IS to family   作:ハナのTV

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レジスタンスがいつも集う格納庫で、イヴァナ先生と私や、アリーナの試合を見ていた皆が集まっていた。

 

マイクさんたちがラファールを修理しているのか、金属が床に落ちて、格納庫全体にうるさい音を立て、アーク溶接でもしているかのように、火花を散らしている。

 

そんな中でイヴァナ先生は木箱に座って私たちを見ていた。

 

「ごめんなさいね・・・・・見苦しいところを見せたわ。泣いたのなんて久しぶりだったから・・・」

 

自嘲するかのような笑みを浮かべて、彼女は整った顔に似合わない陰を落とす。

力なく、息を吐き出して天井を仰ぎ見た。

 

そこへ、湯気の立ったココアを理子さんがイヴァナ先生に手渡した。温かな香りに惹かれたのか、イヴァナ先生は素直に受け取ってココアに口をつけて落ち着かせた。

 

「落ち着きましたか?」

 

大場先生が問うと、彼女はゆっくり頷いて、短く応えた。

 

「ザマないわね。 モデルで女王気取って、ここでもその気でいたら、負けるだなんて・・・代表に選ばれた腕も衰えたものよ。 少しショックだわ。」

 

「何年ものブランクもあれば、そうなりますよ。」

 

大場先生が言うと、彼女はフッと小さく笑った。

 

「そうかもしれませんね。ところで、山田先生・・私の武装をどう思います?」

 

彼女は唐突にそんなことを聞いてきた。何の関係があるかはわからないが、私は思ったことを正直に答えた。

それが、彼女の望むものだと思った。

 

「そうですね・・・ちぐはぐな印象です。単射しかできない取り回しの悪いチャレンジャーライフルに、使い勝手が悪い有線式ビット・・・そして至近距離以外は使えないデリンジャー・・・どれも互いに短所を補えませんし、何より・・・」

「その通り。 どれも失敗作に死蔵品よ。国から私に与えられたのはあれだけよ。他は何もくれなかったわ。」

 

彼女の口から聞けたのは、告白。彼女の過去とそれにまつわる周りの話だった。

 

「候補生時代に私だって努力したわ・・・周りに負けないようにね。でも専用武装と言われて届いたのがアレラなの。 馬鹿にしてるわよね?」

 

レジスタンスや弾君たちにどよめきが起こった。彼女はずっとあの装備で戦ってきたのだ。

あのIS戦では到底向かないような装備で独りで彼女は戦い続けたのだ。

 

「抗議はしなかったんですか?」

 

静寐さんが訊いた。信じられないといった表情で彼女はイヴァナ先生に訊いた。それに答えたのは簪さんだった。

 

「無理だよ。与えられた以上それしか使うことを許可されない。拒否するなら、資格だって失うかもしれない・・・」

「そんな事って・・・」

 

ナギさんが憤慨の声を上げる。でも、過去に憤慨しても意味はない。ましては他人では全くもってない。

 

「私はアレで戦ってきたわ。何度も勝って、勝ち続けて・・・でも勝てば勝つほど得るのは虚無感だったわ。こんなイカサマみたいなことしても私に勝てる者がいなかった。私より努力しようとする人もいなかった。皆不平を言うだけよ。」

 

それは私たちも見てきたかもしれない。最初はレジスタンスを嗤っていた人達に男だからと言って見下す人。ただの定食屋からやって来た運だけの男と嗤った人。

それら全てが彼女の言う、昔の候補生と重なったのかもしれない。

 

そして、私を見た。何をしても無抵抗なままの私を。教師と言う立場で、何も叱りもしない私を。

 

「でも、モデルを選んだのはそこからじゃないのよ。 そこだけは勘違いしないで。私は虚無感とかそういうので夢を選んだわけではないわ。」

 

そこで彼女は強い瞳で答えた。譲れない夢だという事は語るに及ばずだ。

彼女もまた方向は違えども、私達を同じだ。ただ、夢に向かって真っ直ぐに行こうとしていただけだ。

 

「・・・最初から素直に言えばよかったかしら。なんだが、少しスッキリしたわ。」

 

