勇者に選ばれてマジ狂い! 投稿者:讃州中学勇者部員タクヤ 作:ほろろぎ
甥の木村が加速して、三体のバーテックスとの死闘から一月半が過ぎた。
今、樹海に立つ勇者部の瞳には、五体目のバーテックスである山羊座──カプリコーンが向かってくる姿が映っている。
「一ヵ月ぶりだから、大丈夫かな」
「友奈さん、ここでこうすれば……」
久しぶりの戦いに緊張の面持ちである友奈に、樹がスマートフォンを見せる。
画面には勇者アプリの戦い方のテキストが映っていた。
「成せば大抵なんとかなる! 四の五の言わず、ビシッとやるわよ!」
弱気な雰囲気の二人に、リーダーらしく部長の風が檄を飛ばした。
『私は、後ろの方で狙撃準備に入ります』
「東郷、頼んだ。タクヤは変身時間に制限があるから、ギリギリまで待機よ」
「かしこまりっ!」
スマホ越しに東郷からの通信を受け、風はテキパキと指示を回す。
カプリコーンも目前まで迫り、いざ開戦。
──という所で、突如としてバーテックスの体の一部が爆発を起こした。
「え、なに? 東郷さん?」
『私じゃないわ。一体なにが……』
「おい、あそこだ!」
タクヤの声で全員の視線が集中する。
その先には上空よりカプリコーンに飛び掛かる、赤い戦闘装束をまとう一人の少女の姿が。
「ちょろいっ!」
少女はそう言うと、数本の刀をバーテックスの足元へと投げつけた。
刀が触媒となり、封印の儀が発動する。
「思い知れ、私の力!」
「あの子、まさか一人で!?」
「マジかよ、すっげーやる気を感じるぜ」
儀式によって、カプリコーンの弱点である御霊があらわになる。
と、御霊は最後の抵抗とばかりに怪しげなガスを噴出し始めた。
ガスは瞬く間に広がり、風たちを包み込む。
「コ゚ッ!」
すでに変身済みの少女たちは、自動的に張られる精霊のバリアに守られた。
が、未だ生身のタクヤはわずかにガスを吸い込み、自らの体臭を超える悪臭にえずいてしまう。
風がすぐさまタクヤをバリアの中に引き入れたため、事なきを得たが。
「こんな目くらまし……気配で見えてんのよっ!」
視界を遮られた状態で尚、赤い服の少女は感覚だけで御霊の位置を把握。
寸分たがわぬ斬撃で、見事御霊を切り裂いた。
カプリコーンが倒れたことでガスも消え、改めて謎の少女の姿がはっきりと見える。
ツインテールが特徴の、勝ち気な目をしたタクヤらと同学年と思わしき女の子。
少女はつかつかと、勇者部の方へ歩み寄る。
「揃いも揃って、ボーッとした顔してるのね。こんな連中が神樹様に選ばれた勇者だなんて、笑っちゃうわ」
「えっと……誰?」
「誰とは失礼ね、このチンチクリン」
「チン……!? はぅ……」
突然上から目線な物言いをしてくる少女。
対応した友奈も、その高圧的な態度にしょげてしまった。
「私は三好夏凛。大赦から正式に派遣された『完成型勇者』よ!」
「あぁん? 完成型ぁ?」
「そ。つまり、アンタたちは用済みって訳。はい、お連れ様でしたー」
あざける様な笑みと共に、夏凛は勇者部に引退勧告を突き付けた。
* * * * *
突然来訪した六人目の勇者──三好夏凛は翌日、何食わぬ顔でタクヤらのクラスに転入してきた。
そして放課後。
夏凛は勇者部部室にも顔を出し、犬吠埼姉妹とも対面を果たす。
「まったく、転入生のフリなんてめんどくさい……。でも、私が来たからにはもう安心ね。完全勝利よ」
腕を組み、ドヤ顔でそう言う夏凛。
自信満々な態度は、長年訓練を積んだという完成型勇者としての、自負の表れだろう。
「お、トオルか? 新しく、入ったそうだな。勇者部に」
「トオルって誰だよ三好夏凛だって言ってんでしょ!? それと、部に入るなんて言ってない!」
