次回は戦闘回と言いましたが、嘘つきました。ごめんなさい。ちょっと一つ話を入れておきます。
視点を変えると、こうなるという話です。
爆発に巻き込まれて、意識がすうと消え去った感覚から、正常に戻りつつあるのか意識がはっきりして来た。
ロッカールームにできた大きな穴から出て行く楯無先輩を目で追っていた、彼女機体をボロボロにさせながらも、また戦いに行くようだった。
あれも俺のせいだ。
自分がやったことに後悔を感じつつも動かない体に悪態をつきたくなった。
皆、俺のせいなのか、そんなことが頭によぎった。
記憶が巻き戻されていくのを実感した。死ぬようなけがは負っていないはずなのに走馬灯か、映画のフィルムのように俺の記憶が映し出されていた。
学園に入ってすぐ、俺は正直不安だった。女子だらけの学園に入ることに俺は戸惑いを感じていた。ISなんて、好奇心で触っただけで別にすごい興味があったわけではなかった。
それに、あの事件があって俺はISを無意識に遠ざけていたのかもしれない。
だから、ここに来た時は不安だらけで落ち着かなかった。
そんなときに俺意外に男子がいること、特に親友の弾が入ってくることに喜びを覚えた。
俺意外にも同じやつがいる。それだけで嬉しかった。
学園であった弾は既に友達を作っていたらしく、メガネの千冬姉と少し似た雰囲気をだすアカネという少女と親しげだったのが印象深かった。
なんだか、ここで見た弾は少し大人びて見えた気がしたが特にそのことについては口にしなかった。
友達がかっこよく見えた、それだけだと思った。
その後すぐにセシリアとの戦いになって俺には専用機白式が与えられた。弾には何も与えられないのに、千冬姉に訊いたけど千冬姉は弾には後々与えられるとのことで、気にするなと言われた。
俺はそれを聞いてあまり気にしなくなった。
試合までの間に俺は箒と剣道をしていた。久しぶりの剣道であまり動けなかったが、久々の幼馴染との交流で楽しかった。
その時、俺は彼女に訊いた。弾とその仲間達についての事だった。
「箒、一つ聞いていいか。」
「何だ? いきなり」
相変わらずの不機嫌な声に聞こえたが、俺は構わず訊いた。
「弾の事なんだけどどう思うんだ?」
「弾?ああ、あの赤毛の男か……ハッキリ言ってあまり好かんな」
彼女はそう一言言った。俺はその理由を聞き出そうと思った。
「どうしてだよ?」
「軟弱な態度が好かん。 自己紹介の時も食堂で見た時もいつも二ヘラニヘラしているのが好かん」
「いい奴なんだぞ…」
そう言っても彼女はあまり聞いてくれなかった。どうも一組のクラスでの弾の評判はあまりいい風に聞けなかった。何故かわからなかったが、俺は弾ならセシリアとの試合で頑張れば、そんな評判もひっくり返ると思った。
そして、やって来た決闘の日で、俺は弾の戦い方を見た。煙幕に目くらまし、死んだふりと俺の思っていた戦いとはずいぶん違った。
試合と言うより、戦争映画でやりそうな戦い方だった。ひたすら弱点と隙を狙って真正面からの戦闘を避けていく。弾が、アイツがそんな戦い方をするとは思わなった。
訓練機では性能が足りないって聞いていたとはいえ、こんな戦い方は少し見ていて気持ちのいいものではなかった。
試合じゃなくて戦争だった。
そして、その後セシリアとの戦いの後に行われるはずだった俺との試合には弾は現れなかった。それは悲しくも思えた。
弾が変わってしまったような気がした。
そして、そんな戦い方をしたせいか皆からの受けはよくなかった。みんな口々に弾を非難しているように聞こえたけど、お祝いをしている雰囲気の中では言いずらく、特に反論もできなかった。
あの時、それは違うと言えばよかったのだろうか。弾なりに頑張ったと、一言でも言えばよかったのかもしれない。それ以降、弾はますます、Rインダストリーの連中とつるむようになってしまって、俺やクラスの皆との交流も少なくなっていった。
