勇者に選ばれてマジ狂い! 投稿者:讃州中学勇者部員タクヤ 作:ほろろぎ
友を傷つけさせたくないと、タクヤは一人で戦うと言った。
タクヤ一人を危険な目に合わせられないと、友は言った。
互いが互いを思うゆえの亀裂。
勇者部内に起きた、初めてといってもいい対立。
その不和を押し広げるように、新たなる敵がやって来た。
「昨日の今日で出てくるなんて……!」
「敵の数が増え、ているように見えるのは……私だけでしょうか」
樹海に召喚される少年少女。
その中で、先の戦闘にも参加した犬吠埼姉妹がつぶやく。
これからが勇者部の正念場。
神樹の御加護と勇者システムで守られまくった敵処理用筋肉玩具が悲鳴を上げることに。
未だ世界の滅びを狙うデカマラの怪獣が三匹、みんなを守れるのは勇者部だけ。
「今度は誰もヤらせねえからなぁ」
壁を越えて姿を表す三体のバーテックス──キャンサー、サジタリアス、スコーピオンを見て、タクヤは小さく言った。
そして、直後に自分の発言に疑問を浮かべる。
(
急に静かになったタクヤを
何にしても、お前のここが隙だったんだよ! と風と樹はタクヤの不意をついて、勇者システムを起動した。
変身を終えた姉妹に対し、気づくのが遅れたタクヤは声を上げる。
「オォン? あっ! 何やってんだよお前ら!」
「先輩として、勇者部部長として、後輩のアンタだけに丸投げ出来るわけないでしょ」
「私も、乗り掛かった舟ですから」
何と言われようと、タクヤを一人にはさせないという二人の意志は固い。
犬吠埼さんカッコいいわあん。
そんな三人の横で、さらなる花弁が舞う。
「おい、友奈! お前まで何やってんでぃ!?」
「バーテックスが三体もいるんだもん。もっと戦力があった方がいい、よくない?」
桜色の髪を揺らしながら、勇者に変身した友奈が言った。
ヴァルゴ一体に対して三人が挑んで辛勝だったのだから、今は仲間は一人でも多い方がいいのは当たり前だよなぁ?
マジ口がうますぎるぜ、コイツら! と思いながら尚も食い下がろうとするタクヤ。
そして口論しているのをいいことに、三体のバーテックスはズンズンと奥へ向かって侵攻してくる。
それに気づいた風が、無理矢理場を締める。
「言い争いは終わりっ! 閉廷! ……以上! 皆突撃!」
部長の号令で、風に続いて樹と友奈もバーテックスに向かって行った。
残されたタクヤは舌打ちすると、東郷に「そのままにしてろホラ」と言い残し、少女らを追いかけ始める。
先行する三人に、変身という名の脱衣で勇者へと変わったタクヤが追いつく。
「お前ぇーらは手出しすんじゃねえぞ。俺が怪物どもを速攻おしおきしてやるからな」
「とか何とかカッコつけたこと言いながらコイツ息が上がっちゃってる」
タクヤはサーフ系を自称しているから自分のこと貧弱なんて思わねーけど、横を行く風から見ると、確かにスゲー胸筋の色黒マッチョが疲れた表情で肩を上下させている姿が映っている。
「ふーん、俺って疲れてるのか」
