IS to family   作:ハナのTV

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3話

 

メンバーの顔合わせが終わった次の日から俺の訓練は始まった。行われる場所は支社の中だった。一人目の先生はヴィンセント・ロック。

 

訓練が行われる地下三階の部屋は壁だけのフロアで水を抜いた特大プールみたいに思える場所だった。その真ん中で全身を真黒な筋肉で覆って関節部に金属の部品がついた恰好をした姿に俺は目を見張る。

 

「ようこそ、弾。一限目はISシミュレーションだ。以後ヴィンセント先生と言うように」

「楽しそうだな、ヴィンセント。それがISスーツなのか?」

「早速、先生を忘れてるぞ。その通り、実用性重視ってやつだよ。丈夫でライフル弾だって防げる。君の分もあるから、さっそく着るように」

 

お互いに笑顔で話し、俺も同じスーツを着る。頑丈そうな見た目なわりに動きやすく思ったより軽い。

 

「今日からこっちで寝泊まりしながら訓練してもらうが、訓練の時はそのスーツを着たままで行ってくれ。 全部の訓練でだぞ。」

「それはわかったけど、シュミレーションっていうが何をどうするんだ?何もないぞ。イメトレでもするのか?」

「半分正解だな。答えはこれを使う。」

 

手首に巻き付いてる腕時計を指でコンコンと叩く。おそらく彼のISだろう物を目の前に見せる。ISの待機状態というもので、量子変換によって小さく収めることができる。

 

ヴィンセントが腕時計をかざすと淡い光が発生した。彼の全身にメタリックな外観のフレームが装着され、さらにその上からTANカラーの装甲が装備された。

 

出来上がった外観は戦車のように頑強で直線的な装甲を全身に持ち、頭部は三眼のターレットが両側に付いていた。ターレットに赤い光が灯される。昔、弾が見たロボットアニメの悪役を思い出す。

 

「感想は?」

 

ヴィンセントがまるで自分のオモチャを自慢するように聞く

 

「スゲエよ!これがISなんだ。スゲエ……!」

 

俺はこれから自分が手にするモノを見て興奮を隠せないでいた。これこそが俺の求めたモノだからだ。大きな装甲に包まれた巨人のような威圧感あふれる姿。誰もが認める強大なモノを見る。これを使えると思うと、自分が万能な気すらする。

 

「これをどうするんだ?」

 

はしゃぎながら、ヴィンセントに聞くとISの胴体の装甲がせり上がり、中からヴィンセントが出てきた。

 

「とりあえずコイツの中に入ってくれ。」

 

ヴィンセントの指示通り入ると装甲が閉まり手足が固定される。次に真っ暗だった視界が変わり、ヴィンセントとフロア全体が映る。ヴィンセントが装甲を叩いたので、そちらを見る。

 

「20秒後にシミュレーションが始まるから。僕の指示をよく聞いてくれ。今はそれに従うだけでいい。」

 

「わかった。」

 

短く答えると視界が変わり、何もない砂漠が目の前に広がる。

 

見上げれば雲一つない青空が広がっている。本物そっくりで一瞬、虚構と現実の区別がつかなくなった。

 

「どんな景色が映ってる?」

「何もない砂漠だよ。凄いな、雰囲気まで再現してるみたいだ。」

 

試しにシュミレーション内でISの腕を動かし砂をすくってみる確かな触感がそこにあった。

 

俺は機械の中にいるだけなのに!

 

「シミュレーション中では五感を表現するために、一種の催眠状態にして脳をだまして、グレイイーグルがお前に直接情報を送っている。ここに来る前に投与したナノマシンがそれを起こしているんだ。ISの操縦はイメージによるものが大きいから、これで動きのコツを習得してもらおうてわけ」

 

ヴィンセントの説明を聞きながら一通り、動いてみる。歩く、かがむ などをしてみると、自身の四肢が重たく感じる。ISに実際に乗った時の動きの制限まで表現しているようだ。

 

「動き回ったら、今度は空を飛んでもらう。空をとぶイメージをして、高度2000mまで上昇してくれ。」

「イメージってどんなのだよ?」

「ピーターパンでも、戦闘機でもなんでもいいんだが……そうだな……弾、日本人なら昔ロボットアニメとか見てたことは?」

「あるよ。10歳くらいに」

「OK、ならソレをイメージしてくれ。できるだけ、自分が一番好きだったものを想像するんだ」

 

言われた通りイメージする。イメージするのは背中に大きな羽を持つ主人公機。トリコロールカラーでビームソードを振り回していた。

「想像したら、今度は自分がそいつになりきるんだ……なりきったかい? 後は同じように飛ぶだけだ。」

 

