作戦開始一週間前
宿舎で、暇な俺達フロッグマンことSEALSと同じく、ただ飯中の対テロ屋のデルタで
カードに興じていた。
昨日まで、ぼろ負け続きで既に55ドルも失っていたが、今日はツイていて45ドルを手に入れ、一人勝ちしている最中だった。
あと十ドルで負けはチャラ、しかも俺の手札はフラッシュと中々良い手が揃っていることにほくそ笑み、欲をかいてオールインをして大勝を狙った時だった。
サングラスをかけた、どう見ても職業軍人ではない男が一人入って来た。腕は精鋭である俺達と比べるべくもなく貧弱で、もし彼がスーツを着ていれば、ビジネスマンにしか見えない男は俺に向かって話しかけてきた。
「こんにちは、カーク大尉。カードの途中で申し訳ないのですが、少しお時間いいですか?」
俺は男の顔をじっと見て、名を名乗るように言った。すると、男は薄笑いを浮かべて、名乗り、身分証を提示して来た。見てみると、CIAの局員だという事がわかった。
「申し遅れてすいません。私、CIAのランチと言います」
「ランチか」
俺はその名を聞いて素直に感想を述べた。
「食えそうには無いな」
「ええ、どうも」
俺のジョークを理解したのか、それとも、似たようなことを言われたのか、顔が少しひきつっていた。俺はその男と話す気は無かったのだが、他の連中は俺が一人勝ちしている状況を打破すべく、ランチという男に俺を押し付けて、俺は退場する羽目になった。
儲け金だけを回収できたのは幸いだったが、もう少しで大勝ちで来た可能性が高かったことを考えると口惜しくて仕方なく、俺は少し不機嫌な口調でドスを込めて、ランチに質問した。
「それで、何の話だ?」
ランチは肩をすぼめながら、ハイスクールの友達相手に話しかけるように、口を開いた。
「そんな、おっかない声はやめてほしいですね、大尉殿。まあ、それは置いておいて、実は協力していただきたいことがありまして……」
「ほう?」
あまり、面と向かって現場の人間と話し方事がないのか、少し脅しをかけるだけで所どころ、ビクついたりしている。それでも、話すのをやめないのを見るあたり、職務には忠実らしかった。
ランチは書類の何枚かを俺に渡してきた。それを受け取って、読むと内容は驚くべきものだった。
合衆国政府がこんな事を認可するのか、と本気で疑問に思えた。
書いてあった内容は、平たく言えば暗殺。スレートとウダイの過激派二大スターはともかく、篠ノ之束の暗殺まで書かれていて、俺は目の前の諜報員に訊いた。
「こいつは確かか? 冗談にしては、よくできた書類だが?」
「いえ、冗談ではないのですよ、大尉殿。コイツは本気なんですよ」
CIAの手先は悪戯そうに笑って見せた。
「こいつのために私はわざわざこんな所にまできたのですよ……いやあ、最近は我々も仕事が多くて、普段はラングレーでエアコンの効いた場所で仕事をしているんですが……」
「そんなこたあ、聞いてないんだよ」
俺はランチのどうでもいい話を途中でとぎらせた。ピリオドを打たされたランチの不満顔に俺は一種の敵意すら向けて俺は質問をした。
「何で俺達だ? アンネイムドと違ってISを持っちゃいない俺たちをISを持つ連中にかち合わせようっていう理由は何だ?」
あの事務屋こと少将閣下の話はよく聞いていたので、知っている。スレートと束の二人がすぐ近くにまで来たという事と、連中が超高性能なISを所持していることを聞かされていた。
そして、例によって平和の使者気取りのマスコミに妨害されて攻めに行くのも厳しく、またISというたった一機のオモチャひとつで俺たちが動けないでいるという不愉快きわまる事実を知らないものはこの基地にはいない。
だが、この男は基地の外から来た男だ。それだけでなく、CIAという阿漕な商売をしている連中がまさか、そんな情報もなしにここに来るわけはない。