と他人事のように感じながら、タクヤは勇者部の仲間が好きだから、何だか一人で戦おうとしている現実と風たちが並走している客観とがアタマの中で整合しない。
でも今、確かに感じるのは意識と心に電流が走って痺れるようなすっげー感謝だけだ。
「ワレ感じるがゆえにワレありだな! これならいくらでもイケルぜぇ!」
自分のことを心配して、危険に首を突っ込んでくれる友へのありがたみを噛みしめつつも、それ故にやはりここはタクヤの頑張り所。
結局タイマーが十秒しか経過していないのに、タクヤは加速して先頭を進むキャンサー・バーテックスに挑んでいった。
「オラァ……ハァ……ハァ……」
渾身の力を込めたパンチはしかし、疲労でパワーダウンしている上に、強固な外殻を持つキャンサーのシールドを破ること
側に控えていたスコーピオンは滞空中のタクヤを狙いぶっとい尻尾を振るうと、ハエを叩くように勢いよく彼を打ち落とした。
「協力しないとやはりヤバい!」
煙を上げながら樹海に叩きつけられたタクヤを見て、風が叫ぶように言う。
樹と友奈も体勢を立て直そうと、風と合流を図ろうとするのだが、少女らの頭上から降り注ぐ針の雨がそれを妨害した。
サジタリアスが口部から放つ無数の針を、キャンサーがシールドで反射させることで、あらゆる方角からの攻撃が三人の少女を襲う。
「ちょっとー! なんで怪物の方が協力してくるのよー!?」
攻撃から走って逃れつつ、風が叫んだ。
横目で見れば他の二人も回避に専念していて、こちらも協力して攻勢に出るのは不可能なのが明白だった。
サジタリアスとキャンサーは姉妹と友奈を追い、残るスコーピオンは疲労で動けないタクヤに迫る。
「タクヤさん! 逃げてーっ!!」
たまらずに東郷が叫ぶ。
スコーピオンは必殺の威力を持つ尾針を、
「タクヤ!」
「タクヤさん!」
少女らの視線の先には、針に貫かれたタクヤの姿が……映ることはなかった。
疲労とバーテックスの攻撃で、タクヤはもはや激しくもがくこともできない。
「でも、これが幸いしたぜ! もがき苦しまなければ余計な力を使わずに済むからだ」
タクヤは動けなかったのでは無い。
あえて動かないことで、体力の回復を図っていたのだ。
そして力を取り戻したタクヤは尻を高くつき上げ、大きく広げたタクヤのアワビでスコーピオンの尾針をガッチリと受け止めていた。
動けないと見せかけ、バーテックスをおびき寄せ捕まえる作戦だったという訳だ。
策士だぜ、タクヤ!
が、不意に下半身から鳥肌がさわさわと立ってくる。
タクヤの誤算。
それは、スコーピオンの針が毒を持っていることだった。
「あー、マジヤベー!」
加えこんだアワビの中に、尾針の先端から毒がドクドクと注入され始め、タクヤは焦りの声を上げる。
こんなのでケツ掻きまわされたらマジ死ぬぜ!
風たちの援護は期待できない。
タクヤ、君なら(この窮地を)どうする!?
「マジごめん……」
「この程度で音を上げるなんて、タクヤさんらしくないわ」
死を覚悟し、言い残すのは置き去りにしてしまう仲間への謝罪。
直後、タクヤのよく知るあの(皆さんご存知)少女の声が聞こえてきた。
バァン!
