IS to family   作:ハナのTV

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エンターテイナー

「素晴らしい活躍ね。そう思わない?」

 

神々しさを感じさせる黄金色の髪の毛を風に吹かせて、俺の憎い女であるスコールは拍手をする。崩れた壁から漂ってくる硝煙と焼け焦げた匂いに混ざって、香水の甘い香りを感じて、一瞬魅惑されそうになった自分に苛立ちを覚える。

 

倒れて動けない俺の前で彼女が何をしているのか、その答えはとても奇妙なものだった。

スコールは俺の近くに座り込んで、拡張領域からISの装備と思われるものを取り出して、空中に映像を投影させたのだ。

 

綺麗な映像で、リアルタイムに流れる映像にいくつもの人たちが映った。

蜘蛛のようなISと戦闘して、どこからか狙撃されて落ちていくセシリア達に、たった一人格納庫に残って足止めをし続ける大場先生。スナイパーと撃ち合うアカネに自身の親と名乗る人物と斬り合うユーリ。

 

そして、専用機もないまま訓練機で戦闘に参加するクラスメイトの静寐さん達と次々と現れては消える映像を彼女は俺と共に見たのだ。

 

何が目的なのか、それすらも理解できなかった。こんなものを見せて何がしたいのか、見当もつかないことで、俺はいらだちの声を上げて答えた。

 

「ふざけてんのか?! 何のつもりだよ、こんなもの見せて!?」

 

そう怒鳴るとスコールは小首を傾げた。

 

「あら、お気に召さなかった?」

「そういう事言ってんじゃんねえ!」

 

さらに声を荒げて言うと、スコールは一瞬目を丸くして、一つため息を吐いた。そして出来の悪い教え子を見るような、困った笑いを見せた。

 

なぜわからないのか、相手の理解力の低さに憐れみを覚え、苦笑する。彼女の紅い瞳は確かに俺を反射しているが、そこに含まれる感情はその手のたぐいのものだった。

 

「貴方、これらを見て何か感じなかったの?懸命に戦う彼らを見て何も?」

「何を感じろっていうんだ?」

 

鼻を少し鳴らして、嘲笑を小さくした。そして、憐れみの目は明らかに侮蔑のソレへと変化した。

 

「冗談ならよかったのだけど、そうではなさそうね…… 一から説明しないとダメかしら?」

 

彼女は今までの立体映像を消して俺の方を見やる。そして彼女は語りだした。これらの映像の意味を。

 

「貴方は今まで何を彼らに言ったかしら? まずそこからよ。力に溺れている、暴力、人を傷つけることしかできない、そんな言葉を何度と彼らに言ったでしょう? 確かに貴方のいう事は正しく、清く、美しいわ……でもそれだけ」

 

スコールはドレスのような服装からチラリと脚を見せつける。太ももの部分にバラのタトゥーのような物を一瞬見せつけて、ドレスの裾で隠す。

 

そして、もう一度見せると、それは蜘蛛の形になっていた。

 

「彼らを醜いと言う一方で、自分は彼らを見てこなかった。貴方、福音事件の時彼らがどんな戦いをしてきたか見たかしら? 泣いて、叫んで、震えて戦っていた親友のことを見たかしら?」

 

それを聞いて心臓が跳ね上がったかのように感じた。俺は見ていない。弾がどんな戦いをしてきたのか見ていない。

妙な汗が流れだした。体が濡れて不快になっていく。

 

「見たわけでもないというのに、どうして彼を断罪できるのかしら?結果が全てと言うのなら、そうかもしれない……なら今の貴方は?」

 

スコールは形のいい唇をゆがめた。俺はその言葉の続きを聞きたくなかった。答えがわかってしまったからだ。

 

「貴方が暴力だと言った力に、貴方が許せないと言った者達に守られた気分はどう?守ると言って、ここで動けないでいた貴方を誰が褒めてくれるのかしら? 大好きなお姉さん? それとも今ようやく回復し終えた彼女たち? 聞きたいわ、なんて言ってくれるのか」

 

耳を覆いたくなったが、両手の自由が利かずに手を頭まで持っていくことすらできない。

いっそ意識を失ってしまえばいいのだろうが、人間というモノはそう簡単には意識を失わないようで、俺は聞く以外の選択肢を持っていなかった。

 

「おかしなものね。守ると言った貴方が今の姿でいて、殺すと言った彼らが守っているというのは……最高に面白い喜劇だと思わない? ホラ見て、彼らの姿を」

 

