IS to family   作:ハナのTV

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ブリキの盾たち

倉庫内に飛び散る火花と金属のぶつかり合う音に、空薬きょうの落ちる音。

普段はISを整備するか修理するかの場であるここは言ってみれば創造の場ともいえる。

しかし、今はその面影は無く破壊の場、すなわち戦場と化している。

 

相対するのは、所属不明の男がまとったISで悪趣味な複眼の中でカメラが忙しく動いて私を捉える。

手に持ったブルバップ方式のベルギーのF2000に似た短いアサルトライフルを構えずに腰だめでレーザーサイトによって狙いをつけて発砲をする。

 

整備されていた状態の正座をした訓練機を盾にして、接近してブレードを上段に構えてスラスターの加速と共に振り下ろす。

男の機体は腕の装甲で上手くいなして、流そうとするのを見て左手で掌底を行って腹部に一撃を加え距離が取れた時に、突きの構えをして突っ込む。

 

打鉄の速度は特別早いものではないが、この狭い限定空間なら多少の遅さはカバーできる。

敵機に近づくコンマレベルの時間に男は身をよじって刺突を交わした。

 

すかさず、そこで刀で払った。通常ならなんらかのダメージを与えられるはずだが、男は口笛を吹いて、機体を前進させて、刀より内側に入ってアタシに密着するようにしてコレを回避したのだ。

 

敵機に搭乗する男は花の香りでも楽しむかのように息を吸いこんで感嘆の吐息を漏らした。

 

「いい女だ。マスクがなければ香水の香りも楽しめたのにな?それとも煙草か?」

「…気色の悪いことを!」

 

ブレードを拡張領域に収納してフリーになった両手で敵機を掴んで巴投げのように投げつけて見せるが、敵機は新体操の選手さながらに軽やかに着地して、ライフルをフルオートでデタラメに撃つ。

 

打鉄のシールドと刀で防御態勢を取って、これらの弾幕を防ぎ再び接近戦を挑む。

すると、敵機はアサルトライフルを放り投げて床を蹴りだして突っ込んで来た。

 

その速度は下手な瞬時加速並で、スラスターも吹かしていない状態でトップスピードに乗ったように見えた。

敵機は無手だが、マニュピレーターをよく見ると非常に鋭角でクローの役割も果たしているように見えた。

 

お互いの得物のリーチの中に入ったとき、初手はアタシからだった。突きを三回繰り返して、敵機の上半身の銃身をずらし、電光石火のように足に微妙に回転をかけて後ろへ回り込んで横に薙いだ。

 

無手の敵機は貫手を回転しながら行って、ブレードの刃と真正面からぶつかりに行った。

驚いたことにブレードが不かに耐えきれずに真っ二つになった。砕け散った刀剣が無様に転がる前にアタシは瞬時加速を後退に使い、間一髪で敵機の攻撃を直撃することだけを防いだ。

 

敵機は折れたブレードを拾い上げて、逆手に持つ。最初からブレードを欲しがっていたようだ。折れた刀剣を握りしめて打ち合う。

 

長いブレードが短刀になって、使いづらくも思いつつも振るう。

刃がぶつかり合うたびに火花が散って、黒塗りのブレードがそのたびに熱されて赤みを帯びていく。同時に刀が触れ合うたびに打鉄の腕部から悲鳴が上がった。

 

格闘戦を考慮されて頑丈に作られているはずの機体が過負荷に悲鳴を上げているのだ。

これは、機体のパワーで負けていることを示しており、打鉄の本来の見せ場である格闘戦で、敵機に後れを取っていることに他ならなかった。

 

舌打ちをして、敵機が払いの行動をとった瞬間に後退して残った柄の部分を投げつけてやる。敵機は何なく撃ち落してしまうが、そのわずかな隙を狙って敵機をすり抜けて、投げ捨てられたブルバップを拾い上げた。セレクターを操作する暇すら嫌がってライフルをセミオートにせずに、指きりで単射していく。

