IS to family   作:ハナのTV

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暇ができたので、作りました。
中二な事ばかり書いておりますが、楽しんでもらえると幸いです。


身の上話

喚起もされていないせいか、埃臭く、湿気がこもった不快な部屋の中、窓一つない場所で光は薄暗くされているLEDライトのみで、それが息苦しくさせている要因の一つで、それが目的とされていることは容易にわかった。この場所で俺は手錠をされたまま、パイプ椅子に繋がれ、天井を見上げる。

 

時たまに来る更識の者が俺に何かを吐かせようと、しつこく質問をすること、数日か、一週間、時計一つ見ることのできない、この場所で曖昧になった時間の感覚は俺を真綿で首を絞めるような気分にさせる。

 

睡眠もとれないことはないが、少ない睡眠時間は俺を弱らせることは無かったが、腹を立たせていた。そして、その俺をカメラで監視しているのだろう、何らかの目線を感じ取れ、さらに不愉快にさせた。

 

無論、この手の環境に慣れがなかった訳ではなく、まだ軽いほうだと思えたので、神経等が衰弱することは無かった。それでも、苛立ちは残った。

 

不思議なこともあるもので、俺はこの一人繋がれた状況にそう言った感情を抱いていたのだ。こういう場合はいつもなら卵の殻に閉じこもるかのように、意識を曖昧にして、時間が過ぎ去るのを早くさせるのが、俺のやり方だった。

 

しかし、今はそれができなかった。恐らく長い事、孤独とは無縁だったためであろう。

 

そんな疑問で暇をつぶしていると、部屋の唯一の扉が開いた。差し込む光に目が少しくらんだが、すぐに慣れた。

 

そこに焦点を合わせると、二人の人間がそこに居るのが分かった。一人は更識楯無だとすぐにわかった。この場所に何度も足を踏み入れては、俺に何か言う気になったかと聞きに来るため、その扇子を持つシルエットを自然と覚えたからだ。

 

もう一人の方はシルエットでは最初わからなかったが、よく見てみると、それは男でIS学園の制服を着ていた。

 

更識が弾やヴィンセントをここに連れてくるわけがない。奪還のリスクを考えれば、当然そうなると分かっている以上、答えは一人の人物に行きついた。

 

「織斑一夏か」

 

予想できなかった人物の名前をつぶやくと、目の前の織斑は「ああ」と短く言って、俺の近くに歩いてきた。

 

「何故、お前がここにいる? お前と俺はそこまで話した仲ではないはずだ」

 

俺は至極当然な問いかけをした。俺はこの男とほとんどと言っていいほど話したことがなかった。織斑にとって、ヴィンセントやアカネのような人間は嫌悪すべき存在に見ているそうなのを見て、いつも彼らと共にいた俺も同類と見たのだろうと思っていた。

 

だというのに、彼は俺の元へと来た。それが不思議でならなかった。

 

「貴方の人生に一夏君も興味があるのよ。それに私も質問を変えようと思ったのよ」

 

その答えを述べたのは彼ではなく、楯無で彼女は話題を変えると言った。

 

「俺に何を話せと言うのだ?」

 

俺は少し鼻を鳴らして訊いた。一夏の表情が一瞬こわばり、楯無の目が鋭くなった。

挑発をしたわけではなかったが、そう取られたのだろう。

 

すると、楯無は一つのUSBメモリを取り出して、自分のISの携帯端末につなげて、立体映像を空間に投影した。

 

そこにはいくつかの男女の顔写真と名前が映っており、顔写真の隣にはKIAと大きなアルファベットの赤文字で書かれていた。

 

楯無は一度大きく深呼吸をして、これが何を意味するかという事を説明しだした。

 

「四年と半年前の話よ。私達、更識はある非合法の組織を追っていた。そいつらはIS適性の高い女の子を誘拐して、家畜同前の実験台のために売ったり、中には臓器を取り出して、ネットで移植すれば適性が上がるなんて、デマを流して売りさばいていた本当の屑の集まりでね……日本人の被害もあって、私達更識が動くことになったの」

 

隣の一夏は緊張と憤り半々と言った顔をしている。俺はその話に何ら表情筋を動かさないで聞いていた。

 