「あ? なんだよその態度はおぉ? 先輩に対する態度かそれがオイ?」
「誰が先輩か! 同じクラスになったでしょーが!?」
「おい、勇者部だぜ? おいココア。お前今日から勇っ者部員だろうが」
「だから入らないって言ってんだろおぉー!?」
初対面の時の印象が悪かったせいか、タクヤは夏凛に突っかかっていく。
対する夏凛も律儀にそれに応対していた。
スルーしておけばいいのに、いちいち相手する所を見るに音は真面目なんだろうなぁと、風たちは思う。
「タクヤはちょっと落ち着きなさい。でも部に入った方がいいってのは、アタシたちも同じ意見よ」
「必要以上に馴れ合う気はないわ」
「勇者として活動するなら、一緒にいた方が手っ取り早いでしょ?」
「……しょうがないわね」
しぶしぶといった様子で、夏凛は風から受け取った入部届に記入していく。
「バーテックスを殲滅するまでは、我慢してあげるわあああああああああ!?」
記入を終え入部用紙を風に渡す夏凛は、突然悲鳴を上げた。
見れば少女の精霊である義輝が、友奈の精霊である牛鬼に頭をガジガジとかじられているではないか。
「なにしてくれてんのよこのクサレ畜生!!」
『ゲドーメ』
即座に相棒を奪い返した夏凛が、怒りをあらわに叫ぶ。
牛鬼の飼い主でもある友奈は、自身の精霊に代わって謝罪する。
「ごめんごめん。この子、呼んでなくても勝手に出てきちゃうんだよね」
「はぁ!? 壊れてんじゃないの、それ? ていうか自分の精霊くらい、ちゃんとしつけておきなさいよ!」
「その子、喋れるんですね」
精霊の中で唯一、単語のみだが言葉を話せる義輝に、樹が興味を持った。
「そりゃ当然よ。なんたって、完成型である私の相棒なんだから」
「東郷は三体いるよなぁ?」
「はい。全員、整列!」
義輝の代わりに胸のおやつカルパスをかじられながらも平然とするタクヤの言葉で、東郷は自らの精霊──青坊主、不知火、刑部狸を呼び出す。
「私とお姉ちゃんにも精霊がいるけど、タクヤさんだけいないんですよね」
「そいつは規格外の男の勇者だからね。色々と私たちのシステムとは、違いがあるんでしょ」
樹の疑問に夏凛が答えた。
「でも、
「「「「「満開?」」」」」
夏凛の発した聞きなれない単語に、全員が同じ言葉を返した。
「今回から正規で実装された、戦闘経験値をためることでレベルアップする、勇者システムの新機能よ。満開を繰り返すことで、勇者はより強力になっていくの」
「お前はもう、その満開って奴を使ったのか?」
「……いや、まだ」
「なんだよ、俺たちと同じ初心者じゃねーか。あんなに先輩風吹かしといて、全然ゆるケツじゃんお前!」
「基礎戦闘力が桁違いなの! 一緒にしないでくれる!?」
「どうだかなぁ~。……にしても、満開……か」
不意に黙り込み、真剣な表情になるタクヤ。
ガラにもなくシリアスな空気を醸し出すタクヤに、勇者部の面々は意外そうな顔を向ける。
出会って間もない夏凛でさえ、真面目な顔を浮かべる彼の姿は奇異に映った。
少女らのすっげー視線を感じながら、尚もシリアスムードのタクヤに東郷が声をかける。
「どうしたの、タクヤさん?」
「いや……なんつーか、すっげぇ~嫌な感じがするんだよな。『満開』って言葉にさ」
「どういうことですか? タクヤさんも満開の機能のことは、今知ったんでしょう?」
「そのはずなんだがな……。なあ、俺って記憶力悪いだろ?」
「ええ、三歩歩いたら忘れるニワトリレベルで全てを忘れていくわね」
「だから覚えてないだけで、昔どっかで聞いたことがあるのかも……って思ってな。東郷も記憶喪失だろ、聞き覚えないか?」
そのまま二人が考え込むこと二十秒以上、三十秒以下?