そんな連中がどうして俺たちにこの話を持ち掛けるのか不思議でならなかった。
俺は薄ら笑いをする男の胸ぐらをつかんで、もう一度聞く。
「答えろ、何で俺達なんだ?」
すると、ランチは息苦しそうに咳をしながら、答えた。
「実はですね、アンネイムドはCIAでも動かせないんですよ、公式には。連中はIS委員会と組んで、正確に言うと、軍ですらない。そのくせ、権力がありまして……」
「俺達なら動かせて都合がいいってか?」
「正解です」
宿舎の壁にランチを打ちつける。ランチは苦悶の声と痛みに抗議の声を上げたが、口を動かすのをやめない。
「大体、私もあの手の連中が嫌いでしてね、アンネイムドの訓練期間はご存じで? 長くても一年と二か月。実戦経験は無し、おまけに現在隊長をしているIS乗りはただのテストパイロットだ、彼らにやらせても成功の可能性は皆無だ」
「よく喋る口だな、そう言うからには俺達ならできることでいいのか?」
ランチはニヤリと笑って答えた。
「ええ、そうです……ただし、貴方方が私に協力的でないと上手くいかない。それでお手伝いを……」
「おもしれえ、言ってみろ」
ランチを掴む手を離してやる。すると、彼は首回りをさすって、痛みを紛らわせてこっちを見た。
その顔はラスベガスで当たりもしないジャックポットを狙う馬鹿の顔と同じだった。目をギラギラと輝かせて、口角が吊り上がっている。ハッキリ言って酷い顔だった。
「いいですか、束のISは確かに強力です。下手したら、この基地全ての戦力を数分で壊滅できるほどです。しかし……」
そこから、聞いた話は驚きの連続だった。そのISの弱点から、少将閣下を納得させたことに、更にこの男なりに正義とやらがあるという事だった。
確かに話を聞く限り実行できそうではある。しかし、それは条件が全て揃って、という前提があっての話だ。まず、ISを封じ込めることだ。最重要の条件だ。
当然、封じ込めるにはISが必要になる。大戦力を投入できない俺達が対抗するには同じ土俵で戦えるものが必要なのだから。
第二に、次は敵の通常戦力の排除だ。少なくともウダイの組織は戦車やヘリと厄介な兵器を持っている。これらの破壊も不可欠だ。
そして、これらを突破しても三百人近い戦闘員がいる。少なくともイラク戦争を生き残った連中で構成されているはずの猛者の群れを突破しなくてはならない。
そして、これらを統括しているのはウダイとスレートだ。彼ら二人の暗殺はSASもデルタも失敗している。つまり、二人に指揮をさせない、もしくはできなくする場を作ることが必要だ。
ISの封じ込めに始まり、破壊工作、混乱、これらを同時に起こして、完ぺきなタイミングで奇襲する。困難きわまる任務だ。
「無理だ」
俺はそう結論付けた。使える駒が明らかに少なすぎる。相手はクイーンにナイト、豊富なボーンまでそろっているのに、こちらはボーンのみ。
勝負にすらならない。
「無理ではありませんよ大尉殿、道理はこじ開けるモノ、ここは一つ悪党の長話に付き合ってもらえませんか?」
しかし、ランチはにやけ顔をやめない、むしろ更に熱を帯びている。
「そして、だからこそ、貴方の協力が必要なのですよ、今すぐ」
「……何?」
そして、俺はその話術にいつの間にか乗せられていた。
ランチの口車に乗せられて、同僚たちを引き連れて目的地の前にまで来た。
その目的地とは、驚いたことにアンネイムドのテントだった。俺たち全員がランチに問い詰めると、彼は一言、「周りを抑えてくれ」としか言わない。
そんなCIA職員の胡散臭さ満点の話を半信半疑でとりあえず、従ってみることにしたのは仮にも諜報組織の一員という事と、あの事務屋の少将が信じたという事実があったからだ。
