IS to family   作:ハナのTV

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後かたづけ

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫だって言ってるだろ。心配性だな」

 

廊下を歩く俺たち二人は足元に転がるコンクリート片を蹴飛ばしながら歩いている。

周りにはあらゆる人が行き来しており、いつも以上に学園内に忙しいムードが立ち込めていた。

 

その中を雑談しながら、歩いているのは俺達くらいだった。

 

「私の知らない間に妹さんと話すだなんて、どうして一言言ってくれなかったんですか?」

 

学園祭の最中に俺が妹の蘭と会っていたことを話すと彼女は少し憤慨した様子で詰め寄って来たのだ。

心配してくれるのは嬉しいが、これは俺の問題であったため彼女の手は借りたくなかった。

 

「自分で決着をつけたかった。ただそれだけだよ」

 

頼ってばかりでは、ダメだ。家族とのけりは自分でつけなければ、いずれまた問題になる。そう思ったから俺は一人で話すと決めた。

 

格好つけと言われれば、そうかもしれないが相手にとっても自分にとってもこれは必要な事だったと俺は思っている。

 

「そう言うのはいいですけど、貴方はいつも自分が傷つくことばかり選択しすぎです。もう少し頼ってもいいでしょうに?」

 

彼女のいう事に照れて俺は頬を掻きながら、答えた。

 

「だから、今頼っているだろ?」

「……馬鹿」

 

お互いに拳を軽くぶつけて、お互い信用しているという意思を確かめ合う。

軽いノリだが、これが俺と彼女の戦友として両想いとしてのコミュニケーションの一つだ。

 

これのおかげで、俺も彼女もお互いを信頼し合える。

そんないつものやり取りをしながら、目的地への扉を開いた。開いた瞬間に油と鉄の混じった匂いが鼻孔を刺激した。

中には薄暗い照明がついただけの場所で数名の学生が既に何人かいた。

 

普段、レジスタンス多たちが集う第五格納庫とは違う、使われてない倉庫を改造したヴィンセントのアジトに俺たちもレジスタンスの皆も集まって、今回の事について話していた。

 

こうなったのには理由がある。話そうと思えば、誰かの部屋で集うこともできたかもしれないが、全員が入るには狭く、他の場所は他人の目が気になって仕方なく話す気になれない。

 

また、激しい戦闘によって壊れた校舎の再建にカリキュラムの組み直し、空き教室の確保、と何処も忙しく、落ち着いて話せる雰囲気ではなく、このような有様で、学園は二週間の休校だそうだ。これで二週間で済むのは流石と言うべきなのだろうか。

 

また、先の戦闘で、先生方は格納庫で鎮座している機体を楯代わりに使ったりと、マイク曰く「整備士殺し」な行為を行われていたらしく、整備員と整備科全員が呼び出されて、フルタイムで全機修理。

 

そのせいで、ほぼ全ての格納庫が埋まっているというのだ。

 

よって残っているのはヴィンセントの部屋である此処だけだ。ここなら広く、冷蔵庫に簡単な食べ物に飲み物とあり、菓子も持ち込める。

 

唯一の問題と言えば、マイクたちの愛用の本が多数隠れているという事だけだが、そこはこの際気にしないことにした。

 

今回の事件はあまりに衝撃的なことが多い。いい面もなくはないが、悪い面ばかりが多くて素直に喜べないのだ。

 

「それで、レジスタンスであるアンタたちは内定先を手に入れたって訳なの?」

 

鈴がポテトチップスを加えながら、レジスタンスのティナに訊いた。

 

「そう。夢にまで見た米軍からのスカウトまで貰ったのよ。でも、何だか複雑なのよ。別にその為に戦ったわけじゃないのに……どうせなら普段の練習で認められたかったわ」

 

ティナは深くため息を吐いた。認めるなら、もっと早く認めてくれればよかったと思うのは仕方ないだろう。

 

彼女たちは理不尽に立ち向かうために戦った。決して功績を立てるためではない。結果で言えば、万々歳だろうが心にしこりは残る。

 

他の面々も同じで口々に、こんな風に結果が得られることに不平を述べている。

 

「私はいいと思うけどな」

「簪ちゃん?」

 

簪が口を開いた。こういう時は大抵思ったことを述べる鈴やヴィンセントの役目だったので意外だった。

 

「どんな過程でも自分が認められるのは大切なことだもの。むしろ、これだけやって認めてもらえない方が酷いくらいだよ」

 

簪が自分の経験を話しているせいか、かなりの説得力があった。

実際、生徒会長でロシア国家代表の姉を持つというのは相当にプレッシャーなのは想像に難くない。

 

