ピッと電子音が隣で鳴り、ダグラスさんは今時珍しい二つ折りの携帯電話をポケットにしまった。
本人曰く、娘の元に電話をしただけだそうだが、俺の手はさっきから震えっぱなしだ。
キレたら、ロケットランチャーを振り回す男、その男の愛娘を連れさらった挙句、別の男といる可能性大。これに怒らない人はいない。キリストだって、かような人間は赦しの対象にはなるまい。この二つの方程式から導き出されるのは、ダグラスさんぶち切れからのお礼参りだろう。
死人が出るのは確実だ。
そんな俺の悲観的な未来を想像している隣でダグラスさんは鼻歌を歌っている。娘と会えるということを楽しみにしているように見える。
ハンドルを切って、車が進路を変えながらダグラスさんは口を開いた。
「もうすぐ、娘と会えるぞ、少年。 今の私がどれほどの気持ちかわかるかい?」
「・・いえ、どんな気持ちですか?」
「そうだね、祝砲を上げたい気分かな。」
祝砲で元妻の頭を撃ち抜いて祝うという意味だろうか・・・
いちいち、嫌な表現をする人だ。聞いているこっちの身にもなってほしい。胃のあたりがキリキリと痛む。胃の中をとげがびっしり生えたハリネズミの様な生き物が動き回るようで、非常に気持ち悪い
人は危機に直面した時こそ真価が発揮されるなんて言う人間もいるが、今の俺なら,ソイツの顔面を殴り飛ばし、この状況で発揮される真価とやらについて問い詰めてやりたい。
瞳の奥に憎悪をぎらつかせながら、ニタリと笑い
『ミラ、それにエレン、待ってくれ・・・・・・・もう少しだ。』
と不気味な雰囲気で話す人間相手にどんな真価を発揮しようというのだろうか?
いっそのこと、ラプターを使ってでもこの男を止めるべきだろうか?
確かにISなら危機の時は使っていいとされてる。
俺の状況も危機的と言っていいだろう。
「隣にシリアルキラーがいましたので、助かるために起動しました。」
この点は心配ない。
しかし、誠に残念なことに俺の機体はISではないし機密扱いだから目立つのは基本NGだ。
そういう事がないために訓練をしてきたというのもある。
では素手で倒してしまうか?
相手は武器を持っているとはいえ、素人のはずだと思えば倒せるかもしれない。
「邪魔する奴は~ ジェノサイド~♪ 血のオーシャーン♪ キリング~ タ~イム ♪」
すくなくとも、こんな気がめいる歌が耳に届かない時まではそう思えたろう。
俺が勝てる要素などみじんもないように思われる。そういえば、アカネたちは個人所有の武器を拡張領域に仕舞っていたが俺のはにはあるのだろうか。
あったとしても勝てないだろうけど
中学のころ、鈴に向かって「まな板」だのと言った時を唐突に思い出した。
銃が出てこない点と、ターゲットが俺である点は今回と違うが、恐怖のレベルは一緒だ。
ズタブクロをかぶって中華料理に使う肉切り包丁を持っているのを見たときは生きた心地はしなかった。
「さて、ナビだとこの辺のはずだが・・・・ところで一つ話があるんだ少年」
「何でしょうか?」
「さっきも言ったように究極の愛は家族愛だ、その点は変わらない。わかるよね?」
