IS to family   作:ハナのTV

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星と星の距離

バクダッドからそう遠くない、古くさびれた街を再利用された白骨都市。

スレートさんとなじみがある「赤い半月刀」と呼ばれる組織だけでなく、多くの反アメリカ組織が入り混じった場所に私たちは長期滞在をしていた。

 

あの福音事件のせいで、束様の目論見であるISの軍事的価値の消失という目的は達成できず、仕方なくこの場に撤退することとなってしまったからだ。

 

本来なら、ジャンクラビットとスレートさんの力を見せつくたうえで、福音のコアを通じてほぼ全てのISの動作を停止させようとウィルスを巻くのが目的だったが、コアに細工が施されており、ISのネットワークへの接続は切断、福音は暴走し飛び立つという事態になってしまった。

 

その後は戦闘に次ぐ戦闘で、とてもコアを停止するというどころではなく、暴走した福音に対処するほかなく、結局機を逃してしまい、ここまで逃げ込むこととなった。

 

ウィルスは失われ、それを作るための施設は移動式のラボには無く、途方に暮れるのみだった。

そして、あの事件以来二人に変わったことがいくつかあった。

 

ある日の事だった。私がラボで朝食を作るようになって二人に焼いたクロワッサンとベーコンエッグを皿にのせて出した。

 

束様がスレートさんより先に食事を初めている中、スレートさんと私の手がぶつかってしまった。

 

その時、スレートさんはビクリと大きく手を離してしまい、皿を落としてしまった。

普段、反応がそこまで大きくない彼が、何かに驚いたように手を動かしたのを見て私は驚き、手から血が出ているスレートさんに声をかけた。

 

「すいません、大丈夫ですか?」

 

そう訊くとスレートさんは素早く自分の手を布巾で抑えて止血をして、落ち着かない口調で言った。

 

「いや……大丈夫だ。悪いな、寝ぼけてたみたいだ」

 

はっきりと嘘だと分かる嘘をついて、スレートさんは額に見える汗を隠しているようでした。怖がっている、というのだろうか。彼はぎこちない動きで落とした食器を自分で片づけていく。

 

この時もう一人の人物、すなわち束様が黙っているのが不思議でならなかった。

いつもなら、スレートさん相手に軽口を叩いたり、悪戯をしたりする束様が何やら考え込んだ様子で私達をぼう、と見ているのみだった。

 

「束様?」

 

不思議に思った私がそう訊くと、束様はハッとしたような顔をして、やはりぎこちなく私と話す。

 

「な、何? クーちゃん 束さん何かしちゃった?」

「いえ、いつもと違うような気がしたので……」

 

そう言うと、今度は元気を取り繕うかのように喋る。

 

「え? そんなことないよ~。束さんはいつもどーり! 心配することなんてないよ~!

ホラ、スマイル、スマイル!」

 

そう言って束様は私の頬に人差指をあてて、口角を吊り上げるのだが、その顔にはどこか陰りが見えたような気がした。

 

まだ日常生活や感情表現が上手くできない私だが、二人の様子はどこかおかしかった。

ため息を多く吐いたり、物憂げな表情で空を見上げたりと、我の心ここに非ず、何か別の事にとらわれているようだった。

 

その原因が何なのか、私にわかると良かったが、未熟な私にはそれを想像することは難しく理由が何なのかわからずにいた。

 

シャルロット・デユノアのせいだろうか。彼女がスレートさんの差し出した手のひらを拒否したからなのだろうか。

 

篠ノ之箒のせいだろうか。専用機をもらうだけもらって、姉である束様に親密な態度どころか、怒鳴り散らしたからだろうか。

 

それとも、計画が失敗したことなのか、私にはどれが正解かわからない。

そうした感情面の起伏の勉強も含めて白骨都市の住む住人の子供たちに自分の知っている語学や簡単な理科や算数を教えてみたりもしてみたが、やはり肝心なところがつかめない。

 

何となくわかっても、おぼろげな答えでしか見えないでいる。数式や化学式のようにA+BはCといった具合に答えが出てくれず、私は日々悩むばかりだ。

 

今日の語学の授業も終わり、近く石かレンガでできたブロックに腰かけて、空を見上げる。

乾燥した空気のせいか、太陽が他の場所より、大きく輝いているような気がした。

 

