IS to family   作:ハナのTV

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疑似ではあるが、本当の意味で初の量産型ISであるバルドイーグルが左右から襲い掛かる。

二機とも、G3によく似たライフルを単発で発射していく。マズルフラッシュはの色から通常と同じと思われる。狙いは極めて正確だが、まだ操作に慣れきっていないせいか、ラプターの描く軌道には今一歩足りないというところだ。

 

「遅い!」

 

反撃としてパルスライフルでメロウ機を狙う。通常より早いライフル弾に驚愕の声を出しながらも、三発中二発回避し、一発が肩の装甲に命中し、甲高い金属の悲鳴がドーム内に響いた。

 

追撃しようとしたところに、ギャンブル機が匍匐飛行しながら、カバーに入った。

横からスライドするように割って入り込み、ライフル弾を連射しつつ、見向きもせずに後ろのメロウ機にマガジンを投げつけた。

メロウ機がそれを受け取り、再び攻撃に転じた。

そして、メロウ機の弾丸がラプターを掠めた。掠めたのは操縦ミスなどが原因ではない。

メロウ機のライフルの発射炎が青に変化しているのが原因だ。おそらく、マガジン内の弾種で使い分けているのだろう。

 

二機はそれぞれ、違う弾種で回避のタイミングをずらしにきた。

ギャンブル機が低速の通常弾で、適当に撃ち、メロウ機がパルスライフル弾で直撃を狙う。

どちらかを回避すれば、どちらかに当たるという堅実ながらセコイ方法で追い詰めに来る。

だが、この分野においては俺が先輩だ。

 

俺はウィングスラスターで後退から一気に攻めに転じた。この機体ならではの機動性で直角の軌道を描き、急上昇と急降下を繰り返し、二機の間を通り抜け、バック宙の要領で方向転換をしてがら空きな背中にパルスライフルと、軽機関銃のトゥーハンドで二機を撃つ。

二機は初歩的なステップ移動で回避と散開をして、ギャンブル機が右肩からマイクロミサ

イルを放ち、さらにメロウ機がライフルの構えを正し始めた。

 

迫るミサイルをミニバルカンで一蹴し、二機の間に位置しようと自分の位置に気を配ろうとしたが、弾幕を抜けたミサイルの一発を回避しようとしたところで、ミサイルをメロウ機が狙撃し、爆風で少し体勢が崩れる。

メロウ機に自分のライフルを渡して、ギャンブル機がククリ刀を手にして、飛翔する。

メロウ機は二丁のパルスライフルで火力支援をして、ギャンブル機への射撃を封じ込めに躍起になる。

 

「・・・ならこいつで!」

 

背部ミサイルをメロウ機に放つ。全弾計6発がメロウ機に向かって飛んでいく。

メロウ機は援護を中断してミニバルカンとライフルでこれらを迎撃していくが、左腕に被弾する。

 

そのわずかな隙に俺は残ったパルスライフル弾をギャンブルに撃ち、弾切れでクリップが排出される。軽機関銃も同時にフルオート射撃をすることで、接近を許すまいとするが、ギャンブル機は空いた手で強引にこれらを防いで凶刃を振るった。軽機関銃が綺麗に切り裂かれたが、視界が一瞬ふさがったギャンブル機の頭部に飛び蹴りを入れて視界を乱し、さらに左手にレーザーソードを呼び出して胴体を切り付けた。装甲を溶断したものの、浅く、奥のインナーフレームまで刃が届かなかったが、そのわずかな隙間に向かってミニバルカンを撃ちこみ、ダメージを広げていく。口径の小さいミニバルカンでも、至近距離で装甲も何もないところに撃てば、それなりに損傷はあたえられるはずだった。思ったほどの損傷を与えられなかったのは、ギャンブル機がわずかに胴体をそらしたからに他ならない。

 

「しゃらくさいんだよ!」

 

