ウマ娘短編   作:う、めし。

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 今度の日曜はジャパンカップですね……ということで、ジャパンカップにまつわるお話。常にルドルフ視点で、今回のお話のメインの子は名前だけしか出ません。ルドルフが彼女を見て感じたことを話すだけです。
 もし作中の『彼女』を知らないという方が居ましたら、ぜひ検索かけてレースを見てみてください。
個人的にかなり好きなので、ウマ娘しか知らない人も、最近ウマ娘から競馬に入った人にも、これをきっかけに関心を持っていただけたらなと思います。



一度きりの「ACE」

「…………」

 

 生徒会。このトレセン学園でのそれには、他の学校と比べて多くの仕事が任されている。昔からの伝統か、はたまた今の生徒会員への期待か。

私としては前者だと信じたいものだが、他のメンバーが優秀な者ばかりであるから、過剰な期待というのもあるにはある。

 それはそれとして、私は今日も真剣に書類と向き合っていた。たかだかその書類の内容を通すか否かというものだが、この学園に対しての様々な提案だ。この学園にどのような変化を取り入れるかが私にかかっているのだから、会長になり数年経った今でも力の入る作業だった。

 

「……ふう。少し休憩を挟むか」

「カイチョーッ! あ、仕事中ー?」

「いいや、ちょうど休憩しようとしたところだ。良いタイミングだな、テイオー」

 

 ちょうど休憩を挟もうとした時、私に憧れクラシック三冠を目指すトウカイテイオーが生徒会室に入ってきた。その手には、どうやらディスクのようなものが握られている。

 

「そっか! あ、見て見て〜。これ、カイチョーのレースの映像が全部入ってるんだって。視聴覚室で借りてきたんだ〜」

「ふむ、全てのレースか……」

「うん。あ、でもトゥインクルシリーズの時のみたい。ドリームトロフィーリーグに移るまでのレースだって」

「なるほど……」

 

 かつて私……シンボリルドルフは、皇帝と呼ばれた。その皇帝の軌跡が、これに詰まっているというわけだ。

思えばあの頃は、とあるウマ娘を超えろというスローガンが掲げられていた。その偉大なウマ娘はクラシックの三冠を含む五冠を達成。トゥインクルシリーズでは三着以下に一度も入らなかったことや、トレーニングの代わりにレースに出走していたことなど、多くの逸話を残している。

 そして、それを超えたと言われるのが私だ。いや、私としては未だに超えたとは思っていない。しかし、七冠の達成を人々は彼女の成したこと以上の偉業と見たのだろう。

 

「……ああ、そういえば」

「んー? どしたの、カイチョー?」

「いや、そろそろジャパンカップの時期だなと思ってね。今年も海外の強豪と日本の優駿がしのぎを削るのだな……とね」

「そっか、たしかにもうじきジャパンカップだね。ボクは去年のスペちゃんのジャパンカップが忘れられないな! ブロワイエを振り切ったあの走り、凄かったよね〜」

「そうだな。今のスペシャルウィークは正に国士無双。日本一のウマ娘と呼ぶに相応しいかもしれないな」

 

 ジャパンカップ。私も競走人生で一度制している。そしてそのジャパンカップ、私にとって二度目の挑戦(・・・・・・)だった。

そもそも私の競走人生、負けたのはたったの三度であった。そしてその初めての敗北が、一度目のジャパンカップだったのだ。クラシック三冠を達成し、その勢いのまま挑んだジャパンカップ。そしてそれはトゥインクルシリーズの中で最も忘れがたいレースとなった。

 人々は私を『勝利より、たった三度の敗北を語りたくなるウマ娘』と呼ぶ。しかしそう思うのが人々だけかと言われるとそうではない。

なぜなら初めての敗北こそが、私の脳に最も鮮明に焼き付けられた記憶なのだから。

 

「さて、テイオーはその映像を観に来たのかい?」

「あ、そうだよ! カイチョーと一緒に観ようかなって。もし気になることがあれば、他ならぬカイチョーに教えてもらえるしね!」

「はは、たしかにそれは理にかなっているな。自分の走ったレースを映像として観るというのは、少々むず痒いものだが……しかし、そうだな。彼女の走りを久々に観たくなった」

「カイチョー? 彼女って?」

「いいや、その時に話すさ。さ、順に観ていこうか」

「うーん、気になるけど……わかった。じゃ、流すね!」

 

 

 

 

 

《内からシンボリルドルフ来た! ものすごい脚だそのまま先頭に立った! 他の娘は届かないか! シンボリルドルフ先頭でゴールイン!! 三冠ウマ娘を8戦8勝で達成!! トゥインクルシリーズ史上、不滅の大記録が生まれました!!》

 

「最後の末脚っ、京都の3000mの最終直線とは思えないよ……」

「そんなこと言って、テイオーもこういうレースを見せてくれるんだろう?」

「もちろんっ! ボクが走ったら、もっと凄いレースにしちゃうからね!」

「ああ。期待しているよ」

「うん! あ、次は……ジャパンカップだね」

「……そうだな」

 

 菊花賞を無事に終え、三冠を達成した。その私が次に狙うはもちろんジャパンカップだった。秋古馬三冠の対象レース。

クラシック級の私がシニア級に通用するかどうかという所であったが、無敗で三冠を達成したという実績は出走するには十分すぎるものだった。

 

「このレース、ボク観に行けなかったんだー。ほんとは観に行きたかったんだけどね」

「そうだったのか……テイオーは私の競走成績は知っているかい?」

「んー、三回負けちゃったっていうのは知ってるよ。誰にーとか、どのレースでー、とかはうろ覚えだけど……」

「そうか……」

「あ、今更だけど……負けるレースも入ってるし嫌だった?」

「ん、いいや。むしろ私は負けたレースこそよく観ておくべきだと思うよ。敗北の要因は最も有意義な研究材料の一つだからね。ただ……」

「……ただ?」

 

