IS to family   作:ハナのTV

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これにてコメディ終了です


the players 4

「サツだ!」

 

仲間が叫ぶのが聞こえる。トレーラーハウスを拠点としている俺たちにとっては予想もしえなかった事態だった。パトライトを光らせた車両が狭いトレーラーハウスの間を巧みにすり抜けて次々と侵入してくる。

一部の仲間が拳銃で応戦するが、完全に防弾装備となっているパトカー相手に全く通用しない。

 

それどころか、撃った者から警察官に狙われて、逮捕されていく

パトカーから身を乗り出した警官がゴム弾入りの散弾銃で馬上射撃をするカウボーイのように打ち倒していく。

 

中には白バイから投げ縄のように長い手錠を投げつけて逮捕する者すらいる。

しかも、スポーツでいい汗を流しているかのような弾けるような笑顔でだ

 

まちがいなく第12分署のイカレ野郎達だった。

 

今まで、目に着かないように慎重にやってきたはずなのに、嗅ぎ付けられるとはだれも考えなかったからだ。周りでは蜘蛛の子を散らしたかのように老若男女関係なく、右へ左へと逃げようと走る。

 

だが、状況はよくわからないの一言だった。

雷が落ちてトレーラーを狙い撃ちにしていき、そのたびに逃げ道が塞がれていく。

関係のない物には全く落ちないという都合のよさまで感じられる。

まさか、六年前に使われたという、神の杖なる衛星兵器が俺たちを狙っているのだろうか?

 

 

学歴が皆無と言っていい俺の頭でも逃げなくてはならないのは理解できる。人ごみの中へと入って逃げようとしたところ、腕をつかまれて俺の足は止められた。

振り返るとエレンがいた。

 

「何すんだ!?」

「ねえ、アンタ大変だよ! あの子が・・・ミラがいないんだよ!」

 

俺はそれを聞いて逃げることを頭から切り離した。それは今後の俺たちを左右する重大な案件だからだ。これによって俺の未来の預金通帳の額が桁違いに変わるというのに、この女ときたら連れた魚を海に放るようなまねをしてくれたのだ。

俺は今までにないほどの音量で怒声を放つ。

 

「馬鹿野郎! あれ程見張ってろって言ったろ!」

「だって・・・」

「だっても糞もあるか!? どうすんだよ、コレ!」

 

ありとあらゆる罵声を浴びせていると、状況はさらに悪化の意図をたどっているのに気付いた。耳にヘリコプターの音が届いた。

上を見上げると、警察用のヘリコプターどころの騒ぎではなかった。そんなものより大きな真黒なヘリコプターが来ていた。

 

そこから降りてきたのは明らかに警察ではない。映画で見るような特殊部隊の様なそれだった。デカい銃に迷彩服の上にゴテゴテとつけられた装備に不気味なガスマスクをつけてヘリから降下してきたのだ。

 

それだけでない。防弾のリムジンすら来た。

中から スーツで身を固めた古臭いマフィアがぞろぞろと現れて出てきた。

手にはMP5サブマシンガンを持っている辺りから、どう見ても親しげな雰囲気ではない。

 

俺はあらゆる犯罪に手を染めてきたが軍隊まで呼ばれるほどの物はしてないはずだ。

コーウェンを怒らせたことはないはずだ。

完全に俺の頭が混乱していた。

どこで、間違えたのだ・・・周りを見渡すと、そこには俺の気づいたものすべてが崩されているさまが広がっていた。

 

燃えるトレーラーハウス。あふれるワーカーホリックな警察官に古典めいたマフィアに

訳わからん軍隊らしき集団。混乱に拍車をかけているのがたがいに撃ち合っているということと落雷によってランダムに被害を受けているということだ。

 

逃げるギャングに追う警察。反撃するギャングに警察、警察に攻撃するマフィアにそれを制圧しようとする軍隊。軍隊は警察を援護すると思いきや攻撃してパトカーを吹き飛ばす。

負けじと警察のヘリ隊は黒いヘリコプターを追い回す。

さらに落雷が来て、黒いヘリを叩き落とし、墜落していく

 

