IS to family   作:ハナのTV

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間話です。


休暇は彼の元で?

中華人民共和国と言うのは私にとって第二の故郷だ。日本で長いこと住んでいたために、彼方の方がアタシとしては故郷なのだが、私の母と父が離婚してからというもの、こっちで暮らしている分もあり、母の故郷でもあるのだから、これは間違っていないだろう。

中華人民共和国IS代表候補生として、言うべきではないのはわかってるがアタシはこの国が好きではない。

多すぎる人に、腐った匂い立ちこめる制服を着た連中。母の裏切りの土地。

 

正直言ってロクな思い出がない。

 

最近行った訓練も、散々だ。どっちを向いても腕前でなく、コネや不正ばかりだ。こちらの整備員に金を渡して、甲龍を不調にしようとたくらむ者すらいた。それらすべてを倒せるほど腕前が上がっていたのには自分でも驚いた。

訓練で来たのはよろしいが、いい加減にウンザリしてきたので、とっとと休暇を頂いて、どこか行こうと考え、着慣れない制服の袖を通し、廊下を歩く。

 

そして、アタシが今向かっているのが候補生管理官室。あの神経質そうな眼鏡のうっとおしいのと会うのは正直言って苦痛だが、アタシの上司だ。せいぜい、適当に脅しと媚を七対三で合わせて舌を動かせば、首を縦に振るだろう。

 

そう思いつつ扉を開けると、そこにいたのは違う人物だ。丸々と太ってはいるが人柄のよさそうな顔をしており、制服を着てなければ定食屋かラーメン屋の親父にしか見えない中年の男性が候補生管理官と書かれた札のある机に座っている。

 

「やあ、凰 鈴音 候補生。私は今日から君の上司となった 周だ。 以後よろしく」

「・・・・楊 麗々管理官は?」

 

結果はわかりきっているが、一応聞いてみることにした。

アタシが尋ねると、男はわざとらしい泣きまねを見せて、声こそ悲痛に聞こえるが、顔は笑っているという、下種な一面を見せながら答えた。

 

「可愛そうに、査察で問題があったらしく・・・・今頃は・・・おお怖い、怖い」

 

事象を察したアタシはそれに関しては何も言わずに自分の要求について聞くことにした。

こんなことはよくあることだ。

 

「で、何か用があるんだろう?言ってみたまえ」

「・・・休暇を頂きたいのですが・・・」

 

男の返答に何と言ってやろうか、と考えたが、男は笑顔で答えた。

 

「ああ、取るといい。君の成績は優秀だし、私としても休暇は出そうと思っていたところだからね。どうぞご自由に」

 

あっさりと受領され、背筋に冷たいものが走る悪寒にさらされる。一体、どんな心境の変化だろうか。

周は甲高い声を上げて、こちらの様子をうかがう。

 

「ん? どうしたの? 嬉しくない?」

「いえ、受領には感謝してます。では、これで」

 

細かく聞かない方がいい。それがアタシがここにきて学んだルールだ。連中の思惑を知ったところでこちらに利はない。向うから来ない限りは手出しはしない、寝た子は起こさないが吉だ。

 

「ああ、そうだ。一つ言いたいことがあった。」

「・・・何か?」

「土産はいらないよ。アメリカ土産は特にね」

 

私は聞かなかったことにして部屋を出た。扉を閉めて、その向こう側にいる男めがけて中指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二の故郷を飛び出して、とりあえず日本に来てみたが、モノの見事に連中がいない。

IS学園まで帰って来たというのに、いたのはレジスタンス達と山田先生だけ。

話を聞いてみると、ヴィンセント達はRインダストリー本社の方へと行ったらしい。

彼らの薄情さには若干腹を立てたが、事情もあることだろうし、すぐさまアメリカに行くことに決めて自分に気合を入れる。

 

 

好奇心半分で山田先生に大場先生の居場所を聞くと目からコントラストが消えた瞳で暗い顔で山田先生は答えた。

 

「大場先生なら・・・審判の場所に・・・」

 

何のことだがさっぱりわからず、頭の上にクエッションマークを出していると、同じクラスのティナが教えてくれた。心なしか、どこか哀れみめいた顔で。

 

「お見合いよ、お見合い。 大場先生、あれで28だし・・・山田先生も・・」

 

話をつづける前に、山田先生からの圧力を受けて、ティナは自分の舌をひっこめた。

色々と、衝撃的な事実が露わになって、呆気にとられた。確かに、元自衛官とは言ってはいたので、それなりに歳は食っているだろうと思っていたが、28とは思わなかった。

意外と年増なのだなと思う。

 