 

敵機に、三発ほど被弾させたが、すぐさま敵機は鎮座している訓練機を盾にして接近を試みる。さっきと立場が逆になっただけだ。

 

射撃ではアタシの方が正確でさらに二発ほど命中させたが、ここでトラブルが発生した。

ライフルが弾詰まりを起こしてしまい、発射できなくなってしまった。

 

「このバカライフルが…!」

 

接近してきた敵機のブレードをライフルのレシーバーで受け止めて、薬室に詰まっていた弾丸がポロリと床に落ちていく、脚部スラスターを吹かして落ちていく弾丸を急速に加熱して暴発させる。お互いの間に弾が飛び交って、敵機は舌打ちをしてブレードでそれらを防ぐ、アタシはハイキックをブレードの側面に命中させて残った刃も使えぬように細かく破壊する。

 

これで無手同士、その場で取っ組み合いになって、相撲のようにお互いを掴み合った。

軋む装甲に、悲鳴のようなアラート音が鳴り響いて額に汗がにじむ。

 

「大場先生!」

 

甘い声の後に届いた轟音。届いたのは、イギリス生まれのライフル砲の砲声だった。

アタシと敵機が同じタイミングで離れると、120mm砲弾が格納庫の床に命中して大きくえぐって炸裂した。

 

チャレンジャーライフルを構える彼女は私をしばらくの間見ていたが、気配に気づいたのかすぐさま反転して後ろから接近するもう一機に対応した。

二機目は二本の銃剣でイヴァナ先生のラファールに切りかかった。

 

イヴァナ先生はチャレンジャーライフルの銃身を握ってポールダンスさながらに回って、これを回避して、長い脚でけりを入れて距離を離すが、二機目は片方の銃剣を投擲してチャレンジャーライフルの排莢口に噛ませて、次弾装填を防いで120mm砲の追撃を許さなかった。

 

即座にイヴァナ先生はジャムを直して有線ビットに切り替えてエネルギー弾による追撃を行う。

狭い室内で、実弾より高速のレーザーを二機目は射線を読んでいるのか、バッタのように飛び跳ねて光弾を避ける。

 

それでも躱しきれないのは銃剣で受け止めるなどの離れ業で凌いで、再びイヴァナ先生に接近する。右手の銃剣で刺突を行い、先生の長い赤毛を何本か切り取っていく。

逆手に持った左手の銃剣で喉元を狙って切り裂くように動くのを彼女は反応して見せて

手のひらで銃剣を叩き落として見せた。

 

そして、有線ビットの特殊ワイヤーを二機目に巻き付けて拘束して、山田先生の時とは違って遊びの言葉すら口にせずにデリンジャーを引き抜いて二機目の顔面に放った。

 

だが、二機目は頭部を動かしてデリンジャーの持つ手にぶつけて、頭部の装甲が一部はじけ飛んだものの、ギリギリのところで直撃を避けた。

 

そして、落としたと思われた銃剣を二機目は拾い上げていた。どうやらピアノ線の様なモノで腕と固定していたらしく、それを振るって拘束するワイヤーを切り裂いて、イヴァナ先生のラファールの腹部を蹴り飛ばした。

 

鎮座している訓練機にその身をぶつける前にチャレンジャーライフルを撃って反動で姿勢を正し、クルリと持ち替えて二発目を二機目に放った。

 

二機目が榴弾を蹴飛ばしてコレを防いだ。軌道の変わった榴弾は壁面に激突して轟音と金属のひしゃげる音を鳴り響かせて爆発した。その爆炎が渦巻く中で、二機目はセンサー内からロストしてしまい、彼女は警戒態勢に入る。

 

一方こちらでも、しばらく格闘戦をしていると、一機目の敵機はスモークを放って視界から消えた。

しかも、特殊なスモークらしくハイパーセンサーにノイズが走って索敵ができなくなりつつある。

 

