IS to family   作:ハナのTV

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前回の感想で頂いたアドバイスを元に作りました。
色々と助言を頂きありがとうございました。


All for one!

夜の闇が窓の向こう側に広がって、街灯の明かりだけがぽつぽつと見えるのみだった。

カーテンを閉めて、俺はベッドの方へと目をやると、寝間着代わりにアカネがタンクトップとジーンズという服装のまま、暗号化されたメールによるやり取りを終えて、俺の方を見た。

 

「オファーは受けてもらえましたよ、弾」

 

彼女の言うオファーとは彼女の親友ミサキの正体の話だった。彼女の親友は快く引き受けてくれたらしく、これで下準備が一つ終えたという所だ。

 

「よし、これで下準備が終わったて訳だ、悪いなアカネ。無理言って」

「いえ、これもユーリと簪のためですから」

 

アカネは静かにほほ笑んだ。柔らかな笑みを浮かべた彼女には躊躇いも迷いもなかった。

ただ戦友と親友を助けたい、それだけで彼女が動く理由は十分だった。

 

「強いよな、お前」

 

俺が言うと彼女は髪を少しかき上げて言った。

 

「どうして、そう言うんですか?」

「ユーリの過去も知らないのに、よく即断したなって思ってさ」

 

彼女はクスリと笑いを零した。

 

「ロクでもない過去を持っているのはみんな一緒ですよ。皆、最初は過去に対する感情でピースに入ったんですから」

 

ソレは正しかった。アカネはかつて自分を助けてくれた兵士達、男たちがもう一度輝けるようにするために戦いに来ていた。そして、一時、それに囚われて怒りと周りと自分にぶつけていたのを俺は見た。

 

「でも、そんな私達が集まって、笑って食事をしたり、話したりできる。それを壊したくないんですよ。いけませんか?」

「いや、俺もさ」

 

その時、ドアがノックされた。二回叩かれた音が部屋に響いて、俺たちは誰かと不思議に思った。時計を見れば、夜十時半。かなり遅く、廊下はもう明かりすらついていない時間に一体誰が来たのか、見当もつかなかった。

 

鈴やヴィンセントは監視も警戒して動けない、同じ理由で教師たちも同じだ。では、誰が来たのか。

 

その時、頭によぎった者は俺もアカネも同じものだったらしい。念には念を込めて俺は拡張領域からサプレッサー付のm9拳銃を出しベルトに差し込んだ。アカネも同じ武器をドアに向けた。

 

二人で目を見合って、俺がドアノブに手を触れて、回し開けるとそこには思いもよらない人物がいた。

 

「よお、弾」

「一夏……?」

 

学園祭前にほぼ絶交したと言っても過言ではない、俺の親友の姿がそこにあった。何故ここに来たのか、理由はまったくわからなかったが、俺とアカネは密かにm9を仕舞い込み、用件を聞くことにした。

 

目の前の一夏は酷く落ち込んでいる様子だった。普段のさわやかな笑みも無ければ、いつぞやのように俺やアカネに突っかかることもしない。

 

「何でここに?」

 

俺は冷ややかな言い方はしなかった。いくら、家族の事についてのいざこざがあったにせよ、今の一夏はほんの少しの言葉で折れてしまいそうなほど頼りなく見えた。

 

「なあ、弾教えてくれよ。お前達って何なんだ?」

「……どういう意味だよ?」

 

訳がわからず、俺は聞いた。後ろを振り返ってみると、アカネが怪訝そうな表情を作り、一夏を見ていた。

 

「お前の仲間の事だ! ユーリの……アイツの事が訳わかんねえよ!」

 

それを聞いて、俺たちは何があったのか、察した。一夏がこうも取り乱し、ユーリの事を言うという事は彼はユーリについて、詳しい話を聞いたに違いないと判断した。

 

真実は知らないが、俺たちはユーリには薄暗い過去があるに違いない、と確信を得ていた。

彼の技量や知識もそうだが、簪に対しての態度を取ってもそれは明らかだったからだ。

 

「ユーリと話したんですね?」

 

そして、その話を知ったという事は本人以外に聞くのは不可能だ。彼を知るには彼と話以外方法がない。他人からの情報だけでは、その人間をこうも評価することは有り得ない。

 

「ああ、そうだ。アイツは言っていた。自分がスパルタクと……親代わりの奴と戦うのは……奴の指示で、夢だからって」

「指示?夢?」

 

