IS学園医務室。白い清潔なベッドに窓から差し込むお日様の光。そして、食堂とは打って変わってマズイ病院食。ラウラの暴走事件以来入ることは無かったが、改めて入ってみると、意外と大きくしっかりとした設備で驚きが隠せない。
寝間着に着替え、頭や腕に巻いた包帯を煩わしく思うことと、ニコチンの補給ができないことに苛立ちを覚得ること以外することが無く、天井を見上げるばかりだ。
隣のベッドでは山田先生が折り紙を折っている。折り鶴を折ってはまた折りを繰り返している。その数はもう百を超えており、ベッドの上には鮮やかな折り鶴が転がっている。
もう一つ向うのベッドにはイヴァナ先生が寝ていたはずだったが今はいない。
彼女は何を思ったのか、雑誌のカメラマンとあれこれと打ち合わせをして、包帯に巻かれた姿を写そうという事に決まり、現在撮影中らしい。
何でも、水着の代わりに包帯を胸やら尻に巻くのだそうだ、モデル魂もここまで来るというものか、それとも仕事をこなすことで今回の事を少しでも気を晴らそうと思ったのか。
これが三日前まで必死にトリガーを引き絞り、刀剣を振り回し、血みどろになって戦っていたというのだから、驚きだ。緊張感のかけらも見えない今の姿を敵が見たら、何て思うことだろう。
今思えば、今回の学園祭は酷い終わり方をしたものだ。生徒が三名亡くなり、そのうちの二人、フォルテ・サファイア、ダリル・ケイシーの喉笛を切り裂かれた死体からは専用機を発見できず、強奪されたと予測されている。
もう一人は格納庫で見つかった。以前、山田先生を誤射して、イヴァナ先生にお叱りを受けた生徒だった。レンチで頭を何度も殴打されて、可愛げのあった顔はひしゃげ、私の戦闘の余波で遺体もキレイではなかった。
教師も何名も死者を出しており、刃物で斬られた状態で何名か見つかり、その中で一人だけ銃弾で穴だらけにされている。
そして、最もショックだったのが布仏本音だ。
彼女がこれら犠牲者の内、二人の下手人であることはティナとマイクの二人の証言で確認を取っている。
その様子を聞くたびに私は彼ら二人が口裏を合わせて、私をからかっているのだと思ったほどで、信じられないの一言だった。
だが、これらを裏付ける証拠が出てしまった。ユーリのマーダーと簪の打鉄弐式の戦闘記録から出た映像だ。
人間そのものの量子変換に巨大なかぎ爪のIS。あんな機体は世界中のどこを探しても見つからない。あれは果たしてどこから来た機体なのか。
それに開発コンセプトも今のところ謎だ。このご時世、火器の一つも積まない兵器など、あるのだろうか。
謎といえば、今回の襲撃者たちだ。目的がまるで分らないのだ。もし、ISを奪うなら、格納庫全ての機体を完全に無視したのは何故だろうか。
専用機が欲しいにしても、それならなぜ、ダリル達のように他の専用機持ちを暗殺するなり、しなかったのか。
さらに私とイヴァナ先生が来た時のも理解ができない。あの時、彼らはいつでも我々を始末できる位置にいた。にもかかわらず、彼らは私たち二人がISを手にするまで待っていた。
あれだけ、高度に組織化され、高い練度を誇りながら、やることが全て理に適っていないように見えるのだ。むしろ、こちらの利することすらある。
快楽犯の集まりか、と言われれば、そうかもしれない。そう言われた方がしっくりくるというものだ。だが、それは組織として破たんしているも同然だ。
矛盾に理不尽、不合理をミキサーで混ぜ合わせたのが彼らという結論が残るだけだ。
考えるほど深まる謎に本音の行動、頭を抱えたくなるようなことばかりだ。
「大場先生」
そう思考の海を彷徨っていると山田先生が私の名前を呼んだ。
「布仏さんはどうして……あんなことをしたんでしょうか?」
普段の元気と笑顔がステキな彼女には到底似合わない暗い声を出して彼女は訊いた。