雲一つない青い空を見上げて思う。私の心もあんな風に曇りがなければいいのに、と。

そんな風に空を見上げている私をゲリラ達が不思議そうに見ている。

 

肩にスリングで吊られた様々な「貧者の武器」を持って歩く彼らの目に私はどのように映っているのだろう。

 

白い髪の毛に常に閉じざるを得ない目をした私を見て彼らは何と思うのか、それがわかれば、きっと二人の心も知ることができるのだろう。

 

空を見上げるのもやめて、頬杖をついた。こんな動作をすると束様は、不機嫌そうに見えるからダメ、と言ってくれるのだが今の束様はそう言ったスキンシップを取るのを避けているような気がしてならない。

 

私はどうすればいいだろう。

 

そう思っていると、私に誰かが話しかけに来た。アラビア語だと分かり、現地の人だなと思い振り返るとウダイの部下だった。

 

ウダイの赤い半月刀はゲリラ組織であるのに、使用する銃器がAKなどではなく、G36というスレートさん曰くゲリラには似合わない銃器を持つ変わった組織なので、すぐにわかった。

 

「何でしょう?」

 

私がそう尋ねると、赤い布を顔に巻いた男が話しかけてきた。

 

「隣座っても?」

「どうぞ」

 

男は銃のセレクターをチェックして、マガジンを銃から外して私の隣に座った。

一つ咳払いをして、私に言った。

 

「いつも、ありがとう」

 

突然のお礼に私は声を漏らした。それを男は照れ臭そうに笑って返した。

 

「いや、俺の息子の事さ。少し前まで、計算が苦手だったんだ。それが君のおかげで九九が全部できるって喜んでてな……礼を言いたかったんだ」

「それは……良かったです」

 

スレートさんや束様以外の大人に礼を言われるのはあまりなかったので、新鮮な感じだった。教えた子供にお礼を言われるのは何回もあったのだが、大人はあまりいなかった。

 

それは宗教的な理由から来ていた。イスラムを信仰する彼らにとって、外で平然と肌身を晒している私や束様は異端者だからだ。

 

彼らにとって、私たちが明確な敵意を示していないし、それどころか有益であるという事は重々承知でも教えに従わない私たちに抵抗感を感じざるを得ないのだそうだ。

 

もちろん、イスラム教徒と言っても度合いは人それぞれなので、皆がそうと言うわけではない。

それでも、このように礼を言われたのはあまりなかったのだ。

 

「でも、私の事何とも思わないんですか?」

「肌身を晒していることかい? まあ、君たちは教徒じゃないからな。そんなことは俺は気にしないさ。それに英雄もそうだからな」

「英雄?」

 

スレートさんの事だと、すぐわかった。彼らのような反米組織にとってスレートは希望の星に近いものだからだ。

 

デルタやSASと言った資本主義の尖兵を返り討ちにして、大使館も爆破する。そう言ったスレートさんを英雄視しているのだ。

 

「そうさ、彼は神を信じない。彼が信じていたのはちょっと前まで銃と酒だけだったからな。今は変わったが」

「どう変わりました?」

 

私がそう訊くと彼は私の方をじっと見て答えた。

 

「君やあの博士さ。大分前の話だが、英雄は食事をする時、自分より先に相手がナイフやフォークを持つのを嫌がっていたんだ。疑心暗鬼の塊さ。それが君たちなら安心して食事を楽しんでいるようだった。正直驚いたよ」

 

それは心底意外な話な気がしたが、そうかもしれないとも思った。

言われてみれば、スレートさんが作る料理のほとんどは煮込むものが多かった。

 

あれはフォークでなくとも食べられる物を選んでいたからなのかもしれない。

そして、自分から調理担当をしたがったのは、ただ単に私たちの作るものに不満を抱いただけでなく、あれは自分が刃物を握れる安心感を求めての物だったかもしれない。

 

そんな風に思いながらもスレートさんの信じられるものに私が入っているというのは嬉しくも思えたが、今の状況を見ると何だか複雑な靄がかかったような気持ちになった。

 

「どうした?」

 

そんな私を見て、彼は聞いてきた。心配してくれているのだろうか。

 

「いえ、その……一つ質問してもいいですか?」

 

男は顎を撫でながら言った。

 