ククリ刀を乱暴に振り、ナイフで防ぐが刃が欠けだした。そしてメロウ機は乗って間もないにもかかわらず、クルット回り、サマーソルトキックを繰り出した。

地面に叩き落とされたのを、瞬時加速で地面に激突するのをギリギリで防ぐ。

防いだ俺に両手で逆にククリを持ち、ラプターの腹にめがけて黒一色の刀身を突き出してくる。

地面を転がるようにして、回避したところにライフル弾が迫る。まだ、メロウ機が健在な証だ。爆炎に包まれ、損傷したカメラアイでも狙いをつけてくるのは流石だ。

 

俺は横目で、爆風の中で生き残ったメロウ機も見た。左腕と肩の装甲を犠牲にして、インナーフレームをむき出しのグロテスクな状態にしているのを見て確信した。この二人は危機を感知するのが動物並みかそれ以上だ。

 

勘の鋭さが並大抵でなく。胴体などへの直撃をギリギリで防ぎに来ている。

生身の兵士として戦い、培ってきた経験によって得られる反射と戦場の勘。これらは確かに生身での戦闘の経験失くして得られないものだ。機体のスペックや自身の腕のみで戦えると信じているIS乗りにはない、待ちの戦法は自分を過大評価しない軍人らしい現実的思考だ。生き残りを重視した戦いだ。

 

以前有利なのは俺に違いないが、決定打に欠ける。この二人は俺がしびれを切らしてミスをするのを虎視眈々と待っている。腕で負けているのを承知の上で我慢勝負に持ち込み、

隙を見せたその瞬間に俺を喰らうつもりなのだ。

 

――――なら乗ってやる。

 

ククリ刀で、接近戦を挑むギャンブル機を蹴り飛ばし、メロウ機に勝負を仕掛ける。

メロウ機はスピードリロードを行って、弾薬の装填をすでに完了しており、双方に装填されたパルス弾で、交互に発砲する。その背後から、射線に被らないように接近してくるギャンブル機を確認する。

焦る俺がクリップをライフルに少し苦労しながら、装填しているのを見て好機と見たか、二機は連携をここぞとばかりに見せつける。二機の間に通信は行われていない。にもかかわらず、ギャンブル機はメロウ機の射線を正確に読んで接近し、一見ギャンブル機のことなど無視しているように見えるメロウ機の動きもお互いを知っていなければ不可能な行動だ。

 

メロウ機がゆっくりと照準を合わせる。彼を例えるなら、蛇だ。舌なめずりもせずに這いよるハンターだ。すぐ後ろを見れば、回避のタイミングを狙ってか、ギャンブル機が姿勢を低く構える。それはチーターが得物を見つけて構えるような明確な殺意を含んだ予備動作だった。そしてメロウ機が発砲し、俺が瞬時加速で回避すると、そのポイントめがけてギャンブル機が飛びついた。

 

俺はヒートナイフを地面に突き刺して、ブレーキの足しにしてギャンブルの飛びかかったポイントのはるか手前に制胴する。最大加速で突っ込んだギャンブルのバルドイーグルは思うように止まらずに着地し、無防備な背中をさらした。

そこに、リロードを終えたパルスライフルを全弾を直撃させて、ギャンブル機に撃墜判定が下った。

 

動作の止まったかに見えた俺にメロウ機がライフルを構えなおすが、彼は初歩的なミスをしていた。慣れない機体に慣れないライフル。それらに気を配ったせいか、残弾の管理にまで頭が回らなかったのだ。

 

「慣れないライフルは嫌いだよ!」

 

ライフルを投げ捨てたメロウ機は腰のラックから銃剣を取り出し、装着せずにそのままの状態で突貫する。

パルスライフルを拡張領域に仕舞ってレーザーソードを抜き放つ。こちらも真っ向から挑むが、相手の突貫には自暴自棄で行われるような気迫はないことに気付く。どこか、作為めいた動作が見られたからだ。

ここまで、生き残ることに重視した彼らがこんな事で自棄になるのはらしくない。

その回答は唐突に訪れた。メロウ機が銃剣を投げつけ、ワイヤーアンカーを射出して戦闘不能となったギャンブル機からククリ刀を回収したのだ。

一瞬のうちに間合いが広がったことを利用して、奇襲を仕掛けたというわけだ。

 

