IS to family   作:ハナのTV

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大きな音が響いた。英国由来の砲声がグラウンドに響き、それに続いて独特なコッキング音と大きな金属の筒が落ちて、大きなドラム缶が転がったような音が鳴った。

 

ほんの五秒前まで、余裕そうな笑みを浮かべていた女子の顔には先ほどのような生意気な態度はなりを潜めて、恐怖に顔をゆがませて、立てないのか腰を抜かして後ずさりをしている。

 

彼女にとっては予想外だったのだろう。ISで使うような小口径のライフルだと予測していたため、二発程度は余裕だと認識していたに違いない。

 

しかし、実際に出てきたのは戦車砲そのもの。超至近距離で放たれるには大きすぎるし、この距離であの轟音を聞くだけでも恐ろしいというのに、その砲口が自分に向けられて火を噴けば、誰だって恐怖する。

 

聞いたことのないような大きな雷の落ちた音に似た轟音をあんな至近距離から聞けば、腰を抜かす。なにより、その音を放つものが戦車を一撃で葬り去るために作られたものだと知れば、尚のことだ。

 

誰もが撃ち抜かれる少女を想像しただろう。吹き飛ばされるかされると思ったことだろう。

 

しかし、予想外だったのは、女子生徒自身が嘲笑していた先生が盾になり、120mm砲を弾いたことだろう。

 

「アラ? ・・・・・・どうして、盾になったのです?」

 

イヴァナ先生は凍てついた視線で山田先生を射抜いていた。並の人間では出せない限られた人が出せる視線だ。

その圧力に山田先生は屈することなく、彼女に立ちはだかる。

 

「こんなの・・・・こんな事先生がしてはいけないんです! イヴァナ先生・・あなたがいくら気に食わなかったからって、生徒さんを大砲で罰するなんて、許されることじゃないはずです。」

 

山田先生は教師としての矜持を語るが、イヴァナ先生はそれを鼻で笑い飛ばした。

 

「まるで聖職者ね。事故だとか言って、そこの小娘は貴方を撃ったのよ? 貴方に対してひとかけらの敬意もしめさない、それどころか銃を向けた。そんな彼女を貴方は許すっていうのでうすか?」

 

イヴァナ先生は怯えている女子生徒に向かって「そうよね?」と同意を求めるように訊いたが、彼女は応えられず、怯えきった悲鳴を口に出すばかりだ。

 

イヴァナ先生の問いに山田先生は毅然とした態度で答える。そこに恐怖はない。

いつものオドオドするか、大人しそうにしている先生はそこには見られない。

 

「許します。過ちなら正してあげればいいじゃないですか。ソレが私たちの仕事じゃないですか?」

 

イヴァナ先生は山田先生を値踏みするように黙って見ている。彼女にとって山田先生の言葉は信じられないの一言なのだろう。

自分に敬意を示さない者にも慈悲の手を差し向けるのは、きっと彼女にとって正義ぶりたいだけの偽善の行為でしかないのだろう。

 

自分の行動に間違いはないと確信した自身のありようはある意味大場先生とも似ている。

 

「そこまでだ。銃を置け、イヴァナ先生」

 

大場先生が後ろに忍び寄って、打鉄を展開してアサルトライフルを彼女の後頭部に突き付けた。

 

彼女のライフルのセイフティは外されており、トリガーに指を掛けている。

醸し出す殺気も尋常ではなく、脅しではないことは明らかだった。

 

目の前で教師同士で殺し合いでもしそうな緊迫した状況が展開されて誰もが生唾を飲んだ。

三人の持つ気色はそれぞれで違う。

 

山田先生は後ろの生徒をも守ろうとし、イヴァナ先生が生徒を撃とうとして、大場先生がイヴァナ先生に銃を向ける。

 

守る、制裁、阻止。 三つの意志がそこに存在している。

 

そんな中でイヴァナ先生は山田先生と大場先生を見て、大胆ともいえる言葉を口にしだした。下手をすれば、トリガーを引かれるかもしれないというのに、だ。

 

