自分なりに戦略を考えてみました。
アカネと共に食堂に行くとユーリと偶々会ったので朝食を一緒に食べる事にした。学園の食事の上手さにうなっているとユーリが珍しく自分から話しかけた。
「一つ相談があるのだが、構わないか?」
思わずアカネと顔を見あう。この鉄のような男が俺たちに相談事というのだから驚く。
「ユーリが相談とは……珍しいこともありますね。一体何です?」
「ルームメイトについてだ。何故か俺は女子と同じ部屋でな。昨日、部屋に入った時俺の姿を見て悲鳴も出さずに倒れてな」
「いや……わかんねえよ。」
アカネとハモる。状況が全くつかめない。
「ユーリィ……報告する時は?」
「詳しく正しく簡潔にだったな。すまない。まず、俺は部屋に行く前にトレーニングルームや武道場があると聞いて、そこに行っていた。トレーニングルームで4組の担任と遭遇したのち。軽く運動をした。その後、暑かったので上着を脱ぎ部屋に着くと俺のクラスメートがそこにいた。彼女がこちらを向き、約4秒後に倒れた。その後」
「……ノックはしました?」
「……必要だったか?」
何故そんなことを聞くのか?、と言う顔をする。
「何だかわかった気がする」
その光景を想像してみる。恐らく、ユーリのルームメイトの娘は大人しい子なのだろう。その娘が部屋にくつろいでいると、ノックもなしに誰かがいきなり入ってくる。
これだけでも驚くが、問題は開けた人物だ。ユーリは身長192cmと長身で鋼の肉体の持ち主、しかもスラヴ系。見た目だけで迫力がある。軽い運動をしたというから、汗もかいていただろう。
つまり、彼女が見たのは、ドアを勝手に開けた筋骨隆々で息を荒くした男と言うか変態。
説明するかどうか迷ってると、一人の女子が話しかけてきた。ダボダボの長い袖にほんわかとした雰囲気の娘、布仏本音だ。
「ダンダンちょっといい?」
「ダンダン?」
今まで一度も呼ばれたことのない呼び方をされ、戸惑ったが、あだ名らしい。本音が言うには、ユーリに用があるのだという。隣でユーリがソファから転げ落ちた。
汗もかいている。普段滅多な事でリアクションを見せない男が動揺している。
「まさか、昨日の?」
警戒心をマックスにして問う。その問いに対して本音はニコニコした顔のままだ。
その後,ユーリは連れてかれたが、どうなったかは知らないことにした。
今日の一時間目の授業後の小休憩中、一組に俺を含めて二人しかいない男同士でセシリア戦について話していた。
「弾、俺どうしたらいいんだよぉ?」
「いや、わかんねえよ。何の話だ?」
えらく弱気な声を出す一夏は事情を話し出した。
「今度、セシリアと試合するだろ?それで箒にISについて教えてくれって頼んだんだけど、何故か剣道することになって」
「なんだそりゃ、五右衛門みたいにやるつもりなのか?」
疑問符しか浮かばない。確かにISのようなパワードスーツは生身の動きをそのまま使う事ができるので、武術の応用もできる。しかし、それはISがどういうものか知っての上でなければ意味がないはずだ。自分がやった訓練では射撃等の再現は問題なかったが、格闘は機体の装甲などで動きを制限されたり、微妙に動きを変えなくては効果がないなど問題が山ほどでたというのに。
「断ったほうがいいんじゃねえの?相手の機体を調べたほうがよっぽど」
「必要ない」
横から強い語気で言われた。見てみるといかにも不機嫌そうにこちらを睨むのは篠ノ之箒その人だった。噂をすればなんとやらとはこの事だ。
。
「部外者が余計な口出しはしないでくれ、これは私たちの問題だ。」
「いや、でも篠ノ之さん? いくらなんでも情報集めぐらいは……」
「必要ない。」
少し怒鳴るようにピシャリと言う。
「一夏はIS以前の問題だ。性根が鍛えなおさんといかんのだ。」
―――要するに私と一夏の二人きりの時間を邪魔するなってことか。
一夏のモテ具合もここに究めり。可愛い女の子と二人きりというのには羨ましいが、ロクな練習ができない点を考えるとご愁傷様と言うしかない。それにしたって、彼女のいう事はつまるところ精神論だ。一昔前の根性と気合でどうにかする という発想だ。
それが通用するかは知らない。
これ以上は面倒なことになりそうなので軽く謝罪をして話題を変える。
「そういや、機体は何を使うんだ?打鉄か?ラファールか?」
「? 俺は専用機が来るって聞いたけど。弾は違うのか?」
「専用機?」
その単語に幾人ものクラスメイトが反応する。俺もその中の一人だ。ISコアは467個しかない。どの国も必死こいて研究しているがISコアの生産法はいまだ知られてない。専用機を持つという事は国もしくは企業から認められた存在となるわけだ。
俺もいずれ届くことになっているが、まだ完成していない。ソレをこの男はもう既に手に入れたと言う。これも織班千冬の弟の特権というヤツなのだろうか?