アタシは先生の後ろについて、背中合わせで周りを警戒する。

 

「敵は?」

「見つけられません…センサーに反応も無し、視界もゼロ。」

 

アタシは手元を見て、口内を切ってしまったために溜まった血を吐いて、忌々しく吐き捨てる。

 

「おまけに武器も少ない……チャレンジャーの残弾は?」

 

イヴァナ先生はHMDで確認して、結果をはじき出した。

 

「残弾9発、6発が榴弾で残りが対空用のType3弾です。どうすれば…」

 

イヴァナ先生は呼吸を荒くして、答えた。額には滝のように汗が流れて、緊張感によるものか、ライフルの銃身が微かに揺れているのが見える。

 

彼女も少し前の山田先生と同じだ。代表生になる一歩手前でISでの戦闘経験は豊富だが、このような身の削り合いは経験が薄いはずだ。負ければ、死ぬのは当然でルールも条約もない殺し合いだ。

 

いくら、度胸があってもモデルが本文の彼女にはキツイかもしれない。

だが今は戦うしかなく、早いところここを突破もしくは制圧しなくてはならない。

敵機は二機だけではない。警備室を制圧したのも考えれば、敵の人数はもっと多いはずだ。

 

今はここを潰して、外に出ることが最優先だ。なら彼女には辛いが手を貸してもらわなくてはならない。

 

「イヴァナ先生…合図で周囲に全弾を壁に撃ちこんでください。格納庫の壁をずべて吹き飛ばして、後は外の救援へ…」

「一機でここを?」

「貴女なら、そっちの方がいいでしょう?あと、あれらの回収も…」

 

そういって、鎮座している訓練機を指さす。

すると、彼女はいつもの余裕の笑みを浮かぶことなく息を鋭く吐いて、意を決したのかライフルを構えなおして、むき出しのナイフのような眼光を見せた。

 

「了解よ、サー」

 

了承の言葉を口にして、私は周りを見渡す。

敵には見たところ、射撃武器はなかった。一機目のライフルは切断されたし、二機目は最初から射撃兵装を持っていなかった。

 

マニュピレータ―による格闘に銃剣によるナイフ術、両機とも曲芸師だ。機体のパワーでこちらが負けているうえ、こちらの射撃武器が得意な物か、全く無いのを知っている以上、絶対に格闘戦を仕掛けてくる。

 

そうなれば、パワーで負ける我々が食い物にされてしまう。技量でもそう大きな差はないとはいえ、不利なのだ。

なら、勝てる武器を手に入れることと、奴らには苦手なバトルフィールドを気づき上げてやるのがいい。

 

センサーの聴覚を重点的に強く設定して、音を頼りに索敵をする。金属片の落ちる音やガラスの砕け散る音の中、慎重に敵機のスラスターやモータ音を探していく、すると微かなモータ音が聞こえた。

 

ラファールや打鉄とは違う異音だ。二機は我々を囲い慎重にゆっくりと距離を詰めてきている。

駆けてこないのを見るところ、このスモークは敵機の目も潰してしまうものではないかと推測できた。

だが、それで十分なのだ。大抵の戦闘員はこうも視界を奪われると身動きが取れなくなる。

下手な行動を起こすより、待機して状況を見極めようとするからだ。

連中はそれを見越して、行動している。

 

連中が少し足早になったのに気付いて、アタシは叫んだ。

 

「撃ち方始め!」

 

イヴァナ先生がライフルを腰だめに構えて、ほぼデタラメに榴弾を周囲に向けて撃ち始めた。一発撃つごとに茶人ぐハンドルを引き、排莢校に直接砲弾を込めるなどしてリロード時間を短縮して、格納庫の壁面を破壊していく。

 

爆音と瓦礫の音で、完全に索敵が効かなくなってしまうが、スモークが晴れてきた。敵機は僚機ともに回避行動をとって、この120mm弾の砲火から逃れようとしているのを脇目にアタシは崩れた壁面を見て、目当てのものを見つけた。