それが私にとっても彼女にとってもつらいことだった。
そして、私も彼女が納得できるような答えを用意できないでいた。
「山田先生、貴女が気に病むことは……」
「なりますよ。」
彼女は折り鶴を折るのをやめて、メガネを外して私を見た。
「少し前の話ですけど、私彼女に訊かれたことがあったんです。どうして生徒さんに笑われても怒らないのかと。私は先生だからと答えたんです。そしたら、彼女はそれで幸せなの?って聞いてきたんです」
山田先生は過去に本音との話をした。彼女の瞳には涙こそ浮かんではいないが、悲しみの色が宿っていた。自分の教え子の一人だったからこそ何故と問うていた。
自分が相談に乗れば、何かサインをだしていたのかもしれない、と責任を感じて自責するばかりの彼女を見ていて私は辛かった。
「幸せ、今思うとその言葉がその場で出てくるのは少しおかしいと思います。ひょっとして布仏さんは気づいて欲しかったんじゃないかって……」
その時、靴音が聞こえてきた、ヒールのない革靴の音だと気づいて男の者だと判断した。
その方向へと顔を向けると、見慣れた緑の制服を着た男が私たちの前に姿を現したのだ。
自衛官の制服に包まれたメガネの男は手に花束を持ち私たちに訊いた
「失礼、大場つかさ元二尉、山田真耶さんに間違いありませんか?」
「貴方は?」
山田先生が暗い顔を少しかくして、彼に身元を聞いた。
「私は駒込元宏 階級は貴女と同じ二尉です。所属は少々問題があるのでいう事はできませんが、お許しを」
深々と頭を下げた二尉を見る。見かけは神経質そうなインテリと言ったところだ。話し方も癖のあるほうで、恐らくは現場の者には好かれることのないタイプという印象だ。
「その二尉が何の用で?」
私が問うと、駒込二尉は顔を上げて小脇に挟んだ鞄から書類を取り出して、私たちに見せた。書類に防大IS加入草案と書かれていて、私と山田先生が驚きの声を上げた。
「これはどういうことですか?」
警戒心を露わにした山田先生に対して二尉はメガネをクイっと指で持ち上げて、この書類の意味するところを説明した。
「先日の事件で貴女方は敵対組織に対して抵抗し、これを撃退。その戦闘は苛烈で万全な防備とやらを備えたIS学園が修理とカリキュラムの再構成、人員の補充と機能を停止してしまうほどでした。」
言葉に一々棘が入っており、言い方はシニカルで聞くものをわざと不快にさせてるようだ。
それを自覚してるのか、私たちの顔を見て小さく鼻で笑った。
「本来なら責任を追及するところでしょうが、本題はそこではありません。その戦闘の中、一般の生徒が参戦なさったと小耳にはさんだのですよ。そこで我々は直ちに調査して、彼女らを調べつくした。」
書類の中から、ファイルを取り出すと、静寐や神楽、さやかに癒子などの顔写真が目に入った。たった三日間で彼らは彼女たちの情報を丸裸にしたのだ。
組織としては優秀だが、やっていることは下種の極みと言うべきだろうか。
「早い話が、スカウトです。この短期間で育ちあげた貴女方の手腕も素晴らしいが、彼女たちの成長具合はより価値のあるものだ。ぜひ、彼女たちに防大に来てくれるよう言っていただけませんか?」
思わぬところからのスカウト。よりによって、古巣からのスカウトとは思わなかった。
確かに、IS学園から自衛官のエリートコースという話は栄光の架橋だ。
その橋を歩くだけで、下手な代表より成功していると言えるだろう。
しかし、彼らは肝心なことを忘れている。ISの基本事項を彼らは忘れているのだ。
「アラスカ条約はどうなる? ISは軍事的使用は認められてないはずだ。」
私が多少のドスを込めて話すが二尉は少しも動揺を見せずに言ってのけた。
「確かに、しかしそれが何か? オリンピックに軍の経験者がいるのと同じですよ。軍属のパイロットなどIS界隈で不思議な事ではない」