宙を舞う巻き添えにあった仲間に、ロケット弾が空を切る。

崩壊する俺の人生プラン。終わりを告げる わが人生。否、これは始まりなのだと気づく。

俺の暗く負けに満ちた人生の始まりなのだと。

 

「アンタ、アレ!」

 

エレンが叫んで指さす。何だ、と思いながら見ると、そこには金髪のショートヘアでラフな格好をしている少女。間違いない、火中のクリならぬ戦場の中のミラだった。俺は奇跡にも思える、この発見に狂喜乱舞しつつ、走っていく。

 

「ミラ!」

 

こっち来いと告げようとしたところ、彼女に近くに一人の人影が見えた。

その男はボストンバッグを背負った煤だらけのスーツ姿で品のよさそうないけ好かない感じの男がいた。

 

普段ならカツアゲのカモにしか見えないであろう男のはずだが、その姿には鬼気迫るものがあるというか、根源的な恐怖を感じるような、とにかく纏っている雰囲気が違うのだ。

 

「・・・やあ、待っていたよ」

 

フフフと、地獄の底から湧き出てくるような低い声で目を光らせて男は笑う。

誰だ、誰なんだコイツは

 

「何でコイツがここに・・・」

 

エレンがそうつぶやいて、ピンときた、あの間抜けな亭主なのだ。

その証拠にふぁざこん娘のミラはパパと呼んで男の背中に隠れている。

 

「エレン・・・会えてうれしいよ。 話をしたかったんだ。何すぐ終わる話さ。

その前にやることがあるけどね・・・」

 

亭主は懐から銃を抜く。古めかしいリボルバー拳銃だ。

その顔には一切の迷いが見られない。戸惑いも、引き金を引くことへのおびえも全くない。

完ぺきにヤル気でいる。

 

「お、お前マジで撃つのか・・・娘の前だぞ」

「必要なら撃つさ。君らの様な人間、特にエレンの様な親を認めようとは思わないので・・・」

 

チャンスだった。男が話に気をそらしていることに好機を見出した。

俺は黙って聞くことを選ぶほど寛容ではないし、忍耐深くもなかった。俺はポケットから銃を引き抜いて亭主を撃った。

亭主はあっけなく倒れた。

 

「パパ!」

 

ミラが亭主に駆け寄って、安否を確かめると亭主は低く呻いて起き上がろうとする。

そこをすかさず蹴り飛ばして俺は亭主を足蹴にして銃を奪い取った。

 

ミラが俺を退かそうと噛みついてきたが、構わずに殴って飛ばした。

ミラは口から血を出して倒れた。

「ミラ!」

「へっ 格好だけじゃねえか。銃もお前自身も」

 

奴の銃を見てみると入っていた弾は空砲だった。撃ったところで何の効果もないからの弾丸でこの俺を倒そうとしたのだ。

間抜けな男だ、と俺は心底見下すが、どうじにこの男が俺の組織を壊滅させたという発端と考えると制御不能な怒りにとらわれる。

 

「てめえのせいで俺の気づき上げてきたものすべてが崩れ去っちまった・・・・・

せっかくアイドルも拉致って 金持ちの家吹っ飛ばして 女尊男卑のゲイシャとのコネもできたっていうのによお・・・そのツケを払って・・・」

 

「待てよ。」

 

後ろから声が聞こえた。誰だと思いつつも振り返ると、拳銃を握っていた手に衝撃が走った。透明人間にでも殴られたかのような衝撃が伝わり、あまりの痛みに俺は喚いた。

痛みで手を押さえながらも、声のした方向に視線を送ると10m程先のアフロヘアになった黒こげになった赤毛のガキが陽炎がでている拳銃を握って立っていた。

 

ヤツは拳銃の身を狙って叩き落としたのだ。

ガキのくせにと思いたいが、ここは従うしかない。

 

「くそッ 何だお前。何の用で・・」

 