まず、ランチと俺がテントの中に入ると、黒一色の装備に包まれた部隊員が入るな、と警告する。
テントの中には予算度外視とも取れる装置の山だった。まだ試験中のカービン銃に、GPS、通信機。あと、実用性が疑問視された光学迷彩服など、ありとあらゆる予算と資源の無駄の山だった。
まだ俺達のも配布されてない、最新型の試作型でまとめて、これ見よがしにしている様を見て俺は鼻で笑った。
できたばかりの新しい玩具を自慢している内は素人だからだ。我々がm16やm4、果てはm14系を使い、敵対組織がAKを好むことをこいつ等は理解していないだろうと、予測した。
俺は素人の目の前に立って、言った。
「黙ってろ、間抜け」
指をパチンと鳴らして、仲間を中に入れて、とりあえずランチの言う邪魔者を抑えることに成功した。
ランチは俺たちに軽く礼を言って、奥へと進み、まるで王様に拝謁するかのように奥のテーブルで偉そうに座るIS乗りと相対した。
「何の用かしら?」
「初めまして、イーリス大尉。私CIAのランチと申します。少しお話がありまして」
「まずそうな名前ね」
「その言葉は二度目です」
鼻を鳴らして嘲笑する彼女に対して、ランチは卑屈さすら見せて、返した。さっきまでの態度とは打って変わって、ゴマをすっているようだった。
「実は、我々CIAはある任務を持っておりまして、こちらの基地の少将閣下にお頼み申したのです」
「そう言えば、そんな事もしていたわね」
「ところが、です」
ところが、を強調してランチはサングラスを外して深いため息を吐いてイーリスの顔をまっすぐ見た。
「知ってのとおり、ISは男には使えない、例外もありますが此処にいる男は使えない、しかし敵のスレートは使える……おかげで私の任務は頓挫せざるを得なくなってしまったのです」
さっき聞いた話とは全く逆な事を述べて、鼻をすすって悲壮感を垂れ流しだしたランチを見て、イーリスはチラリと俺を見て言った。
「当然ね、ここのは使えないのもね……それで、任務とは? その……スレートって?」
最もらしく女大尉は嫌味を言った。二重の意味で使えないと俺たちに言うあたり、流石はIS乗り様と言うべきだろうか。
仲間の数名が舌打ちをしたのを聞いたが、ランチはそれに便乗して、俺たちに見せた書類とは別の物を彼女に渡した。
「ええ、全くです。そこで、私は発想の転換をしましてね……貴方がたにスレートの抹殺を頼もうと思いまして」
その話を聞いて、ランチは束関連の事を伏せていることを悟った。書類を見るイーリスも何の不思議に思ってないようで、紙をペラペラと捲っていく。
「成程ね」
彼女の口元が一瞬歪んだように見えた。そして、彼女の言葉もどこか喜びを感じさせた。まるで、この話を待っていたかのようだ。
「でも、私たちは……」
「ええ、正規の軍で無い、秘匿されていますからね……しかし」
ランチはイーリスのデスクに身を乗り出して、熱い口調で語りだした。IS乗りは神々しいなどの美辞麗句に始まり、アンネイムドの底知れぬ実力をほめたたえた後、少将をFワードで罵ったあげくに、スレートの罵倒も含めて、マシンガンのように言葉をまくし立てた。
聞いている俺たちはランチの言葉に耳栓をしたかったが、イーリスはこの手の言葉に免疫がないようで、だんだんと信じ込んで行っている。
やっているこちは詐欺師の真似事だ。しかも、諜報員の情報収集をフルに活用した、悪質極まりないものだ。
「それに、貴女の親友、ナターシャ。彼女の死はどうなるのでしょう?」
そこで、一人の名を口にすると、ピクリとひときわ大きく反応を示した。
「彼女の死は無残なものだったそうですよ? 高出力のエネルギーで灰すら残されず、その前にも幾多の太刀やら銃弾を浴びたとか」
