いいかもしれません。
ブリーフィングルームで集合を受けた俺たちが受けたのはピースと呼ばれるIS学園へと
赴く子供たちを送る式典を行うというものだった。
近くのベンチに座り、渡された書類に目を通していると、後ろから声を掛けられた。周りが騒がしく、声だけでは判別ができなかったため、確認のために振り返ると、メロウだった。
「よお、ギャンブル。」
「おお、メロウか。式典だってな」
お互いの拳に拳をぶつけて、挨拶をかわす。いつもと同じように。
メロウは書類に目を通しながら、言う。
「アイツらを送る会のことだろう? せいぜい派手に決めていきたいね。」
「全くだな。ここんところ、大人のかっこ悪いところしか見せてないしな。いい加減、大人の良さを教えないと、ネバーランドを目指しだすぞ。」
互いに冗談めかして言うが、俺の内心はメロウのいう事に全面的に賛同している。
彼らに、戦う大人の姿を十分に見せてないことは事実だ。
俺達は今のところ、模擬戦で負けっぱなし。取り扱うのがまだ初めてだという事を加味しても、黒星だらけで一機も撃墜できていないのはまずいだろうと思う。
理由は簡単で実力不足なのはわかっているが、これを挽回するには相当手間がかかると見える。
歩兵やるにも、様々な訓練が必要なのだから、機体にかける訓練もヘビーな内容になるだろう。
つまり、一週間やそこいらで強くなるのは不可能。そんな期間で訓練した精鋭ともいえる相手を倒そうなどという事は夢物語に過ぎない。
では、どうやって、大人が彼らに力を示すのかと聞かれれば、おそらく、この式典しかないだろう。
かつての俺たちをもう一度呼び起こすしかない。
「陸軍時代を思い出さないとな。出ないと顔が引き締まらない。」
「普段、ふざけすぎなんだよ俺達」
俺とメロウがそういって肩を叩きあってると、後ろから笑い声が聞こえた。
その声はよく聞く声だと判別できた。笑い方が少し特徴的なのだ。
「子供相手に大の大人が負けっぱなしか・・・嫌な話だ。」
そこにいたのは元解放軍の李宇森 元三級士官だった。本人曰く解放軍機体の星だった彼は皮肉な笑みを浮かべて俺たちを見やる。小柄な体格ではあるものの、実力は確かな兵士である彼は口から毒を吐き出す。
「俺はISをぶっ潰すために来たっていうのに、よりによってソレを使うやつらに礼しなくちゃならないなんて、酷い話だ。そう思わないか?」
李の発言にメロウが反論する。
「彼らが使うのはISじゃない。それに、お前だって機体を使うだろうが。」
「それが気に食わないんだよ」
李は近くの壁に寄り掛かり足を組む。相も変わらない不遜な態度だ。
「結局俺たちがISに勝つにはコピー品に頼らなくてはならない、しかも10歳以上下のガキどもに大人が揃いも揃って頭を下げるんだ。臥薪嘗胆て言葉もあるが、嘗めるには苦すぎるよ」
すると、李の頭に手を置くものが現れた。数少ない女性オペレーターであるロシェルだった。女性にしては体格が大きく身長160の李より15㎝高い。
グリーンベレーもかぶれることを許された彼女は李の頭に手を置いて、彼を諌めるような口調で言う。
「その辺にしておきなさよ李。 いくら、得意のチャンバラで負けたからってやっかみすぎよ。レーザーソードでバラバラにされたんでしょ?」
李は手を払いのけて、ロシェルを見上げる形で抗議する。
「黙れ、ハイタワーが。量子変換さえなけりゃ俺があの赤毛のガキをなますにできたんだ。俺は負けてねえ」
ロシェルは子供を扱うかのように背の高さをリーに合わせて、額に凸ピンをする。
子持ちのシングルマザーだけはあって、子供相手は慣れているようだ。
「負けは負けでしょ。 それにアレ以降必死になって練習してるんでしょ? アンタって本当絵にかいたようなツンデレよね? 可愛いんだから。もう」
俺とメロウがそれを聞いて爆笑した。この男は口は悪くても性根は意外と真っ直ぐなのだから。
「頑張れよ、李」
「負けるな李」
二人して彼を指さして応援の言葉を送ると、李は顔を赤くした。赤くしすぎて湯気が出るような勢いだった、式典場所へと早足で行ってしまった。
照れ隠しで可愛いものだ。
アレで、もし性別が逆で女ならさぞ可愛らしいことだったろう。
それを笑いながらロシェルにメロウが言う。
「相変わらず扱い上手いな。ロシェル。」
「これでも二児の母親よ。子供の扱いはどんと来いって感じよ」
