IS to family   作:ハナのTV

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the players 2

ギターの音が聞こえる。弾いているのは誰かは知らないがメキシカンな雰囲気の曲だ。マリアッチと言うのだったろうか。

 

僕はサングラスをかけて、重いギターケースを片手に歩く。

無論、中身は演奏のための物で詰まっている。9mmパラから12.5mm弾まで一通り揃えて、

死のオーケストラを送りに行くのだ。

目覚めた僕にたたきつけられた請求書に工務の親父の笑顔、吹き飛んだアジトが広がって僕はキレた。

 

僕の勝ったLDに映写機、8mmフィルム。テーブルもベッドも特注で作らせたというのに、一瞬でパーだ、誰だって怒るだろう。

 

アメリカではこういう時どうするべきだろうか、相手を見つけて訴訟を起こし賠償金をふんだくる? Noだ。会社の権力をフルに使い、ぶっ潰す?Noだ。

 

答えは復讐だ。やられたら、やり返す。バビロン法典と同じだ。吹っ飛ばされたなら、吹っ飛ばしに行く。これが古来、この国で使われてきた唯一無二の最高の解決法だ。金はかかるが、この心のいらだちを払しょくさせるには一番手っ取り早い。

 

目標はこの町のいわゆる下層市民が暮らすトレーラーハウスが集まる場所と、そこら一体にいるゲイシャもどきとその協力者だ。

根絶やしにしてやる。

とりあえず、標的がよく行くというバーに入ることにして、足を運ぶ。

夏のせいか、日差しが僕の皮膚を焼いてるようで非常に熱く、不快だ。

この分のいらだちも含めて、相手にぶつけさせてもらおう。

 

古ぼけたバーに入ると、メキシカンから、スパニッシュにガラの悪い色々な人種が集っている。

 

「ここは子供のくるところじゃねぇ。とっとと失せな」

 

店主が冷たく言い放つのを聞き流し、バーカウンターに、座る。

僕は店主の顔を睨み付けながら、店を見渡す。

 

「随分改装したな。マスター、一体誰にやられたんだい?」

「・・・・知ってるのか?」

 

グラスを拭くのを中断してマスターがコチラの顔を見やる。

僕はニコリと笑いながら、彼の疑問に答える。

 

「知ってるさ。子供にやられたんだって? 友達から聞いたよ すごいじゃないか」

 

マスターが興味を示したらしく、僕を注視する。周りの客も喋るのをやめて、こちらに視線を集中させる。

すると、マスターがコーラを出してそれを話せ、と暗に言う。僕はそれを承諾してコーラを喉に流し込み、その話を語る。

 

「僕が聞いた話では、あれは正午の話だと聞いた。ギターケースを背負ったガキが来ると、下品な店の連中は・・・

おっと、失礼。昔の話だからアンタたちの話じゃない。落ち着いてくれ。そいつらは帰るようにガキに言った。でもガキは帰らずに一人の男の、いや女だったかな? 名前をいったんだ。そいつはどこだってね。すると店の連中は血相を変えてガキに飛びかかった!」

 

カウンターを叩いて、その衝撃を表現する。さらに話は続き、徐々にヒートアップさせていく。

 

「でも、ガキはただモノじゃなかった。かかって来て男たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げの大あばれ! しかも、ギターケースから見たことも無いデカい銃を取り出して、店のありとあらゆるものを撃ち抜いた! バン! バン!て感じでね! 哀れ店の店主は20万ドル近い損失を出して、奥さんに逃げられたって話だそうだ。愉快だよね?しかも三回もだってさ!」

 

ハハハ、とマスターと共に笑っていたら、マスターが突然真顔になり、カウンター越しに胸ぐらをつかんで来た。

 

「その話をどこから聞いたかは知らんが、一つ間違いがある。壊されたのは二回だ。アホが」

 

その言葉に僕は笑って返す。グラサンを外して素顔を見せながら。すると店主が呆気にとられた顔になった。

 

「いや、間違いちゃいないさ。これで三回目だ。」

 

