IS to family   作:ハナのTV

94 / 137
二話連続投稿
書くの久々なので、感覚忘れてるかもです。


会議と学園は踊る

いつもの昼飯の時間、いつもと同じ、プレートランチに定位置と言っていいほどの席、そこは前より、静かでそして、広々としていた。

 

理由は簡単だ。男一人がこの場にいないからだ。ロシアからやって来た寡黙だが、頼れる男がこの場に居ないのだ。

 

「広いわね、いつもより」

 

鈴がつぶやいた。その言葉には嬉しさなどの感情は当然ない、むしろ皮肉な口調だった。

鈴の隣のアカネは無言で食事を平らげて、一つため息を吐く。

 

「そして、静かですね」

 

いつもは出てくる話題もこの時は、もっと言うと一週間前から出ていない。ただ、集まって湿っぽい顔を互いに見せながら、食事を済ませるだけだ。

 

「雁首そろえて、通夜みたいな雰囲気だな……」

 

俺の言葉にヴィンセントが反応を示した。

 

「……流石の僕もジョークを控えるさ。それに、スペースは二人分空いてしまっているからね」

 

ヴィンセントがナイフで空いたスペースを差した。もう一人の少女簪がこの場にはいないのだ。彼女はあの事件以降、一人光の失った瞳を見せながら光を当てれば、すぐに消えてしまうか弱い幽霊のようになっていた。

 

ふらふらと足取りもおぼつかず、艶のあった髪と肌は過去の物となっている。そんな姿を気にかけて、ほんの少し前、鈴とアカネが話しかけに言ったのだが、彼女は相槌を打つだけで、まともな回答をしなかった。

 

今の彼女にはあるべきはずの二人がいないからだ。本音とユーリ、二人の大きな柱がごっそり消えてしまい、精神の支柱を失っているのだ。

 

俺達も彼女の友達ではあるが、彼女の中の二人の代わりにはなれない。もし、片方だけでもいてくれれば、彼女も耐えられたかもしれないが、そんなものは仮定に過ぎず、ただ、俺たちは簪にせめてもの慰めの言葉を送る以外できない事に腹を立てるしかなかった。

 

これを打破するのは一見簡単だ。ユーリを連れもどせばいい。彼の無罪を証明するか、もしくは力づくで会長を倒して、彼を保護するか、だ。

 

だが当然、後者は選択できない。ピースの計画開始まであと少しの時期に大きな問題を俺たちが起こすわけにはいかない。それにすることが亡国と名乗ったテロリストと何ら変わらないから、アウトだ。

 

テロリストの機体など誰が買うだろうか、絶対にいない。

 

となると、選ぶべきは前者だが、これが難しい。楯無会長はユーリを学園祭襲撃時の敵組織と内通ないし、関係しているとのことで逮捕した。

 

これを否定するのが困難なのだ。まず、ユーリが敵組織の一人、音声記録によるとスパルタクと言う男と関係していることは間違いない。それも、スパルタクの口ぶりからユーリの戦闘技術は彼がルーツとなっているようで、相当深い関係だろう。

 

何せ、同志、息子と呼んでいたほどだ。かなり長い間一緒にいたに違いない。

 

音速での格闘戦で正確に即死部位を狙える技量を手にするのに、どれ程の長い期間を要するかは知らないが、絶対に一か月やそこらでは手に入らないだろう。

 

マーダーの戦闘記録から見ても、スパルタクの技量はユーリを圧倒していた、彼が師であるのは疑いようはない、これほど深い関係を持っている彼が敵と内通していると疑うのは無理はないかもしれない。

 

たとえ、その敵と激しい戦闘をしていたとしても。

 

さらに言うと、誰にユーリの無実を証明するか、だ。更識家に事実を伝えて、彼の無罪を証明できるとしても、彼らが素直に彼を解放してくれるか、どうかは疑問符が付く。

 

下手をすれば、自らの間違いを隠すためにユーリの抹殺すらしかねないのだ。どう動くか、慎重に吟味しなくてはならない。

 