こんな簡単なことをわかるのに、ラファールを半壊に追い込むほどの戦闘をしてしまう自分が少し恥ずかしかった。

私は彼女の手を取って、言った。

 

「でも、今言ってくれました。それだけで、私たちはわかり合えたと思います。それではいけませんか?」

 

イヴァナ先生は黙ってココアを飲む。チョコレートの甘い香りが鼻孔をくすぐった。

彼女は少し考えこむようにして、頭を抑えるようにして言う。

 

「そうかもしれない。 でも、もう遅いわ。私はやりすぎたわ。」

「そんなことはないですよ」

 

そう言ったのは五反田君だった。彼は真っ直ぐに彼女を見て言った。

 

「こんな話を聞いて、貴女を無下になんかできませんよ。貴女の流した涙は本物だし、今こうして告白している。それを見て、どうして俺たちが貴女を蔑むようなことをするんです?」

 

それに対して彼女は答えた。

 

「経験がなければ、理解するのは難しいからよ。想像だけで他人の過去を・・・」

「俺にだって経験はある。」

 

五反田君が言うと、イヴァナ先生は少し怒った顔をした。

 

「でまかせはやめなさい・・・そんな話を誰が信じるの?」

「本当です」

 

アカネさんが即答した。彼女は自らを証人として名乗った。

そして、五反田君が深呼吸をして語った。自分の過去を。

 

「俺は・・・Rインダストリーに最初っから入るつもりじゃなかった。初めは親に勝手にサインされただけだ。それでも、と言い聞かせて訓練して来た・・・そしてある日アカネに勧められて俺は実家に戻った。」

 

一瞬五反田君の指が微かに震えたのが見えた。嫌な事なのかもしれない。

それでも、彼は話そうとする。

 

「だけど、俺の前にあったのは捨てられた俺の私物だけだった。乱雑に積まれて、粗大ごみとして置かれて、俺の部屋もリフォームで取り壊されてた。俺の居場所なんて跡形もなかった。」

 

信じられないような話だった。彼の家族は彼の支えにもならずに、ただ厄介払いのように会社に売り飛ばしたという。

そんな戦前、戦後のような話が今の現代に起こっていたなんて信じられなかった。

 

でも、彼の様子から嘘だなんて言えるわけもなかった。時々小刻みに震える彼の肩が悲しみを物語っていたからだ。

 

そして、寄り添うアカネさんの顔を見れば、彼を心配しているのは明らかだった。

無理をして言っている。彼はイヴァナ先生を放っておけないから言っているのだろう。

 

そこで、突然鈴さんが五反田君の前に歩いて行き、彼に詰め寄った。

 

「なんで・・・何でもっと早く言わなかったの?!」

 

それに対して、五反田君はあくまで冷静に対応した。十五歳の子供路は思えないほど落ち着いた対応だった。

 

「言えるわけないだろ。 誰がそんな話を友達にするんだ?」

「友達だから、言うべきよ! この馬鹿! そんな事を隠して・・・」

 

そこでヴィンセント君が鈴さんの肩に手を置いた。鈴さんが振り返ってみると、ヴィンセント君が無言で首を横に振った。

それは、彼の思いをわかってほしいと言っているようでした。彼女はそれを理解してしまったのか、いきり立った肩をしずめて、黙り込んだ。

 

彼はイヴァナ先生に再び振り返って言った。

 

「・・・・ここにいるのは皆、貴女と同じような体験をしてきてます。だから、わかるんです。

貴女の気持ちも。だから、寂しいこと言わないでください」

 

 

それは正しかった。代表になれなかった私に、自衛官ではなく、教師として今を生きる大場先生。期待もされていなかったレジスタンスの皆さんに、大きすぎる夢を追い求めるインダストリーの皆さん。

 

皆が彼の言う通りの人だった。

 

それを聞いて、イヴァナ先生は何も言わなかった。ただ、少し悲しそうな目をしていた。

 

「そう、そうなのね」

 

そう言った、次の瞬間に目を閉じた。涙をぬぐって、前までの彼女は強気な瞳を見せた。そして、いきなりココアを飲みほして立ち上がった。

 