「なますにしてやる、小僧!」

「誰が?!」

 

そして、すれ違った。まるで、侍の居合のように、静かだが、苛烈な雰囲気が生まれて、

静寂が訪れた。モーター音一つしない鉛のドームの下。俺たちは互いに振り返らずに手元を見る。

 

「・・・・糞」

 

メロウ機が地に伏せた。その手には刃を両断されたククリ刀が握られていた。

だが、俺は生唾を飲んで、胸元を見る。いつの間にか握られていたもう一本の銃剣が確かに装甲に食い込んでいた。最初から、銃剣で仕留める気でいたのだ。最後まで、可能性に賭ける執着心、仕事と自分を全うする大人の男の姿だ。

それは山田先生や大場先生に通じるものがある。

ヴィンセントの手品を知らなければ、やられていたのはこちらだったかもしれない。

戦闘終了のブザーが鳴った。

俺は勝利と歴戦の兵士の執念を知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初の量産機のお披露目から、数時間が経過して次の日の射撃訓練の時間、いつも自分が使うM4カービン銃がなく、頭をかしげていると、後ろから、昨日の二人がやって来た。

カーゴパンツにTシャツのラフな格好をした二人は俺に木箱を寄越してきた。

 

「何ですか?コレ。」

「今日のお前の銃だよ。そいつで訓練するんだ。」

 

中を開けてみると、今時の銃器にはない木製のストックで、マガジンの出っ張りもないシンプルな造形のライフルだ。明らかに旧式のソレを見て、アカネがその名を口にした。

 

「M1ガーランド・・・そんな旧式を?」

「昨日見てたら、此奴がいいんじゃないかってな・・・弾、しばらくコイツを使ってみろ。

あのパルスライフルと使い方は一緒だ、これで体を慣れさせろ。」

 

ギャンブルがメロウを指さして言った。メロウは射撃手として、優秀が故に気づいたらしい。

 

「昨日のお前の使い方を見て思ったんだよ。弾数の割にやたら、撃つしリロードも少し遅く見えた。まあ、今時グリップなんて流行でもないし、仕方ないが・・・・・とにかくコイツで癖をつけるんだ。いいな?」

 

「ありがとうございます。」

 

頭を下げて礼をすると、メロウは照れ臭そうに頭を掻いて、煙草を火をつけずに口にくわえた。

 

「いいんだよ、機体の方はお前が先輩だが、コッチは俺が先輩だからな。だから、色々手取り足取り教えてくれよ、先輩?」

 

ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて、二人は自分の持ち場へと戻って行った。

俺はガーランドを持ち、構える。旧型のライフル故に、長く思いが、木製の温かみを感じられるデザインだ。クラシックとも言える。

 

試しに、標的に向けて、撃つ。元々米軍兵士用のため弾丸も大きく反動が大きい。数発撃つと、クリップが排出されて甲高い綺麗な音が響いた。その時、周りの銃声が一斉にやんだ。見渡すと、俺を皆が物珍しい顔で見ていた。

周りのマンバーはともかく、PMC達もその音を聞いて、振り向いた。

そして、俺の得物を見るやいなや、笑った。

 

「ガーランド・・・そうか、君は儀仗隊だな」

 

少し太った髭ずらのオペレーターが冗談めかして言う。

周りもその冗談に乗り、笑い出し、一人が儀仗隊にあやかってアメリカ国歌を歌いだし、悪乗りしたヴィンセントやオペレーターたちも歌い、大合唱となった。

俺もアカネもつられて見様見真似で歌っていると、スピーカーから声が流れた。

老人のモノだった。

 

「誰が、パレードをしろと言った。余計なことをせんでいいから集中しろ。あと、ロイシュナー!ガーランドを侮辱するとはいい度胸だ。700m離れたところに貴様を置いて試してやってもいいんだぞ?」

 

「冗談じゃない! ハゲ爺!」

 