俺はヴィンセントに訊いた。

「なあ、Rインダストリー本社には連絡は?」

「したさ、けど返事は来ていない。アルフレッドさんがどう動くか、そこが肝心だ」

 

ヴィンセントがそう答えると、鈴が立ち上がって、慌てた様子で訊いた

 

「ちょ、ちょっと、それって下手したらトカゲの尻尾きりにならないでしょうね?」

 

それに対する答えは沈黙だった。ヴィンセントは何も答えず、目を鈴から逸らした。

代わりにアカネが胸元に隠したドッグタグを出した。マーダーの待機状態であり、ユーリが連れ去られてから、以来アカネが預かっているのだ。

 

「可能性はゼロではないでしょう。機体は今手元にある。最悪、マーダーが失われることだけは避けられる……それに」

「それに? 何よ、もったいぶらないでよ」

 

鈴が問い直すとアカネは答えた。

 

「実は私もヴィンセントも彼に過去に関しては何も教えてもらってないんです。本人からだけでなく、会社の方からも」

 

その言葉の意味するところは言わなくても理解できた。もしかしたら、アルフレッドさん達、もといインダストリー社はユーリの経歴を知っていたから、使っていた可能性があるという事だ。

 

その秘密が露見した場合の危険なリスクを背負ってまで使う理由は二つ。一つはリスクに見合うだけの価値がある、もしくは彼らにとっては危険でもないリスクである場合だ。

 

簡単に捨てれる消耗品、もしユーリがそうだとしたら、鈴の言った通り、切り離される場合とて、有り得ない事態ではないのだ。

 

さらに、ヴィンセントが腕を組んで、口を開く。

 

「一番怖いのはユーリがマジで黒だった場合だ。信じたくはないけど、今は否定できる証拠が今までの絆しかない」

「……嫌な言い方ね。アンタは信じてるの?」

「信じてるさ、ただ信じる者が救われる訳じゃない」

 

鈴の問いかけに対し、ヴィンセントは苦々しく表情を変えた。確かにその通りだった。

今までの事件、振り返れば信じて行動するたびに、それを覆い尽くす巨大な現実が目の前に来た。

 

だが、俺たちが彼を信じなければ、彼に味方はどこにも居なくなってしまう。それを思えばこそ、俺たちが動くしかない。

 

そんな頭の中グルグルと同じ所を回っていると、一人の人影が近づいてきたのが分かった。

そちらへと振り返ると、山田先生がそこに居た。

 

「山田先生?」

 

俺がそう名前を呼ぶと、彼女は一つ頷いていつも通り温和な笑顔を振りまきながら、彼女は口から言葉を発した。

 

「皆さん、そろそろ授業ですよ。教室に戻って、次の授業の準備をしてください」

 

ただの生徒への注意だったが、彼女が出口の方へと振り帰ったとき、テーブルに一枚の紙切れがいつの間にか置いてあった。

 

ソレを手に取ってみると、裏側に微小な機械のような物がセロハンテープで張り付けられていた。

 

「何だコレ?」

 

手に取って皆に見せていると、鈴が「あ」と大きな声を上げた。

鈴以外が驚いて、彼女を見やると彼女はその物体の正体を言った。

 

「盗聴器に小型カメラじゃない。しかも、軍用の物よ」

「何?」

 

俺はその機械を手にしながら、彼女の回答に疑問を持った。これ程小さな機械があるというのか、疑問に思えたからだ。

 

 

 

 

授業を済ませて、格納庫に早速駆け込み、我らがメカニック、マイクにその機械を調べてもらった。彼は片眼の暗視スコープに似た機械を頭につけて精査して結果をはじき出した。

 

「確かに、な。鈴の嬢ちゃんの言う通り、中国軍で使われている小型カメラと盗聴器と同タイプだな。外側だけはな」

 

マイクは機械を頭から取り外して、一つため息を吐いた。集中力をかなり使って少し疲れたようだった。

 

「外側だけって?」

 

鈴が問うと、マイクはどこからか、取り出したのか光学顕微鏡を取り出して、機械をステージの上に載せて、ピントを調節して鈴に見せた。

 