 

「なるほどね・・・わかったわ。しばらくは、貴方たちに付き合うわ。友達もいなし・・・・」

 

彼女は長い髪の毛をかき上げて、いつもの自信と魅力にあふれた顔つきに戻った。

枯れてしまった花が再び活力を持って蘇ったかのように、彼女は周りを見て宣言した。

 

「貴方たちに付き合う以上、私も力を尽くすし、できることは全てやるわ。大人だもの責任はとる。 だから・・・」

 

彼女は顔を少し赤らめて頭を下げた。照れているのか慣れていないのかはわからなかった。

 

「虫が良すぎるかもしれないけど・・・・よろしく・・・お願いします。」

 

この日、レジスタンスに新しい仲間が増えた。彼女は複雑で素直でないけれど、悪い人ではないし、素敵な方だ。

 

私も負けていられないな、と思った。少なくとも、先輩として頑張っていこうと思った。

 

同時に同じように夢を追う友人としても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決闘から四日ほどたった日のことだった。

ようやく、二機の訓練機を借りれたので、それを使って訓練をしようとしたところ

一人の来客がアリーナに入った。

 

それはあのモデルのイヴァナ・ハート先生だった。

新しくレジスタンスの教官として入ることになったのは知っているが、こんなにも早く来るとは思わなかった。彼女が放課後に私たちの使うアリーナにラファールを纏って来たときは私たちの誰もが驚いた。

 

彼女は全力を尽くすと言っていた。まさに有言実行。電光石火のごとく、やって来たのだ。

付き添いとして、いつもの二人の先生もいるとはいえ、心境は複雑だ。

 

確かに仲直りもしたし、誤解も解けた。彼女にも事情があったとはいえ、あの戦車砲を撃とうとしたことは強烈に印象に残っており、少したじろいだ。

 

「大丈夫かな? ミスしたら撃たれない?」

「大丈夫よ」

 

理子が不安げに言うのを私が答えた。

そういう私も少し不安なのだ。

 

ふと彼女の顔を見る。女の、同性の私から見ても惚れ惚れするような美しい顔つきに、羨ましいほどに理想的なボデイライン。

 

同じISスーツを着ている自分の姿をみて、敵わないことに悲観しつつも、この人が私たちにどのような影響を与えていくのか興味がわいた。

 

「では、私が教えるわ。まず、武装を展開して」

 

言われたとおりに私と癒子は武装を展開し、標準的装備な私とバズーカ二丁の重装備な癒子がその武装した姿を見せる。

それらを一つ一つ見た。その様子は美術館で、作品でも鑑賞するかのように愉快そうな雰囲気すら感じた。

一通り見終わってイヴァナ先生は口を開いた。

 

「なんだか旧型の武装ばかりね・・・そこの貴女、名前は?」

 

聞かれたのは癒子だった。彼女は突然の指名に面食らいながらも、ハイ、と答えて名乗った。

 

「武装はバズーカ二丁だけど、接近戦はどうしてるの?」

 

微笑みと共に問いかけらて、癒子は心なしか顔を赤らめて言った。

 

「ち、近寄らせないようにして・・・」

「・・・それは残念ね」

 

そう言って、イヴァナ先生は癒子の近くにまで行って、彼女の脚を持ち上げた。スルーと撫でるように触って、癒子は顔を赤らめた。

 

「せっかく、長くてイイ脚があるのだから、活用しなさいな。貴女の脚なら下手な剣術よりも頼りになるわ」

 

「は・・はい」

 

山田先生の時もそうだったけど、この人はそっちの気でもあるのだろうか。

赤らめる癒子の頭をなでて、頑張ってね、と笑顔で言った。

 

それを見て、山田先生がピピっと笛を吹いた。

 

「イヴァナ先生、ダメですよ! 生徒さんにセクハラはNGです」

「スキンシップよ、山田先生。それに事実よ。」

「それでもイケません!」

 

さらに力強く笛を吹いてイヴァナ先生を止める。イヴァナ先生は口惜しそうな顔をして、

私に近づいた。

 