そんな姉の元で結果を出して、誰が正当な評価をしてくれるだろうか、きっと多くはいない。

彼女の姉を知っている者なら必ず彼女と比較していることだろう。

 

今回のような戦闘の苛烈さはそこにないかもしれないが、評価されないよりどんな形であれ評価される方がいいという彼女の言葉は正しいのだろう。

 

「どんな形でもね……ヴィンセント君もそう思う?」

 

静寐が訊くとヴィンセントは顎に手を当てて考えて、答えた。

 

「僕もそう思うね。確かに臨んだ過程ではないのはわかるけど、チャンスをふいにすることはないと思う。それに、あこぎな方法でしか手に入れられないこともあるからね……」

 

まさに俺たちの事を彼は答えとして言った。

知らない他人を蹴落として、夢のために誰かの不幸を喜ばなくてはな要らない俺たちは正にそのアコギな奴という事だ。

 

そんな俺達もこの戦いでいくつかの結果を出した。

それは、俺たちの手で初めて勝利を会得したという結果だ

以前の福音戦とは違う、俺たちの意志で最後まで戦い、勝利をわがものにしたというのは初めてで、この勝利は大勢の者に見られることとなり、ピースの計画に大きく進展をもたらすだろう。

 

また、心理的にも大きい物があった。俺たちが戦い終えた時、シェルターから出てきた人たちが言ってくれたのだ。

 

ただ一言「ありがとう」と。

 

それが俺たちのすべてを肯定してくれたような気がして、本当にうれしかった。

最初から望んだ訳ではないにせよ、ただ嬉しかった。

 

妹からは頂けなかったが。

 

最も一番の結果はここにいる皆だ。

 

「でも一番よかったのは、ここにいる中で一人も死ななかったことじゃないか?」

「……確かにね」

 

俺の言に皆が頷いた。

あの戦闘の中で誰も死ななかったのは奇跡だろう。特に俺やアカネは機体にインナーフレームがなければ、貫通されていたかもしれない場面があったし、ユーリに至っては刀剣の刺突まで受けている程だ。

 

銃火飛び交う戦場と化した学園でこの事だけは素直に喜べる。

しかし、それを喜べない人物が二人いる。ティナと簪だ。

 

二人はここには、と言うより学園にもういない共通の人物の事を考えているからだ。

確かにこの場にいるグループで欠けた者はいない。しかし、ティナは人が殺される現場をみてしまったし、簪はその下手人が親友で、自分の目の前から消え去ってしまったのだ。

 

俺達もショックを受けているが二人と比べると軽いものだろう。

 

「もう一人いてもいいはずなのに……」

 

消えるような声で簪が言った。

手に持ったコップに視線を落とす簪にアカネが訊いた。

 

「……本音の事ですか?」

「……うん」

 

コクリと小さく彼女は頷いた。

布仏本音の事は瞬く間に学園中に広まった。彼女が今回襲ってきた組織と関わっていたことから、彼女がISを所持していたという事まで。

 

ほとんどのクラスメイトは驚きを隠せない様子だった。あの、いつも眠たそうな顔に癒しを与えてくれる声に誰に対しても優しい態度を取っていた彼女がとても凶行に走るなど誰も考えられなかったからだ。

 

それにショックを受けたのは皆同じだが、一番ショックを受けたのは簪だ。

幼いころから付き合いがあったようで、いつも一緒にいたらしい。更識家は特殊な家系らしく、彼女はいわばメイドだったらしいが、簪にとっては狭い世界の中での唯一の親友だったらしい。

 

そんな彼女が簪のため、皆の幸せのためと言って消えた。それは簪にとって、認められたいという過程の中で失った物に見えたのかもしれない。

 

自分がもう少し本音と話してれば、と考えざるを得ないのだろう。

簪はコップの中のジュースを飲んで言った。

 

「本音は私のためにと言った。私が幸せになるにはこうするほかないって、友達になるにはこうしないとダメだって……」

 

コップを持つ手が震えていた。怒り来るものではないのはここにいる皆がわかっている。

悲しくて辛そうにしゃべる彼女を誰も止めないのは、優しさもあったかもしれないが、

一番それができる男が今はまだいないことに起因していた。

 

ここにないユーリが早くここに来てくれることを祈りつつ、彼女を見る。

 

「私って、そんなに不幸に見えたのかな……それとも私の行きたい道ってそんなに辛いのかな?」

 

簪の進みたい道と言うのは、俺がかつて思っていたのと同じなはずだ。誰かから、認められたい。最初はそれだけだったと思う。

 