同時に、アワビで抑え込まれていたスコーピオンの尾が砕け散る。
「お ま た せ」
「……東郷?」
タクヤの窮地を救ったのは最後の勇者部部員──真に勇者へと変身を遂げた東郷美森であった。
東郷はライフルを連射し、スコーピオンの体に次々と穴を空けていく。
ダメージによって動きを止めた怪物に対し、東郷は手際よく
吐き出された御霊も精妙な狙撃で打ち抜くと、強敵スコーピオン・バーテックスは呆気なく砂へと還った。
タクヤは尻を抑えながら立ち上がり、東郷と対面する。
「お前まで勇者になっちまうなんて……っ」
「友達が死ぬかもしれなかったんだから、助けるのは当たり前だよなぁ?」
あれほど戦うことを恐れていた少女が、自分を救うために。
嬉しさ半分悔しさ半分の複雑な心境のタクヤに、東郷は微笑みを向けた。
「これで借りは返したわよ、タクヤさん」
「出たぜ! 得意げな東郷の極上スマイル。でもさー、お前に借しなんて無いはずだぜ?」
「そういえばそうね……私ったら、何を言ってるのかしら?」
それもつかの間。
少女は他の仲間たちも依然、危機的状況にあることを思い出した。
「行きましょう、タクヤさん。友奈ちゃんたちを助けないと!」
「ああ、しょうがねぇが……お前の力を借りるぜ」
二人の勇者は即座に仲間の元へ向かった。
「このバーテックスしつこすぎィ!」
「お姉ちゃ~ん、このままじゃやられちゃうよぉ~!」
「止まるんじゃない! 犬のように駆け巡るのよ!」
走りっぱなしで息が切れてきた友奈と樹を、懸命に励ます風。
しかし怪物は疲れ知らずか、どうしても隙が見いだせない。
その時──
「風先輩! 私たちが援護します!」
「え、東郷?」
この場にいるはずのない少女の声が聞こえたことに、風は小さく驚いた。
直後に、風たちに執拗な狙いをつけていたキャンサーのシールドが、次々と砕けていく。
攻撃が中断されたことで足を止めた風らが周囲を見渡すと、少女らの目にも勇者服をまとう東郷の姿が映った。
東郷は、隣でタイミングを計っていたタクヤに声をかける。
「今よ、タクヤさん!」
「いよいよ……フィストだな」
シールドを壊され攻撃を防ぐ
回復しきった全力の拳が、容赦なくキャンサーの胴体を貫いた。
フィスト貫通。
さらに、拳で開けた穴にタクヤは
「もう少しだぜ? あと1ミリだぜ?」
タクヤのデカマラから放たれた三千万度の射精がキャンサーの腹の中をグルグルし、御霊ごと内部破裂を起こす。
残る敵はサジタリアス、ただ一体。
「タクヤと東郷だけに任せてられないわね。樹、友奈、アタシたちもやるわよ!」
風の言葉でそろった三人の勇者は、流れるようなコンビネーションによってサジタリアスを封印。
御霊も破壊し、三ラウンドの対バーテックストリオを降す。
こうして、これまでの苦戦が嘘のように、勇者部は二度目の戦いを終わらせたのだった。
* * * * *
校舎の屋上に戻された五人。
友奈はすぐさま東郷に駆け寄り、後ろから抱き着いた。
「東郷さん、カッコよかったよー! ドキッとしちゃった」
「そんな、私は……タクヤさんを、友達を助けたい一心で」
「……東郷」
車イスの側に立つ風も、神妙な顔で声をかける。
「部室ではごめんね。大事なこと、ずっと黙ってて……」
「私の方こそ言い過ぎました。風先輩、ごめんなさい。これからは、私も共に戦います」
「ありがとう。これから一緒に、国防に励もう!」
「はい!」
二人の間にあったわだかまりもすっかり解けて、樹も安どの表情を浮かべる。
タクヤも樹の横で、関係を修復した風と東郷を、穏やかな顔で見つめていた。
「よかったなぁ、樹」
「ですね。……タクヤさん」
「あん?」
「私たちは五人揃って勇者部なんです。だからタクヤさんも、もう一人で無茶はしないでくださいね?」
後輩の前でピンチになる無様なガタイ晒したタクヤは、マジやべぇよってチョー反省。
樹のすっげー心配そうな視線を感じるから、少しは懲りたぜ。
「いいぜ、オレはどうせ後輩のお願いは無下にできないんだし、ギラギラした目線で見てやがる樹にはとことん謝ってやるぜ!」
「私だけじゃなく、みんなに謝ってくださいよ」
タクヤは自分一人の力で全てを救わなければという、強迫観念にも似た思いに囚われていた。
その考えも現実の前に打ちのめされた。
それでもタクヤには、まだ頼るべき仲間がいるじゃないか。
「仲間を信じない勇者は勇者ではないな」
考えを改めたタクヤは、小さく笑みを浮かべ、そう独り言ちた。
スランプに陥ってマジ狂いしてました…遅くなってごめんナス!
次回、『ついに六人目登場』でお待ちしてナス!