勇者に選ばれてマジ狂い! 投稿者:讃州中学勇者部員タクヤ   作:ほろろぎ

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第三話 ノーマル勇者の模範

 勇者部の真の活動はボランティアではなく、世界の命運をかけた戦いに勝利すること。

 そう部長の風から明かされ、最初の敵であるヴァルゴ・バーテックスを打ち倒した。

 その翌日。

 

「友奈、東郷、タクヤさん、来ましたー」

 

 放課後の勇者部部室に、東郷の車イスを押しタクヤを(ともな)った友奈が入って来た。

 三人に対して、後輩の樹がしっかりと返事を返す。

 

「お疲れ様です、先輩方」

「お疲れナス! てか友奈、そんな引っ張んじゃねーよ。今日はジムに行かなきゃ(使命感)」

「その前に、今日は昨日の説明するから絶対集合って言ったダルルォ?」

 

 日課のジム通いがあるからと帰ろうとするタクヤを、風が呼び止める。

 前日のタクヤの去り際に、今日部室に来るようにと風は厳命(げんめい)したのだが、案の定タクヤは綺麗に忘れていた。

 

「って言うか……タクヤ、また老けたわね!」

 

 改めて彼の顔を眺めた風は、驚いたように言った。

 タクヤの実年齢はまだ十四歳の少年だが、「三十五過ぎてるでしょ? すごいシワシワ顔よ」と言われるくらいに老けて見える風貌をしている。

 それがさらに歳を重ねたように感じられるのは、ヴァルゴとの戦いの激しさによる疲労のせいもあるのだろう。

 

 ちなみに今のタクヤの服装はというと、上半身は網タンクトップに下は黒のレザーパンツを履いた状態だ。

 勇者に変身した影響で破れた制服は一着しかもっていないため、代用として私服を着て登校することが許されたのだ。

 

「それじゃあ、全員揃ったことだし諸々の説明を始めるぞ……と言いつつ」

 

 入室した三人も椅子に座り、いざ風が話し出すのを待っていた。

 しかし部長は説明の前に言いたいことがある様子。

 

「タクヤ、ここに来たからには……なに言われるかわかってんだろうなぁ、オイ」

「なんのこったよ」

「すっとぼけてるんじゃないわよ! 昨日のあんたの戦い方よ!」

 

 姉の言葉を聞いて、樹の表情も真剣なものになる。

 友奈と東郷は戦闘の際には後方に退避していたので、タクヤの無謀ともいえる戦いを見ていなかった。

 そのため、風がなぜタクヤに対して怒っているのか分からない様だ。

 

「普通、勇者には精霊のサポートがあるけど、あんたにはそれが無い。だからあんたは、身を守るためのバリアも張れない。それは分かってるわね?」

「ウッス!」

「なのにあんたは昨日、バーテックスの攻撃を避けも防ぎもしなかった。それは、なんで?」

「ウッス、変身が解けて俺が離脱する前に、急いで戦いを終わらせるためでっす!」

「バカ野郎! 誰がそのために自分を犠牲にしていいって言った!」

 

 風が怒っているのは決して、死人を出すのは体裁(ていさい)が悪いという、自分の面子のためではない。

 彼女は心底から、仲間が怪我をしないか心配していたのだ。

 

「確かに世界の命運をかけた戦いに、あんた達を巻き込んだのはアタシよ。でも世界の前に自分のことも、ちゃんと守って欲しいの」

「センパイ……」

 

 風の言葉に、後輩のことを思う嘘偽りのない気持ちを、確かにタクヤは見た。

 

「次はバーテックスの攻撃を防ぎながら三分間の戦闘、できるか?」

「ウッス!」

「約束だぞ!」

「ウッス!」

「じゃあ、あとで練習してから帰れ!」

「ウッス!」

「いつかオマエが樹海で死んでもアタシのせいじゃないからな!」

 

 と言い残して風は説明の準備にかかり、タクヤは部室の(すみ)でガタイをほぐした。

 もちろんバーテックスの攻撃を避けながら三分戦闘なんて練習するわけねーよ!

 拘束されなきゃ絶対ムリだぜ!

