IS to family   作:ハナのTV

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相も変わらず、中二ですが、よろしくお願いします。


亡霊は墓から、人は墓へと

フィラデルフィア、全長180mを誇る巨大な特殊潜水艦、亡国機業の根城であり、母艦である。

この艦内に戦闘員、非戦闘員込めて200人近い構成員が生活ないし、活動している。

その誰もが、技術者や工作員、戦闘員としては最高の人材を集めており、私たちのためだけの箱舟ともいえる。

 

そんな潜水艦の中を歩いて、格納庫へと向かう。ウェーブさせた自慢の金髪を揺らして、お気に入りの赤いドレスのまま、艦内を闊歩する。オータムに言わせると、あまりこの格好で歩いて欲しくないのだと言う。

 

そのたびに私が嫉妬してはダメ、と軽く叱ると、頬を赤く染めて子犬のように項垂れるのが可愛く思えてならない。

 

だから、私はこの服で歩くという面もある。

 

「お早うございます、スコール」

「お早う、クラウツ」

 

肩に鉤十字の刺繍をしたドイツ人、クラウツが資料を片手に私の前に現れて、それを手渡してきた。

手渡された書類に目を通すと、そこには学園襲撃時の機体の修復と改良が完了した旨が書かれており、細かな費用から、次の改良プランのための予算まで記されていた。

一通りそれを見て、私は感想を述べる

 

「いつもより、桁が二つ多いのね」

「派手に壊しましたからね。それにドクターの駄々もありまして……」

 

数秒だけ考えて、署名欄にサインを書いて、認証した。

 

「いいわ、存分に使いなさい。その方が皆嬉しいでしょう?」

「助かりますよ、スコール」

「いいのよ、お金なんて使う以外の道はないのだから」

 

クラウツはサインを確認して、喜びの表情を見せた。裏方や事務、経理に置いて、彼は有能であり、殺しの技術もそこそこである巨躯の彼は身長の低い私に深々と頭を下げて、去っていた。

そんな彼を見送りつつ、私は目的地へと歩く。

 

廊下でワイヤーを使った綾取りをするロゼ、仕事以外は眠るキティ、グロックのシルバースライドを磨くミモザの三姉妹たちが私が来たことに気付いて言葉を交わす。

 

「お早うスコール、良い朝ですね」

「スコール、お早う!」

 

私は笑顔で、手を振って挨拶を返す。キティは目を輝かせて飛び跳ね、ロゼがソレを諌めるいつもの光景を見る。

 

「よう、スコール」

「今日もお美しくて何より」

 

道行く構成員たちが、次々に挨拶を述べて、私もそれに答える。世の中には部下を労わらない上官が多いが、それは間違いだ。

 

特に、この組織のように曲者しかいない場所では、そのような態度で接すれば、いずれ不協和音を起こす要因となる。

 

だから、私は一人一人の名前を憶えて、人物を完ぺきに掌握しているのだ。カリスマとは無意識に人を引きつけるオーラだけではない、それに見合った人格を見せてこそ、カリスマと言えるのだ。

 

何より、こうして彼らと接するのも楽しいものだ。彼ら一人一人がエンターテイナーであり、世界を彩る一流のアーテイストなのだから、楽しくない訳がないのだ。

 

この艦内以外にも同胞たちは多く存在するのだが、仕事が多く、彼らと再び顔を合わせるのはまだ先という事は残念ではあるが。

 

長い廊下を進んで、目的地の格納庫の扉を開けて入る。技術者たちと、乗り手、整備員たちが忙しく走り回るのが見える。四十機ほどのドクター手製の兵器が飾りとして置かれているフルプレートの鎧人形のように鎮座して、その真ん中を歩くと、まるで膝をつく屈強な騎士たちの間を歩く姫のような気分になる。

 

整備員たちが仕事しながら私の姿を見つけて、感嘆の声を上げ、男女関係なく乗り手たちが口笛を吹いて、私のドレス姿に盛り上がる

 

「おお、スコール殿」

 

