だが、俺は福音を撃墜できなかった。」
そう俺が反論すると、アカネが反論する。メガネを外して本来の素の姿のまま彼女は言い放った。
「それは私たちもです。私たちは過信していたのかもしれません。自分たちの腕なら・・・と。 結局未熟だったのです・・・・所詮子供の背伸び程度だったのでしょう・・」
アカネは視線を落とし、片腕を押さえて、目じりに涙をためていた。無力な自分に悔し涙を浮かべていた。彼女もまた、俺と同じだった。
「アカネ、俺もだ、俺も無力だった。結局俺は戦い抜くことも、救うこともできなかった。
俺は自分が憎いよ。」
きっと俺の実力はラプターを十分に扱うまでのものではなかったのだろう。俺は弱く、未熟でしかなかった。専用機を手に入れても、それに実力が伴っていなければ無用の長物だ。
俺はそこを見事に勘違いしていたようだ。そのざまがコレだ。十分な支援があれば、アカネたちが隣にいれば、などの言い訳は通用しない。
俺は弱者なのだ。では、どうするかだ。このまま無力な狩られるだけの羊で終わるべきだろうか。
そんなのは嫌だ、認められるわけはない。
俺は今日は弱者であっても、明日はそうでないのを望む。何度だって挫かれてきたが、今回もそうだっただけだ。次は、次こそは俺が狩る側に立つ。
その誓いに応えたのか、ヴィンセントが部屋に入ってきた。
俺はヴィンセントの前に立ち、言った。
「ヴィンセント、頼みがあるんだ。」
奴はこう答えた。
「君の願いなら叶えてきたよ」
次回の投稿をもって福音編は終了です。
オリ展開ばかりのせいか、いろいろと悩むところもありますが、
とりあえず続けていきます
よろしければ、感想や批評をお願いいたします。
至らぬところばかりで申し訳ありません