IS to family   作:ハナのTV

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亡国さん参上です。
前回の本音さんに対する反応が強いので、一応それっぽいこと書いておきました。


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一組の教室へと入ると、メイドの格好をした女子生徒たちが接客するというのを見て、数カ月前の任務を思い出しブルーになりかけた。

 

接客される客も一般の男性が中心で鼻の下を伸ばしているのが見て取れた。

 

そんな給仕が多い中では標的を視界にとらえるのは容易だった。

 

写真でも見たが、能天気な顔つきだった。確かに学園の生徒である以上、ISを持っていようと彼は学生だ。

 

学園祭でそこいらの有象無象な女子と戯れていたいのかもしれない。

しかし、亡国機業、一テロリストの私から見れば、あまりに間の抜けた顔だ。

 

仮にも幾多の暴走事件に関わって生きたとは思えない男だ。だが、こんな男でもスコールが私に命令する程度には見られているのだ。

 

こんな男の相手をしなければならない。己の不幸を嘆きつつも、私はこの場では

IS装備開発企業{みつるぎ}とやらの渉外担当の巻紙礼子を演じなくてはならないのだ。

 

いつもは吊り上げている目も穏やかにして、猫なで声の様な声で店員を呼びつけて席に着いた。

 

そこへ、目標が近づいてきた。執事喫茶らしく燕尾服を着ている。周りの女子生徒には受けているようだが、私には興味のわかない優男だ。

 

「いっらしゃいませ、お嬢様。ご注文はお決まりでしょうか?」

「コーヒーお願いします。 それと、少しお話があるのですけど? 織斑一夏さん」

 

我ながら、こんな猫を被るようなマネをしていると、情けなく感じる。

仕事は本気でこなすのは当然だとしても、意中の相手でもない、しかも 男 に亡国機業の構成員が一人オータム様が色仕掛けに近いことをしている。

 

「何でしょう?」

「私はIS装備開発企業みつるぎの巻紙礼子と言います。こちら名刺になります」

 

そう言って、一枚の名刺を渡す。偽物ではなく本物のみつるぎの名刺だ。

手に入れるのはそう難しい話でもない。標的の織斑一夏は頭を掻きながら、名刺を受取った。

 

「世界初の男性IS適性者として織斑一夏さんにぜひ、わが社の新製品をお使いになっていただけないかと思いまして・・・こちらがカタログとなります。」

 

そう言って、カタログをバックから取り出して、商品の説明をしていく。相手に相槌すら撃たせないように機関銃のようにセールストークを放って、商品の良さをアピールする。

脚部ブレードやら、レーザーライフルなどを例にして言ってはいるものの、まるで道化に思えた。余談だが、私はこれらの武装がどんなものなのかを知っている。

 

実際に使って試した見たのだ。どれもこれも使い勝手が悪い粗悪品だ。脚部ブレードに至っては使ったら二回目にして折れてしまった。

自分でもゴミだと思うものを人様に売りつけるというのは、たとえ、これから地獄へと叩き落とす相手でも良心が痛む。

 

「あの…せっかくですけど、白式には、こういった装備は……」

 

予想通りの言葉が来た。頑固にブレード一本でしか戦わないこの男なら、銃の有用性も誘導兵器の使いやすさも考えたことないだろう。

 

むしろ、使えるのかどうか、疑問だが、最大の理由はおそらく姉を意識しているからだろう。

最強の乙女ブリュンヒルデを姉として持つこの男なら、刀一本で勝つ女の模倣をするのも無理はないのかもしれない。

だが、ここで使えるのは魔法の言葉だ。

 

開け、ゴマと唱えれば、扉が開くように、この言葉を唱えれば簡単に彼を揺さぶれる。

立ち去ろうとする織斑の腕を掴んで、私は呪文を口にした。

 

「お友達・・・」

 

織斑の動きが急に止まったのを見て、内心ほくそ笑んだ。

 

「Rインダストリーにはお友達がいるそうですね。最近、活躍しているらしいのでよく耳にするのですが、彼に勝てるかもしれませんよ?」

 

無論これは、前置きの一つに過ぎない。織斑が五反田弾に対してライバル心を持っているわけではないのは承知している。この手の情報を得るのは意外と簡単で、IS学園の生徒の名簿を手に入れれば、あとは適当な生徒に適当な企業の名前を騙って、近づいて聞き出すだけでいくらでも手に入る。

 