禿げ上がった頭に度のキツそうなメガネを掛けた老人が小走りしてやって来た。この亡国内で随一の技術者である、ドクターが私にお辞儀をして、ここに訪れたことに感謝の意を表明した。

 

「お越しいただき、感激の極みです、スコール。早速ですが私の作品をご覧になっていただけませんか?」

「ええ、その為に来たのよ、見せてくれるかしら?」

 

私が穏やかに頼み込むと、彼は弱い70近いとは思えない、思春期の少年のように興奮した様子で、感情の高ぶりを見せた。

 

私についてくるように言って、格納庫の奥へと案内する。その姿を見て、パイロットたちの中でも腕利きのトカレフがドクターを茶化す。

 

「爺さん! いい年こいて恥ずかしくねーの? 自重しろ、バーカ!」

「うるさいぞ、トカレフ! この冒涜者共め!」

 

そうドクターが反論して、笑い声が起こる。それに続くようにトカレフの周りの物がヤジを飛ばす。そんな彼らに向かって私がドクターの前に立って、言い放つ

 

「嫉妬はいけないわよ?トカレフ。心配しなくても貴方たちにも構ってあげるから、安心なさいな」

 

トカレフたちが歓声を上げて、拍手を送って来た。黄色い声を浴び、口笛を吹かれて、私を称賛するのに対して、投げキッスだけを残して、ドクターの案内する場所へと向かう。

持つべきものは可愛い部下か。

 

歩いて、一分半ほど経って、厚い金属の扉の前までたどり着いた。ドクターがパスワードを打ちこんで、網膜スキャンと音声スキャン、さらにカードキーを通して、その扉を開けた。

 

扉の向こう側には、たった一機、鎮座している機体があった。有機的なデザインで、曲面が多い装甲、虫のような複眼をもった機体が正座するように存在していた。

これが我々の主力、EOSと呼ばれるISもどきを改造した「ハスタティ」である

 

「流石ね、ドクター。ここまでの物はそうないでしょう」

「いいえ、それ程でも。 動力は私の専門分野で作った物を使っております。単純な出力合戦なら打鉄に負けることはありません」

 

ドクターは兵器開発者だが、彼の専門はそれではない。彼の専門分野は核開発に関わるもので、この機体に使われているのは核融合バッテリーである。

 

ここまでの小型化は世界樹何処を探しても彼だけが可能な技術であり、この分野に限り篠ノ之束に負けることはない。

 

核バッテリーから得られるエネルギーによって、元のEOSにはなかったパワーと稼働時間を会得に成功し、いまやISもどきと言う事は出来ないまでに成長した。

 

各関節のしなやかさを維持するために各関節には人工筋肉繊維を使用し、曲面でできた装甲はその動きを阻害しないようにしている。

 

装甲の強度は決して強いという訳ではないが、ISで標準的に使われているレッドバレット程度の弾丸なら防げる程度は確保している。

 

Rインダストリー製と違うのはこの点である。向うは完ぺきな兵器として売り込むために角ばった装甲を多用し、兵士に安心感を抱かせるなどの目的も兼ねているのだ。

 

また、モーターによるパワーアシストも人口筋肉と比べてコストが安く、整備が安易であるであるためだ。

 

欠点は一機につき、戦闘兵器としては常識外れのコストがかかることと、パイロットの心理的な問題が発生することにある。

 

時に戦車砲や艦船用の砲、エネルギー兵器飛び交う戦場に核融合炉を背中に戦いに行こうと考えるモノは普通はいない。

 

通常なら放射能、誘爆のリスク等で、絶対に使おうとは思わないが、亡国の構成員、少なくとも私の配下にそんなことを恐れるものはいない。

 

むしろ、中にはクリスマスのように光ってステキだと、豪語する者すらいる。

 

たかが、核で動くバッテリーという程度の認識しか発生しない、あらゆる意味で亡国にしか使えない機体と言える。

 

「いい機体だと思うわ。デザインも無駄な所が少なくて私は好きよ」

「それは、ありがとうございます。しかし、連中ときたら、それがわからんのですよ」

 

ドクターはメガネを掛けなおして、深いため息を吐く

 

