IS to family   作:ハナのTV

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待ち合わせの時間まで大分余裕がある。腕時計を見ながら私はニコニコとしてテーブルに置かれた物に目を輝かせる。

 

お気に入りのカフェのテーブル席に座りながら、私は一人私服姿で巨大なパフェを楽しむ。この楽しみは女の特権かもしれない。男の人から見れば、チョコレートやクリームにアイスと脂肪と砂糖の塊の高さ30cmの巨大な塔を見れば、誰もが見るだけでむな自棄を起こすだろうお菓子の城を私は攻略する。

 

ひんやりとアイスクリームと濃厚なホイップクリームを一緒に口の中に入れて至福の時間に酔いしれていると、携帯の着信が鳴った。

 

水を差された気分になりつつも、電話の相手がかんちゃんだった場合は大変だとおもいながら電話に出ると、相手は低い声で聞いてきた。

 

『・・・今どこにいるの?』

 

電話の相手が生徒会長である更識盾無だと知り、気分がトーンダウンする。おそらくかんちゃんのことで聞いてきたのだろう。

 

気になるのなら、本人に直接聞きに行けばいいのだが、彼女はそうしないのを私はよく知っている。

外見は取り繕っても中身は臆病なのだという事を。

 

「今ですか~? 都内のカフェでスノーボールっていう所で~」

『そういうことを聞いてるんじゃないの!』

 

耳元に叱責の声が届いた。私たちのご当主様が相当お冠な様子に私は心の中でため息を吐く。

 

『貴方は簪ちゃんのお世話役なのよ? その仕事も放りだして、今まで何をしていたの?

ホテルでの一軒でも貴方を見たものはいないという話だわ。 一体何をやっているの?』

 

私は普段と変わらない口調で答える。

 

「ええ~。でもぉ、そんなこと言われましても主の意向に逆らうのも、どうかな、と思いますよ~。 それにかんちゃんは専用機持ち。私の手ではちょっと・・」

 

スプーンを動かして、ストロベリーアイスクリームをすくう。ミルクとイチゴの優しい味に感嘆の声を漏らして私は高揚する。

 

「それに、私以外ではかんちゃんを見ることはできませんよ? かんちゃんは敏感で繊細だから、変なことをすると、また距離が離れちゃいますよ~?」

 

脅しとしては陳腐かな?とは思ったけど、彼女はかんちゃんの話をすると途端に冷静さを欠く。

姉妹愛に富んでいると言えばそうかもしれないけど、私の目にはそうは見えない。

本当に大切なら、自分から謝るなりすればいいだけなのだから。

 

でも、そうしない、というよりできない。だから私を頼りにしなくてはならない。

 

家の関係で主従関係があり、立場は下ではあるが、この話題に関しては私がアドバンテージが取れる。

 

『ッ・・・・まあ、わかったわ。私はこれから少しの間学園をあけるわ。その間に山田先生たちの様子も見ておいてね・・・命令よ』

「は~い」

 

当主様は念を押すように言う、

 

『ちゃんと、お願いね?』

 

 

ピッと電子音が鳴り、通話が終了する。私は携帯を仕舞い、パフェの攻略を再開していく。

電話の最中でも休まずに攻略しただけはあって、一杯目が終了してしまった。

 

二杯目を頼むかどうかを考えながら、ふと思う。

かんちゃんは本当に不幸な娘だと。

 

きっと普通の家庭に生まれていれば、優しく大人しいままで、背負うには重過ぎるものも抱えなくて済んだはずだ。

 

年相応の恋愛をして、普通の人と付き合って幸せになる。そんなことの方がかんちゃんにはふさわしいと思う。

 

でも実際は違う。古い伝統とISができたことで復権したことだけの更識家の次女として生まれている。

だから、普通ではない生活もするし、普通ではない男に惹かれるのだと思う。

 

あの男は普通じゃない。ISでの戦いはまさに暗殺者のソレであるのは確かだと思う。

絶対防御を狙う攻撃は常套手段だけど、頸動脈や頭部、人で言う腎臓の部分を狙う人間でいう一撃必殺を狙う攻撃をするだけでなく、正確にかつ、神速で行う。

 

織班君の様な才能を見れば短期間で有徳できるように思えてしまうが、織班君も昔剣道をやっていたため、それなりに下地はある。

 

でも、あの動きは一週間やそこいらの訓練では不可能だと言える。

絶対の自信と鋼の精神がなければ、ビーム兵器や大口径の実弾飛び交うISでの戦闘でわざわざ射程の短いカービン銃と間合いの短いナイフを使うというのは、自分が最も慣れたものだという証だ。