印象的だったのが携帯端末でレポートを会社に送っているときの弾だった。
中学の頃は宿題をいつもギリギリまでしなかったような弾が、真面目にレポートを書いていて、本人は給料のためだ、と答えた。
弾は俺が知らない人間へと変わって言っているような気がした。
それから、また何日かたった日に何と鈴がやって来たのだ。中学からの悪友が来たことに俺は喜んだし、もしかしたら鈴を通じて弾とももっと話せるのではないかと思った。
実際、食堂で三人で話すことができた前の中学の頃に戻れた気がした。俺はこの後、三人で学園生活を謳歌して、また三人で楽しく過ごせる、そう思った。
でも、それも長くは続かなかった。ある日の夜、鈴が俺の部屋に来た。彼女は顔を真っ赤にしていつもの活発な感じとは違う、しおらしいような感じだった。
鈴は俺に中学の頃にした約束のことについて訪ねてきた。あれの返答を聞きたいと彼女は言った。
俺はそれに答えた。毎日酢豚を奢ってくれることだ、と思っていた俺はその通りに応えた。
しかし、帰って来たのは平手打ちと、見たことないほどに泣きはらした鈴の顔だった。
目には悲しみと切なさ、そして憎悪が混じっていた。
鈴がどうして、そんな顔をするのか聞き出す前に部屋を飛び出してしまった。
今思えば、あれには特別な意味があったかもしれない。
でなければ、あんな顔はしないだろう。
さらに数日が経って、弾の他の男子ヴィンセントと鈴のクラス代表をめぐる試合が行われた。鈴は俺にしっかりと試合を見るように言っていた。そして自分が勝ったら、言いたいことがあるといった。
俺は鈴の奮闘に期待しながら、彼女の試合を見ていた。
でも、そこに展開されたのは途中から試合ではなかった。いたぶるための私刑に他ならなかった。
ヴィンセントの通信から聞こえてくる数々の暴言と愉悦の声、何の武装もなくなった鈴に容赦もせずに銃を向けて引き金を引こうとしていた。
鈴の戦いも覚悟も笑うアイツを、女の子をいたぶって楽しむアイツを許せなかった。
それは、俺が経験した、あの無力な時と同じだった。
起こったのは回想だ。
目の前で俺を助けようとする人が這いずり回ってでも俺に近寄る。それを足蹴にして見下して嘲笑する
『アラ、 弟さんの前でごめんなさいね 』
その女は不気味なほど美しくて残酷だった。無力な俺はただ見るだけで、その牙がこっちに向けられることに恐怖するしかなかった。
思い立ったら最後、俺は行動していた。白式という力を持って鈴を助けた。間に入って鈴をかばったのだ。
ヴィンセントは訊いた。何故、邪魔をしたのか、と。
俺は答えた、仲間のためだ、と。
でもヴィンセントは嗤うだけで何も止めようともしない。引き金にかける指を離そうとすらしなかった。
今度こそ何もかも守って見せる。そう思って鈴を見た。しかし、鈴は俺をまた憎悪の目で見ていた。敵意を含めた鋭い眼光を俺に向けた。
俺は鈴に手を差し伸べたが、彼女は振りほどいて、ヴィンセントの元へと歩いて行って自らを撃つように言った。
どうしてか、わからなかった。自ら撃てと言う鈴も、彼女の言う通りに撃つヴィンセントもどちらも理解が追いつかなかった。
女の子を平然と撃つヴィンセントには怒りを覚えた。だから、その後でクラス代表戦で決闘することにしたのだ。
その後で鈴に会った。顔をうつむいてブツブツと何かをつぶやいているように見えた。
いつものツインテールもしないで髪の毛を下していて、どこか不健康そうに見えた。
俺は鈴に近寄って、話しかけた。励ますつもりだった。
だが、帰って来たのは明確な拒絶の意志をはらんだ目と声だった。
「何よ?…笑いにでも来たわけ?」