そして、結婚願望もあったのかとも思う。彼女はどう考えても、男なんて要らない人種だ。

 

二、三人の強盗が来ても、一瞬で倒してしまうと思われる。

 

その時、後ろで携帯電話が鳴った。山田先生が暗く、それはもう奈落の底のように、暗い表情で近くにあった木箱に腰かけて電話に出た。

 

「もしもし・・・・お母さん」

『真耶?アナタ、この間、お見合いの写真送って、何の返事もないけどどうなってるの?』

 

電話の相手は母らしく、普段の性格のせいか、焦りのせいか。スピーカフォンで丸聞こえになっているのに全く気付いていない。

 

「その、私はお断りしようと・・・」

『またぁ? アナタこの前もそうだったじゃない? もう、真耶だってすぐに30行くのよ? そんな、いい年になってスクール水着みたいの着て、しかもニーソックスみたいな物も着ちゃって・・・・』

 

その場で訊いてる誰もが、ギクリと来た。言われてみれば、その通りだ。これから先、ISに関わるとなると、その水着を着なくてはならないのだ。

そして、一つの事実が出てくる。その山田先生より年上の先生の立場はどうなるのか、と。

 

「仕事なんだから仕方ないじゃないっ」

 

山田先生が必死の反論をする。この場にいる者たちが、それを応援する。これはIS乗りとしては死活問題だるし、レジスタンスの指導者&貴方の同僚がなんか、酷く聞こえてしまう。

アタシも含めて、皆が無言でエールを送る。

 

『言い訳すんじゃないよ~。 雑誌なんかでアンタとか、後 大場? だったかしら?

の写真見たわよ。 もう見てられないわよ。特に大場って娘。 三十近くになってもコレをつけているのよ。真耶もこうなったらオシマイよ。オシマイ こんな体むき出しみたいな・・・』

 

ついにクリティカルヒットした。名指しでの一撃に山田先生も心が折れた。

がくりと、膝をついて消えるような小さな声で同僚に謝罪する。

横目でソレを見て、撤退を開始すると、木箱の裏に人影に気付いた。影を見ると、ちょうど人ひとりが座り込んでいるぐらいの高さだ。

アタシは恐る恐るその影を見に行った。本能が見るべきではないと警鐘を鳴らしたが、アタシは見に行ってしまった。

その人物の正体は体育座りをしていた・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

50分前の記憶を忘れることにして、空港に向かうべくタクシーに乗っていると、窓から街を何となく眺めた。ショーウィンドの中のマネキンが着ている服を見ているアタシと同年代の女の子たちに目が行った。

 

思えば、ISに関わるようになって同年代の友人は学園に行くまでいなかった。周りの女の子たちは出世欲と名誉欲に目をギラつかせていてお友達になれる雰囲気ではなかった。皆が敵で、服も同じ制服でお洒落のかけらも見いだせなかった。

 

学園に来て、それも変わった。思い描いていたのとだいぶ違ったが。行くまでは、一夏と付き合って、恋をして、友達も作っていく。そんな青春を夢見ていた。

でも、最初からそれは崩れたし、さらに心を折られることがあった。

 

プラチナブロンドの髪のいけ好かなかったアイツだ。いかにも、坊ちゃんだと思ったソイツはアタシを初めて負かした。最初は嫌な奴でしかなかった。ニタニタと笑い、思惑を隠す仮面のような顔に、芝居がかった話し方。でも、それこそが仮面だったかもしれないとおもいだした。中国で出会った誰よりも強欲で、やさしかった。一夏ではなく、その男 ヴィンセントによってアタシの青春は成ったといっていい。

前からの悪友の弾。 乙女な射撃屋 アカネ ムッツリアサシン ユーリ、レジスタンス達、大人しめの簪。 ここまで交友関係が広がるとは思わなかった。

フッと頬が緩んだ。楽しい学園生活だ、喜ばないわけはない。

 

しかし、いいことばかりでもない。異常なまでの暴走事件や襲撃の多さ、それもどの事件に共通しているのはISを殺せるということと、何故か一夏がかかわっている。

それだけで、アタシたちは前の福音戦で死にかけたあげく、一夏がどんどん、別の人間に変わってきているためか、中学のころとは想像できない発言すらするようになっている。

 

こんな事ばかり起こっている以上、学園が居場所でなくなることすらあるかもしれない。

 

それがたまらなく怖い。また、一人になるのが本当に恐ろしい。

それが嫌で、訓練をした。そうなるのが怖いから、ヴィンセントの元へ行こうとする。

せめて、思い出だけでも作っておきたいのだ。

 

「せめて、一言ぐらい言いなさいよね、たくッ」

 

一人文句を言っていると、疑問が突然浮かんだ。こんな気持ちになっているのはアタシ一人ではないはずだ。

 

簪もアタシと似たような境遇だったはずだ。あの娘は家系が特殊らしく、家庭では一人だと言っていた。アタシがヴィンセントの元に行くのはいいとして、簪はどうしているんだろう?