「やれ、ワイヤ―ブレードをつけろ、装甲を増やせ、チェストリグを増設しろ、スラスターを増やせだの、完ぺきな私の芸術品に無駄なモノをつけたがる……これだから、兵隊と言うのは度し難い!」

 

その場で地団駄を踏んで、トカレフたち冒涜者達を罵倒する。彼にとって、自身が制作した兵器は彫刻品のごとく芸術品の一種であり、その美学によれば、無駄のない物こそ美しく、ただ殺すために進化した兵器は無駄のない芸術品であるというのだ。

 

そうして、作られた芸術品で、あらゆる状況を想定して作られたが、トカレフたちにとっては装備が足らない、という事で対立しているのだ。

 

それでも、リクエストに応得ているのは流石と言ったところか。

 

「でも、私たち以外は乗ってくれないのも悲しいわね」

「全くですな。核融合と聞いて逃げる若者だらけです。日本で言うゆとりと言うモノですな」

 

私はそっと、目の前の機体を愛でるように撫でて、見つめる。

 

「だからこそ」

 

一拍置いてドクターの言葉をつづる

 

「ちゃんと応えてくれて、感謝しているわ。お詫びも兼ねて、予算を一桁上げるわ、それと研究室のスペースを広くするから……お願いね?」

 

手を合わせて、ウィンクをして彼にお願いをする。すると、彼は大きく頭を下げて礼を言って、小躍りする。

 

「ありがとうございます! このドクター、身命を賭けて、更なる進歩をお見せいたしましょう!」

「おおげざよ、ドクター。でも期待してるわ」

 

少し、苦笑を見せる。ドクターは早速と言わんばかりに研究員に召集をかけて、研究をすぐにでも再開することをアナウンスで伝える。

 

それを見て、夢に向かう彼らの姿を一通り見て満足して、私は踵を返す。

 

準備は進んでいる。歴史を動かす準備は着々と進んでいる。目的もバラバラで、中には手段のために目的を選ばない者達の集まりで、我々は構成されている。

 

イデオロギーも祖国愛もない、あるとすれば私が用意した劇場と小道具だ。終わりはあっても脚本はない、全てがアドリブで決まるストーリーで、私たちは自分を演じる。

 

此処にいるのは他人によって用意された脚本に飽きたもの達の集まりだ。ある者は国のために働いた、下らない駄作を作っては一喜一憂する上司を見てため息を吐き、ある者は世界の最底辺で約束された犬以下の人生を過ごしていた。

 

また、人間を殺した時の虚無感を求める者もいる、ブラッドバスに浸る自分に酔いしれる者もいる。

 

そんな人間達が素のままでいることができれば、どれほど魅力的な役者になることか。

 

「いいわ、本当にいい」

 

そう一人つぶやいた時、携帯端末に連絡が入った。腕時計型に作られたソレを操作して、空中に画面を投影させると、そこにオータムの顔が映った。

 

その顔はにこやかで、頬を紅色に染めて、褒められるのを待っているかのような顔だった。それを見て、私もにこやかに微笑み返した。

 

「手に入れたのね?」

『ああ、スコール。お前の望みの品だ』 

 

今日はどうやら運が向いているらしく、何とオータムからプレゼントがもらえることが分かった。寂しくも健気な兎と痩せたオオカミの二人を手にしたという、報告は私を存分に舞い上がらせた。

 

「彼らと代われるかしら? オータム」

 

それを聞いてオータムは口をとがらせて、抗議した。キャンキャンと子犬のように吠えて抗議する姿が可愛らしかった。

 

『おい、スコール。私を差し置いて、それはないぜ! まだ、褒めてももらってないぞ!どうして、いつもそうやって……!』

「浮気じゃないわよ、オータム。せっかくの貴女のプレゼントですもの。しっかりと楽しまないと貴女に申し訳が立たないわ。貴女の思いに応えるためだと思ってくれないかしら?」

『でも……』

宥めるように言って、立体映像の彼女に向かって頭を撫でるような手つきをすると、彼女は実際にその場にいるかのように頭の位置を私の手の所まで下げた。

そして、私の手の感触を想像して口元をふにゃりと緩ませた。

 