「詭弁だ」
「正当性の主張ですよ。では、よろしく」
彼は書類を私と山田先生の間の机に置いて、ついでに花束も置いて、去ろうとした。
その彼を山田先生が引きとめた。
「待ってください、例の組織については何かないんですか?! 布仏さんは……」
生徒の身を案じて、そして今回の組織について彼女が訊くと二尉は振り返らずに答えて部屋を出て行った。
「組織については調査中です。わかっているのは、リーダーが女という話だけです。それと貴女の言う生徒なのですが、私よりも更識に聞く方がよろしいかと。では失礼します。敵もいない自衛官は何かと忙しいので」
そんな捨て台詞のみを残して、彼は去って行った。その後多くの企業の社員が来ては去り、勧誘の言葉と称賛の言葉のオンパレードを私達に残していった。
確かに能力は評価されて然るべきだし、彼女らの未来が広がったのは嬉しくも思えたが、その未来を手に入れるためにあのような戦場に出たわけではない。
そんなものは彼女たちなら机の上で行われるペーパーテストでも手に入れられる。そんな彼女たちの事に見向きもしなかった連中がここにやってくるのに憤りを感じざるを得なかった。
私たちは彼女たちの夢を叶えさせるために行ってきた訓練が実ってきたことに素直に喜べないでいた。
空からさす光が茜色を帯びてきたころになって、私たち二人で書類をよみ終わり、大人しく横になっていると、イヴァナ先生が戻って来た。寝間着は普通の物なのにその下に見える素晴らしいボデイラインが美しさを主張する。
「ただいまです、お二人。そちらの書類は?」
「お帰りなさい、ああこれはですね……」
山田先生が笑顔で迎えて、イヴァナ先生の質問に答えた。どこから来たもので、何のために送られるたのかも、正直に全て話す。
その心境は複雑そのものだが、イヴァナ先生は黙って聞きながら、それらの書類をペラペラと捲っている。
「なんだか、複雑ですよね。」
「どうして?」
イヴァナ先生はそう訊き返して山田先生は心境を語った。
「彼女たちは目立ちたいから、とかそういう事のために戦いに出たわけじゃないですし、私たちは彼女たちの代わりに戦って来たのに……彼女たちが戦ったことで夢が叶う所まで要ったのを喜ぶべきでしょうか?」
私もイヴァナ先生も聞くことしかできずにいた。こんなはずじゃなかった。そんなセリフを何度呟いてきたことか。彼女たちを戦場で戦わせるために訓練や指導をしてきたわけじゃない。
このまま、順調に普通に学園生活を謳歌して、夢を叶える。そう私達も彼女たちも願ってやってきたはずだ。
だが、結果は皮肉にも戦場に出るという彼女たちが最初から望んだわけでない理不尽によってそれが成しえてしまった。
これを素直に喜べと言う方が酷というものだ。
だが、イヴァナ先生はそれに対して反論を述べた。
「山田先生、貴女のいう事はわかるわ。夢が叶うなら、晴れ舞台で堂々と、恋と一緒で望ましい所で成就したいものよね。でも、結果的に叶ったことだけは喜んでもいいんじゃない?」
「でも……」
反論しかけた山田先生にイヴァナ先生は口元に人差指を立てて、話すのを許さなかった。
「それが早いかどうかの差だし、彼女たちの勇気が彼女たちの道を切り開いたのなら、その過程が何であれ、喜んだ方がいいと思うわ。私たちのようにね……」
彼女のいう事も一理あった。戦闘という歪んだ過程ではあるものの、彼女たちは自信の勇気ある行動によって道を切り開いた。
普通ではできないことをしたから、彼女たちは評価されて、企業からの勧誘や国からの援助を受けることができる。
それが、彼女たちの努力の結果なら喜ぶべき、というのだ。
それは私たちも同じだった。ここにいる三人は最初から教師という道を目指したわけではないが、それがどんな過程であれ望み通りになっている。