 

IS用の火器の武器庫。格納庫ならどこかにはあると思い、博打で行ってみたがみつかるものだ。

 

瞬時加速で飛びつき、崩れた壁面の中に見つけたIS用の火器と弾薬を乱暴に引きずり出して、初弾を装填し普段なら絶対にしないアサルトライフルの二丁持ちをして、火力の増大を行って、二機に向けて乱射する。

 

凄まじい連射力で弾丸が飛びはなたれ定期、飛び散る薬きょうが地面を覆い尽くして、まるで金で装飾されたきらびやかな場所になりつつあった。

二機は制圧射撃に少しひるみつつも、アタシに接近を試みようとする。

 

二機はこちらに食らいついた。もくろみ通りだが、今度はアタシがピンチになるというわけだ。

だが、それでいい。犠牲は少ないほうが作戦としては優れている。死ぬつもりはないが精々派手に暴れて見せる、そう心に思い、ニヤリと口元に笑みを零す。

 

「行ってくれよ! イヴァナ先生!」

「ええ、任されて!」

 

イヴァナ先生のラファールが格納庫から出ることができた。

それを敵機は一瞥だけして、こちらに得物を構える。その様子から、やはり外に増援がいることを悟った。

 

「一人になったな? 何故だ?」

 

敵機の男がそう訊いてきた。

 

「一人が好きなんだ。嫌われ者でね」

「そいつはいい、群れた女は嫌いなんだ。」

 

飛びかかる一機目に、追随する二機目、後退しながら二機に目がけてライフルを単発で迎撃に出るが、命中弾は少ない。

 

この撃ち方はやはり苦手だが、こうでもして火力の底上げを行わなければ、手詰まりになる。だが言った以上はここはアタシがやらなくてはならない。

ヴィンセント風に言うならば、Make A Betだ。

 

今まで、散々負けてきたんだ。今回は絶対に負けられないのだ。

たとえ、負け続けの戦争だらけのアタシでも。

 

ライフルの弾倉を交換して、二機と戦闘に入る。

一人になったのは理由があるのだ。

意地もある、誇りもある。そして、守りたいものがある。

 

 

私は戦う。矛にはなれない盾として。

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫から出てきたものの、私は途方に暮れそうになっていた。外では砲火が止んだおり

静かな学園とまではいかないが、戦場と言うには静かすぎた。

 

言われたことと言えば。外の敵機の排除もしくは、味方の支援だと思うけどどちらも姿が見えない。しかし、ビームで焼かれた学園の施設等を見れば、戦闘があったのは明らかだ。

とりあえず身を隠して、センサーと有線式のビットで周囲を確認する。

 

なんでもいから、誰かがいてほしかった。この際、孤独でいるより敵でもいてくれた方が安心するとすら思った。

 

すると、通信にノイズが走り、女の子の声が聞こえた。

 

「……誰かいる? 誰か…」

 

か細い女の子の声が耳に届いて、私はその通信に応えた。

 

「誰? どこにいるの?」

「えっと…イヴァナ先生ですね? シャルロット・デュノアです。さっき被弾して…スラスターを撃ち抜かれちゃって… そこから、見えると思います。庭園の中です」

 

ビットをスネークカメラのように使って庭園を見ると、抉れた地面の先に金髪のシャルロットがラファールを纏ったまま、倒れていた。

 

「動けないの?」

 

訊いてみると彼女は首を横に振ってこたえた。

 

「どこかにスナイパーが……それで下手に動けなくて…」

 

私は額ににじんだ汗をぬぐって彼女を見やる。確かにラファールのスラスターが綺麗に貫通されている。そして、もしスナイパーがまだ彼女を狙っているのだとしたらと思えば彼女が動けないのも無理はない。

 