「パーツのいくつかがスイス産やらドイツ産やらでカスタマイズされてやがる。商品番号もご丁寧に全部消してな。多分コンセント付近に仕込んで電力は無尽蔵、機械自体が小さいから、見つけるのも一仕事だ」

「何よ、それ」

 

鈴が感情を露わにして、仕掛けたであろう人物を罵倒するが、この場に居ない物を否定しても、それはむなしく虚空に消えるだけだ。

 

「やはり、更識ですか?」

 

アカネがマイクに問うが、彼は首を横に振った。

 

「わからねえな。こいつだけじゃ、どう言おうが誤魔化さられる。こないだの亡国が仕掛けたと言われれば、それでオシマイだ。証拠の一つにはなるだろうが、決定打にはならんだろう」

 

歯噛みする俺にアカネ、ヴィンセントは頭を抱えて考えこむ。鈴は唸り声を上げて、苛立ちを隠すことをせずに悪態をつく。

 

「ああ、もう。あんな会長様の組織相手にいいようにされっぱなしじゃないの!せめて、アイツの組織がジエータイみたいに公の組織なら、証拠が揃えば終わりなのに!」

 

鈴の言う通りだった。もし仮に、更識家が公の組織なら、証拠を集めて、法廷で勝負すれば、勝つことができる。

 

しかし、相手は日本の非公式の組織。法廷などの保護下にもない反面、法に縛られることも無いし、親元の日本政府以外に罰せられるものはいない。

 

今のままでは揉み消しにあって終わる。ここを何とかすれば、突破口は見えてくるはずなのだが、それが思いつかない。

 

「要するに、俺たちに都合のいいパーティに出席さえしてくれれば、言い訳だよな?」

 

そこへマイクがグラサンを取って、聞いてきた。アカネがそれに対して「ええ」と答えると、マイクは一枚のチラシを見せた。

 

「なら、コイツは使えないか?」

 

彼が見せたのはキャノンボールファスト、弾丸より早く、をテーマにしたISの高速バトルレースの告知だった。

 

速度で相手より先にゴールにたどり着くか、武装で妨害して、全員倒して勝つのもありな、バトルレース。

 

本来国際大会で行われるはずの大会だが、この告知の物はIS学園があることから、この市の特別イベントとして行われるものだ。

 

「この大会に連中を引きずり出して、公の場で叩く!ってのはどうだ?」

 

確かにマイクの案は悪くない物に見えた。非公式の組織なら、公の場で叩けばいい。

相手は例えるのなら、吸血鬼のような物だ。光の照らされてない場では無敵を誇るが、一度光に照らせば、消滅する。

 

上手くいけば、日本は更識を手放す。そうなれば、ユーリを捉えている組織が根本から消える、中々魅力的な案に見えた。

 

だが、ヴィンセントは苦い顔をして、首を横に振った。

 

「悪くはないけど、ダメだ。こいつが行われるのは市のアリーナ。収容人数二万人以上、下手したら野球場以下だ。もっと大きなイベントでないと効果が小さい。せめて、あと四万人、そしてマスコミが総動員するぐらいでないと……」

 

ヴィンセントの指摘は痛烈だった。この規模では事件が大きくなるかどうかが、微妙だ。

やるのなら、徹底的にしなくてはならない。

 

大きなイベントの中で更識を落とす。コレを確実にするには、この大会の規模は小さいのだ。

 

「……なら、大きなものにすればいいんじゃない?」

 

鈴がひらめいたのか、そう言い出した。

 

「どういうことだい?」

 

ヴィンセントが問うと、鈴は答えた。

 

「例えば、インダストリー社がこのイベントに大きく関わるのよ、出資とかゲストを招くとか、アンタ達のISで前座をするとか」

 

それを聞いて、ヴィンセントは成程、と呟いた。彼は告知のチラシを見つめて、考えていくつかの案を思いついたのか、チラシを裏返した。

 

「うちの企業なら、金は出せる、だが僕たちは好かれてもいるが、憎まれてるRインダストリー社だ。イベントを行うにしても、企業単体だけじゃ弱い。皆が大好きなエンターテイナーなんか、都合よく……」