「そして、それがコンロン山脈の朽ちた軍事施設だと突き止め、私たちは秘密裏の作戦を実行した。でも、結果は失敗だった。部隊は私を除いて全滅した。しかも、たった二人の親子のような暗殺者にね」

 

そして、資料が切り替えあられて、一枚の画質の荒い写真が現れた。そこに映っていたのは死体の山をかき分けて歩くVSS狙撃銃を持った紳士にも見える老兵とAKs74Uという短いAK小銃を手にした少年の姿が映っていた。

 

前者はスパルタクで、もう一人は間違いなく昔の俺だった。俺はその時、昔のアルバムを見たかのような気分になったが、楯無の顔を見て、すぐにそれも消えた。

 

「この少年……貴方よね? 噂は当時からあったのよ? スパルタクは最近、子育てに嵌って後継者を作ろうとしている、と」

「……後継者か」

 

その言葉に俺は笑みすら零した。それこそ、有り得ないことだと俺は知っていたからだ。

あの男はそんなことに興味など全くなかったからだ。むしろ、自分を継ぐ存在を作ろうとしてのではない。

 

スパルタクは生ける伝説だ。もし、その後継者が作られたとするなら、それは伝説を、彼と言う存在が生き続けることとなる。

 

ソレを考えれば、あの男は全く逆の事をしていると言えた。

 

「あの男はそういった物には興味は無かった。他人は所詮、他人だ。そしてスパルタクと言う名は更識のように襲名されるものではない」

 

楯無は扇子で口元を覆い、隠した。

 

「話を続けるけど……もう一度聞いておくわ。コレは貴方ね?」

 

写真の子を人差指でさして、確認を取るために訊いてきた。俺は躊躇いもなく首を縦に振った。今更隠すものではなかった。もっとも、自分から進んで語りたいと思うようなことでもなかったが。

 

楯無は確認を取ったうえで、話を続けた。

「なら、貴方はスパルタクと師弟関係にあって、私達更識の部隊を壊滅させた一人であることを認めるのね?」

「そうだ」

 

楯無は鼻を鳴らし、挑発をするためか、神経を逆なでするかのような声音で、その感想を述べた。

 

「随分とあっさり認めるのね。貴方のような人にとってはコレは覆い隠すべき過去ではなく、誇るべき過去なのかしら?」

 

俺は何ら表情を作らなかった。いつも通りの顔をして、ただ彼女の問いかけに答えた。

 

「俺にとって過去は過去でしかなく、どう足掻こうが変わりようはない。だが、他人にソレを言えば、嫌悪されるのを俺は知っている。俺は進んで自分から言わない、ただそれだけだ」

「簪ちゃんに言わなかったのはそれが理由?」

 

俺は首を縦に振った。自分の陰惨な過去を話したがるのは二つ。一つは自分を悲劇の主人公と捉えて酔う者と、もう一つはさっき楯無が言ったように功を誇るものだ。

 

俺はどちらでもなかった。また、平和な日常に生きる簪のような人間に言う話でない事を俺は知っていた。日常には日常の話題しか似合わない。

 

「成程ね」

 

楯無は目を閉じて顎に手をやった。考えた上での結論をまとめ、それを俺に突き付けた。

 

「貴方はやはり危険な人物ね。過去だけでなく、今でもスパルタク……いや、亡国機業とつながっている。そうでしょう? その上で簪ちゃんを利用して更識を監視していた」

 

伝えられた言葉に俺は一瞬理解が及ばなかった。前半はともかく、後半は全くと言っていい程のデタラメだったからだ。

 

「俺が亡国と? 俺は亡国そのものを知らないというのにか? 一体何を証拠にして、そんな事を言うのだ?」

 

楯無は不敵な笑みを浮かべて、映像を切り替えて、俺にその証拠を見せた。出てきたのは

音声を再生するためのアプリで、そのアプリから再生されたのは本音の声ともう一人は老人の物で、周りの喧騒や音から喫茶店のような場所で話していることが分かった。

 

『では、本音さんは個人的に彼の弟子に興味があると?』

『うん、できれば、教えてほしいな~。かんちゃんのお気に入りの人がどんな人かもっと知りたいし』

 

少しの間を置いて、老人のほほ笑む声が流れた。

 