柔道のように店主をカウンターから投げて、ギターケースから二丁のM60を取り出して構える。

 

「12万ドルと僕の心の傷の弁償だ! マザーファッ・・・・・」

 

引き金を引く前に店に飛来した何かが窓ガラスを突き破り着弾し、店は崩落した。

僕は頭に倒れてきた柱の直撃を喰らい、意識を失った。

目をつぶる半秒前にガラガラと崩れる店内で僕は一言残した。

 

「お前たち・・・・これで終わったと・・・・思うなよ」

 

本日は厄日なり。

 

 

 

 

 

 

 

 

レンタカーを借りて、道路を走る俺とダグラスさん。車を鼻歌まじりに運転し一見上機嫌なダグラスさんは俺の示すナビに従い、車を操る。一方で俺は憂鬱だ。さきほどのバーガー店においてのひと悶着はかなりマズイ。

 

この人はキレたらm16をぶっ放すような人だ。しかも、先ほどボストンバックを持ったところ、他にも色々と入っているらしくガチャガチャと聞きたくない音が聞こえてきた。

 

絶対に他に何か入っている、と確信した。

しかも行先はここから遥か遠い。こんないつ起爆するかわからない不発弾みたいな人と楽しくドライブ♪

――――できるわけねえだろ

 

俺は気分を変えようと思い、ダグラスさんに話しかけることにした。

 

「そういえば、どうしてこの町に?」

「ん? 話してなかったかな。別に大した話じゃないさ。どこにでもあふれた話さ」

 

ダグラスさんはにこやかな笑顔を見せるが、どこか悲しげに見える。アカネなどが見せる上手な作り笑いだと俺は悟った。ダグラスさんはやさしい口調で話す。

 

「妻が娘を連れて雲隠れしてね・・・・恥ずかしい話だけど失職してしまったんだ。愛想着かされたって言うのかな・・・こういうの。それから、日雇い仕事もしながらずっと二人を探してきたんだ。それで色々と探してここにいるってわかったんだ。」

 

ダグラスさんは一つ息を吐いた。長い長いため息だ。本当に家族のことを思っていることが俺にもわかった。家族第一のよき父親というものかもしれない。

 

 

「場所が分かった以上、いてもたってもいられなくて、頑張ってここまで来たんだ。

もう財布のお金も空っぽ寸前だけど、心までは空っぽにしたくない。君は家族は?」

 

俺はその問いには一拍おいて答えた。

 

「家族はいます。この町にいるんです。」

「そうか・・・なら大事にした方がいい。私のようにならないようにね。」

 

寂しい一言だった。全てを失った男の人の悲しい一言だ。フィクションでは失ってから気づくものがあるという。ダグラスさんはそういう事を体験してきたのだろう。

こんな話を聞いた以上、俺としては協力を惜しむわけはない。

 

「ご家族に会ったら何をしたいですか?」

 

少し訊きにくい話だが思い切って聞いてみることにした。

するとダグラスさんはゆっくり答えた。

 

 

 

 

          ・・・・・・・

「そうだね、娘に会って、妻とお話をしたいかな」

 

 

 

―――――ん? おかしいぞ。

 

自分の心の動きに違和感を感じた。途中までいい話だったはずだ。家族を思う父親の一途な思いが伝わってきたはずだ。なのに、何故こうも寒気がする。

温かい話が一機に急速冷却されていった。

ダグラスさんは言葉をつづける。

 

「実はこの間、復職してね。」

「それは・・・おめでとうございます。」

         ・・・     

「ありがとう。そのお仕事を彼女たちに紹介しようと思ってね・・・」

 

お仕事というと、ボストンバックに入っているものだろうか。あの短縮されたm16ライフルのことだろうか。普通、銃器を使う職業と言えば、警察や軍隊、傭兵だが、あの短縮されたライフルはこれらの機関で使うことはない。

使うとすれば、車上から弾丸をばら撒くというような、ギャングスタイルだろう。

とすれば、彼はギャングなどのヤクザ者になったということだろうか。

 