「彼女の話は……!」
「ええ、任務には関係ない」
そこで、ランチはささやくように彼女に言った。
「でも、貴女には関係大有りだ。貴女も実際に操られてしまった、そして、貴方は親友とは違い生き残った。神がいるとしたら、何故貴女は生き残ったのでしょうか?」
「それは……」
ランチはイーリスの口元に人差指を突き立てて、彼女の口から答えを言わせなかった。恐らく、自分の用意した答えに同調させるためにあんな真似をしているのだろう。
「それは今日、この日のためでは?」
ニコリとするランチの顔は悪役の顔ではなかった。どちらかと言うと、迷える子羊を導く神父、聖職者の顔を見せていた。
そして、その顔で先ほどの書類を見せて、CIAのマークを指でトントンと叩いて、強調した。
「この書類は合衆国のオーダー。貴女の任務を保証するものです。確かに貴女が動くことは命令違反です。しかし、時に運命の声に従い、行動するものが真の英雄と言えるでしょう? さて」
ランチはサングラスを掛けなおして、今一度聞いた
それだけでなく、どこから取り出したのか、八本の足がついた装置を取り出して見せた。
それが何なのか、俺には分からなかったが、彼女には分かったらしい。
「それは……!?」
イーリスが驚きのあまり席を立ちあがって、装置に手を触れようとしたのを、ランチは取り上げて、人差指を横に振って子供からお菓子を取り上げた母親のように振る舞う。
そして、使いたければサインしろと言わんばかりに、書類を突き出す。
「さて、返答を聞きましょう」
俺はその時、悪魔と言う者がどんな顔をしているのかを知った気がした。
テントから出て、今度は少将のデスクに向かうこととなった俺はランチに先ほどの会話がどういう事なのかを聞いた。
「ああ、アレですか」
ランチは鼻で笑って、アンネイムドの面々に言っていた言葉とは180度逆の事を言い出した。
「どうもこうも、ただの刺激ですよ。IS乗りは短気で、わがままですから。それなりの賛辞の言葉をスパイスに仕上げに書類と特殊兵装を見せれば彼らは簡単に引っかかる。味方のフリをして、墓穴を掘らせる……基本ですよ」
聞きたかったのはそういう事ではなかったが、俺はその話を聞かなければ良かったと後悔した。要するに、連中は生贄にされたという訳だ。そして、俺達も生贄ではない保証はない。
「俺達もその対象か?」
警戒心を露わにして訊く。この男は腕っぷしでは俺たちの足元にも及ばないだろうが、舌では俺たちが敵う事はない。そうわかっても聞かざるを得なかった。
「まさか」
少将の部屋の前について、ランチは人のよさそうな笑顔を見せて、答えた。
「俳優と脚本が私で、総監督が少将閣下。それだけですよ」
「ますます、不安だな」
「どうも」
扉を開けると、事務屋としての本分を発揮しているスプルアンス少将がチラリとこちらを見やって、デスクワークを中断して口を開いた。
「来たか……こっちの準備は進んだぞ、CIA。リトルバードを9機にソレを運ぶための人員とトラック。交通規制などは上手くいった。そっちは?」
あくまで事務的な少将に対して、ランチは功を誇るように言った。
「名無しは動きますよ。そう遠くない日に。後は動いてくれて、スレートのISを封じ込めしてくれれば、計画通りです」
少将は頷いて見せて、俺たち二人に椅子に座るように言った。窓を閉じて、部屋を暗くしてスクリーンを見せた。
俺は二人の話に少しついていけなかったので、少将に問うことにした。
「閣下、失礼ながらご説明を。一体、何をしようとしているのですか?」
「いいだろう、カーク大尉。ランチから聞いたと思うが、我々あがすることは三人のテロリストの暗殺だ」
俺はその言葉にうなずきつつも、もっと具体的な話を求めた。すると、ランチが代わりに説明をしだした。