俺にはそんな話何一つなかったというのに。ISに乗れると分かった後、そんな頼みをしたのはRインダストリーのみだった。せいぜいがモルモット扱いするつもりだったから、必要ないと判断したかもしれない。だというのにコイツは
――何を思っているんだ、俺は
一瞬、嫉妬してしまう自分に自己嫌悪を覚える。実の親友相手にこんな思いを抱く自分が醜く思えた。
「それを聞いて安心しましたわ!」
突如、セシリア・オルコットが俺達二人の前に現れる。
高飛車で痛々しい発言は相変わらずのようだ。
「クラス代表の決定戦、私とあなた達では勝負は見えてますが、さすがに私が専用機、あなた達が訓練機ではフェアではありませんものね。」
「言っとくが俺は専用機じゃないからな。」
とりあえず、笑顔で応対する。無論作り笑いだ。作戦を練っている今、余計な事で手間を取りたくないからだ。案の定俺を見て鼻で笑う、そして人を見下した発言を機関銃のようにペラペラ吐き出す。
曰く、所詮は格式もない企業だから機体も満足に作れない とか、笑って媚びれば私が手加減すると思ったのか 男など頭下げるしか能のない など。
さすがは皮肉が大好きなイギリス人。悪口も表現豊かで恐れ入る。
「いい加減にしろよ!、大体お前だって」
またしても、この二人の口論が始まる。何故、わざわざ人に喧嘩を売ったり 人の喧嘩を買うのか。
そんな俺の心中も知らず周りの女子達は勝手な発言をする。
何で言い返さないの?
男なんて所詮―――――
一夏君のほうが男らしい
彼女達は皆理解に苦しむような表情を俺に向けていた。
沸々と湧き上がってくる感情を抑え、俺は休み時間が終わってくれるのを待った。
今日の授業が終わり、IS格納庫へと足を運ぶ。マイク達に助言を求めるためだ。マイクと彼の部下たちはIS学園の整備課の講師として呼ばれたことになっている。
ロイのサポートの一環として俺たちの機体を専門家に任せておく方が安心するという理由からだ。関係者以外に触らせたくないというのもあるだろう。そういう意味では今の俺にはあまり関係がない。本来4機くるはずだったが俺に支給される機体が遅れ、現状三機となっているが。
遅れている一機が到着する目途も立っていないのでセシリア戦にはまず間に合わない、訓練機を使うしかないのだから。だが、だからこそマイクに用があるのだ。相手の機体に対し、最適な機体の選択は素人の俺にできるわけがないのだから。格納庫に着くと、自立式のハンモックに寝そべっているマイクと灰色のスーツを少しだらしなく着たショートヘアの女性を見つけた。
「マイクさん、相談したいことがあるんですけど……お取込み中ですか?」
マイクと女性がこちらを振り向く。
「弾か、相談って対イギリス戦のことだろ? なら、ちょうどいい。悪いがアンタも少し付き合ってくれないか?」
女性がだるそうに「わかった」と短く答える。
「この人は?」
「大場つかさ だ。四組の担任をしている。君は?」
気だるそうな声で話す。一組の担任の千冬先生とは大きく違う。眠たそうな顔にタバコの匂いが微かにする。スーツの着こなしもだらしない。管ビレたOLと言う表現が似合う人だった。
「一組の五反田弾です。」
「一組? ああ、女王様のとこか。」
「女王さま?」
それを聞くと眉間にしわを寄せ、後頭部をかりかりと掻く。
「織班先生の事だよ。全く何であんなのが教師やっているのかねえ。IS界最強の乗り手のブリュンヒルデだが何だが知らないが、理事長のお気に入りで妙に権力があって、それを傘に好き放題言う、どうしようもない――」
大場先生がそこまで言って、こちらを見る。コホン、と咳払いをして口を閉じる。
少し愚痴っぽい人かもしれない
「俺達がここに来たら、学園の格納庫近くに使えわれなくなった倉庫が空いてるから、そこに住めって言われてな、犬猫じゃあるまいし、こういうのは寮とか住むはずだろって抗議したら例の千冬じゃなくて、コイツが対応しているんだ。なんでも忙しいから来れないんだと」