「・・・・仕事ってあの鞄の中の物のことでしょうか?」

 

試しに聞いてみると、ダグラスさんは感心したような声を出した。

 

「お、わかるかい。実はああいうのを作るのが趣味でね」

 

落着け、あわてるな と自分に言い聞かせる。

改造銃の製造と言う意味だろうか、それなら、まだ言い訳ができそうだ。ただの職人さんかもしれない。

 

「特に自分の作品が使われているのを見るのが好きでねぇ・・・わかるかい、この気持ち。」

 

前言撤回だ。この人やばいかもしれない。銃器製造に飽き足らずに使う場面を見たいという。

 

汗が噴き出てくる。冷汗だ。このまま、この人が家族に会った場合どうなるだろうか?

「やあ、ハニー。僕の仕事の成果を見てくれ」なんて言って作品をぶつけるのではないだろうか。

 

しかも、道案内をしている俺も共犯になるのではないか?共謀罪と言うの言うのだろうか?

それとも殺人幇助?このままでは俺の未来も彼によって穴だらけにされる。

その時だった、後ろから猛スピードで追いかけてくる一台の車が見えた。

バックミラーに映る車は隣に併走し、窓を開けて、拡声器で自らを名乗った。

 

「俺の弟をムショどころかオツムの病院ににぶち込んだのはお前だな?! 今すぐテメーを病院すっ飛ばして墓場に送ってやる!」

 

出てきたのはいかにも脳にまで筋肉で詰まってそうな男たちだった。どうやら、バーガー店の強盗の仲間らしい。

もう一台車がやって来て進路を妨害し始めた。

普通なら、逃げるところだが、この人は普通じゃない。

ダグラスさんはクラクションを鳴らして、どけるように相手に伝えるが、車はどけようとしない。

 

ダグラスさんは窓を開けて、並走する車に話しかける。

 

「おい、邪魔をしないでくれ。私は娘の元に行きたいだけなんだ。朝から、どうして私ばかりこうも不愉快な目に会わなきゃいけないんだ?頼むから、そっとしてくれないかな?」

「ごちゃごちゃうるせえ! さっさと車止めやがれ!」

 

やめろ、刺激するんじゃない。その男は危険なんだ。どうしてわざわざニトロ入りの瓶を振り回すどころか、ハンマーで叩きつけるような行為をするんだ。

 

ダグラスさんを見やると、額に青筋が浮かんでいる。確実に怒りのボルテージが上がっている。

 

「俺からも頼む!今日は帰ってくれ! アンタのために言ってるんだぞ!」

 

俺は目の前の阿呆に警告するが彼らは嘲笑って聞く耳を持たない。それどころか、挑発すしてきた。

 

「しけたオッサンに何ができるんだよ?! やれるものなら、やってみろ!」

「面白い、やってやろうじゃないか。」

「逃げろ! 今すぐ!」

 

ダグラスさんは俺をにらんで言った。絶対に俺に逆らわせえない暴君の目をしていた。

 

「少年、ハンドルを握っているんだ。」

「えっ、何を言って」

「早く」

 

言われるままに従ってしまう。この場での上下関係は明白であったからだ。ダグラスさんはボストンバッグから筒を取り出して、組み立てていく。ラッパのように広がったものを後部に着け、金属と木製の筒をつけていき、先端に尖った弾頭をつける。

 

間違いなく、RPGなどの対戦車ロケット兵器のたぐいだった。

窓を両側開けて、それを馬鹿に向けた。

 

「R・P・G!」

 

ギャングのために叫んだ。彼らはようやく自らの危機を理解してブレーキを踏み、間一髪で直撃を回避した。

飛んでいった弾頭は近場のレストランか、何かだろうか。

建物に入り込んで、倒壊させた。

 

ついにやっちまった・・・・・

 

ダグラスさんは哄笑をあげて、叫ぶ。

 

「私が車諸共オーバーホールしてやる! 避けるんじゃない!娘との出会いを妨げる奴はこうだ! 覚えておけ! 」

 