私のように自衛隊のマネっこをしていた過程で教師を気に入りだしたのと同じように。
イヴァナ先生は一仕切語った後にベッドに座り込んで、山田先生に言った。
「ある意味、私と山田先生と同じよ。 殴り合って得た友情だっていいものじゃない?」
美しく、悪友と一緒に話し合うように笑顔を作って見せたイヴァナ先生に私たちは魅せられた。写真に写る彼女より、ずっと魅力的だった。
そして、この職に就いて一番浅い彼女が私達に教えてくれたことに何だかおかしさを感じて、私たちはここに入って初めて笑いあった。
「負けたな、山田先生」
「その様ですね。教えられちゃいましたね」
二人顔を見合って大笑いをした。腹を抱えて笑って、傷口が少し痛むのも気にせずに私たちは笑った。そんな私たち二人を見て、イヴァナ先生は顔を少し赤くしてそっぽを向いた。
「馬鹿にしちゃって……」
頬杖をついて膨れる彼女を見てさらに笑いが止まらなくなり、照れ隠しをする彼女を可愛く思って、立ち上がって彼女の後ろに立って頭を少し乱暴に撫でた。
猫のように悲鳴を上げた彼女は抵抗したが、力ではこちらが上だ。自衛官とモデルではそもそもの力からして比べようがないのだ。
看護婦が来るまでの間、私たちは十代の少女顔負けでじゃれ合った。
モニターが並ぶ会議室の中央に罪を告発された罪人のように織斑千冬は立っていた。
この比喩は正しく、実際に彼女は糾弾されているのだ。
今回の騒動において彼女の行動は不明瞭な点が多く、こうしてIS委員会のお偉いさまや日本IS学園管理を運営を任されている文部科学省の大臣までがモニターを介してではあるが、出席している。
そうしたこともあって、少なくとも日頃日本の司法機関で行われている魔女裁判的なものではないと、少なくとも言えるのだ。
自衛官の一人たる私も非公式ではあるが、この一連の裁判を見物している。
また、この後には更識家のご当主様も織斑千冬が経っている場所に立つのだそうだ。
公権力のない組織と人物がデカい面をするからそうなるのだと、心の中で罵倒しつつも目の前の劇に集中する。
最初に口を開いたのは日本IS委員会会長からだった。
「それでは査問会議を開始する。今更言うまでもないが、今回の査問の目的はIS学園における警備並びに有事の際の対応に関していかなる対応をすべきを模索するためのものである。その上で当査問において一切の虚偽は許されない。よろしいか織斑千冬?」
織斑千冬は宣誓して、虚偽のない発言をすることを誓う。それを満足げに見た会長は第一の質問を彼女にした。
「では、最初に貴女は今回の騒動で一体どこにいたのか?それを明確にしてもらいたい」
会長の冷ややかな声が良く聞こえて、その後に織斑千冬の声が続いた。凛とした声で答えているのが妙に滑稽に思えた。
「その時、私は指揮所にて現場の指揮を行おうと試みておりました。現状から見て各教員並びに生徒たちに指示を出すためにも私はそこへ向かったのです。」
ここで、ざわめきが起こった。出席している方々がこぞって何かをヒソヒソと話し合っていて、うるさくなった。
そこへ会長の言葉が飛んで皆を静まらせた。
「ご静粛に。つまり君は指揮所に向かっており、現場監督としての責務を果たそうとした。相違ありませんか?」
「はい」
会長は資料のページを何枚かめくり、眉間にしわを寄せて問いただした。
「確かに君の言う通り、イギリス代表候補生などから証言を取っている。しかしだ、では何故大場つかさ等に連絡を取らなかったのか?」
痛いところをいきなり突かれた、私はそう思った。会長の質問は至極まっとうな物だった。
現場監督しての責務を果たすのなら、全員に指示を送るべきなのであって然るべきである。
それに対して織斑千冬は答えた。
「大場つかさ はこの際申し上げますが独断で動くことが多く、過去の事件でも同様の行動を起こしており、今回も通信がつながらなかったために指示ができず、現場の判断にゆだねるほか選択肢は無かったと私は信じます」