スピーカーに向かって中指を立てる髭おやじに反応して老人はさらに毒舌を吐く。

二人のやり取りが会場内でウケて、さらに爆笑が湧き上がった。

世間的には誇れるような仕事ではない、PMC いわゆる傭兵稼業に俺は多少色眼鏡を掛けてみていたが、こうしてみると普通の人と何ら変わりないように見える。

 

しかも、ここにいる大半がロイ曰く、切り捨てられた者たちだ。それゆえに国籍はバラバラだ。身分証でもある首から下げたIDカードには出身国の国旗が書かれているが、その国旗は多種に及ぶ。アメリカ、イギリス、フランスに南アフリカ。中には日本人もいた。

そんな世間に大きな恨みを持っているに違いない彼らは普通に仕事をして笑っている。

 

これがアカネの言っていた、理想の、憧れの兵士なのだろう。確かにわが学園に在籍しているドイツ軍人と比べると、その差は大きく見える。

ラウラの場合は生まれが特殊と言う面もあるが、彼らと彼女なら、俺は前者を選ぶ。

 

IS乗りは特別なエリートではない。それを知ったうえで俺は進まなくてはならないだろう。

その意味で、山田先生はその最たる存在だ。あれだけ、実績と実力をもちながら少しも自尊心の足しにしないのだから。

 

俺も彼女や彼らのように、気高くありたい。少なくとも納得のいく人間にはなりたい。

専用機を持つという責務だけでない、プランの一つの柱としての責任もある。彼らを貶めるようなことだけは避けなくてはならない。

ガーランドを握りしめ、一つ深呼吸をする。引き金を引き絞って目の前のことに集中した。

弾丸は標的の真ん中を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荒野の垢っぽく見える大地の中で、乾いた風に吹かれながら私は集中する。

スコープを覗き、目測で約700m先の標的を見つめる。M14やM21と似ているが、なじみのないレミントンM24のストックを握りしめ、呼吸を整える。

隣で観測用の望遠鏡をのぞいているのは教官役のオペレーターだ。齢50になろうとしている老兵が望遠鏡をのぞき、私の腕を見ようとしている。

東からの風、狙撃に影響するほどの強風ではないが、少し着弾点がずれる、と危惧し

レティクルの十字線を標的から少しずらす。

 

人差指をトリガーガードから引き金にかけて、風が弱くなるのを待つ。少しでもリスクは減らしたい。標的は通常のモノより二回り小さくした特殊なものであるため、少しのずれでも外れる。

ハヤブサに乗っているときとは違い、パワーアシストも、弾道予測もない。すべて自分で行わなくてはならない。経験とデータを基に、計算し、時には勘任せに撃つこともある。

 

風が弱まった瞬間、引き金を羽毛を抱きしめるような繊細さで、引いて重く臓腑にまで響く銃声がとどろく。

 

着弾をスコープで確認し、息を深く吐き出した。

 

「命中、だがギリギリのところだな。ジャンキーの兵隊なら元気で走り回っているだろう。」

「落第ですか?」

「殉教者相手ならそうだが、標的なら 可 というところだ。」

 

伏せの状態を解除し、その場に座り込む。地面に寝そべっていたため胸を圧迫し続けて、呼吸が苦しく思えたため、この時間はいつもありがたく感じる。

 

「しかし、君はマークスマンのはずだ。ここまで、精密な狙撃は必要ないはずだろう?

IS相手に狙撃は意味をなさないのだから」

 

「そうもいかないのです。レーガンさん。私には必要なんです。」

老兵レーガンは帽子を脱ぎ、禿げ上がった頭を掻きながら言った。彼の言う通り、ISに狙撃はあまり意味をなさない。おなじIS同士で戦闘する場合は大抵高速戦になるし、そもそもシールドがあるが故に一撃で相手を葬ることができない。

初弾が当たろうと、外れようと関係なく位置がばれるのは確実で、その後は包囲されるか、熾烈な砲撃の的にされて、泣いて喚いてさようなら、デッドエンドしかない。

 