恨めしそうに言って唾を吐く。確かに扱いは良くない。マイクの後ろの倉庫を見てみると、廃材の小さな破片が残っており、何もなくてがらんどう、としている。
こんな所にすめと言われたら、怒るのも無理はないだろう。しかし今は俺にとってそれどころでない。話がこれ以上脱線しないうちに相談を持ち掛ける。
相談は二種類の訓練機の内どちらを使うかから始まった。
純国産の第二世代型IS打鉄かフランスのデュノア社製ラファール・リヴァイブかのどちらかだ。
打鉄は全体的に安定した性能を保持しながら格闘と防御が秀でているのが特徴。鎧武者のような外見でいかにも日本というイメージが出ている。ラファール・リヴァイブは打鉄と同じ第二世代型であり第二世代最後発の機体で優れた汎用性と基本スペックが高い機体で初期の第三世代にも劣らないと言われている。
余談だが、この機体は多くの国々から採用されており第三位のシェアを誇る。よくカスタムのベースとして使われるらしいからだ。俺に使える機体はこの二種類となる。
「セシリア戦で使うにはどちらを使う方がいいですかね?」
マイクはすぐには答えない。顎髭をいじりつつ、熟考する。
手元の端末を操作してセシリアのデータを呼び足した。それを見つめること10分、結論が出たようだ。ハンモックから降りて、こちらを見据える。
「打鉄だな。お前にはそれがいい。」
答えは打鉄だった。意外な答えにしばし固まった。
俺としてはラファールを選んだ方がいいと言うと思ったからだ。
実際、学園内で訓練機で使われるのはラファールの方が多いという話も聞く。それほどまでに扱いやすい機体なのだろう、と思いマイクの助言を聞くまでラファールの方をメインに考えていた。
「訳を聞いても?」
マイクが理由を説明する。代表候補生であるセシリアは学園に来る前より、他のISとの模擬戦闘をしていたのはデータから見て明らかである。映像データの中では多種多様な機体との試合となっているが、その実ほとんどがラファールかその改造機であった。
このことから、セシリアはラファールに対して実戦経験が豊富であることがうかがえる。
また、専用機が与えられるまでの期間でラファールを訓練で使用していたことも判明したので、これらから彼女はラファールを知り尽くしている。
反面、打鉄との試合は無い、彼女は打鉄の特性をよく知らない可能性がある分、ラファールよりは幾分かましと言える。性能面でも打鉄は安定した性能であり、決してラファールと比べて明らかに見劣りするわけではなく、防御性能なら第二世代トップクラスである。
打鉄の防御性能ならセシリアの機体ブルーテイアーズのライフルに数発なら十分に耐えることができるとマイクは力説する。
ここまでの説明をして、大場先生に説明をバトンタッチした
「乗り手としては打鉄はいい機体だぞ。もし使うなら肩の盾を使うといい」
「盾っていうと、浮遊ユニットの?」
「そうだ。あの盾は実弾だろうとレーザーだろうと結構はじき返せる。浮遊ユニットだから、無駄にISのシールドエネルギーが使われている気はするがな。アレなら多少の被弾は気にもしないですむ」
大場先生は心理面でもこれは重要になると語る。競技とはいえ、ビームや実弾が飛び交う場。そんな所に行くのなら、何かしら身を守ってくれる物があったほうが安心できるという。それが、打鉄の盾だ。目に見えないシールドと違って可視できる頑丈な実体シールド。
身近にあるだけでだいぶ違うと感慨深そうに言う。本当に打鉄が気に入っているのだろう。
全ての要素を整理する。パズルのピースを埋めるのと同じように作戦を組み立てていく。
打鉄、セシリアの癖 ブルーテイアーズ、勝つための奇策……
ピース、ピース、ピースの欠片を集めて、俺の勝利の絵は完成した。
「ありがとうございます。これで勝てそうです!」
一言礼を言って、その場を後にする。
宣戦布告からちょうど一週間、あれこれと準備と作戦を立てるのに使い、今まで生きた中で一番短く感じた一週間だった。ピッチのなかで打鉄を装着して、ヴィンセントとマイクを待つ。装着した打鉄は訓練で使用したグレイイーグルと違って全身が装甲で覆われてないので少し不安に思う。