「俺が答えられる範囲なら」

「では……貴方はその……家族の心がわからない時ってありますか?」

 

男は少し考えているのか、小さく唸るような声を上げた。

 

「難しいこと聞くな……答えは ある だよ」

「家族なのにですか?」

「家族だからさ」

 

私が聞き返すと男はすぐに返答した。

 

「家族といるってのは悩みが尽きないのさ。特に子供相手には責任ってやつが伴ってくる」

「責任ですか」

 

私が責任という言葉を強く意識して言った。男は深く頷いて語った。

 

「そうだ。例えば、どうして空が青いのかって聞かれた時にだって簡単に答えるわけにはいかない。間違った知識は子供が大人になったときに大変な苦労の元になるからな。親として、それは避けるべきなんだ」

 

男は一拍呼吸を入れて、話した。

 

「環境とかもそうさ。本当はこんな所で子育てするべきじゃないんだ……銃器に囲まれた場所が子供にいい訳ない。時々、バグダートの親戚の家に預けるべきだと思うこともある。

でも、それはそれで、親としての責任ってのはどうなのか疑問になってしまう……だからって、ここは安全だからいいのか、実の親がいるからいいのか……何が正しいか俺には判断がつかない」

 

顔の大半は布で覆われて見えなくても、男の目に切なそうなものが映った。本気でどうすべきか悩んでいるようだった。

 

彼の言う通り、こんなゲリラのいる場所で育てるべきでない。幸い、少年少女を使うことはここではご法度で非道な事には巻き込まれないかもしれないが、将来を考えた時子供たちはここから離れていなくてはならない。

 

しかし、まだ小さい子供に親元を離れさせて、テロ行動が盛んな都市に送るのもまた、考え物だという男の悩みは親としては仕方のない物なのだろう。

 

故に切なく子の将来を悩むことしかできない。

 

そして、その目はスレートさんや束様が見せていたものと似ていた。

あの二人ももしかしたら、私を避けていたのではなく、悩んでいたのかもしれない。

 

「そんな風さ。悩みすぎて、子供まで悩んじまう。全く持って難しいよ。これが博士のいた日本ならもっと違うんだろうけどな」

「……それでも」

 

男が私の方を見た。

彼の話を聞いた私は一つの答えを生み出した。それが正しいかはわからないが、私は思ったことを正直に述べた。

 

「それでも、家族とは離れたくないと思います。世の中には酷い家族もいるけど、自分を大切にしてくれる家族なら、どこでも一緒に居たいと思います」

 

その願いは身勝手なのかもしれない。私の場合だと、あの二人に負担をかけるだけになるだけかもしれない。もしかしたら、私は二人にとって何かの代用なのかもしれない。

 

それでも私は彼らと居たいと思う。たった二人の大切な二人だからだ。

世界中の人が私を見たら、きっと洗脳されている、や 騙されていると言うだろうし、テロリストに育てられた可愛そうな子だと思われるだろう。

 

そんな風に思われる方が私にとっては可哀想だと思うけど。

 

男は私を見て、立ち上がって頭に手を置いて撫でた。

 

「ありがとうよ、少し楽になった気がしたよ。今度うちに皆と来てくれ、上手い飯をご馳走するよ。じゃあ、またな」

 

男は去って行った。頭に置かれた手は長年銃器を扱って来たせいで、グローブのように固かったが、温かさがあった。

 

スレートさんや束様がしてくれる時と似た温かみだった。

その時、私は思えた。あの二人は決して私を代用品と見ていないのではない、ちゃんと見てくれているのだと。

 

空を見上げると、太陽が沈み暗くなっていた。西へと沈む太陽が光を弱々しくではあるが、、暗闇の一部を照らしていた。

その光景は永遠と続くような闇の先にある希望の光のようにも思えた。

 

そして、その向こうに見える星々を見た。

 

私たちは、あの星々のように遠くに見えて近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家代わりにしたラボの外で俺は白骨都市のマーケットで手に入れた煙草をふかしていた。

好みの味ではないものの、この際ニコチンと紫煙が楽しめるのなら、文句は無かった。

 