だが、それだけなら彼女がこのまま自らを磨くことで叶うはずだ。本音がわざわざ誰かのためと言って、抜け出すまではしなくていいはずだ。

 

あくまで俺の勘でしかないが、きっとユーリと一緒にいるという望みが、原因なのではないだろうか。

 

今回の戦闘記録を集めた時、俺たちは敵と会話するユーリの音声記録を聞いた。ユーリの話ぶりから昔からの馴染みというより、戦友や師範に近いものに感じた。

 

今まで誰も知らなかった彼の過去の一端を垣間見れた気がした。

敵のスパルタクと名乗った男はユーリに対して、まるで教師のように彼に教訓をたれながら、親愛を持って殺しに来ていた。

 

これを見て、彼の過去とは何らつながりがないなど言えるはずがなかった。

そして、彼の過去がより複雑という事がより明確になった。

 

俺達がユーリの過去について知ってることはロシアの片田舎で育ったという程度でしかない。親や家族がいるのか、それすらもハッキリとはしていない。

 

今年から入った俺だけではなく、三年は一緒に過ごしてきたアカネとヴィンセントの二人もそれぐらいしか知らないのだ。

 

確かにいい生れであると思ったことはない。

彼のナイフ術や格闘技術、戦闘に対する容赦のなさは三人の中でずば抜けていたからだ。

IS同士の戦闘に置いてもそれが言える。

 

通常IS同士の戦闘で相手をより早く倒すのなら、絶対防御を発生させて大幅にシールドを減らせばいい。

 

それを行うだけなら、胴体でもどこでも装甲のついてない個所を殴るだけでも発生する。ISのパワーは元々強いのだから、顔を殴るだけでも有効なのだ。

 

しかし、彼の戦闘はそれに反していると言えた。わざわざ狙う必要のない首の動脈がある部分や、わきの下、腎臓のある個所など人体でいう所の即死する部分を選んでいるのだ。

 

確かにより有効な攻撃であるのは間違いないが、非効率ともいえる。それをこなすのは相当のスキルがなくてはならないからだ。だが、彼は異常にも高速戦闘をするIS相手にソレをやってのけている。

 

狙うだけなら、誰でもできる。例えば、スナイパーライフルで二キロ先の標的を狙うだけならだれでもできるだろう。

 

構えて、レティクルに合わせるだけだ。しかし、命中させるとなると、風やコリオリについての知識と、相当の経験と技術が必要になる。

 

つまり、彼にはそれを実践できる経験と技術があるという事になる。これは実際に格闘訓練をやった俺もわかるのだが、動き回る生身の人間相手でも首もとを正確に狙うのは至難の業だ。

 

アカネの射撃ですら、FCSなどの補助を受けている。彼女曰く、流石に高速戦闘では途中まではオートで、最後はマニュアルで狙うというのだ。当然だが、格闘ではこの手のFCSの恩恵は少ない。

 

それでもISでも応用できるというのだから、どれほどの訓練をしてきたか、想像に難くない。

 

そして、そんな訓練が必要だったという事はソレを必要とする深い闇が彼の中に存在しているということになるのだ。

 

彼はどこから来たのか、どこへ行こうとしているのか、ほとんどが謎だ。

故に彼と一緒にいくことは本音の言った通り、険しい道になるのは間違いない。

ハッキリ言ってしまえば、簪は自ら深淵の闇に飛び込もうとしているのと同じなのだ。

 

だから、本音が簪のために行動したかもしれないと思う。その一方で、それだけか、とも思うのだが。

 

とにかく、本音とユーリ、簪の関わる二人は見えない部分が多すぎる。

 

「私、間違ってる?」

「……間違ってませんよ。きっと」

 

簪の問いにアカネが答えた。顔を見上げる簪に近づいて直接彼女の目を覗き込んでアカネは言った。

 

「結果も出てないのに間違ったも何もないですよ。本音の行動は褒められたものではないでしょうけど、それは今までの私たちも同じです。目的のために外道に染める……ユーリも本音も貴女のことを思ってやっている。 そう信じてあげましょう」

 

精一杯の慰めの言葉をアカネは言った。今はいない友人を信じる。これしか言えないことに無力だと思わなくも無いが、これ以外にかける言葉が無かった。

 

本音はきっと帰ってくる、そう信じるしかないのだ。

 

簪がアカネの胸元に抱き付いた。嗚咽を漏らして泣く彼女をアカネは撫でる。

皆が簪に同情をしていたその時だった、噂の男がやって来た。

 

格納庫の扉を開けて入って来たユーリを皆が一斉に見た。

頭に包帯を巻いたままで、目には戦闘が終わった直後の鋭さはなく、いつもの彼だった。

 