それによると、以下のような物だ。
全ては三人の暗殺のための下準備という事だ。
まず、アンネイムドの部隊を挑発ないし、誘導してスレートを強襲させる。この時、彼らの中には当然ISが含まれるために、敵はスレートと言う切り札を出さざるを得なくなる。
スレートのISは前に説明されたとおり、一回の出撃ごとに多大な整備が求められる機体であると予測されるため、イーリスの機体ファング・クエイクと戦闘させればかなりの負荷がかかるはずだ。
性格に難があっても、銀の福音のテストパイロットだった彼女の腕前は確かなのだから、可能性はそう低くはない。
白骨都市へのISの介入で敵は切り札を出さざるを得ず、またアンネイムドの本来の任務とやらが何なのかはわからないが、あの町にISと共に進行してくれれば、大きい混乱を与えることができる。
条件はこれで、かなりクリアされたと言っていい。
ただし、これはかなりの賭けだ。まず、イーリスが上手い事、相手を倒してくれないと条件が達成されない。IS相手には俺たちの出せる戦力では勝ち目がない。
「分の悪い賭けでは?」
俺は少将に問う。だが、スプルアンス少将は表情は冷静さを保って答えた。
「確かに君の言う通りだが、これは確かなチャンスなのだ。ISにCIA、デルタやSEALS、これだけ揃っているのはそう滅多にない、わかるな?」
「それはわかりますが……それだけじゃない。よしんば、暗殺に成功したところで我々はその後の立場を失うのをご存じで?」
スレートとウダイは殺したところで、合衆国は喜ぶことに違いない。だが、篠ノ之束の暗殺は問題となる。世界が欲しがる人材を地殺したと来れば、新聞が黙っていないだろう。
ISの最大の問題、量産と適性、そして白騎士の再現をもたらすことができる唯一の人物なのだから。
「ですが、オーダーに入ってるのですよ、大尉」
ランチがそう言うのを俺は横で睨んだ。
「騙しちゃいないよな?」
「神に誓って」
「国旗には誓わないとは見下げ果てた愛国心だな」
少将はそう感想を述べ、汗を少し流したランチを一瞥し、俺たち全員に言った。
「とにかく、だ。我々の正義とは何か、と言う問題でもあるのだよ。国家の利益などと言うがな、その為にテロリストを野放しにするのが正義なのかね? 彼女の作ったものは世を乱す兵器で、そして、彼女自身も破滅的な女だ」
手に持った万年筆で書類に乗っていた彼女の写真を突き刺した。黒いインクが漏れて、血のように彼女の写真を染めた。
「大尉、ランチ、私は社会が憎い。あんなものを喜んで受け取っている社会やマスコミが憎い。この際言っておくが、彼女は怪物だ。怪物は縛ることなどできん。そして、それはISの手ではなく、我々人間で行わなくてならん。でなければ、時代は変わらん」
少将の言っていることは意地だった。母国合衆国の繁栄を望み、逆臣と罵られる道を志願した。
篠ノ之束を人の兵士の手で葬ることで、ISのありように一発お見舞いしようというのだ。
不必要と言われた俺達兵隊の意地と誇りを駆けて、真正面から打ち倒す。
その為の策も、戦力もここにはある。可能性は低い、だがそれでも実行しなくてはならないのを承知している。
「そして、それを行えるのは君らだけだ。だから、選んだのだ……」
5.56mm弾で化け物を三人も撃ち殺す。それこそが、兵隊の正義と力の証明になるはずだ。
「大尉」
少将が、真っ直ぐ俺を見据えてきた。顔には一切の笑いもおふざけもない。ただ、一人の軍人として立っていた。
俺よりも背の低い少将はまるで、巨神のようなただ住まいをして俺に問いかけた。
「もう一つの条件だ。本物の男を集めてはくれないか?」
俺は姿勢を正し、敬礼をして返した。
