お気に入り数が二百を超えました。
いつも応援してくださっている皆様には感謝を申し上げます。
これからも読んでいただけると嬉しいです。
IS学園は巨大な建造物の塊だ。周りを海に囲まれて、本島に繋がっているのはモノレールのみ。遠くから見れば、恐らく絶海に浮かぶ巨大な白い城のように見えることだろう。
そんな無駄に大きい学園にはこれからの行動にちょうど良い場所が多いのだ。視界が開けて空の上で縦横無尽に飛び回る羽虫を撃ち落とすには絶好の場所がいくらでもある。
部分展開したサイレント・ゼフィルスを身にまとい、拡張領域に仕舞っていたドクター手製の特殊兵装「ミラージュコート」をフードまで被って合羽のように着る。
これはある特殊塗装が施された布で、ゼフィルスの頭部ヘッドギアに送られるデータを基に周囲の景色を写すデジタル迷彩の一種だ。
光学迷彩とは違って、機体のエネルギーのロスがなく熱探知でも察知されにくい最高の迷彩服と言うわけだ。
反面、塗装が剥げると中身がむきだしになってしまう、動きながらだと、カメラから得たデータから景色を映し出す方式なので、データが遅れて視認しやすくなるなども制約もある。しかし、戦闘以外は拡張領域に仕舞え、また機動戦ではなく腰をしっかりと据えた狙撃なら全く問題にならない。
むしろ、ISのエネルギーを損なうことなく、狙撃に全てを集中できるので、まさに魔法の道具と言える。
撃たれる側からは文字通り蜃気楼から狙撃されているのと同じなのだ。
スナイパーのようにスターブレイカーにもこのマントを巻き付けて、私はその透明に限りなく近くなった狙撃ライフルを握る。
スコープに映るのは、三機のISとオータムのアラクネだ。亡国の切り込み隊長だけあってアラクネはの動きは流石で、三機を相手にしても全く引けを取らない。常に相手の射線に自分と敵を置くように動くため、支援射撃ができないようにしている。
また、後ろ向きでライフルを放って命中させるといった離れ業も見せつけて動揺を誘っている。
格闘戦でやって来た二刀流で襲ってくる凶刃を敵の頭身より短い装甲脚でいなして、胴体の装甲をトーチで焼き切る二刀流が後退して、狙撃機と黒い機体がライフルとカノンで後退を支援しようと攻撃を行う。
オータムはバックステップするように後退してエネルギー弾を回避して、飛来するカノンの砲弾をレーザーで切った。
彼女に言わせれば、あのような動きはパフォーマンスや曲芸で、遊びの一種だというのだから、彼女のセンスがずば抜けているのは言うまでもない。
しかし、見とれている場合ではない。私はアレを超えなくてはならないし、命令も受けている以上は仕事はこなさなくてはならない。
思い出すのは今までも訓練と、射撃のコツを教えてくれた、あの男の声だ。
アルコールと多すぎる戦いに疲れ切った顔であったが、彼は私に一つのアドバイスをしてくれたことがあった。
ボルトアクションのSV98狙撃ライフルを操作する私の後ろで、きついアルコールのにおいを発しながらも彼は私に教えてくれた。
『いいか、マドカ。三つ数えて息を吸え、三つ数えて息を吐け。そして集中力を研ぎ澄ませて、息を吐いている間に撃て…それだけで、もっと当たるはずだ。』
ぶっきらぼうな言い方だが、優しかった男の声を私は記憶している。彼の言葉を思い浮かべて行動に移す。
「感謝してるよ、スレート」
この場にはいない男の名前を静かに口にして亡国機業の組員とスレートから教わったことを思い出して行動に移る。
構えを整えて、片膝をついてスコープから一旦目を離して落ち着かせる。そして、落ち着くのと同時にもう一度スコープを覗きこむ。
レティクルの十字線に先ほど命中させた黒い機体を捉える。砲支援をしているのか、速度は思ったほど早くない。それでも、音速なのは変わりないが。
第一の標的として、まずは先ほど当てた面倒な火力を持った相手からだ。
三つ数えて、息をゆっくりと吸い込んで、グリップを握る手をよりしっかりと固定する。肩に力が入りすぎないように適度にリラックスをして、当てられると確信を得られる、瞬間を待つ。
黒い機体シュヴァルツェア・レーゲンという名前だったはずの機体がレールカノンを展開してオータム目がけて連射していく。大口径で反動を抑えるためか、命中率を上げるためか、動きが遅く、また少なかった。これなら当てられる。