もう一発、逃げようとしていた車の背後に撃ちこんだが、外れてどこかへ飛んでいった、

不発弾だったらしく爆発はしなかった。

 

「私はもうすぐで娘に会えるんだぞお! 見ておけ!これが父親の愛だ!俺のこの手が真っ赤かあだ!」

「誰か、この人止めてくれぇ!」

 

俺は叫んだが、誰も助けには来ない。理由は簡単だ。誰がRPGを持った人の乗った車に近づこうと思います?神様もご遠慮するだろう。

警察呼ぼうにも、俺まで逮捕されそうで呼べない、万事休すか。

 

 

 

 

 

 

 

 

レトロ調で作られたシン・シテイ旧市街はここでは有名な観光スポットだ。1930年代

街並みがそっくりそのまま残っており、オールドアメリカを好む者から、時には映画撮影のために俳優や女優を見ることができることでここは有名だ。

私とミサキは昔はよくここに遊びに来て、映画館で古い映画を見て、帰りにクラシックステイツというアイスクリーム屋でクラシックバニラをよく食べてた。

 

「懐かしいよね、アカネ。ホラ、あそこの映画館、よく行ったじゃない? 楽しかったよね~」

「そうですね。あのアイスクリーム店はどうなったんでしょう?」

「せっかくだから探そうよ!今日は一日フリーなんだからさ!」

 

無邪気な笑顔を振りまくミサキはあのころと変わらない。たとえ、伊達眼鏡で顔を隠しても反則級の可愛さだ。

私は少々おおげさに答える。

 

「仰せのままに、姫様」

 

後ろではオットーがほほ笑んでいる。まるで保護者のようだ。私とミサキには親はいなかったが。

あのころを思い出す。LAを舞台にした二人の刑事の映画を見た後、ミサキとアイスクリームを食べていた。当時から可愛らしい外見から、ミサキに声をかけてきた怪しげな人間が多かったが、全て撃退していた。

いい思い出だ。撃退方法がミサキのラックで発動した。マンホールの落とし穴でなければ、もっといい思い出だったろう。消防隊員が三時間かけて助けていた。

 

「アカネ、アレがそうじゃない? アイスクリーム屋さん! 」

 

お目当ての店を見つけたらしく、駆けていった。まるで子供みたいだ。

 

「大はしゃぎですね」

「ええ、このところ休みが取れなかったから、それに君に会えてうれしいんだと思う。」

 

オットーがサングラス越しに雇い主を見つめる。有名になっても彼女は彼女だ。素は私と変わらない。私は戦いの場にいて、彼女はステージにいる。なんてことはない。それだけの違いだ。戦いと言う意味では同じかもしれない。

 

「君を呼んだのは彼女、ミサキが君に会いたいといったんだ。彼女は今の世の中で珍しく男と女の問題で中立な立場を保っているから、芸能界で友達もすくないんだ。ま、そもそも友達作りには向いてない世界だけだね」

「オットー・・・」

 

私はオットーを見る。親友をこれほど起こってくれる人がいるだけでもありがたい。

 

「オットー、今日は呼んでくれてありが・・・」

「ねえ、アカネぇ!」

 

礼を言おうとしたところ、ミサキが戻って来た。器用に片手にアイスクリームを三つ持って、もう片方に何か持っている。

妙に既視感のある物体だった。

 

「ロケット花火拾ったよ! アカネ、見てみて~!」

 

そう言って左手でロケット花火を振り回す。それを見て、私とオットーはサーッと血の気が引いた。顔色が蒼くなるどころか、真っ白になる勢いだ。

街の住人も観光客もそれを見て、動きを止めた。時間が静止したかのような止まり方だった。それほどまでに空気が凍り付いたのだ。

どう見ても、花火ではない。対戦車ロケット兵器の弾頭が彼女の手に握られていた。

 

「どっから拾ってきたんですか?! ソレ」

「そこで!」

 