「違う…今回の試合の件は運が悪かっただけだって……ヴィンセントは俺が…」
鈴は鼻で笑った。明らかに口角を吊り上げて心底馬鹿にしたような顔をしていた。元々つり目だったアーモンド形の目がさらに鋭く見えた。
「アンタ勝つつもり? ムリよ…諦めて詫びにでも行きなさいよ。自分が何日ISを動かしたか数えればそれくらいわかるでしょ? それとも…新手の嫌がらせ? お前の一年より自分の数週でアイツは倒せるって言いたいわけ?」
見たことのない鈴の顔だった。痩せた狼のような目をして俺に嘲笑を浴びせかけてきた。俺は思わず、反論をしてしまった。彼女の言に怒りを覚えてしまったからだ。
「何だよ、そんな言い方しなくたっていいだろ! アイツは許せないし、俺だって瞬時加速だってモノにした…それにISはあんな風に使うべきじゃない、あんなの唯の暴力だ!」
鈴がビクリと体を震わせた。
俺は千冬年の姿を知っているからそう言えた。鈴もそう思っているだろうと思っていた。
でも、鈴は違った。
そこで鈴が校舎の壁を蹴飛ばして叫んだ。大きくて、動物の咆哮の様だった。
「うるさい! ISなんて兵器よ! あんな使い方って何よ?! あれでダメならアタシは何なのよ!? アタシがここに来るのにどれだけの事をしてきたと思ってるのよ?! 毎日毎日、馬鹿みたいに訓練して、士官の連中にセクハラされて、同期の奴は皆して私を野良犬呼ばわり……それでも頑張って来た!」
鈴の咆哮は止まることを知らずに機関銃のようにまくしたてた。俺はそれを聞くことしかできなかった。
「汚いこともして…たくさんの人を…私と同じような女の子を手にかけて…それで、ここに来れたと思って、アンタに会えたと思ったら何よ?! 約束も適当に片づけて!挙句、負けた私を馬鹿にするようなことばかりして!? それどころか、アタシのことを否定するようなこと言って!」
「鈴…?」
「知らないわよ、馬鹿!」
俺は彼女の言っていることを信じられなかった。鈴がそんなことをしてるとは信じられなかったからだ。
でまかせや、冗談だと言ってほしかった。でも鈴はそれを言い切った後にまた走り去ってしまった。
俺はこの時どうすればよかったか、今でも悩んでいた。何故なら、最近の食堂で鈴の姿を見てしまうからだ。
あの無人機の騒動の後からずっと、ヴィンセントと親しげに話している彼女の幸せそうな顔をいつも見ているからだ。
中学の頃以上に笑っていて、その顔はいつも見ていた鈴よりも綺麗で魅力的に見えた。
どうして、その男とそんな顔をして過ごしているのか、俺は何故かとてつもない喪失感と敗北感を感じて、それを見ていた。
友情の一つがぴしりと音を立てて、壊れていった。
それが元通りになるかどうかもわからないまま、壊れた破片を拾い集めることしかできなかった。
記憶はさらに次のステージへと進む。
一組には以前から弾と話している女の子がいた。アカネ、弾はそう呼んでいた。茜という名前なのに、独特のイントネーションで呼ぶことに俺は不思議に思っていたが問題はそこじゃない。
彼女のただ住まいは千冬姉と似ている部分があった。自分を鍛えて技を磨いて戦う、そんな、かつてのブリュンヒルデと似ている雰囲気を俺は感じた。
でも、彼女は千冬姉とは根本的に違った。彼女の力のありようは敵対するすべての破壊に使われていた。
この時はラウラが俺に対して怒りの感情を持っていた。俺が千冬姉の二回の世界制覇を頓挫させてしまったから、それを理由にラウラは俺を認めようとせず、時に過激な行動をとった。
ラウラが俺にレールカノンを向けて放った。一発目はシャルが防いでくれて助かった。そして二発目が放たれたとき、その巨大な砲弾がなんと遠くからの狙撃によって撃ち落されていたのに気付いた。