ガキは答えた。

「俺はな、今日と言う日にこんな目に合わせてくれた奴にお礼しようと思ってきたんだよ。

お前のせいで散々な一日だったよ。落雷はくるし、変な親父の事件には巻き込まれるわでな・・・でも、それもどうでもよくなったかな」

「ああ? どういう意味だ?」

 

ガキといい、この亭主といい、皆訳わからんことを抜かす。

 

「お前気づかないのか?」

 

ガキは問いかけてくる。一体何にきづくというんだ

 

「この距離で俺の声が聞こえることに疑問はないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺ははっとした。さっきまで戦争中で銃声やら怒声やらでうるさかったはずの場所で10m先のガキの声が聞こえる。おかしい。確かに言われてみれば、おかしい。

俺は耳をすました。無音だった。静粛に包まれていることにようやく気付いた

そしてもう一つ、俺に視線が向けられていることにも。

 

俺はゆっくりと振り返った。

皆が俺を見ている。神妙な顔つきで見ているものから薄ら笑いを浮かべているものまで、加えて俺の仲間までもだ

 

「そうか・・・・僕の部屋を吹っ飛ばしたのは君だったか・・・」

 

汚れまみれの白髪の少年が言う。

 

「ゴッドに手を出したものの主犯はお前か・・・・」

 

マフィアのお兄さんが言う。

 

「君には黙秘権がある・・・・もっとも生きていたらだけどね」

 

にやにやと警官が笑う。

 

「兄ちゃん、アイツを倒したら司法取引受けられんじゃね?」

「さすがだブロ」

 

仲間が銃を向ける。

 

俺はガキの方を見やる。ガキは憐れんだ表情で俺を見ている。まるで、これから薬殺される解剖用のマウスを見るかのような目だ。

おもむろに空を見上げてガキは天を指さして言った。

 

「ああ・・・その・・・何だ・・・強く生きろよ」

 

そして、俺の頭上にカッと閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びえええ、と泣く声が聞こえる方向へと走り、倉庫に見えるバラック群にたどり着いた。

発信機をたどっていく。

 

わかれる前と少しも変わってない小学生ぐらいの鳴き声だ。

おかげで、私が見つけやすくて助かるが、問題がある。

 

ピシャンと音が鳴り雷が一つのバラックを直撃した。

そう、彼女の近くに行けばいくほど、雷による攻撃が激しくなるのだ。神様にここまで愛されているのが彼女だ。まったくもって過保護なほどの扱いで私が泣きたくなる。

 

久々の親友とのお出かけがいつの間にか艦砲射撃めいた雷の弾幕を突破する、ファンタジーな戦場に立っているのだ。

 

代わってもらえるなら代わってほしい。だが、代わってくれる人はいない。

オットーは重要物資を取りに行ってくると言ったきりだし、こんな時に限って弾たちには連絡がつながらない。

 

帰って、もし仮に女の子口説いていましたなんて言ったら、象撃ちライフルで粉にしてやる、と心に決めて私は深呼吸を一つする。

 

声の方角を確認し、距離を発信機から大雑把に予測して600m程。

ハンカチを鉢巻のように頭に巻き、私は走りだした。

 

走る、走る全力で、駆け抜ける。雷がひりそそぐバトルフィールドを縦横無尽に走り続ける。止まれば、黒こげになる。それはもうつま先から頭のてっぺんまで真黒になって隅になる。

 

次の瞬間、雷が収束しだした。まるで荷電粒子砲のように太い閃光となってすぐ近くのバラックを消し飛ばした。

 

「ミサキ! 貴方はどれだけ、非科学的なんですか!」

 

さらにいやらしいことにレーザサイトのように点から光が差し、その地点に荷電粒子砲がの雷の剣が刺さる。

 

1. 2ジゴワットの雷神の鎚が私に狙いを定めようとレーザーサイトを動かしてくる。

最早物理法則も関係ない、全力でミサキを防衛しようとする神々の悪戯の嵐を私は走り抜ける。

 

大地が焼かれて、バラックが燃え、そのたびに服がボロボロになっていき、もう服として機能しているのか危うい状態となっていく。

 

