短めです。
ここまでの展開が自然であることを願います
負けた。
ISを解除してピットに戻ると三人の人影が目の前に現れた。一人は次の試合に出る一夏。もう一人はその姉、織班先生、そして箒だ。
織斑先生が前に出てくる。
「無駄な動きが多すぎだ。バカ者めが。」
「そうでしたか?俺なりにやってみたんですけど……」
「それに武器の扱いも酷い。打鉄のブレードをこんなにするとは」
打鉄のブレードに目をやる。日本刀の使い方なんて知らないが、確かに俺の使い方は素人が見たって酷いのは明らかだった。刃こぼれして、のこぎりのようになってしまってる。
「すみません、未熟な物で……」
「でも、代表候補生にあと一歩のところまでいったじゃないか、千冬姉。これってすごいだろ。」
一夏がフォローのつもりか俺を賞賛する。しかし、それが俺の救いになるわけじゃなかった。むしろ……
「あのような戦い方はあまり関心せんな。ルール上問題ないが、あれでは戦争屋だ。次は実力で勝てるよう、精進しろよ」
それだけ言って、一夏に試合の準備をするよう言う。一夏の専用機は一次移行と呼ばれる行程を終了させたようだ。一次移行とは専用機が操縦者の特性をつかみ、最適な状態へと変化するといったものである。これには時間をある程度要するが、俺が試合に出る時にはまだ一次移行どころか、来てすらいなかったはずだ。
まさか、俺は時間稼ぎに使われたのか?
脳裏にそんな想像がよぎる。
俺は出汁にされた?
それを振り払って俺は彼らに背を向け以外ない。何故なら俺は負けたからだ。敗者には何も言う資格なんてないんだ。
「無様な」
後ろから織斑先生でも一夏でもない声が聞こえた
唇を噛んで必死にこらえた。
無様だと?ふざけるな。訓練機で勝つには、これしかなかった。出来る限りの最善の策を探した。事実、俺はセシリアを追い詰めたではないか
やれるものなら、やってみろ。
機体の出力を下げ、高度が下がるとき、どう感じるかお前にはわかるか?
高高度から頭から落ちるとき、自分の頭が潰れる光景が頭にちらつくのがわかるというのか?
もし、この状態でミサイルを喰らえばどうなるか想像したことがあるのか?
何より、皆の助けを一身に受けたにも関わらず、負けた俺の悔しみがわかるのか!
屈辱に、空しさに心が蝕まれる。粉々に砕かれたガラスの心を更に踏みつけられた気分で、ただただ、逃げたくなった。
一夏が試合に出る前に足早にピットを後にした。
怒りと情けなさで自分が暴走する前に此処を離れた。走っていると、後ろで電磁カタパルトから射出される音がした。
その後の大きな声援までも聞こえた。それは俺には無かったものだった。
ピットを出て格納庫に出ると、マイクとアカネは駆け寄ってきた。
彼らを前にして何か言わなくては、と思うでも、俺は何と言っていいかわからなかった。
デカい口を叩き、勝つといって色々と手助けしてもらったというのに結果は敗北。期待外れもいいところだ。彼らはきっと大いに失望してるだろう。
無理にでも笑顔を作っておどける様な態度をとる。いっそのこと、滅茶苦茶にけなされようと思ったそうでもしないと堪えられない気がした。
「ハハハ、いや~、負けちまったよ。やっぱ強いな、代表候補生って」
おどけたが、言葉は続かない。より情けなさを痛感してしまい、口が動かない。奇妙な間が空いた。ぽっかりと開いた間は永遠に思えた。
弾、と短くマイクが呼びかける。ようやく、口を開いてくれた。サングラスを外してこちらに詰め寄ってくる。これから来る罵倒の嵐に覚悟を決める。
「よくやった!」
予想は大きく裏切られた。
大らかに笑い、ハグをしてきた。
まるで初めての野球でホームランを打った息子を褒める親父のように笑って喜んでいた。