「下らない、本当に下らないわ。」

 

彼女は静かに言った。

 

「確かに山田先生、貴女のいう事は正しいかもしれない。でも、私は教師なんてまっぴらなんですよ。・・・・本当は貴女もそう思っているんでしょう?」

 

イヴァナ先生が山田先生に妖艶な声で聴いた。見ている俺達にとって、それは悪魔のささやきのようだった。

彼女は次弾を装填し、山田先生の後ろの生徒をロックオンする。

ラプターがそれを正確に察知したために知りえたのだ。

 

「何を言っているんです?」

「あなた達二人ともここに望んできたわけじゃないでしょう?夢破れてここに来てしまった口でしょう?」

 

大場先生も山田先生もこめかみをピクリと動かした。思う節があるようだ。

 

「自分たちは頑張ってきた。夢のために。代表になって家庭用のTVに映る自分、雑誌に載る自分を想像したことあるでしょう?」 

 

イヴァナ先生は山田先生の過去を言い当てようとしていた。それは正しいらしく、山田先生は表情を少し強張らせた。

 

「でも結果はこんな、下らない場所に島送り。相手にしなきゃならない生徒様は実力どころか、努力をしようっていう気概さえ見せないお子様。しかも、自分を敬うどころか、嘗めた態度をとってくる・・・こんな待遇で満足してるっていうんですか?」

 

山田先生の様子を見ると、彼女はラファールの拳を無意識に握りしめていた。心の奥底ではそう思っていたのかもしれない。

 

「貴方もよ、大場先生。貴女だって国を守る誇りがあったはずでしょう? それを馬鹿にしてきた彼女たちが憎くないの? 夢を笑われても貴女は微笑んでいられるの?」

 

大場先生は無言で銃口をイヴァナ先生に押し付けた。黙れと口ではなく行動で彼女は示した。

二人の様子を見て、ニコリと笑みを浮かべるイヴァナ先生であったが、山田先生は意を決して反論をする。

 

「・・・・でも、私たちがいてこそ、育つ人だっている。難関の試験を突破して頑張って来た人を応援して夢を叶えさせてあげるのが、私たちの職務で彼女たちを守るのは義務でしょう!少なくとも私を育ててくれた人はそうだった!」

 

大声で自らの職務を否定させまいと、彼女は叫ぶ。

山田先生がついにライフルを展開した。これ以上の狼藉を許さないという意思の表れだった。

 

そして、その姿はここにいるほとんどの人間が見たことのなかった姿だった。大人しいはずの山田先生が大声で叫ぶなど誰も見たことはなかった。

彼女の意志は言葉として目の前のイヴァナ先生にぶつけられた。

 

「感謝を求めているわけじゃないです! 仕方ないからやっているわけでもないです! この職務は全うしたい! ただそれだけです! 先生が・・・私が・・・たとえ、どんな生徒でも笑顔を崩しちゃいけないんです!」

 

しかし、山田先生の必死の叫びも通じなかったのか、イヴァナ先生は心底馬鹿馬鹿しそうな顔を向ける。

 

「お利口ちゃんってわけですか? ハッ、貴女最高に間抜けね。だから後ろの彼女みたいに嘗められるのよ・・・・興が冷めたわ。」

 

冷たく言い放って、彼女は展開を解除してグラウンドから立ち去ろうとする。

山田先生はただそれを見つめるだけだ。

彼女もライフルを力なくダランと下ろして、悲しげな表情を浮かべていた。

大場先生はイヴァナ先生の背中を観察しているだけで、何も言わない。

 

「・・・馬鹿馬鹿しい・・・!」

 

そう捨て台詞を残す彼女の背中は何故だか、どこか寂しげに見えた。

 

 

 

 

 

衝撃的すぎる事件が起こっても、俺たちのやることに変わりはない。

一番古く、小さいアリーナで俺はラプターで機動演習をしていた。

無論ピースのメンバーと共に行っており、俺はハヤブサとドッグファイトを演じていた。

 

どちらが先に相手をロックオンできるかと言う遊びの様な訓練だが、行う俺たちは真剣そのものだ。

 