あれこれしてるうちにミサキの姿が見えた。

大粒どころか滝のように涙を流して泣いている。

 

「ミサキ!」

 

私が名を叫ぶと、ミサキがこっちを向いた。

 

「うう・・アカネェ・・」

「もう大丈夫ですよ。さ、泣くのをやめて・・・」

 

雷を降らすのを止めて下さい。

 

「でも・・・・雷怖いし・・・」

 

アンタが降らしてるんだよ・・・と叫ぶのをぐっと堪えて私は説得を続ける。

 

「大丈夫、私の手を取ればそんなの些末なことになりますから!」

 

精一杯の笑顔で応対する。しかし、後ろをちらりと見るとレーザーサイトがゆるりと近づいてくる。獲物に狙いを定めた蛇のように確実に近づいてくるのを見る。

ミサキが泣くのをやめるのが先か、私が焦げるのが先か。

 

いよいよもって泣きたい。何で私は命がけのチキンレースなんてやっているんだろう?

 

「アカネェ・・」

「何です?」

「アイスクリーム・・・」

「・・・・はい?」

 

こんな時になって何を言い出すのかと思う。早くしてくれないと私は青春真っ盛りの時期にウェルダンの焼き具合なステーキになって死ぬというのに。

 

「・・・・アイスクリームが食べたいよぉ」

「貴女は私とアイスクリームどっちが大事なんですかあ!」

「アカネが怒った~」

 

再び鳴き出すミサキ。あと10秒もしないうちにやってくる荷電粒子砲。やるべきことはすべてやった。そして今からアイスクリームを買いに行ってる暇はない。親友でありながら、そこに気付けなかった自分の考えの至らなさに後悔を覚えるのみだ。

 

万策尽きた。

 

 

 

「アカネぇ!!」

 

そこに現れたのはグリーンの香りするヒーローでも白馬の王子さまでもない、あの

弱虫オットーだった。片手にはクラシックアイスクリームを手にしている。

 

「コイツを使え!」

 

オットーがアイスクリームを投げる。そして、すぐさま雷の餌食となるオットーを横目で見て、レーザーサイトの動きを見ながら私は駆け出し、ジャンプした。

 

「間に合えぇぇ!」

 

空中でキャッチし、蓋をあけてスプーンですくい、ミサキの口に入れた。この間、二秒と経っていない。これで効いたか?

私は固唾を呑んで見守った。頼む、いってくれ

 

「おいしい・・・おいしいよ、アカネ!」

 

パアア、と笑顔になり、さっきまでの涙もどこかへ行ってしまった。

天上からは光が漏れだした。どす黒く思い雷雲は消え去り、焼けただれた大地をいやすかのように、日光が全てを照らした。

 

真黒こげになりつつもオットーが起き上がって、ガッツポーズをとる。

私は戦いが終わったことを全身で感じ、涙さえした。

 

ミサキがアイスクリームを頬張りながら言った。

 

「今日は楽しかったね、アカネ」

「・・・ええ」

「また一緒に遊ぼうね。」

 

ニコッと笑ってミサキは絶対順守の笑顔を振りまく。その可愛さに私は思わずうなずいてしまった。

人は過ちを繰り返す。

私はまた犯してしまっているようだ。

 

だが、戦いは終わったのだ。これ以上ない喜びに浸り、今は生き残ったことを喜ぼう。

 

と、その時サイレンの音が近づいてきた。見るとパトカーだった。

出てきたのは如何にも昼行燈な中年だった。

中年警官は私を指さして言った。

 

 

「容疑者 確保」

 

そして私の手に手錠がかけられた。

私は消えるような言葉で言った。

 

「燃え尽きたよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、エレン。」

 

俺は目の前の光景に戦慄している。

憎き、間男が雷で撃たれて焦げて、向うでヴィンセントとマフィアと警察たちが誰がコイツを処分するかでもめている中、ダグラスさんは妻に向き合っている。

 

「パパ…」

娘さんは心配そうな目で見ている。

 