一撃でISを撃破するとなれば機動力は激減するだろうし、セシリアのブルーティアーズの様なモノでは威力不足だ。

故に私がスナイパーではなくマークスマンなのだ。一撃で倒せないなら、死ぬまで正確に撃ち抜けばいい。今まではそれでうまくいっていたが、福音戦や、ラウラの暴走の時の私は無様だ。一撃で大きな損傷を与えられず、その後の行動の自由を許してしまっている。

今の私には、さらなる射撃の腕が必要だ。完ぺきな支援と一撃、私にはこれらが求められるのだ。

 

「外した射撃こそ忘れられない・・・今ならその言葉の意味がわかります。次は外せない、外したくないんです・・・それだけです。」

 

拾ってもらえたあの日から、私はM14の銃床に触れてきた。私を救ったあの人の得物だった。私は幾度と武勇伝を聞いた。それが子守歌で絵本の代わりだった。現地の人を救い、交流しつつも、職務を全うする、そんな英雄譚とその人に憧れて、私はこの世界に入ろうとした。一時期には復讐めいた動機にもなりかけたが、彼の言葉と弾やヴィンセント、ユーリのおかげで私は夢を追うことができている。

夢と彼らのためにも、私には技術が必要だ。

二度と、彼らを侮辱するような発言はさせない。そんな野郎の頭に特大の徹甲弾で正確にお見舞いさせてやる。

私の独自を聞いてレーガンがほほ笑んだ。

 

「・・・らしくなってきたじゃないか」

「兵士にですか?」

「いや、女らしくなった」

ドキッとして、ライフルを手から落としてしまう。完全に意表を突かれて、私はアタフタとしてしまった。

 

「いきなり何ですか?!」

「君が努力するのはいつだって他人が絡むからな・・・曹長にも見せてあげたかったよ。今の君を」

 

曹長。それがあの人の階級だ。レーガンは曹長の戦友で、親友だった。

彼もまた私の憧れだ。たとえ、地の底に落とされても戦う男の一人だ。

パイプをくわえながら、彼が口を開いた。

 

「とりあえずだ、平常心と忍耐力だよ、アカネ。もう一度だ。」

「ハイッ」

 

ライフルを構えなおし、見つめる。次はど真ん中に、と願かけて引き金に指を近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三体のバルドイーグルが迫る。互いにカバーをしながら、ナイフしか持たないマーダに向けて面と点による制圧射撃を行う。一番機がショットガンを、二番機、三番機がライフルを構えて突貫を妨害する。

センサージャックと持ち前の運動性で回避しつつも、相手に取り付けないことに俺は苛立つ。何度となく繰り返された動きに俺自身の体力が持たず、俺の頭に思い描いた理想的な軌道が描けずにいる。

 

だが、己を追い込まない鍛錬に意味はない。数時間と接近と後退を何度も行う内に相手も疲弊する。その瞬間を待つだけだ。

俺にとって戦場は生きれる場所だ。弾丸が掠め、相手の必死な表情を見つめて朱に染めていくことこそが俺の生の証だった。

ただ、任務に従うのみの俺に許された自由。その自由にすがって俺は物心ついたころから戦ってきた。しかし、それは変わった。たった一言の任務が言い渡されて俺は途方に暮れた。Rインダストリーに従い、学園に行け。 それは俺を戦いから遠ざけるのと同じに思えた。従うだけの俺に初めて自主的に動くことを余儀なくされた。ヴィンセントやアカネとはうまくいった。彼らは言い方を変えれば戦友だからだ。その点は弾も同じと言える。

彼らとの交流は最初は面倒に思えたが、今思うとアレは必要だった。

 

学園に入って俺はひたすらヴィンセントの真似事をすることでやり過ごしてきた。

所詮、学園など遊び場にすぎない、そう考えていた。

男を見下すことで、自分の無能さを隠す者、セイフティもかけずにIS訓練をする危機感の無さ。それらをほめたたえる教師たち。すべてがお遊びに見えた。

簪との生活でそれも変わった。俺は彼女と関わって日常の楽しさを知った。

普通に生きることに生きている実感が確かなものに思えたのも彼女のおかげだろう。

 

 