弧を描くような軌道で、後ろから迫り食るハヤブサを振りきろうと加速をしていくが、伊達にハヤブサも対IS用を想定された機体だけあってラプターの高い加速力でも振り放すことができない。

 

「直線的ですよ! その軌道ならいい的です!」

「どうかな?!」

 

足を前に放り出すようにして、スラスターの向きを上向きにして、急制動を掛ける。ロシアの戦闘機でやっていた曲芸飛行をまねたもので、反応に送れたハヤブサが通り過ぎた瞬間にもとに戻して今度はこっちが後ろを取った。

 

ハヤブサがチラリと後ろを見て、バレルロールで左へと逃げて、ほぼ直角で急降下をしていく。

 

ロックオンしようと銃器を操作していくが、ハヤブサは右から左へと期待を揺らして照準をつけさせようとしない。

 

こうしている内にも高度急激に下がっていく。どちらかが、ビビッて上昇を開始すれば、動きが止まる。その瞬間を俺もアカネも虎視眈々と狙っているのだ。

 

いわば、音速のチキンレース。技量で勝負がつかないのなら度胸試しと言うわけだ。

地表まで1000mをきって、高度計が下がっていき、オーバースピードで地上に接近していることにHMDが警告を発する。

 

だが、やめることはない。こんな事で怖気づいては勝てる勝負も勝てないからだ。

 

だが、勝負はここで突然、度胸勝負から技量勝負へとシフトチェンジした。

アカネのハヤブサが地表に激突するという所で、手りゅう弾を呼び出して地面に投げ出した。炸裂する手りゅう弾。その爆風をクッション代わりにして、止まったハヤブサを操作して、垂直から水平方向へと機体の進む方向を強引に操作した。

 

さらに発生した熱と爆煙で自らをロックオンさせないというおまけつきだ。

 

これで一見、俺が窮地に陥ったように見えたろう。最早スピードを殺すことなく理想的な射撃体勢に入れる、一方で俺は制動を掛けなければ、地面にキスをしてしまう。

 

だが制動を掛ければ、確実にロックオンされるだろう。相手はアカネだ。IS同士の機動戦でも、相手のライフルだけを狙い打てるほどの腕前相手にただの小細工では通用しない。

 

そこで俺は頭をフル回転させていき、一つの策を講じる。

 

まず最初に機体の地上への進入角度をずらして、およそ75度程度にして左腕にシールドを呼び出す。同時に機体後部からフレアを発射し、目をくらませる。

おびただしい数のエンジェルフレアが地上でまき散らされて、巨大な線香花火のように見えたことだろう。

 

「曲がれえ!」

 

シールドの曲面で滑らせて、猛烈な火花と摩擦熱でシールドをダメにした。デッドウェイトと化したシールドを廃棄して俺はほどんど減速することなく、地上を滑るようにアカネに向かっていく。

 

アカネのDMR9がコチラに銃口を向ける。その瞬間に俺は瞬時加速をして直角に右に、正面にと二段階に分けて加速し、彼女の側面を取る。

呼び出すのはパルスライフルではなく、ハンドガンを呼び出してロックオンする速度まで短縮して迫り、ロックオン。

 

一拍遅れて彼女も俺をロックオンした。

 

「訓練終了、勝者 弾!」

 

ユーリの判定が下されてお互いに戦闘態勢を解いた。

 

「初めての白星だ。見たか、アカネ」

「おめでとうございます。でも、次も同じになるとは思わないことです。」

 

機体を纏ったまま、握手をしてピットへと戻って、機体を解除した。

ベンチに疲れた体を押し付けるようにして、乱暴に座った俺たちにユーリがスポーツドリンクを手渡す。

礼をしながらも、俺は二人に聞いた。

 

「どんなことがあっても訓練はするもんだな。頭に余計なことを考えなくてすむよ」

「今日のことなら余計な事とも言えない。」

 

ユーリは一言そう返した。

 

「どういうことだよ?」

「あの後、ホームルームで二人の様子が少しおかしかった。出会ったばかりの荒んだ目をしていた。」

 

ユーリは静かに言った。その訳も彼は語る。

 

「おそらく、イヴァナ先生の言ったことは二人の思う所もあったのだろう。大場先生は元自衛官。彼女の言う通り、望んできたわけでもないし、最初のクラスは最悪そのものらしかったからな」

 

それに対してアカネが汗で濡れた髪の毛をかき上げながら訊いた。

 

「なるほど。ですが、山田先生はどうです? 彼女は望んで教師になったはずでしょう?