凄まじい技量を俺は感じて、その撃った本人を見た。それはアカネで、彼女の構えるライフルからは陽炎が出ていた。俺は通信を開いて彼女に礼を言おうとした。
だが、その後彼女が取った行動は俺の思ったものとは違った。彼女はISを解除したラウラに銃口を静かに向けていた。
無機質なカメラアイでじっとラウラを見ていたのだ。
あれは完全に殺すつもりだったように見えた。彼女は誇り高いIS乗りだと持っていたけど、それは違った。彼女は殺し屋のそれと同じだった。
かつて、俺をさらった一味の一人と似ているように思えた。ちょうど、今日戦ったあの巻紙とかいう女と似ていた。
彼女は危険だ、そう本能で感じ取った。平時は普通の女の子のように振る舞って、鈴や四組の娘と楽しげに会話していても叩きの場に出た途端に態度を一変させる。
俺には彼女が蜘蛛のように思えた。綺麗な花の後ろで蜘蛛の巣を張る、狡猾な蜘蛛に俺は見ていた。
ツーマンセルのトーナメントで弾は彼女と組み、セシリアをも倒して見せたことには喜んだが、彼女と組んでいる、その事実のせいで俺は心に影を落としていた。
その次のラウラの暴走。VTシステムの発動。俺は千冬姉を汚されたかのように思えて怒り、やはり、何の恨みがあるかは知らないが、アカネはラウラを本当に仕留めようと動いた。
俺は確かにラウラのVTシステムに怒りを覚えては居たが、殺すことまではしない。
ISは誰かを守るための力でなくてはいけない。
いつか、千冬姉が俺に本物の刀を持たせたことがあった。
それは重たくて、まだ小さな俺には重たかった。
初めての人殺しの道具の重みを知って、力の扱い方を学んだ俺はISでも同じだと思っている。
だからこそ、アカネの前に入ってラウラも誰も殺さずに皆守ろうとした。
でも、そこからはどうだろう。俺は倒されて、皆傷ついていき、守るはずが逆に被害を大きくさせてしまった。
刀を突き立てられたアカネを見たときは後悔の念が消えず、彼女が復活するまでの間に俺の中では惨めなほどの無力感ばかりが心の中で渦巻いた。
ラウラを無事に止めれた後、俺は千冬年に訊いた。俺のとった行動は正しかったのかと聞いた。千冬姉は正しいと答えた。
「お前は力を殺しに使わなかった。それだけでも十分だ…守りたければ、精進しろよ一夏」
それを聞いて、とりあえず安心して、もっとうまく扱えるように努力するように誓った。
そして、ラウラは俺に敵意を向けることなく、俺の仲間となった。
同時に、弾がアカネと妙に親密になっていたのを見て、俺はまた友達を失ったような感覚になった。
忘れてはいけないのが、もう一つの問題だ。シャルの事だ。シャルは親に命令されて、俺に近づくように言われていた。俺は憤慨したが、冷静に対処したつもりだった。
IS学園の特記事項を盾にして、あとは三年のうちにどうにかすると考えていた。
シャルは俺の意見を聞いて喜んでくれた。初めて、人を一人助けられた気がした。
でも、その気持ちもトーナメント終了後に吹き飛んだ。ヴィンセントがシャルの告白をテープに収めて自社の討論番組で流した。
効果は絶大で、IS界の大企業だったデュノア社も非人道的行為など多くの事で責められて会社はほぼ完全に潰された。このおかげでシャルは完全に自由になったとヴィンセントは何の反省も罪悪感も感じさせずに語った。
それどころか功を誇ってすらいた。
許せるわけもなかった。大勢の会社員とその家族を路頭に迷わせて、その罪の十字架をシャルに背負わせるようなマネをしても彼はいつもの二ヘラ笑いをしているのみだ。
そんな人を売るようなマネをして、どうして笑っていられるのか。
こんなこと許されていいわけない。俺はヴィンセントに掴みかかって殴った。
だが、この時俺を止めたのは鈴だった。ショックと驚きを隠せなかった。鈴は俺に言った。
『私たちは子供なのよ。一夏・・・・ISだけでどうにかなるレベルじゃないのよ。