筋肉質で、常に腰にM16用の銃剣を下げた女性が言うセリフなのだから、その言葉の深みは十二分に感じられる。
子供の扱いという事で、思い出して俺は彼女に訊いた。
「そういえば、お前弾の格闘訓練の相手だったよな? どうだったヤツは?」
「よく、磨かれているわ。時々勝負を急ぐのが珠にきずだけど・・・あの年頃であの腕前なら普通の学校なら無敵よ・・・・ホントはないほうがいいのだけれどね」
ロシェルは顔に一瞬陰りを見せる。母親という事もあって、十五の少年が戦闘技術を身に着けているというのは受け入れがたいのかもしれない。
しかし、実際そうなってしまっている。IS学園ではその年頃の女の子がそうすうるのが当たり前なのだ。
かつて俺たちができなかった。白騎士事件の阻止の失敗が今日の世の中を作っていると言っても過言ではない。
ロシェルはため息を一つ吐いて、覚悟を決めたかのような顔をする。
「だから、私たちが頑張らないとね。あんな子供ができるのを容認しているようじゃ、タリバンやイスラムのクズ野郎と変わらないわ・・・・先行ってるわね」
ISになびかずに男と同じグリーンベレーを被ろうともがいた烈女であり母親であるロシェルの背中を見送り俺とメロウは向き合った。
「少年兵・・確かにアイツらはそうだよな・・」
「ああ、反論できねえよ」
少しの間俺たちの間に沈黙が訪れた。
無言の中ではあるものの、俺たちの心では変化が起こっていることは確かだ。
彼女の話を聞いて、何の心境の変化も訪れないわけなかったからだ。
メロウは腕を組みながら難しいことを考えているような顔になった。険しい表情をしながら、自分の手を見ている。
「ギャンブル。俺なあ、この間代表候補生ってやつを見かけたんだよ。凰 鈴音っていうんだが、知ってるか?」
俺は少し頭を捻ってみたが、知らない名だった。
「いや、知らないな。それがどうした?」
メロウの顔を見て俺が答えた。
「ほんの少し見かけただけなんだけどな。俺には普通の女の子に見えたんだよ。
どこにでも良そうな、外見がいい女の子だ。学校で馬鹿話をして、週末にはお洒落な服を買いに繁華街に行くような・・・・そんな子だと思ったよ。」
俺はメロウが何を言おうとしているのかわかった気がしたが、あえてそれは言わずに俺は親友の話に耳を傾けることにした。
「そんな女の子が俺たちの扱うどの武器よりも強い武器を扱うってんだぜ?
見かけじゃわからないもんだよ・・・・こんな世の中は間違っている。それを再認識したよ。」
俺はメロウの意見に頷いて答える。
「ああ、間違っている。可愛そうな子供ばかり増やしていくだけだ。ISに魅入られようが、られまいが、不幸な奴ばかり増えている。」
ほんの少し前に想像できなかった光景を俺たちはこの一か月目にしてきた。
ヘルウィークのような過酷な走り込みに、罵倒の嵐を浴びて彼らが走り、人型の的に向かって射撃していくのを。
普通、人型の的を撃つのは難しい。丸い的に当てるのは上手な新兵も途端に外す。人に当てるのが怖いからだ。
しかし、彼らはためらいなく撃つ。初体験の人間が彼らの中には誰もいないことがそれでわかるというものだ。
ある者は狙撃用ライフルを手にして、的に命中するのを喜ぶ。ある者は大勢の兵隊に囲まれて格闘を繰り広げ、己を限界まで追い込んでいく。ある者は何度倒されても立ち上がり、自分よりも強い者に立ち向かい続ける。ある者は書類と意地汚い大人たちと戦う。
これらをやっているのは十五歳のハイスクールの子供達だ。
子供たちが昔の俺たちと同じように、隣にいる仲間のために途方もない戦いに挑み続けている。
確かに成長したと言えばそうだ。そこいらの大人より、ずっと大人だ。
それでも、子供の成長としてみることができないのは、彼らの傷だらけの姿を見たからだ。
福音事件の時に見た五反田弾の姿は本来子供がするものではないはずだ。
子供がしていい顔ではない。
こんな存在は今回で最後にしなくてはならない。
俺達は立ち上がって、式典の場所へと向かう。
誰にでも負けられない理由がある。李は復讐のために、ロシェルは子供の将来のために、メロウは戦友のために戦う。
大勢の兵隊がそれぞれの夢と野望を胸にここにいる。
俺の理由は実家に預けている血のつながりのないサニーと言う13歳の女の子のためにだ。
IS適性がないから捨てられた可愛いそうな子供。
そんな彼女のために戦う。