込み上げてきたのは苦笑だった。現場の長が下の者に現場の判断を要求する。悪い冗談だった。それを聞いて、他の物は資料を捲って納得している者もちらほらと見えたが、そこへ文部大臣が発言をした。
「そうは言うが、君は本当に正しいのかね?」
「……と、おっしゃいますと?」
水たまりに投げられた石のごとく、会場に波紋が起こった。
大臣に対して織斑千冬の態度はお世辞にも褒められたものではなく、口調は良く言えば大胆不敵、悪く言えば、身の程知らずか無礼者のたぐいだったからだ。
だが、モニターの向こうの大臣は鈍いのか、それに気づかずに彼女に言った。
「確かに大場つかさの命令違反や独断は多い。しかし、今回の事で言うなら、彼女は見事テロリストを撃退、それに君が指揮所に行く前にコレを察知している。天晴な活躍じゃないか。それに対して君はどうかね?」
ここで初めて彼女の顔に曇りが出始めた。結果論でいわれれば確かにその通りだった。
大場つかさの行動は上から見れば勝手だが、結果は出したのだ。
「国家代表候補生の撃墜三機、現代表の重大な損傷、世界で二人だけの男性操縦者の負傷。
本当に君の判断が正しかったとは見えんなぁ。それに避難誘導をしたのも君ではなく、山田真耶という教師だそうじゃないか」
そこへ外務省出身の者が同調の動きを見せて発言した。
「国交という面を見れば、IS学園は非常に複雑であることは確かです。なればこそ、貴女のような国家に直接属さない人物による警備を任せているのですよ? 国家代表候補生の損失は国交に重大な悪影響を作りかねない。そこを貴女は理解されていますか?」
日本の領域内にありながら、治外法権という摩訶不思議な言い分が成立してる中、各国家から独立性を維持するということで、日本国は頭を悩まされてきた。
この条件下では自衛隊も警察組織も介入できないからだ。介入をすれば、学園の独立を損なう。そして世界各国の生徒や候補生が新型のテストや各国のけん制という目的をしらずに来る以上は警備は厳重でなくてはならない。
ISがあるからこそ安全とも言うのは幼稚な考えであるのは、過去のテロ行動を見ていけば明らかである。そこで、日本は教師にその役目の一端を背負わせ、暗部としての更識を採用したのだ。
更識は一応存在しない組織であり、公権力を持たない彼らはある意味適任だった。
実力もあり、ISも所持している組織はうってつけで公権力がないという事情から万が一のことがあっても責任を逃れられると考えたのだ。
最も、こんな場所にまで来る者は存在しないだろうという楽館的発想もあったため、保険のような者だったとも聞く。
だが、それは浅はかな考えだった。例えるなら、オートロックで警備員がいるマンションなら自室の鍵はお粗末にしても安眠できるだろうか。
彼らはそれをやってしまったのだ。世界最強のブリュンヒルデ一匹にIS、更識家という烏合の衆で守れると考えて、この様になったのだ。
「理解はしております。しかし結果論だけでは……」
「君の言う大場つかさの行動も結果論によるものだがね」
もっともらしい口調で言われて織斑千冬の顔は苦々しい物へと変貌した。
あまり、舌戦は得意ではないようだ。ポーカーフェイスは試合でしか使えないと見える。
「仮にだ、大場つかさが今回多くの専用機持ちと連携を取ったことが君への嫌がらせだとしてもだ。それが今回の事件の収拾に繋がったのなら、万々歳ということだ」
「私が彼女に対して私怨でもあるような言い方は慎んでいただきたい」
大臣はすごむ千冬に対してほほ笑んですら見えた。
「そうは言っておらんよ、曲解はよしたまえ。君の立場は重々承知しておる。だから口にもっと慎みを持って接してくれると嬉しいのだがね」