「さて、次は貴女よ。ライフルを貸してくれる?」

「ハイ」

 

言われてライフルを貸すと、彼女は的確に操作して照準を覗くなどして状態を調べていく。

マガジンを一度抜いて、引き金を引いて時、彼女の顔がピクリと動いた。

何度か、引き金を確かめて、彼女はライフルを返した。

 

「あとで、マイクさんに整備してもらいなさい。キレが良くないわ。」

「・・・あのイヴァナ先生は装備に詳しいんですか?」

 

彼女の手慣れた手つきはマイクさんの整備するときの動作によく似ていた。

それゆえに、何をしていたのか気になった。

 

「モデルをする前にあちこちの会社に行って、雑誌に載せてくれる代わりに武装のテストをしていたのよ・・・だから、経験豊富なの」

 

耳元にささやくようにして彼女は言った。その妖艶さは私の口では表現しようがなかった、

 

「・・・・・なんだか、エッチですね。」

「大人だからよ。」

 

ウィンクをして、彼女は上品な笑みを浮かべた。

同時に山田先生の笛が鳴って、イエローカードが出された。そのことに彼女が抗議をしていくが、もう一人の審判である大場先生もやって来て同じくイエローカードをだす。

 

だが、そこに横やりを刺したのがいた。マイクさんだ。

イヴァナ先生の装備を修理し終えてこっちに来たのだが、暇だったらしく口を挟んで来たのだ。

 

彼はイヴァナ先生の行為は何ら違反していないと主張したが、二人の教師は負けじと口論する。

 

「いいだろ、スキンシップくらい。ひと時の癒しくらいあっても罰はあたんねえだろ。最高にボッ・・・」

「黙れ。そんなの喜ぶのは男だけだろうが、健全な女子を毒牙に賭けるなどもってのほかだ。」

 

それに対して、マイクさんは口が滑ったのか、禁断のワードを口にした。

 

「規則、規律。自衛隊は固いねえ。だから、いき遅れに・・・」

大場先生がマイクさんの襟元を持ち上げた。その顔は悲しみと怒りの混同したものだ。

 

「暴力反対!専守防衛だろ?」

「お前が言うからだ、この野郎! アタシだってまだ30行ってないからな!」

「アラ、意外と歳いってたんですね大場先生」

 

イヴァナ先生が火に油を注いで、マイクさんに力が入り込み。大場先生は涙目になっていた。

山田先生がイヴァナ先生と大場先生を止めに入るが、ダーティ二人組には旗色が悪い

 

そんな様子を見て、私は何だが安心した。

彼女も楽しそうで、私たちも楽しい。

こんな簡単に打ち解けられたんだ、と心の奥底から思えた。

 

「なんだ、こんな単純な事だったんだ」

 

楽しくなりそうだ、と私は明るい未来に期待を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに後に聞いた話で、イヴァナ先生がここまで来るのに山田先生と一生懸命生徒とのやり取りを練習していた、と聞いたのは レジスタンスだけの秘密だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの教師同士の決闘から、五日が経った。イヴァナ先生はとりあえず教師として働きながら、インダストリーの雑誌でモデルを継続することでケリが付いた。

 

それからと言うモノ、彼女の仕事への熱の入れようはすさまじかった。レジスタンスの三人目の教官として入り、あらゆる技術を彼女たちや、アカネたちに教えている。

 

 

その技術は戦闘だけでないのは、目の前のアカネを見ればわかる。

いつもは教室では絶対にしてこなかったことを彼女が珍しく行っているからだ。

 

「アカネ、最近化粧するようになったか?」

 

何気なく訊くと、彼女は少し慌てつつも答えた。

 

「さ、さあ・・・私には何のことか・・?」

 

うそぶいてはいるが、その証拠は明白だ。薄くだが、ファンデーションをしていて

目立ちすぎない程度にナチュラルメイクを施しているのがわかる。

 

普段彼女は式典でもない限り、メイクなどほとんどしない。というより、本人曰く、教えてくれる人がいなかったのでわからない、と言っていた。

 

それを聞いたときは謝ったものだが、今こうしてメイクをされた彼女を見ることができたので、俺は嬉しく思い、また安堵のため息を吐いた。

 

