その日、私は久々に化粧をした。普段から、あまり化粧をする方ではないが、今日は特別にしてきた。深夜まで起きることが多く、寝不足から目の下にクマができて、髪の毛も艶がないのを鏡で見て、できる限り、それを隠すように化粧をした。
今日は大切な日で、彼にみっともない姿を見せたくなかったから、化粧をして、綺麗にしたかった。
その為にイヴァナ先生に頼んで、手ほどきをしてもらった程だった。鏡で具合を見つめて、イヴァナ先生が満足げに大きく頷いて、出来具合を褒めた。
「うん、完ぺきね。やっぱり、貴女みたいな子は化粧した方がよく映えるわ」
「ありがとうございます」
私は一言礼を言った。できるだけ笑顔を作ったが、イヴァナ先生は私の顔を見て、あまり良い顔をしなかった。彼女は私をしばし、見つめて訊いた。
「一つ聞いていいかしら?」
遠慮がちに言った彼女の言葉に私は小さく頷いた。
「どうして、今日私に化粧を頼み込んだのかしら?」
大人の女性であるせいか、私の心情を顔から読み取ったようだ。微妙な機微を表情からくみ取ることができるのは流石と言えた。
私は答えるべきか、一瞬迷った。もしかしたら、否定されるのではないかと、思ったためだ。でも、イヴァナ先生の事を信用して答えることにした。
「今日、会えるんです……ユーリに。姉さんのお付の……本音のお姉さんの虚さんに頼み込んだんです」
イヴァナ先生は自分の化粧道具をケースに仕舞いながら聞いてくれた。動きながらではあったけど、鏡に映る私の目を見て、耳をすませてくれていた。
「彼と久々に会えるのに、私……こんな大きなクマを作って……心配させたらユーリに悪いでしょう? それに少し綺麗にしたかったんです」
イヴァナ先生は黙っていた。それがどういう意味での沈黙かはわからなかった。憐れみか、同情か、もしかしたら呆れているのだろうか。
彼女は長く綺麗な指でチークなどをつまんでバッグに詰め込んでく。そして、全て詰め込み終わったのを見て私は尋ねた。
「……いけませんか?」
彼女は口角を少しだけ上げながら、目をつむって首を左右に振った。そのたびに赤い煌びやかな髪の毛が揺れた。
「いえ、少し安心したの」
意外な言葉に私はどういう意味か、と尋ねた。すると、彼女は一回深呼吸をして、私の肩に手を置き、話してくれた。
「女性が化粧するときって、どんな時だと思う?」
「自分を綺麗に見せたい時ですか?」
そう尋ねると、イヴァナ先生は微笑みながら、「そうよ」と答えた。
「でもね、簪 女が綺麗にするときっていうのは勝負をする時もするものなのよ。男の子に告白するときや、戦闘をする時とかね。少なくとも私はそうよ。私はISで試合をする時はいつもそうだった。そうやって自分を綺麗にして、自分は勝てるって魔法をかけるみたいにするの」
化粧台の鏡に映るイヴァナ先生の目は優しいものだった。切れ長の瞳が優しく微笑んでいた。私は彼女が私の事を心配してくれているのだろうか、と思った。
肩に触れる彼女の手のひらも柔らかな手つきだった。
「私を心配してくれてるんですか?」
「ええ」
「どうして?」
その疑問は当然だった。私と彼女にはそう深い関係がなかった。新任教師で、普段はレジスタンスの娘達を世話したり、モデルの兼業をしているため、私は彼女とあまり面識がなかった。
今日の化粧もダメ元で頼んだようなものだった。断れると確信を持っていたほどだった。彼女は好き嫌いが激しい人だったのも、そう思った原因だった。イヴァナ先生は弾やアカネ達、レジスタンス達には優しいが、セシリア・オルコットのような人間には全く優しくない。山田先生とは違って、生徒から嘗められたりされるのを非常に嫌うことを私は知っていた。
だから、話したことのない私では、断れると思っていたがこの反応はあまり予想できなかった。
