沈みゆく夕日が窓を差し、空にはだんだんと闇が覆ってきた。暗くなってきたし、もうじき駆け込んでくるかな……と考えつつ、私は仕事を進めるべくPCに向かっていた。
「お姉さまっ! トレーニング終わったよ!」
「うん。お疲れさま、ライス。最後まで居てあげられなくてごめんね?」
そして案の定、私の愛バであるライスシャワーは、小走りでトレーナー室へとやってきた。
私はその時点で仕事を中断し、近くのソファーへと移動する。
「ううん、大丈夫だよ。ケガしないように、ゆっくりやってきたから」
「もー偉いねぇライスは! ほら、こっちこっち」
「う、うんっ……」
少し恥ずかしそうに頷くと、彼女は私の隣へと座った。それだけでなく、私の肩あたりに頭を預けて目を閉じた。
この時点で私の脳内はアグネスのやばい方化しているのだが、表面にはとても出せない。
「よしよし、偉いねぇライス……あなたはほんとに頑張り屋さんねぇ……」
「えへへ……♪」
彼女は嬉しそうに頬ずりをしながら、やはり恥ずかしそうに頬をほんのりと染めていた。かわいい。
しかし最近、トレーナーとして少々危機的な状況に陥っている。というのも、ライスを担当とした時から既に一目惚れしていたわけで。年単位で一緒にいて、そろそろ我慢が効かなくなってきたのだ。
これはきっと全面的に私が悪いのだが、私としては全部ライスのせいにしたい。うちの愛バは可愛すぎた。
ライスシャワー。黒く少しクセのある髪にぱっちりとした大きめの目。ついでにメカクレ属性あり。というか顔が良い。それに尽きる。
さらに、頬に触れればスベスベな肌。つまめば餅のように柔らかいし、肌色は少し心配になるくらい真っ白。声は透き通るように綺麗で、少々臆病ながら信念を持っている。
極めつけに小動物感の漂う風貌をしているが、レースになると獣のように鋭く獰猛なオーラを纏う。ここまでくるともう満点。パーフェクト。数え役満だ。これで惚れないわけがない。だからもう数え切れないほど何度も襲いそうになってるけれど私は悪くない。
「ああ、ライス……天使……ギュッてしてあげるからね……」
「ふぇっ!? お、お姉さまっ……!」
「えへっ、えへへっ……可愛いねぇ……食べちゃいたい……」
「ぅぇぇ……?」
「……………………」
「…………お、お姉さま?」
ならん。我慢ならんのだ。さっき普通にくどいほど語ったから、ライスの魅力についてはご理解いただけただろう。とはいえそのライスが今こうして私の腕の中に収まっているわけで、それはつまりうまぴょい(?)でありまして、もう辛抱たまらんのよ。どのくらいかっていうとこうして口調がコロコロ変わるくらい。安定しなさすぎるわ情緒不安定か?
でも私は悪くない。全部全部、可愛すぎるライスのせいだ。だから私はライスに愛ゆえのちょっかいをかけて発散するのだ! どんっ!