「ほぉ、打鉄とはな。ラファールの方が良いのではないか?」
織班先生が意外そうな表情をする。
「最初はそう思ったんですけどね、アドバイスをいただいて」
「誰にだ?」
「マイクさんと四組担任の大場先生から」
「あの二人か」
眉のあたりが少しヒクついた。普段から迫力ある人だが、この時は二割増
しに迫力を感じた。よほど気に入らないのだろう、あの二人のことが。
「大丈夫なのか、訓練機で?」
「心配してくれてんのはありがたいけど、お前が言うか?まだ専用機来てないんだろう?」
「まあ、そうだけど、訓練機って性能よくないんだろ?」
確かに一夏の言う通りだ、ただでさえ、元のスペックで負けているのに、
訓練機はさらにデチューンされている。性能差は大きいだろう。
無駄話をしているうちにお目当ての品を持った二人が来た。
「すまない、待たせたな。」
マイクとヴィンセントがコンテナを床に置き。コンテナを開く。
開くと、量子変換された軽機関銃が姿を現した。一見、ベルト給弾式の軽機関銃だがモーターなどを取り付けて重たい弾丸を確実に給弾できるよう設計している。口径は17.5mm、競技用の為発射速度が落とされているが毎分900発。仮想空間内だが訓練で最も使用した機関銃である。馴染み深いグリップを打鉄で持つ。
今回バレル下にグレネードランチャーを取り付けているためか、片手では少々重く感じる。訓練時にはこんな事一度も感じたことはなかった。グレイイーグルより格段とパワーは劣るのだろう。
「随分とごついな」
「一夏君、銃てのはこうじゃなきゃ。」
「えっと……誰?」
一夏が困った表情を見せるとヴィンセントが少しかしこまったポーズを取って
「始めまして、ヴィンセント・ロックです。以後お見知りおきを。」
深々と礼をする。それで、さらに一夏が困惑する
「気にするな、一夏。ヴィンセントは人をからかうのが好きなだけだ。」
それを言って、ヴィンセントと俺は互いに笑う。一夏は戸惑っているようだったが。
「何をしてる、五弾田。早くアリーナに出ろ」
織班先生がいい加減待つのにウンザリしたそうだ。
「女王様は待つのがお嫌いの様だな」
マイクが鼻をほじりながらぼやく。それに対し織班先生が露骨な舌打ちをする。本当に仲がよろしくないらしい。
「んじゃ、行ってくるぜ。」
「頑張れよ、弾」「作戦通りにな」
ヴィンセントと一夏がそれぞれエールを送る。打鉄をカタパルトに乗せる。コレは実戦だ。そのことが分かる。
機体の重みでカタパルトが軋み、PICで軽い身体に打鉄の装甲が纏わりつく、この感覚はシミュレーションとは違う。
そうだ、コレが俺の現実で、進む道なんだ。そして、その出発点なんだ!今まで、散々言われたんだ。仕返しと行かせてもらうぞ、セシリア・オルコット。
電磁カタパルトで射出された俺は打鉄をアリーナの地面に降ろす。打鉄の足が大地に降り立ち砂埃が立つ。目を開き、自機の現状のデータが網膜に映し出される。IS特有のHMDが残存シールドエネルギー、メインアームの残弾数、各関節の状態など細かに教えてくれている。
ISが持つハイパーセンサーが目の前の敵機を感知し、情報を提供する。敵機、ブルーテイアーズ。イギリス第三世代機、スペック上当機での戦闘は不利、離脱を推奨。
余計な事まで教えてくれる打鉄の親切さに感心する。関節の動きを確かめていると、敵機からプライベートチャンネルを開くよう、との要請が来たので、それに応じる。
プライベートチャンネルを開くと、セシリアの整ってはいるものの、高慢ちきな表情が浮かんだ顔が目の前に現れる。
「遅かったですわね?てっきり逃げ出したのかと思いましたわ」
余裕の表情を浮かばせている、既に勝った気でいるのだろう。だが、俺は負ける気などない。駆け引きは既に開始されているのだ。
「一つ聞きたいことがある」
「? 何でしょう?」
――――食いついた!