そう大臣が言い放つと、織斑千冬は拳を固めていた。彼女を知るものなら、今の彼女を見て震え上がることだろう。
こうして見ているだけの私もソレを感じ取った。
だが、悲しいことにモニターの向こうまでは伝わることはないのだ。
大臣の言動を見てそれを理解したのか、他の方々も口々に織斑千冬を非難する言葉を述べだす。査問は一転して罵りと責任追及と名ばかりの擦り付けに変貌した。
織斑千冬は耐えているようだが、当事者でもない観客の私から見ると彼女がいかに怒りに震えているかはよく見えた。手に血がにじんでいたからだ。
10ダースは超えているだろう罵声を一身に浴びてよく耐えている方だ。自分が今の職に就いていなければ、弟の後ろ盾としての立場を失うのを理解しているからだろう。
実に感動的な姉弟愛だが、それに巻き込まれる人々にとってはたまったものではない。
また、罵倒する連中も結局は国家のためという名目で甘い汁を啜っているだけの害虫どもだ。
結論としては、今後織斑千冬の権威は低下せざるをえないだろう、当然の帰結だ。
どちらにも同情もできるわけもなく、私は一つため息を吐いて観客になるのをやめた。
仕掛けておいたカメラからの映像を受信していた携帯電話をしまい、
連絡用の電話を取り出して、通話する。
「もしもし、駒込です。査問の方の映像はご覧になられましたか?」
『ええ、そこそこに楽しめたわ。貴方も気の毒ね。自分たちの守るべき存在を見るのはどんな気分かしら?』
布のこすれる音に続いて、品の良い淑女を思わせる声が続く。私はその声を癒しにして、今のやるせない気持ちを落ち着かせていた。
「まったくもって不快です。事情があるにせよ、我々という組織をないがしろにし、そのくせ事あるごとに暇な軍隊と罵るのですから。」
『でしょうね。だから、私に頼ったのではなくて?』
全て見透かされているような気すらする超然とした物言いに聞こえた。実際、彼女なら私の心境と今の表情をあてることなど容易いだろう。
素直に思っていることを言う以外に私にできることはない。
「はい、その通りですとも。だから我々は大場二尉を送ったのですよ。本人は知らないでしょうが。それと布仏本音の件ですが……戸籍等を調査したところ、やはり存在しません。ただ、記憶の欠損は外部からの操作ではないかと思われます」
『そう、ありがとう駒込二尉。それと、一ついいかしら?』
調査報告をした後に、彼女は一つ聞いてきた。雰囲気から叱責のたぐいであると予測した。
「はい、何か?」
『その話し方少し直しなさいな。オータムが嫌がってたわ』
「……努力はしましょう、スコール殿」
『じゃ、そう言うことで』
電話を切ってネクタイを少し緩めてほっと一息をついた。自衛隊の尊厳を知らしめるためとはいえ、同僚を望まぬ場所に送ることや、怪物ともいえる女たちと付き合わなくてはならないというのは、心底疲れる。
だが、これも必要なことだ。我々は日本で唯一の公の暴力装置なのだ。決してISを持った女子高生が頭首の組織にいいように言われるための組織ではない。
公権力のない組織にこれ以上の権力増大はいずれガンになる。
その前に病巣は排除するに限る。
織斑千冬も、更識楯無も地獄に堕ちて自らの傲慢を詫びるがいい。
そう思いつつ、自販機で缶コーヒーを買って喉を潤そうと思い、硬貨を入れて目当ての物を取り出す。
すると、缶にISのPRが張り付けてあった。ISを纏った女性の笑顔が私の瞳に映り写真の女性と目があった気がした。
それを私は缶ごと、ゴミ箱へと放り込んだ。
教師回です。
このようにレジスタンスに関することと千冬に関することを同時進行させました。
あと、先日デイリーランキングの五位に入らせていただき、お気に入り数も
300を超えました。
この場を借りて皆さんにお礼を申し上げます。
まだまだ、続きますが今後ともよろしくお願いします