ヴィンセントの指示通り、主人公機になりきって、カタパルトから飛ぶイメージをする。

 

すると機体がガクンと揺れ、急速に加速しだした。ISならではの重力を無視するPICとブースターが起こす急加速によって、砂を巻き上げながら、数秒とたたずに最高速に到達する。

 

最高速に到達したのを見て俺は機体を青空に向けて跳ねた。一秒、二秒と時間が経過する。すべてがスロモーションに見え、ISとそれを操る自分に酔いしれた。数秒と掛からず高度2000mまで到達し、360度全てを見渡す。虚構の世界の中の大パノラマ。それでも弾が興奮するには十分だった。

 

「気分はどうだい?」

 

ヴィンセントが気さくな声で聞く

 

「最っ高。」

 

短く簡潔に答えた。それしか言葉が思いつかなかった。それほどまでに魅せられた。無限の成層圏とはよく言ったものだ。

 

この空と自分の中の可能性はどこまでも広く、無限に思えた。

 

 

 

 

 

ヴィンセントの次の先生役は紅一点のアカネだった。

ヴィンセントの講義が終わり、地下二階までエレベーターで降りると、そこは射撃場だった。

 

簡素な机の上に大小さまざまな銃が置いてあり、何十メートルか先に的がいくつか立っていた。銃に見入ってると、大きな破裂音が聞こえ、驚く。アカネが長いライフルで的を狙い撃ってるようだ。遥か遠くの的をよく見てみると黒い点がいくつか見れた。

 

アカネがこちらに気づき、銃を置いて気さくに話しかけてきた。

 

「二限目の先生務めさせていただきます。堂上茜です。よろしくお願いしますね。五反田君」

 

ジーンズにタンクトップの恰好で首に保護用ヘッドセットを掛けていた。

 

「訓練ってまさか、射撃?! ウソだろ 犯罪だろ、これ!」

 

予想できなかったので大げさに叫んでしまった。誰がどう見ても、銃刀法違反だからだ。

 

「一応、許可は取っているそうですよ。五弾田君のような人なら、秘密基地だ! とか言って喜ぶと思ったんですけど、違うんですか?」

 

「いやいや、無理だって。」

「鉄砲に誰も知らない地下施設。ロマンでいっぱいですよ?」

 

不思議、何故興奮しないのか? と言わんばかりな表情だ。漫画ならアカネの頭上には?マークが浮かび上がっているだろう。

 

「ヴィンセントのIS講座はうまくやれたんですから、銃ぐらいでビビらないでください。男の子なんですから」

「いや、だけども銃なんて・・・」

「Are you a chicken? 何事にも始まりがあるって言うじゃないですか。始めてしまえば銃なんて楽勝です。いつまでも取り乱していないで、準備してくださいね」

 

微笑みながら、アカネはからかうように言う。実に愉快という感じだ。アカネの印象がガラリと変わった。男より男らしいのだ。彼女は昔見た西部劇の銃とスリルが大好きなガンマンそっくりだった。体つきまで似ている気がした。

 

よく見ると筋肉質で無駄と言う無駄を徹底的にそぎ落とした体はある種の理想的なものだ。それだけ見ると男性に近い印象を受けるが、女性の象徴、胸のふくらみが大きいことがそれを否定する。

 

今まで見てきたモノより大きく魅力的なため、思わず見とれてしまった。するとアカネが視線に気づき、俺の頭を両手でつかんで、視線を上へと上げさせる。

 

グキリと首から音が鳴って痛かった。その事を抗議しようとしたがアカネの目がこちらを睨む。獲物を見つけた猛禽類の目だ。本能的な恐怖を感じる。

 

「銃より、ムネが気になります? でも残念。目玉潰されたくなければ、大人しくこれからの言うことを聞くことです。OK?」

 

「オ、OK」

 

そんな恰好してるからだ と言いたいが、下手するとズドン、とされる気がした。おとなしくするのが正解だ。黙って、イヤーマフの機能を備えたヘッドセットなどをつける。

 

訓練は拳銃から始まり、M9を使い安全装置のかけ方や構え方などを教わった。持っている最中は緊張して、拳銃でも妙に重たく感じた。一通り教わり、一番近いマンターゲットを撃つように言われて試したが命中弾は0だった。

 

俺の射撃を見て、アカネが弾に近づきM9を握る手にアカネの手が触れる。

初めて触った女子の手に少しドキリとした。

 