そうでなきゃ、今日のあのバカを助けたりしませんよ。」

 

アカネの反論はもっともだった。自衛官、つまり軍隊に似た組織にいた大場先生ならいざしらず、山田先生は一般の出身だ。自身の理想に燃えてこの学園に来たはずだ、だからこそ性質の悪い生徒も助けたのだ。

 

しかし、俺には思い当たる節があった。あくまでも推測の域は出ないが山田先生が気にsると言えばこれしかないと思われる。

 

「ギャップかもな。」

「理想と現実とのギャップと言うわけですか?」

 

アカネの問いに俺はああ、と答えた。

 

「俺たちのクラスにも居たろう? 敬語も使わないで接する奴とか。今日なんて、先生の足にひっかけたかもしれないんだ・・・・山田先生は多分、生徒からずっとそういう目で見られてきたんじゃないか?」

 

ユーリは馬鹿にしたように鼻で小さく笑った。

 

「実に下らないことをするものだ。」

「生徒を尊重する態度が裏目に出たわけですね。」

 

俺は「そのとおり」と答えて二人の意見を肯定する。

 

「このまま、空気が悪くなるのは勘弁かな・・・どうにかなんないかね?」

 

最近の教室での空気の悪さは最悪の一言だ。妬みに、憎しみ合い、見下し合い。足の引っ張り合いと人の負の感情をミキサーで一つにかき混ぜたかのような混沌とした空間だ。

 

将来のキップがかかっているのなら仕方ないともいえなくもない。しかし、それでレジスタンス達を攻撃するのは間違いだ。

 

確かにこの学園に努力する方法が少ないのは理解できる。ISを借りるのだって一苦労だという事も俺は知っている。

 

だが、彼女たちレジスタンス達が立ち上がった時、彼女たちを笑っていたのは誰だっただろうか? 無駄な努力だ、と嘲笑ったのは誰だったかを考えれば、同情する気も失せるというものだ。

 

なにより、そのレジスタンスの中で、教師で気が弱そうな山田先生に狙いをつけるというのは明らかに卑怯で姑息ではないか。

 

俺としても、ここにいるメンバーも思っているだろうが、恩師である山田先生が理不尽な目にあっているのを見過ごすという選択肢はない。

 

「生徒がこんなこと言うのもなんですけど・・・」

アカネが発言をし、俺とユーリが彼女を見た。

 

「いっそ、イヴァナ先生とタイマンでもやらせたらどうです? 案外皆見直すかもですよ? イヴァナ先生噂では、国家代表クラスだったらしいですし・・・・もちろん冗談ですけど」

 

俺とユーリは顔を見合わせて言った。

 

「それだ!」

 

アカネは戸惑った顔をした。本当に冗談のつもりだったらしい。

 

「マジでやるんですか?」

「やってみる価値はある。」

 

俺はそう主張する。食堂での一件もみたがイヴァナ先生には人を寄せ付けっる魅力があるに違いないのだ。でなければ。初対面のアカネにああも、警戒心を感じさせずに近づけることはできない。

 

彼女のこの部分を生かして教室の雰囲気とレジスタンスの助けになってくれれば、俺たちの学園生活も改善されるだろう。

 

「何を話してるんだい?」

 

そして天は悪戯好きらしく、ちょうど良く うってつけの人物を寄越してきた。

俺達は二カッと部屋に入ってきた人物に笑みを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂で一人、クロワッサンを齧りながらの一人の優雅な夕ご飯を楽しむ。

