IS to family   作:ハナのTV

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ちょっとした幕間劇です。


胎動

夏休み、弾達が訓練をしている時期。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつからだろう、一人で外にいるのが怖くなったのは。

 

いつからだろう、同じ年の女の子と話せなくなってきたのは。

 

 

一夏は実家にいるし、他の皆は母国に戻って里帰りや代表候補生としての仕事をしていることだろう。

 

母国と言うものが実質消えた僕にとっては羨ましいかぎりだった。

故郷に、母の墓に行くことすら叶わないボクにとっては嫉妬するぐらい、羨ましい。

 

そして、学園にいる生徒の皆を見ていると胸が苦しくなる。

 

自分だけ薄汚れている気がするからだ。

 

そんな醜い考えも払しょくしようと一人でショッピングモールの中を歩き、可愛いと思った服を買いに来ているけど、今も楽しいと本心から思うことができない。試着室で着替えている今この瞬間ですらボクには怖く感じられた。

 

こうなったのは誰のせいだろうか? 僕の母のせいだろうか、ロクでもない男たちと付き合って、ボクに負の遺産を残したからか。

 

それとも父か。無策と言っていいほど無謀な戦略を思いついて、実の娘であるボクを好き勝手に動かしてきたせいなのか。

 

もしくはボクを助けに来なかったスレートか。

 

それともボク自身なのか、逃げようと思えば逃げれた。裕福な生活さえ望まなければ、自由になれたかもしれない道を閉ざしたからか。

 

自問自答したって答えは出ない。他人がこうすべきであったと後から言っても無意味なのと同じだ。人は実際にその場にいない限り、その場の雰囲気も重圧も知りえないからだ。

プレッシャーに負けて期末テストで覚えていたはずの問題を思い出せずに間違える、他人から見れば、馬鹿としか言いようがなくても、本人にとってはどうしようもないのと同じだ。

 

試着した服を鏡で見ながら、ボクはため息を吐く。

どうして、楽しい時すら悩まなくてはいかないのだろう。試着した服を脱いで制服に着替える。白を基調としたIS学園の制服が鏡に映った。

 

将来、行く当てのないボクにとって、この服はもしかしたら囚人服のように見えるかもしれない。

 

デュノア社が消えたことで、ボクは晴れて自由になったと思われているが、実際は違う。

フランス、生まれ故郷には帰れない。会社に利用された悲劇の少女として見る人もいるが、同時に自己愛から大勢の人を売った最低の女としても見られているからだ。

 

そして、こんなことをしたためか、誰と話すにも後ろ髪を引っ張られる思いになる。

 

あんなことをしたボクにそんな権利があるとは思えなくなった。

 

実際、ボクが売ったのは事実なのだろう、でもヴィンセントは最終手段として、と言っていた。いくら悪名高いRインダストリー社でも、あからさまなマネはしないと思っていた。

 

ボクばかり責められても、どうしようもないじゃないか

 

 

社が消えたことで利権を失った人間もいるだろう。

 

もし、その人がボクになんらかの刺客なりを送ってきたら・・・・?

 

ボクは一生学園の中で暮らすしかないのだろうか。日本人と結婚すればいいだろうけど、こんなボクと結婚してくれる人はいないだろう。

 

一夏という優しい人はいるが、彼を取り巻く皆を見ると、それも非現実的に思える。

ボクを選ぶよりも、ボクより綺麗で立場もしっかりした人がいるのだから。

 

セシリアが羨ましい。代表候補生で恵まれた才能に恵まれた家庭環境、生まれてからお金にも困ったことも無い彼女が羨ましい。

 

箒が羨ましい。困った時には助けてくれるお姉さんがいて、ずっと一夏だけを見ていられる彼女が。

 

ラウラが羨ましい。帰れる国があって、所属する組織があることが羨ましい。

 

 

彼女たちは恋に生きて、満ち足りている。ボクは一生学園にいるのではないか、と不安にさいなまされているというのに。

 

そう思っていると唐突に母が聞いていた音楽を思い出した。

題名は「恋に生き、歌に生き」だったと思う。綺麗な声音で歌われるオペラはボクも嫌いではなかった。

 

わたしは歌に生き、恋に生き

人様に悪いことなど決してしませんでした!