三つ数えて息を吐く。人差指の力を強めて、引き金を引く一歩手前までに持っていき、
黒い機体が後ろを振り向き、カノンを発射しようとした瞬間。ライフルの銃声が奴に届くのと、砲声が鳴るタイミングが一緒になる、その時に引き金を引いた。
高密度に圧縮されたエネルギーが銃口から飛び出て、黒い機体の胴体に直撃した。
血しぶきのように光が拡散して、黒い機体は戦闘不能に陥ったのか、または機関部に異常をきたしたのか、高度を急激に落としていった。
命中だ。
新型の機体だけあって、燃え上がる煙もきれいなものだとほくそ笑んだ。
確実に戦闘能力を削ったことに喜びを覚え、同時に落胆も覚えた。
こんな的では、訓練にもならない。私は織斑千冬を殺すのだ。そのために今は戦闘技術の向上と経験が必要なのだ
この程度では満足しない。いくら、迷彩に隠れ狙撃に徹しているとはいえ、初弾を命中されて遮蔽物に隠れることも無く空へと飛びあがったのを私は見た。
おそらく、ISは機動戦、戦闘機のドッグファイトのようにしか使うとしか考えてないのだろう。
砲戦パッケージもあっても、基本ISは空の上で戦うものだ。
確かにそれが正しい使い方だ。しかし、こういった方法で使うこともできる。
客として侵入して、最適な場所を見つけて狙撃する。戦闘だでなく、その後の行動もしやすい。待機状態にして何食わぬ顔で逃げることも可能なのだ。
そんな考えの転換に彼女らが気づくのは何時になることだろう。
『狙撃?! どこから?!』
『卑怯な…!』
そして、耳元に届くものも私を失望させる。オータムが傍受している彼女たちの声も聞こえているのだが、いくら聞いても激昂の言葉と、見つけられない狙撃犯にイラついてるのみだ。
ISにはあらゆるセンサーなどがついているが、それを使うのは結局は人間だ。
使いこなせなければ、宝の持ち腐れだ。
期待していたわけではないが肩すかしだ。とくにドイツのアドバンスドには呆れを通り越して哀れみすら覚える。
机上の指揮経験だけでは、現場には通用しない。敵は真正面から来るわけでない。ましてテロリストならなおさら正面から戦おうとはしない。
学園側からの狙撃に対応しきれてないのはそのためだろう。彼女は考えもしなかったのだ。
ソレの反例がオータムだ。
オータムが今まで戦ってこれたのは経験に培われた柔軟性があるからだ。
楽しむだけではない、だからこそ私に支援を求めたのだ。
それが、彼女にかけている故に、私が自由に動けるのだ。
「滑稽だな」
そう一人つぶやいて、私は機体ではなくゼフィルスのビットに意思を伝える。
ビットは半分が既に手元を離れており、今回は自動の砲台のように別の狙撃ポイントに配置しているのが2基あり、残りは手元に残してある。
砲台とした一つに青い機体、イギリスの代表候補生セシリア・オルコットがかるブルーティアーズに攻撃指令を出す。
彼女の機体は狙撃タイプで私の機体の姉妹機だ。後々、残しておくと面倒になる可能性がある。
それに通信では彼女が私を狙い撃つ、狙撃なら任せろと息巻いていた。
なら、その期待に応えてやる、そう思ってビットからエネルギー弾を放ち、ブルーティアーズを狙うが、所詮はビット。精度が低く、大きくそれてしまった。
狙撃ポイントを割り出したのか、ブルーティアーズがスターライトmkIIIを構える。
『見つけましたわ! そこですわね?!』
当然だ。見つかるようなタイミングで撃ったのだから、簡単に見つかる。むしろ見つけてもらわないと困るのだ。
スターライトmkIIIが火を吹き、狙撃ポイントの一つを破壊した。ゼフィルスと似ている青い閃光が空を走った。
半秒もしないうちに、ビットからの信号が途絶えて爆炎を上げて消え去ったのを確認した。
直撃を受けたのだろう、射撃の腕はいいようだ。
『やりましたわ!』
歓喜の声を上げるセシリアを見て、私はいびつに微笑んだ。
レティクルはすでに彼女を捉えており、後はタイミングと私の判断次第だ。だが、好機は来るものが早いもので、オータムが赤い機体を撃墜して、セシリアはその方向を見て叫んでいた。
注意もそれた。そして動きも止まっている。
気づかれずに、悟られない。スナイパーの大原則だ。
「やったな」
確信の思いと共に引き金を引いて第三射を放った。青い閃光は彼女の得物と胴体を貫いた。