瞳孔が開いた目で威圧しているかのように俺を睨み付けているようだ。それでいて顔はアルカイックスマイルなのだから、恐ろしさが三倍以上になる。
しかも話題からして、ロクなものではない。
「まあ、何となくは」
適当に答えて誤魔化すが、ダグラスさんは開いたままの瞳孔を閉じずに薄く笑って語る。
「ハハハ、まだ君には早い話かな。でもね覚えておくといいよ。自分の愛するものを奪われたりされると怒りがわいてくる、そして次に何を思うと思う? 答えは使命感さ
普通怒ったら頭はグチャグチャになって訳が分からなくなるのに、ハッキリと思考が回る。
爆発的なエネルギーとまるで鋭い剣のようにキレのある思考の融合さ。」
話すごとにヒートアップして、口が回る回る。 俺はもう泣きたい気分だが、ハンドルを叩いて、感情の高ぶりを見せつけてダグラスさんは言葉でできた暴風雨をさらに続ける。
「クスリも決めていないのに、この神秘的ともいえる感覚!まさしく愛の力と言うやつだよ! そこには一片の矛盾もほころびもない! たとえ、娘が太陽系の外に言ってしまったとしても私は追い続けることができる!これこそが人類に許された最高のパワーなんだ! イエス・キリストが奇跡を出せたのはなぜか? ソクラテスが死を選んだのは? チャップリンが永遠の名優とされているのは? ベクトルは違うがこれらすべてが愛に根差しているからだ! 」
本当に薬はやってないんですよね? その言葉が喉から出そうになったのを口を押えて飲み込んで黙る。
「つまり、愛は理想的な力と言うわけだよ」
肩で息をしながらダグラスさんは目的地近くに車を止めて、エンジンをストップさせる。
そして一回深く深呼吸をして落ち着かせて、乱れた髪をまとめて俺に振り返った。
人当たりのよさそうな笑顔になっていた。
「まあ、君もいつか分かる日が来るさ。この気持ちを。 いつかその時が来たら私の所に来るといい。私が色々とレクチャーしてあげよう。」
心の底から思った。
―――――遠慮します。
ダグラスさんと車を降りていくと、ぼろく、汚いトレーラーハウスがぽつぽつと並んでいるところに着いた。いわゆる貧民街と言うやつだろう。
ダグラスさんが歩いていくと、何やら騒ぎが起こっているらしく行ってみようとしたところで俺は不覚を取った。
ダグラスさんばかりに気を取られたせいか、後ろから頭を強打されて気を失った。
公園のベンチに座って物思いにふける。人生はコインの裏表、不幸か幸運かなんてことはついて回るものなのだから、考えたって仕方ないという人間がいる。
だが、そんなことを言う彼ないし彼女に聞こう。
たった一日で12万ドル失ってもそれが言えるかどうか。一流ホテルと言われてるくせに
当の本人がいいことに倒壊記念式典を行うような奴らに指を刺されて笑われても言えるだろうか?
僕が一体何をしたというんだい? 神様
僕は給料でほしかったものを並べて楽しんでいただけだというのに。
一体何をそんなやったというのだろう。
とげとげしい発言を繰り返すからか?それにしたって最近の僕の不幸具合は酷い。
何かあるたびに殴られる。
思えば、学園に入ってから大体の人間には殴られてるんじゃないか?