 

彼女がユーリに首ったけなのは知っているが今、何をしているのだろう。

ユーリの元に行ったのだろうか。

携帯電話を操作する。電話帳から彼女のデータを出して、電話を掛けた。

案外、近くに居たりして、と思いながら

 

 

 

 

 

 

 

 

見目麗しい女性に高級なスーツに身を包んだ男たちがシャンパングラスを手に持って歓談する。立食形式の実に飾り付けられた料理の山があるテーブルの間を一人歩いて

私はため息をつく。

 

ハッキリ言って退屈で、不快なパーテイだった。このパーテイは要するに更識家の権力拡大と利権獲得のためのものだ。私が役に立つのがこれしかないという説明まで聞いて、コンタクトレンズに変えて、黒のパーティドレスまで着せられて、笑顔を振りまくのが仕事らしい。

 

そう指示するのが、布仏 正義だ。本音の従兄にあたるらしいが、何かと、私の警護や世話にこぎつけて小言と指示をしてくる男で、私を完全に見下している。

そのくせ、仕事は半人前以下なのだから、たちが悪い。

これだけなら、腹の内にためて、後で発散すればいいだろう。そのための道具もあるし、今までこんな事なかった訳ではない。しかし、目の前の倉持技研の人たちは話は別だ。さすがに怒りを露わにしそうにな。

 

「・・・弐式を返却しろ、と?」

「一時期の話です。我々は今までの非礼をわびて、弐式を完全なものに・・」

「もう完成したので、結構です。」

 

さらりと言って帰ろうとしたところを止められる。それも手を握って止めるという不躾な方法で。

技研の人たちは焦りながらも、事情と言い訳を渡しに述べていく。それが私の癇に障ることぐらい理解してほしい。

 

「・・・離してください。」

「簪さん、我々としても弐式が不完全なもののままでいるのは忍びないのです。それに貴方は力を欲していると聞く。我々の利害は一致しているはずです。開発主任には篝火 ヒカルノ も着きますので・・」

 

ここで一つ思考の海へと潜る。まず、私がこの案を受けるべきかどうか、だ。答えはノーだ。機体そのものは今ので満足している。扱いやすいホーミングレーザーに打鉄との共通パーツを増やしたことによって整備性とカスタムのしやすさを両立しているからだ。

この機体のどこを変えようというのか。むしろ、今、彼らに渡して継戦能力の低下が予測される。

 

それに、また一から機体のコツをつかむ手間を考えれば、デメリットだらけだ。

 

第二に、技研と手を結ぶメリットだ。これは私にとってないと言っていい。家の問題に過ぎない。そのために私が生贄にされなくてはならない理由が一体どこにあるというの?

 

馬鹿馬鹿しい、というより、馬鹿にしてる。散々私を振り回しておいてこの態度には腹が立つ。

 

以前の私なら断れなかったかもしれない。でも私は昔とは違う。

 

空想に逃げ込むか弱い女の子のままではいられない、彼の隣に立てないからだ。

いつまでも変わらないと思われては困る。

 

思考の海の中を漂っていると、不意に肘でつつかれた。

正義だった。

 

「何をしている。さっさとYESというんだ。」

私は彼の言葉に従うふりをして、答えた。

 

「はい・・・お断りします。 私、二流の技研には愛想が尽きてしまったので、Rインダストリーの方に行こうと思います。それでは・・」

 

スカートの裾をつかんでぺこり、と頭を下げて、呆然とする彼らをおいて、その場を去る。

 

通りすがりのボーイからノンアルコールドリンクをもらって喉を潤す。

素直になるだけで、こんなにも気持ちがいいとは思わなかった。スーっと胸が軽くなった爽快感に浸っていると、正義が駆け寄って来た。

 

「どういうつもりだ?! 技研の方々にあのような・・・大体君の機体なんてどうなったていいだろ?」

 