焼きたてかどうかは知らないが、いいクロワッサンで、甘くてサクリと心地の良い音がして胸が躍る。

 

そんな私を小娘たちは遠巻きに見つめる。視線に込められる思いは恐怖に、蔑みと負の感情なのは明らかだった。

 

私よりも面白半分で銃を撃ったあの子の方がよほど怖いとも知らずに、だ。

 

ため息すら吐くのも馬鹿らしくて、鼻を鳴らすだけだ。

ほんの2週間前が懐かしい。

 

ついこの前まで、モデルとして名声も欲しいままにしていた。カメラのレンズが私の美貌を映し出すたびに、フラッシュをたかれる度に、幸せを感じれた。

 

アイルランドの裕福でない家の出資の私の美しさを求めて、雑誌を買うおしゃれ好きの女の子から、桃色の妄想を抱いた男の子を目にするたびに私の心は満たされていた。

 

ところが、その幸せも今は消失してしまった。

 

代表候補生管理官とやらが来て、私を半ば強引にこの世界に引き戻した。モデルとしての仕事は続けさせてくれるそうだが、候補生達と同じスタジオで取られるなんてまっぴらだ。

 

たかが、ISなんていうオモチャに乗れるだけで一端のモデル気取りだ。大したスタイルでも顔でもないくせに。

 

この学園の女も同じだ。学園から一歩出れば、どこにでもいる女子だというのに、ほとんどの人間が選ばれえし者の様な顔をしている。

 

そして、嫉妬に顔を歪ませているのだ。こんな汚い場所はある意味で、アイルランドの無法者どもよりたちが悪い。

 

自分がどこにいるかもわからないのだから。酔っぱらいの様なモノだ。

 

どいつもこいつもISに酔った酔っぱらいだ。

 

ツナサラダにフォークを突き刺して、口に運ぼうとした時、誰かがコチラに来た。山田先生か大場先生だろうかと思い、振り向くとそこには素晴らしき我が国の代表候補生のお姿があった。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

高貴そうな雰囲気を精一杯演出したセシリア・オルコットが高圧的に接してきた。

またしても小娘か、と思いながら私は応えた。

 

「アラ、セシリア候補生じゃない。 ごきげんよう、どうかしたの?」

「・・・・貴女が先生だから許しますけど、いくつか言いたいことがありますの。」

 

彼女は心底こちらを見下した姿勢を取り、話を続ける。

 

「同じ国の人間として言いますわ・・・貴女はここにいるべき人ではない。貴女は我が国の恥部ですわ。」

 

出会ったそうそうで、初対面の私に言うあたり、相当お冠らしい。

 

その理由もわからなくはない。彼女たちが必死になってつかんだ候補生の資格、さらに選ばれたエリートからたった一人選ばれる国家代表という一生モノの権威を彼女たちは欲している。

 

そんな彼女たちからすれば、私は親の仇レベルで憎む相手だ。彼女たちからすれば、私はどちらの資格も簡単に手にして、モデルと言う卑しい仕事を選んだのだから。

 

そして、その様子を全国ネットに見せている。確かに私は恥部かもしれない、と思わなくもない。

 

心底どうでもいいことではあるが。

 

「私もそれには同意するわ。 だから、お宅の管理官に言ってくれないかしら? アイツはクビだって・・」

 

そう返してやると彼女はさらに激昂する。

 

「そういう所がいけないのだと自覚なさい! 元代表で、今は教師でありながら、何ですか?あの身勝手で野蛮な振る舞いは?! ご自分の立場をもっと理解すべきでしょう!?」

 

テーブルを叩いて、その振動で私のティ―カップが音を立てた。私は気にも留めずに紅茶を一口飲む。良いお茶の葉を使っているのか、味わい深い。W&Mだろうか、心地よい香りだ。

 

「ノブリスオブリージュって言うのかしら? 生憎と私は片田舎出身で貴族のことはわからないの。」

「だから、代表の座を蹴ってモデルになったとでも?」

「そうよ、お嬢さん。」

 