スパルタクと言う名前は俺は知っていた。マーダーの戦闘記録を覗いた時、ユーリが叫んでいた名前だったはずだ。彼はユーリの親代わりと言うのは驚いた。

では、ヤツはその男と何のために戦っているのか、俺は聞いた。

 

一夏は確かな口調で言った。

 

「アイツの親は! ユーリを最高の兵士にして、それで最強の兵士とは何かを見たいから戦っているって、そしてユーリはそれを受け入れたんだよ!」

 

聞かされた答えは悪趣味な答えにしては度が過ぎていた。

 

「アイツは何でも受け入れるんだぞ! 弾、アイツは何なんだ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

コンロン山脈に来た俺とスパルタクは朽ちた地下の軍事施設の中で得物をスリングで吊り下げて、休憩所と言われている場所軍用のコートを羽織りながら、レトルトのスープを飲んで体を温めていた。

 

休憩所は食堂だった場所であったが、埃を払う以外、何の掃除もされておらず、不潔な場所だった。床には壊れたテーブルの木片と古く錆びついた空薬きょう、食べ物のカスに煙草の吸殻、そして使い終わった生理用品が転がっていた。

 

あらゆるゴミが集まったごみ溜めだった。使い捨てられたゴミに、下種な思考しか持たない社会のゴミでそこは溢れていた。

 

「酷い匂いだ」

 

俺は短いカラシニコフをくすんだテーブルの上で弄りながら呟いた。隣のスパルタクは軽く笑って、VSS狙撃銃のマウントにコブラサイトをつけていた。

 

「そうだな。ここはごみ溜めでも最底辺の場所だ。あれを見ろ」

 

スパルタクが指さすと、食堂の隅に現地の中国人マフィアとロシア人の男たちが集まっていた。彼らの集う中心から、つんざくような悲鳴が聞こえたが、少しするとくぐもった声になっていき、声が小さくなった。

 

俺はその中心で何をしているのか、想像できた。彼らは商品である少女を売る前に自分たちで味見をしていたのだ。

 

「女はそんなにいいのか? スパルタク」

「彼らにとっては唯の道具だユーリ。それより、見ろ。彼らの背中に背負っているモノを」

 

言われたとおり、見ると中国産のAK47が吊り下げてあったが、マガジンがささったまま安全装置がかかっていなかった。それだけで練度がどれだけ低いかがわかった。

 

「大丈夫なのか?」

 

スパルタクは薄く笑った。彼が一体こんな場所で何を楽しみにしているか、俺はわからなかった。

 

「さあてな。それより、ユーリ。一つしてほしいことがある」

「何だ?」

 

スパルタクはバッグを持ってきて、中身を俺に手渡した。それはバネの力で刃を飛ばすという奇天烈なナイフとサイズの大きいボロボロのパーカーだった。

 

それに最初首をかしげたが、数時間後それが何を意味しているかはっきりした。

 

 

 

 

数時間後の事だった。コンロン山脈の基地で突如爆発が起こった。蜂の巣をつついたようにマフィアたちが自動小銃を片手に外へと飛び出して行き、そして彼らが今までしてきた暴力を百倍近い大きさで返されて死んでいった。

 

ISの襲撃だった。この基地には旧ソ連、中国軍の古い装甲車もあったが、そんなもので世界最強の兵器を止めることは叶わず、外にいたものは殆どが殲滅されていった。

 

そして、数分もしないうちにコンクリートの床を音をたてないように移動している数人の組織の存在に気付いた。

 

時折、聞こえるサプレッサーをつけたアサルトライフルの音が地下で反響しているのが聞こえ、俺は得物を用意し、部屋の隅でその時を待った。

 

周りの人間はただ、何が起こっているのか、さっぱりわかっていなかったようで、互いに見合っていた。中にはストレスのせいか、笑ったり、泣きわめいたりするものもいて

狭い室内はざわついていた。

 

そして、その時が来た。分厚い鉄の扉が開かれて、数名の黒一色の装備で身を固めた部隊が入って来た。

 

「安心して!我々は君たちを助けに来た!」

 

ガスマスクを外した若い男が日本語でそう言った。当時は何を言っているのか、ニュアンスでしか判断できなかったが、今は理解できる。

 

その時の子供たちの表情は忘れようがなかった。長い苦しみから解放される、と喜びに浸る者から、精神が崩壊しているのか、虚ろな目で見上げているなど、様々だった。

 