何秒記憶の底をさらったか分かんねぇ。
しかし結局は、どちらも満開というワードに関する思い出を掘り起こすことは出来なかった。
「大赦は私たち勇者の戦いをサポートしてくれてるのよ? それなのに怪しげな機能を採用するはずがないでしょ」
どこか少なからぬ不快感を
聞く所によると、彼女の身内が大赦の関係者であるらしい。
その仕事にケチを付けられては、面白くないのも納得だ。
ちょっとだけ不機嫌なムードを出す夏凛をなだめるように、風が話題を変える。
「まあ、分かんないことをあれこれ言っても仕方ないわ。この話はここまで! 次の議題に行くわよー」
「まだ何かあるの?」
「はい、今週末に子供会のレクリエーションのお手伝いをすることになってまして」
「そ、頑張って」
「何他人事みたいに言ってんだよお前も来るんだよホイ!」
樹の説明に興味無しと帰ろうとする夏凛を、タクヤが呼び止めた。
「はあ!? なんで私まで」
「おい、勇者部だぜ? おいココア。お前今日から勇っ者部員だろうが(二度目)」
タクヤは、先ほど夏凛が提出した入部用紙を突き付ける。
「おめぇはもうこっから
「それは形式上よ! 私のスケジュールを勝手に決めないで!」
「日曜日、用事あるの? やろうよ! 楽しいよ?」
拒否する姿勢の夏凛に、友奈が誘いをかける。
その瞳は潤み、抗いがたい魔力を放っていた。
「ぅ……分かったわよ日曜日ね。ちょ、ちょうどその日だけ空いてるわ」
「ほんと!? やったー!」
「……ったく、緊張感のない」
しぶしぶといった体で参加を了承する夏凛だったが、どことなくウキウキしている様に見え……るのは、皆の気のせいでしょうか?
「んじゃ、新メンバーも増えたことだし……
「「「「ああ^~良いっすね~」」」」
「ああ^~嫌っすね~」
タクヤが、夏凛の入部を祝ってうどん屋に飯でも食いに行かないか、と提案する。
少女らも口々に同意するが、当の夏凛はまたしても難色を示した。
この少女、つくづく人づきあいが苦手なようだ。
「言ったでしょ、必要以上に馴れ合うつもりはないって」
「……ちょっと眠ってろお前」
「!? ぅ……羽毛」
再度帰ろうとする夏凛。
そうはさせじと、タクヤは瞬時に少女の背後に回り込む。
戦闘熟練者の夏凛ですら気づけない程の早業で、彼女の首に腕を回すタクヤ。
見事な技前で決められたチョークスリーパーは一気に夏凛の意識を奪い、脱力した少女はタクヤの成すがままとなってしまった。
* * * * *
「……はっ!?」
意識を取り戻した夏凛は、勇者部の行きつけであるうどん屋──『かめや』の椅子に座らされていた。
突然の場面転換に少なからずパニックに陥る。
「ぇ……どこ、ここ? うどん屋さん? なんで?」
「お前の入部祝いをするために連れて来たんだよ」
「気絶させる必要はないでしょ!? 普通に連れてきなさいよ!」
「嫌がったのはお前だろおぉん? 反抗するからだよ~」
困惑する少女にタクヤが説明したりたしなめたりしている間に、各々の前にうどんが運ばれてきた。
夏凛を残してそれぞれが箸をとり、合掌して食べ始める。
「お前も食えよ、のびるぞ」
タクヤの差し出す箸を、夏凛は納得いかないという表情で受け取った。
「あ、美味しい」
それでも、うどんの味は少女にも気に入ってもらえたようで。
タクヤは麺をすすりながら、隣に座る夏凛に静かに話しかける。
「夏凛よぉ。お前、必要以上には馴れ合わねえって言ったよな」
「そうよ」
「ならこれは、必要なことだぜ」
「……勇者に必要なことは、バーテックスと戦って勝つことだけでしょ」
「俺もそう思ってた。でもな」
タクヤは箸を止め、勇者部の仲間を見回す。
「結局一番つらい時ってのはあんなにチョー戦闘獣に出来上がっていたのに一人で悶え狂ってるシチュエーションだとわかったぜ」
「……アンタも一人で戦うつもりだったけど、仲間の力に助けられたってこと?」
「ソウダヨー」
「それはアンタが弱かったからよ。私は違う、私は完成型勇者なんだから」
「
もちろん俺もな。と言い残し、タクヤは再びうどんを食べ始めた。
「……ふん、余計なお世話よ」
夏凛も箸を動かし、食事を再開する。
結局、少女が勇者部に
それでも彼女の表情が、出会った頃より柔らかいものとなっていたのは、気のせいではないだろう。
次回、『虐待おばさん』でお待ちしてナス!