『素晴らしい、友達思いの女の子がまだいたとは……この私も驚きましたよ』

『照れるな~、そう言われると』

 

椅子が床にこすれる音が聞こえた。楯無の隣の一夏が明らかに動揺を見せているようだった。

 

『彼の弟子、すなわちユーリは過去の我々がスパルタクに引き渡した子供なのですよ。当時の亡国は資金難でして、あらゆることをして資金を稼いでいたのですよ』

『孤児だったの?』

『似たようなものですな。彼らの絆は強かったようで、スパルタクが彼の元から去った後も何度か連絡を取ろうとしてたみたいですよ。スパルタクも彼を同志や息子と表現してますし、深い関係でしょうね もうすぐ会うとか言ってましたし』

 

そこで録音は切られた。楯無は俺の顔を伺い、織斑は俺を驚愕の目で見ている。

俺はため息一つ小さく吐いて、答えた。

 

「状況証拠にすぎん」

「でも、貴方は亡国に居たことがあって、一流の暗殺者としての訓練を受けた。そして、三年ものあいだインダストリーで潜伏し、次にここに来た。この一連の流れが偶然とは思えないの」

 

俺の目を真直ぐ見据えながら、楯無は持論を語り続けた。

 

「できすぎた話よね? 技量と機体を手に入れ、そして大きい組織が二つ貴方と関わりがある。それにインダストリー社も怪しくてたまらないわ。なにせ、メンバーに貴方の過去を全く伝えてない程だもの。それに、貴方自身の意志に関係はないかもしれない。諜報機関では刷り込みや、洗脳はおかしくないからよ。それを警戒すれば、こうなるのも納得でしょう?」

 

楯無は席から立ち上がり、俺の後ろに回り込んだ。肩に手を置いて、撫でまわし誘惑するような手つきで俺の首もとに手を回す。

 

「お姉さんは聞きたいな~。どうやったら、こんな人生を偶然歩むことができるのか。その経緯を」

 

俺は楯無の手に何ら感情も抱かなかった。その言葉にも同様の反応だった。彼女は恐らく、俺が今もスパルタクとつながっており、師弟関係として活動している悪でいてほしいのだろう。

 

だが、俺とスパルタクにそんな関係は無かった。俺は奴の元で育ってきたが、奴は優しい人間とはいいがたかった。その逆、あえて言うなら外道の類だ。

 

「貴方には不可解なことが多すぎる。師であるスパルタクと交戦していたり、五反田君や教師たち、生徒たちからの評判も悪くない。一体何をどうすれば、こうなるか、教えてくれるかしら?」

 

そして、その性格と彼の目的が16という齢の俺にこのような奇異な人生を歩ませてきたと彼女が信じるとは到底思えなかった。それは例えるならTV番組の犯罪者特集のような物だ。

 

どれだけ快楽殺人者の経緯を語ろうと、その殺人者の内側をくみ取ることはできない。異常な躾、異常な生活、少し見方を変えれば、どこにでもあるような事柄を歪みと捉え、事件は起こるべくして起こったのだと結論付ける以外、理解などは不可能だ。

 

「いいだろう」

 

しかし、俺はそれをあえて語ることにした。この話はスパルタクを知らない彼女たちに理解はできないだろうが、俺は話すことにした。それは自分の証明でもあったからかもしれない。

 

「そこまで聞きたければ、教えよう。ただし、理解ができんだろうがな」

 

俺は空間に映る一人の少年ともう一人の老兵の話を始めた。

最初はありきたりな出会いから。そして最後の任務の話まで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロシアの片田舎、地名すら乗っていない場所で俺は目を覚ました。木製の格調はあるが、古びた家で、燃え盛る暖炉の前に置かれたソファーの上で俺は意識を取り戻した。

 

背が小さかったその時は大人用の家具で囲まれた部屋は巨人の住居のように思えた。そこへ、背もたれに深く寄り掛かっていた大人の男が俺に気付いて、立ち上がった。

 

「目覚めたか」

 

その男は白く所々黒い髭を生やして、微笑みを浮かべて俺を見下ろした。

 

「ボクを買ったの?」

 

そう問うと男は頷いて、「そうだ」と告げた。俺の頭に手を置き、多少がさつで不器用ながらも撫でた。

 