その答えの軽さにセシリアは絶句した。口を手で押さえ、大げさなまでのリアクションを見せて私を非難する。

 

「なんてことを・・・・貴女は代表に憧れて努力したものすべての人間を嘲笑ったのでしてよ!? もう少し誇りを持ったらどうです?! そんな事にも気づかず・・・」

 

聞いてるうちに私は彼女の発言に飽きた。

誇りがない、愛国心が足りない、女王陛下に申し訳ない、よく聞いたセリフだった。

もう何度と聞かされたセリフをこの甲高い声で訊く気など起きるわけもなかったからだ。

 

「うるさい娘ね、貴女。この際だから言うけど、私がここに来たのは貴女のふがいなさのためよ。」

「私が!? 私のどこが・・・!」

 

私は彼女にナイフを突きつけて黙らせた。小さい頃はよくやったものだ、と不意に思った。

 

「専用機でありながら、訓練機に敗北、未だBT偏光制御射撃も未収得。さらに言ってあげると今年度の白星の少なさ。いくらでも言ってあげるわ。貴女のせいで私がこんな場所に来る羽目になったのよ」

 

そこまで言って、セシリアの顔が青くなっていく。成績の伸び悩みは彼女だって気にしていたのだろう。最も、気にするのと直すのとでは全く違う。

 

ダイエットを意気込むデブな女と同じだ。気にはするがロクに改善されない。

 

「それは・・・・ブルティアーズが実験機で・・・」

「我が国の技術の粋を結集した機体を理由にするなんて・・・貴族のすることなの?まあ、どうでもいいのだけれど。私からもお願いするわ。頑張って、私を元の職場に戻るようにしてちょうだいな。」

 

私は口を拭って、席を立った。怒りに震える彼女を置いて、私はヒールを鳴らして歩いて行く。

そして後ろから彼女の声が聞こえた。

 

「覚えてなさい! そう遠くない日にあなたをここから追い出して見せますわ! 見ていなさい!」

 

私は振り返らずに答えた。

 

「頑張ってね」

 

心も何の感情も込めずに私は手だけふった。

下らない。その一言が頭に思いついた。人がせっかく助けたつもりでもこの様だ。

教師などと言う職業に大した興味はない、ただ私は山田先生を自分と同じだと思い、なすがままにされている彼女を放っておけなかっただけだ。だから、あのような行動をとった。

 

だが、現実は私の思い通りにいかない。同類と思った二人に拒絶された以上は仕方ない。

友達作りもあきらめて、退屈な職務とやらをこなすしかない。

 

精々、あの候補生が頑張って私を不必要だと言えるほどに成長してくれるのを待つだけだ。

 

あの頃と同じ、友達もいない所で一人で待つだけだ。

 

簡単な話だ。

 

そう心に決めて歩いていると私を呼ぶ声がした。男の声で私は驚きつつも振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、イヴァナ先生。」

 

俺とヴィンセントはなるべく、笑顔で接する。彼女は少し驚いた顔をしていたが、すぐにいつものアルカイックスマイルになった。

「アラ、弾君に・・・君はえっと・・・」

 

名前が思い出せないのか、少し小首を傾げる彼女にヴィンセントが名乗った。

 

「ヴィンセント・ロックです。 以後よろしく。」

「ごめんなさいね。まだ来たばかりで・・・」

 

ヴィンセントがいえ、と答えて彼女と握手をした。俺も続けて握手をして、彼女は聞いてきた

 

「ところで、数少ないIS学園の男の子が二人して私に何の用?」

 

まず最初に俺が口を開いた。この作戦の言いだしっぺという事で、ヴィンセントが指示したのだ。

 

「実はですね。俺達、格納庫レジスタンスに所属しているんですけど、それで先生の今日の装備を見たくて・・・」

「私の装備が? ただのラファールの追加武装よ」

 

俺は引っかかったな、と釣りを楽しむかのようにまずまずの掴みを得られたことに笑みを作る。

 

「だからこそです。どんな装備も俺たちは研究していきたいんですよ。誰にも負けたくないですし。」

 