絶対防御のおかげで死にはしないだろうが、戦闘能力は大幅に奪えたろう。
メインアームを失った機体にできることはない。後はアラクネの毒牙にかかって堕ちるのを待つだけだ。
彼女はISに没頭することで基本を忘れていたのだ。狙撃は見つかったら終わりなのだ。
故にプロフェッショナルは痕跡をできる限り消す。
もし、彼女が狙撃の経験が豊富であったのなら私の射撃はフェイクだと見抜いたのかもしれない。
そうなれば。狙撃ポイントを絞られた私が不利になったことだろう。
しかし、彼女は歩兵の動きを応用できなかったようだ。軍属とは言えISの代表候補生なのだから仕方ないとはいえ滑稽だ。
姿をさらしておきながら、狙撃を任せろというのだ。本来狙撃とはこういうモノだ。
試合と戦争は違う。ここでは勝った者が全てだ。
マークスマンとしてもスナイパーとしても動けなかった彼女に何の興味も示さずになっていた。私にとって、彼女はもう一種の「死体」だった。
動けなくなったものから消えていく。それはどこの戦場でも常だった。これまで生き残って来た私の数少ない教訓だ。それに関してはオータムに感謝はしている。
展開を解除して、オータムに狙撃位置を変更する旨を伝える。
「位置を変える。数分待て」
「応、五分で済ませよエム。 戦争はファーストフードと一緒だ。早い方が勝つんだよ。…教えたろ?」
気楽な声が聞こえた。通信機越しにアラクネの腕を振るう音と、か細い女の子の悲鳴も混じって来た。自分でしたことでもあるが、抵抗する術なく、潰されているのには流石に同情を覚えた。
「わかってる。」
「急ぎな。多分増援が来る、学園の内側から来るはずだ。多くて10機、少なくても6機だ」
恐るべき破壊兵器を装備していたが、今はただの少女となった私は誰にも見られないようにその場を離れていく。
狙撃ポイントを移動中に、面倒なことに人ごみの中に入ってしまった。学園が襲撃されているという事が判明して、避難中の者達だ。急いでいるときに出くわすとはついていない。
私は人でできた川を渡り、押しのけて渡りきったが、奇妙なことに気付いた。
妙に整然としているのだ。あれだけの戦闘が起こったというのにここの人間たちは落ち着きを持ってシェルターへと行列を作って歩いているのだ。
何故ここまで整然としているのか、その理由が気になって周りを見ると、二機のISが視界に入った。一つはタンカラーの戦車の様な装甲を身に着けて、両目に三眼ターレットをつけた重装備のIS。おそらくは資料にあったグレイイーグルだ。
通常のISとは違って、フルフェイスのフルスキンの全身装甲で中の人間の表情も見ることはできないが、妖しく光るカメラアイが空をにらんでいる。
もう一つは青龍刀持ち、攻撃的なデザインの浮遊ユニットを持つ赤い機体だ。
中国の甲龍であると予測した。甲龍の搭乗者は顔色が優れないようだが、しっかりと周囲を警戒しており、前時代的な見方だが目の鋭さから、それなりの修羅場を潜り抜けてきたことがうかがえる。
その二機のISの近くで緑色の髪で、間が値を賭けた女性が拡声器で群衆に呼びかけていた。
「落ち着いて避難してください! 大丈夫です、このルートにはこの通りISが護衛についていますので安全に通ることができます! 焦らずに避難すれば、しぇえルターにたどり着けます! シェルターには十分な空きがあるので安心してください!」
記憶にはなかった人物なので、端末で検索をかけてデータを出す。出てきたのは教師の蘭からだった。山田真耶、元日本代表候補生。福音事件の際、戦闘に参加してISを数機撃墜、
火力による制圧から正確な射撃、丁寧な機動とオールラウンダー。
分析官のコメントも読むと、メンタル面さえ克服できれば代表も非現実的ではなかった、ともある。
優秀な人物のようだ。しかもメンタル面に難ありとあるが、避難誘導している彼女にはその節は見られない。
仮の格納庫に部隊を送っていなければ、間違いなく障壁となっていたことだろう。
そして、今はISがないため戦力としては働けないことを承知して、こうして避難を誘導している機転の良さは、目を見張るものがある。
そのために代表候補生の専用機を持ち出して、一般人に安心感を抱かせることにまで気を利かせている。
世界最強の兵器が二機も護衛に着くことと、全身装甲と攻撃的デザインのいかにも外見からして兵器として強い側面を見せることで視覚からでも安心を感じられるようにしている。