「性能、操縦技術ともに劣っていたろうに、初めてで、候補生相手にあと一歩まで行けたんだ、お前は十分によくやった。」
「……でも、負けました。俺は……」
涙ぐんで言葉が上手く言えない。評価されたことはうれしく思う。今まで、こんなにも評価されたことは無かった。家の中では俺を見てくれる人は少なかった。
周りに俺よりも輝いている人がいて、俺自身も大したことがなかったからだ。Rインダストリー社の訓練に従って、ようやくここまで来れたのだ。そうでなければ、虫けらのように嬲られて終わったことだろう。
「弾、勝ち負けも必要かもしれん。人間てのは結果主義だから、負けたことをとやかく言うやつもいるだろう。確かにお前は危ない戦術を使ったし、負けちまった。非難される点もあるかもしれない。だが、俺達は違う。お前は逆境だろうと諦めなかった。泣き言も言わなかった。そして俺たちを頼ったが、試合に負けて、俺達に申し訳なくなって、ぎこちない笑顔までした。お前は強い。自分の弱さも結果も全部受け入れた。そんなお前を笑うヤツは俺たちの中でいないさ」
ニッと笑って頭を力強く撫でる。大きな手だ。大人の手がこんなにも大きいと思ったのは初めてだ。
「あとでお祝いですよ弾。もちろん来てくれますよね?」
アカネ達の誘い、彼女たちのお誘いを無下になど、どうしてするものか。
鼻をすすって、涙をふく。精一杯の感情を込めて俺は頭を下げる。
「ありがとう。」
この一言しか言えなかった。
俺の初陣祝いは格納庫近くの倉庫、つまりはマイク達の部屋で行われた。ヴィンセントにマイク、アカネにユーリとささやかなものだ。
「それでは、初陣において自らの有能さを証明した弾を祝って乾杯!」
乾杯!と皆で飲み物の入ったグラスを頭上高く上げる。
ヴィンセントが司会を務める
「今回の弾の活躍は実に見事だった。初陣にて作戦の9割を遂行し、ブリテン女に目にもの見せた。正直言ってスカッとした。最高だ」
酒は飲んでいないが、酔ったようなテンションの高さを見せるヴィンセン
トが俺の肩は叩く。
「イテッ、肩を叩くなよ、ヴィンセント。」
「一か月訓練の賜物ですからね、私たちも教えがいがあったというものです。これからもビシバシ行きましょう。」
「……お手柔らかにね」
アカネもいつもより、上機嫌に見える、そんな中ユーリはいつも通りに見える。
「ユーリ、君から何かないのかい?」
ヴィンセントが問う。するとユーリはグラスに入ったジンジャーエールを飲み干して喉を湿らせた。
個人的に言うと、ユーリからの評価が恐ろしい。何せ、格闘戦において、あの様だ。お叱りが飛ぶことを覚悟する。彼の口が開いた
「訓練が一か月では足りないのはわかっている。その中で奇襲戦法を粗はあるものの、よくやった……挌闘戦に関しては日本刀に心得がなくてすまない。教えられなかった」
一瞬、皆の口がぽかんと開いた状態になったが、その後笑いの渦が起こった。
「ユーリが謝罪してる!でも、謝るところ日本刀かよぉ」
「言う所違いますよ!」
「お前、ずれてるなぁ」
皆笑っていた。当のユーリは心なしか、いつもより黙り込んでいる。そんな姿を見て俺もつい笑ってしまう。ユーリがこちらを睨み、それを見てさらに爆笑する。
この日不幸だ、不幸だと嘆いたIS学園も悪くないと思えたが、そうではない、と思い直す。いや、違う。学園じゃない、彼らが最高なのだ。
目の前にいる三人に一歩近づけたことを信じて俺はグラスのジンジャーエールを飲み干した。生姜が効いた味は少し辛かったが心地よいものだった。
「というわけで、一組の代表は織班君に決定――!」
食堂を貸し切って一組の皆はお祝いをしていた。織班一夏が一組の代表に選ばれたことを祝ってのことだった。
「ちょっと、待ってくれ。何で俺なんだ? 俺は負けたんだぞ。」