 

それを この苦しみのときに

なぜ なぜ 主よ

どうしてわたしにこのような報いをお与えになるのですか

 

と言った歌詞だったか、こんなのではなかったろうか。

 

恋もできないボクは何に生きればいいんだろう。

 

頬を水滴が濡らす。指でそっと水滴を拾い上げるように触る。

何でボクばかり泣いているんだろう。

 

「どうして・・・?」

 

そうつぶやいたところで、誰も慰めてはくれない。何故なら、ボクは一人なのだから。

 

ずっと、誰かを待っていたと言えば、そうだったのだろう。

ボクを肯定して、愛してくれて、助けてくれる。そんな人を待っていた。

それが一夏だった。

 

でも、一夏はボクにだけ特別優しいわけではない。誰にでも優しい。今までボクがあってきた人の中ではある意味、聖人かもしれない

 

見返りも求めずに、誰かを守ろうとする一夏。

 

ボクはその誰かのうちの一人に過ぎない。

 

何故ボクばかりが・・

 

「聞きたいか?」

 

カーテンの裏側から声がした。驚いたことに、話された言葉は日本語ではなく、フランス語だった。

 

「誰?!」

 

ボクはフランス語で聞き、試着室のカーテンを開いた。そこには見たことも無いフランス人の男がいた。

 

デユノア社の者かと思ったが、IS関連の人にこんな人はいなかったはずだ。

 

「フランス語はまだ覚えていたようだな。売女にしては、まだ祖国愛があるみたいじゃないか?」

 

男は皮肉めいた笑いを顔に浮かべる。ボクは政府のエージェントかと疑ったが、それにしては妙だった。男の体格はお世辞にも優れているとは言いがたい小男で、年齢も40近い

身体も鍛えられているわけでもない。無精ひげがそのままで顔は少し汚らしくも感じた。

 

髪の毛もおさまりがなく、だらしない。夏だというのに、厚めのスーツを着ている

 

「貴方は誰なんです? ボクに何のようがあるんですか? もし何かするなら容赦しないよ・・」

 

はったりでもなく、これは事実だ。このような小男は素手でも勝てる自信があるし、何より、ISラファール・リヴァイブがある。負ける要素などない。

 

「思ってないさ。俺はただの係長だったし、訓練だって受けてない。武器だってホラ、これしかない。」

 

そう言って、懐からバーコードが張り付けられた包丁を見せる。

 

「でも、君に対する怒りが収まらないんだよ。君のせいで俺は家族も仕事も失って、あげくインターネットでも無知な無職どもに好き放題言われている始末さ。どこの企業も元デュノア社と言ったら採用しないんだ・・・おかしいだろ?」

 

「それは」

 

ボクは男に向かって、事実を言う。

 

「それは貴方がたがボクを利用してきたから・・」

「そんなの知らないよ」

 

男は吐き捨てるように言った。この期に及んで何の言い訳をする気なのだろう、と思ったが、その雰囲気から恐怖を抱いた。。

調弦されてない弦楽器のような音程のずれた壊れた笑いをして言った。

 

 

「俺は・・・ISになんか関わっちゃいない。 君のことなんてこれっぽっちも知らなかったんだ! ただ、椅子に座って電話で化粧品の注文を受けていただけだぞ! なのに君が言ってくれたおかげで人生オシャカさ! 会社はつぶれて、ただの化粧品売りでしかなかったのに、か弱い女の子を利用してきたケダモノ扱いさ!」

 

男は周りも気にせずに大声で叫ぶ。周りの人たちが男が何をしようとしているのか気づいたのか、悲鳴を上げて逃げ出している。警察を呼ぶ声も聞こえてきたが、男はボクしか目に入ってない