どいつもこいつもチャンスに飢えているので、簡単に引っかかってくれる。まるで南緯でも食らいつく魚のバスのようだ。

そして、効果はてきめんで織斑一夏は顔をこわばらせて私を見る。

 

「…アイツは囚われてるだけです。 力に…」

「では…彼を救いたいと?」

 

私が訊くと彼は応える

 

「当たり前です! 友達を見捨てるわけには…」

「では、少しコチラを…」

 

カタログの裏に隠していた一枚の書類を見せる。それはRインダストリー社の書類を真似たもので機体のデータが書かれている。

 

機体のデータはドクターが作ったもので、それっぽいが本職が見ると違和感を覚えるものだ。元はラファールのスペック表で何割か増したり減らしたりをしただけのものだ。

しかし、パイロットにはそれがわからない。

 

多少の知識では見破れるわけもなく,まして奴は学生。織斑一夏はグレイイーグルと書かれたスペック表を素直に信じ込んで、食い入るように見ている。

 

「これだけではありません。他にも彼らがいかに非道な事をしてるかなども我々は調べているんですよ……本当に許せないですね……同じ企業としては見過ごせないのです。」

 

私は織斑一夏の手を取った。手に触れたときに感じた寒気を無視して彼の目をまっすぐ見る。

 

「ISができてからと言うモノ、その力に魅了されて力に溺れる者も少なくはありません。

女尊男卑の風潮の中で世界で有数の才能を持つ。そこに付け込まれたのかもしれません。」

 

無論、これが誰の事を言っているのかは亡国内では語るに及ばず、だ。

私はスコールのセリフを少し借りただけだが、一夏はそれが五反田弾の事であると信じて疑わない。

 

「Rインダストリー社は軍需産業であり、このままいけば、もしかしたら…」

 

震える手を演出して、何かに怯える女性を演じて見せるが、やってる本人としては内心少し恥ずかしい。

 

かつてスコールは私の演技を見て、大衆向けのハリウッド映画なら通じると褒めているのか貶しているのかわからない言葉で評したのを思い出した。

 

「そんな事には、絶対にさせません!」

 

織斑が立ち上がって言った。

真っ直ぐで正義感が強い少年だ。単純に好青年だろうが、おかげで我々が仕事しやすい。

 

「織斑さん、協力していただけませんか? そのために……」

「そのためには…何をすれば?」

 

釣れたな、と確信した。やはり子供相手は簡単だ。持ち上げに引っ掻け、とでっち上げ、誘導、と簡単にこちらの望む方向に進んでいく。

歯ごたえすら感じない。それもテロのプロとしては当たり前なのだが、もう少し頑張ってくれてもよかったと思わないでもない。

 

そして、最後に「とどめの一撃」 決め台詞を言えばいい。

「ここではまずいですので、少し人気のないところに…」

 

そう言うと彼は大きく頷いて、こっちに、とだけ言って案内してくれるようだ。

 

その決意を固めた顔をみて私は吹き出しそうになった。

自分から墓穴に向かってくれるというのだから、笑わずにいられない。

 

お礼に墓石に何か書いてやろうかとすら思うほどだ。

 

ふと、後ろを見ると面白いものを発見した。一組の平和ボケした空気漂うぬるま湯から抜けるとき、視界の端に偶然にとらえることができたのだ。

 

ぬるま湯に入るように言われた同胞の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

喫茶店のような雰囲気に飾り付けられた教室内で、私は望まぬ仕事をしている。

白い陶器のコーヒカップに注がれたコーヒーを一口飲んで、荒れる心を落ち着かせようと試みても焼け石に水で、何の効果もないことに余計に腹を立てた。

そんな私の心も知らずかテーブルの向かいの席、目の前の金髪のメイドが私に気さくに話しかけてくる。

 

スコールの命令とはいえ、今回のはまるで理解ができない。目的も何もない。この女と話して来い、それだけだった。

 

最も不満だったのが織斑千冬に手を出すなということで、反抗も試みたが、ナノマシンもあり、もっというとスコールに勝てるわけもなかった。

 

だから仕方なく、仕事をこなしている。そんなことも知らずに彼女は他愛のないことを話し続ける。

 

「驚いたよ君がここに来てるだなんて。」

「……たまたまだ。」

 

私は何の感情も込めずにそっけなく言った。しかし、彼女は表情を変えることなく嬉しそうにしている。

以前、ショッピングモールで助けただけに過ぎないのだが、それだけでこの少女は私に心を許したのだろうか。

それほどまでに友達がいない、と言うわけではなさそうに見える。

彼女のアイスコーヒーの入ったグラスから氷の音がした。

 