 

その技術はどこで学んだのか、彼はどこから来て、どこへ行こうとするのか。

ダンダンやろっくうと違って目的が明らかでないのは確かに不気味と言える。

 

でも私は別段警戒はしていない。

かんちゃんは繊細だ。その彼女が選んだ彼だ。私も日頃見守ってきた。それだけに信用に足りうると思っている。

 

主人の世話をするのが私の務めなら、彼女の邪魔をしないのも仕事の内だと言える。

 

「楽しんでね、かんちゃん」

 

そんなことを一人つぶやいていると、一人の少し背の低い地味めな私服の女の子とメガネを掛けて帽子をかぶった上品そうなシャツとスラックスを身に着けた老人が店内に入り、私の向かい側に座った。

 

女の子は日差しが苦手なのかサングラスをかけていて、老人は目が悪いのか、どのきつそうな黒縁のメガネを掛けている。

 

「はじめまして、布仏 本音さん。今回は私たちの話を聞いてくれるということで、本当にありがとう。」

 

「いいですよ~。私もお話したかったんです。」

 

「それは結構。さて・・」

 

奇妙な組み合わせの二人と相対して私は本音を胸の内に隠し嘘の自分を演出する。

 

かんちゃんの幸せの次は私の幸せのために、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

快晴の青々とした空の下で、シンシティ旧市街のレトロ調のレンガでできた色とりどりのカラフルな模様をした床を蹴り、私とユーリは走る。

 

街の中で走るという行為は大抵は待ち合わせや電車に遅れそうなときぐらいだと思っていた。それ以外に起こりそうなことと言えば、誰かに追われるなどではあるけど、代表候補生としては地味で、更識の人間としては、さして重要視されてない私には無縁のことだと思っていた。

 

しかし、それが今、現実になってしまっている。一生地味なまま終わると思っていた人生が急に映画のフィルムやアニメの中のキャラクターになったかのように、非日常が現実となっている。

 

追ってくるのは日本人の集団。はっきり言うと、更識の人間たちだ。おそらく、私があの会場から逃げたのを追って来たのだろう。

 

それは、更識家が私を利用する価値のある者とみているわけではあるものの、所詮は人形としての役割しか与えてこないのだから、私が黙って従う義理は全くない。

 

ユーリもそれを瞬時に察してくれたようで、アイスクリームを買おうとしたところを捕まった私を助けて、手を握られて走っている。

 

彼は全く顔色を変えずに走るが、私はユーリほど体力がなく、息が上がってきてしまい、

少しつらく感じる。

 

「もう少しだけ辛抱してくれ。」

 

ユーリはそう一言いうと、建物の角を曲がって路地裏に入った。でも、目の前はレンガの壁で高さは2.5m程でとても通れそうにない。

 

「行き止まり・・!」

「違う」

 

ユーリは手を引っ張って強引に寄せると、私を抱えだした。

突然の行動に頭がついていかずに、顔が赤くなるのを抑えきれなかった・

 

「ちょ・・ちょっと・・!」

すると彼は腕に力を籠めだして、何をするのかと思ったら、私自身を真上に放り投げた。

宙に浮かび、スカートを向けるので精いっぱいの私は一瞬の無重力を感じたのちに落下を開始しだして、正直に言ってホテルから逃げる時よりも恐怖を感じた。

 

しかし、ユーリは三角とびの要領で壁を乗り越えたのちに私が落下し終える前にキャッチして、地面に下ろした。

 

「すまない」

 

彼は一言だけ謝罪を入れて、再び私の手を取り走り出す。

私は頬を膨らませて言った。

 

「もう少し、気を付けて」

 

そう言いつつも、さっきの一連の動きは中々、楽しく思えてきてならなかった。

これを求めていたのかもしれない。

颯爽と現れて、私をもとのつまらない人形同然の生活から抜け出してくれるような

ひと時、これが私の望んでいたものなのかもしれない。

 

もっと、彼と楽しみたい。飛んで、跳ねて、落下しての日々のメリハリと言うのだろうか、

今まで、なかった体験が私に潤いを与えてくれる。

 

そう思った私は、メガネで簡易のインターフェイスを起動して周りのデータを集める。

 

更識のものとはいえ、ここでは土地勘は全くないし身体能力ではユーリに比べて大分劣ることは明白だ。

 