そして、俺たちに最近芽生えた、もう一つの理由がある。
俺達よりも先陣切って世界と戦う彼らピースに報いようとするためにだ。
彼らにとっての英雄なんかなりたいわけじゃない。ただ、彼らを見捨てたくないだけだ。
式典はドーム内で行われた。俺たちは式典用のスーツというより軍服に正装して壇上近くに立っている。
アカネもヴィンセントもユーリも皆瞬きもせずに目の前の人たちに視線を向けていて、俺もそれに倣う。
着慣れない服で多少窮屈にも感じるが、ドーム内にいるPMCオペレーターたちの姿を見て、俺は身を引き締めた。
試合のためのアリーナと観客席を埋め尽くすPMCオペレーターたちと技術者とみられる白衣を着たもの、そして、Rインダストリーの役員と思われる人もいて、ドーム内にはRインダストリーのプランに関わる全ての人たちがいた。
列の中にはギャンブルやメロウ、ナイフ訓練に付き合ってくれた女性オペレーターや
ステーキを小さくしてきた者までいた。
他にも、マイクさんやアルフレッドさんとあったことのある人がちらほら見える。
誰もが見た顔だった。 そして見たことのない顔をしていた。
彼らに普段見せるような、ふざけた雰囲気がまるでなかったからだ。皆が直立不動でRインダストリーのユニフォームを着て、それぞれが元いた場所に戻ったかのような顔つきになっていた。自身の誇りと鍛えられた身体を一つにして、一個の真っ直ぐな刀剣のように鋭さと気品を纏っていた。
その姿が彼らの本来の姿であることは容易に想像できた。
そこには国境や人種の壁もなく、一つの組織としてまとまり新しい軍隊として存在していた。
そんな彼らを見ていると、列の中心から一人の男が出てきた。年齢的に五十くらいの上品なスーツを身にまとった男が歩いて、壇上に上がりマイクを手に取った。
『まず、名を名乗ろう。私の名は ロイ・バッカスと言う。今年で五十一になる老兵だ。今回の式典で私がスピーチをすることになるということで光栄に思っている。』
ロイはゆっくりと話し始めた。
『今回の式典で本社の高い地位にいる者もいる中で私が選ばれた。この場でそのことについて感謝の言葉を送りつつも、私は彼らピース達に言葉を送りたい。』
ロイは一つ大きく息を吸って吐き出して、全ての者を見渡す。その目には老いはなく、若々しく力強く見えた。
『かつて戦場に立ってきたのは大人だった。大人でなければ、満足に弓は弾けなかったし、剣も振るうことができなかったし、それが大人の役目であったからだ。子供は城壁の内側で育っていくのが当然だった。
時代は移り変わって銃が主流になっても、戦うのは大人であるはずだった。』
ロイの声に力が込められていく。それが彼の、いや彼らの言葉だという事がはっきり伝わって来た。
彼は必死に舌を動かして意思を言葉に変換していく。
『だが、それも変わってしまった。今では子供が機械を身にまとって、信じられないスピードと破壊力を好きに使うようになってしまった。子供は大きすぎる力を手にして、私達は誇りと力を失い今に至っている』
さらに演説は続いていく。
『こうなったのはなぜかと聞かれれば、我々の責任なのだろう。我々が白騎士を抑えていれば、こうならなかった。我々がISを安易に受け入れてしまわなければ、このようなゆがみも生まれなかったろう。』
ロイは目じりに涙を少し浮かべていた。俺にはそれがハッキリと見えた。
彼は静かに泣いていた。
『その歪みを直すために我々責任ある大人たちはまたしても、子供を頼っている。子供に銃と破壊のための兵器を与えて死にそうな目に何度もあわせてきた。度し難いにもほどがある。だが、それでも我々は命令するしかない。そして、そこにいる子供達はソレをやってのけている。かつての私達よりも短い訓練機関の中、やってのけているのだ。』
それを言うと、ロイは壇を強くたたいた。大きな音が周りに響いた。
周りに驚くものはいなかった。皆、整然とロイを見つめている。
『今の私達には応援をすることと数少ない技術を教えることしかできない。だが、それを知っても彼らピース達は巨大すぎる世界に立ち向かっている。傷ついて、倒れ掛かっても彼らに立ち止まることは許されない中、彼らは懸命に戦っている。そんな彼らに言おう。
あと少しだけ待ってほしい!』
ロイは大声で俺たちの方を見てそう言った。
心からの叫びであった。