ということでちょっかいその1。
「…………ペロッ」
「ひゃぁぁぁぁっっ!?!? お、おおっ、お姉さまぁ!?」
「あ、甘い……甘いよライスっ……。そして反応が可愛すぎる……やべ、鼻血が……」
「お姉さま。なんかデジタルさんにそこはかとなく似てきてるような……ライスの気のせい?」
「えっああそれ普通に傷つくやつ」
ちゃんと表面に出た。
…………
「……うーん、気のせいでしょうか? なんだか今この瞬間、デジたんの噂をされているような……。
はっ!? しかし……それはつまり、ウマ娘ちゃんがあたし自身を話題にあげている可能性があるということ!? うっ、うひひ……タブーすれすれですよこれはっ……! おっと、鼻血が……」
…………
「しかし……ふぅ……」
「お姉さま? お疲れさまかな……?」
「あ〜、そうね。ここのところ少し仕事が溜まっちゃってたのは事実ねぇ。ライスもまだまだ忙しいし……」
「そうだねっ。またすぐレースだし、ちゃんと調整しないと」
ライスは未だにトゥインクルシリーズで走っている。既に同期は引退、またはドリームトロフィーリーグへの移行を済ませている者がほとんど。
しかし、アクシデントによって中止になりかけた宝塚記念。あのレースの開催の立役者となり、更に見事な走りで勝利した。その時やっと、ライスというヒーローが人々の心に刻まれた。
そしてそんなヒーローの現役を彼らが望むのは当然であった。ライスはそんな彼らの期待に応え、足色を鈍らせながらも走り続けている。
最初は勝てない日々が続いた。そこから地獄のようなトレーニングを経て這い上がり、やっと勝っても大衆からのブーイングに貶され、悪役と晒された。何度もつまづいて、何度も転んで。それでも、ライスはその度に立ち上がり戦い続けた。
傷だらけで、泥だらけのヒーロー。それがライスシャワーなのだ。
「……うっ、うえぇぇ〜っ」
「ふぇぇ!? お姉さま、次は急に泣き出してどうしたのっ!?」
「い、いやっ……。ライスの今までの努力を思い出したらっ……な゛け゛て゛き゛た゛あ゛あ゛あ゛……」
「も、もうっ……ライスはただ、お姉さまや皆の為に……そして自分の為に。一つ一つのレースを大切に、全力で走ってるだけだよ?」
「ら、ライスっ……立派だねっ。本当に……これからも頑張ろうねぇぇぇ……!」
「ふふっ。うん、お姉さま」
「ふぅぅ…………さて」
それはそれとして、ちょっかいその2。
「?」
「…………チョンッ」
「ひぅっっ!? …………お姉さま?」
「フ、フフッ…………チョンチョンッ」
「ひゃっ、ふぅっ……お姉さまぁ〜?」
「はいっ」
「お腹をちょんちょんはメッ、でしょ?」
「ふふっ……可愛い」
「か、可愛いじゃなくてっ……も〜っ!」
さっき言った通り、ライスは走るとかっこいい。ほんとに。
でもご覧の通りなんですわ。ライスにいたずらするとね、もう絶対くせになる反応するんですわ。ライスのこの絶妙にいじめたくなる可愛さに、ブルボンやマックイーンはもちろん、テイオーやネイチャ辺りもちょいちょいいたずらしてしまうとか。後輩にすら可愛がられるんですよこの娘。
そして惚れ込んでいる私じゃ尚更というわけでした。
「ライスぅ。こっち向いてよぉ〜」
「むぅ。お姉さまのいじわるっ」
「はぐぁっ…………ゴホンッ、ライス? そんなそっぽ向いちゃってどうしたの〜?」
「別にいいもんっ……もうお姉さまの方は向かないもん……膝にも乗らないもーん……」
「むむ……なるほど、そう来るか」
ライスは私の腕から抜け横に移動し、私に
まぁそれでも、ライスとは脳内で何度もイチャついている。つまり、私の脳にはライスにかけたいちょっかいなんて無数に浮かぶのだ。愛ゆえに。
「プッ、ククッ……」
「……なぁに、お姉さま」
「いやぁ。なんでもないよ? ね、本当にそっぽ向いてて大丈夫?」
「ふんっ……いいのー」
「そっか、ふふ……」
ではちょっかいその……これ数えてたらキリないね。もう数えるのやめよ。
「…………ツゥーッ……」
「あっ!? はっ、あぁぁぁんっ……♡」
「……」
「……」
「あっ……と、えっ、と」
「………………っ」
「いや、あの…………」
「っ…………!!」
私の脳は間違いなくフル回転していた。が、この場を切り抜けられる言い訳なんて存在しない。絶対に、だ。
故に、これは私の脳からひねり出された辞世の一言であった。
「えっち、だったね……」
「〜〜〜っっ!!!! お、お姉さまのっっっ……ばかああああああーーーーっっっっ!!!!!!!!」
ライスは……いいぞ。
誤字脱字報告ありましたら、コメント欄にてよろしくお願いします。
追記:作者の無知でコメント欄にてリクエストを受け付ける、としておりましたが、親切なお方に規約違反だよと教えていただきました。
というわけで、リクエストは作者欄の専用投稿にてお願いすることになりましたので、ご理解いただけると幸いです。