「・・・・似合ってませんか?」

 

アカネは不安げに訊いた。俺は微笑んで彼女の疑問に答えた。

 

「ばっちりさ。」

「そうですか・・・そうですよね。」

 

このようにして、イヴァナ先生は少しずつではあるが、交流を持つようにはなった。

おかげで、最初は難色も示したレジスタンス達の面々も打ち解けつつあるようだ。

 

メイクやファッションで通じる彼女ならではのやり方だ。男の俺やユーリ、ヴィンセントには到底まねできない。

 

彼女はいわば、レジスタンスや俺たちにとっての一種の癒しだ。訓練や陰謀に立ち向かってばかりだと疲れるのは人間として当然で、そこをイヴァナ先生のように芸能関係出身の人が現れたことで、俺たちに日々の日常の楽しむコツと言うのを教えてくれている。

 

流石は大人と言うだけあって、あらゆることに精通している。

 

俺達の考えは正しく機能している。彼女は人と関わりを持つのが上手いし、雰囲気を和らぐのにはうってつけの人物だった。

 

この前、鈴を見たときは驚いた。プロに近い技術でメイクされることによって、

 

 

「では、授業を始めますので、皆さん席について下さい。」

 

あれやこれやと考えていると、山田先生が現れた。

しかし、一部の生徒は山田先生の話を聞こうともせずに話してばかりいる。相変わらず、懲りないものだ。山田先生が少し残念そうな顔をするが、そこへ例の教師が声を上げた。

 

「また、実験台になりたいのかしら? お嬢ちゃん?」

 

それを聞いて、彼女たちはピタリと話すのをやめて席に慌てて戻った。山田先生が少しキッとした顔でイヴァナ先生に抗議をするが、彼女はニコリと笑うだけだ。

 

やはり、イヴァナ先生にはバットティ―チャーと言う言葉がよく似合う。だが、そこは山田先生とのタッグを組むことで、解消を図っているようだ。

 

二人の関係は「いい刑事と悪い刑事」、みたいなものだろうか。それとも「飴と鞭」だろうか。

正反対な二人が組むことで、理想的な教室の環境を作る。これも先生方で話し合った結果なのだろう。

 

そのおかげで、神楽やナギ、静寐が発言をしても、陰口をたたいたりするものは居なかった。

 

次にあてられたのは、アカネだった。彼女がスラスラと教科書を読んでいるときも穏やかなものだ。誰一人文句を言ったりしない。

 

本当に効いているようだ。しかし、その中で、異様な雰囲気を発しているのに俺は気づいた。

 

セシリア・オルコットだった。彼女は何やら落ち着かない様子に見えた。座学など図行態度は優等生そのものと言った彼女が何やらイライラしている様子だった。

 

何にイラついているかは少し予想がついたが、そこまでイラつくことだろうか。彼女と同じイギリスから来たからライバル心でも燃やしているのだろうか。

 

なんにせよ、傍から見ても彼女の感情の動きがわかるほどだった。

 

俺は一瞬憂鬱になった。解決したものだと思った問題も実はまだ解決されていないからだ。

セシリアほどだと、良くも悪くもクラスの空気を読まずに、突然立ち上がって宣戦布告する可能性がある。

 

そうなれば、沈静化した問題も再び沸き起こるだろう。

なぜなら、レジスタンスや俺たちが「せっかくヤル気をなくした先生を復活させた一派」であり、とばっちりを受けること確定だからだ。

 

そうならないことを今は祈るしかない。

 

「五反田君、次のページをお願いします。」

 

思考の渦にいた俺を山田先生が引き戻す。俺はハイ、と答えて教科書のページを捲った。

 

別に最初から期待したわけではないが、願わくば学園生活くらい楽しくやっていきたいものだ、と思いつつ。

 

教科書のインクのにおいが何故か妙に気になった。

 

 

 

 

 

 

 

授業も終わり教室の扉から出たところ、誰かが俺を引きとめるように肩に手を置いた。

ゴツゴツ着て固く感じたからか、なんとなく女の子の手ではないと思いつつも、俺は振り返った。

 