「お願いできるかしら? オータム」

『……わかったよ。ただ、兎の方は今意識がない。スレートしか起きていないから、そこは頼むぜ』

「いいわよ。帰ってきたらたっぷりと楽しみましょう?」

 

微笑みを送り、オータムが張り切ってスレートを連れてきた。スレートは少し抵抗を見せていたようだが、手を縛られているらしく、オータムに勝つことはできなかった。

 

立体画像がスレートを映し出した。その顔つきは亡国を離れてから、変わっており、ハリネズミのように周囲に棘を発するような雰囲気はなく、丸くなっていった、

 

私はそれにゾクリとするものを感じつつも、スレートと相対する。

 

「お久しぶりね、スレート。少し肌につやが出てるのね?」

スレートは無言だったが、横からオータムが肘でスレートを突いて話すように促した。

 

『スコール……ハッ、できれば、もう二度とはその面見たくなかったよ』

「私は会いたかったわスレート。片思いは辛いものね、探すのに随分と苦労したのに、ツれないわね?」

 

私が冗談めかして言うと、スレートは殺気だった目で私を睨み付ける。例えるなら、刃の荒いナイフだった。恐ろしくはあるが、負傷しているせいか、どこか精彩を欠いていた。

 

『黙れ、イカレ女が。世界が燃えること以外で感じられない、お前の事だ。俺たちを捉えたのだってロクでもない理由だろうが』

 

私は彼の言い分を全く否定せずに肯定し、話を続ける。

 

「ええ、そうね。兎さんにある時期と共にISの話をされると、とても困るのよ。でも、貴方たちと話したいというのもあるのよ? よく言うじゃない、悪党は長話が好き、と」

 

スレートは奥歯を噛みしめ、バリッと鈍い音を立てていた。怒りのあまりに口の端から血を流している。

 

「貴方はいい人なのよ、スレート。悩んで、迷い続けているのに、戦闘能力は高い。雑念が多いのに、悟ったような顔をする。信念に拘る者達にとってはとても許しがたい存在。

そう言う人にとって皮肉な男なのよ?」

 

笑みが隠せず、私はスレートに向かって顔を歪ませる。その瞬間、スレートの顔に畏怖の感情が見えた。

 

創作に化学、歴史にも言えるが、どれも常識をやぶってこそのものではないか。

あり得ないことが現実に、社会がひっくり返り、永遠の繁栄が一瞬で虚無になる。

 

それを自分たちで行えた時、喜びは最高潮になる。

 

人が自分に驚きの表情を見せた時に感じるあの喜びこそが、思考であると私は信じる。

 

例えば、スレートが真に世界の英雄となったとき、世界の人々はどうするだろう。

 

今まで、彼を非難していた自分に赤面するのか、はたまた、八百長だ、と言って今までの自分を正当化するのか。

 

全ては核心のない事実の元で永遠と論じられるだろう。

その様を真実を知っている私たちと後世の者達だけが楽しめるのだ。

 

これこそが、エンターテイメント。役者も観客も楽しめる最高の物だ。

 

「今私たちがしていることは風船に空気を送り続けていることよ。溜めて、溜めて、膨らませて、膨れ上がったソレが割れる時、そして、それを私や貴方のような人間が割ったとき、世界は踊るわよ、スレート」

 

 

その時、スレートは訊いた

 

『何が望みだ?』

 

私はそれに対して、答えた。

                         ・・   

「決まってるわ。ISと世界を最悪の形で壊すことよ、私達で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この国には四季と言うものが存在し、かつての人々はそれぞれの季節に違った趣を見ているのだそうだ。彼らの意見には私もうなずく。ホテルに向かう途中で見かけた紅葉の散る様は美しく、散った葉には有終の美を飾った者と同じきらめきが見えた。

 

しかし、同時にこの国の人間に失望も得た。これ程、自然を愛せるだけの場に居ながら、男も女も化粧と着飾った服に身を包んで、自然を演出しようとしない。

 

嘘だらけの飾りを身に着けて、互いに優劣を競うのだ。銃を持つことで万能感に浸る男や、ISが使えると言うだけで優越感を得られる女と何ら変わりがない。

 