小声で怒声を放つ彼に私は人差指で彼の口元を押さえて、気分の良さついでにこの男にも言いたいことを言うことした。

 

「私にとっては家はどうでもいい。 家のことは任せますから、巻き込まないでくれると助かります・・・・では失礼」

 

半分はアニメのマネだが、上手くいった。突然の反論に頭がついていけてない男を少し嘲笑気味で見ていると、携帯が鳴った。着信を見てみると鈴からだった。

会場からいったん出ることにして、人をかき分けて扉の向こうに出て、電話に出た。

 

「もしもし、鈴?」

『ヤッホー、久しぶりね。 今何してる?』

 

鈴の元気そうな声を久しぶりに聞いて嬉しく思いつつも、その冗談に答える。

 

「・・・ご機嫌取りのお人形さんかな。」

『・・・それはご愁傷様ね。 どこもやることは変わらないのね。』

「私もそう思う。」

 

私も彼女も同時にため息をついた。IS乗りは乗っているだけが仕事ではない。モデルのようなこともしなくてはならないし、酷い時には身売りに近いこともするという。

女尊男卑だというのに、以前の男尊女卑のように、見世物にされているのはいかがなものか、と思う。

 

確かに例外もなくはない。イギリスでは代表クラスの実力を持ちながら、モデルになるためのステータスとしてISを利用したという変わり者がいたらしい。その人にとってISはその程度のものだったらしい。だが、例外は例外。

私にはとてもできない真似だ。

 

「鈴はどうしてるの? ヴィンセント君の所に行ったの?」

『これから行くとこよ。アンタも行かない? ・・・ユーリもいるわよ。』

「・・・からかわないでよ、もう」

 

愉快そうに笑う鈴に頬を膨らませて抗議する。こんな冗談を言ってくれる友達がいてくれるだけで、楽しい。彼女の言う通り、私も行きたいが抜け出す機会がない。

そのことが口惜しくてたまらない。

 

『でも、どこにいるの? 本当に』

「帝京パレスっていう所だけど・・」

『回転ドアがある、金ぴかの玄関の?』

 

驚いたことに彼女の言っていることは正解だった。来たことがあるのか、それとも近くに居るのか

 

「そう、ひょっとして近くに居るの?」

『・・・・アタシの目の前だわ すごい偶然・・・・で、来る?』

 

腕時計を見て、私は答えた。

 

「七分待って」

『OK!』

 

携帯を仕舞い、化粧室へと走りコンタクトレンズを外し、メガネに変える。このメガネは弐式の情報処理を利用し簡易のレーダ―代わりになる。また、自分だけにしか見えないため隠匿性が高い。舞い降りてきた機会。大っ嫌いな姉にも、家の人間からにも逃げ出すチャンス。ユーリに会いに行けるこの機会を逃すわけにいかない。

高い品であるヒールを折って、走りやすくして化粧室を出ると、またしても例の男がいた。

なにもかも、お見通しだと言わんばかりの笑みを浮かべて舌を動かす。

 

「簪、君のやりたいことなどお見通しだ。子供が大人に・・・」

 

セリフを聞き終える前に、弁慶の泣き所を蹴り飛ばし、悶絶させたのちに全力でエレベーターに乗る。

 

「どこへ行く?! 逃がすな!」

 

行先は下ではなく、最上階にして追ってくるSPを一瞥もせずに扉を閉める。

高速のエレベーターだけあってスイスイ上へと上がっていく。

エレベーターの中でインターフェースを起動し、SP達の携帯や通信機の電波から、位置を割り出す。ご丁寧に階段を使って追跡中だ。彼らが言う「姉に劣る妹」のためにご苦労様と言える。

 

しかし、楽観視もできない。最上階一歩手前で何名かが待ち伏せしている。

数は五人。切り抜けるなら、やり方は一つ。

 

センサーを利かせて、敵対するSP達をもう一度確認する。見るのは位置関係だ。

電場によって、ソナーのように反射させ、体格や細かな体制までを見て、頭にイメージを作る。大丈夫、私の体格ならできる。

 

彼らのいる階でエレベーターが止まりドアが開いた。SP達を見た瞬間にダッシュして体を捻らせて彼らの隙間をすり抜ける。同時に一人のベルトを抜き出してベルトを足

に絡ませて転倒させる。

 