「了解しました。直ちに部隊を集めます、これより我が隊は今作戦に参加いたします」
かくして、悪党に将校、兵隊と三種類の人間が結託した。
現在
『リトル5とリトル6が着地地点を確保! ファーストダウンだ!』
小さなヘリコプター「リトルバード」で同僚のルイスが高らかに言った。攻撃権は手に入れた。混乱に乗じて、今まで成功しなかった破壊工作も成功し、後は敵歩兵戦力を突破し、ターゲットを葬る。
簡単な任務だ、そう自分に暗示をかけるように言って、俺はヘッドセットで全員に言葉を送る。
「全員聞こえるな? これ以上ないチャンスがやって来た! 勝利の女神が丸裸でベッドで誘ってくれている証拠だ! 目標は三人! 意地を見せろ、兵隊ども!」
勇ましい答えを受けて、俺は目の前に集中する。
リトルバードが地面に一瞬着地した瞬間に俺や部下たちが地面に降り立つ。降り立ったのはデルタも含めて、たったの36人。
航空支援はリトルバードのミニガンとロケットのみ。
UAVは過去にハッキングされたことがあったので、使えず頼りになるのは航空写真から作った地図と現地の工作員との合流だ。
火器は小銃と手榴弾と心もとない。この場では、この体が最大の武器となる。
降りた途端に雑多な銃器のオーケストラが鳴り出した。拳銃弾からライフル弾まで、様々な口径の銃が俺たちを狙う。
Mk12ライフルを構えて、スコープに見えた二人の民兵に三回、単射。二人が赤い血を弾けさせて地面に伏せたのを確認して、直属の部下五名に指示を出す。
「地図は記憶してるな?! いいか、この先1200m先の小高い山の上にジャミングがあったのを思い出せ! 恐らくそこがゴールだ。走れ!」
一人が立ち上がろうとしたが、頭上を弾丸が掠めてすぐに伏せて、M4カービンで反撃する。
他のチームメイトもそれに倣い、頭を押さえつけてくるドラグノフ狙撃銃やPKM軽機関銃の射手を優先的に排除する。
そこへ、リトルバードが残った火力を吐き出した。ミニガンとロケットの気魂音が鳴るたびにイスラムの戦士が倒れてく。わずか、七秒足らずの攻撃で突破口を開いてくれた。
『補給のため、補給ポイントに戻る。 リトル5オーバー』
「助かった、リトル5!」
去って行くリトルバードを尻目に俺たちは前進し、狭い路地に入っていく。しかし、どこに行っても戦士たちが存在し、こちらの進撃を阻もうと動く。
視界にAK47とG36を持った二十人が映り、一斉に火を吹いた。
5.56mmと7.62mm弾の二重奏が遮蔽物を削りとっていくがそれで怯む我々ではない。
「野郎!」
ホーマー曹長がm4の下に着けたグレネードランチャーで的確に撃ち返して、相手を一瞬怯ませた。
そこへ、m14の改良型mk14を持ったネイソン伍長が指揮官と思わしき人物を狙撃して、さらに俺や残りのメンバーが残った連中を排除する。
「グレネード!」
手榴弾のピンを抜いて、放り投げる。さらに二人俺に続いて、ダメ出しの手榴弾を投げて殲滅させる。
「走れ!走れ!」
怒号を飛ばして、互いにカバーとクリアをこなして、目的地へと走る。鳴りやまない銃声の中、ターゲットの排除のため一心不乱に走り続ける。
道を見つけるたびに敵も見つける。ナイフ、旧式のボルトアクション小銃、水道管に似たサブマシンガン、ありとあらゆる武器を持った男たちが殺意を込めて、襲い掛かり、そのたびに迎撃する。
あまりの多さに文句や罵倒の言葉も出す暇がない。というより、時間が気になって仕方ないため、口数は自然と減った。
時間がかかりすぎれば、逃げられる。それだけは避けなくてはならない。
その焦りのせいで、俺は突然ぎらいた扉に反応が遅れた。
「大尉!」
ルイスが叫ぶ。俺にターバンを頭に巻いた男が銃剣のついたAK74を向ける。