「君には悪いニュースといいニュースを告げなくてはならん。いいニュースとは私は君をそこいらの人間の言う快楽のための道具にはしないという事だ。私にそのような趣向は無いし、下品ではないことを君に教えよう。また、君に衣食住を提供する」

 

男がそこまで言った時、幼い俺でもそれは信用に値すると分かった。男の言うことは無条件に信頼できる響きと言うか、何かがあった。

 

だからこそ、そう言う人間が言うあるいニュースが何なのか、聞かずにはいられなかった。

 

「悪い方は何?」

 

男は懐から鞘に入ったナイフを取り出した。AK用の銃剣で、革製のさやから取り出すと、何度も研ぎ澄まされ、刃が薄くなってしまった銃剣が姿を見せた。

 

それをひょい、と手で弄ぶようにして、自身の手で刃を掴み、柄の方を俺に突き出した。

俺はそれを受け取って刃をまじまじと見つめた。

 

「悪いニュースと言うのは君には私の研究を手伝ってもらうという事だ。そのために訓練をし、君を鍛え上げる。今から君はその一本の剣のように鋭く、美しくなって貰う」

 

幼い俺にはそれがどういう意味なのか、まるで理解できなかった。言い方が妙に抽象的で、当時五歳程度の俺には一つ一つの単語の意味が難しすぎた。

 

だが、それでも俺には過酷な生活が待っているであろうことはかろうじて理解できた。男の双ぼうには手に握った一本の銃剣よりも鋭い輝きが宿っていたからだ。

 

仮に俺が拒否ないし、反抗すれば何の慈悲も無く捻られるのは目に見えていた。雰囲気だけで圧倒されたと言えば、そうなのだろう。

 

「わかった」

 

俺は一言そう答えた。男は嬉しそうに笑い、もう一度俺の頭を撫でた。

 

「素直でいい子だ。では、五分後にリビングに来るといい。晩飯を用意しておく」

 

そう言って立ち去ろうとする男を俺は呼び止めた。重要なことがまだ聞いてなかったからだ。

 

「ねえ」

「何だ?」

「僕の名前とおじさんの名前を教えてほしいんだけど」

 

男は思い出したかのように声を上げて、苦笑した。忘れていたことを恥じ、俺に一言謝罪を入れて、質問に答えた。

 

「お前はユーリだ。そして、私はスパルタクと言う。よろしくな、同志よ」

 

俺はその時、自分の名前と男の名前を何回か繰り返し、呟いた。初めての名前だった。自分の名前もそうだったが、大人の名前を知ったのもこれが最初だった。

 

そして初めての人の家の窓を覗くと、白く綺麗な銀世界が広がっていた。四季の季節、暖炉の火、全てが新鮮で俺の人生は今思えば、ここから始まった。

 

俺はその日、初めて人の世で生を受けた。

 

 

 

それからの三年は訓練に次ぐ訓練だった。体力作りから、徒手格闘、ナイフ術、サバイバル技術とあらゆることを学んだ。

 

スパルタクはその道の達人であり、彼の持つ知識の宝庫によって俺は駆れの世界の住人となった。普通なら非難される訓練も、片田舎から更に離れた場所に住まうだけあって、全く咎められたことは無かった。

 

月に二、三度、山を下りて食料を買いに行くか、獣狩りに行く以外ほとんど山の中で育った。娯楽と言えば、スパルタクの書斎に会った本か、訓練だと言っても過言ではなかった。

 

俺はスパルタクとの訓練で自分を見つけているような感覚を持っていた。この時、訓練で使っていたナイフはゴム製の物ではなく、固いオーク材か何かでできた木製の物でペーパーナイフ程度の切れ味があった。

 

突かれるか、切り付けられるだけで痛みが走り、また体格差と経験差もあったため、勝てるわけもなく、俺は何度も地に伏せては立ち上がって、奴に挑んだ。

 

その日の訓練でも俺は彼に果敢に挑んでいた。

 

「体格差は不利な点だけとは限らんぞ、ユーリ。時と場合によっては体の小ささは武器になる。インファイトに持ち込めば、相手は必然と視線を下に下げる、その時お前の手を見るのは中々に難しい、もう一度だ」

 