それをダグラスさんは心配しなくていい、と言って宥め、目の前の妻に話しかけている。

 

「さて、君は自分が何をしたかわかっているかな?」

 

ダグラスさんが怒っても笑ってもいない表情で問いかけると、妻はしどろもどろに答える。

 

「わ、私が何をしたかでっすて? 」

「そうだ、わからないなら教えるよ」

 

ダグラスさんは一枚の書類を出した。この一からでは何を書いているかはわからないが、大事な書類の用で厚い封筒に入っていることからソレがうかがえる。

 

「私も知らなかったよ。ミラの才能について・・・・君は私に飽きて間男とくっついた揚句に、ミラを利用しようとしたんだ。IS適性Aプラス。極めてSランクに近い10万人に一人の確率の才能。私はあの子が聡明な娘なのは知っているが、これは知らなかったよ」

 

聞いたのは、とんでもない話だった。ISランクAプラス。俺の妹の蘭はAでかなりの自信をつけていたが、それを超える才能だ。欲しがって手に入れられるようなものではない。

ミラと呼ばれる少女には今のご時世には最高の才能があるのだ。

 

確かにコレを利用すれば、巨万の富と栄誉が手に入ることだろう。最も本人が望んでいるならの話だが。

 

「親が娘の才能を使って何が悪いの?」

「娘の将来を勝手に決められるほど君は誇れる親かね?だから、許せないんだ。

生憎と私はいい人間ではない。君には恨みもあるし、殺意もある。だから・・・」

 

ダグラスさんはボストンバッグから短銃身のショットガンを取り出した。

引き金に指を掛けて構える。

俺は制止しようとM9を向けて叫ぶ。娘の前でソレだけはしてはならない。

 

「ダメだ! ダグラスさん、それだけはダメだ!」

「パパ! やめて!」

 

だが、ダグラスさんは見向きもしないで怯える妻に銃を構えたままだ。

 

「電話で言ったよね? 話がしたいと・・・だから話をしよう。私は君に仕事を見せに来たんだ。でも、ついでに神から与えられし使命を果たそうと思う。」

 

「! やめ――――」

 

そして引き金が引かれて轟音が鳴った。ダグラスさんは何の迷いもなく引いた。

ミラが音に驚いて目をつむり、俺は目の前の状況に呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々なものが飛び散っていた。

 

 

 

 

 

赤くはためくリボンに、万国旗。造花の百合に綺麗な紙ふぶき。

飛んでいったのはクラッカーに入ってるようなパーティグッズの中身だった。

 

そこに一枚の離婚届の紙が投げられた。

 

「えっ・・・・」

 

ミラが目を開けて驚き、恐怖に震えていた妻の頭にリボンや万国旗が覆いかぶさったのを見た。

ダグラスさんは笑い声をあげて妻を見た。ショットガンを肩に担ぎ愉快そうにいった。

 

「殺すと思った? まさか、そんなことはしないよ。」

 

さらに笑ってつづけた。

 

「この前、TVとか映画関連の会社に就職したんだ。日本支部だけどね。ドラマのセットとか、ドッキリ用のグッズとかつくるところにね。中々リアルだろう? これが楽しくてねぇ・・・・それはそうとソノ書類にサインしてあげたよ。これで晴れて離婚成立だ。 ただし、ミラは私が預かる。」

 

妻の顔が絶望に染まっていく。サーっと顔が白くなっていくのが見て取れた。

 

「そ、そんなことが・・・」

「何なら裁判所に来るといい、今の今までを全て話せば、私か君かなんてことは些細な問題だろうさ。」

 

言い放ったのちにダグラスさんは娘の方に振り返った。

 

「パパ・・」

 

娘のミラは小さくいった。芽生えだした喜びと一緒に

 

「言ったろう、驚かせるって。 二重のドッキリさ・・・・待たせたねミラ。これからは一緒に暮らそう」

 

ミラはダグラスさんに抱き付いた。もう一生離れない、そんなこと親子は言っていたのを俺は戸惑いながら見て、疑問を口にした。

 