俺は銃身を掴んで明後日の方向へと向けさせた。AKが空に向かって放たれて、雄たけび上げる男に頭突きをかまして、左手でボデイ―ブロ―をかまして、打ち倒した。
倒れた男にホルスターから抜いたSIGを三発撃ちこんで、息絶えさせる。
「警戒を怠るな!」
「了解!」
更に進み、路地裏を抜けると大通りとまではいかないが、広い道に出た。すると、先頭を走っていた一人が見えないハンマーで吹き飛ばされた。爆発に巻き込まれて地面に伏せたまま動かなくなった。
「バース!」
名前を叫んだが、手遅れで一人戦死した。通りを覗くと無反動砲を乗せたトラックとバリケードの中から、銃火を飛ばしてくる兵隊の群れがそこにあった。
「目的地までそう遠くないってのに!」
「ホーマー! ジェイソン! グレネードで吹き飛ばせ!ネイソンは無反動砲を! 他は全火力を集中させて頭を上げさせるな!」
そう指示を出して、男たちが反撃を開始する。練度ではこちらが優っているためか、数が少なくても、どうにか拮抗できている。
m4の銃弾が的確に敵兵の命を奪っていき、火力が弱まったその瞬間にネイソンがmk14を構えた。
そこへ、一発の銃弾が飛来し、ネイソンを貫いた。ネイソンはその場に倒れて、痛みに苦しむ。
できたチャンスをふいにさせないために、俺はすぐさまmk12で無反動砲の操作をしている敵兵を撃ち抜き、ネイソンの容体を聞いた。
「大丈夫か?」
「鎖骨が……やられました。ライフルを……」
彼は左手にライフルを持ち、以前ほどの精度でないにしろ、支援し目の前の敵を後退させることに成功した。
息を切らして、肩で呼吸しながらも残弾を確認させて、点呼を取る。脱落したのはバース軍曹のみだ。ここで、一人減るのは寂しくなるが仕方ない。
『聞こえるか? SEALs。こちらデルタのブルースだ。工作員と合流して目標地点に到達! 標的を二名捕捉! しかし、周辺が兵隊だらけな上にバリアが張られていやがる!』
唐突に入った通信に耳を傾けると、嫌な情報が耳に入った。俺は悪態を吐きながら、更新を続ける
「シールドを抜けられないか?」
『無理だ! 火力が足らん!広範囲に張っているせいか、薄めだが、持ってきた銃器じゃ抜けられない!』
「クソ!」
近くの壁を殴り、答えを導きたそうと思考を働かせる。少なくとも小火器だけでは、貫通はできない。ならば、対物火器か、砲支援が必要なのだがそのどちらも所持していない。
バリアを広範囲に張っているという事は敵も焦っている証拠だ。
今少しの火力があれば、突破できるやもしれない。これはチャンスだ。混乱が大きいうちに攻めれば一気に崩せるかもしれ
リトルバードからの支援可能な報告はまだ来ていない。どうするか、必死に考えていると、俺は足元に転がっている民兵を見た。
その死体は後生大事そうにG36が握られていた。確かに高い銃だからこそ、大事にしたくなるものだ、と皮肉に思ったその時、ひらめきが起こった。
ウダイの脅威は補給と武器の収集が一番の脅威だと言われていた。ならば、何だってあるのではないか。
目の前を見る。そこには無反動砲をつけたトラックに数本のRPGが転がっていた。
使わない手はない、そう考えて指示を出す。
「近くの対物、対戦車用の銃器を集めろ! これよりデルタの支援に行くぞ!」
各員が重火器を集めていく。RPG7にm79グレネードランチャーとバックパックに挟み込み、目的地へと向かう。
「大尉!」
その中でルイスが俺にあるものを見せた。
それは、起死回生になるかもしれない銃器だった。
俺はブルースに通信をつないで聞いた。
「ブルース! 工作員がそこに居るんだな? そっちを見渡せるポイントは無いか?」
しばらくの無言が続き、返答が帰って来た。