アイスコーヒーの温度で氷が解けているのだ。その程度には離してしまっている自分が情けなく思えた。

 

「そのサングラスは外さないの?」

 

女がまたしても話しかけてくる。彼女が質問をして自分が答える。そんなことを私が来てからずっと繰り返している。面倒だ、と思いつつも私は返答をしてしまう。

 

「この顔は目立つ。 ここにいる連中が私の顔を見れば、大騒ぎになるだろう? ソレがたまらなく嫌なだけだ。」

 

「……自分の顔が嫌いなの?」

「やけに首を突っ込んでくるんだな?」

 

女が途端に暗い表情をして顔を伏せた。よほど他人に気を遣う人物だ。

だからこそ、付け込まれるとあの時にも言ったはずだが、そう短期間で人は変わらないようだ。

 

「不愉快にさせたのなら、ごめんなさい。」

「…いい、気にするな。お前と同じように生まれや家族が嫌いと言うのと変わらん」

「……シャルロット」

 

女は誰かの名前を口にして、私は一度聞き返した。意図がつかめなかったからだ。

 

「何?」

「私の事はシャルロットって呼んで」

 

彼女の名前の事という事だったらしい。そう言えば、私は名前で呼んだことは無かった。

最もそう長い間付き合っていた訳でもなかったのだ。名前と呼び合うほど親密になったと少なくとも私は思ってなかった。

 

「シャルロット……これでいいか?」

「……うん、ありがとうマドカ。」

 

ニコリと彼女は柔らかい笑みをした。久しぶりにそんな笑顔を見た気がした。

最後にこんな笑いをする人にあったのは何時以来だろうか。

 

名で呼ばれることがいいことなのは私も知っている。私のこの「マドカ」と言う名前には愛着がある。顔や声どころか、細胞まで姉さんに似ている私を姉さんと区別しているのが名前だ。

 

この名前のおかげで私は単なるコピーではないという事を認識できる。それに名づけてくれた人、あの人との繋がりでもあるのだから。

 

名前は大切だ。そんなこと、最近は任務ばかりで忘れていた気がしていた。

私は彼女の目を見て訊いてみた。好奇心からの質問だった。

 

「シャルロット、一つ聞いていいか?」

「何? 何でも聞いて」

 

人懐こそうな声を出して彼女は私を見る。ある意味物怖じしない態度には敬意すらおぼえるほどだ。コーヒーを一口飲んで口の滑りを良くして私は言葉を口にした。

 

「お前はこの人生で何をしたいと思う?」

 

単純な質問だ。私ぐらいの年齢ではこの程度のことはよく話すのだそうだ。しかし、私のような人間では意味が少し違ってくる。

私の目的はそこいらの流行によって移り変りする軟弱な物とは違う。それは険しく私にとって意義のあるものだから、私の夢をそう否定できるものはいないだろう。

 

自分をただ唯一の存在にしたい。そして、あの女に復讐をする。これが私の夢だ。

これだけ、確固とした夢を持っている者がこの教室内でどれほどいるだろうか。

 

だが、だからこそ私は知りたくなっていた。彼女たちが何を夢見ているのか、と。

何故、そうも夢を変えて生きていけるのかと。

 

妥協の果てに得た人生で何故満足そうに生きていけるのかが理解できなかった。

だから、聞いた。私の知っている、唯一の表の住人に。

 

彼女は少し困ったような顔を見せた。喉の奥に何か詰まったように、言葉が出てこないのか、しばらく答えなかった。

 

難しくはない質問に何をそんなに答えに戸惑うのか、とおもっていると質問をしてから、二分ほど経ってようやく口を開いた。

 

「それが……わからないんだ」

「わからないだと?」

 

生きているのに夢がないとはどういうことなのか、意味が分からなかった。

では、何のために生きているのか、わからないではないか。

 

「最初は、一夏……好きな男の子と一緒に過ごすのがそうなのかなって思ったの。でも……なんでかな、違う気がするの。」

「違うとは何だ? その男が好きではないのか?それとも、以前と同じように遠慮や配慮とやらを考慮したからか?」

 

私が問うと、彼女は少し唸って答えた。

 

「そんなんじゃないの。私はその人が好きなのに変わりはない。 だけど、よくわからないけど違う気がするの。シックリこないというか…」

 