 

ボクに突き付けられた事実は、ボクの必死の心の防波堤を崩すのには十分だった。

その言葉はボクが否定してきた人たちと同類だと言っているのに等しかった。

ボクはそれを否定しようと頭を働かせるが、男の言葉が容赦なく浴びせられる。

 

「会社がつぶれた時、さぞ嬉しかったろう?! これで自由だなんて歓喜に震えたろうよ!でも俺たちはこの様だ!  悲劇の姫様気取ってるんじゃない! お前だって社長と一緒だ! ヒトを利用するクズと同類だろうが!」

 

「やめて・・・やめてよぉ!」

 

耳をふさぎ、目をつむる。見たくもない現実と聞きたくない事実から逃れるためにだ。

違う、ボクはアンナ人たちとは違う、と否定するが、男の言うことは言いがかりでもなく、まぎれもない真実の一つだった。

 

ボクは自由のために売ったのだ。

 

 

 

「俺たちを野良犬以下にしやがって・・・君さえ、お前さえ生まれてこなければ・・!」

 

そこで動きを感じ取れた。代表候補生としての勘が働き、男が包丁を振りかざしたのが分かった。

 

ここで、リヴァイブを展開すれば助かることは確実だろう。使用する条件もそろっている、ボクが咎められることは何一つない。

 

でも、ボクは展開しなかった。したくなかった。

聞いていて思ったのだ。因果応報。自分のしたことはいつか自分に帰ってくるのだと。

 

ボクは受け入れようと思って無抵抗のまま動かなかった。

 

そうだ、これは報いなのだと、理解してしまったからだ。

 

包丁が空を切る音がした。もう少しでボクは死ぬのだろう。目を開けずに、その時を待った。

 

 

しかし、何秒たってもソレが来ることはなかった。目を開けてみると、男は地面に組み伏せられていた。

それも、私と同年代の少女によって。

その少女は長くはない黒髪で端正のとれた顔つきで帽子を深くかぶっていた。

少女は男の首に一撃与えて気絶させると、ボクの手を取って言った。

 

「来い」

 

その声に驚きつつもボクは従った。聞き覚えのある声だったからだ。

強引に引っ張られてボクはその娘と走った。周囲の人をかき分けて快足ともいえる足の速さでその場から逃げた。

 

ボクは助かった安堵感と 助かってしまった後悔の双方を感じながら、この娘の声に驚いた。

 

ボクの知っている人にあまりに似ていたからだ。

 

非常階段の裏側まで逃げて、ボクは息を切らしながら座り込み、少女を見上げた。

最初は帽子で隠れていて見えなかったが、今ならハッキリとその顔を見ることができた。

 

 

 

 

 

それは織班先生とそっくりどころか 全く同じと言っていい顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪我は?」

 

少女は短く聞いてきた。ぶっきらぼうな言い方だが、心配してくれてはいるのだろうか

帽子から見える目に優しさは見えないが、言葉をかける程度にはしてくれているらしい。

 

ボクはもう少しで死ぬところだったと今更ながらに震えた。夏の季節にこれほどふるえたことは過去にない経験だ。

福音戦とは違う恐怖だった。

 

死ぬこともそうだったが、面と向かって自己を否定されたこともだった。そして自分がもっとも忌み嫌っている人と同じと言われてボクは自我のすべてを否定してしまった。

そのことが怖かった。

 

「もう一度聞くぞ。怪我は?」

 

震えを手で押さえてボクは答えた。

 

「・・・・ないよ」

 

少女はそうか、と短く応えて、帽子をかぶり直し出ていこうとする。それをボクは彼女の手をつかみ、引きとめた。

 

「離せ。」

 

少女は心底鬱陶しそうにいうが、ボクは手を離さずに訊いた。

 

「どうして、ボクを助けたの?」

 