 

 黒板の前に立った風は、チョークで板上になにかしら描きながら話し出す。

 

「戦いの方法についてはアプリにテキストがあるから、それに目を通しておいてね。

勇者が戦う理由についてだけど、昨日みんなが見た怪物──バーテックスが十二体、壁を越えてやって来ることが神樹様のお告げで分かったの」

 

 風は黒板の上でうねる、判別不能な線を指しながら言った。

 どうやら謎の線は、バーテックスと勇者を表しているようだ。

 

「その絵、私たちだったんだ……」

「げ、現代アートってやつだよ!」

「うんこ野郎だ、うんこ野郎!」

 

 風の絵は妹にも、なにがなんだか分からない位の下手さだった。

 友奈のフォローを、漫画家志望のタクヤはバッサリと切って捨てる。

 そんな後輩たちのやりとりをスルーしつつ、少女は話を続ける。

 

「目的は、神樹様と世界の破壊。そうさせないために、大赦が神樹様のお力を借りて作ったのが、勇者システムって訳。なんだけど……」

 

 風は視線をタクヤに向けた。

 他の面々の目もまた、タクヤに集中する。

 

「勇者って言うのは神樹様に認められた少女しか変身できない。なのに、なんでタクヤは変身できたのかしら?」

「知らねーよ、そんなの」

「タクヤさんは実は女の子だった可能性が微粒子レベルで存在している……?」

「友奈、しっかりして。こんなくさい子が女の子だったら、世界の(ことわり)が壊れるわ」

「でもタクヤさん、クラスの男子からは『淫乱マッチョ売春婦おばちゃん』ってあだ名で呼ばれてるし」

「お姉ちゃんもタクヤさんの裸見たよね? あんなに乳首が肥大化した人が男の子って、よく考えると無理があるんじゃ」

「無理があるのはお前たちの思考じゃい! 樹も、タクヤの股間にその……アレ、がついてるのみ、見たでしょ!?」

 

 赤面しながら、風は友奈と妹の考えを正す。

 その脳裏には、男子の男子たる所以(ゆえん)が想起されていた。

 お前タクヤが裸になった時、叫びながらもチラチラ見てただろ?(因縁)

 

「風先輩は、大赦に指示されて私たちを勇者部に入れたって言ってましたよね。タクヤさんのことは、大赦の人たちも知ってたってことですか?」

「まあ……そうなるわね」

「私たちの両親は大赦で働いてましたけど、タクヤさんのご家族も大赦関係の人なんじゃないですか?」

 

 樹の疑問に、タクヤは首を横に振る。

 

「家は母子家庭だけど、お母さんは一般通過会社員だぜ」

 

 タクヤの本名は『KBTIT(クボタイト)』と言う。

 クボ家は大赦とは(・・・・)なんの関わりもない一族だった。

 

「タクヤはなにか、勇者に選ばれるような身に覚えはないの?」

「覚えてねーよ、そんなの」

「そりゃそうか……昨日の約束だって速攻で忘れちゃうくらいだものね」

 

 結局、男であるタクヤが勇者に変身できる謎は、解明されずじまいだった。

 

「忘れるといえば、東郷先輩も二年前の記憶がないんでしたっけ」

「……東郷さん?」

 

 樹の発言で、これまで沈黙を続けていた東郷の存在が思い起こされた。

 タクヤはチラリと、車イスの少女を見やる。

 一見して、元気が無く沈みこんでいる様子なのが察せられるくらいに、東郷は消沈していた。

 その東郷は友奈の問いかけにも反応を示さず、風に対して言葉を発す。

 

「……風先輩。バーテックスは、今回初めてやって来たんですか?」

「いえ、以前にも攻めて来たことがあったらしいわ。その時には、四人(・・)の勇者が対処したって大赦から聞かされたけど」

「風先輩は全て知っていたんですね。なら……どうしてもっと早く、私たちに勇者部の本当の意味を説明してくれなかったんです」

「ごめん……。私たちの他にも各地に候補がいて、どのチームが選ばれるか分からなかったの。

戦わなくていい可能性の方が高かったから、余計な心配をかけさせるのもなって……」

「でも、選ばれたのは勇者部だった。突然の戦いで、友奈ちゃんも……樹ちゃんやタクヤさんも、死ぬかもしれなかったんですよ」

 