「昔の私そっくりなのよ、貴女。何でもかんでも溜めこんで、自身のなさそうな顔で人を伺ったりする所がソックリなの」
「……イヴァナ先生が?」
私に似ていると言った言葉が信じられなかった。国家代表になれた実力にスラリと伸びた脚に同性からも理想とされる顔のつくりにボディライン。自信に満ち溢れた今の彼女から想像もつかなかった。
「アイルランドの田舎娘だったから、雰囲気に呑まれていてね……それに良い扱いも受けなかったわ。だから、貴方が突然化粧をすると聞いて、少し怖かったの」
「私が何かする、と思ったからですか?」
ストレートに質問をぶつけると、彼女は迷わずに首を縦に振った。
「私がそうだったように、貴方も何か起こすのでは、ってね。言ったでしょ?女の子は戦う時に化粧をするって」
「……私は戦ってません」
ソレは事実だと思っていた。私は結局誰かの背中の後ろに隠れてきた臆病者だった。
数年前は姉の、それからは本音の、次にユーリと。自分で戦ったことなどあっただろうか。
でも、戦うと決意をした。姉に勝つと、あの夜に誓った。過去の自分ではないために私は戦うと、その為の準備もした。
後は期を見計らうのみだった。でも、その前にユーリと一目会いたいと思った。これからの自分への覚悟とこれまでの自分への決別の為に必要だと感じたし、何より会いたい、という一審が強かった。
だから、イヴァナ先生を呼んだのだが、思わぬ形で話を聞いて、私は自分の中の殻にぴしりとひびが入った音を聞いた。
「でも、これから戦う。だから化粧をした。違うかしら?」
自分の考えが見透かされている、そう思ったら少し寒気が立った。
「……何を根拠に?」
そう訊くと、彼女は鏡に映る私に目を指した
「目よ。貴女の目、凄く怖い目をしてるもの。化粧を頼んだのは、本当はコレを隠したいからじゃないのかしら?」
そう言われて、改めて自分の目を見た。鏡に映るメガネを外した私の赤い瞳はあの人と似ていたけど数週間前までの輝きは見えず、むしろどんな光も吸収してしまうような深淵がそこにあった。
彼女の言う通り、怖い目だった。そして、出会ったばかりのユーリとどこか似ているような気がして、少し嬉しく思えた。
「……どうして笑うの?」
イヴァナ先生が恐る恐る尋ねた。
「懐かしくて……彼もこんな目をしていたんです」
そう答えた私を彼女はまじまじと見つめた。そして、何も言わずに優しく抱きしめてくれた。温かい人肌で私の凍った心が少し溶けた気がした。
その後、部屋を出て、しばらくすると虚さんが出迎えに来てくれていた。本音の顔立ちによく似た姉の彼女を一瞬見た時、本音の顔が浮かんで、涙が出そうになったのを堪えた。
「行きましょう」
彼女の言葉に頷き、後に続いた。誰かに気付かれないように廊下を歩く音をできるだけ小さくしながら
たどり着いた先の部屋は埃とカビの匂いが酷かった。うっすらとガスのようなものが充満した中で、私は少し咳き込んだ。
同時にこのような不衛生な場所にユーリが押し込まれていることに強く憤りを感じざるを得なかった。薄暗い部屋の奥へと歩いて行くと、椅子が二つ用意されているのが見え、既に一つの椅子には誰かが座っていた。
その人物を見て、私はありとあらゆる感情を込めて、その名を呼んだ。
「ユーリ」
呼ばれたユーリは眠っていたのか、頭を上げて私を見た。額から血を流していたらしく、顔の左半分が朱に染まっていたが、彼の顔は相変わらずだった。
椅子に手錠で繋がれたままではあったが、彼は無事に生きていた。
「簪?」
彼は薄く開いた目で私を見て、驚きの感情を見せていた。表情こそ変化は少ないが、彼の目が少し見開かれていたのですぐにわかった。
「会いたかったよ、ユーリ。本当に……」
数日いや、数年ぶりに再会できたような感覚にとらわれて、私はまさに歓喜の瞬間に入ったと言えた。彼はしばし私を見つめて、微笑みかけた。しかし、どういう訳か、それを止めた。