「・・・・じゃあ、今までのドラマのステージガンだったんですか?」

「ん? 気が付かなかったのかい? 」

 

ダグラスさんはうれし泣きする娘を抱きしめながら言った。

 

「君、銃器に詳しそうだから気づいていたと思ったんだけどなあ。ファーストフード店で使ったやつなんて、特にそうだよ。薬きょうが出ない奴だからモロばれだと思うけどなあ。」

 

そういわれてみれば、思い出した。確かに薬莢なんて出ていなかった。床に転がっているはずの物がなかった。なぜ気づかなかったんだろう。

この人の迫力のなせる業か。

 

「じゃあ、ロケットランチャーは?」

「私みたいなオヤジが銃器と弾薬だらけのボストンバッグを持てるわけないじゃないか。

あれは強化プラスチックで作った偽物だよ。着弾時にかんしゃく玉みたいに破裂するぐらいさ。時々火薬の量を間違えちゃうけどね」

 

俺は全身の力が抜けた。最初から、この人は殺すつもりもなかったのだ。ドッキリして終わらせるつもりだったと言うのか。

 

安堵と脱力感でへたり込んだ。同時に こんな復讐の仕方もあったのかと感心した。

キッチリ復讐もして娘も取り返す。

 

「全く持ってアナタは大した人ですね」

 

「そうでもないさ、君のおかげでこれた。二度も助けられた。おかげで娘を連れて帰れる。

・・・ありがとう、少年」

 

フッとほほ笑む。俺もそれにつられてほほ笑んだ。

 

「今度はレストランに行かないか?」

 

俺は頭を振って遠慮した。もう、巻き込まれたくない、と言うのもあったが、もう一つ大事な理由があった。

 

「・・・・俺はいいですよ。 お二人で楽しんできてください。」

 

夕日の中、連れて帰っていく姿を見る。二人はこれから何をするか、どこに住むかを話し合っている。

きっと素敵な家族なのだろう。二人の絆は深く、誰よりもお互いを想っているに違いない。

 

俺はその場に大の字になって寝転がった。

二人の幸せを願いながら。

 

その時、一人の人影が来た。見知らぬ人だった。

 

「いい話だな・・」

「・・・・そうですね」

「ハッピーエンドっていうんだろうな。一日の終わりがアレなら男冥利に尽きるってもんだよな。」

 

そう話しかけてくる人は語る。いったい誰なのだろう。問いかけようとしたところ。

カシャンと金属音が鳴った。

 

「・・・カシャン?」

 

よく見ると両手に手錠がはめられていた。

 

「だが、君は違う。ちょっと署までご同行願おうか」

「・・・何の容疑で?」

「騒乱罪かな。」

 

俺はダグラスさんの後ろ姿を指さして言った。

 

「アッチは?」

「おもちゃで強盗撃退で相殺かな。」

 

親指を立てて警官は笑顔で答えてくれた。

 

そして俺は連れていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい一日だった・・・」

 

ホテルの廊下をケプラージャケットに身を包んだ煤まみれのヴィンセントが言う。

 

「ひどい休暇でした・・・」

 

警察署で、婦警に同情されて、婦警の私服のゴテゴテのボンテージの様な服を貸してもらっているアカネがつぶやく。

 

「ひどい扱いだった・・・」

 

でこの部分をさすりながら俺は言った。

警察署で散々質問攻めにされて解放されると思いきや、おとがめなしと言うわけにはい赤ないと言われて、スタンガンの実験台にされて気を失っていたのだ。

 

全く持ってロクな一日ではない。感じなくてもよかった恐怖におびえて、拉致られて、逮捕されてこれほど不幸がギュッと凝縮された日はないだろう。

 

今日の被害をまとめるとヴィンセントが合計34万ドルの損失と心身のダメージを負った。

アカネは精神的疲労と衣服の焼失、そして、それによって起きた羞恥な体験だ。

俺は気づかれで、だ。

 

休暇は始まったばかりだというのに、一日目から全く休めなかった。出鼻をくじかれたというべきか、とにかく今日は疲れた。

 