太陽が沈んでいく様を見て俺は一人守れなかった約束の少女を思い出していた。

彼女が憤慨するのは最もだった。母の男という理由で、世話をするなど言われても拒否するのは当然だし、何よりテロリストで何年も放っておいて来たような俺が母と付き合いがあったなんて認められないだろう。

 

俺は自分が屑だという事は自覚している。だが、幾多の場所を歩き、生きるために他人の命を喰らって来た俺が、たった一人の少女の拒絶がここまで響くとは思わなかった。

 

シャルロットがいつかの彼女と同じ顔をしていたためだろうか、それともなれる訳はないのに、家族というのを求めていたからだろうか。

 

そう思って、俺の思考の中に浮かんだ家族という単語に俺はため息を漏らした。

家族、その単語にはあまりいい思い出は無かった。俺のいく所のほとんどは息子を育てる理由に祖父母や、両親の仇を撃たせるためという母親がよくいた。

 

死なせるために子を育てるような、そんなどうしようもない奴ばかりだった。

俺はそいつらを軽蔑していた。だが、いざ自分の事を見てみると、彼らの事をあまり笑えない立場なのだ。

 

そう思うと、俺に一つの少女の姿が頭に浮かぶのだ。クロエ・クロニクル、雪のように白い髪の毛で目を常に閉じている、優しく綺麗な少女。

 

俺とは違い、人を慈しむことができる純白な心を持つ少女と俺は一緒にいるべきだろうか。

人の黒い所しか見て来なかった人間の隣にいれば、いずれ彼女はソイツと同じ色に染まってしまうのでないか。

 

染まらないにしても、彼女の将来が俺と同じようなモノになって、幸せと言えるのだろうか。答えは否だ。

 

彼女ほどの頭脳と心は俺の隣にあるべきでない。どこか、豊かな国で学校に通ってテストの成績で担任に褒められて、級友と馬鹿話をしながら、家に帰って誰かと温かな食事をしながら明日は何をしようかと悩む、そんな日常こそが彼女に必要だ。

 

俺は彼女にそうするように言うべきではないのか。だが、実際は何も言えない。

結局、俺は無責任で身勝手な大人に過ぎないのだ。

 

そのことに苛立ちを覚えて、今はニコチンの力を借りる以外に方法がない自分が恨めしく思う。

 

吸い終えた煙草を地面に投げ捨てて、再びタバコを吸おうと箱から取り出して口にくわえ、ライターで火をつけようとするとオイルが切れたのか、火がつかず舌打ちをした。

 

何か火がつくものは無いかと、ポケットをまさぐっていると、横からアルコールランプが飛び出てきた。

 

見上げると、差し出したのは束だった。煙草の匂いを嫌がる彼女が俺に火を貸してくれたのだ。

そのランプの灯を借りて、貸してくれた束に礼を言った。

 

「すまないな」

「いいよ、スー君と束さんの仲だもん」

 

そう言って彼女は俺の隣に腰かけた。足をばたつかせて、うっすらと見える星を見上げていた。

俺も彼女に倣い、座り込んで空を見上げた。

すると、彼女はそんな俺に微笑みつつも訊いてきた。

 

「ねえ、スー君。私って大人なのかな?」

 

突然の質問に目を丸くしながらも、俺は苦笑と共に答えた。

 

「年齢的にはそうなんじゃないのか? アジア系は若く見えるからなぁ」

 

束はムッとした顔を一瞬見せた後で、もう一度訊いた。

 

「何さ、オヤジみたいに……じゃあさ、私は人の親としてどう? なれると思う?」

 

いつになく、真剣な顔をする束を見て俺は何と答えていいか、わからなかった。

俺もその問いに対して何と答えていいかわからないのだ。

 

ハッキリと言えるのなら、答えはNOだろう。彼女も俺と似たようなお尋ね者なのだから。

しかし、それを言ってどうするというのだ。結局俺は応えずに聞き返すことにした。

 

「何で、そんなこと俺に聞く?」

 

束は一つ深呼吸をして、答えた。

 

「私ね、福音のときさ、箒ちゃんと会ったじゃない? その時仲直りできるんじゃないかなって思ってたの。新型の第四世代なんか作って調子に乗っちゃったんだと思う。でも、結果はその逆だった……もう姉さんって呼んでくれることはないと思う」

 