何はともあれ、歓喜の瞬間だった。相手の部隊員も任務成功に喜び、笑っていた。

そして、若い男が通信機を取り出し、誰かと話しかけて目線を反らした。

 

俺は勢いよく立ち上がって若い男の前まで行き、隠していた暗器を飛ばし男の腹を貫いた。

歓喜の時を全て破壊する最初の攻撃だった。

 

周りが呆気にとられ、時が静止した。もっというと、スローモーションのように流れていくのが分かった。男が仰向けに倒れた時には俺はAKs74Uを構え終えており、フルオートで薙ぎ払った。六名はいた部隊員が5.45mm弾の牙の前に倒れていく。

 

距離は十メートルも無く、撃てば当たる状況下、さらに言うと相手は俺の後ろに子供たちがいるため、誤射を恐れて、すぐに撃ち返すことができなかった。

 

完全な奇襲、一方的な攻撃の前に男も女も次々と倒れていった。躊躇いなどなかった。

それが俺の職務だったからだ。後ろでは救いの手が突如として、消えたことに戸惑いを隠せず、言葉を発せないでいる子供が俺の背中を見ていた。

 

罪悪感は感じなかった。

マガジン内の弾丸をすべて使い切って、マガジンを交換していると、相手の一人がまだ生きていたようで、拳銃を向けた。しかし、後ろから飛んできた9mm弾が生き残りの脳髄を貫いた。

 

「全く……その銃ではボデイアーマーを貫通できない時があると言ったろう?ユーリ。

もし次があるならVSSを使え。確実に貫通できる」

「長いのは苦手だ」

 

俺は素っ気なく答えた。可愛げがない返事だったが、スパルタクは俺の頭に手を置いて、功績を褒めた。だが、そこにうめき声が聞こえた。

 

その方向を見ると、ナイフを刺した男が地を這いながら、誰かと話しているようだった。

 

「逃げろ……カタ……」

 

言い終える前にスパルタクがとどめを刺した。VSSで三発。サプレッサーの小さな音が誰かはわからない男への手向けだった。

 

「やはり、玩具では殺せんな」

 

そう言って、死んだ男の装備を漁って、スプレー缶の形に似たオリーブ色の物体を二つ手に取った。フラググレネードの一種だとすぐにわかった。

 

「殺すのか?」

「どの道、生きられん。奴らはお前と違って、元の環境に戻っても、適応できん」

 

そう言って、扉の向こう側にピンを抜いたソレを放り投げて、何の感情も見せぬまま、それどころか薄ら笑いをしながら、扉を閉めた。

 

扉の向こうで破裂音が聞こえた。それっきりで静かになった。

 

「さて、急がなければ、此処の連中の黒幕が大勢で大挙してくる……だが、その前に、だ。やらなければならないことがある」

「やらなければならない事?」

「そうだ」

 

そういって、スパルタクはコートの袖からナイフを取り出し、神速で俺の頸動脈に向かって一閃した。

 

金属同士がぶつかる音を立てた。耳を傷めるような不協和音が地下施設に響き渡って、俺は一歩下がった。

 

普段から持っていたAK用の銃剣で辛うじて弾きくことができた。もう半秒遅れていれば、俺は血の海の中で横たえていたことだろう。

 

「何を?!」

 

俺は声を荒げて、聞いた。突然の容赦なしの一撃を受けて、俺は相手の正気を疑った。

しかし、スパルタクはいたって正気だった。いつも通り微笑みを顔に浮かべ、俺にナイフの切っ先を向けた。

 

「本気の一撃だったが、躱すか。流石だな。技量はもう一人前に近いな」

「何を言っている?!」

 

だが、スパルタクは答えず、もう二回刺突を行った。一撃目を裏拳で弾き、二撃目はバックステップで回避した。

 

「言ったはずだ。私の研究に付き合ってもらう、と」

「研究だと?」

 

「そうだ」とうなずいて、スパルタクは長年俺を見ながら、腹に抱えていたどす黒い欲望を見せた。

 

「最高の兵士だ。私はお前を六年かけて作った。理性に縛られない、環境に絶えず対応する人間の兵士を、だ。私の考えは此処までは間違っていないようだ」

 

再び、刃が触れ合って、俺とスパルタクは切り結んだ。刃が俺の顔面まで近づくのをつばぜり合いをして防いだ。

 