更識家は暗部とは言え、所詮は公権力もない私兵集団のようなものだ。そんな集団、しかも家柄や血縁にしばられ、そこからさらに実力で長を決めるなどと言う非効率極まりない方法で戦闘員などを決めていけば、実戦経験があるものは必然と限られてくる。

 

もっともなことを言うと、この情報社会でソレが一体何のメリットを生むかも考えずに、伝統にだけに生きているような暗部にそこまでの価値があるようには思えない。

 

メリットを享受したことのない私は少なくともそう思う。

 

そんなことを想いつつも、私はユーリに相手の位置を詳細に伝えていく。

 

「次の角を曲がって、二人が待ち伏せしてる。突破できる?」

「俺を信用していないのか?」

 

仏頂面で彼は訊いてくる。

 

「結果はわかってる。」

「ならいい。」

 

少し口元に微かな笑みを浮かべて、駆け出し角を曲がると二人が特殊警棒と思われるものを持ち襲い掛かる、

 

まず最初の一人目の警棒を持つ手に裏拳を叩きこむと、手が開き、警棒を落とす。

警棒を拾いつつ、相手の顎めがけて、鋭角にひじ打ちをぶつけて宙に浮かせた。

 

血の泡を口から出しながら倒れる一人目に目が行った二人目の喉に彼は容赦なく突きをお見舞いして意識を奪う。

 

全く相手にならないことを目の当たりにして改めて彼の能力の高さに驚く。姉もそうだが、彼は本当に私と同い年なのだろうか。

 

体格はロシア出身と言う話で白人である彼ということである程度は納得できるけど、

ここまで磨かれた肉体はこの齢にしてはまれなのではないか。

 

しかも、技術は大人顔負けどころか、陸軍の特殊部隊もやっていけるだろうという体躯は並大抵のものではない。

 

いつから、彼はこういう風になったのだろう。

 

仲良くはなったし、彼も満更でもないとはわかる。話も出会った当初から比べれば、格段と話すようにはなっている。

 

しかし、私は彼の昔の話は聞いた事がなかった。

 

彼がどこから来て、どう育ったのか、それを聞いたことはなかったし、言ってくれたことも無かった。

 

ユーリが言わないのなら、聞かない方がいいのだろうか。かつての私が更識と呼ぶのを嫌った時、皆が聞いた。

 

どうして、名字で呼ばれるのが嫌なの、と。

 

いつも言わないことで私はごまかし、周りもそれを察してくれた。私もそれに倣うべきなのだろうか。

 

もしかしたら、パンドラの箱のように開けてはならない物なのかもしれない。誰にだって言いたくないことはある。

 

五反田君の家の事情のように辛すぎる思い出だってありえるのだ。

私とは比較にならないような過去だって、この世界にはいくらでもいる。

 

たとえ、傍目から見るとどうでもいいことだろう、とだ。本人にとってはどれほど大切なものかは他人ではわからない時もある。

 

それでも、と思う。

 

私は彼をもっと知りたい。

 

 

「・・・・簪、聞いているのか? 簪。」

 

ユーリの声がして私は現実世界に引き戻された。周りを見渡すと、もう更識の者は見えなくなっていた。

弐式の簡易レーダーを使っても帰ってくる答えは同じだった。

 

「撒いたようだ。」

「・・・そうだね。」

 

藤蔵に成功したのを確認し、ユーリは一つ大きく息を吐いた。そして、まだ手を握っていることに違和感を覚えたのか、彼は少しの間、握っている手を眺めてユーリは私の手から自分の手を離そうとした。

 

私はなんとなくそれが嫌で、離そうとするユーリの手をつかむようにした。

私の行動を見て彼は訊いた。

 

「こうしてる方がいいか?」

 

彼はそっと私の手を大きな手で包む。

温かく心地よい気分に浸りつつも私はほほ笑んでその疑問に回答する。

 

「・・・うん」

 

彼は何も言わずに顔を背けてそのままの状態にしてくれた。そして手を引いて言う、

 

「ようやく、逃走できたのだから楽しまないと損だな・・・あの店はどうだ?」

 

彼が指さす先にはメキシコ料理のお店があった。ちょうどお昼の時間なので、いいタイミングだ、とも居ながら私はそれに了承し、頷く。

 

そして、店の方に向かって歩こうとした時だった。

 

 

 

「その話、少し待ってくれないかしら?