「肩に力を入れすぎないで、右腕を突っぱり、左腕を引っ張って銃を固定してください。狙うのはマンターゲットの真ん中。そうすれば体のどこかに当たります。息を吸って少し吐いたところで息を止めて引き金をゆっくり引く……やってみてください」

 

指示通りに実行する、スウと空気を吸って少し吐いて息を止め、引き金をひく。

 

大きく乾いた音がしたのち、的を見る。的の右側に黒い点が見えた。命中だ。

 

何度か同じことを繰り返し、三発さらに命中させた。

 

「お見事。初心者にしては上手です」

 

アカネがほめる。美人に褒められ悪い気はしない。大きく息を吐き出して、緊張を解く。

 

「緊張しましたか?」

 

ああ、と答えて初めての銃の感想を述べる

 

「何というか凄く重い気がするよ……とても」

 

雰囲気が重くならないよう、出来るだけ笑って答えて見せた。

手に持つ黒い拳銃を見つめる。こんな小さなモノで人を殺せるというのだから、驚く。

 

映画や漫画のように振り回すには少々重すぎるように感じ、アレらはあくまで現実とは違うフィクションにすぎないのだと実感する。

 

「成程、ですが五反田君にはソイツの扱い方を学んでもらわないといけないんです。あまり、いい気持ちにはならないかもしれませんが……」

 

「でも、何で射撃訓練をするんだ? ISなら勝手に射撃の手助けしてくれんじゃないのか?」

 

一拍おいて、アカネはメガネを掛けなおして説明する。

 

「確かに、ISにはそういった補正を持っていますが……だからと言って、デタラメな構え方をすれば命中率は大きく下がるんです。例外もありますが、Rインダストリーの検証では両手でしっかり構えた方がISでは常識とされる二丁持ちよりも遥かに高い命中率を出し、ダメージ効率も遠距離と中距離なら二丁持ちと比べて大きな差はないと証明しています。いくら反動の制御をしてくれても正しく使わないと、せっかくの機能も台無しです。だから、こうして訓練プログラムの中に入ってるんです。ISのようなパワードスーツでは生身の動きを反映できますからね」

 

ほう と声をだして納得した。全くもって合理的と思えたからだ。生身の体の扱い方をISに生かす 戦車や戦闘機とは違うパワードスーツならではのやり方だ。

「それ以外にも理由はありますが、今はコレに集中しましょう」

 

納得したので、訓練に再度、集中する。

 

訓練の最後にアカネにお手本を見せてもらうように頼んだ。

 

アカネは喜んで引き受けてくれた。同じM9で同じ距離をこなした後 ついでと言わんばかりにM14ライフルによる射撃も見せてくれた。

 

狙って撃つスピードとすこぶる高い命中率に驚き、拍手でアカネを称えた。

 

 

 

 

三限目はユーリが先生役だ。

生身の使い方がISに直結すると言われた後なので、体術や基礎体力の向上などを行うことは予想できた。

 

地下一階はスポーツジムがそのまま入っている感じで、武道場まであった。

 

「来てさっそくだが、始めるぞ」

 

そういうと、準備体操をして体術をおそわる。システマという格闘術だそうだ。ユーリの動きをまね、時々手ほどきを受ける。

 

格闘術に縁がなかったので四苦八苦する。それでも、どうにかこなしていく。

 

かなりハードな内容に思ったがユーリは終始表情を変えなかった。初めて会ったときにも屈強そうに見えた彼のイメージはまさに正しかった。

 

トレーニングが終わると先ほどまで無言だったユーリが口を開いた。

 

 

「お前、ISを動かしたときどう思った?」

「最高の一言だよ。空をあんな早く飛んでさ、凄いんだ。」

 

唐突な質問だったが率直に答える。

 

「では銃はどう感じた。」

「どうって……重く感じた。後、少し怖かった……いきなり何でこんなことを聞く?」

 

こちらの正面を見据えてユーリは語りだした。

 

「ISと銃……どちらも同じ兵器だが、何故こうも違う感想が出るのか……考えてみろ。やることはどちらも大した差はない。相手に向かって引き金を引く。だというのに何故こうも違うか?」

「そりゃ、銃の方が直接人を撃つから危ない……?」

 

当然だと思っていた事を答えたが、何故かわからないが自信をもって答えられない。

 

「人間とは不思議な物で、例えば戦闘機で10機落としたものはエースパイロットと言われるが、銃剣で10人刺したと言えば狂人と言われる……何故だろうか? やってることはほぼ変わらない。使う道具のイメージによって物事の本質を失ってはいけない。」