「……ユーリ、どうしたの?」
私はその訳を聞いた。どうして、彼が笑顔を止めて。じっと私を見つめたのか、わからなかった。ユーリは沈黙を三十秒間ほど続け、そして、口を開いた。
「簪、その顔はどうした?」
「どうって……化粧の事? イヴァナ先生に教えてもらって」
笑顔を作り、もう一つの椅子に座りながら答えていると、彼は首を左右に振った。求めている回答が違ったようだった。彼は少し目を鋭くさせて質問を変えて訊いた。
「俺が聞きたいのはそれじゃない。そのクマは? そして、何故そんな目をしている?」
「目?私の目が……」
そこで、イヴァナ先生の発言を思い出し、また鏡に映った自分の瞳も思い出した。ここに来るまでにソレをメガネを掛けて、さらにメイクまでして隠したはずだった。
しかし、彼には隠せなかったようだった。伊達に私と過ごしているわけでは無く、それは嬉しくもあったが、同時に隠せなかった自分への後悔も生み出してしまった。
もっとうまく隠せておけば、彼に余計な心配を抱かせなかったかもしれない、と思った。
ユーリは私の顔をまっすぐ捉えて、訊いた。彼にしては珍しく必死な所が見え、手錠で繋がれたまま、であることを忘れたのか立ち上がろうとすらした。
「その顔は君には似合わない。学園で何か言われたのか? それとも、何か酷い嫌がらせを受けていたのか?」
「ユーリ……」
彼は私を心配してくれた。額から血を流し、寝不足や疲労で疲れているにもかかわらず、そんな事を聞いてきた。でも、私を心配すると同時に何か自責の念に囚われたようにはなって欲しくなかった。
「俺のせいで……何かされたのか?」
私は首を左右に振った。強くそれを否定した。確かに、彼の事で私も責められたことも、また陰口が叩かれていたのも事実だった。でも、私はそんな事を言いに来たわけではない。
そして、そのことに苦しんでいるのは事実でも、主な理由としては違うのだから。私が彼の言う顔になったのは彼と会えなかったからだ。
「何かされた、とかそう言うのじゃないの。だから、貴方が言っているようなことは無いから……安心して」
そう諌めるように言った。しかし、ユーリは安心した様子を見せず、むしろ悪い予感が的中してしまったと落胆に暮れたようだった。
椅子に座り込んで、深く息を吸いこんで吐き出し、私に改めて視線を戻した。私は何故かはわからないけど、彼に何を言われるのか、怖く感じた。
「でね、私、その……」
彼に言われる前に別の話題に変えようと思った。だけど、こんな時に頭が上手く回らなかった。話題を口にしようとしても、口が上手く動かない。酸欠の金魚のように口を動かしていると、彼が言葉が発してしまった。
「簪……俺は君を不幸にしている。違うか?」
ユーリの一言に私は、思考が一瞬固まり、心が凍り付いた。
「君はそんな顔をする人ではないはずだ。君は強く、優しい人だ。俺のような男を思い、苦しんでいる……だが」
ユーリは言葉を続ける。私はそれに対して、小さく否定の言葉をつぶやいた。
「やめて」
「俺が君にとっての足かせになるのなら、俺を忘れろ。それが君の幸せに……」
「違う!」
私は大きな声で叫んで、否定した。彼の言葉をこんなにも激しく拒絶したのは久々だった。でも、そこから先の言葉は私に許容できるものではなかった。
私は彼のせいで苦しんでいるわけではない、彼と居たいから、自分で茨の道に足を踏み入れただけだ。
「私は貴方と居たい。私の幸せは貴方と居ることなの!」
「だが、俺は所詮、殺し屋にすぎん。その俺に今の地位も友人も何もかも捨てる気なのか?」
ユーリは鉄仮面の表情を維持しながら、そう私に告げた。彼は私の顔を見て、きっと私が何かをする気でいる、と理解してしまったのだろう。