彼女の中には迷いがあるようだった。自分のの望みがわからない、そんなことがあるとは新鮮な気持ちだった。初めての発見だ。

 

思えば、私の周りにそんな人物はいなかった。皆、何かしらの望みを持っていた。それが破壊的なものだろうと、何かを持っていた。

しかし、シャルロットはわからないと言った。

 

それは事実なのだろう。

 

「なぜ、それではダメなのだ?」

 

シャルロットはおずおずと答えた。

 

「人生の目的って…それだけで終わらないと思うの。 一夏と結ばれたら、その後は? ボクはそれだけで自分の意味を決めてしまうのかなって…他に何かあるかもしれない……そう思って…」

 

コーヒーを飲み、カップを空にした。ちょうど、シャルロットが話し終えるのと同じタイミングで飲み干した。

その殻のカップを何となく見つめた。 中身のない空のカップはこの場で無用のものとなってしまった。

あの時のドクターの言葉を思い出して、小さく舌打ちをした。

 

「お前は恵まれてるな」

 

私は率直に彼女に言った。

 

「どうして?」

「選ぶだけの余裕がある、そういうことだ」

 

自分にも言い聞かせるように言った。彼女たちには選ぶだけの余裕がある。そういうことだと理解した。

 

私にはソレ以外にない、ただそれだけだ。何のことは無いと、言い聞かせる。

 

「でも、こう考えられるようになったのは君のおかげなんだ。」

「何?」

 

聞き返すと彼女も答える。

 

「君が私のことを身も心も助けてくれたおかげで、将来を考えられるようになったの。今まで考えたことないんだ。そんな暇も余裕も無くてね。」

 

「縛られていたからか?」

 

シャルロットは首を横に振った。

 

「違うの。縛っていたんだ、自分で。それに気付かされたの。ボクは君のように強くないけど……頑張っていこうと思えたんだ。」

 

不意に心に痛みが走った。感じたことのない痛みが私の身を襲って私は驚きを隠せないでいた。彼女の言葉に突き動かされたとでもいうのだろうか。

 

 

そんなことはあり得ないと否定する。私は織斑千冬に復讐する、そのために生きているのだ。私は間違っていないし、これが私の人生のはずだ。

 

「だから、ありがとう。君のおかげでボクはボクでいたいと思えた。本当にありがとう。」

 

彼女の手が私の手に触れた。柔らかく、温かな手だった。IS乗りとしては柔らかすぎるくらいだった。

 

触られて不快な感じはしなかった。むしろ心地よかった。

そんな甘さが残っている自分を恥じた。自分はそんな人間ではないはずなのに、そう感じた自分が憎く思えた。

 

甘さなど捨てたはずだ。そうでなくては姉さんに勝てない。復讐一つでこの身を染め上げなくては何もなしえない。

 

下らない感情は捨てるべきだ。

 

その時、腕時計が音を発した。小さな電子音が鳴って彼女の手が離れた。

電子音が鳴ったということは作戦が近いことを意味していた。

 

私は席を立ちあがった。

 

「もう行っちゃうの?」

「ああ」

 

短く応えると彼女は私の後ろ姿に向かって言った。

 

「また今度ね」

「……ああ」

 

私はそれに答えるべきかどうか迷ったが、答えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい頭痛に、頭の中で金が鳴っているかのような不快な感覚がある。

目を開いてみると、一瞬太陽か、ライトかはわからないが、光が目に飛び込んできて、くらんだがやがて、目が慣れてきて視界が開けると自分が地面に横たわっているのに気付いた。

目の前にいつものサングラスが転がっているのに気付いて手を伸ばそうとするが、手が後ろに回されて縛られているらしく、動けない。

 

何故こうなっているのかが、わからない。俺はこうなるまでの記憶を探ってその理由を探していく。

 

俺は学園祭の二日目に備えて、整備科の連中と共に、打鉄やラファールの整備と点検を行っていた。学内全ての機体を一か所にまとめて一斉点検を行ったのだ。

 

理由は学園のPRの一環で、来年受験する中学生や政府や企業のお偉いさまに機体を見せて、学園の誇る設備をアピールしようというものだ。

 

30機はいる訓練機すべてをオーバーホールしなおすのは手間だったが、優秀な生徒たちの協力もあって、午前中には仕上げまですみ、後は適当な点検をして終わりなので、連中を帰した。

 

その後、冷蔵庫に入れたコーラを飲んでいたはずだ。だが、そこからの記憶がない。

となると、そのタイミングで気絶させられたという事になる。

 