そう言って、俺に現在の映像を見せた。抱き合って喜びあっている山田先生と癒子さんに、ナギさん。グレイイーグルが出てきたヴィンセントとハイタッチをしている鈴に、ひとまずの喜びの顔を見せながら、ハンカチで血を拭っている大場先生。

 

その大場先生の治療を手伝っている静寐さんに神楽さん。彼女たちの顔は煤で汚れていたけど、美しく見えた。

 

泣いているイヴァナ先生を宥めているさやかさんに、複雑そうな表情を見せるシャルも映っていた。

 

これがどのようにして撮られているのか、それはわからなかったが俺に見せられる映像が偽物ではないことは確かだった。

 

さっきまでの大きな爆発音に燃え上がった爆炎を俺はこの目で見たからだ。その戦闘の光景も詳しく映像で見て、全てはリアルに起こったことだと認めざるを得なかった。

 

そして、最も俺の心を揺さぶったのが、弾とアカネの姿だった。

ISを解除した二人はしばらくの間見つめ合って、何かを話していた。二人の顔は戦闘から解放されたことで落ち着きを取り戻しており、汗と顔を切ったことでできた傷から血が流れていた。

 

弾がそっとアカネに近づいて、彼女の顔の血を拭った。アカネは抵抗もしないで、目をつむって弾が自分の顔を綺麗にしてくれているのを待った。

映画のワンシーンのようだった。崩れた校舎に、立ち込める煙の中で二人は愛の告白をしているように見えた。

 

弾が拭き終わった後にアカネは弾の手を取って身を寄せていた。うっすらと流れる涙がキラリと光って、宝石のように思えた。

 

そんな二人を見て俺の心に湧き上がったのは後悔だった。

弾がどうして彼女とあそこまでの関係になったのか、俺には信じられなかった。

 

彼女はラウラを殺そうとした女の子なのに、弾は彼女と付き合っている。それはこの映像から見て、確実だろう。二人は戦いに生き残ったことを喜んで、それを糧としている。

 

弾はそんな人間ではない。どうして、引き込もうとするのか。

彼らが悪いのか、それとも守れなかった俺が悪いのか判断がつかずにいる。

 

そして次に俺を襲ったのは無力感と敗北感だった。

 

スコールの言った通り、俺の言ったことと逆の事が起こっている。認めがたくも、それは事実で彼らの方が守っていて、俺はただ力なく倒れていただけだった。

俺が間違っていたのか。

 

「違う、俺は間違っていない……俺は皆を守るために……!」

 

そこへ、スコールのささやき声が耳に入った。その声は凍てつく冷気を纏っていて、俺の心を凍り付かせるのには十分すぎた。

 

「そうね、貴方は間違っていないわ。きっと世界の方がおかしくて狂っているから、貴方のような人が報われないのでしょうね。本当に可愛そうな子。」

 

次に聞こえたのは大爆笑だった。品を失わずに爆笑をする彼女は美しく、また屈辱的だった。

 

奥歯を噛みしめて、唇を噛んだ。にじみ出た血液が舌の細胞に反応して嫌な鉄の味を感じ取った。

これ程まで屈辱的に笑われて、自分の信念や覚悟を否定されて黙っていられるほど俺は大人ではなかった。そして、俺の言ったことと正反対になってしまった現状にも怒りを覚えた。

 

Rインダストリーの彼らに守るなんて意志はない。シャルをダシにして、私服を肥やしていたヴィンセントを見れば明らかだ。

アカネの人殺しに対する躊躇の無さに、あの眼鏡の裏側に隠した鋭い目を見ればそれがわかるというのに、皆はまるで気づいていない。

 

そんな力を肯定すれば、きっと目の前の彼女と同じになる。それを証明して、弾や鈴、果ては四組の簪さんを目覚めさせようと、今日まで努力して来た。

 

専用機持ちのセシリアやラウラとの訓練も毎日してきたし、最近では楯無さんからも教えてもらった。

白式も二次移行して新たな人を守るための力をつけて強くなったはずなのに、俺は負けた。

 

敵にだけじゃない、千冬姉に反対ばかりする大場先生や力を自分の欲望のまま使うイヴァナ先生、そしてRインダストリーと俺は負けてしまった。

 

そして、その為にスコールに自由に語らせてしまっている。

爆笑を終えた彼女は今まで全ての映像を自分の背後に展開して持論を語りだした。

 