薄ら笑いを浮かべて、なるべく皮肉っぽく言葉を吐き出す。
「オルコット家の一人娘は家の面汚しだって噂聞いたんだけどよお、あれマジなのかな?」
セシリアの顔から笑みが消える。質問の答えの代わりにスナイパーライフルをこちらに向け発射する。しかし、冷静さを欠いた射撃に正確さはない。機体を横にスライドさせるように動かし回避する。初弾から次弾へまでの間隔が普段より早いのを確認できたことに内心ほくそ笑む。第一段階として相手の心理を乱すことができた。
「あなたのような何も知らな者がよくも!」
激しい怒りを露わにしてライフルを連射する。音声越しに頭の血管がプツプツと切れている音が聞こえてくるようだ。ホバークラフトの様に地を駆けLMGの標準を合わせ5発ずつ連射しつつ接近する。回避されるが構わない。
過去の試合記録から見て、セシリアは距離で使う武装を決めている。今のような遠距離ではスナイパーライフルを使うが、中距離から近距離の間に入らない限りBT兵器を使うことはほぼない。だが俺としてはBTを使ってもらわなくては困る。
7回目のバースト射撃になる頃、中距離に入る。
打鉄のハイパーセンサーが敵機のモーター音を拾う。
―――――来たな!
「さあ、踊りなさい!私とブルーテイアーズのワルツで!」
4機の小型の物体が射出される。お目当てのBT兵器が出てきた。打鉄の脚部に力を込め、ブルーテイアーズがいる空へと跳躍する。LMGの連射のサイクルを早めスラスターの出力を最大にまで上げる。
真後ろと左にBTが一基ずつ配置される。死角や反応しづらい個所からの攻撃。データ通りだ。機体を右にロールし、足を少し上に向かせることによってスラスターの向きを変え、ターンの後に高度を下げる。
セシリアが予想していたであろう進路に青い閃光が走る。三機目と四基目が上方から俺の頭を抑えるように攻撃する。右へ左へとジグザグに機体を飛ばし、相手に狙いを付けさせまいとするが一発、背中に命中する。
肺から空気が押し出され、視界が一瞬ゆがむ。懸命に回避行動を取るが、一基目と二基目が後ろを追いかける形で、ビームを撃ち続ける。被弾、被弾とHMD内で警告が鳴り続ける。
何度も体勢が崩れかけるが、構わず加速し、再び銃器を向け発砲する。BTを使う前と違い、機体を静止させていたセシリアは回避が遅れ、ようやく命中した。
ブルーテイアーズが被弾して、よろめくと、BT兵器がふらつく。蝶のように舞い蜂のように刺すような機動をしていたBTの動きが鈍り、照準をセシリアからBTに合わせ、フルオートで連射、否乱射する。動きの止まった2基を撃ち落とすことに成功する。
ブルーテイアーズに背を向ける形となった俺にスナイパーライフルが放たれる。
強烈な熱とエネルギーを持った破壊光線が背中を射抜く前に打鉄を左に回して肩のシールドに当てさせる。青い光がシールドの表面で弾け、光と熱が拡散する。シールドエネルギーが減少するが最小限に抑えたはずだ。肩のシールドを前面に押し出しLMGをフルオートで撃ち続け、肉薄する。
行ける! 行ける!