我ながら名推理だとは思うが、状況は変わらない。ここには俺を助けてくれるワトソン役もいない。それに誰が何のためにこんなことをしたのかも不明だ。

 

寝転がって状況を確認したくても、普段からダイエットをしていないため、寝返りもできない。次はダイエットでもすべきだな、と心に誓っていると視界に誰かの足が入って来た。

 

靴の大きさから見て、女性だという事はすぐにわかった。

 

「お目覚めですか~?」

 

間延びした声に普段聞けば癒されるような声と雰囲気。俺はこの声の主が誰なのかを知っていた。

顔を上げてみると、そこにはISスーツを着てニコニコと無邪気そうに笑う布仏本音がいた。

彼女の手には少し血で濡れたスパナが握られていた。

その後ろのラファール用のライフルの銃身には真っ赤に染まりきった真紅の制服とブラジャーを洗濯物のように干してある。

 

一体どれだけのことをすれば、あそこまで赤くなるのかは想像もしたくない。

 

「助けに・・・・ってわけでもないな・・」

「うん。ごめんね~マイク先生。」

 

本音はスパナを振り回しながら、座り込んで俺の顔を覗き見る。俺の目を見ているようで、反応や感情の動きでも探っているようだ。

 

「目が震えているよ~ 怖いんですか?」

「・・・まあな。ただの技術屋で、運動も苦手だからな」

 

口では軽いジョークを披露して見せるが、実際俺は恐怖を感じていた。未知の恐怖だ。今まで、敵だとも、何とも思っていなかった人間が気が付けば、気分次第で俺の首をはねれるところにいる。

 

目的も何もかもわからない相手。戦闘員として訓練を積んだわけでもない俺が恐怖しないわけなかった。真に恐ろしいのは見えない敵だと言っていたPMCオペレーターたちの言も今なら頷ける。

 

「何が目的で、こんなことをしてるんだ?」

 

ダメもとで聞いてみると、彼女は目を丸くして、すぐに笑顔に戻った。本音は立ち上がって、その場で踊るようにくるくる回って上機嫌そうに言った。

 

「私ね、皆を幸せにしたいの。それでね~まずは・・・かんちゃんと私からしようと思ったの~」

 

途端にとびっきりの笑顔を見せて、またしても無邪気な笑い声を上げた。

少し歩いて、布にかぶさったものの近くに言った。よく見ると布の下では何かがうごめいており、端から誰かの靴が見える。

 

それが人だと俺は確信した。よく見ると、小刻みに震えているのもわかった。

 

「かんちゃんの幸せはユーリの隣にいること……好きな人と一緒に居たいのは当然だよね~。でも、幸せには障害がつきもの。かんちゃんにとってはそれがちょっと大きすぎるかなって……だから、更識の人にはいなくなって貰おうって」

 

そこで彼女は袋の下にいる人物を見る。彼女の言を聞いて、恐怖の声を上げてジタバタと暴れだした。

 

彼女は俺の方を見て謝った。

 

「うるさくてゴメンね~」

 

持っていたスパナを振りかざして、袋の下の人物を殴った。

誰かさんは痛みに悶絶し、苦悶の声を上げる。

 

「痛かった~? でも耐えないと…散々かんちゃんに言った分耐えないとだめだよ~?

それに黙って、て言ったじゃない~? {黙る}、{叫ぶ}。{黙る}{叫ぶ}。 発音も全然違うしわかるよね?」

 

もう一発スパナで頭部らしき部分を殴りつける。

今度は声を上げなかった。しかし、彼は耐えたのではない。痙攣してるのを見て、上げれなくなったの間違いだ。

それにも構わず、スパナで殴り続けた。布が真っ赤に染まり切るまで続けた。

何回かやって満足したのか、フウと息を吐いた。

スッキリしたらしく、スパナを放り投げて、その余韻に少し浸った。

 

彼女は少し興奮していたのか、紅くした顔で俺に振り向いた。

 

「こんな感じで、かんちゃんも幸せになって、それを見て私も幸せになろうと思ったの~」 

 

本音の語りは続く。だが、所々にこの女の見せる妖艶さに俺はゾクリと寒気が走った。

 

「私はかんちゃんが幸せになってくれると嬉しいの。かんちゃんが大好きなの。だからまず彼女から幸せになってほしいの。そして次に私。かんちゃんを見て喜んで、自由になって喜ぶ。素晴らしくご都合のいい話だよね?」