 

有名人の都合などそうそう取れるものではない。まして、Rインダストリー社は批判も多い企業だ。そんな企業の誘いに快く引き受けてくれる人がいくらいるだろうか。

 

条件は揃いつつある、しかしパンチが足りない。決め手となるキーマンがいないのだ。

鈴とヴィンセントが話し合う中、俺はどうすればいいか、また自分たちには何があるかを見渡した。

あるものと言えば、ラプターやハヤブサなどの機体。マイクさんと言うメカ二スト。協力してくれる鈴、それに先生方。レジスタンス達も頼めば参加してくれるかもしれないが、

可能性の段階では戦力には数えられない。

 

あとは、一人欠けたいつものメンバーだ。

 

ヴィンセントを見て。次にアカネを見た。彼女も何かしら考えているらしいが案が出ないようだ。

 

「待てよ」

 

そこで俺に雷が走った。突然のひらめきが起こったのだ。アカネを見た時、一つ思い出したことがあった。いるではないか、俺たちの求める人材がすぐ近くに。

 

その人物も来れるかどうかはわからない、しかし、他の人間よりかは遥かに可能性が高い。

 

「アカネ、頼みがある」

 

俺は一言彼女に言った。そして、その案の内容を話した時、ヴィンセントとマイクは指を鳴らして、それだ、と叫び、鈴は信じられない顔でアカネを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

Rインダストリー社本社。天を突くような高層ビルの会議室で、重役たちが揃って顔を並べている。彼らの顔はいつものものではなく、会議を無事に終了したことへの達成感で満たされているものではなかった。

 

皆が手渡された書類の束に目を落とし、ある者は苦笑し、ある者はキラリ、と白い歯を覗かせて笑みを浮かべ、ある者は不機嫌を隠さないでいる。

 

「それでは、今回のピースメンバー奪還の件はこれにて仕舞です。各々、書類道理に臨機応変に動くよう、お願い申し上げます」

 

アルフレッドがよく通る声で伝えると、重役の一人バド・ホワイトが挙手をして異論を述べた。

 

「決まったことに何かいちゃもんかね? バド」

「それもそうでしょう、アルフレッドさん。コイツは企画なんてものじゃない、コメディ映画の脚本の間違いです、誰の案なんです?」

 

会議室の中では何名かが同調の声を上げた。私も彼らと同じように書類を見たが、確かにそう見えなくもない。

だが、その質問に対して、アルフレッドは真摯に答えた。

 

「私だよ。これでも昔は脚本家を目指していたのだ。悪くはないだろう?」

 

冗談なのか、それとも文句を言わせないための脅しか、アルフレッドはニコリと笑いながら、その実彼らを威嚇していた。

 

バド達は多少狼狽しつつも、それでも反論を述べる。

 

「しかし、方法があまりに……奇抜すぎる。日本政府に直接問うなり、でけん制と揺さぶりをかけて、しかるのち首根っこを掴みとるのが確実ではないのか?」

 

それに対して、私が挙手をして、答えを述べる

 

「更識は非公式の組織故、その手の脅しは功かは薄いのです。例え、効いたとしても時間がかかり過ぎる」

 

時間がかかれば、かかるほど、相手にでっち上げの時間の猶予を与えてしまう。最悪、不利とみられてユーリを抹殺されれば、全てが水の泡になる。

 

「しかし、もし既にないし、行動開始前に抹殺されていた場合は?」

 

そう訊いたのは日本人の竹中だった。彼の心配は最もであるが、その場合はこちらとしては対処できない。

 

現時点で、最良で最速の策がこれ以外にないのだから、ここはもう神頼みであると言っていい。

 

私がそう説明し、アルフレッドが続く。

 

「議論が出し尽くされたところで、諸君、今一度考えてほしい。 今回はいつものように、金で黙らせることができない。暴力で叩こうと思えば、できなくもないが、時期が時期だ。できることなら暴力沙汰は避けたい、そこは君たちと私で見解は一致しているだろう」

 