だとして、私は何をすべきだろうか。彼女を助けに行くべきなのだろう。しかし、それは私もスナイパーの射線に身を晒すという事になる。

 

それを考えた時、額にさらに汗が流れだした。ライフルを持つ手が震えて、カタカタと音を立てた。

 

武者震いのたぐいではない、恐怖から来る震えだ。

 

これまで、私は自分の事を過大評価していた。代表生になるまでにいくらかの修羅場を潜り抜けてきたつもりだった。今まで、私が怖がるものはないと信じ声んでいた。

 

代表候補生時代はそれこそ過激な体験で、同じ候補生に恨まれて二機同時に相手したことも、ロッカールームで石鹸をタオルで包んだもので殴られたこともあった。

 

でも、そんなものは此処に比べれば、小さなものでしかなかった。

今の自分を見れば、臆病な子犬の様にしか見えない。

 

なにが元イギリス代表入りだ、ただの怖がりの女の子と変わりないことを見て私は自分を罵った。

 

「先生……ボクはいいから、皆を助けに行ってください。三人が…海上に浮かんでいるはずです。ボクじゃ、行っても無駄かもしれなかったけど、先生なら…」

 

シャルロットは震えた声で話した。私が助けに来ないと見たのか、怖がっている私を思いやってか、せめて友人を助けてくれと懇願して来た。

 

「バカなこと言わないで」

「いいえ、先生。いいんです…」

 

それは15の少女にしては、思い切りが良すぎる発言だった。

彼女は諦めたかのように言葉を吐いた。

 

「結局、ボクは強くなかったんです…自分に何ができて、何になれるのか思って…でもボクはやっぱり強くない……なら」

 

まるで懺悔でもするかのように、彼女は私に見捨てるように言う。私はそれを黙って消えkなくなっていた。

 

弱くて何が悪いのか、誰しも強くなれるわけでも強いわけではない。今の自分がそうであるように、状況が変われば途端に弱者に変わってしまうのだ。

それが今の自分だ。この状況で震えあがっている。

 

自分が恥ずべき存在に思えてならなかった。

普段、余裕ぶっていても緊急時にこんなザマな私と比べれば、この状況でなおも友達の事を思える彼女の方が強いではないか。

 

なら、自分がすることは一つだろう。通信をつなげたまま微かに震える足に力を込めて歩き出して、彼女の方へと振り向く。

 

「……今助けるわ。そこで待っていなさい」

「ダメだ…ダメだよ先生! 今度は貴女が狙い撃たれる! ボクはいいから」

「うるさいわね…いいから黙ってなさい!」

 

私は彼女に向かって大声でどなった。

 

「15歳の女の子が生意気言わないで! 私を誰だと思ってるの?」

 

機体のスラスターにエネルギーをため込んで、瞬時加速を開始して、彼女のラファールの元へと駆ける。

心の中では、狙撃されないことをひたすら祈りつつ、彼女の元へと飛びタッチダウンするかのように彼女の手を掴んで、その場で反転してかける。

 

背中に誰かの視線を感じて、ゾクリと来る。今こうしている間にもスコープ越しで見られているようでゾッとした。

早く、向う側に向かおうとさらに加速をかけて遮蔽物の裏側までたどり着いて安堵の吐息を吐いた。

 

シャルロットは顔を緊張で紅潮させていながらも助かったことに純粋に喜んでいた。私も似たような顔をしていたことだろう。

笑いがこぼれた。二人して、無理だと思われたことが成功して、二人で馬鹿みたいに笑いあった。

お互いに抱き合った。助かった、私たちは賭けに勝ったのだ、と心底喜んだ。

 

「見なさい、やればできるモノでしょう?」

「先生、ボク助かって…」

「そいつはどうかねえ?」

 

そこに響いたのは第三者の声だった。振り返ると蜘蛛によく似た多脚のISが私たち二人の前に現れたのだ。

 