 東郷の言葉は重い。

 現にタクヤは初戦で、一歩間違えれば命を落としていたかもしれない怪我を負っているのだ。

 静かな口調ではあるが、東郷は確かに風のことを責めていた。

 それは親友の身の危険を、誰よりも案じているからこその物言いだった。

 

「すっげー! 心の中全部が恐怖づいているぜ! コイツ完全に全身不安状態に落ちたな」

 

 友奈を思う東郷の胸中を、タクヤはずばりと言い当てた。

 

「友奈友奈って言うんじゃねぇよガキのくせにオォン!?」

「なによ、タクヤさん。友達のことを心配してはいけないというの?」

「あのさぁ……お前……友奈がさぁ、バーテックスとの戦いで死ぬと思ってんのか? オォン!?」

「あんな怪物と戦って、無事でいられるはずがないでしょう!?」

 

 タクヤの言葉に、東郷もたまらず語気を荒げる。

 少女の怒りに対して、タクヤは口の橋を吊り上げ不敵な笑みを見せた。

 

「バーテックスは俺が懲らしめてやっからなオイ」

「え……それって、どういう」

「俺もそんなにさぁ……仲間をみすみす見殺すほどの悪魔じゃねぇんだよ」

「ちょっと待ちなさい、タクヤ。あんたまさか……これから先、一人だけでバーテックスと戦うつもりなの!?」

「俺の雄姿が、たまんねぇだろ?」

 

 仲間と共に人々のためになることをするのが、勇者部の在り方だ。

 だがタクヤは、仲間に頼ることをせず、自分一人で世界を守ると言ってのけた。

 

 これは決して過剰な自信から来る、思い上がりなどではない。

 タクヤもまた、友奈を心配する東郷と同じように、仲間が傷つくことに不安を覚えているからこその強がりだった。

 

「ふ・ざ・け・ん・な! ヤ・メ・ロ・バ・カ!」

「そうだよ(便乗)」

 

 犬吠埼姉妹は、即座に反対の声を上げる。

 ヴァルゴとの戦いで、傷を負うことを(かえり)みないタクヤの無謀なやり方を目の当たりにしていた二人が、彼の提案を受け入れられないのも当然のことだった。

 

「オレ胸囲110のマッチョで売ってるボーイなんで並の勇者とはパワーが違うぜ! ポルシェ並みのエンジンだぜ!」

「確かにアンタは男だから、普通の勇者よりも強いのかもしれない。でもそれは、万能って意味じゃないのよ!」

「お前らが逝ッたらマジヤバいんだよって意味で勘弁して下さいって懇願したらそれが二人組を興奮させちまったみたい」

「私たちのことを心配してくれるのは嬉しいですけど、それでタクヤさんが傷ついたら意味がないじゃないですか!」

「『神樹様のお役に立つことはダラダラ生きながらえるより快感だ』と大赦の神官ちゃんが言ったらしいが、本当だぜ」

 

 風と樹の親身の説得を、タクヤは何度も突っぱねる。

 

 勇者としてのタクヤのモチーフの花は『ジャスミン』。

 ジャスミンの語源は、西暦の時代に滅んだペルシャという国の言葉で、『神からの贈り物』という意味がある。

 タクヤは勇者に選ばれたことを、神樹からのプレゼントだと受け取っていた。

 それは不良として無為な日々を過ごしていた少年に、これ以上ない存在価値を与えるものだった。

 

 ゆえにタクヤは、神樹とこの世界、そこに生きる人々のため、自分の命を捧げようと誓ったのだ。

 それこそが、普通の(ノーマル)勇者の模範だとでも言うように。

 それは悲しいまでの自己犠牲の精神だった。

 

「うわーっこれ(自己犠牲を良しとする間違った奉仕精神が)透けてるんだねハァッ」

 

 タクヤ自身も気づいていない歪みを感じた姉妹が、どちらともなくこぼした。

 結局タクヤは自分のことを「生かさず殺さず」の神樹の使いの勇者なんだよなぁ。

 

『~~♪ ~~♪ ~~♪』

「! うそ、二日連続で……!?」

 

 意見の割れるタクヤと四人の少女たち。

 その亀裂につけ入るかのように、部室中に敵対者の襲来を告げるアラームが、鳴り響いた。




次回、『一回戦三ラウンドはきついぜ!』でお待ちしてナス!
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