戦力を減らすのは悪手に見えるが、避難を優先させた大胆な策だ。
とても甘いが優しい、そんな感じすらした。
もし、彼女に専用機があれば、戦力を犠牲にすることなく避難誘導ができたことだろう。
だが、現実はそうではない。これは有益な情報だ。格納庫では厄介な教師二人と戦闘中、ここに専用機が二機と戦闘員が一人、つまり少なくとも五人分の敵はしばらくは姿を現せないことになる。
残るのは、ハヤブサ、ストライクラプター、打鉄弐式、マーダーオブクロウ、ラファールリヴァイブⅡと思いつけるだけで五機となる。
一応データを確認して見てみると、まだ二機増えるらしい、となると参加可能戦力は現在で七機、ほぼオータムの予想通りだ。
任務に支障をきたさないようにするには急がねばならない。
見つからないように走っていく。狙撃ポイントまで、あと四~五分だ。
時間の速さがモノをいう。
そう私が急いでいるときに、私の肩を掴んで引きとめたものがいた。
「誰だ?!」
反射的に叫んで振り返ると、東欧系の初老の男。亡国機業が一人、スパルタクが上品そうな笑みを浮かべていた。
「廊下を走ってはいけないぞ、マドカ。学校ではそれが規則だ」
のんびりとした口調で彼は紳士的に言って来た。
「スパルタク…今は急いでいる。用がないなら、先を行くぞ?」
「用ならある。コレを持っていてくれ」
そう彼がスーツの内ポケットから二つの物を取り出した。血を拭き取った跡があるソレを受け取ってみると微かにISのコアの反応が示された。
私が彼の顔を見やると、スパルタクは微笑んだ。
「二年生の名前は忘れてしまったが、二人始末しておいた。これで、戦力がだいぶ減るだろう。」
私は二つのISの待機状態を握りしめて訊いた。
「何故私に?」
「ああ…実はこの後古い友人に会いに行かなくてはならなくてね。それで帰りが遅くなっては困るだろう? だから君に託すことにした」
スパルタクはそう言って、私の頭を人撫でして仕込み入りのステッキを片手に廊下の奥へと進んでいった。振り返らずに彼は言葉を発した。
「廊下は走るな、マドカ。私が今から友人に会いに行くことで、戦力はもう一人来るのが遅くなるか、減るだろう。ではな…」
そんな初老の男の背中を私は見送った。古い友人、戦力が減るという事は、専用機持ちに関係している誰か、もしくは専用機持ち本人に会いに行くというのだろうか。
相も変わらない遠回しな言い方に少し嫌悪を感じつつも奴の言ったことに反して走った。
第二の狙撃ポイントに着くと、空中での戦闘は終了していた。増援はまだ来ていないようで、青い空の上で毒々しいデザインのアラクネが腕を組んで待機している。
撃墜したISがどこに行ったのかは不明だが、アラクネは見事戦闘に勝利していた。
『遅かったなあ、マドカ。 終わったぜ』
愉快そうに笑ってオータムは自らの功を誇った。
「だが、まだ敵はいるのだろう?」
私が問うと、彼女はああ、と短く応えて海を見下ろしている。
『私はこれから学園の地に降りる。 お前は引き続き狙撃支援だ。その位置なら学園全体を見渡せるはずだ、目当ての品は頂いた連中は学園から去った。後は格納庫連中と爺の撤退を待つだけだ……だが、殿は私がやる。指示したら、すぐに退けよ?』
オータムは移動を開始しだした。スコープ越しに見えたオータムは戦争を愛してやまない女の顔をしていた。
私は彼女に問いかけた。
「お前が楽しみたいだけではないのか?」
『お前じゃ、まだ殿をはれねえって言ってんだ。分を弁えな、マドカ。織斑を殺すんなら長生きしな。』
「……余計なお世話だ」
オータムは鼻で笑い、私の感情を嗤った。彼女の私に対する態度は子供のに対するそれと同じだ。それに対し私は怒りを見せるが、彼女はそれに対して嗤うのみ。
完全に子ども扱いだ。
『頑張りな』
通信が切れて無音になった。高い塔のような建築物に一人になって、スコープを覗き、空中に送ったビットから観測データを送らせて学園を見渡す。
豪華で美しい校舎に宮殿の庭園を思わせる校園。それらが私の目に飛び込んで来た。
ここで姉さんと織斑一夏はぬくぬくと過ごしてきたのだ。
さぞかし、いい気分だっただろう。女王として君臨して名誉も富も欲しいままに手に入れられる。織斑一夏もそうだ。ここは彼の楽園だ。