「でも、世界は間違っているからこそ正しいのよ。間違っているから、人が動く。その過程の面白さはフィクションでは再現不可能よ。成功も失敗も全てが歴史になってドラマになる。これこそが真のエンターテイメントよ」

 

俺は動かない手足を無理やり動かして、彼女に掴みかかりに行った。立ち上がって、彼女の肩を掴もうと動いた。

 

だが、次の瞬間には視界が一回転をして背中に衝撃が伝わった。背骨に直接コンクリートの床がぶつかって、俺は一瞬で動けなくなった。

 

「守るなんて言葉を使わない彼らは一体何なのか、そう思わない?誰よりも身勝手で誰よりも暴力的な彼らがどうして貴方より力があって、あんな風に笑えていられるのか、それは彼らがエンターテイナーだからよ、一夏君。 貴方にあんなこと出来るかしら?」

 

そんな俺の顔に彼女は黄金に彩られたワルサ―PPKという、前にラウラに教えてもらった拳銃が突きつけられた。成金趣味に見える銃も彼女が持つことで美しい芸術品になっていたのが、さらに俺を苛立たせた。

 

「本当に可愛そうね一夏君。でも安心しなさいな。貴方にもちゃんとした役はあるわ。

喜劇俳優としての役がね。もちろん、貴方のお姉さんも」

 

再び起こった爆笑の渦に俺は悔しさのあまり、涙を流していた。こんな女に千冬姉を好き勝手に言われているのを許している自分の情けなさに俺は泣いてしまった。

こんな体験は初めてという訳じゃない。

 

二度目の体験で、同じ相手に同じことをされているのだ。

もう二度とそうならないようにと誓って、独り立ちを考えていた。だが、偶然にも得られたIS適性を見て、俺は今度は千冬姉を大切な皆を守ると誓ったのに、その誓いを踏みにじられてしまっている。

 

俺達はピエロなんかじゃない。そう叫びたいのに体が動かない。

第二回モンドクロッソの大会の時と同じ、無力なままだった。

 

 

 

今でも思い出す、あの時の事を。

あの日、俺は見知らぬ連中に誘拐された。護衛としてついていたSPを目で追えぬ速さで締め上げて、俺は薄暗い廃工場に連れていかれた。

 

途中何度か逃げようと試みるたびに殴られた。その痛みは思い出すだけで、頬がずきりと痛む。

 

その中にスコールがいたのだ。彼女は今のようなドレス姿ではなく、黒いボデイーアーマーに身を包んでいて、妙に俺に親切だった。

 

他の仲間と違って、トイレにも行かせてくれたりチョコレートを分けてくれたりと色々と気を回してくれた。

 

そして誘拐されて数時間たった時だった。千冬姉の叫び声が聞こえて、廃工場の天井を突き破ってISを纏った千冬姉が現れたのだ。

 

助かった、そう思った。世界最強のパワードスーツに千冬姉の組み合わせ。まさしく最強の組み合わせで誘拐犯はさして抵抗もせずに逃げ出していた。

 

しかし、そこでスコールが動いた。彼女はあろうことか、逃げようとした仲間を一人残らずサブマシンガンで全員殺しだした。

逃げる背中に銃弾を撃ちこんでいき、仲間の悲鳴と非難の声に構わず辺り一面血の海に変えて一人にやけていた。

 

それを見た千冬姉が吐き捨てるように言った。

 

「仲間を撃つとは……貴様一体何のつもりだ?」

「要らないものは捨てるに限るわ。それにここからが本番なのに、観客でもない人間がいても困るだけだもの」

 

スコールはそれだけ言って、サブマシンガンを投げ捨ててISを展開した。今思うとあれはラファールによく似ていたかもしれない。

千冬姉は不敵に笑って見せた。

 

「この私にISで挑むとは、無謀か、あるいは傲慢か?」

「さあ?」

 

俺もこの時は千冬姉の勝利を確信していた。ブリュンヒルデの千冬姉が負けるはずがない。TVで見た試合もどんな相手だろうと一撃でブレードだけで勝って来た千冬姉に負けなんて有り得ない。そのはずだった。

 

でも、そこからは一方的な蹂躙の始まりだった。

あの千冬姉がまるで敵わないのだ。全ての剣戟を容易く読んで、躱していく。千冬姉の一歩先を行って、速度も何もかも上を行っていた。

 

装甲が次々と砕けて、そのたびに俺の心も砕けていった。千冬姉の苛立つ声と対照的に聞こえてきたスコールの笑い声が俺の精神の支えを侵食した。

 