叫びながらの乱射、引き金から指を離さず目の前のブルーテイアーズに全神経を集中する。
ブルーテイアーズから、さらにスナイパーライフルが連射される。二発、三発とシールドに命中し、合計七発受けて赤熱化する。いかに、頑丈なシールドも限界に達し徐々に溶解しだす。しかし、ここまでは作戦の内である。
セシリアの過去の試合を見て気づいた。彼女がBT兵器を使うとき、機体を停止している事が多かった。恐らくBT兵器を使うときに集中し続けなくてはならないと考察した。
今までの試合では相手がBT兵器に追われていたので問題がなかったのだろう。しかし、俺達は事前に下調べを終えていた、BTの軌道パターンなどは解析済みだ。だから、ここまで接近できた。また、時折LMGで撃つことで回避行動を取らせるなどで妨害ができる。スナイパーライフルによる狙撃も同様だ。
お互いの距離が詰まる。もう少しで近距離となる。
「かかりましたわね!」
ブルーテイアーズの腰付近の筒状の物体がこちらに向く。
対IS用ミサイル ブルーテイアーズ。 機体名と同じ兵器なので紛らわしい。
「! スモーク!フレアも同時発射!」
LMG下部のランチャーから特殊スモーク弾三発、二発を空中に一発を地上に放ち、フレアも出す。煙幕を展開して、作戦通りの行動を取る。いよいよ大詰めだ。
全てはこの時に決まる。そのための準備だ。
「たかが、煙幕で逃げられるとお思いでして?」
彼女の言う通りだ。シールドエネルギーにのみ反応するミサイル相手に煙幕やフレアは通じない。だがそれは計算の内だ。
発射されたミサイルは煙幕の中に入り込み命中。爆炎が上がる。打鉄の物であろう破片とLMGの残骸が宙を舞いアリーナの地面に無残に転がる。
会場のほとんどの人間が試合終了だと確信した。対戦相手のセシリアそのも一人だった。
戦闘態勢を解き、スナイパーライフルの銃口を下げる。彼女がチャンネルを開き、勝利宣言をしようとしたとき
俺は叫ぶ。
「まだだ!!」
油断した彼女に向かって俺は打鉄の太刀を呼び出し、全力でブルーテイ
アーズに刃を叩きつけた。胴体部分に刃をぶつけ、ISの絶対防御が発動し,大きくシールドエネルギーを削る。奇襲に成功した。そのまま押し切ってブルーテイアーズを地面に叩き落とし、地に伏せたセシリアを見下ろして追撃する。
「ワルツは踊りきったぞ。さあ、今度はアンタが踊る番だ!」
太刀を両手に持ち、でたらめに叩き続ける。剣道などに精通していないので、扱いは雑だ。
今の弾の姿を例えるなら金属バットで相手を殴る不良だ。かなり無様な姿と言える。
観客席で弾の試合をみる布仏本音と谷本凉子 夜竹さやかの三人は予想のできない試合の展開に興奮を隠せないでいた。
「弾君、押してるね!」
「でも、すごく乱暴だね~」
「どうやって、ミサイルを避けたんだろう?」
直撃すれば、負けていたはずに違いないが、現実問題 弾はまだ負けていない。フレアすら無視するあのミサイル相手にどんな手品を使ったか気になるのは当然だったかもしれない。
「デコイを使ったんだよ。」
突然の第三者の発言に三人は振り返る。
プラチナブロンドの髪を持つニコニコと笑顔な男子がそこにいた。
「えっと、確かヴィンセント君?」
さやかが名前を聞く、ご名答だよ、とヴィンセントが答える。
「デコイって、まさかフレアの事?」
「ちょっと違うな。弾の打鉄を見てごらん。」
言われた通りに見てみるとシルエットが明機に変わっていた。両肩のシールドがなく、身軽になっていた。
「肩の盾がない?」
「そうだ。それがデコイだ。ブルーテイアーズのミサイルはシールドエネルギーにのみ反応する対IS用ミサイル。その有用性が認められれば航空機によるISの撃墜も夢じゃないと言われている新兵器だ、通常のフレアや煙幕では避けれない。だから盾をパージすることでデコイを作ったんだ。非固定ユニットの盾には常にエネルギーで固定される必要がある、これをパージして機体全体の出力を下げればミサイルがシールドにより反応してくれるかもしれない、という訳だ」
「あと、フレアをまいて熱源も誤魔化したんだね~ダンダンは」