肯定してくれる誰かがいて、愛してくれる誰かもいる。その幸せの後ろにはどれほどの犠牲の山ができているかも知らず、奴らは生きているのだ。
憎い、私や私たちの犠牲の上で呑気に笑っている彼らが憎らしく思え、狂いそうになった。
だが、一方で別の感情も出てきた。特に気にかけていなかったはずのシャルロットのことだった。
あの女はこんな場所に居るというのに、最早会社からの束縛もないというのに、辛気臭い顔をしていたのだ。
大勢の友達も好きな男もいるというのに、彼女の心はここにあらずだった。満ち足りていないような欲求不満だけではない。
根なし草のように定まっていない不安定さが彼女にはあった。 こんな場所で目的を選ぶだけの自由もあって、何をそんなに不安定になることがあるのか。
『人生の目的って…それだけで終わらないと思うの。 一夏と結ばれたら、その後は? ボクはそれだけで自分の意味を決めてしまうのかなって…他に何かあるかもしれない……そう思って…』
そう言った彼女の声が不意に聞こえた。まるで、私のことまで言っているような気がした。
「…黙れ」
小さくつぶやいた。終わったことの後などどうでもいい。私は目的を果たす。
そのために織斑千冬を撃つ。ただそれだけだ。
その時、ビットの一つが目標を捉えた、ISのコアの反応を感知したのだ。増援だ、そう思い、その方向に銃口を向けてスコープでその先を見た。
そこにはあの女が一人で出てきていた。ペアすらいない単機で彼女は出てきたのだ。
勇敢を通り越して無謀だった。
スナイパーと手練れがいる中で単機で駆ける自殺行為だ。
「馬鹿が…!」
グリップを力強く握りしめて、彼女の動向をうかがう。シャルロットは先ほど撃墜された三機の救援に向かっているらしく、オータムのいる方向に向かっている。
当然だが、彼女の力量ではオータムには敵わない。同レベルの三機をまとめて戦闘して勝利できるオータムにシャルロットが勝つ可能性はほぼないと言える。
私は何故か額から汗が流れたのを感じた。何を焦る必要がある。
スナイパーとして位置を晒すのは一番NGだ。
このまま、黙ってみすごしてオータムに撃墜されるのを黙って見るだけでことは済む。
簡単な話のはずだ。
しかし、いつの間にか私はシャルロットをスコープにとらえている。
無駄なことだ。する必要はないはずなのに、何故かそうしている。
「何をしているんだ、私は…」
「君も自分には嘘をつけないんだね~」
不意にどこからか、声が聞こえた。間延びして間抜けにも聞こえる女の声だ。
「誰だ?!」
「味方だよ~。そのままの姿勢で聞いて……ねえ、本当はどうしたいの?」
ISをつけて周囲にも警戒網を作ったはずだが、反応も気配もない。声だけが聞こえてきた
そして、それは悪魔のささやきのように私に響いてくる。
「なぜ、そんなことを聞く?」
「趣味かな~? 早くしないとシャルロットちゃんが死んじゃうかもよ~?」
震える口で私は反論した。
「私には関係のないことだ」
「じゃあ、銃を下せばいいのに~ そうしないのはどうして?」
この声の言う通り、私は銃を下せないでいる。それどころかシャルロットを追ってすらいる。これが私の望みだとでも言うのだろうか。
私にそんな甘さは無いはずだ。そんな甘さは必要ない、だからこそ亡国に入ったのではないか。
そう自分に言い聞かせていくが、脳裏にシャルロットの笑顔が浮かんだ。柔らかく優しい顔だ。そして、私にこう言うのだ。
『また今度ね』
奥歯を力強く噛みしめて、精一杯の悪態をついて狙撃までの三セット。呼吸にエイム、ファイアとこなして私は引き金を引いた。
青い閃光がシャルロットの機体のスラスターを完全に貫通して、彼女は空戦能力を失った。
地面に転がってその場に停止した。
私は息切れでもしたかのように呼吸して、シャルロットの無事を見た。
何故か湧き上がる安堵感に憎悪を感じながら私は自分の顔を引っ掻いて戒めにした。
そして、悪魔がささやいた。
「ね? 君は願ったでしょ?」
その声が消えると同時に私は任務に戻った。そうやって悪魔から逃げようとした。
次回から教師とインダストリー、レジスタンスの反撃です。
最近、日間ランキングに入っていたので感激しました。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。、