各重役達が頷いて肯定する。それを見て、アルフレッドが立ち上がりスクリーンに書類のデータを写して説明する。

 

「今回の場合、相手を打ち倒すにはまず陽の光に浴びさせること、いわゆるヴァンパイアハンターのような物だ。向うをこちらの土俵に連れ込んで、ブチ殺す。そのためにはキャノンボールファストをできるだけ大きくしなくてはならない」

 

スライドが移り変り、キャノンボールファストの内容が表示される。学園主催のイベントで、学校にしては大規模だが、我々としては小規模な二万人程度の収容人数の場所では今一つだ。

 

今回の場合は最低で六万人以上、それも日本の全マスコミが注目するように仕向けなくてはならない。

 

その大衆の目の中で更識を潰す。そうなれば、更識は永劫に存在を許されなくなるはずだ。

また、大人数が会場に来ることを良いことにこちらのPMCを警備員として配備してユーリ奪還の人員として動かすことができる。

 

最悪の場合、バルドイーグルⅡを投入も視野に入れることも可能だ。

それら全ての条件をクリアにするために、今スライドに映る人物がカギになる。

 

だが、その人物が会議室の皆の難色を示す原因となっているのだ。

事実、私も最初、昼食時にアルフレッドの口から聞いた時は思わず、グリーンティーを吹きそうになった。

 

「以上を持って、この方のご協力を仰ごうと言うのだ、諸君。偶にはジョークも必要なときだってある。アルゴを思い出したまえよ。小説は現実より奇と言うではないか、諸君らの健闘を期待する」

 

解散、と告げて皆が会議室を出る。それぞれの顔には不安そうなものから、どこか楽しみにしてる者から様々だ。

 

アルフレッドの秘書官である、キャシーに至ってはアルフレッドと同期の私に向かって肩をすくめて見せた。私はしかめ面をして、手でそれを追い払いアルフレッドと二人きりになったのを見計らって、彼に話しかけた。

 

「話があるが、いいか?」

 

二人だけの場所となり、役職を気にしない話し方にして接すると、彼は微笑んで、「いいとも」と言い、世間話をするような、のんびりとした口調で口を開いた。

 

「いやあ、君の部下は金がかかるが、それだけの価値がある物を見つけてくれる。マイクからの資料は読んだかね? 前回の襲撃でISのシールドと機動力を一時的に無効化するという特殊グレネードがあったそうだ、興味深いと思わんか?」

 

同意を求めるように言うアルフレッドに対して、私はピクリとも顔の筋肉を動かさずにジッと見る。

 

アルフレッドは鼻を一回鳴らして、「そう言う話ではなさそうだな」と自嘲気味に言った。

それを見て私は話を始めた。

 

「珍しいな、君が人助けとは……気でも変わったのか?」

「そう言うな、私は金銭こそが人生の伴侶だが、何も良心を失ったわけではない」

 

アルフレッドはニヤリと、悪だくみをしている顔を見せた。それを私に見せるときは決まって、騒動が起きたことを私は知っている。

だが、今はそんな事より、聞かねばならないことがあった。

 

「何故、ユーリの経歴を私にも偽っていたのだ?」

 

今回の事件を通して、私は徹底的に彼の事を調べ上げて、ようやく理解したのだ。それが不愉快な事実で、その上、アルフレッドのいつものやり口だと知っているため、余計に腹が立った。

 

そんな私に謝罪の意思を見せるどころか、さも当然そうな顔を見せて、自らの意見を述べた。

 

「知っていれば、君は拒否をしただろう。元スぺツナズ、アフガン帰りの殺し屋スパルタクの元で育てられたスーパーソルジャー。写真を見て分かったと思うが、スパルタクの活動のそばに引っ付いていた子供がユーリだ」

 

調べて、見つけた資料の事を言っていた。確かに写真にはチラホラと見ることができた。

アルフレッドはシガーケースから高い紙巻煙草を取り出して、火をつけた。

 