そう言われて俺は奴の懐に飛び込み、文字通りインファイトに持ち込んだ。模擬用のナイフで三度刺突を行うが、いずれも防がれ、スパルタクの膝蹴りが、俺の顔面にぶち当たる。

 

俺はその場で踏みとどまり手から放したナイフを掴みとり、逆手に持ち替えて振った。一回、二回と切り付けるが、スパルタクが半歩下がるだけでリーチ外にされて、いとも容易く避けられる。

 

ならば、と思い、腰にさしていた予備のナイフを持ち、彼に投げつけ、同時に駆けた。

スパルタクが刃でソレを弾けば、隙が生じ、勝てると判断したからだ。

 

だが、実際はそうならなかった。スパルタクは人差指と中指の間でソレを受け取って、逆に投げ返し、それを俺は愚かにも弾くことで防いでしまった。そして、思っていたことがそっくりそのまま俺に返されて地面に組み伏せられた。

 

「投げナイフか……まだ教えてなかったが、良い筋をしている。驚いたぞユーリ。

次はソイツの正しい投げ方を教えよう」

 

スパルタクは愉快そうな笑いを零した。俺はその笑みに対して笑みで返した。その顔を見たスパルタクは感嘆の声を上げた。

 

「今笑ったな?」

 

俺はその時、反射的に顔を背けた。何故だか恥ずかしい思いに駆られたからだ。

 

「……笑っていない」

 

だが、スパルタクには全てお見通しだったのだろう、彼は今度は声を出して笑った。俺は寒さのせいではなく、間違いなく気恥ずかし赤ら顔を赤くした。

 

スパルタクは俺にいつぞやの銃剣を渡して、切り株に置いておいた狩りに使うためのスコープのついた旧式のモシンナガン小銃を拾い上げた。

 

「今日はここまでにしよう」

 

そう一言述べて、俺とスパルタクは帰路についた。

 

俺には父も母もいなかった。なぜ、自分がここにいるのかすらも、わからなかったが、スパルタクとの生活は俺を人間にしたのは間違いなかった。

 

そして同時に彼は俺を一本のナイフに仕上げてもいた。

 

その日、家まであと200m程となった時だった。スパルタクが何かを察知して、懐に手を入れてマカロフ拳銃を取り出して、俺に手渡した。

 

俺は普段訓練で覚えた手つきで拳銃のマガジンを抜いて弾数を確認して、再びそれを挿入し、スライドを引いて訊いた。

 

「誰か来たのか?」

 

スパルタクは「ああ」と答え、スコープで向う側を覗き見ていた。

 

「どうやら、招いてもいない客が来たなようだな。三流の殺し屋が、武器だけは揃えてやって来たようだ。少し予定と違うが、まあいい。ユーリ、向うには少なくとも6人いるようだ。外の連中は私が片づける。家の中の物を片付けろ」

 

その言葉の意味は10歳にもなってない俺でもどういう意味か分かった。

 

「殺すのか? 俺はまだ人は殺したことない」

「やり方は教えただろう?」

 

狩りをするのと、変わらない。俺とスパルタクにとってはそれが共通の認識だった。まだ、当時の俺は殺したことがあるのは兎と鹿だけだったが、それが人と何の違いがあるのか、俺はそう教えられていた。

 

違いがあるとすれば、スパルタクが言うには楽しめる場合があるという事だけでしかなかった。

俺は遠目で家の周りにいる連中を見た。彼らの手のひらにはケダール短機関銃やウージー、更にはAKM自動小銃などが握られており、ボルトアクション小銃と拳銃、数本のナイフしかない自分たちが不利に思え、それを尋ねた。

 

「相手は自動小銃を持っている。こんな武器で戦えるのか?」

「無い物をねだるより、自分の手元にあるもので勝負する方がいいと思わないか?」

 

スパルタクは既に構えていた。ライフルを雪の小高い山に置いて、依託して一発だけ放った。

 

雪山の中でライフル弾の音は良く響いて、次には仲間を殺されたことに怒りを露わにした声が木霊した。怒号と焦りの合唱が山の中で起こったのだ。

初弾を命中させて、ボルトを操作したスパルタクはスコープを覗きながら、俺にもう一度指示を下した。

 

「さあ、行け。早いところ狩り終えてしまえ。晩飯が遅くなるぞ」

「わかった」

 