「何故、俺を見る?」

 

先ほどの俺たちのやり取りを知らないユーリが尋ねる。その問いに答えたのは涙を拭いた簪だった。

 

「ねえ、ユーリ……一つ聞いていい?」

 

簪がメガネを掛けなおして、ユーリの顔をまっすぐ見つめる。彼もその視線に気づいて、いつもの鉄仮面の顔のまま聞き返した。

 

「なんだ?」

「ユーリの秘密を教えてくれないかな?」

 

その瞬間、ユーリの目が鋭くなった。表情こそ変えないが、目の動きまでは誤魔化せていなかった。

普段なら隠し通せるはずの事がこのように隠せないでいるのは、聞いてきた相手が簪だからかもしれない。

ユーリがゆっくりと口を開いた。

 

「……簪、それを聞いてどうする?」

 

低い声が伝わり、この部屋の気温が下がったような気がした。迫力を帯びた声は脅してでも言うつもりはない彼の意志が含まれていた。

 

それに怯むことなく簪は声を出してユーリに問う。

 

「私は本音がどうしてあんな事をしたのかが知りたい。そして、貴方の事を知りたい。

その両方を叶えるには貴方の過去を知る必要があるの」

「その事実が君の望み通りでないとしてもか?」

 

二人の視線がぶつかり合った。好きだから、知りたい簪と好いているから教えることはないと思うユーリの二人が互いに見合う。

 

「俺の過去を知って何になる?俺はいい。自分自身の過去をいくら話しても、俺は傷心することはない。だが、君たちは違う。聞かなければ良かったと嘆くだけだ。」

「そんなことない」

 

簪が一歩ユーリに近づく。だが、ユーリは彼女に来るなと無言で圧をかけている。

殺気とでもいうのだろうか。この場の空気が再び冷え込んだ。

 

レジスタンスの何名かは生唾を飲み込み、二人を見やる。俺もアカネもヴィンセントも同じようにして彼ら二人の行動を見守るだけだ。

 

「嘆くだけなら、ここに来ようともしないよ。ここに来たのは皆の意見を聞きたかったのと、貴方の話を聞くため。私は本音も貴方も失いたくない。だから聞かなきゃならないの」

 

一歩ずつ簪がユーリへと歩み寄っていく。凍てつく冷気を切り裂くようにして彼女は歩を進める。ユーリは後ずさりもしないが、目に動揺が走っていた。

 

靴音が一つ、また一つと鳴った。

殺気のせいで、次の一瞬にはユーリが簪に何かするのではないか、そんな有り得ない妄想すらしてしまうほどだったにも関わらず、彼女は歩みを止めない。

 

ユーリが簪を見つめ、皆が固唾を呑んで見つめる中、ついに簪はユーリのすぐ目の前まで来た。

 

背の関係で見上げる簪と視線を下に下ろすユーリ。

その構図は勇気を持って接しようとする美女と近寄らせまいとする野獣だ。

 

「教えて、ユーリ。あの時の本音との約束を果たしてほしい……今度こそ、私に貴方の全てを見せてほしい」

 

簪はそっとユーリの傷跡を撫でた。愛おしそうに撫でる彼女を見てユーリは目を見開かせている。

ユーリはもしかしたら、スパルタクと名乗る男の戦闘と、男の言う理想が自分であるという事から、簪が傷つく可能性を考えたのかもしれない。

 

この男が傷つくことはほぼないだろう。それは今のユーリを見れば明らかだ。

例え、忌避したい過去の欠片を見せつけられても、顔色一つ変えないのだから。

 

彼は簪の幸福を考えて、自分の過去を話そうとは考えなかったのだろう。

その話を聞いてショックを受ける簪を想像しえたからだ。ある意味で簪の言う本音の約束を守っていたのだ。

 

だが、その考えは間違っていた。簪は強かった。あれほどの殺気を目の当たりにしても、決してひるむことなく、彼の元に歩いて行った。

 

彼女の本音とユーリに対する気持ちが強いが故の業だ。そこに偽りはないし、弱さも見られない。

ユーリはしばらく簪を見つめて、彼女の手を取った。

彼女の強さを見て話すべきだと考え直したのか、彼の口が開こうとした。

 

「簪、なら……」

 

そう言った瞬間だった。空き缶が転がったような音が部屋に響き渡った。誰かが空き缶を落としたのかと思い、音のした方へ目をやると、そこにはスプレー缶のような物体が転がっていた。

 

それはどう見ても、スタングレネードの類だった。

 

「伏せろ!」

 