悲しいことを語っているはずの彼女の顔にはそれらしい感情の動きは見られなかった。

吹っ切れたのか、それとも、どうでもよくなってしまったのか、俺には分からなかったが、彼女は表面上は平静そのものだった。

 

「それでね、こっちに戻って来たとき、何を思ったと思う? クーちゃんの事を思ったんだよ。箒ちゃんともまともに接することができない、無責任な私がこのままクーちゃんと一緒に居てもいいのかなって……」

 

紫煙が風に揺れてユラユラと揺れる。

手をキュッと握りしめた彼女の姿を俺は横目で見ているだけしかできない。

何と言ってやればいいか、わからない。

 

いつもは吐けるはずの軽口も冗句もこんな時に限って、頭に思い浮かんでくれないのだ。

「束……お前は……クロエと居たくないのか?」

「居たいよ。でも、私と、私達と一緒にいて、クーちゃんの未来は? 将来は? あの子は生まれこそ特殊だけど、普通に生きようと思えば、生きられるはずだ。束さんのようにごく少数の人間しか認識できない私と違う……私と同じになっちゃいけないんだ」

 

俺は彼女の話を聞いて、思わず笑いそうになった。

世界中どこを探してもいない、大天才様がまさか、俺と同じことを考えて、たった一人の少女のために解けない方程式を解いているような顔をしていたと分かったからだ。

 

それが何故かおかしく思えたし、同時に悲しくも思えた。

 

「無責任な俺たちがクロエの足を引っ張ってしまう、か」

「俺達?」

 

そう訊き返す束に俺は応えた。

 

「そうさ、俺も結局シャルロットに向き合ったことなんて無かった。たった一度会えば仲直りすると勘違いしていた俺は大馬鹿野郎さ。そんな奴がクロエと一緒に? 悪い冗談だ」

 

煙草の吸殻を地面に押し付けて火を消す。ジュッと音が成って煙と灰だけを残して火は消えたのを確認して俺は息を吐いた。

 

「それなら、束さんもだよ。紅椿を上げれば、きっと元通りになるなんて思ってたさ。壊れたピースはいくらはめても戻らないのにねえ……こんな簡単な事なんでわからなかったんだろ」

 

長い髪の毛をかき上げて束は白骨都市に住まう親子の姿を見ていた。彼らも俺達と同じアウトローだが、彼らには彼らなりに責任と義務の元、子供を育てている。

 

嫌なものから目を背けて、逃げてきた俺たちと違って彼らこそが本当の大人だった。

頼まれた約束とも、たった一人の妹ともロクに接することができない俺達とは大違いの存在だ。

 

俺達は家族を求めても家族を得ることなどできやしないのかもしれない。

 

責任なんて、一度も背負ったことのない俺達には無理なのかもしれない。

その中で俺は一つの疑問にたどり着いた。

 

「クロエは……アイツはどう思ってるんだろうな?」

 

束は首を左右に振ってこたえた。

 

「わからない……でも、わかったのなら、責任とかから逃げることは無かったと思う」

「……そうだな」

 

どれほど、頭脳が優れていようと、どれほど人の黒い部分を見てきたと言っても、

俺達はたった一人の人間の思いすら汲み取れない。

 

人はこういうモノだと、決めつけていた二人にわかるはずはない。

俺達は臆病で、無責任で弱い人間だ。

 

だから、クロエとこれ以上関わるのは不幸でしかないのではないか、そう考えるのだ。

束は点を見上げて言った。

 

「この世界にはどこでも声を届けられるインターネットに電話、ラジオ、それにあらゆる距離をより短時間で渡れるスピードがあるのに、どうして人と人ってこんなに遠いのかな?スー君。 どうして、こんなに人と接するのは難しいのかな?」

 

束の素朴な疑問に俺は小さく応えた。

 

「そんなものより、一欠けらの思いやりとか優しさの方が必要だって気付けなかったからかもな」

 

二人の弾かれ者は空を見上げる。こうして見上げると星と星はものすごく近く見える。

しかし、実際は果てしなく離れているのだ。

 

俺達とクロエはそんな感じなのかもしれない。

 

近いようで遠いのだ。

 




という感じで束一家スタートです。
予定としてはそれなりに長くなる感じです。

それと、最近お気に入りに登録してくださる方が多くこの場を借りて
感謝を述べます

ありがとうございます
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