ビシッとアイスクリーム屋の影を差す。目を輝かせてフリスビーを投げるのを心待ちにしている犬のようにワクワクしている。

周りの人間は脱兎のごとく逃げる。それはもう超特急並の速さで逃げる

中にはマンホールの中やゴミ箱へと入る人もいる。

私は周りを見渡して、オットーの胸ぐらをつかんで振り回す。

 

「よくも・・・私を呼んでくれましたね! このすっとこどっこい!」

「さっきまでお礼いう所だったじゃない! それに、彼女といたらこうなるのわかるじゃん。普通!」

「私を巻き込んで満足かって聞いてんですよ!」

 

オットーはいっそ開き直ったかのように言葉を口にする。

 

「だって、いつも僕だけだもん! 狙撃は受けるし、爆弾解除までする羽目になるし、いつぞやはウダイとかいう人に集団で終われるし! だったらいっそ、誰かにこの苦しみを共有してほしい! そう思うでしょ?! ね? そうでしょう!?」

 

私は拳を振りかざして一発殴る。

 

「この最低野郎!」

「いくらでも、殴ればいいさ、君はもう逃れられない!」

 

目を回しながら、笑うオットーにもう一発制裁を与えてやろうとしたところ、カチカチと音が鳴った。

二人で、押し問答をしていると、隣からライターの着火音がしたのだ。

新たな問題発生である。

 

「あっれ~? つかないなぁ」

 

いつの間にか手にしているライターでRPGの尻の部分をあぶっている。時々角度を変えて、必死に火をつけようと努力している。完全に花火か何かと勘違いしている。

しかし、そいつには色鮮やかに空を彩る能力はない。あるとすれば、タンクや装甲車を吹き飛ばすことぐらいだ。

この場合は私とオットーとなる。

たとえ、爆発しても、彼女は絶対に無傷だろうから、それで間違いない。

 

「ミサキ、ダメダメ! ダメです! 早くそれを捨ててきてください!」

「ミサキ! 早く捨てて! お願いだから!」

 

二人でミサキから取り上げようとするが、たった一人の何の訓練も受けてないはずのアイドルから戦闘員である私とトライアスロン好きのオットーの力をもってしても取り上げられない。

 

「い・や・だー! 飛ばしたいんだもん! ビューんってお空の向こうに!」

「私たちが空を舞う羽目になりますから!」

 

それを聞いて、ミサキがさらに目を輝かせて言った。

 

「え、それ楽しそう!」

「貴女って人は?!」

 

取り合いをしていると、ライターであぶられていたせいか、RPGが点火して飛び上った。私たちは涙で逃げて、オットーに抱えられているミサキは飛んだことに素直に喜んでいる。

回転して、不安定にとんだRPGの弾頭はやがて推力を失って、自由落下を開始してマンホール工事中の所に堕ちていき、穴の中へとすっぽり入って行った。

 

そして、マンホール内で爆発したのか、すさまじい煙が巻き起こって蓋を吹っ飛ばした。

吹っ飛んだ蓋は私とオットーの目の前に刺さった。

本当に遺書書いた方がいいかもしれない。私とオットーは目で通じ合った。

 

「ミサキ、貴方はもう・・」

 

「湿気っていたのかな? 全然綺麗じゃないね」

 

目の前の彼女は聞いちゃいあいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテル桃源郷スィートルームにて、待機して日課のナイフ磨きをしていた。

グラサンを掛けて復讐鬼となって去って行ったヴィンセントの雑誌を眺めながら、その刃を砥ぐ。

雑誌をめくると、グラビアモデルの写真が大写しとなり、それに少々感心していたところ

部屋の電話が鳴り響く。趣味に没頭し、くつろいでいた俺にはルームサービスなどを頼んだ覚えもないので、少し不思議なきもちでありながらも、受話器を取った。

 

「皇宮だが?」

『もしもし、こちらフロント係の者ですが、お話がありまして・・・』

 