ここで弾の行動の全貌が明らかになる。煙幕を張り、フレアをまくと同時に盾をパージする。この時、盾には打鉄のエネルギーと被弾した時のブルーテイアーズのライフルのエネルギーの残滓の両方がこびりついている。
機体出力を最低限にまで落として機体自身のエネルギーの反応を微弱にする。この時高度が下がるが、そのために地面にスモークを展開しておき、発見させない。
そして盾に反応したミサイルが着弾する。空の煙幕も多少吹き飛ぶが、その時、打鉄も高度は下がっており、爆風で吹き飛ばされていない下の煙幕の中に隠れて視認できない。
サーモなどで打鉄を確認しようにも事前にまいたフレアとミサイルの爆炎で熱感知はほぼ不可能。煙幕のおかげで目視できるのは盾の破片だけだ。
こうしてブルーテイアーズの虎の子のミサイルを撃ち尽くさせ、奇襲戦法で接近戦に持ち込むというわけだ。ハッキリ言って死んだふり作戦だ。過去の試合や訓練の記録で彼女は接近戦の経験がほとんどないことから勝機は接近戦にしかないと踏んだ弾の必死の策だ。
接近される前に勝ってきたからだ。
無論、ミサイルが本体に来るなどの可能性もあるが、劣る性能と装備の少なさでは確実な戦法が取れなかったための策はこれしかなかった。
「でも、弾君のシールドエネルギーも危ないんじゃないの?ここまで来るのに、何発も当たっている訳だし」
癒子が怪訝そうな顔をする。
「さて、どうなるかな」
アリーナの柵に寄りかかり、試合の動向を見る。
15回目の太刀による攻撃。斬撃ではなく殴打と言った方がいい雑な攻撃は容赦なくブルーテイアーズにダメージを与えていた。セシリアはライフルをしまい、レーザーナイフの一種インターセプターを使い防戦する。
上段から刀を胸部や肩、頭部めがけて振り下ろす。
ナイフとたちが触れ合って火花をまき散らす。これで防がれて8回目になる。
らちが明かないと判断しパワーアシストを最大にし、横になぐように切りつける。
ブルーテイアーズの手からナイフを弾き飛ばし、腕の装甲を削ぎ取る。
次の攻撃の為刃を引き戻そうとするが食い込んで抜けない。
舌打ちして、刀から手を離し右腕で顔面を殴る、殴る。原始的な暴力の嵐。男性特有の暴力性をすべてぶつける。衝撃で刀が装甲の裂け目から抜
け落ちるのを見逃さずに、回収する。
苦痛に顔を歪ませたセシリアを見て笑いがこみ上げる。
―――――ザマァ見ろ、下種野郎。下賤な男に殴られてどんな気分だ?
だが笑ってる場合ではない。
ここで決着を付けなくてはならない、距離を離されれば刀しかない俺に勝機はない。ここまで来るのにライフルを7発、BT兵器のビームを10発近く喰らっている。エネルギーも少なく、さらに技術が劣る俺にとって、これ以上戦闘が長引くとボロを出す可能性が高い。
一気にカタを付けるしかない。
度重なる打撃で刀が刃こぼれしてボロボロになってきた時、ブルーテイアーズの動きが変わる。
「いい加減に!」
セシリアが機体を左後方へバックステップさせ、刀の殴打を避ける。バランスを崩した俺は前につんのめる形となる。
――――――やられる!
無防備な背中にナイフが突き立てられるイメージが浮かぶ。残ったシールドエネルギーは僅かだ。予想通り、二本目のナイフを逆手に持ったブルーテイアーズが接近する。
俺は吠えた。打鉄をバレルロールさせて同時に足を最大限に広げ機体を回転させる。ブレイクダンスのような動きとなり、ブルーテイアーズを蹴り飛ばし、アリーナの壁に激突させる。
平衡感覚が多少狂いながらも、咆哮しながらの突撃を敢行する。いわゆるカミカゼ特攻をかける
あと一撃! ただ一つの攻撃で勝てる!
だが、俺は自分のミスに気付いた。
自らセシリアとの距離を離してしまったのだ。いくら、盾を外し軽くなった打鉄でも、未熟な俺が操る訓練機ではセシリアを間合いに捉えるには時間がかかりすぎる。その僅かな時は相手に反撃のチャンスを与えてしまう。
そのことを目の前の既にライフルを構え終わったブルーテイアーズの姿が語っていた。
高密度のエネルギーの奔流である青い閃光が俺の視界を覆い尽くした。
直撃を受けた打鉄にシールドエネルギーは欠片も残されてはいなかった。
最後に聞こえた試合終了のブザーは俺の勝利を告げる福音とはならなかった。
戦闘描写は難しいですね・・・・・