 

 

悪戯っ気のある声が後ろからした。それは私のもっとも聞きたくない声だった。

ユーリが無表情で振り返る。

私も彼と同じように振り返ってみた。

 

そこには水色の髪の毛に赤い目、そして鏡に映る私の顔によく似た女性。IS学園の制服のまま、姉である更識盾無が不敵な笑みと共に、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

メキシコ料理のレストラン『悪魔 エル・アポ』の店内に俺たちは座る。

本来なら、簪と二人のはずだった食事は思わぬ客が来たことで参人に増えていた。

 

更識盾無。現IS学園生徒会会長であり、自由国籍によりロシア代表である。学園最強を自負しており、性格は妹の簪とは真逆と言っていい、自信にあふれている。また、学園の守備戦力の一人らしい。

 

今まで、俺たちの元に戦力として来たことはなかったため、実力は話でしか聞いたことはない。

 

テーブルの目の前に座る彼女は相も変わらず、笑みを浮かべてこちらの様子をうかがっている。

 

その様子はヴィンセントに通じるものがあった。笑顔で本性を隠して相手の心の内側へと入り込む。人は相手が笑っていると安心してしまうのを利用した手だ。

ヴィンセント曰く、女性がこれを使うとなると、非常に厄介だという。

 

「さて、何の話から始めましょうか」

 

楯無はコーヒーを一杯注文して俺たちに向き合う。

形のいい唇が妖艶にほほ笑む。色香を使った業もあるそうだ。

 

簪は顔にこそ出ていないが、非常に不愉快な思いをしている。テーブルの下で膝の上に乗せられた拳は汗ばんでおり、力強く握られているのがわかる。

 

「とりあえず、ユーリ君・・・私が言ったこと覚えている?」

 

楯無は俺に質問をする。

俺はその問いに答える。

 

「簪と部屋を同じにするな、というものか? この際言っておくが俺は最初から望んだわけではない。偶々にすぎない。」

「なら、変えてもいいのではなくて?」

 

その疑問に俺がどうこたえるか不安だったのか、簪がチラリと俺の方を見た。

「昔の話だ。勘違いするな」

 

近くに通りかかった店員に話しかけて、プレートランチと言うのを二つ頼んで、俺は目の前の彼女に目を合わせる。

 

「そう・・・でも私が話したいのはそのことじゃないの。もっと根本的な事なの。」

「何だ? 言ってみろ」

 

彼女は扇子を広げて口元を隠しながら言う。

挑発的な口調だった。

 

「簪ちゃんとの関係を一切なくしてくれないかしら?」

 

そのセリフにこの場の空気が凍り付いたかのような感覚になる。隣にいる簪は手を震わせている。恐怖ではなく、怒りによるものだという事は明らかだ。

 

その凍り付いた空気の中、店員がやって来て俺と彼女の前にプレートランチが、盾無の前にコーヒーが置かれる。

いかにも辛そうな外見ではあるものの、食欲をそそる、と空気には合わないことを思う。

 

俺はナイフとフォークを手にして、サラダにフォークを突き刺して口に運ぶ。

その様子を見てか、盾無が口を開く。

 

「・・・沈黙と言うことは肯定としていいのかしら?」

「期待を裏切って悪いが答えはNOだ。」

 

ミニトマトに手を出しつつ、答えて隣を見ると、簪が体を縮ませてこの場の居心地に悪さに耐えているように見える。

 

「食べないのか? 美味いぞ?」

何気なく訊くと、彼女は少し呆気にとられた顔をしたが、クスリと笑いだして見せた。

 

咳ばらいが一つ聞こえた。楯無は扇子で相変わらず顔の半分を隠すが、目から見ることのできる感情の動きは不愉快そのものだ。

 

本心から俺と簪が話し合うなどの行為を取るのが嫌と見える。

それ程までに簪に執着しているのはなぜなのか。疑問は尽きないが、俺としては目の前の彼女は招かれざる客でしかない。

 

「ユーリ君・・・あなたがどうして簪ちゃんに固執するのか・・お姉さん、疑問でならないのよ。」

 

楯無は言葉をつづける

 

「確かに簪ちゃんは私とよく似て美人よ。モノにしたいと思うのも無理ないかもしれないわ。でも、貴方はそういうのとは違う。わざわざ、Rインダストリーのマイク先生に頼み込んでまで未完成の打鉄弐式の制作を手伝った。」

 

俺は鼻を鳴らして、言う。

 

「喜ばしくはないのか?」

「そうね、貴方のように得体のしれない男でなければ感謝くらいはしたかもしれないわ。」

 

楯無は前かがみになるようにしてテーブル越しに近寄って来た。簪とは違う女性としての魅力にあふれる身体を見せつけるかのように。

簪はさらに不機嫌になっていく。

 