彼女はお世辞にも強い人間ではない。むしろ、その逆の人間だ。姉に対する劣等感や、明らかに格下の者の陰口におびえて、空想に逃げている少女だった。

だが、それは間違いだった。彼女には意思がある。たった一つの出来事で己を強くできる意思。それだけでの事で、今までの負の感情をばねにして立ち上がった彼女の姿は気高く、強く、美しかった。

空っぽな俺とは違って

 

 

反対に俺はどうだろうか。俺は変わりつつあったが俺に意思はあるのだろうか。

俺が、彼女に微笑むのも、今こうして鍛錬しているのも俺の意思によるものなのか、プランに忠実なだけなのか未だに判断がつかないでいる。

だからこそ、俺は俺を追い込む。意思によるなら、俺は限界を超えられる。

そう信じて、俺はマーダーを駆る。

答えは俺の中にあるか、ないのか、ただそれだけを求めるのだ。そして、それが俺の医師であるのなら、彼らと共にあるために自らを律し、鍛えなくてはならない。

いつぞやの連中に俺と俺の同胞たちを嘲笑った彼らに本当の意思を見せつけるために・・・・

前衛のバルドイーグルがリロードをするのを見て、イメージする。

俺はマーダーを飛翔させて、ナイフを振るう。

意思によって、刃と精神を砥いでいく、そんな錯覚を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Rインダストリー本社、会議室へとつながる廊下を僕は歩く。隣にいるロイがちらりと僕のスーツ姿を見て聞いてきた。

 

「いいのかね、訓練の方は?」

「そっちは居残り補習を申し込んだため問題ないかと思うよ」

「そうか・・・・それにしても、君が会議に出席とは珍しいな」

 

ロイが少しおどけて見せる。それもそのはずかもしれない。僕が会議に出ることはほとんどなかったのだから。無論、そこまでの地位にない。いくらテストパイロットとは言え、ハイスクールの子供相手に意見を聞くのは愚かと言えるだろう。

しかし、今回は違う。僕はロイに頼んで会議に出席することの許可を得た。

 

「予算を少し増やしてもらわないと、気持ちよく戦えない。僕が戦略面でも彼らをサポートしないと、いけないでしょ?」

 

戦闘においての指揮が戦術とするなら、そこにたどり着くまでの環境づくりは戦略だ。

万全なバックアップと新装備、新兵器の導入。明確な立場の形成。これらによって戦場に立つ前から勝つのが理想と言うものだ。

弾のセリフでソレを思い出した。現場に立っていると、多忙さで忘れそうになるのがイケないことだ。

 

福音戦の時、僕らには準備が欠けていた。もう少し、そこにまで頭を回しておけば、急造品で戦うことも、グレイイーグルを発電機代わりにすることも無かったはずだ。

付け加えるなら、嘗めた発言だってさせなかったに違いない。

今の僕は戦闘技術だけではなく、こうした補給などの裏方にも十二分に配慮しなくてはならないのだ。

過去、これを軽視して勝った軍隊も国家も存在しない、賢者は歴史に学ぶのだ。

 

「君がそうして、こっちの業務に付き合ってもらえるのはこちらとしても助かる。どうも、資料だけでは首を縦に振らないのが多くてね。」

「大企業も財布のひもは固いってことだね」

「全くだ。開けゴマ、と言うには現場の者の意見が必要だ。頼んだぞ、ヴィンセント。」

 

白い歯をキラリと輝かせて、片目でウィンクをして信頼していると暗に伝える。昔から茶目っ気のある人だけあって、こういう時の励ましは助かる。

これから話す相手方は頭は固くとも、実力と狡猾さにおいては化け物クラスだ。熾烈な競争を勝ち抜いてきた猛者相手に僕はプランの有用性とピースの実用性を訴えなくてはならない。

 

援護してくれるのはロイの含めてたった数名。対するは20名以上の相手。

だが、ひるんでもいられない。弾たちが後方を気にするような状況にさせないためにも、

僕自身の夢のためにも、果敢に進まなくてはならない。

それが、リーダーと言われた僕の責任と仕事だ。

 