このホテルを選んだのはそう言う理由でもあった。ここは和の心を忘れていない、そう感じられたからだ。

 

エレベーターでスウィートルームのある40階まで上がり、廊下を進む。部屋の前について、カードキーを通して、開錠し扉を開くと、そこに二人の少女がいた。

 

片方は黒い髪のショートカットで年相応のお洒落な姿ではあるが、WA2000と言う狙撃銃を布で磨いており、その目には黒く燃え盛る炎を宿している。

 

もう片方は髪の一部をゴムで可愛らしく纏め、自ら捨ててきた場所の白い制服を着て、もう一人の周りをくるくると回り、進んで話しかけている。

「ねえねえ、偶にはお出かけしない~。そんなもの拭いてるよりはずっといいよ~」

 

そう誘いをかけたが、黒髪の、マドカは一瞥もせずに冷たく言い放つ

 

「朝からうるさいぞ。お前は私を友達か何かと勘違いしているのか?」

「違うの?」

「違う」

 

マドカは金色に光る308ウィンチェスターマグナム弾を指に挟み、本音に向けて突き出した。それは警告だった。やかましく、しつこく話しかける本音に対して次はない、と直接言葉に出さずに彼女は警告した。

 

しかし、本音に対して、弾丸や刀剣など、あらゆる脅しは通用しないのか、眠たそうに開かれた双ぼうに妖しさをキラリと光らせて、口元がいつも以上に緩む。

 

「友達は要らないってこと?」

「そうだ」

「じゃあ、シャルロットは? 彼女は貴女にとって、何?」

 

ずい、と体を乗り出して、弾丸を喉元の位置に自ら引き寄せた。言葉と態度の両方で本音はマドカを挑発した。

マドカは目を鋭くして、本音を睨み付ける。目だけで人を殺さんとする、刀切っ先をイメージさせるものだったが、本音のような化け物にとっては唯の面白い見世物にしかなりえない。

 

「貴様には関係ない……私は命令されてここにいるだけだ」

「本当は嬉しいくせに~。素直になろうよ~まどっち? でないと、愛しのシャルロットに嫌われるよぉ?」

 

その瞬間、マドカが激発した。マグナム弾をかなぐり捨てて、ストッキングの中に隠していたナイフを振るおうとした。

 

そこで私は動き、彼女ら二人の間に入った。左手で、マドカの手を捻り、右手でマドカの後ろに回った本音の肩に仕込み刀の刀身を添える。

 

彼女ら二人まで、スウィートルームという事もあって、それなりに距離があり、近づくのはひと手間だった。

二人の顔を交互に見て私は静かに言う。

 

「喧嘩はよしなさい。私も年だ。戦時以外は穏やかな時を過ごしたい時もある、その老人を労わってこの場は治めてはくれんかね?」

 

マドカの手に加える力をより強くし、本音の喉元に数センチほど近づけて、頼み込むと、二人は息をゆっくりと吐いて、マドカは怒気を、本音は悪戯心を鎮めた。

 

「それでいい」

 

私は刀をステッキの中に仕舞いこんで、短く切った髪の毛を撫でつける。これも仕事と趣味のためとはいえ、手間がかかる、と思わないでもなかった。

 

学園祭の襲撃以来、今後の方針で決定されたものがいくつかあるが、これもそのうちの一つだった。スペアパーツの多いアラクネを持つオータムがイラクへと行き、兎狩りに派遣される一方で我々に命じられたことは何か、と言われればIS学園への干渉だ。

 

まず、先の戦闘で最も損傷度が低く、腕前と人格面での考慮を考えて私に白羽の矢が立った。亡国の目的はさておき、ユーリと言う私の人生をかけた研究の近くにいるべきだ、というスコールの計らいで日本残留組になった。

 

次に布仏本音だ。元IS学園生徒であり、ISそのものである彼女の目的は学園の友達を幸せに、という事で、彼女は自ら希望した。

 

彼女自身のメカニズムはドクター達が事前に調査済みなので、研究対象としてではなく、純粋に亡国の一人としての参加となる。

 