「どこで、彼を?」

「四年前、ヴィンセントやアカネのような人材を探すためにわが社の出資している孤児院を洗いざらいにしたとき、名簿に載っていたが、院長の記憶にはない子供がいてなぁ……とんでもない経歴の持ち主だったが、逆に私の欲しい人材だった」

 

アルフレッドが薄く笑った。その顔とユーリの経歴の話、そしてユーリ自身の容赦のなさから私は判断して、拳を固く握りしめた。

 

「今まで、彼にピースのメンバーの護衛をさせていたのか?」

「流石に勘が鋭いな、ロイ」

 

愉快そうに彼は微笑んだ。その顔に一瞬唾を吐きかけそうになったのを堪え、私はせめてもの憂さ晴らしに皮肉を言うことにした。

 

「君らしくない判断だな、腹の内側にピンの抜けた手榴弾を抱えるようなことをするとは思わなかったよ」

 

だが、彼は人差指を左右に揺らして、それは違うと返した。

 

「腹に抱えた手榴弾を誰かに投げつけることだってできる。事実、そう言う人間が欲しかった。アカネやヴィンセントではモラルや理性が働いてしまうからな」

 

私はアルフレッドを睨み、彼は私を笑ってみていた。

 

「……何人殺させた?」

「殺させてはいない。もっとも、邪魔者たちは決まって不幸な交通事故にあったようだがね」

 

アルフレッドは携帯灰皿に煙草を押し付けて、消した。そして、私の方を見て言った。

 

「だが、そんなことはどうでもいい。我々は既に誰もかもが彼ら子供に汚れ役をさせている。そんなことは今責めても何も始まらん。大事なのは彼らの未来を保証することだ、そうだろう?」

 

アルフレッドの言は正しかった、終わった過去より、変えるべき未来の話を我々はしなくてはならない。なればこそ、今の彼らにこれ以上汚れさせないようにすべきだ、と私は固く信じる。

 

「その過去が未来の彼らを苦しめない、と言う保証は?」

 

そう訊くが、アルフレッドの顔から余裕が消えることはない。

 

「そう言う保証ができる人材を私は選んだつもりなのだがね。だからこそ、救わなくてはならん。あのような人材は稀だ。何せ、どれ程外道な事をしても、ヤツが日常で問題を起こすことがないのだから……失えば、今までの投資を無にしてしまう。」

 

アルフレッドにとってはピースメンバーは貴重な歯車に過ぎないのだろうか。このRインダストリー社を大きくするため彼は歯車を選別して、組み込み、保存する。

 

彼はヴィンセント達を子供と扱ってはいないのだ。損得勘定をし、必要とあれば切り捨てることもするだろう。

 

ビルの窓から地上を見下ろした。街を歩く人々の中には子供がたくさんいることだろう。

彼らの多くは自分を大人として見てほしいと願ったり、子ども扱いを拒んだりするだろう。

 

だが、それが決して良い事なのか、私には判別がつかなくなってしまった。

なぜなら、目の前の男は決してヴィンセント達を子ども扱いしないのだから

 

「さて、ロイ部長。電話をかけてくれたまえ、君の助けを君の好きな子供たちが待っているぞ」

 

私は同期で、親友で、上司である彼に言われて、渋々携帯電話を取り出して、電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

九月と言う季節のパリは平均気温18℃と過ごしやすい気温であり、この日は彼女の海外ツアーの最終日で大盛況のうちに幕を閉じて、マネージャー兼プロデューサーの私としては一仕事を終えた後の達成感に酔いしれていた。

 

新入りのもう一人のマネージャーも以前から事務仕事から雑務まで何でもやっていたようで非常にスムーズに仕事を全うしてくれた。起こった問題と言えば、彼女がライブ中に突然の曲変更をして、配給会社のお偉い様の度肝を抜いたことぐらいで、いつも通りと言えた。

 

夜のパリの夜景を楽しみつつ、深いブーケの香り漂うワインを口に運ぼうとした時、

電話の着メロが鳴り出した。

 

電話番号から、上司の物だと判明し、私はワイングラスをひとまず置いて電話を手に取った。

 

「はい、もしもし」

『オットー君。今大丈夫かい?』

 