待機状態でもあるロレックスを模した腕時計を見る。時刻は会議開始の二分前を示している。

―――――時間だな

深呼吸をして、首を鳴らして扉の前に立つ。勝負はテーブルに着いた時から始まる、という言葉は賭け事に関してのセリフだが、ここでも同じだ。

僕は扉を開いた。

開けゴマ、と念を掛けながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長きに渡る訓練も一か月近くたち、夏休みも10程度を残すこととなった、その日は

午前から、いきなり模擬戦用のドームに来るように言われて、全員がそこに集った。

各々、機体を纏い対戦相手の登場を待つ。

ヴィンセントの苦労の甲斐あって予算が増えたことで、装備に幅が出たことで俺たちは少し浮かれていた。

また、訓練の成果を見せつける絶好の機会だと考えていたため、相手が来るのを今か、今か、と待ち望む。そんな様子を見てアカネが言った。

 

「楽しめなのはわかりますが、少し落ち着いては?」

「すまないな。でも、いい機会ってのには同意だろ?」

「確かに」

 

ハヤブサのモノアイがギョロッとラプターから相手側のカタパルトの方へと移る。

しかし、未だにカタパルトが起動する気配はない。こうまで遅いと少し不安になるくらいだ。

 

「戦いの前の静けさってやつかな?」

「訓練とは言え、静かすぎるほどだ・・・・」

 

ユーリとヴィンセントが話している。ヴィンっセントは冗談半分に、ユーリは警戒心を微かに露わにしている。

時計を見ると、開始時刻から1分が経過。だが、送れる等の連絡はない。

 

 

「・・・・遅いな」

 

ヴィンセントが小さくつぶやいて、イーグルのレンズターレットを回転させ、周りを見渡す。だが、何の反応も見られないようで、頭をかしげる。

時間にはうるさいPMCオペレーターが遅刻するとは思いにくい。

遅れただけでメニューを増やすようなサディスティックな連中ばかりなのだから、開始時刻五分過ぎになっても来ないというのには不自然にも思えた。

ユーリに話しかけようとしたところ、ユーリは口元に人差指を当てて、静かにするように言い、さらに耳の部分を叩いた。

 

ヴィンセントが集音マイクを使い、彼の提言に従った。

アカネもそれに続き、俺もそうした。

すると、微かな音が聞こえた。

小さく蚊の鳴くような音にも聞こえるが、これには聞き覚えがあった。

それは明らかにバルドイーグルの超伝導モーターの音だった。

 

「そういうことか、全機! 周囲に弾をばら撒け! ぶっつけ本番だ!」

 

一斉に火器を出現させ、360度全方位に向けて、発砲すると何発か装甲を叩き金属同士がぶつかる音が響いた。

すると、何もなかったはずの空間からバルドイーグルが姿を現した。その数12機。

半包囲されつつある状況下にあった。

本日の訓練はぶっつけ本番だ。相手の装備を確認することも、こちらの作戦を練る時間すらないまま、戦闘が開始される。

 

グレイイーグルが機関砲とミサイルの掃射で半包囲に穴を作り、ユーリが、そこから脱出するも、アカネと俺は間に合わず、その場で釘づけにされてしまった。

最初とは違い、バルドイーグルの動きは洗練されており、回避行動も、隊形を維持した飛行も見事なものになっていた。

 

最初から彼らは潜んでいたのだ。未だ俺たちのどの機体にも装備されてない光学迷彩を纏って機をうかがっていた。意地の悪いことに、俺たちが気づくまで待っていたというのだ。

俺はラプターを操り、飛翔する。曳光弾とパルス弾の危険な輝きの中を縫うようにして空を駆ける。

全てがリアルタイムで行わる極限のシチュエーション。

今までの訓練の成果を全て試そうというのだ。

 

――――上等だ。やってやる。

 

この分野なら俺たちが先輩だ

数の差も、経験の差も全てひっくり返して叩きのめしてやる。

 




シリアスも残りわすかな夏休み編
亀のように遅い更新ですが、よろしくお願いします

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