 

美しくもあるが、妖しい。例えるなら、バラの棘などではない。本物の毒を持った棘だ。

 

「なるほどな。お前の言う幸せとやらは一部はわかったが、簪の幸せとやらは黙ってても、成就するだろうが…」

「それがダメなの。」

 

今度は悲しそうな顔をして、ここにはいない、主の簪の不幸を嘆く。オペラ劇のように大げさにも見えた。

 

「ユーリとの幸せは茨の道なの~。真実を知れば、きっと皆は彼とかんちゃんの仲を引き裂こうとする。とくに、刀奈お嬢様ならね……だったら、まず彼らの排除だよね~?」

 

床に伏せっている俺を見下ろす。彼女の言う、皆とは、カタナとは誰の事か、俺にはわからない。だが、一つ言えることは彼女がイカれているという事だ。

 

親友であり、主の簪の幸せのために彼女の家の者を切って捨てるつもりなのだ。それが彼女の望んだ幸せか、どうかは彼女は考えているかすら不明だ。

 

そして、最も恐ろしいのが笑いだ。これだけのことを言っておきながら、おぞましいことをしたに違いはずなのに、彼女は平時と何ら変わらない笑いをする。

日常の変わったことを話題にして談笑する等身大の女子高生の姿なのだ。

 

「成程な。だが、本音の嬢ちゃん。それが目的なら、何で格納庫にいるんだ?

手っ取り早く会長の首でも刈ってくればいいだろうが? 何でここにいる?」

 

「答えは~アレだよ、せ・ん・せ・い」

 

本音はどこからか、起爆装置の様なスイッチを取り出して、スイッチを押した。

すると格納庫の床がせりあがって、何かの箱のようなものが出てきた。

 

いつもの格納庫とは違うが、ここには何回が来たことがあったはずだった。だが、俺はその存在を知らなかった。

 

本音がソレを開くとそれがスパコンだという事がわかった。

俺が理解不能な事態に頭を悩ませていると、格納庫の入り口が開いたらしく、扉の開閉音が聞こえ幾人かの集団が格納庫へと入って来た。

姿を見ると、黒い喪服の様な高いスーツを身に着けた大人たちだった。

 

そして、纏っている雰囲気が社のオペレーターたちとそっくりだった。

 

「準備は?」

「もちろん!」

 

そう聞いて、スーツ姿の男女が三人スパコンのそばに近づいた。

その中の一人が本音に何かを渡していた。よく見えなかったが本音の様子から余ほどの物に見えた。

 

スパコンに近づいている三人のうちに二人は二十台後半の男女だが、一人は白髪が混じった壮健な老人であった。

 

そんな異色な三人が何をするつもりなのかと見守っていると

彼らが念じるように目をつぶりだした。そして、次の瞬間には強烈な光が彼らを包み込んだ。機械や自然現象の起こす光とは違う、俺の知っている種類のものだという事に気付いた。

 

その光はあまりも似ていた。ISが装着されるときのソレと似すぎていた。

 

だが、その正体は知っている。オレンジ色の独特の光。EOSだ。いつか見たEOSの発光現象にそれはそっくりだった。

 

やがて光が消えて、現れたのは紺のカラーリングの機体だった。Rインダストリーの機体とは違って、全身装甲のフルスキンで装甲はつけているが、有機的なデザインで曲面を多用している。

全体的にシャープな印象で、無駄の無さではある意味芸術品レベルでの美しさを持っている。

 

とてもISもどきと揶揄されるようなEOSにはとても見えない。

完成された兵器の姿がそこにあった。

 

昆虫とは違う複眼のカメラアイが黄色く発光して、機体に魂がこもったことを示した。

他のスーツの人員が機体にコードをつなげて、スパコンに接続させた。

 

「おい、何をしてる……そいつは何だ?……てめえら何しようとしてやがる!?」

 

そう怒鳴るとスーツ姿の男が一人答えた。嫌味そうな眼鏡をかけた若いやつだった。

 

「君たちと同じだよ。革命をするのさ」

 

そう言って男は足を俺の顔に踏みつけ、俺はもう一度意識を失うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回にもう一個話を設けて、その次に戦闘開始の予定です。
一応、亡国に関しては前からそれっぽいことを書いていたので見てくれると少しわかりやすいかもしれません。

個人的には前の話を回収したつもりですが、矛盾点があるなどあれば、教えてほしいです。

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