俺は家屋の裏口に入るために遠回りをした。雪の上に体重をかけて、口から漏れる吐息を隠すために雪を咥えて、マカロフ拳銃を右手に、左手にAK用の銃剣を持って、慎重にかつ素早く移動した。狩りも兼ねての服装のため、白一色の服装という事も幸いして、見つかることは無く進めた。

 

を進めている途中もカラシニコフの7.62mm弾の連射音が絶えず響いているのを聞いて、スパルタクが戦闘をしていることを生きている証として、俺は彼の言った通りに家の裏口までたどり着いた。

 

戸に耳をつけると、ぼそぼそと話し声が聞こえ、数からして2人だと予測した。

銃剣を口にくわえて、扉をそっと開けた。

 

足音一つ立てないように、足運ぶに神経を使い、渡り廊下を歩く。居間へと進むと、まず二人の男が見えた。

 

一人は短いAKを持ち、もう一人も同様な装備をしていた。ボデイアーマーを着ているらしく、腰回りの動きが多少固く見えた。

 

二人はスパルタクの狙撃に悪態をつき、外へ出るか出ないかで口論をしている最中だった。

機会だ、そう思って俺は行動を始めた。

 

ナイフを左手で逆手に持ち、一気に駆け出して、一人に飛びかかり首の後ろにナイフを突き立てた。躊躇いのない一撃が男を死に至らしめ、絶命へと転がり落ちていく様を見る暇もないまま、俺はマカロフ拳銃でもう一人の脚部に七発撃ちこんだ。

 

本当は全弾打つはずだったが、装填不良が起こってしまい、途中で止まってしまったのだ。

 

ボデイアーマ―のような防御する装備もない脚部を七発撃たれ、もう一人は絶叫して倒れこんだ。倒れこんだことで、AKs74Uを落としてしまい、それが俺の足もとに転がった。

 

俺はすぐさまそれを拾い上げて、男の頭に突き付けた。

 

ラッパ状の銃口が男の頭にコツリとぶつかって、男は悲鳴を上げた。そして俺の姿を見て、子供と判断し、泣きながらの命乞いをしてきた。

 

上手くいけば、助けてもらえると踏んだのだろう。死に瀕した物が最後に掴んだ蜘蛛の糸だった。生にかじりついて、必死になって生きようと向上を並べ立てた。

男は自分には家族がいて、二人の娘がいる。妻には身ごもっている子供がいて、死にたくない、と訴えた。

 

大人の卑屈な笑みに、悲しげな眼、普通なら見逃したかもしれない。だが、俺はそうしなかった。

 

AKのフルオート射撃を男に浴びせかけた。容赦のない、鉛の嵐が男の命を確実に奪った。

短い発砲音の後にはただ山荘の静けさが戻ってきており、先ほどまでの戦闘の空気を和らげた。

 

俺はその時、男の死骸をずっと見つめていた。血液が床に染み出て、俺の靴も彼の血で染まっていた。だが、そこでは特に何も感じなかった。

 

初めて人を殺したという割には何ら感情もわかなかった。俺はただ、言われたとおりに狩りをして、生きるために他の生き物に犠牲になって貰ったと、それだけが唯一思いついた感想だった。

 

道徳と言うものが欠如していたとは思わなかった。俺はスパルタクの本から道徳や社会のルールを知りえていた。人を殺害するのは罪で、禁忌だと、法にはそう記されていると知っていた。

 

成程、街や都会ではそれがルールなのは納得できた。あのような場所は平和に生きるための場所で、弱者も強者もとりあえず生きることができ、仕事をしなくてはならないのだから、皆が手を取り合わなくてはならない。

 

だから、それを脅かす殺人は悪であると理解できたし、スパルタクからもそう教わっていた。

 

しかし、ここは法に縛られる場所ではない。ここでは生きるための犠牲が許されている場所、もっと言うとそうしなくてはならない場所だ。山の奥地ではいつも町へ降りられるわけではない、時に狩りをして食料を手に入れることが必要だ。

 

俺は狩りをした。そして、相手が四足か、二本足で歩いているだけの差でしかなかった。

 

「片づけたようだな」

 