誰か同情してほしいものだ
その時、煤とほこりまみれの僕に野球帽をかぶった小さな男の子が駆け寄って来た。
その子は無言で、ロリポップキャンディーを手渡してきた。どうやら、くれるらしい。
「これを僕に?」
そう訊くと男の子はウン、とうなずいた。今時こんな子がいたとは思わなかった。
世の中、捨てたものではないらしい。
「ありがとう。」
「いいよ、パパがいつも言ってたもん。カワイソーな人には優しくしなさいって
特に白髪のおにーちゃんには」
「できれば、それを言わない優しさも欲しかったなぁ」
そう言って受け取るとガキ・・・・もとい男の子は無表情で言った。
「そのざまじゃぁ ムリだね。ふられでもした?」
「もう向う行ってくれない?」
あばよ負け犬 と言葉を残してクソガキは向うへと走って行った。
なんて嫌な世の中なんだ。
爆破はされるし、バーのがれきの下敷きになるし、金ばかりでていく。
あげくに、安らぎを求めて座った公園のベンチでクソガキにいいように言われている。
決めた、この復讐は完遂してやる。いくらかかってもだ。もう金の心配なんか知ったことではない、幸いにして実行者の住所は押さえてある。がれきの中、バーのマスターから聞き出せたからだ。
金もあるし、敵の勢力も把握済みだ。条件はクリアされたも同然だ。
端末を操作して、ロストワールドへと電話をつなげた。
何回かコールして事務担当の男が出てきた。
『はい、ロック・プライベート・ミリタリー・サービスです。この電話番号は社内の者しか使えないはずですが、要件がある場合は・・・』
「その社内の者だよ。」
電話の相手は僕の声を聞いて、少し唸るような声が続いて、ああ!と大きな声を出して僕が誰かを理解したようだ。
『御曹司か。何の用だよ?依頼でもあんのか? 部屋掃除ぐらいなら専門の業者に頼んでくれよ』
僕は普段より大きな声で話す。はっきり言ってかなり頭に来ていたからだ。
「違う、依頼だよ。一個小隊をブラックホークに乗せて貧民街って言われているトレーラーハウス群に来い。 」
相手の男はジョークか何かだと思ったのか、少し笑って答える
『いやいや、常識ってもんを考えろよ御曹司ィ。 そんなの無理に決まってんだろ。』
「そうかな? 冗談に聞こえるかい?」
『出来が悪いけどな』
二人で声を出して笑い、向う側は爆笑してすらいるのを僕は一喝した。
「冗談だと思ったか!? このタコ! 今すぐにだ! 今すぐ一個小隊引き連れて飛んで来いっといったんだよ、ハゲ! 僕は本気だからな! 報酬は一人頭5000ドルッだ!
任務期間は僕の腹の虫がおさまるまでだ。わかったらさっさと準備をしろ!」
『ハゲいうな! わかったよ。送るから待ってろ!』
電話を切り、僕は哄笑を上げる。
見ていろ、格の差ってやつを教えてやる。
俺を呼ぶ声がする。何回もそれに大声でだ。何事かと思い、目を開くと、後頭部がズキズキと痛み視界がかすむ。
「糞、なんだって・・・」
動こうとしたところ、腕に鎖がまかれているのに気付いた。やはり、あの時殴られて気絶したようだ。
情けない、せっかくの訓練もこのざまだ。
暗くて清掃もされてない倉庫で鎖に繋がれている。
「起きたか、少年。」
「ダグラスさん・・」
「それともう一人いるんだ。」
ダグラスさんが右に目線をそらして見せる。その視線の先には一人の女の子がいた。
薄く開いた目からでもわかるぐらい綺麗な碧眼で俺の知り合いの女子とは違う雰囲気だった。簪のようにおとなしいわけでも、鈴のように猫をイメージさせるような活発さでもない。可愛らしい雰囲気だ。
そしてどこかで見た気がする。
すると気が付いたのか、目をパッチリ開けて周りを見渡した。
「あれ? ここどこ? あなた達は誰?」
「気が付いたか。私はマイケル・ダグラスだ。ミサキさん」
「あっ 私のこと知ってるの? 」
「娘がファンですから」