「此処まで。だと?」

「そうだ。ここからが本題なのだ。極限状態に身を置き続けた者は強い。しかし!」

 

手首をクルリと回して、スパルタクは俺の銃剣のリングに刃を差し込み、弾き飛ばした。

俺はとっさに腰につけていた予備のもう一本に手を伸ばしたが、時すでに遅し。

 

前蹴りを腹部に食らい倒された俺の首もとにナイフの刃がピタリと置かれた。

危機的状況は始めてではなかったが、冷汗を流す俺をスパルタクは見て言った。

 

「やはりな、認めたくはないが、必要のようだ……」

 

スパルタクは一つ息を深く吸い込んで吐き、ナイフを仕舞って、俺を見下ろした。

 

「ユーリ、お前は技量、度胸、適応性全てが揃っている。だが、肝心なものが足りない。だから、お前を町へと放す。米国に行ってもらう」

 

俺はたまらず、叫んだ。今思えば、初めてスパルタクに向かって叫んだ。

 

「何のためにだ?!お前は何がしたい!?」

「お前は一人で町へと行くのだ、ユーリ。そして、最高の兵士に必要な最後のピースを手に入れ、私を殺しに来い」

 

スパルタクはそう俺に告げた。それはスパルタクのいつもの命令だった。だが、俺は納得がいかった。

 

「俺に何を手に入れろと言うんだ?!」

 

そして、スパルタクは静かに答えた。確信を得て、悟りを開いた僧にも見えたが、不服そうな顔でもあった。

 

「愛情だ。それを自由になった身で手に入れて来い、そして、私を殺せ」

 

それ以来、俺はRインダストリーに入っても、学園に入っても、それを考えていた。

だが、それを考えるたびに自分が空であることに気付かされた。

 

俺はどこへ行っても命令がなければ、何をしていいかわからない男だと気づくのみだった。

だからこそ、空の自分に残った最後の命令が俺の中で燻り続けていた。

 

そして、奴から来た。だから俺は彼と戦うのだ。最後の彼の命令のために

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は全てを一夏から聞いた。ユーリの過去と彼が何故、スパルタクと戦うのかを。それは彼が学園に来る前から抱えていた、彼の言う空を埋めるための物だったからかもしれない。

 

確かにユーリの言う通り、彼はいつも命令で動いたように、一見見えることだろう。

話を聞く限り、彼は酷い環境にいた少女たちを救わなかったし、環境に適応し続けて、罪悪感をどこかへと忘れ去った、マシーンと見えるかもしれない。

 

だが、俺はそうではない、と彼に言ってやりたい。

 

目の前の一夏にもそう言いたかった。彼はおかしくもない、狂ってもいない。ただ、少し特殊な才能を持ったが故だ。

 

俺はアカネに振り返って訊いた。

 

「なあ、アカネ。今のを聞いて、お前の気持ちに変わったりしたか?」

 

アカネはメガネを外して答えた。彼女は戦闘時、つまり、ここで語られた男と共に戦った時の顔にすることで、自分に迷いがない事を示したのだ。

 

「いいえ、私は変わりませんよ、弾」

「そうか……俺もさ」

 

そんな俺たちを見て、一夏は訊いた。

 

「何でだ? 弾、どうして、お前はアイツを信じられんだ?」

 

その質問は正しいものだった。極悪非道、その限りの行動をしてきた男の弟子で、どんな罪深い事を行うとも、それに悩むことも無い。

 

PTSDや、シェルショック、果ては人の良心や道徳とは無縁な男だと言ってもいい。

ユーリなら、もしかしたら昨日人を殺した手で、誰かと会話をしながら食事をすることができるだろう。しかし、それは話を聞いたもののみが持つ感想だ。

 

「怒らないのか? 悲しくないのかよ? お前の友人が隠していたことを知って……何も思わないのか?」

「思うさ、一夏」

 

俺は答えた。彼の目を見据えて答えた。

 

「確かにユーリのやってきたことは怖いさ。楯無会長殿が言うような化け物と言えば、そうかもな」

 

だが、そう判断することはできない。俺は彼のしてきたことを見てきたからだ。

 

「でもな、誰よりも武器の怖さを知っていたし、受け身と言いつつ、ユーリは俺達と共に戦ってくれた。そして、空だという自分を恥じていたことだってあったさ」

 