何から何まで私の事をわかってくれて、心配をしてくれる。
それは嬉しいことだった。でも、私の気持ちに彼は気づいてくれているのだろうか。地位や友人と言う言葉を使った。それが唯一気に入らなかった。
「なら仮に貴方の言う通りにしたとき、私には何が残ると思う? 何もないよ!」
「簪……」
本音が居なくなり、ユーリを失えば、私の周りから人はいなくなる。砂上の城の大黒柱が無くなるのと同じで、私に残るものは、下らない家と地位だけになってしまう。
もうこれ以上何かを失うのは耐えられない。親友も恋も失った私に残されたものなど無価値なものだ。ISがいくらあろうと、お金がいくらあろうと、それを埋めるのは不可能なのだから。
「アカネや鈴もいるけど、この調子じゃ、皆私からいなくなる!本音もどこかへ行って、その上、ユーリを失うなんて、もう耐えられない!これ以上、私に何を諦めろって言うの?」
私は肩で息をして怒鳴った。目からは熱いものが込み上げて来て、それがさっきから視界を歪ませて来るのが不快で仕方がなかった。おかげで、目の前のユーリの姿も見づらかった。
彼が今、どのような顔をしているのかもわからない。怒鳴った私に怒っているのか、それとも戸惑っているのかも判断がつかない。
でも、私の言ったことに嘘は無い。私に残ったモノは少ない、という事だ。そして、涙を流し、私は彼に言った。
「でも、私だって……もう黙ってるのは嫌だ。だから、私は戦うと決めたの」
「よせ!」
ユーリが私に声を張り上げた。鎖につながれた腕を引き千切ろうとするかのように、手錠に対して力一杯抵抗を見せて、私に向かおうとしている。
「俺の為に戦うな、簪。本当に全てを失うぞ、コレはTVのヒーロー劇ではない…… 俺の事はもう構わなくていい、君は君でいてくればいい!」
彼の叫び声が部屋の中で木霊した。次に沈黙が流れた。私と彼は互いに正反対の目をしていた。彼は今まで見せたことのない輝きを発していて、私は今まで見せたことのない暗さを宿していた。
出会った時はきっと、逆であったに違いなかった。自分を空っぽと言うユーリだったが、今日の彼には間違いな確かな思いを宿している。それに彼は気づいてないが、私は気づいた。同時に空な彼を満たしたのは、私への思いだと知った。
私はさっきまでとは打って変わって頬を赤く染めた。不意に聞いた発言だったのに、妙に落ち着いて頭で処理できた。その甲斐あって、静かな声で落ち着いた状態で声を発することができた。
「……初めて、そんな言葉を言ってくれたね」
彼は汗を流した。そして、言うつもりのなかった言葉を思い出し、自分が何をしてしまったのかを理解して、項垂れるように力なく椅子に腰かけた。
私は沈む彼に近づいて手を取り、彼の顔を覗き込んだ。
「ありがとう。その一言が聞きたかった」
「簪……俺は」
そう言おうとした彼に私は笑顔を見せて答えた。
「これで、ちゃんと戦える。今度は私が守るから……待っていてユーリ」
今度こそは自分の大切なものを守る、と誓いをもう一度その場でたてて、彼の手のぬくもりをもう一度感じ取るために指を絡めた。
彼は拒絶しなかった。ゴツゴツとした手のひらから伝わる人肌を感じて、私は一番感じたかった物を受け取って、名残惜しそうに立ち上がった。
「待ってて。すぐにまた会えるから」
そう去って行く私に彼は「戦うな」と言い続けた。私の背中が彼の視界から見えなくなっても、それは続いた。
私はメガネを外して、ポケットにしまい込んだ。ふと隣を見ると、虚さんが私を震えながら見ていた。どうやら、私の目はそんなにも恐ろしく見えるらしい。
でも、それを気にせずに私は指輪の待機状態の弐式に呼びかけた。
「一緒に戦って、打鉄弐式。傷ついて、痛いかもしれないけど、私に力を貸して」
弐式は私の意に従うように、キラリと光を発してくれた。そして、私はかねての準備の総仕上げにかかった。今度こそ、失わないために。