スパルタクが戻ってきて、俺に話しかけた。彼もまた、狩りを終えた、という程度の感想しか持っていなかったようで、鹿を刈り終えた後のように椅子に腰かけた。自分の年齢について少し愚痴をこぼしながら、彼は少し休息をとった。

 

その足元に二人の死骸が転がっていようと全く気にするそぶりを見せていなかった。

 

「初めての人狩りはどうだった?」

 

スパルタクは俺に感想を求めた。その言いぐさは今のIS学園において、大場先生がレポート課題を求めるような口調にとても似ていた。

 

「別に何とも無かった。俺は狩りをしただけだ。ここではそれがルール、違うか?」

「そうだ、ここではな」

 

スパルタクはパイプを咥えて火をつけた。一服して、俺の顔をにこやかに眺めた。

その時、何故微笑んでいたのか、わからなかった。

 

「俺は言う通りにして、自分の判断で狩った。それだけだ」

「いい感想だ。評価を与えるならB評価だな。私のせいにしたり、罪悪感に苦しんでいたら、どうするべきか、と考えたが……その必要はなかったようだ」

 

スパルタクはゆっくりと椅子から立ち上がって、俺の前に立った。そして、俺からAKを取り上げて、マガジンを取り外して安全装置の位置までセレクターを操作した。

 

「いつもなら、この手の銃も売ってしまうが、今回はお前にプレゼントしよう。使い方は教えてやろう。それと、あと15分後にコレを片付けて掃除をするぞ。臭くてかなわん。あと、明日は下の町で祭りがある。支度をしとけよ」

 

「ああ、わかった」

 

俺はひとまずAKをソファの傍らに置いて、スパルタクが動くのを待った。八歳の俺では当然だが、死体を持ち上げることができなかったからだ。

 

だから、俺も同様に休憩を取った。匂いは不快だったが、疲れを癒せるのなら、贅沢を言わなかった。その日受け取ったライフルが俺の愛銃となった。

 

まだ背の低かった俺には小さく、パワフルな銃が最適で、今もそれが役立っている。

 

そして、もう一つ印象的だったことがあった。スパルタクのほほ笑みの意味を次の日に俺は理解したことだ。

 

祭りのさなかで見つけた射的ゲームで俺はコルク銃で一番大きなクマのぬいぐるみを獲得した。店の親父はそれを見て、凄いと称賛し、周りの大人たちもこぞって俺を褒めた。

 

そして、スパルタクのあの笑みが子供を褒めるときの物だと知りえたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが俺と奴との記憶の一つ、最初の話だ」

 

俺は目の前の二人にそう話した。楯無は鋭い目で俺を睨み、織斑は憤りと怒りを感じているようだった。

 

織斑の表情は当然の反応だった。今の学園の連中が訊けば、奴のしたことは紛れもなく洗脳だと言うだろう。子供の純真な心をだまして、暗殺のための殺人術を覚えさせていた、と誰もが非難するだろう。

 

「ふざけんなよ」

 

織斑がそう呟いて、俺に掴みかかって来た。

 

「お前、そんな酷いことをされて来て、そんな過去を話しているのに、どうして、どうして、そんな懐かしむような顔をしてるんだ!」

 

織斑は叫んできた。モラルある彼にとっては俺の話はやはり不快以外の何物でもなかったらしい。

だが、彼は同時に同情もしていた。

 

「そんな辛い経験して、酷い環境の中で生きてきて、だからなのか? だから、お前は俺達と違うのか?」

「どう意味だ?」

 

俺は思わず聞き返した。

 

「もうそんな事する必要ないんだぞ! いつまでも過去の経験に振り回されて、それがさも当たり前のように振る舞って、それがカッコいいとか思ってんのか?」

 

俺は織斑を見た。その目は嘘は言っていなかった。彼にとって、俺は過酷な環境下におかれ、スパルタクと言う男に振り回された悲劇の男になっていたのだろう。

 

「お前にとって、俺はよほど可哀想な人間に見えたか?」

「そうだよ。お前はそんな過去を背負って生きて……」

「俺は重荷などと思ってはいない」

 

俺はそう答えた。表情は一切変えずに答えると、織斑は一瞬呆気にとられた顔になったが、すぐに話を続けた。

 