「お前か・・・」

 

振り返った先には一夏がいた。奴はふざけたような態度も出さずに言った。

 

「弾。話があるんだ。」

「何だよ?藪から棒に」

 

どうみても、遊びの誘い等ではない。だとすれば、俺か、俺のいる組織に対する糾弾に来たと思うのが自然だろう。

福音事件の件でも話しに来たのだろうか、と予想をした。

 

「いいから,来いって。」

「そう言われてもな・・・」

「来ればわかるよ。だから、今は黙って来てくれ」

 

俺は頬を掻いて、黙って立ち去ろうとしたが、一夏の手は俺を離さない。それに、周りを見ると、何だが彼の友人たちが俺を逃がすまいと退路に配置でもされてるかのように廊下に散在している。

 

逃げ場がないな、と悟った。アカネは先にアリーナの方に行ってしまった。ヴィンセントや鈴は二組。ユーリに簪は四組だ。

 

恐らくだが、アカネが教室を先にはなれるのを見計らって行ったのだろう。

強引に突破するのは不可能ではないが、ただでさえ悪いうわさをこれ以上悪くするのも賢い選択とは言えないだろう。

 

俺は少し天井を仰ぎ見てため息を吐いた。

 

「わかったよ、ついて行けばいいんだな?」

「・・ああ」

 

一夏は俺の態度にムッとしながら言った。俺は奴の背中の一方後ろを歩いて彼についていく。

 

一、 二年前は鈴や和馬と並んで歩いたものだ。あの頃は学校が楽しくて、仕方なかった。

それ以外で楽しみがあった場所がないと言えば、おのずとそうなるだろう。

 

帰りにパン屋でカレーパンを買い食いしたり、ゲーセンでとれもしないぬいぐるみ相手に千円札を三枚も投入したことだってあった。それを鈴に爆笑されて、格闘ゲームでやり返してやった。

 

放課後の思い出。それは俺の宝物だ。

 

楽しいことばかりだったはずだ。一夏とは親友だったはずだ。

 

なのに、今はもうそうではないかのように、微妙に距離を空けている。こうして廊下を歩いてるときでさえ、話の一つさえしない。

 

後悔しているわけではない。しかし、何故こうまで遠くなったのだろうか。

ISに乗れるようになったからか。俺がRインダストリーで訓練を受けたからだろうか。

何度、自分に問いかけても答えは出ない。

 

もう問いかけても無意味だからか、俺も変わったものだ。

 

廊下をしばらく歩いて、着いた先は空き教室の扉の前だった。今更だが、こんな所もあったのだなと感心した。

 

「ここだ。」

 

一夏が扉を開けて奥へと入る。俺は何の気なしに入っていくが、そこには何もなかった。

ただ、机もない教室で窓から夕陽が差し込んでいるだけの場所だった。

 

「こんな所で何をするんだ? 一夏?」

「ちょっと待ってくれ」

 

一夏は携帯電話を取り出した。俺にかまうことなく、電話番号を無言で押していき通話番号を押した。

 

誰もいないせいで、コール音が良く聞こえた。何回かコール音がして、ガチャリという誰かが電話に出た音も聞こえた。

誰かと話しているようだが、声までは判別できなかった。

その人物は一夏といくつか話しているようだ。一夏の様子から彼と親しげな人物なのかもしれない。

 

「ああ、頼む」

 

そう一夏が言うと、俺に電話を押し付けた。

受話器からは声はしない。まるで俺が出るのを待っているかのように。

 

「・・・俺にかまわず話したらどうだ?」

「いや、これはお前宛の電話だ。」

 

一夏はそう言った。俺は仕方なく、その電話を受け取って耳にあてた。

 

「もしもし?」

 

俺がそう言うと、声が帰って来た。それは良く知っている女の子の声だった。

 

『久しぶりね・・・お兄』

 

俺はその声を聞いて、今すぐこの電話を切ろうとした。しかし、一夏がそうはさせない。

あくまで、俺に彼女たちと会話させる気なのだ。

 

俺を売った俺の家族と話をさせようというのだ。

 