二日後、午前授業前 食堂
人が化粧をする時はどんな時なのか、そんな事を考えたことなど、俺には一度もなかった。
まず理由として、化粧をするような人間ではない、ハッキリ言うと、男だから、と言う理由が上がる。
歌舞伎や映画の役者ならするかもしれないが、少なくとも俺には縁のない話だ。一応、Rインダストリー社での式典の時にメイクはされたが女性のするような物とは違う。
俺にとって、女性がどんな時に化粧するかは知らない。なぜこんな疑問を抱いたのか、と聞かれれば、目の前にいる少女に由来する。
「お早う、五反田君、アカネ」
朝早くに出会った彼女は昨日の彼女とは最早別人だった。
昨日まで虚ろな瞳を見せていた簪が、今は見違えるような顔をしている。髪もセットされ、爪にマニュキアを塗り、ナチュラルメイクで、元々高いレベルの可憐さを更に高めている。
何より、表情がいつもより、素敵なものと言えた。能面のような顔はそこにはもうなく、静かな笑顔を振りまく彼女に俺とアカネは戸惑った。
元気を取り戻した、そう言えばそうかもしれない。しかし、何の脈絡もなく、まるで迷いを断ち切った、と言うより最早記憶の一部をリセットしてしまったとしか思えない顔を見せられては、俺達も困惑する。
「簪、その大丈夫ですか?」
アカネがしどろもどろに聞いた。口が上手く回っていないせいで、言葉が途切れ途切れとなってしまっている。俺に至っては何と言葉を発していいかすらわからない有様だ。
しかし、そんな俺たちに反して簪は饒舌と言っていいほどの口の回り様だった。
「うん。大丈夫だよアカネ.。今日は大切な用があるだけだから」
「大切な用?」
アカネが尋ねると、彼女は頷いて俺達がいつも座る場所とは正反対の場所へと進む。
通りすがりに出会った、ヴィンセントや鈴に挨拶を交し、先生たちにも同様に挨拶をした。
その時、イヴァナ先生が、何かに気付いたのか、顔を真っ青にしていた。なぜ、そんな顔にするのかはわからなかったが、女性陣はとにかく、何かを感じ取っているようだった。
悪い予感がする。そう、彼女たちは皆、そんな顔を簪に向けていた。
そして、簪が一体どこへ、向かっているのか視線を向けると、そこに答えがあった。
彼女が向かった先には更識楯無が座っていたのだ。
「……何かしら? 簪ちゃん」
自分の妹に対して、できる限り親愛を込めて訊いた楯無会長だったが、それに対する簪の声は余りにも冷たく、氷の刃を連想させた。
「お願いがあるの……聞いてくれる?」
その冷たい声に楯無会長は表情を一瞬こわばらせたが、すぐに直して、「どうぞ」と答えた。そして、簪は誰もが驚く言葉を発した。
「私と模擬戦をしてください。二人きりで」
それを聞いた時、食堂でどよめきが起こった。ある者は冷笑や嘲笑を簪に向けた。国家代表である楯無に劣った妹である簪が勝てるわけの無い勝負を挑んでいる、と。
ある者は好奇心に満ちた目で見ていた。簪が仕掛けるという事は何か勝算あってのことではないか、と期待に満ちていた。
そして、俺達は恐れを持ってみていた。
簪の醸し出すオーラが尋常ではなく、楯無が快く承ったのを見て、彼女は静かに口元を歪ませたのを俺は見てしまったためだ。
俺達は簪がこのような行動に出ると予測しなかった訳ではなかったが、それでも心優しく大人しい簪にどこか安心していたのだろう。可能性は低いと思っていた。
だが、真に恐ろしいのは普段怒らない人間だという、日常の常識を俺はこの時まで、正確に言うと、この数時間後になるまで忘れていた。
次回、姉妹激突回です。
できるだけ、姉も妹も強いと描写したいものです。
力関係の描写、戦闘描写とは難しいものです。
ここから、仲直り、となるか、仲たがいとなるか、とりあえず、お楽しみいただければ幸いです。