少女の足が止まった。早足で向うへと行こうとするのをやめた。話を聞く気になってくれたのかは、わからないが少女は鋭い目でボクを見だしたのだ。

 

「助けられたことに、不満でもあるのか?」

「・・・・違う!・・・・いや・・・違わないかな」

 

少女は振り返って真正面からボクを見る。目や口元のうごきまで織班先生が不機嫌な時と全く同じに動かしている。ドッペルゲンガーと言われれば、納得するほどに一連の動作が似ていた。故に彼女が不愉快に感じていることがすぐにわかった。

 

「何だ・・・言ってみろ」

 

刀の切っ先でも向けられているような感覚に襲われつつもボクは胸の内を話した。

 

「あの人の話は聞いたでしょう?」

「ああ、大声で喚いていたからな」

 

「ボクは」

 

一つ呼吸をして一拍置いてボクは言葉を口にする。事実でボクを傷つける言葉の羅列をボクは口にする。

 

「ボクは彼が言っていたような人なんだよ・・・・会社を売って大勢の人を不幸にしたんだ・・・・あの人には復讐する権利があったんだ・・・」

 

「だから、復讐を受けなくてはならない義務があったとでも?」

 

少女は鼻で笑いながら言った。その笑みはかつてのヴィンセントのようにも見えた。

何を言っているのか、とボクを滑稽だと笑っているようだった。

 

 

ボクは少し彼女の態度に不愉快になりながらも、そうだと答えた。

 

「君にはわからないかもしれないけど、ボクはあの時自分を消してしまいたかったんだ。

今日、いや少し前からわかってきたんだ。ボクは自分が思っている以上に汚くて、醜くて・・・その癖に何も知らないお姫様のように振る舞っててさ・・・」

 

自嘲してボクは薄く笑う。本来なら笑う資格すらない。それほどまでにボクは罪深い人間なのだから。

 

「そんな自分が嫌だし・・・世界も嫌になった。いつかボクのことを心配してくれた人が

『君はまだそっちにいるんだ。安心するといいさ・・そのまま行けば。素敵な女性になれる』なんて言ってたけど、もう無理だよ・・・ボクはそんな人じゃない。」

 

 

結局、あの男のようにスレートやボクの父や母の様な身勝手な人でしかなかったのだろう、

そのことが僕に重くのしかかる。ボクは否定したい人たちと結局同じなのだと。

汚い、醜い。

 

生血を啜って生きる吸血鬼と私は何ら変わりはない。

 

涙は不思議と出なかった。一夏に素性を明かした時のように、本当に絶望しているときは涙すら出ないのだろう。そうして眠るように目をつむったとき、少女が詰め寄ってボクを壁に押し付けた。

 

あまりの突然さに目を白黒させた。

 

「私が何故助けたかと、聞いたな?」

 

少女は目元々鋭い目をさらにとがらせて聞いてきたのにボクは頷いた。

 

「男がお前に言ったろう。生まれるべきでなかった、と私はその言葉が心底嫌いなんだ。そして、言われるがままのお前を見てイラついただけにすぎん。助けたのもきまぐれだ。だがな・・・」

 

 

少女は端正な自分の顔に爪を立てて引っ掻く、頬から血が出て白い肌を朱に染めていく。

その行為には本人にとって何か意味のある行為らしく、出てきた血を眺めて、それをボクに見せつける。

 

「見ろ、この血を、この顔を。 これらすべては私の物だ。私だけのものだ。意志も行動も全て私だけの所有物だ。それを自分の手に取り返して、何を責められる道理がある?