 

そして、ついに千冬姉のISが動けなくなって地に伏せた。千冬姉の顔は理解不能な存在を見る、そんな顔だった。

屈辱と怒りに燃えた目でスコールを見ていた。

 

「貴様……これほどの力を……何故だ?」

「エンターテイナーだからよ、千冬さん。これからの事は面白くなるわよ。観客は何十億もいて、増え続けるわ。猿芝居はオシマイなの、これから本物を作らなくてはならないのよ? だから私は強いの」

 

自信とも畝ぼれともつかない言葉だけど、それを裏付けるように彼女は千冬姉を倒した。

 

何を言っているのか理解がまるで追いつかなかった。どうして千冬姉が倒れているのかという事と、彼女の言っていることの双方がわからなかったのだ。

 

そして、倒れている千冬姉の近くに彼女は歩いて行って、何らかの装置を取り出した。

その装置を千冬姉に放り投げると、装置から足が出てISごと千冬姉に張り付いて、見るだけで強烈とわかる電流が千冬姉を襲った。

 

千冬姉が叫んで、のたうち回った。その姿を口角を吊り上げて見ているスコールは狂気的でありながら、美しくて恐れを抱いた。

 

悪夢のような数分が続いて、電流がおさまったとき、千冬姉の全身から焦げた匂いが立ち込めていた。俺は千冬姉の名前を呼ぶことしかできなくて、泣くことしかできなかった。

 

次の瞬間にはISが剥がれ落ちるように取れて意志のようになってしまったのをスコールは感嘆の声を上げて喜んでいた。

 

「そうまでして搭乗者を守るのね、これはこれで面白いわ。でも、その身体のダメージではもうさっきまでのように機体は動かせないでしょうね、悪いことしたわ。ごめんなさい、謝っておくわ」

 

謝罪の意思などみじんも感じられないまま、スコールは深々と頭を下げた。千冬姉は激痛のあまり声すら出すのもつらいだろうに、立ち上がって彼女に掴みかかった。

それも、神速で人間離れした速さだったはずだった。

 

だが、そこへ別方向から銃声が鳴って千冬姉の脚を撃ち抜いた。千冬姉は倒れてしまい、また動けなくなってしまったのをスコールは見下ろして、腹部を蹴りつけた。

 

「謝った私に掴みかかるだなんて、少しは礼儀を知ってほしいものね。だから、貴女は愛されないのよ?」

 

そして、ふと俺の方を見て彼女はクスクスと笑ってつづけた。

 

「アラ、 弟さんの前でごめんなさいね。」

 

それだけを残して夜の闇へと消え去って行った。最初から闇で、これが悪い夢なんだと思いたくなるほど圧倒的で、幻のように彼女は俺の前から姿を消したはずだった。

 

 

それが、今こうして姿を現してクスクスと俺たちを嗤っている。それが悔しくて、憎らしかった。

 

「あの時は期待したのよ?」

 

スコールは形の良い唇から再び言葉の棘を生み出してきた

 

「貴方がどうなるのかって、ずっと期待していたわ。なのに、貴方は姉に似ることしかしない。私としては面白くないの一言よ。 同じキャストは要らないの。 模倣者なんていても仕方ないのよ。だから、訊くわ」

 

彼女の言葉に俺はさらに絶望の奈落へと落とされた。

 

「貴方は誰なの? 織斑一夏。」

 

なぜなら、俺は応えることができなかったからだ。

答えられなかった俺を一瞥してスコールはニコリと笑って去って行った。去り際にワルサ―を俺に向けて撃った。

 

でも、俺が死ぬことは無かった。見えない壁に弾かれるようにして俺は守られたのだ。

守られる、守られた! そう思って、俺は泣き叫んだ。

 

力にとらわれているはずの彼らに守られて、信じていたモノが嘘だと言われて、俺の信念も否定されて、それでいて俺は反論の一つもできないでいた。

 

破壊する力に俺の守る力は完膚なきまでに負けた。

脳裏に描かれるアカネと弾の姿がそれを物語っていた。

 

俺は叫び続けた。それすらも周りの音にかき消されて、誰の耳にも届いていないのも気づかずに

 

 

 




いわゆる、スコールは悪の親玉なのですが
この場合ってSEKKYOUというものに該当するのでしょうか?
かなり不安です。

とりあえず、学際編は大体こんな構成で作ったのですが、いかがでしょうか?

次回は後始末やら、その後の影響やらを書いて、次の事を書く予定です。
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