《第4回、ジャパンカップ!》

 

「このレースだけは、今でも鮮明に思い出せるんだ」

 

《……スタートしました!》

 

 

 

 

 

 スタート直後、私は普段よりやや控えた位置につけた。海外から招待されたウマ娘の実力は、映像で研究したとはいえ併せて走るのは初めてだ。故にできる限り周りを見渡せる位置につく。

それに直線の長い東京競馬場で行われていることからも、私は先行集団の後ろ目につけることにした。

 

(…………先頭はただの逃げではなく大逃げか)

 

 向正面に入り、先頭のウマ娘は既に2番手と20mほどのリードを取っていた。私はそれを大逃げだと判断し、ペースメーカーを2番手のウマ娘とした。

 

(そろそろか……だが少しずつだ、無理に上がる必要はない)

 

 私は第3コーナーから徐々に前に上がり始め、第4コーナーに入る辺りで5番手につけた。ここで先頭との差が縮まり始めたことから、あとは後方待機勢との末脚勝負だと確信していた。

私は大逃げをして最終直線で伸びるようなウマ娘を見たことがなかった。いや、伸びるというよりも粘れるウマ娘だろうか。大逃げで勝つのならば、セーフティリードといえる差をつけて最終直線に入る必要があると思っていた。

 

《さあ4コーナーのカーブを曲がる! さあ先頭は少し足色鈍ったか! 後方のウマ娘一気に追い込んでくる! 世界の強豪が追い込んでくる!!》

 

 この時、私に足りなかったものは何だったのだろうか。知識が足りない? 末脚が足りない? いや、それともスタミナが足りなかったか?

きっとどれもが違う。そしてその時の私には絶対に知り得ないものがあった。きっと平行世界があったとして、どの世界線でも私はこのレースに敗北していただろう。

 

《中からルドルフ来るか! ルドルフ来るか! ルドルフ上がってきた! ミスターシービーはまだ中団だ!》

 

 なぜなら、私に足りなかったのは敗北から来る勝利への執念だ。私は敗北を知らなかった。彼女は敗北を何度も経験していた。

彼女は、ミスターシービーと共に前年のクラシック戦線を駆け抜けたのだ。そしてミスターシービーは三冠ウマ娘。それが意味するところは、誰もが理解できるだろう。

 

《ルドルフ来ている! ルドルフ頑張れ!》

 

 きっと日本中の多くのファンが、私やミスターシービーを応援していたことだろう。

 

 しかしこの最後の1ハロン。

 

 日本の『エース』は、紛れもなく彼女だった。

 

 

 

────先頭カツラギエース!! カツラギエース粘る!!

 

「う、おおぉぉぉぉっ!!!」

「はああぁぁぁぁぁっっ!!!」

「ぐっ、うああああぁぁぁっ!!!!」

 

 誰もが声を張り上げ、誰もが決死の想いで走っていた。それほどギリギリの戦いだった。

彼女は逃げていたのだ。それも道中で大逃げをしていた。そんな彼女を最終直線で死力をつくして追った。

それでも彼女との差は縮まらなかった。息をする度に声が漏れ、泣き出してしまいそうな表情をして、それでも彼女の見開いた目には、溢れ出す闘志と執念が宿っていた。

 

(…………そうか、私は……っ)

 

 その時、私は理解したのだ。三冠すら通過点だと考えていた己の愚かさに。私が勝った全てのレースに、負けたウマ娘がいる。そして負けを経験し続けたウマ娘は大半がどこかで折れてしまうが、時に想いを積み重ねて、こうして伝説を創る者もいるのだ。

そして、私はその瞬間を目撃した。無敗を貫いてきた自らでなく、日本のエースの一世一代の勝利の瞬間を。

 

《カツラギエース頑張ったゴールインっ!! カツラギエースが勝ちました!!!》

 

 ジャパンカップで大逃げを仕掛けたカツラギエースは、世界の強豪ウマ娘たち、また無敗の三冠ウマ娘シンボリルドルフや、同じく前年度の三冠ウマ娘ミスターシービーを破り、日本のウマ娘で初のジャパンカップ勝利を収めた。

 

 

 

 

 

「これが、カイチョーが初めて負けたレース……」

「…………今でも覚えているよ、ゴール前で見た彼女の背中をね。10番人気だったんだ。三冠ウマ娘2人のどちらが勝つか、やはり海外の強豪ウマ娘かと言われていた中での勝利だったんだ」

「でも、その人って今はもう学園に居ないよね? 聞いた事なかったし……」

「ああ。私は当時トレセン学園に残ることを勧めたが……彼女はその年の有マ記念で競走を引退して、学園からも去ったよ」

「そっか。ボクも一緒に走ってみたかったな……」

 

 彼女はあれが自分の限界だと言って、学園を去っていった。しかしたとえ彼女の限界がそこだったとしても、私から言わせてもらえばあの時の彼女ほど強いウマ娘を見たことがないのだ。

だから私は、未だに彼女の幻影を追っている。あの最後の1ハロンを差し切れる力をつけ、彼女の幻影を差し切った時が……いいや、これ以上はやめておこう。

 

「さあ、テイオー。残りのレースを見終わったら、少し走りに行くかい? 私ももうじきウィンタードリームトロフィーに出走するから、普段以上に鍛えなければね」

「おぉっ! いいねカイチョー! じゃあ併走しよっ!」

「ああ、先に君のトレーナーくんには話をしておくんだよ」

「はーいっ!」

 

 

 

 カツラギエース。君は私が見た中で、最も強いウマ娘だ。

 

 

 

 だから私は皇帝として、必ず君を差し切るよ。

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