連中がルールとやらを守らないのなら、何故私だけが守らなくてはならない?」

 

少女は恐ろしい剣幕で持論を語る。

ボクはハッキリと疑問に思った。この少女は一体何者なのか。男に全く気付かれずに忍び寄って内倒し、とても同年代化年下とは思えない発言に、織班先生と同じような顔。 

この娘は一体何なのだろうか

 

「・・・・でも、それじゃ身勝手なだけだ。」

 

ボクは彼女に持論に反論する。それではルールから外れてもいいということになってしまう。

自分のために他人に犠牲を強いてしまう。

 

だが、少女は顔色一つ変えないで反論する。

 

「だが、人形でいるよりはいい。自己を、自分が生まれたことを否定などさせない。私はそれが一番嫌いだ。私は私だ。生きている限り、私は自分をこの世界に確固たる存在にして見せる。・・・お前だって自分を確固としたものにしたいから、会社を売ったのではないか?」

 

少女の言葉がボクの心に突き刺さった。それは万里の理のように全ての面から見ても正しいことに思えた。

そうだ、ボクはボクでいたいから、決断した。これで自由になれる、今度こそ解放される。そう信じて行なったはずだ。

 

「自由になったのなら、思う存分生きればいい。それもせずに泣いてばかりいる貴様に

腹が立つ。お前などのためではない。私は自己満足のためにお前を救ったにすぎない」

 

スレートを否定したのもそうだ。他人にすがってばかりだった母の一面を否定して自分で生きて見せると心に誓ったから彼の約束を否定したのではないか。

たとえ、母が見せた笑顔に嫉妬していた面があってもソレは変わらないはずだ。

 

一体何を負い目に感じていたのだろう。ボクは当然の権利を使っただけではないか。

 

「私はこの生き方を変えるつもりはない。自分に従って生きるだけだ。この顔も心も私だけだと世界に刻み込むだけだ。お前を見ていられなかっただけだ・・・・・長話が過ぎたな、失礼する」

 

帽子を再び深くかぶり、扉を開けて出ていく。

もう話すことはない。そう背中で語っているようだ。

 

「待って! 貴方の名前は・・・」

 

そう叫んで聞くと彼女は答えた。

 

「マドカだ。」

 

そして扉は閉められた。一人僕だけを残して。

ボクは立ち上がった。悩むことはないとは言わない今でも迷いは残っている。でもボクだけがさいなまれることはないんだ、という事はわかった気がする。

 

ヴィンセントも父もその道理にしたがって自分の目的を果たそうとしただけに過ぎない。

 

ボクは少しだけ人生の心理を見出した気がした。

 

そして、心がスッと軽くなっていくのを感じた。

 

それは罪深いことかもしれないけど、とても心地よかった。それが妙に気になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はしばらく適当に歩いてた。

さっき出会った女のことを思い出す。したがって縛られてばかりの女、周りからの価値観や規則に縛られていた彼女を見ていることができなかった。

生まれたことを否定されて黙っている彼女が許せなかった。自身が生まれたことを他人に否定されるいわれなどない。

 

自由になるのに他人を犠牲にして何が悪い。受験なりに出世なり、誰かを踏み台にして生きているくせに何の権利があって彼女を非難するのか。

 

そして、何故それを受け止めなくてはならない。反抗することで掴めることだってある。

自分のために生きる。難しいが、一番理想的な生き方だ。

 

そう言えるのは、この顔を持つ私の経験だ。偽物だから批判されるいわれはない、と私は声を大にして叫んで見せる。

 

考えていると、肩を叩かれた。

振り返ると、禿げ上がった頭に度のキツそうなメガネを掛けた好々爺がいた。

 

「考え事ですか?マドカ君」

「・・・・用は済んだのか? ドクター。」

 

ええ、とソフトクリームを嘗めながらドクターは言った。

 

「機器も装備も、弾薬も全て揃いました。さすがは自衛隊だ。いい装備を持っていますよ。

スパコンの精度も素晴らしい。唯一、オリジナルティが感じられないのが残念ですが」

「貴様の作っているオモチャも大概だろう」

「これは手厳しい」

 

ニコリと笑いながらも、彼の頭脳はあわただしく回り続けている。今こうして話しているときですら、自信の作っているオモチャのことについて研究を進めている。

 