「ねえ、お姉さんにおしえてくれないかしら。貴方の素性を。 そして簪ちゃんの目の前から消えてくれないかしら?貴方はハッキリ言って不愉快なのよ。こそこそ簪ちゃんの周りで一体何をたくらんでいるの?」

 

俺は目線を下げて、チリヴェルデという豚肉とトマトのチリソース煮込みに視線を向けてフォークを突き刺し口に運んで頬張る。

 

「そもそも、貴方の様な男が学園にふさわしいとは私には思えないわ。あなた、福音のパイロットを殺す気だったらしいね? 躊躇いもなく淡々と・・」

 

そんな言葉を聞き流していく。今はそれよりも口の中に広がる豊かな味わいに集中する。

チリソースと豚肉がマッチして中々だ。

彼女の艶のある声を目障りなBGMにして俺はメインに集中しようとする。

しかし、唐突にフォークが叩き落とされた。

やった人間はもちろん目の前の姉に他ならなかった。

 

「大切な話をしてる時に食事をするなんて、礼儀くらいは弁えたらどうなの?」

 

俺は口元を付近で拭きながら答える。

 

「休暇を楽しんでいるときに私兵を送り、あげく昼食の邪魔をするような女にかける礼儀とやらを俺は知らん。ロシアの片田舎ではそんなものは習わないからな。田舎者で申し訳ないが」

 

あまり慣れないが、皮肉も多少こめて言う。こういう時、ヴィンセントや弾には感心する。

数秒もない中で、よく皮肉やジョークを的確に思いつくことができるものだ。

これも経験の差と言うやつだろうか。

 

楯無はフウ、とため息を吐いて言う。

 

「・・・・まあ、いいわ。忠告はしたわよ・・・・ところで、IS学園に置いて、生徒会長はある事実を証明してるって知っているかしら?」

 

楯無は扇子を畳んで、その先を俺に向ける。その仕草は首もとに剣先を向けるかのようで、

明らかな挑発とも、自信の表れとも、どちらでも見ることができた。

 

「全ての生徒の長たる存在である生徒会長は最強であれ、とね。貴方はコレを聞いてもまだ、お姉さんの話をまともに聞かないのかしら?」

 

俺は率直に答える。

 

「聞く気はない。たとえ、どれほどの称号を持とうと無意味だ。武道の達人は一生修練を重ねる。自分はまだ未熟、と考えるからだ。もしお前が 実力があろうと、その肩書きに満足してるようならば俺が警戒するほどの者ではない。そんな脅しは無意味だ。」

 

彼女はそれを無言で聞いて、全く手つかずの湯気も出なくなったコーヒーをそのままにして立ち上がった。

 

明確な敵意をはらんだ赤い目をこちらに向けて、彼女は静かに言った。

 

「・・忠告はしたわ」

 

その背中を見送って俺は簪を見た。彼女は初めて会った時の自信のない暗い顔つきになっていた。

 

「・・・ごめんね、ユーリ」

 

簪は突然、俺に謝罪の言葉を入れた。

 

「何故謝る?」

 

俺がそう訊くと簪はうつむいたまま答えた。

 

「私、お姉ちゃんがユーリのこと悪く言っているのに、反論できなくて、怖くて・・・

やっぱり、ダメだね。成長したと思ったけど、いつまでも私はお姉ちゃんに・・・」

 

「簪」

 

俺は名前を一言呼んで彼女に向き合う。

 

「君は素性も知らない俺を怖がらなかった。俺に多くのことを教えてくれた。そんな君を臆病とは言わない。」

 

それを聞いても簪はなおも食い下がる。それは違うと反論する。

 

「ユーリは私を助けてくれたから・・・」

「俺も君に助けられた。だから、臆することはない。簪、君は強い。」

 

たとえ、福音を相手にする時も暴走ISを相手にする時でも逃げなかった彼女は

自信の強さに気付いてないようだ。

 

そして、夢を追い続ける強さもあることにも。

専用機を放置されても逃げずに立ち向かった彼女が弱いわけはないのだ。

 

簪は一人考えて弱気な言葉を口にする

 

 

「できるかな?」

「無論だ。」

 

簪の手にそっと手を添える。

彼女も俺の手に触れる。

 

俺達にはそれだけで十分だった。たとえ、国家代表であろうと自身の劣等感の源である姉であろうと、それだけで誰だろうと相手にできると確信できた。

 




チンピラに恋する娘を咎める親父にも見えなくもないと友人に言われましたが、
果たして?

陣営話はもう少しだけ続きます。
次回はレジスタンス回を予定しております。

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