一体何の話か見当もつかないので、一応聞いてみることにした。

万が一、ヴィンセントの復讐の復讐組の場合を想定しなくてはならないからだ。最もあの男が残党を残すほどやさしいかは疑問だが

 

「何の用だ?。」

『実は今フロントに小さいロリッ・・・・失礼。大変栄養が行かなかった方が来られまして、お客様に招待されたと言っていらっしゃるので、一応確認を』

「招待? いったい誰の・・」

 

俺の知らないところで話が進んでいたことを確信していたところ、受話器から聞いたことのある声が聞こえてきた。

 

『アンタ、今なんて言ったもう一度言ってみろ!』

『ちょっと、カウンター越しに掴むの勘弁してください』

『・・・そんなに大きければいいって言うの?』

 

簪の絶対零度の声と、鈴の大噴火した声が聞こえる。さらにフロントの男がカウンターから引きずり出されたであろう音も続く。

 

『おい、俺の相棒に何するんだ?』

 

もう一人のフロントもやって来たらしく、電話の向こう側はさらに混沌となる

 

『何よ、アンタもやる気なの?』

『ちびっ子風情が。大は小をかねると何故わからんのかね?』

『あ?アレのどこがいいのよ。年取ったら垂れるだけよ。』

『年取ったら、価値がないからいいんだよ。大事なのは今だ。今。そして君はその時点で負けているんだよ』

 

不毛な争いが聞こえてくるが、受話器をきろうとはなぜ思わず、どちらかというと、このまま聞いている方がいい気がしたので黙って聞いている。

すると、第三者が入って来た。

 

『ちょっと、そこフロント今アタシの悪口言ったわね? お嬢ちゃん加勢するわ。』

『お姉さん・・』

『何だナイチチばあさんか?』

『アァ?』

 

さらに来ていると、争いはあちらこちらに飛び火しているのがわかって来た。

曰く、年増に小娘。曰く、垂れる、垂れない。 タケノコかキノコか。

AK47かM16か、とありとあらゆる対立する二つの派閥が論争をしていく。その勢いは 

とどまることを知らずに、加速していきついに火ぶたが落とされた。

フロントがフロアにあった噴水に投げられたのか、水に飛び込むような音がした。

 

『お前にわかるか、胸に栄養が行かないお言う悲しみ、彼氏がまさかのデカいのが好きと言う悔しみを・・・誰がわかってくれようか・・』

『いいぞ、よく言った!』

 

拍手喝采と共に、皿が割れる音が聞こえ激突した。喧噪の音ばかりでほとんど何も聞こえなくなった。

誠もって、派閥と言うのは恐ろしいものがある。たった一言が引き金となり、争いが勃発するのだ。人類に平和が訪れないのも納得がいくというものだ。

口元が少し緩むのをお感じていると、受話器を誰かが拾い上げた。

 

『ねえ、ユーリ。 貴方は・・・どっち?』

 

俺は雑誌をゴミ箱に入れて答えた。

 

「フロントとは趣味は違う」

 

俺は多少の冷や汗を流して当たり障りのない答えを選択する。この場合はこれが正しいはずだ。

 

『・・・・・そう、ユーリはいい人だね』

「褒めているのか?」

『うん、褒めているよ。でも、一言聞きたいことがあるの・・』

 

ノイズ交じりの声に俺はなぜか死神の鎌を連想した。電話越しだというのに、なぜこうも恐ろしいのか。

 

そして次の言葉が俺の耳に届いた。

 

「・・・・・その雑誌は何?」

 

ピッと後ろから電子音が聞こえた。

俺は何の声も聞こえなくなった受話器を置き、深く息を吐いた。

この際疑問は置いておくことにして、俺はこれから自分が何をなすべきかを考えた。

一つ、振り返ってみること。二つ、謝罪をすること 三つ、運を天に任せるかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・嘘つき」

 

 

 

 




更新遅れて申し訳ないです。
コメディは第一回があと二、三話ぐらいで締める予定です。
もう一つも考えたのですが、この第一回目がどう反応を出すかによって決めますので
どうかご容赦を。

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