「何かいると思って降りてみりゃ、コイツは…。せっかく会えたんだ、もっと喜んで見せろよ、ブリキの兵隊さん」

 

増援、大場先生の言った通りだった。異形のISを纏う彼女からは異様なオーラを感じた。殺気と言うモノだろうか、肌がピリピリと痛みだしてまた震えが来た。

本能からして、私に逃げ出すように警告しているようだ。

 

こいつはエースで、私では勝つことはできない、そう直感した。

生ぬるい世界で生きてきた私とは違う世界で生きてきた女だ。

他人の生血を啜って生きることに生きがいを感じている生粋の化け物だと私は確信した。

 

本当は逃げたい、しかし私はそれを選択せずにシャルロットに待機状態の何機かのISを手渡して言った。

 

「逃げなさい、シャルロット」

「でも…」

 

私は残弾が少ないライフルを異形のISに向けて言った。向う側は余裕を感じているのかすぐに手出しはしなかった。

 

「逃げて、増援を呼んで…山田先生に専用機持ちの何人かを連れてきて…多分、私じゃそう持たないから急いでね?」

 

シャルロットは待機状態のISを握りしめて、目じりに涙をためていた。

彼女も震えている。当然だ、私だって怖いのだから。

それでも、彼女は言った。精一杯の強がりの表情で

 

「わかりました! ボクもリヴァイブを修復していきます。どうか気を付けて…!」

 

彼女は駆け出した。ラファールで地面を蹴りだして鹿のように器用に障害物を避けて走り去って行った。

それを横目で確認して、目の前の敵機に集中する。実力差はハッキリとはしない。

それでも私が負けているのは確実だろう。

 

でも、大場先生は私に託してくれた。そして、前に山田先生が言ってくれたように私にも教師としての自覚があるなら、やれるだけはやってみるしかない。

 

「お待たせ、さあ、踊りましょうか? ダンスはお好き?」

 

敵機は何も答えなくなったが、その気はあるようで戦闘態勢に入った。

遊びの時間はオシマイ。ここからは本当に戦闘する気だという事に確信した。

 

 

一つ思うことがあるとすれば、私は誰かの盾になれた気がした。

少しは彼女たちの様には見えたろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シェルターの大きな扉が閉められた。大きな分厚い金属のドアが閉じられて、そこにシールドがコーティングされて鉄壁の防御網が敷かれる。

避難開始から一時間と少し、ようやく学園内の一般生徒並びに一般客をシェルターに避難させた。

 

一仕事済んだという所で、一息つきたいがそうもいかない。先ほどから続いている爆発音から戦闘はまだ怒っていると思われる以上、私に休む暇はない。

すぐにでも大場先生とイヴァナ先生の元へと向かわなくてはならない。

 

「山田先生、僕らは?」

 

ヴィンセント君がそう訊いてきた。これからどうするか、と。本来なら彼もシェルターの中に入ってもらうのが普通だけど、彼は専用機持ちで学園の戦力の一つとしてカウントされている。

 

私に専用機があって、織斑先生のようなブリュンヒルデのような力があれば、私一人ですべてを解決することもできたかもしれない。

 

でも、そうではない。私には機体もなく、力もない。私の両手は非力でIS無しでは普通の銃だって重たく感じてしまう。

 

悔しくてどうしようもなくても彼らを頼らなくてはならない。それでも、彼らを死なせはしない、傷つけないために私が戦わなくてはならない。

 

そのために、私は一つ深呼吸をしてヴィンセント君に言った。

 

「ヴィンセント君と鈴さんはISを展開したまま、庭園の方へ。必ずツーマンセルで行動してください。私は格納庫へ行きます。」

 

それに対して鈴さんが反論を述べた。

 

「危ないですよ! あそこからの通信が切れて、先生も二人まだ戻ってないんですよ?