 

ユーリは静かに語り、弾は注意深くその話を聞く。ユーリの話には奇妙な説得力があるように感じたためだ。

 

「この訓練では基礎体力の向上、体術の会得も目的だが、それ以上に力の上手な使い方を知ってもらう事が最重要と俺は考えている。素手でも危険ということを知れば、銃やISがいかに危険なのかを実感できるだろう。これを知ったうえで、これからの訓練に励むといい」

 

ユーリは語り終えると顔をタオルでふき、その場を後にしようとするが俺はそれを引き留めるように言葉を吐き出す。

 

「何だか、今日一日で思い知らされたよ。俺とお前達との差というかさ……何でお前達はそんなに多くの事を知っているんだ?銃とか格闘技なんかもそうだけど、それ以外にも全体的に大人びてるというか、卓越しているというか、そんな風に感じるんだ。」

 

ユーリはこちらに振り返らず立ち止まっている。何の反応もないが話を続ける。

 

「さっきのユーリの話だってそうさ。俺のミリオタ友達が似たようなことを前に言っていた。その時は全然気にもしなかったんだ、でも、ユーリの話にはなぜか確かな説得力を感じたんだ。なぜかはわからないけどな……ほかの二人も同じだった。」

 

Rインダストリー社が自分に先生役として三人を指名したときから、彼らがいかに優秀なのかは予想はしていた。確かに思った通りに優秀だったが、それにしても彼らの行動や言葉一つ一つにある説得力のような物に見えてしまい、彼らが自分と同年代にはとても思えなくなった。

 

全てにおいて手慣れすぎている。それらを見て、いくつかの好奇心が浮かぶ。彼らがそうまでして己を切磋琢磨に磨き上げたという事は目的がるからだ。ずっと前から求め続けている物があるはずだ。では一体何を求めているのか? また何故そうなったのか?

 

これらを知らずにはいられなかった。

 

「なあ、教えてくれ。お前たちの求めるものって何だ?どうしたら、俺はお前たちのようになれる?」

 

「……質問の多い奴だな。」

ようやくユーリが口を開くが、彼の表情は相変わらず変わらない。

 

「俺とお前では今までの人生が少し違う、だから俺はお前より少しだけ物の扱いが上手いだけだ。他の二人に関して俺からいう事はない……本人に聞いてくれ。それと、目的に関して言えば……俺にはない。」

 

「ない?……どういうことだよ?」

ユーリが答えようとして口を開くが言葉が出ない。言葉がみつからないようだ。

 

鉄仮面のような表情に少し陰りが見えたような気がしたので意外に感じた。

 

「……わからない」

 

一言残し、ユーリはその場を後にする。

煮え切らない気持ちだったが、これ以上聞くのはやめて、彼の後を追うことにした。

 

 

 

 

全ての訓練が終わった後、夕食の時間となり、ビル内の食堂へと足を運ぶ。大きなビルにも関わらず、人はほとんどいない。トレーに頼んだ焼肉定食を乗っけて席についたが、問題が起きた。

 

「ゥプ」

 

とにかく、がむしゃらに行われた訓練のせいで、食欲がわかないのだ。

今食べれば逆流する気がする。

 

「へばったかい?」

 

声を掛けてきたのはヴィンセントだ。その後ろにはアカネとユーリが続いてる。ローストチキンやマッシュポテトなど高カロリーの物を三人は皿いっぱいにもっている。

 

「食欲わかなくてな……。てか何か気持ち悪い……」

「頼むから、リバースするなよ。まあキツイのはわかる。アイツ等とは違うからな」

 

親指をアカネとユーリに向ける。

当の二人は全くもって普通に食べている。

 

「自分だけは繊細みたいな言い方ですね、ヴィンセント。」

「そうさ、僕と弾はガラス細工のように繊細なんだ。」

「……軟弱者め。」

「何だって猪女?」

 

互いにしばしにらみ合った。次の瞬間、互いの箸がお互いの料理に伸びアカネはヴィンセントのチキンを掴みとり、ヴィンセントはアカネのエビフライを箸でうまく掴めず取り損ねる。

 

「いただきます!」

 

チキンはアカネの口の中に放り込まれて視界から消えた。

ヴィンセントが取れなかったエビフライを悔み、悔しそうにテーブルを叩く。

 

「僕のチキンが畜生!」

「修業が足らんな」

 

横目で見ていたユーリがボソリとつぶやく。彼の箸にはエビフライが掴まれている。

 

「ちょっと、それ私のですよ!」

「悪いな」

「おのれ!」

 