「アンタたち、呑気に話してる場合じゃないでしょう」
俺が突っ込みを入れていると、扉が開く音がした。
入って来たのはパーカーのフードを深めに被ってマスクで顔を隠した男たち三人だった。
見るからに馬鹿に見える。
「目が覚めたようだな。」
ゲヘゲヘと下品な笑いをしながらやって来た彼らはバタフライナイフを出してかっこつけようと畳んだ状態から刃を出そうとしてしくじって落とす。
絵にかいたような阿保だ。
「お前らだな。俺たちの仲間をムショ送りにしたのは?」
「おい、病院だろ?」
「違うよ兄ちゃん 保健所だよ。」
長男と思わしき男はそうか、と納得して言い直した。
「保健所送りにしたのはお前らだな」
「お前らの仲間は犬や猫なのか?」
突っ込むとビンタが飛んできた。
「口答えするな」
「ああ、悪かったよ」
頭の血液が沸騰しかけたが、押さえて口を堅く結ぶようにする。
「いいか、ここは俺たちのシマだ。そんなことも知らないでロケットをぶっ放しやがって
それに、そこのアイドルもだ。スかした格好で来やがってカラにゃ容赦しねえぞ」
「私はアカネとオットーと一緒にいただけだよ?」
首をかげて、ミサキは訳が分からないという。
それに対しパーカーギャングたちは反論して、脅かそうとする。
「うるせえ、このアマ。いいか、お前はこれから死んだ方がマシだと思うような・・・アレだ・・・何だっけピンクなお店だよ、ホラ」
「ファッションセンターだよ。」
「そうだ! ファッション・・・何チャラに送ってやるからな」
それを聞いてミサキはニコリと笑って答えた
「お洋服は好きだよ」
「ミサキさん、違うんだ。彼らは間違えていて・・」
「黙れって言ったろ!」
またしても殴られる。
プチッと頭の血管が切れたような音がして俺はなるべく抑えながら言った。
「なあ、お前らの目的はそれだけか?」
「だから、喋るなって・・」
「なあ?」
少しドスを利かせて話すと、三人はたじろいだのか、動揺を見せて答える。
「・・・命令されただけだよ・・・悪いかよ」
俺は一つため息を吐く。
何故俺がこんな目にあっているのだろうか? 俺はただ親切にしただけなのに、犯罪に巻き込まれて刑務所に入れられるかもと怯え、挙句親切にした人はサイコキラーくさくて怖い。
そして今では鎖に縛られて言いたいことの一つも言えない。
もううんざりだ。自棄だ。言ってやる
「朝からツイてないない日ってのはよくあるけどよ、コレはアリか? あ?
変な奴ばかり来やがってカラにゃ、この野郎。 いつもいつも黙ってると思ったら大間違いだぞ・・・・なあ、こんな時俺はどうすればいいと思う?」
「・・・・リラックスとか?」
「正解だ! お前らぶん殴ってリラックスしてやらあ!」
拡張領域に入っていたM9拳銃で鎖を撃ち抜き、殴りかかった。
長男のマウントを取って一方的に殴る、殴る。
「兄ちゃん!」
すると、三男と思われる男が拳銃を抜いて向けるのをダグラスさんが蹴飛ばしてて助けする。
しかし、三男は引き金に指をかけっぱなしだったらしく発砲された。
そして、その銃口の先にはミサキがいた。
俺達が呆気にとられていた。やってしまったと誰もが後悔した時俺たちは見た。
真っ直ぐ銃弾がミサキの頭部に向かっていた。超スピードで飛ぶ弾丸が着弾するまで一秒ともかからない。誰もが想像した。彼女の死を。
そして壁に着弾する音がした。潰れた弾丸が床に転がった。
その弾丸は赤くなかった。
弾丸はミサキの手前でカーブして外れたのだ。まっすぐ飛んでいたはずの弾丸が、だ。
奇跡と言うのだろうか、誰もが口をぽかんと開けていた。
目を見開いていたミサキは数秒経って、リアクションを見せた。
「うっ・・・」
そううめいたと思ったら、小さい女の子のように大泣きを始めた。
元々が甲高い声のせいで、本当に俺と同じ年代の声とは思えないほどだ。
聞いてるだけなら五歳児と間違えるだろう。