こうするしかないの・・・こうするしか』
それを聞いて思った。なら俺にISが使えるようになった理由は何なのか。
誰かを守るために力を手にしたはずなのに、誰も守れない子供だというのなら、俺は一体何の理由があって、この学園に来て白式を持っているのだろうか。
答えはこの時見つからなかった。ずっと暗闇の中を歩いてるような気持だった。いつか見つかると信じている光を求めて、俺は彷徨い続けた。
それでも、と言い続けてアリーナでセシリアやラウラに教えてもらいつつもっと強くなろうとした。
でも、結果は良いものだったとは言えなかった。
福音事件で俺は作戦中に漁船を見つけて、守ろうとした。事実、守れたと思った。そのせいで俺は意識を失なってしまったが、その間に白式が俺に応えてくれて二次移行した。
新たな力を手にして、俺は箒と共に出撃して福音を倒した。
ようやく、俺も守ることができた。仲間も弾もインダストリーの人すらも守ることができた。
これで、千冬姉も守れる。そう思ったはずだった。
でも現実は違った。
俺が寝ている間に大勢の人が命を落としていた。
癒子がそう俺に伝えた。俺は守るどころか、守られていたのだ。
弾や、セシリア達、皆俺が寝ている間に戦って、戦い続けていたんだ。
弾に至っては一人殺してしまったとすら、その後で聞いた。
『アンタのせいよ! 自己満足の人殺し野郎!』
千冬姉の元へと駆けた俺の後ろでそんな叫びを聞いた。胸が張り裂けそうだった。
それでも、漁船を守るために俺は行動したと、俺は反論したかった。
あそこに何の力もない弱い人たちがいて、仕方なかったって言いたかった。
それが、ただの言い訳にしかならないのを知っていても俺は守るために自己満足のためになんか戦っていないと叫びたかった。
そう思って、廊下をかけていると不意に山田先生と大場先生の声が聞こえた。
『実は、あの場に密漁船と思わしきものがあることを篠ノ之さんが言っていたんです。私もそれを肉眼で確認しました。しかし、ラファールのデータにはそんなものは無かったことになっていたんです。』
それを聞いて、俺は一体何をしたのかわからなくなった。
同時に何を信じていいのかも…
夏休みのある日のことだった。セシリア達とプールに遊びに行く段取りをしようと外を歩いていた俺は偶然にも蘭と母親の蓮さんに会った。
二人とも、相も変わらず元気そうで、俺に元気よく挨拶してくれた。
俺は夏休みという事で、弾は家に帰っているのかと聞いた。そうすると、彼女たちは途端に顔に陰を落とした。
何か理由があるのだろうか、俺が尋ねると蘭は神妙な顔つきで言った。
「実は……帰ってないんです。ずっとインダストリーの人たちと一緒らしくて電話も来ないし…それに、今朝変な電話があったんです。」
俺は疑問に思い、何を言われたのかを聞いた。蘭は応えるべきかどうか迷っていたが、意を決してくれて話してくれた。
「お兄が…人を……殺したって…そう言って切れたんです。一夏さん、どういうことなんですか? お兄は何をしてるんですか?」
訊いたのは福音事件の一部の話だった。誰が漏らしたのか、何のために漏らしたかはわからなかったが、とにかくそれが彼女らに伝わっていた。
問い詰められた俺は、戸惑いを覚えつつも、話してしまった。
重要と思われるところは誤魔化したけど、それでも蘭たちにはショックだったらしく、しばらく、その場に立ち尽くしていた。
当然だろう、家族のことを心配に思わない奴はいない。俺の両親は小さいころに居なくなってしまったが、千冬姉は何時も俺を守ってくれた。
家族とはそういうモノだ。愛し合って当然の者だ。
血がつながっているからこその愛情。それは何よりも強いんだと俺は知っている。
だから、束さんも箒に専用機を用意したんだ。愛しているから。