一夏が疑問を投げうつ。彼は一次移行して試合に臨んだものの、ワンオフアビリティである零落白夜を使い、エネルギー切れで敗北した。よって勝者はセシリアなのだから代表は彼女がなるものだとばかり思っていた。
「それは私が辞退したからですわ。」
その疑問に対しセシリアが答える。
「まあ、相手が私なので勝ったのは当然ですが、大人げなく起ったのを反省しまして一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたの。」
所々にとげはあるものの、彼女はクラス代表を辞退した旨を伝える。
それに対して周りは表面上は笑顔だが、その内面での反応は様々だった。
―――どっちにも負けそうだったのに
そう思ったのは谷本癒子だ。
彼女は不満を抱いていた。数々の暴言を半っておきながら、この掌返し。しかも、特に罵倒した男子の片割れである織班一夏に先ほどから不必要に接近している。しかし、彼女はそうした不満を喉の奥に引っ込ませて笑顔を作り、皆に同調する。
「いや~セシリア、わかってるね~」
「やっぱり男子に目立ってもらわないと」
そう言ったクラスメイトに反応したのか、誰かが口に出した。
「五弾田君はいいの?」
それに対して皆は渋い顔をする。
「五弾田君も悪くないけど、地味かな。戦い方もなんか・・・」
「でもダンダン勝てそうだったじゃない?」
「あんな卑怯な方法だとねえ、その後織斑君との戦いでなかったし、データが無かったから勝てないと思って逃げたんじゃない?」
皆が皆、弾の戦い方に賛同している訳でなかった。まるで臆病者の卑劣漢とでも言わんばかりの生徒もいた。
「そうですわ、あのような戦い方をするような方ではいつかボロを出しますわ」
セシリアが周りに賛同し頷く。谷本癒子は一瞬憤慨しかけた。彼のことを賞賛する声の少なさとセシリアの言動に。
ヴィンセントが言っていた。あの戦法はミサイルの直撃を覚悟しなければできない戦法だと、弾は足りない力量を策でカバーしただけだ。ソレを非難する所がどこにあるというのか。少なくとも、ソレに引っかけられたセシリアが言うセリフではないだろうし、観客の私達が言うべきことでもないと思った。
無論これはヴィンセントの話を聞いていなければ、わかりにくいことであったろう。
聞いてなければ彼女も批判していたかもしれない。
しかし、彼女は聞いていたがゆえにそうはせず、むしろ弾を賛美していた。ヴィンセントの解説を聞かずに彼女と同じ考えを持つ者もいたが、織班一夏を祝う会で、この雰囲気では言えるはずもなかった。一夏がセシリアにソレは違うと言えば話は別だったが、彼は一言、
「皆、手厳しいなぁ」と言うのみだった。
主賓である彼がそうとしか言わない以上彼女たちは空気を読んで口に出さなかった。
「そんなことは無い、弾も凄い」と。
弾がいない中、一組のクラスメイト達は織斑一夏を祝い、大いに盛り上がっていた。
アカネが見れば憤慨しただろう、何故一夏ばかり賞賛されるのかと、ヴィンセントがいれば嘲笑しただろう。皆見る目がなさすぎる、と。 ユーリが見ればつまらなそうに呟くだろう。所詮はこんなものか、と。無意味な予想でしかないのだろうが。
一つはっきりしているのは織班一夏にとっても五弾田弾にとっても、この日は記念すべき日だったろうということである。片方は人を守る力を得られて、周りに祝福されて楽しい一日になったことだろう。最も一夏はこの時、親友がどう思い、何を得たのかは知らなかったが。
明るく、騒がしい楽しいお祝いは付近の廊下に響き渡るほど騒々しいものだった。
今回までのが弾の入学編です。
次からは他のメンバーについての話や、小話が多くなりますが
個人的にストーリー上必要だと思っているので、よろしくお願いします。
小説づくりは大変ですね。