ヴィンセントが叫ぶ。グレネードが爆発して平衡感覚が保つことが不可能になった。

猛烈な音のせいで鼓膜がいかれて、耳のすぐそばで大きな鐘が鳴っているようだった。

 

それでも、気合と訓練での成果で立ち上がって見せたが、誰かに頭を押さえつけられて、地面に伏せられた。

 

横目で、誰が押さえつけているのかと思い、睨み付けると、そこには黒一色のボディアーマーの上にチェストリグをつけ、マスクとヘルメットで顔を隠した兵士がいた。

手にはサブマシンガンmp7が握られており、完全に強襲用の装備だった。

 

どこの軍隊かもわからない連中にこの部屋のほとんどの者が制圧されていた。

 

レジスタンスの皆を容赦なく押さえつけて動けないようにしている。

ヴィンセントも同様に押さえつけられ、鈴とアカネは少し抵抗をして見せたが、鍛えているとはいえ女性のため力で負け、手ひどく壁に抑えつけられた。

 

その中で簪だけが立っていて、気づけばユーリが居なかった。

 

「彼は?」

 

聞き覚えのある女性の声が聞こえた。間違えるはずなはない。楯無会長のものだった。

彼女は黒づくめの男にこの場から消えたユーリの事を聞いたが、相手は応えなかった。

 

聞かれた男はその場に倒れ、楯無に一瞬で近づいたユーリが彼女を壁にたたきつけて、ナイフを首もとに添えた。

 

「何の真似だ?」

 

怒気を抑えつつ、ユーリは楯無に問い詰めた。

それに対して、彼女はいつもの余裕そうな笑みすら浮かべて話す。

 

「ユーリ・アレンスキー。貴方を拘束するわ。テログループへの関与と今回の事件の間者としてに疑いでね。お姉さんも驚いたわ。貴方がそうだとはね」

「何を言っている?」

 

怪我のためか、ユーリの持つナイフの手はいつもより安定性を欠いていた。

その為、ナイフの刃がほんの少しの間会長の首もとから離れた時、会長はユーリを背負い投げのように投げ地面にたたきつけて、まだ癒えていない傷を踏みつけた。

 

簪がユーリの名を叫ぶ。掴まれた腕を振りほどいて彼の元へと行こうとするがそれができない。

楯無会長はそれを一瞥したのちにユーリへと再び視線を戻す。

 

「スパルタクとの関係があると分かって調べたら、見つけたわ。貴方の正体を。貴方、スパルタクに育てられたスーパーソルジャーなのね。そしてスパルタクは今、今回の襲撃者とつながっているのは間違いないわ。疑うなと言う方が無理な話よ。それに過去私達とも因縁がある……そうよね?」

 

ユーリは倒されながらも楯無会長を目で射抜く。会長は少しだけたじろいだが、すぐに冷静になって簪の方へと話した。

 

「簪ちゃん、そういうことだから。貴女はこの男に騙されたのよ。この男は完ぺきな暗殺者として……」

「違う!」

簪が大声で否定した。その様子に楯無会長は驚きの表情を見せた。

 

「ユーリはそんなのじゃない! その足を離せ!」

 

簪は右手の中指に手を当てるが、弐式が今はまだ手の中にない事を思い出して、愛機を呼び出せないことに奥歯を噛みしめた。

 

いつも大人しい簪が見境なく暴れているのは見たことがなかった。こんな風に叫ぶとはとても思えなかったからだ。

 

拘束する男に抵抗し、暴れるがどうにもできず叫びすらあげてもがく彼女を会長は一喝した。

 

「いい加減になさい! 彼は危険なのよ! いつまでも子供のようにわがまま言うのはよしなさい!」

 

簪は親の仇でも見るかのように姉を睨んで叫んだ。

 

「そうやって高見から見下して! 本音だけでなく、ユーリも私から奪おうていうの!? 貴女はいつもそうだ! 私から何もかも奪う! 今度は大切な人を二人も!」

 

楯無会長はそれを冷淡な目で見る。自分に逆らう妹をどのように思っているのかはわからないが、その様は少し前までの俺の姿と似ていた。

 

相容れない家族を見る時の俺と一緒だった。

 

「連れていきなさい」

 

部隊員がユーリに手錠をかけて、連れていく。それを俺たちは何ら抵抗のできないまま見送るほかなかった。

耳には未だ耳鳴りが鳴り響いていたが、それ以上に簪の泣き叫ぶ声がより大きく聞こえていた。

 

 

 




学園祭編とりあえず、終了です。
この後、束一家の話なのですが、その前に亡国の話はいれたほうがいいでしょうか?

これ以上長引かせるかどうか、迷ったのでご意見を教えてくれれば、嬉しいです。

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