休日まで戦わなくてはならないなんて何のジョークなんだろう。

 

「こんなことならユーリのように休んでいれば良かったか?」

「そうかもしれませんね・・・」

 

アカネが自分の服装を見られないように俺の背中に隠れて言う。

本人曰く恥ずかしくて死にそう、と語る。

 

「だが、これで休めるはずだ。温かいベッドに食事、ここまで生き残った僕らの勝ちさ。」

「果たしてどうかな?」

俺が疑問を口にするとヴィンセントが疲れ切った眼でその訳を聞く。

 

「どういう意味だい?」

「俺たちの一日はまだ終わってないってことさ。 考えてもみろ、これ以上はもうないだろうと思ってたことが今日はどれほどあった?」

 

ヴィンセントとアカネは疲れた頭脳で考えて、その問いに答える。

 

「確かに、終わったと思ったら逮捕されましたし・・・・」

「僕のブラックホークは堕ちたし・・・」

 

だが二人は口をそろえて言った。

 

「でも、これ以上のことはないはずだ!」

 

それは事実ではなく祈りだった。せめてこうであって欲しいと願う切実な願いに違いなかった。だが、現実は何時だって俺たちに厳しかったではないか。

 

今回は違うという保証はどこにもない。

 

「とにかくだ、今日は部屋に入ったら僕は寝るからな。」

「私も今日はもうゆっくりしたいですね。」

「ああ、それは俺も同感だよ。」

 

三人合わせてため息を吐き、スイートルーム皇宮のカード―リーダーにカードキーを置き、

部屋を開くと、そこには椅子に鎖と縄で縛られているユーリの姿があった。

 

「ユーリ・・・?」

 

俺が言うとユーリはゆっくり目を開けていった。

 

「ヴィンセント・・・・すまない友よ。」

「何を言って・・・」

その時、天井から声が聞こえた。

 

「Hello 発音はあってるかしら? ヴィンセント。」

 

この声は鈴だ。気づいたら、いつの間にか後ろにいたのだ。

俺達が目を向けると、そこにはどす黒いオーラを放ち、まるで「死」という概念がそのまま実体化したかのような邪悪な者に見えた。

 

「り、鈴。 待てよ。話が分からないんだ・・・なんなら食事でもどうだい。桃源郷の料理でも食べて、仲良く話せば、そんな怒ることないってすぐわかるさ、な?」

 

ヴィンセントはそう言うが、鈴は答えない。

 

「そ、そうだ。なんなら全部僕が奢ろう! な、それで・・」

 

必死に命乞いをするヴィンセントに鈴はつかつかと早足で詰め寄る。

 

「アタシに何の一言も言わずにどっか行って・・・ホテルに着いたら会えると思って来て見れば居なくて・・・しかも、脂肪の塊がデカい女の子の写真集を一冊だけでなく五冊も買ってて・・・これもひょっとしてアンタの趣味なの? 女の子をからかって弄ぶのがそんなにいいんだ~ 」

 

鈴が言葉を発するごとに部屋の気温が下がっていく。ヴィンセントは己の運命から逃れようと口を開こうとするが、何を言っていいのかわからず右往左往する。

 

「ま、待て・・・!」

「地獄に堕ちろ・・ヴィンセント!」

 

鈴が猫のように飛びつき、ヴィンセントが悲鳴を上げる。その様は山奥でグリズリーに襲われているハンターの用だった。

部屋の絨毯に赤いしみが広がっていくのを俺とアカネは白目で見ていた。

 

「悲しい・・・この世は悲しい。」

「ええ、悲しすぎますね。」

 

ヴィンセントにせめてもの供養の言葉を唱えて、俺たちは目をつむった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん? 少年じゃないかぁ! 奇遇だな、こんなところで!」

「アレ、アカネだ! おーい、一緒に遊ぼうよぉ! アカネってば!」

 

それも、この二つの声が聞こえるまでの話だった。

 

 

 




これにてコメディ終了です。
急展開すぎたかもしれんせん。

次からシリアスです。
よろしくお願いします
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