『あと少し! あと少しだけ待ってほしい! 私たちは君たちに追いつく! かつて犯してしまった過ちを繰り替えなさいためにも私たちは誓った! 君たちにかつての私たちの輝きを見せると!』
ロイ腕を高く挙げると、列に並んだ中心のオペレーターたちに光が纏われていく。
まばゆい光を発して一瞬目がくらむが、次に目を開いたときに見えた光景は驚きの者だった。
100はあるだろうバルドイーグルの列がその場で姿を現したのだ。
古い生きた化石と蔑んだ目で見られてきた彼らに新たな力が付与された雄々しい姿が一斉に出てきたのだ。
重厚な装甲と、力強さを感じさせる手足。白く塗装された頭頂部をもつ量産型疑似ISであるピースの完成形として目指されているバルドイーグルがもうすでにこれだけ揃っているのだ。
俺達の戦った記録が作り上げた世界を変える革命児たちだ。
大型のパルスライフルを手にして、ISに対抗すべく開発された白頭鷲の名を冠した機体が赤く、蜘蛛の目を連想させるカメラアイを俺たちに向かって一斉に敬意を表し、敬礼をする。
その敬礼には一切の無駄な動きがなかった。全てのバルドイーグルが俺たちピースに向けて最大限の礼を見せていた。
決起の準備は整いつつある。そんなことを表していた。
かつて彼らは畏敬の念を持ってあらゆる名で呼ばれていた。
無敵のフロッグマン、世界最強のマリーン、解放軍の星、防人の鏡と。
それらの地位や名声を失っても誇りは生きていた。
その誇りを今、新しい力と共に俺たちに見せつけている。俺たちを安心させようと、心強いバックがいると伝えるかのように。
俺たちの誰よりも戦って生きてきた大人たちが俺たちを敬意を持って送ろうとしているのだ。
『これが君たちに送る最後の身勝手だ。再び学園に赴き世界と戦ってくれ! 我々はあと数か月もしないうちに決起する! 』
ロイの口調は熱を帯びて、さらにヒートアップをしていく。大人の本気の叫びだった。
『いつか君たちに言おう! 君たちが戦うことはもうない、と! その日から、君たちは自由になる。 トリガーを引くことも、騙し合うこともない世界を君たちに贈ることを約束する!』
ロイは視線を俺達から、兵士たちに移す。
『兵士達、技術者、ここに出席しておられる役員の方々全員にお願い申し上げる! 世界とここにいる小さな戦士のために力を貸してほしい! かつて、できなかったIS打倒のために立ち上がっていただきたい!』
ここにいる全ての人間が歓声を上げた。兵士、技術者、役員関係なく声を張り上げて、ロイのいう事に賛同を示した。
戦う大人たちが確かにいた。たった十五年しか生きていない俺たちのために、かつて自分たちを見捨てた世界のために彼らは立ち上がった。
きっと世界から見れば、俺達は異常だし、俺たちを扱う彼らも以上かもしれない。
ISを打倒することで、社会は混乱し、かつての良き社会どころか更なる泥沼だって起きる可能性がある。
だが、それでも行動しなくてはならない。誰かが立ち上がらないといけないのだ。
きっと世界はよくなると信じて、立ち向かわなくてはならない。そうでなければ、何も変わらない。
いくつあるかもわからない可能性を信じて、突き進むしかない。
俺にはスケールの大きすぎる話かもしれない。俺への評価を変えるために最初は言ったに過ぎない俺が世界のためにと言っても、説得力は皆無だろうし、俺にできるのは隣にいる彼らのために戦うことぐらいだ。
たった、三人の人のために戦うのが俺の限界だ。
もし、違うというのなら福音戦の時に俺は誰一人として殺すことはなく、作戦を成功することができただろう。
だが、それでもだ。彼ら三人のために戦うことがピースを含めた皆の夢につながるのなら、俺は最大限の努力をするべきだ。
彼らが俺たちのために戦うのなら、俺も、俺達も彼らのために戦う。
単純だが、それが肝心だ。小さな目的が積もりに積もって、世界を変えることにつながる。
それが、「プラン」の正体なのだろう。
「戦うぞ」
俺は歓声踊るドームの中で、三人に言った。
俺達は隣の者の手を取り合って、それを誓った。
その日、ドームから声が途絶えることはなかった。
見捨てられた地、ロストワールドでいつまでも声が響いていた。
これにて夏休み編終了です。
次回から、学園に入っていく予定です。
オリ展開ばかりで申し訳ありません。
感想、批評お待ちしております。
ついで聞きますが、設定って書いた方がいいでしょうか?
皆さま書いているようなので・・・