もっとも、彼女を一人、つまり人間として数えるべきか、どうかはこの際は置いておくが、そもそも人間としての思考回路を持っているか、どうかすらわからない以上、私としてはあまり信頼できない。

 

三人目はマドカだ。この選出は彼女の希望によるものではない。彼女のサイレントゼフィルスは現在、彼女の手を離れており、今はIS無しの状態だ。

 

サイレントゼフィルスは強奪した機体であり、世代は第三世代相当、第二世代型でやろうと思えば、ラファールのパーツで代用できるアラクネとは勝手が違うため、今頃はフィラデルフィア艦内で修復中だろう。

 

そんなマドカをここに配属させたのは、スコールの意志だ。彼女はマドカの行動を見返して、フランス代表候補生シャルロット・デユノアと何らかの関係を持っていることを知り、彼女にそのまま、関係を維持ないし、発展させることを命じたのだ。

 

スコールに言わせると、彼女には素質がある、という事らしい。スコールの指す彼女が果たしてどちらの事を言っているのかは別として、マドカはこれに反発した。

 

しかし、学園襲撃時にシャルロットの機体に対してのみ、手心を加えたことで自らの位置を晒してしまう発端を作り、あまつさえ機体を半壊にまで追い込んだという事で、罰も兼ねた命令に対して、彼女に拒否権は無かった。

 

今の彼女は目の前に仇敵がいるというのに、武器が無く、どうしようもない状態にあるだけので、来る日も来る日もストレスを溜め続けているという訳だ。

 

そして、先ほどのようにじゃれ合いをする。

私はソファに深く腰掛けて、ステッキを傍に立てる。深く息を吐いて、二人に向かって言葉を送る。

 

「君たち二人は苦労する。何が不満でそうじゃれ合うのだ?」

 

マドカは舌打ちをして、顔を背け、本音は一瞬キョトンとした顔で私を見て、猫を真似てソファの背もたれに、自分の体を預けた。

 

「スパ爺も何が不満なのさ~」

 

重力に身を任せてたわわに実った二つの果実をソファに押し付けて、その様を私に見せつけるようにする。

 

「何のマネかね?」

「こんな可愛い子相手にできて嬉しくないの~?」

 

私はため息と苦笑を混じって、彼女の問いに答えた。

 

「ペットでもない犬や猫と変わらんよ。私の考えからすれば、人間は基本的に可愛げが無いものだ」

「人間不信?」

「いや、大きすぎて手に余るのが嫌なだけだ」

 

ふうん、と声を漏らして、本音は自前のジャンプを利用して、体を量子化し、冷蔵庫の前に立っていた。

 

冷蔵庫から適当な飲み物と菓子類を取り出して、器用にグラスを口にくわえて、それらをテーブルの上に置いていく。その行動に私は違和感を覚えたが、気にせず本音が持ってきた飲み物の中からウィスキーの瓶を取り、グラスに注いだ。

 

「ところでさ~、何でユーリに拘るの?」

「気になるかね?」

 

本音は大きく二回頷いた。手元にポテトチップと高いチーズを手にして、見世物を見物する客のごとく、話を待っていた。

私は、小さく笑ってグラスの酒を呷った。口の滑りを少し良くして姿勢を正す。

 

「スパ爺の目的って話に聞いたけど、強い兵隊さんを作ることって聞いたんだ~。でも、それがわからないの。どうしてユーリがそれに当たるのかって。ユーリは確かに強いけど、スパ爺が今まで、育て来た兵隊さんならもっと強いのもいたんじゃないかな~?」

 

私は顎に手を当てて、切りそろえた髭を撫でて答えた。

 

「成程、実に正しい疑問だ。確かに、私の目的はそれだ。昔、スぺツナズのような部隊で教鞭をとっていたことがあったが、確かに技量だけならユーリを超える者もいた。しかし、ユーリには彼らにない物があった」

「それは?」

「適応だ」

 

私はそう一言答えた。すると本音は頭の上にクエッションマークを浮かべた。

それを見て私はそれが何を意味するのかを説明した。

 