慌てる彼らをよそ目に非常階段を駆け上り、上へ上へと目指して走る。目標の屋上に着き、電子ロックをハッキングして開錠して天上のないフロアへと入った。

走って転落防止用の柵から体を乗り出して下を見る。

目測で90mといったところか、もう一度鈴に電話をかけて電波と甲龍のISコアの反応を追って、彼女の位置を知る。

 

『簪? 今どこに?』

「鈴、そこを動かないで・・・今行くから」

『ちょっと待って・・・それどういうこと?』

「いいから」

 

近づいてくる足音に気付いて、その方向に振り返る。汗で髪の毛を濡らしたSPと正義たちが息を整えながら私に降伏を呼びかける。

 

「もう鬼ごっこは終わりだ。さあ、大人しく戻るんだ」

 

手を強引に取ろうとするのを、拒絶し、弐式の待機状態の指輪を見せつける。彼は案の定鼻で笑う。

正義はあきれ顔で私に講釈をたれる。

 

「無駄なことを、ISは自身の危険が迫ったとき以外は展開してはならない、常識だろう。君は立場を失う気か?」

 

私はほほ笑んで、それに返答する。

 

「知ってる・・・でも危機ならば、使っていい、だから・・・」

 

私は地面を蹴って、柵を飛び越え、宙に体を浮かせた。突然の行動に驚き、言葉にならない悲鳴すら上げるSP達。彼らが見る中、私は何の抵抗もなく大地に堕ちていく。

頭を地面に向けてフリーフォールのように真っ逆さまに堕ちていく。

悲鳴が聞こえる、誰もが私が地面に激突してトマトのように潰れるさまを思い描いただろう。しかし、それは起こらない。

 

「おいで・・・打鉄弐式!」

 

パーティドレスの上に装着される打鉄弐式。同時にPICが作動して、オートでスラスターをほんの少し吹かして地面に静かに着地した。

タクシーの扉が開き、血相を変えた鈴が出てきた。

 

「何、考えてんの?! あんな危ない真似して!」

「でも、うまくいった」

「そうね! でも次やったら引っぱたくわよ!」

 

笑いもしながら起こる鈴に手を引っ張られてタクシーに乗り込もうとすると、近くから声が上がった。

 

「お姉ちゃん、カッコいい!」

 

小さな男の子と女の子が手を振っていた。彼らにはヒーローに見えたのだろうか。

私は手を振ってそれに応えた。少しは積極的になれただろうか。

彼の隣に居られるなら、私はどこまでも行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひび割れた携帯電話が鳴り響く。煤に汚れた手でそれを手に取る。

全く今日という日は不幸ばかりだ。今度は一体どんな不幸が僕を襲おうというのだろうか。

力のこもらない手で電話に出た。

 

「・・・・・はい、ヴィンセント・ロックです。」

『ハーイ、アタシよ』

「ああ、鈴か・・・」

 

ようやく、不幸でなさそうな人間から電話がかかり、安堵の息を漏らす。

神はまだ、僕を見捨ててないようだ。

 

『何よ・・・辛気臭い声なんか出して・・・なんかあったの?』

「いや、何でもないよ。 ただ、リフォームをしてもらってね」

『はあ?』

 

青い空を見上げて僕は言った。見晴しのいい天井だ。

 

「で、どうしたんだい?」

『ああ、アタシと簪で、そっちに遊びに行こうと思ってさ。いいホテルとか知らない?』

 

一拍考えて、答えを述べる。

 

「桃源郷という所に行け。そこで合流しよう。」

『OK、またね~』

 

 

電話を切って、周りを見渡して僕は叫んだ。

桃源郷は一等高いホテルだ。候補生の給金では泊まることはできない。

払いは僕が持つとしても、だ。これは予定にない出費だ。本来なら僕のアジトにご招待もできたはずだったが・・・・

後ろから工務の親父が伝票もって伝えに来た。高い稼ぎになるためか、ホクホクとした笑顔だ。

 

「で、総額は?」

「占めて、12万ドルです。毎度どーも」

「畜生が!」

「プラス130ドルです。」

 

床を蹴って穴をあけてしまったので、さらにプラス130ドル加算される。

また負債を作ってしまい、声にならない怒声を上げて悔しみに地団太を踏みたくなったがさらに被害を増やしそうになることを危惧してできない。

 

青空が広がり、粉々になった家具の山の中、僕はアジトの中心で僕は叫んだ。

同時に座っていた椅子の脚が折れて、転倒した。

 

プラス50ドルだ。

 




次回からコメディです。
一応所々にそれっぽいこと書きましたが・・・
感想、批評お待ちしております。
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