その時だった。部屋の明かりが点滅しだして、倉庫の外でカラスたちが一斉に鳴き出した。
「な、なんだ?」
次の瞬間、倉庫に雷が落ちた。
「今日は厄日だあ!」
俺達はミサキを除く誰もがトタンの板の下敷きになった。
薄れゆく意識の中で目の前に携帯が転がっていたのが見えた。
どうやら、ダグラスさんが仕込んでいたらしい。相手は警察で来てくれるとのことだ。
これでようやく助かる。 そう信じて瞼を閉じた。
私とオットーは走り回る。迂闊なことにミサキがクレープを買いに行ってくると言っていたのを呑気に見ていたために、突如として現れたバンに連れ去られてしまったのだ。
なんという迂闊さだろうか。
魂にも贅肉はつくとは言ったもので、今の私たちがそれだ。
オットーがミサキに着けた発信機だけが頼りで、その方向に向かっていくが、オットーが足を止めた。
「何してるんですか! 早くいきますよ!」
「待ってくれ。この先は貧民街だ。」
「それが何か? 危険なのは承知の上です。」
「そうじゃないんだ、アカネ そうじゃない」
オットーは頭を掻いてどう説明すべきか考えているようだ。私は時間が惜しいので彼にハッキリ言うように強く言うと彼は固く結ばれた口を開いた。
「アカネ、思うんだけど実はコレこそが最悪のシナリオへの道なんじゃないか?ミサキと言う災厄のアイドルに貧民街っていうステージ。観客は人生そのものを乗りで生きているような阿呆なギャング・・・・正直嫌な予感しか・・・」
私はオットーの腕を引っ張って向かわせようとするが、オットーはその場で踏みとどまっていこうとしない。
パワーではこちらが勝っているのでそのまま引きずっていこうとするが、それでもみっともなく抵抗する。
今年で26になるいい年いた男がまるでおもちゃ売り場で駄々をこねる子供の用に手足をじたばたさせてあがく。
「わかってんですか?! ミサキも危ないし、何より彼女が泣いたらどんな天変地異が起こるか・・・・それぐらいわかるでしょ?!」
「知っているよ!彼女が泣いたら、ぺんぺん草も生えないのは知っているさ!」
ミサキ・ホーキンスで注意することは多く存在するが一番心配しなくてはならないのは泣かせてはいけないことだ。
神に愛されているのかどうか、わからないが彼女が泣くことだけは何があっても避けなくてはならない。
平常時ですら国家を転覆させ、ISを撃墜できるほどの災厄っぷりだ、泣いたときはその十倍の被害が約束されるだろう。
あの愛くるしいクリッとした碧眼が水滴でぬれれば、半径3kmは離れたほうがいい。
そのときだった、快晴だったはずの青空にどす黒くも思える大きな雲が日光を遮り、雷が鳴り出した。
犬は狂ったように吠えだし、カラスも雀も一斉に逃げるように飛び出し、街灯が意味もなく点滅する。
まるで世界が永遠の闇にでも包まれるかのような、何とも言えない空気が流れ始めている。
この場にいる野生動物たちが一斉に恐怖を感じ始めている。
それだけではなく、家の中にいる赤子の鳴き声が一斉に聞こえ始めた。
間違いない、あのバカたちはやらかしてしまったのだ。
禁忌を犯してしまったのだ。
「ああ、ついにやってしまったんだ・・・・もうだめだ・・・」
オットーがうなだれる。世界の終焉が始まったかのように手足から力を抜いてしまっている。
昔の話をすると、ミサキが泣いたのを初めてみたのは6年ほど前だ。歌手になる、と言ったミサキを大人たちは応援して子供用の歌手コンクールに参加した。ミサキは外見と歌唱力などタレントとして一級以上のものを誇っているため、優勝は確実と思われた。
ところが、トラブルが起きたのだ。決勝で相手になった娘の母はステージママでポッと出のミサキに悪感情を抱いており、これから歌が始まるという所でどこから連れてきたのか知らないが、今日のような お馬鹿な連中で連れ去ろうとしたのをそこに居合わせら私が