ここで、ヴィンセントが口を開いた。タッチ、選手交代だ。

 

「それに僕らはこういう企業に所属しておりまして・・・・ここだけの話。上司の方が是非に と」

 

少し小声で話してヴィンセントはRインダストリー社の名刺をイヴァナ先生に手渡した。

彼女は名刺を見て、少しだけ目を鋭くさせた。

 

「Rインダストリー・・・・随分と大きな企業に勤めているのね」

「ええ、どうも。ペンから週刊誌、ミサイルまで何でもの企業です。そこで貴女にお願いがあるんですよ。」

「頼みとは?」

 

さらに食いつきを見せる彼女を見て俺とヴィンセントは目で合図をする。

 

俺は一つの考えの元にこの行動を行っている。

ソレはアカネの言った殴り合いでの解決のための布石だ。俺はヴィンセントと相談して、彼女を上手く誘導できないか、と話し合った。

 

俺達は今日得ることのできた少ない情報と過去のデータをもととして彼女が何を望み、何を嫌うのかを分析し合った。

 

まず目を付けたのが、彼女の出身はアイルランド。代表候補生時代に様々な差別を受けた可能性があるのでは、と考えた。

 

彼女が同類と言う言葉を使ったのは自分と同じ境遇の人間を求めていたのではないだろうか。つまり、言い方は悪いが彼女は寂しがり屋では、と推測した。

 

だからこそ、同類と思っていた山田先生にちょっかいを出す生徒が許せなかったのだし、山田先生に拒絶されて、馬鹿馬鹿しいとつぶやいたのだ。

 

ついでいうと、利口ぶったお嬢様のようにみえたのだろう。だから、彼女は怒りを露わにしたのだ。

彼女が欲しているのは理解者だ。ここを突けば、彼女は誘いに乗る可能性が高いと俺たちは踏んだ。

 

「言ったでしょう。装備を見たいと。ついで言うと、貴女の実力もみたいんですよ。

協力していただけませんか?」

 

「なるほど・・・でも私に何のメリットもないのは少し・・大人との取引がしたいなら対価を見せてくれないと・・・」

 

ここまで言うのなら、生徒としてではなく、一人の人として交渉の席にツケと彼女は暗に言う。

 

彼女は子供を嫌っている節があった、特に自分を言い人前だと勘違いしてる子供を嫌悪している。

だが、ここは、全く問題がない。俺とヴィンセントはどちらも何ができて何ができないかを知っている。自分で言うのもなんだが、ただの子供ではない。

 

ヴィンセントが言った。

 

「・・・わが社の雑誌を彩るなんていかがですか? 三ページは貴女だけのために確保しますよ?」

 

「安いのは嫌よ。 最高にいいところでないと・・・」

 

小首を傾げて、彼女は言う。ここはヴィンセントの分析通りだ。彼女はやはりモデルなのだ。

ISよりもそちらの方が大事なのだ。

 

「努力しましょう。しかし、まずは・・・」

 

彼女はヴィンセントの唇に人差指を当てた。

 

「いいわ。のってあげる。」

 

 彼女は俺の顎に手を添えて、目線を自分の顔に向けさせた。予備動作のない不意を突いた行動に俺は少し戸惑ったが、それを顔に出さないように努めた。

 

「貴方たちの顔は覚えたわ・・・いい子もいるのね」

 

その悪戯そうな笑みの裏にある感情はなんであろうか。今の俺にはわからなかった。

だが、何にせよ企みの前哨戦は上手くいったようだ。

 

企みは、打ちあわせから始まり、ひっかけ、仕上げ、とどめの一撃と終るのだ。

だが、まだ俺たちは「ひっかけ」しか成功させていない。

それに今後はある意味、運次第だ。

 

鈴と簪、アカネの方がうまくいっているといいのだが・・・・

 

 

後は上手くいくことを願うだけだ。

 

 




次回で大人の喧嘩勃発です

代表候補生から見れば、評価はこんな感じでしょうか?


それと前回の話で序盤で欠損部分があったので付け加えて修正しました。
どうも申し訳ありません



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