それを聞いて、俺たちの方針は決まった。これぞ、神の導きだった。どうやら、今日の俺はツイているらしい。
「ブルース、準備は?」
『OKだ! 手はずを確認するぞ!』
数分後に俺と負傷したネイソンが小高い建物の天井に上り、一つのライフルを組み立てて狙撃姿勢に入った。ボルトを操作して、空の薬室にダネル NTW-20、口径20mmの徹甲弾を薬室に送り込み、スコープを覗く。
物干しざおや、アンテナで視界が少し悪いが、目標ポイントを捉えられるポイントまで来た。ふざけた人参のオブジェのような物体、建築物が見え、そこを中心に敵兵が防御陣を敷いて、抵抗している。
そのオブジェと思わしき物体は半壊しており、弱冠だが内部が見れた。そこに腰まで伸びた女が一心不乱にキーボードを操作しているのが見えた。
その近くにはハイスクールの白い髪の毛の少女と、髭を生やした組織のリーダーウダイも見えた。
「見つけたぞ、ビッチ」
そうつぶやいて、手はずをもう一度確認する。
『合図と同時に全火力を集中! シールドを破って、恐らくシールドを操作している束を撃つ、いいな?!』
「仰せのままに、タイムカードを押してくれ、ブルース」
『了解!いいか? スリーカウントで行くぞ!』
ブルースたちが戦闘しているのを視界で確認し、俺は今一度ネイソンに確認した。
横からの風は弱いことと、攻撃するための窓の位置、すなわちシールドの穴の場所を最緯度確認して、深呼吸をする。
乾燥した空気で肺を満たして、狙いを定める。狙うは兎の胴体。この口径なら、シールドを貫通した時に威力が下がっても殺傷能力はあるはずだ。
仮に殺せなくても、シールドさえ突破できれば後はどうにかなる。
『3、2……』
3カウントを開始した。指を引き金にかけて全身の微小な震えすら抑えて、呼吸を止めて集中する。
頭の中に思い浮かべた弾道をもう一度イメージして、シミュレーションをする。
ここからの弾丸はシールドを貫通して、多少ずれる。そのずれた弾丸が確実に兎の横腹に命中し、内臓を損傷。
即死はしないが、致命傷になるはずだ。殺せる、その確信を持って兎を見たその時だった。
スコープの端に見えた、少女がこっちを見た。
「……何だ?」
その少女は黄金の瞳をしていた。スコープ越しにでもわかる綺麗な人工的な金色だった。
怯えた表情をして、周辺のデルタやSEALSではなく、俺を見た。
見えているのか、そう思った。
たった後ワンカウントだというのに、動きはスローモーになって永遠の時のような感覚だった。
少女が何を言っているのかを俺は何故か理解した。まるで、耳元に囁かれたかのように、ハッキリと少女は言った。
「撃たないで」
そんな馬鹿な事があるものか、と邪念だと自分に言い聞かせて、俺は職務を全うしようとする
『1! 撃ち方始め!』
無反動砲や、ロケットなどがシールドに次々と飛来して大きな衝撃を与えて、さらにm4、m16などとそれに続き、シールドにひびが入った。
俺はチャンスだ、と確信し引き金に力を加えた。
くたばれ! と明確な殺意を込めて引き金を絞ろうとした。
そして、次にスコープが捉えたのは、俺と束の間に割って入った少女の姿だった。
「馬鹿野郎!」
俺はとっさに射線をずらしたつもりだった。しかし、弾丸は放たれてしまった。
放たれた弾丸は戻ることはない、最悪の結末になったと、嫌な想像が頭をよぎり、生唾を飲み込んだ。
俺は恐る恐るスコープを覗き、その結果を確認した。
弾丸はシールドを貫通して、その先には俺の撃った結果が出ていた。
あけましておめでとうございます。
今年に入って初の投稿です。今回は兵隊さんの話で、ISの要素が最後にしかありません、すいません。
一応、これが彼らの立てた作戦という事で、粗も多いと思いますが、楽しんでもらえたら嬉しいです。