そのオモチャも模造品と言えばそうだが、この男はそんなことを気にしていない。

ただ作ってみたい、それだけのために動いている。

そんな頭のねじが緩んだ故に構成された思考回路のせいか、何を言っても気にかけないのだ。

 

 

「それにしても、君が見ず知らずの他人に気を掛けるとは珍しい物が見れました。もし、これが実験対象なら狂喜乱舞しておりましたよ」

「・・・・見ていたのか?」

 

ドクターは腕についてる小型の端末を操作して見せる。

 

「貴方のナノマシンを通じて何を話し、何を聞いているのかは把握できますからね。

まあ、うちの組織に完全に染まっていないのは貴方だけですから、仕方ないですねえ」

 

私はドクターに舌打ちする。この男は穏やかな雰囲気でずけずけと物事を言うのだ。

人のプライバシーを覗き見てニヤけるとは悪趣味極まりない。

ソレが私の神経を逆なでしているのも織り込み済みで

 

「貴方の生き方はまさしく我が組織の在り方そのものだというのに、あくまで復讐のためにしか使う気がないというのには非常に興味がありますからね。復讐が貴方の生きがいなのですから仕方ないのでしょうけど、若い生命と寿命を浪費しているとしか・・・」

「黙れ」

 

何の狼狽も見せずにソフトクリームのコーンを齧っているドクターを睨み、黙らせようとした。

 

この男だけでなく、私の組織の連中は揃いも揃って度し難く何をしてもヘラヘラトするのはわかっていても、それ以上私の聖域に入ってくることは許さない。誰であってもだ。

 

「私は復讐のために生きる。ソレの何が悪い? 貴様らだって好き勝手するためにいるではないか?」

「ええ、その通り」

 

否定もせずにドクターは認める。それが当然だと言わんばかりの態度で彼は胸をそらす。

 

「なら口出しはするな。」

「口出しとはとんでもない。」

 

ドクターはおどけて見せる。いちいち癇に障る。

 

「ただ、一つ訂正するとすれば、私はアドバイスをしているのです。我々の欲求は無限大で求めれば、求めるほど際限がないのです。しかし、復讐は果たしてしまえば、それでおしまいです。それではもったいない。 ただそれだけを言いたいのです。そのことはお忘れなく。」

 

残ったコーンを口に放り込んで音を立てて噛み砕き、堪能したのちに思い出したかのように手を叩いて懐に手を突っ込んだ。

 

「そうそう、思い出しました。コレを」

 

手渡してきたのは航空券だった。私はそれを乱暴にもぎ取って、内容を確認する。

チケットはイギリスのロンドンへ行くことが記されていた。

 

「来週、女王陛下の元へ赴き、機体を奪い取るそうです。頑張ってくださいね」

「・・・他人事だな」

「ええ。いじくることも無い機体などどうでもいいので。その点、オータム君のアラクネは楽しかったのですが、全く英国人はまじめすぎる」

 

そこから、イギリスの機体は伝統に凝り固まっている、進歩があまりない、など。そんな愚痴をつづけているのを無視して、私は航空券を握りしめた。

ようやく私の機体が手に入るのだ。

チカラが手に入る。これ少しはあの女に手が届くはずだ。

 

他人が何と言おうと関係ない。私は私でいたい。そのための復讐であり、この「復讐」こそが私と言ってもいい。

 

見ていろ、これが私だ。

 

ショーウィンドーが目に入って私の顔が映った。私はそれを注視して顔の右側を引っ掻いた。

ガラスに映るアノ女の顔は血で真っ赤に染まっていく。反面、左の「私」の顔は綺麗だ。

 

――――もうすぐだよ、姉さん

 

それを見て悦に笑う。もうすぐだ、と高鳴る胸を押さえながら。

 

 




シャルはなぜか、悪役でも行ける気がしたので、やってみました。
後マドカはこんな感じでいいでしょうか?

この後、すぐ学園に入るか、亡国を書いた方が迷っているのですが、
何か意見等ありましたら言ってほしいです。

感想、批評お待ちしております。
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