抵抗して殴られて額から血を出したのを見て泣いた。
次の瞬間、観客席の男たちが一斉にステージ裏に入り込んで来たのだ。
しかも、どこから持ち出したのか、民間向けのAR15系を携えてだ。
観客の内30人ほどはレーガンさんとあの人が連れてきた元同僚や戦友たちで海兵隊、レンジャー、中にはシールズまで混ざっており本物の軍隊がレスキューしに来たのだ。
それだけでは終わらない。それをカチコミだと勘違いした孫娘の勇姿を見に来たコーウェンのおじいさんが部下全員に迎撃態勢を取らせて、トミーガンやらBARやらを持ってやってくるわで、ここにギャングに軍人崩れにマフィアの三つ巴の銃撃戦が始まった。
そこからはノンストップだった。
小銃同士の打ち合いのはずが、M2重機関銃をのせたトラックが来たり、馬に乗った騎兵隊が来たり、エイブラムスが来たり、でめちゃクチャになっていき、さらに警官隊が突入し、四つどもえに。
自らの存在を否定する集まりと勘違いしたハードレザーに身を包んだオネエな人たちも来て、戦いは流し台に便器まで飛び交う場となり、劇場は崩壊した。
さらにはハリケーンが来てピンポイントで劇場とステージママの家を落雷が直撃し、戦いに決着をつけさせて去って行った。
ただ一点のみを狙った落雷は知る人は皆恐怖したのだ。
ミサキには雷の神が少なくとも護衛していると・・・
ちなみに この謎の気象は現在大学で研究されている怪現象だそうだ。
一部では衛星兵器とか言われているらしい。
こうして、あらゆる人間を巻き込んだ事件であったが死者ゼロの奇跡的な数字で、ミサキ歌手デビュー事件は終了した。
被害と言えば、戦争に参加した人間とそれにまつわる書類の山をかたずけるのに奮闘した病院や警察の職員たちだ。
あと、私。
瓦礫の並ぶステージの真ん中でいつの間にか復活していたミサキが歌っているのを聞いてスカウトされたのは彼女の持つ悪運ゆえの芸当だろうか。
故に行かなくてはならない。
「行きますよ、オットー」
過ちを繰り返さないためにも
私はメガネを外し、戦場へと向かう。
一方そのころ
ホテルの一角で行われている暴動をしり目に俺は椅子に縛り付けられている。
下では暴徒鎮圧弾や催涙弾が持ち込まれているらしくお祭り騒ぎとなっている。
だが、今の俺にそれを気にする余裕はない。目の前では拷問官のように俺のナイフをいじりながら鼻歌を歌っている簪がいるからだ。
「ねえ、ユーリ・・・私じゃ不満?」
「簪、違うこれは誤解なのだ。俺にはそんな趣味はない」
フーンと全く信じてないような声を出して、ナイフに自分の顔を反射させる。
何故こうなったか俺は足りない頭で考える。あのホテルのフロントの余計なひと言だろうか?それとも元からコンプレックスか何かだったのだろうか?
しかし、どのみち考えてももう遅い、俺の前には死神が一人そこにいるのだから。
その時、扉が開かれた。救援か、と一瞬期待した。
「ったく あのフロントの下種野郎めえ」
「お帰り、鈴」
入って来たのは鈴で俺たちの様子を見てひきつった笑みを浮かべている
「・・・何してんの? もしかしてアタシお邪魔だった?」
「・・・そんなことない」
そう言って簪は雑誌を鈴に手渡した。
鈴は首をかしげてそれを読みだした。ページをめくる手は最初こそゆっくりだったが段々スピードが上がっていくのがわかる
同時にこの後の俺の運命も
たった一つの判断ミスが人生を左右したようだ。あの時雑誌を捨てておけばよかったのだ。
鈴は雑誌を放り投げて指を鳴らす。
「OK ユーリ、アンタ面白いやつなのね。」
ニタニタ笑って襟をつかんでいった。
「殺すのは最後にしてア・ゲ・ル」
そして扉は無情にも閉められた。
あと一話でコメディ終了です。
次は休暇{シリアス}と悪役と言えば・・・な人たちの話をして学園にしようと思っています。
感想、批評 お待ちしております。