近くにいた俺も気が付かなかった。手癖が相当悪いと見える。そんな三人の戯れを見て、少し気が落ち着いたせいか食欲が出た。

 

せっかくの食事なので、食べようと箸を動かすが、箸は虚空を切るだけ。皿に目をやると、焼肉定食の肉がゴッソリなくなるどころか、付け合わせの野菜すら無い。綺麗に平らげられた皿のみがピカピカに光っていた。

 

「ヴィンセントよお、焼肉定食だよな?、俺のメシは」

「そうだけど。」

「肉どころが野菜もない定食なんて、焼肉定食とは言わないんじゃねえかな。」

「……そうとも言う」

 

三人に目をやる、焼肉のたれが口に着いたヴィンセント。口の端から野菜がはみ出てるアカネ。

固く口を閉じたユーリ。彼らから出る結論は一つだ。

 

「言わねえよ、定食屋の倅なめんな! 全部食いやがって。」

「食い意地の張った奴だ。」

「どっちが!?」

 

 

 

 

夕食を一通り、食べ終え食堂でユーリを除く二人と駄弁っていた。各々好きな飲み物片手に休憩していた。いい機会なので、ユーリに言った質問を彼らにもしようと思ったので、レモネードで喉と口を湿らせて、二人に問いかけた。

 

「なあ、お二人さん。聞きたいことがある。」

 

二人が注意をこちらに向ける。ヴィンセントは興味津々に、アカネは意外そうなものを見た かのように。

 

「会って間もないけど、聞かせてくれ。お前達は何のために此処で働いてるんだ?」

「どうして、そんな事聞くんだ?」

 

足を組んでヴィンセントがさらに興が乗ったと言わんばかりに心なしか普段より、三割増しで笑顔になっている気がする。

 

「なんて言うか、お前達、手慣れすぎだしさ。さっき俺の焼肉取った時だって息ぴったりだし。いつから参加してるんだ? 後 何のためにやって来たんだ?」

 

アカネもヴィンセントも黙って聞き、じっくりと俺を見定めている。そんな視線のせいか、喉がカラカラになる。もう一度レモネードを口に含んで、話を続ける。

 

「俺はさ、自分と自分に対する評価を変えたい、ぐらいの小さな目的で来てる。正直笑われるかもしれない理由だろうよ。じゃあ、お前たちは何のために来たんだ?俺と同い年なのに俺よりも多くの事を知っている、そんなお前たちの目的が知りたいんだよ、俺は。……教えてくれないか?」

 

ダメで元々の質問だ。会って間もない人間に自分の人生の目標を話せるものは少ない。誰だって野次馬根性で聞かれたくはない。

 

しかも、企業内で夢を追っている彼らだ。彼らの目的が機密に抵触する可能性もなくはない。腕を組んで考え込んだヴィンセントがしばしの沈黙をやめ、口を開いた。

 

「まあ、色々話せないこともあるが、一つ言えるのは僕は人のために、ここで働いてる事かな」

 

懐に手を伸ばして、ヴィンセントはテーブルに写真が写った免許証のような物を置いた。

ヴィンセント・ロック テストパイロット 。15歳。

 

「見てのとおり、僕の名前はヴィンセント・ロック。実はいうとRインダストリーの御曹司だ。要するに世界的大金持ちの息子ってなるわけだ」

 

Rインダストリーの御曹司。それを聞くだけで、彼の人生は輝きに満ちているだろうことは容易に想像できた。

 

「でも、僕の目的は家の金や名前でどうにかなるものじゃないんだ。僕の目的は僕の手と企業全体の力が無ければ完遂しなんだ。だから、ここにいる……今言えるのはこれだけだ。」

 

すまない、と続けて頭を下げる。そう言い終わると、隣のアカネを肘でつつく。アカネはメガネを外し、一つため息を吐き言葉を発した。

 

「私も他人の為と言えばそうなのかもしれません。……私には憧れの人達がいた。その人たちがもう一度喝采を浴びる様な世の中にするために、私はこの計画に入ったのです。……悪いですけど私もこれ以上は言えませんね……」

 

こうして二人の目的が鮮明ではないものの判明した。共通しているのは誰かの為 という事だ。そして、ソレはRインダストリーの計画無しではどうにもならないことらしい。

大したものだ、と素直に思う。自分の為に入った俺とは大違いだ。この二人は俺なんかよりもずっと大人だ。自分がひどく矮小な人間に思えた。

 

俺は彼らに追いつけるだろうか? その問いの答えはいつになるかわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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