「何を言って……そんな過去を持っていて、まともにいられる訳ないだろ!そんな風になって世界を憎んだっておかしくない、でも、それは変えられるんだ!だから……」

「お前が俺を救う、と?」

 

織斑はそうだ、と叫んだ。だが、俺の態度が変わることはない。

 

「俺は確かにスパルタクに育てられた殺し屋だ。お前が言うように俺はまともではない……だが、俺が戦うのはそう言った過去を恨んでのことではない」

 

織斑の目をまっすぐにとらえ、俺は自分の過去について語った。

 

「俺は過去で世界を恨む必要がない。むしろ、俺は不幸ではなく、幸福だ。言ったはずだ、俺が人になれたのはスパルタクのおかげだ、と。俺は知識を得、自分を会得した。その形が歪であれ、それは俺自身だ。代えようのない物をあの男は俺に与えた。俺はそのことに関しては感謝している」

 

「人殺しを否定しない自我が正しいっていうのかよ?! そんなの間違っている! そんなのはあっちゃいけないんだ!」

 

「それは否定しない。お前のいう事は正しい。だが、俺が少なくとも十五まで生きられたのは奴のおかげで、でなければ、今頃は細胞一つ残っていない」

 

織斑の腕に力がさらに込められた。その顔は赤く、端正な顔に怒りから、しわが刻み込まれていた。

 

「剣道で木刀を振るうのもISで模擬戦をするのも、基本は変わらない。ルールの上で凶器を振り回し、優劣を競う。だが、それを路上ですれば罪になる。俺の考えはそれと変わらん。俺は正しい場所で殺しをしたに過ぎない」

 

戦場なら、殺しは正式に認められたものである。だが、街ではしてはいけない禁忌。そして、その度に俺は自分を切り替えるだけだ。周りの環境に合わせる、ただそれだけだ。

 

「だが、それ故に俺は空の人間だ。ここは戦場だから、命令を受けた、それ以外で俺は戦ったことがない。全て受け身のまま、人生を戦ってきただけに過ぎない。俺はただ環境に適応するだけだ。」

 

俺は自分をそう表現した。しかし、何故かわからないが、どこか違和感を感じた。本当に今までの俺はそうであったのか、と疑問が心の隅に起こったのに、俺は少し困惑を覚えた。

 

「貴方、おかしいわ」

 

楯無はそう言った。その目にはいつもの余裕を演出したものは無い。

 

「人を殺しても、貴方はその罪悪感に苦しむことも無く、日常に生きれるというの?罪悪感をスイッチの切り替え程度で処置できるなんて、そんなの人間と言えるのかしら?」

「暗部とは思えない発言だな」

「だって私は人間だもの。貴方のような化け物ではないもの。貴方は罪を罪だと知っていても、その重さを感じることができなのだから」 

 

素直にそう告げたが、楯無の表情が変わることはない。そして、彼女は織斑に俺を離すように言って、織斑はそれに従った。

 

「さて、これで貴方がどういう人間かわかったわ。そして、スパルタクとの関わりもね。どう解釈をするかは人の自由だけど、貴方は危険な化け物よ。環境に適応して、と言えば聞こえはいいけど、そんなのは機械よ、人間だなんて言えない」

「自覚はしている」

 

俺が短く応えると、楯無は嫌悪の目をこちらに向けた。彼女にとって俺は許せる存在ではないのだろう。モラルある人間からすれば、環境に適応するだけで、自身をいか様にもできる人間は気色が悪いだけだ。

 

楯無はそんな俺がこの学園に、簪の近くに居るのがたまらないのだろう。

 

「さて前置きはここまでにして、話してもらいましょうか。本題のコンロン山脈での話を

そして、貴方がどうしてスパルタクと戦うのかを」

 

楯無の綺麗なソプラノの声がよく響いた。普段より大きめの声で話している、とすぐにわかった。

 

空中に投影された小さな時刻が午後六時を指していた。話は二時間以上たってもまだ続くのだった。

 




とりあえず、過去話を一つ。
一応矛盾が出ないようには気を使ってはおりますが、今回は結構勢いで書きました。
楽しんでもらえると幸いです。

感想、批評ありましたら、書いて欲しいです
最近この物語をどうするか、少し考えるところがあるので、参考にしたいです。
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