「最強の兵士とは何か? そう訊かれた時、皆は感情を切り離し、最高の技量を持つ者と言うだろう。しかし、それは人間ではなく、機械だ。そして、機械は一度バグが発生すると直すのが難しくなる」

「バグ?」

 

そこで反応したのはマドカだった。話を聞かず、銃の整備か、胸に吊り下げたペンダントでも弄っているものだと思ったが、意外にも聞いていたらしい。

 

「例えば、生まれながら軍隊の中で教育された者がいたとしよう。彼ないし彼女が外界との繋がりを排している以上、それは優秀だ。しかし、一度この空気に触れたが最後、それは使い物にならなくなる」

 

それに対してマドカが反論を述べた。

 

「何故だ? 幼い時から今教育されているのなら、そちらを真と捉えるはずではないのか?」

 

真っ当な反論だったが、私はそれこそが違うと否定する。

 

「ところが、違うのだ。そもそも教えていること自体が嘘なため、それを真とするにはあまりに土台が貧弱なのだ。なぜ、人を殺してはいけないのか? なぜ、愛されてはいけないのか? 彼らは答えることができない。知らないからだ」

 

傍らに置いたステッキから刀を抜いて、刀身を見せる。そこには小さな曇りがついていた。

 

「やがて、社会の、倫理や愛などに毒される。一度失ったと思った物を取り戻した、そう思ったが最後だ。今までの常識は間違いだと否定する。機械は両極端な事しかできんからな」

 

無論、これが全ての例に当てはまるわけではないのも知っているが、私はそうしてダメになってしまった機械を多数知っていた。

 

「愛に走ったと言えば聞こえはいいがな」

 

皮肉を込めて私は言った。

 

そういうモノは決まって私は人間だ、と機械の分際で叫ぶ。だが、人間なら違う選択ができる。それが適応だった。

 

「だが、適応できる人間の兵士は違う。二つの顔を見事に持ち合わせることが可能だ。最も、そう器用に対応できる人間は稀だかね」

 

「それでユーリなの?」

本音が急かすように訊いてきた。前置き話に少し飽きたのだろう。

私は頷いて、答える。

 

「思ったことはないかね? ヤツが学園にいた時、ヤツの周りの者と比べて、妙に悪い噂が少ないと思ったことは? クラスでの奴の評判は? 担任が奴に対して警戒をしていたかね?」

 

そう訊くと本音が少し考えて、合点がいったのか、「おお!」と感嘆の声を漏らした。

 

「そうだね~!確かにそうかも。ていうか、そうでもないと、かんちゃんが嫌がるもんね~」

 

そう感動すら覚えている本音を少し誇らしい気持ちを感じつつも、私は言葉を続けた。

 

「私はヤツが四歳の時から仕込みをした……ヤツはどこでも適応できる。そして、適応しても奴自身の刃が鈍ることは無かった。そして、次のステップへと歩を進めた 私はそれが嬉しくてならない」

 

その場で立ち上がって、バーカウンターへと足を運ぶ。もちろんステッキも忘れずに訊き手に持つ。

 

「次のステップとは?」

 

マドカが素っ気ない口調で聞いてきた。私は振り返ることもせずに答えた。

 

「君と同じだよ、マドカ。恋さ」

 

それだけ言って、バーカウンターで和製ウィスキーをグラスに注ぐ。

琥珀色の蒸留酒は何年もかけて熟成し、豊かな味を作り出す。それは人間と少し似ている。

 

酒も人も駄作から名作まで多種多様に存在する。

だが、もし自分で自分好みな最高なものを作り出せ、それを味わえるのだとしたら、それは最高の悦楽となりえるのではないだろうか。

 

ウィスキーがグラスで煌めいた。私はそれを味わった。

 




亡国話です。
此処では日本組と本部組で分けております。

個人的にはスコールとオータムの掛け合いを上手く書けたら、なと思っております。

セリフ回しはカッコヨクしたいものです。ルパン三世やブラックラグーン、はマルドゥックスクランブルのように

次から本編に戻るか、どうか考えているのですが、よろしければご意見等お聞かせください

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