「どういうつもりだよ? オイ」

 

俺は怒気を含めて一夏に訊いた。一夏がどういうつもりで、こんなことを仕組んだか走らないが、いい迷惑だ。

不快きわまる。俺の気持ちもしらないで、こんなことを仕組んだのか。

もし、俺の過去と気持ちを知って行ってのだとしたら、ただではすまさない。

 

「弾。向き合わなきゃダメだ。」

 

一夏は俺に対して力強く言う。諭すかのような口調が余計に俺を刺激してくる。

 

「そういうことを聞いてるんじゃねえ。 どういうつもりだって聞いてんだ」

 

俺の問いに対して一夏は真っ直ぐな目で答えた。

 

「俺は、これまでのお前を見てきた。Rインダストリーに入ってから、お前変わりすぎだよ!

酷いことを平然として、千冬姉もラウラも箒も皆を否定して・・・そんなのお前じゃねえよ。昔のお前はもっと・・・・いい奴だった」

 

俺は一夏に舌打ちして、彼の言い分に反論した。

 

「まるで、今の俺が悪いやつで、自分を偽っているようだな。 それで、昔の俺に戻そうとこんなことしたってか?」

 

一夏は俺に立ちはだかるかのように答えた。

 

「ああ、そうだ。力に溺れて、酔っている。強さを求めるばかりで、間違った方法のまま突き進んでいるんだ。だから、お前はあんな連中と・・・」

 

俺は床を蹴った。この教室になにかあれば、蹴り壊していたところだ。

 

「知った風な口を抜かすな!」

 

俺の友達を否定しようとするセリフを聞いている内に声を荒げて否定した。

そのことだけは許せない。絶対に言わせはしない。

 

「まるで、俺にはそれしか無かったように言いやがって、同情か? 哀れみでもしてるのか? いいか、俺は自分でこの道を選んだんだ! 進んで来たんだ! 俺は騙されてもいないし、洗脳だってされてない! 」

 

俺の感情の爆発は止まるところを知らず、次々と心から溢れ出てくる感情を吐き出していく。止まることは無かった。

話している内に携帯電話を投げ捨てていた。無意識にそうしていた。

 

「こんな真似なんかしやがって! 自分は高いところに立って、俺を導こうってか!? 」

「そんなんじゃない! 何でわかってくれないんだ?!」

 

一夏は必死になって否定するが、俺にはそうは思えなかった。

間違っている。こんなことを言われて、上に立っていないなんて嘘だとしか思えなかった。

 

俺が間違っているとしたら、何が間違いだというのだろうか。人を殺したことか、だましたことか。

 

だが、あの事件ではそれ以外に俺に方法は無かった。あの時は俺自身も死にたくなかったし、たとえ殺さずに犠牲になったとても、その後、誰が犠牲になるかはわからなかった。

 

それに、俺を助けてくれる彼らが犠牲になるなど論外だった。

俺にとっては、かけがえのない人々だからだ。

 

理想的な人々ではないの確かだ。傍から見れば、金銭と権力欲に溺れたヴィンセントに、

夢のために引き金を引き続けるアカネ、さして目的もないのに、平然と汚れ仕事をするユーリ。

 

だが、俺を救ってくれているのも、友となってくれているのも、愛してくれているのも彼らだ。

 

「確かにアイツらは褒められた人じゃないかもしれない。だけど・・・俺にとってはなあ・・・」

「お前は間違っている! お前の言うアカネだって人殺しじゃないか!」

「・・・言いやがったな!?」

 

そこからは、取っ組み合いになった。罵倒して、殴りつけての繰り返し。しみついた技術すら使って俺は一夏と殴り合った。

 

そこにかつての親友同士の姿はないだろう。

あるのは醜い争いをする二人の男だ。人によってはたけり狂う二匹の猿に見えたかもしれない。

 

どっちが正しいかもわからないまま、喧嘩をした。ただ一つはっきりしたことがある。

 

俺達にもう友情なんてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から、vs会長様と学園祭です。

生徒も教師も関係なく巻き込んでいきたいので頑張ります。

感想、批評 いつでも歓迎しております。
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