上司の気遣う声が聞こえて、私は「はい」短く応えた、上司は安心した吐息を漏らして、言葉を音に変換して伝える。

 

『まず、一言。今回のツアーの成功おめでとう。あの自由気ままなお姫様の手綱を取れるだけはあるよ。君は最高の男だ』

 

突然聞かされたのはお褒めの言葉だった。上司は次から次へとマシンガンのごとく、称賛の言葉を送りつけてきて、私をとにかく褒めた。

 

「ありがとうございます」

 

口で礼こそ伝えるが、内心は嫌な予感であふれていた。大抵、上司が部下の事を褒めて褒めて、褒めまくるときは二つ。

 

純粋に上司がいい人である場合とロクでもない頼みごとをする時と相場が決まっている。

当然だが、彼女から私を解放させまいとする彼は前者である訳がない。君子危うき所に近づかず、と言って僕を避雷針の代わりにして、ちゃっかり儲けは取る最低野郎だからだ。

 

何度あの憎たらしい男を駅のホームから叩き落として、列車に轢かれてミートパテになるのを想像し、高笑いしたことか。

 

一瞬素が出るのを抑えて、私は話を聞いていくと、上司が突如話題転換をした。

来たな、と私は身構えた。

 

『ところで、次の仕事を頼みたい。依頼相手はRインダストリー社で、日本で行うイベントに是非、とのことだ』

 

思わず、ため息を零しそうになった。ツアーを終え、ようやく休みでもとれるのでは、と期待した僕、いや私が期待したのが愚かだった。

 

これ程稼いできたというのに、上司はまだ金を稼ぎにいけと命ずるのだ。

 

「お言葉ですが、私どももツアーを終えたばかりでして……それに彼女も流石に疲れたでしょうし……」

 

少しは休みを寄越せ、と暗に言っているが、受話器の向こう側で聞こえたのは舌打ちだった。この程度のことぐらいは言わせてもらわないと困る。

 

そう意気込んで次の言葉を放ってやろうとした時、突然部屋の扉が開いて彼女、我がままお姫様、災厄の女王ことミサキ・ホーキンスが駆けてきた。

 

「ねえ、オットー!」

 

その愛くるしい目がキラキラと輝いており、聞くもの全てを魅了させてきた高いソプラノの声で彼女は私に大声で言いだした。

 

「次のお仕事、日本に行こうよ! アカネちゃんが電話してきて、私の歌を披露してほしいって! しかも、ISも出してくれるって言うし……」

 

私は……いや、もう自分を作る余裕はなくなった。僕は泣きそうになった。せっかくの交渉もミサキの乱入でパーになってしまった。

 

それだけではない、彼女の自主性が異常に働くとき、大抵いいことが起こらない事を僕は良く知っていた。彼女が自分の意志で積極的に動いた時、不可視の悪魔と天使が互いにダンスをして、僕たちの周りをクルクルと回るのだ。

 

その結果としてできるのは、生きながらにして地獄に叩き落とされるというのだ。

先ほどの例えが不適切と言うのなら、僕が悪魔と踊らされると言えば、いいだろうか。

 

「ミサキちゃん、疲れてるんだよね?」

 

恐る恐る効いた。YESとただ一言答えてほしかったが、彼女が僕の意志をくみ取るわけなかった。

 

「全然! さあ、行こうオットー! アカネちゃん達が私を待っているよ!」

 

そして、電話の向こうから「決まりだな」と言う声が聞こえて、僕はうなだれた。

また、災厄が起こる。それは決定事項だなと確信を持って、僕は一言断りを入れて、電話を切ってワインを一気にがぶ飲みした。

 

アルコールが急に回って、いっそ全てを忘却することを願いつつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが後の話、このライブを忘れることはできなかった。たった一つの些細なことで人生はいか様にも変わる。

 

それを見てしまったからだ。

 




今までのキャラほぼ全員を動かそうと躍起になった今回は、正直収集つくのか不安ですが、やってみます。

次回はユーリに関しての尋問回と楯無との過去話の予定です。
よろしければ、お付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。