そして、もう一つ俺は彼が空ではない理由を知っていた。おそらく、俺だけが知るであろう話だ。

 

「アイツはな、一夏。一本のナイフを作ったんだよ。銀一色で、誰かを切り付けるための物じゃない、刃の表面に感謝をつづった言葉を彫っていた……変なプレゼントだよなぁ、女の子にナイフだなんて」

 

あの夏休み、ピースの隠されていた秘密を知った日、あの男は俺を迎いに来ていた。俺がショックを受けているのではないか、と聞きに来た。

 

彼は不器用な男だった。何をするにも無表情で、本当に感情を込める気があるのかすら疑わしい男だった。人から見れば厳ついロボットだ。

 

だが、ユーリは人間だ。俺を心配して、そして自分のルームメイトであり、相棒である女の子に普段の感謝を込めて作った品物を見せてきた。

 

銀色の美しいナイフは彼なりのオリジナルティとも言えた。

 

『これを簪に渡したいのだが、どう渡していいかわからない。教えてくれ』

 

そう言う彼の顔は相変わらず、鉄仮面で代わり映えのしないように見えたが、だからこそ本当に渡そうと思っていると俺は理解した。

 

「アイツの中では、それは感謝に対する礼でしかなくて、自分で行動した結果ではない、なんて小難しいことを考えているかもしれない。だが、それはアイツ自身の意志のはずだ」

 

俺はそう思っている。希望的観測に過ぎない、なんて言われれば、そうかもしれない。

だが、彼の思いは本物のはずだ。彼はスパルタクとの戦闘で、簪を守った。

 

そして、スパルタクが簪に興味を見せた時、彼に荒げた言葉を発した。そして、福音事件、ラウラの暴走、の時だろうと彼が逃げることも無かった。

 

ヴィンセントから受けている信頼、アカネとの信頼、俺との、先生との、その信頼の糸は彼自身が得てきたものだ。

 

「だから、俺はアイツぞ信じるのさ。過去が何だ? お前の友達のラウラを見ろ、アイツもサイボーグ兵士みたいな物だろ?暴走事件も起こしたし」

「だけど!」

 

一夏は反論しかけたが、俺は彼の言葉を遮って言う。

 

「だけど、今は違う。お前はそう言うだろ?それと同じさ。俺はユーリの陰惨な六年より、俺との半年を信じるのさ」

 

一夏は俺の顔をマジマジと見た。意外そうに俺を見る顔だった。固まっていたと言えた。

思いもよらない一言を言われて、呆気にとられてるようだった。

 

見ていると、何故だが、変な笑いが出そうなほどだった。

 

「お前、何で……?」

「ああ? これでも、お前とは中学の付き合いがあるだろうがよ。お前の言いそうなことぐらいわかるさ」

 

俺は確かに一夏と決別するほどの喧嘩をした。しかし、それですべてを忘れたわけではない。中学の思い出はまだ俺の中に美しく残っているし、忘れようもなかった。

 

そう、思い出は消えない。それは一夏にも言えるし、ユーリでも言える。

一人の戦友として、俺を助けてくれた一人として、俺は彼を見捨てない。

 

簪を思い、仲間を思ってくれた彼は冷酷な殺人のためのマシーンではない。彼が簪に見せた微笑みは嘘ではない。

 

なぜなら、簪がそれを一番よく理解して、彼と共に戦ってきたのを見たからだ。

 

俺は自分の頬を叩いて、気合を入れて、一夏に言葉を言い放った。

 

「俺は、アイツを助けるぞ一夏。お前や会長様が邪魔しようと、だ。この会話だって今頃聞かれているだろうけど、言ってやる。ユーリは俺たちの戦友だ。邪魔するなら、叩き斬ってやる」

 

一夏はそれを見て、一つ呟いた。

 

「それが答えなのか……?」

 

一夏にとって、何なのかは俺には分からないが、ハッキリしているのは、ソレは宣戦布告でもあり、ピースメンバーの初の試であるということだ。

たった一人のために全員が動く、コレは今まで無かったかもしれない。

 

 




今までの話で、ここら辺が盛り上がるといいのですが、いかがでしょうか?
過去話も短くし、弾を前に出しておきました。
本来は過去話で一話丸々しようかと思っておりましたが、改良してみました。

此処からは大体、弾視点で書こうと思いますが、話の展開上、簪やユーリ視点も出ます。

色々とご助言ありがとうございました。

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