絶対に敵がいます。ここで待機して…」

「そんな暇はありません。もう既に戦闘は始まって、さっき一瞬ですけど銃声が止んだのを見ると、誰かが撃墜された可能性があります。一人でも多く戦える人が必要です。

イイですか? 絶対に無理だけはしないで…いいですね?!」

 

私はそう一言だけ言って駆け出した。私の名前を二人が呼んだ。行くな、と私を引きとめようと大声で怒鳴っていた。

 

彼らの言う通り、危険なのもわかっているし自分でも怖いと思う。

 

それでも、と私は思う。無謀かもしれないけどせめてラファールの一機だけでも手に入れれば、誰かの力になれる。

何度でも戦って一人でも多くの生徒さんを助けたい。そう思って走る。

走りにくいヒールの踵を壊して走りやすくして格納庫へと向かう。

 

すると、近くから人影が見えた。その影の形からラファールの者だとすぐにわかった。

一機のラファールが近くに着地して、小さなクレーターを作った。

 

音と衝撃に驚きつつも搭乗者を見ると、シャルロットさんだった。

何かあさっている様子で、今すぐにでも飛び立とうとしているのを見て私は思い切り叫んだ。

 

「シャルロットさん!」

 

彼女は声に気付いてくれたようで立ち止まってこっちを見た。

 

「山田先生!」

 

彼女はこちらに近づいて私の顔を見て涙になりつつも、安堵の顔を浮かべていた。

彼女は緊張感からか、恐怖感からかはわからないがろれつが回らない口で何かを話そうとしている。

 

私は彼女のラファールの手を握って、落ち着くように言った。

 

「落ち着いて下さい、どうしたんですか? それに、スラスターが…」

 

近づいて見てみるとスラスターに大きな穴が開いており、完全に破壊されているのが分かった。だから彼女は脚力でジャンプしていたのだ。

シャルロットさんは落ち着きをとりあえず取り戻して話した。

 

「途中で狙撃されて、イヴァナ先生に助けてもらったんですけど…新手のISが来て…先に行ってコレを渡せって…」

 

手渡されたのは四機分のラファールと三機の打鉄の待機状態だった。

七機分の戦力がその掌の中にあった。

 

私は一機のラファールを身にまとって、感触と武装を確認する。訓練機で教員用ではなく生徒用にデチューンされたものでもありがたかった。

 

武装はコンバットナイフに標準型のアサルトライフルが一つ。スコープが欲しかったけど、贅沢は言えない。

 

「ありがとうございます。シャルロットさんは退避を! その機体では戦闘力は…」

 

彼女は戸惑ったような顔をした。しかし、次の瞬間に目をつむって考えたのか、意を決してこんなことを言った。

 

「なら…先生。コレを使ってください」

 

彼女は拡張領域からスナイパーライフルを取り出して手渡してきた。

代わりに戦ってほしい、彼女の精一杯の助けだ。

 

「ありがとう。でも大丈夫ですか?」

 

彼女の機体は豊富な武装が武器だ。いくら飛べないとはいえ、万が一の時の襲撃に必要になるのではないか。そう思ったけど彼女は答えた。

 

「いいんです。これしか今はできないんです。それに自分に従う、ボクがそうしたいんです。だから、僕の代わりに皆をお願いします! ボクもすぐに追いつきますから…」

 

私は彼女の意志を組んでライフルを手に取った。

 

「わかりました。もし教師を見つけたらISを手渡してください! 見つけたら、で釜井線から」

 

「ハイ!また後で!」

 

彼女はそう言って去って行った。彼女も戦おうとしている。小さな自分を奮い立たせて誰かのために戦おうとしている。

生徒さんが頑張ろうとしている、なら私がやらなくてはならない。

ラファールの翼のようなスラスターを羽ばたかせて急ぐ。

 

何度だって戦って見せる。あの子のように。

たとえ、頼りないブリキの盾だったとしても。

 




教師回です。
つぎから、弾達が出っ張ってきます。
更新遅れて申し訳ありません
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