そこで思ってしまった。弾を助けようと、彼女たち家族の力を借りて、彼ら家族皆を助けようと思った。
「これで、お兄も戻ってくれるかもしれません! 助かります! ありがとうございます一夏さん!」
蘭もそう言って、弾を助けるために協力してくれるようだった。
やっぱり、家族は家族だと再認識した。
俺は弾を家族の元に返して、元の弾に戻ってくれると信じた。
それが正しいことだと、アイツのためだと思って行動した。
そしたら、今度は弾からも激しい拒絶を受けた。
彼は蘭とつながった携帯電話を投げて、俺に明らかな敵意を向けた。
『こんな真似なんかしやがって! 自分は高いところに立って、俺を導こうってか!?』
助けるつもりが、弾と俺は取っ組み合いの喧嘩となった。
弾と結ぶ最後の絆が切れたかのように思えた。
「俺は何を信じればいい?」
一人仰向けになって天井を見る。取った行動全てが裏目に出てしまう。
助けるつもりが救いにならなくて、守るはずが守られて、何もかもが上手くいかない。
今だって結局自分より上手の相手に負けて、白式は損傷を受けて上手く動けない。
それでも、俺の周りの人は俺を否定しなかった。
運が悪かった、お前の心構えは立派だ、俺こそ男だ、とか言われてきた。
でも、本当は違った。楯無さんの訓練も受けて、今度こそと思ってやってきたのにこのありさまだ。
思えば、皆俺に本当のことを言ってくれたのだろうか。
蘭は本当に弾を呼び戻したかったのか、弾の反応を見て彼女たちは本当は弾の事をあまり重く見ていないのではないのだろうか。
千冬姉が俺に真実を隠そうとしたのはどうしてだろう。俺を守るためなんだろうか。
今まで手にしに来たものも多いのは事実だが俺は多くの物を失った。
砂漠の砂をすくいあげても、指の隙間から砂がこぼれるように、守ろうとしたものから何から何まで失ってばかりだ。
ある時、セシリアが言っていた。どうして弾を嫌うのか、俺が聞いた時だった。
「彼は私の…オルコット家を守るという私を嗤いました。それは許せないことなのです! 私がどれほどの努力をして、苦汁をなめてきたのかも知らないのに…彼は嗤ったんです。だから、私は…」
それが俺の失敗の原因だったのかもしれない。何も知らないまま、俺は自分の正義に従って来たけど、俺はたった一人で踊っていただけだったのかもしれない。
「俺は…何を守れたんだ?」
そして、肝心な時に誰もいない。このロッカールームで俺は一人起き上がれずにいた。
その時、こっちに向かって歩いてくる足音を聞いた。
高いヒールのついた靴の音だった。
「あら、こんな所で会うだなんて、久しぶりに弟さん」
視界に現れたのは豪奢な金髪に赤く煌めくルビーのような瞳をもった女性だった。
赤いドレスを纏っている姿は、見間違うわけもない。あの時の女だった。
「お前……! どうしてここに?!」
「そうね、暇つぶしと愛しの部下の模様を観戦しに来たというところかしら?」
形のいい唇に微笑が浮かんで、真っ白な歯を少し見せた。
俺は出せるだけの精一杯を出して叫んだ。
「黙れ! お前なんか……お前さえいなければ……千冬姉は!」
思い出すのは第二回モンドクロッソの時。俺と千冬姉の運命を変えた二度目の出来事だった。
そんな俺にも構わずに彼女は口を開いた。明後日の方向を見ながら。
「ごめんなさいね? 弟さん」
かつて千冬姉を下した、あの時と同じ口調で言った。
技量が足らず、申し訳ありません。
視点を変えると、弾達がどう見られていたのか、というのを書きたかったのです。
例えるとコミュニケーションブレイクなんちゃらの歌詞の一部ですかね?
今まで一夏についてほとんど書かなかったのはこれがしたかったからです。
一応これまでの伏線ぽいのも回収できたと思っていますが、
果たして?